Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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海・賊・女・王1573

 

 

 

「さて、見事に海賊島へ到着したわけだが……」

 

エルメロイ二世が目を逸らしながら言う。

島に接舷した船に、島にいた海賊たちが群がっているのだ。

 

「元気な方たちですね……」

 

「ああいうのは馬鹿っていうのよ」

 

途方に暮れるようなマシュの声。

その言葉を、馬鹿にするような呆れた声でオルタが訂正した。

 

オルガマリーもまた頭を抱える。

本能と気分だけで掠奪を実行する彼ら、これを突破しなければいけないのだろうか。

そんな状況でソウゴはランサーを振り返る。

 

「多分、俺が捕まえるよりランサーが吹っ飛ばした方が言うこと聞くようになるよね」

 

「……まあ、そういう手合いだろうがよ。慣らしにもならねえな」

 

やれやれと肩を竦めて、彼はその手に朱槍を出現させた。

ひょいと軽く船を跳び下りて、ひしめく海賊たちを軽々薙ぎ払っていくランサー。

 

折り重なって倒れていく彼らの中で、一人の海賊が声をあげる。

 

「確かにアンタは強いがなー! うちらの船長にゃ及ばないぞー!」

 

そーだそーだ、と合唱しはじめる海賊たち。

ランサーが肩を竦め、言いだしっぺの海賊の頭を槍で打ち据える。

かくりと頭を落として気絶する海賊。

すると合唱は途中で止まり、全員が黙りこくってしまった。

 

「船長?」

 

下が落ち着いてきたのを見計らい、全員で降りてくる。

何故か当然のように海賊たちも、こちら側のメンバーであるようについてきた。

 

「……おうさ。言っておくが、うちの船長はそんじょそこらの海賊とは違うぜ。

 なんせこの海賊島は姐御が支配していると言っても過言じゃねぇくらいさ。

 ―――どうやら語らなきゃならねぇようだな。姐御の偉大さと、素晴らしさについてよ。

 そうなるに至った原因と冒険を今ちょっと話してやるから、せいぜい覚悟しな。とんでもねぇ冒険だったさ。姐御の船じゃなかったら百回海の藻屑になってもまだ足りねぇ。海の底から現れた馬鹿でかい神様みたいな奴と、更にうじゃうじゃ湧いて出る化け物たち。いやさ、それ以上に恐ろしかったのは嵐の止まない海原さ。だが姐御はそんな船乗りにとっての地獄さえも笑い飛ばしながら船を進めたもんよ。並み居る化け物どもに斬りかかり、銃を撃ち、千切っては投げ千切っては投げ。あの時の神様気取りの化け物の顔は見物だったよ。なぜ人間がこれほど、とかそんな事も言ってた。だが俺たちからすりゃ当たり前のことさ。あいつが本当に神様だったとして、姐御がたかが神様ごときに止められるはずがないってもんよ。ましてあの神様。人に追い詰められて驚いてみせた後は、そんなことありえないって怒り心頭。海ってのは広いもんだ。目の前しか見えなくなった奴は、人だろうが神様だろうが溺れる魔境。だからこそ姐御は常に何があろうが笑って前見て面舵を切るのさ。相手が他の海賊だろうが、地獄みたいな嵐だろうが、どんなことになろうが、どれほど追いつめられようが笑って切り抜けてみせる。それこそ―――」 

 

「話がなげぇ」

 

槍が叩く。彼は最後にぐぇ、と呻いて気絶した。

そんな彼を見ながら、ジャンヌが困ったように曖昧に微笑む。

 

「その、愛されている船長さん……みたいですね?」

 

「多分、ジルにあんた語らせたら似たようなことになるわよ」

 

にやにやと笑いながらジャンヌを見るオルタ。

彼女はむむむ、と唸りながら何とも言えない、と言いたげな難しい顔をした。

 

大人しくそれを聞いていたオルガマリーが、小さく溜め息を吐く。

 

「神だのなんだの、ただの海賊がなにを言ってるんだか……

 ただ特異点である以上、海中に魔獣が住んでいる可能性くらいはあるのかしらね」

 

『とにかく、その船長さんとやらに会わせてもらうべきだろうね。

 少なくともこの島を支配している存在らしいし、何か有用な情報を持っているかもしれない。

 ……しかし姐御か、女海賊なのかな?』

 

「ふーむ、麗しの女海賊というなら余も興味が出てきたぞぅ?」

 

女海賊、という言葉の響きだけで思いを馳せるネロ。

その言葉を聞いて、意識のある海賊連中が一気に笑った。

何を笑い出したのか、とネロがきょとんとする。

 

「麗しはない」

 

「麗しはないなー」

 

「麗し、ってどういう意味だ?」

 

「もう言葉の響きからして姐御に似合わねぇ」

 

海賊総員、そう言って笑ってしまっている。

まさかの完全否定に、ネロが呆然とした。

 

「こやつら、船長を誇りたいのか貶したいのかどちらなのだ……?」

 

「……その姐御とやらに直接会えば分かることだ」

 

エルメロイ二世の視線が、海賊の中の一人に向けられる。

まだ歩ける程度の元気がありそうな奴。

彼を積み重なった海賊たちの中から、その一人をぞんざいに引っ張り出した。

 

「いてて……」

 

「では、案内してもらおうか。君たちの船長のもとへ」

 

他の海賊たちは仕方なし、とばかりに諦めているようだ。

負けたからにはそうするしかない、ということで理解しているらしい。

 

しゃーない、と島の奥に向かって歩み出す海賊。

続こうとするカルデアの面々。

更にその後ろに着いてこようとする、船から一緒に降りてきた海賊たち。

しっしっ、と。オルタがそいつらを手を振って着いてくるなと意思表示する。

 

森に歩いていく海賊の後に続いて行く道中。

立香は少し困惑してそうなマシュに目を向けた。

 

「マシュ、大丈夫?」

 

「あ、はい。問題があるわけではありません……

 ただその、信長さんたちや彼らを見て……人間には色々あるのだな、と。

 そう思うようになってきた、というだけのことですので」

 

「そうだねー……でも、人が生きるってそういうことなのかもね」

 

そう言った立香の顔を、マシュが見返した。

 

「人間だからこそ、色々な生き方があるんだよ。

 私たちには想像もつかないような生き方もあって、それが―――

 そんな生き方を多くの誰かが重ねてきてくれたから、今の世界があるんだよね」

 

「彼らが重ねてきたものが、わたしたちの世界……」

 

「それで、いま私たちが取り戻そうとしてるもの。だよね」

 

立香がマシュを見ながら微笑む。

その言葉にマシュは強く肯き、前へと向き直った。

 

彼女は良い話風に纏めたが、それはそれとしてあいつらはただのアホの集まりでは。

そう思っていたが、オルガマリーは素直に黙っていることにした。

いちいち余計な茶々を入れる必要はあるまい。

 

 

 

 

「姐御ー! 姐御に敵、敵……? あー、客人? 客人です!

 なんか姐御から話が訊きてぇとかで、連れてきやしたぁー!」

 

しばらく森を歩き、到着した海賊のねぐら。

そこに辿り着いた海賊の男は、大声で船長へと呼びかけ始めた。

 

その海賊のねぐらの中から、すぐさま大声での応答が返ってきた。

 

「ああん? 人がせっかく、気分よーくラム酒を呑んでるってのに……

 まーたこの島に海賊が増えたってのかい?」

 

「いやー……増えたには増えたんですが、なんか今回は別件みたいで」

 

後ろのカルデアメンバーをちらちら伺いながら、歯切れの悪い回答。

中にいるだろう船長の彼女は、それに呆れたような声をあげた。

 

「ハッキリしない奴だねぇ、メンドくさい。

 いいよ、顔を合わせた方が早そうだ。さっさと中に入りな!」

 

言われるや否や、さっさとねぐらの中に入ってしまう海賊。

カルデアの面々もそれぞれ顔を見合わせてから、中に入ってみる。

 

大量の海賊たちが、めいめいに酒なり食い物なりを楽しんでいる。

そんな中に。

 

椅子に腰掛け、木のジョッキで酒を呷る女性がいた。

鮮やかなピンク色の髪を腰まで伸ばした彼女は、豪快に手の甲で口元の酒を拭う。

入ってきた連中を一通り見回して、一息つく。

 

「何だい、思った以上にキテレツな連中をつれてきたもんだね。

 どういう集団だい。見世物屋か何かかい?」

 

『あー、いえ。ボクたちはカルデアという機関のものなんですが……』

 

星見屋(カルデア)ぁ? この海の星図でも描けたのかい?

 そういう商売しにきたってんなら、買ってもいいけどねぇ。

 ……いや、やっぱりなしだ。今の声は、完全にアタシが気に食わないタイプの声だ。

 弱気で根性もない悲観主義者(ペシミスト)。そのクセ本人は善性、みたいなチキンの匂い。

 海に出たら船の重しになるタイプさ」

 

こちらから目を逸らし、ラム酒を金色のコップからジョッキに注ぐ。

そのままぐいっと一気。

再び彼女の手は金色のコップに伸び、ジョッキの中へと酒を入れた。

 

『なぜ唐突にボクがディスられねばならないのか……』

 

悲嘆の声をあげるロマニ。

ソウゴが金色のコップを指差しながら、エルメロイ二世を見る。

彼は死んだような目をしながら、同意するように肯いた。

オルガマリーは目がおかしくなったと判断したのか、目の近くを揉み解し始めた。

 

「いえ、わたしたちは商売にきたのではなく……」

 

「なんだい、じゃあこの島で天体観測かい? なら好きにすればいいじゃないか。

 海賊島だなんて他の連中が好きに言ってるだけで、こっちはそんなに長居する気はないよ」

 

休むことなく酒を呑み続ける船長。

それを見ていたネロが、難しい顔をしながら悩み込む。

 

「どこかで……? いや、これは余の記憶なのだろうか……?

 うーむ、これは……エリザベートなどに覚えるものと似たような感覚……」

 

首を傾げるネロ。そんな彼女の反応に、クー・フーリンが小さく肩を竦めた。

生前からの地続きのような感覚でサーヴァントになっている彼女には、記憶と記録の混乱が起こっているだけだろう。

 

そのままひたすら自己に埋没していくように、考え込んでいくネロ。

 

「うーむ…………? はて……むー? ライダー? うー、むー………?

 ドレイク……? フランシス・ドレイク?」

 

そうして、彼女はどこからか浮かび上がってきた名前を口にする。

ジョッキを動かしていた手を止めて、船長が怪訝そうな顔でネロを見つめた。

 

「………なんだい? 唸ってたと思ったらいきなりアタシの名前呼んだりして」

 

「え……」

 

フランシス・ドレイク。

世界一周を生きたまま成し遂げ、人類史のその名を残した大航海者にして、商人として母国イギリスに富をもたらし、当時の最強国家スペインを打ち破るほどの力を与えた大英雄。

沈まない太陽(スペイン)を陥落せしめ、太陽を落とした存在としてスペイン人から恐れられた悪魔(エル・ドラゴ)

 

海賊島を支配する船長の名が、まさかそのドレイク船長と同じだとは―――

 

「女性、だったのですか……?」

 

「なんだい、今までアタシが男に見えてたって?」

 

つい呟いたマシュを睨むドレイク。

我に返って謝ろうとする彼女が言葉を発する前に、ここまで案内してくれた海賊が口を開いた。

 

「よくありますねぇ、それ。船長って男だったっけ? あ、女だったわ。みたいなの。

 誰も姐御は姐御であって、男か女かとかそういうちっちゃい事は気にしてませんから」

 

ドレイクが足を伸ばし、その男の足元を蹴り払う。

倒れて転がっていく海賊の男。

 

そんな様子を見ながら、オルガマリーが顎に手を添えて考え出す。

 

「大航海時代。この時期なら、生前のフランシス・ドレイクがいてもおかしくない―――か」

 

『………ボクの記憶が確かなら、ドレイク船長は男性だった気がするけどなぁ』

 

「今更だな」

 

何となく思い出せてすっきりしたのか、機嫌の良さそうなネロ。

そんな歴史的に男性のはずの暴君ネロを見ながら、エルメロイ二世は肩を竦めた。

 

「ところでさ、さっきから使ってるその金色のコップ。どうしたの?」

 

ソウゴがそれを指差しながら、ドレイクに向かって問いかける。

さほどの大きさでもないというのに、先程から延々酒を出し続けているコップだ。

今も彼女はそれから酒をジョッキに注いでいる。

 

「うん? ああ、こいつかい。たまたま拾ったもんさ。

 ただの趣味の悪い純金のジョッキと思ってたら、なんとこいつはね。

 汲めども汲めども尽きぬ酒にご馳走まで好きに出せる、魔法の杯だったのさ」

 

魔法の杯―――聖杯を置いて、再び木のジョッキで酒を飲み干すドレイク。

後ろの方で酒に食い物にとやっていた海賊たちが笑い声をあげた。

 

「何言ってんすかねー姐さんは!

 たまたま拾ったどころか、大冒険に継ぐ大冒険だったじゃないッスか!

 いつまでも明けない七つの夜、海という海に現れた破滅の大渦!」

 

「そして破滅の大渦(メイルシュトルム)の中から現れた、幻の沈没都市アトランティス!」

 

「アトランティスと一緒に現れた神サマが言う―――

 “時はきた。オリンポス十二神の名のもとに、今一度大洪水を起こし文明を一掃する…!”

 寄せ来る波、吹き荒ぶ嵐、こりゃもうダメだと誰もが思う!」

 

「そこで姐御はこうよ!

 “はぁ? 海の神(ポセイドン)だぁ? 海に命懸けてるアタシら船乗りを前にしてよく言ったじゃないか! アンタごときなんぞより、凪いだ海の方が万倍恐ろしいっての!”」

 

ヒュー! やんややんやと騒ぎ立てる海賊たち。

 

「姐さんがとことんぶちかましてやったら、水没していくアトランティス!

 海の神サマが一緒に水没していったら世話ねぇや!」

 

「その上ついでにそいつが持ってた金の杯を戦利品として頂けば、こうして無限に酒が湧く魔法の品物だったってわけで―――よっ、さすがお頭! 幸運と悪運にだけ愛された女!」

 

「うっさい奴らだねぇ」

 

酔っ払いの騒ぎに鬱陶しそうに手を振って、彼女も再び注いだ酒を飲み干した。

 

へー、と話を聞いていたソウゴたちの後ろで、大体のメンバーが頭を抱えた。

 

どう聞いていても嘘ではない。

多少誇張はされているのだとしても、そもそも出てくるキーワードが異次元だ。

呆然としながらマシュが、彼女の手の中にある聖杯を見る。

 

「まさか……この時代は、既に人理定礎が崩壊しかけていたということでしょうか……?」

 

「………いえ……いえ? ちょっと待ちなさい、紛れもなく神霊の話じゃないそれ。

 それが事実だとして、そんなこと、聖杯を使ったって普通は出来るはずが……」

 

一際頭を抱え込む所長。

よく分かっていないので、立香は彼女の肩をぽんぽんと慰めるように叩く。

フォウくんも同じ気持ちなのか。

所長の頭の上に乗り、その上で彼女の頭を前脚でてしてしと撫でていた。

 

そんな彼女たちを見ながら、こめかみに手を当てたエルメロイ二世が推測を口にする。

 

「――――いや。海神の降霊とアトランティスの浮上が同時に起こったというのなら……

 そもそもそれは、人理焼却のための聖杯とは別件の可能性が高い。

 この特異点はどう見ても“大航海時代の海”を中核にしている。

 アトランティスがあり、ポセイドンが聖杯で特異点を創ったのなら、特異点はアトランティスを中心に展開されてなければならない。

 つまりはまず、レフ・ライノールの聖杯Aがこの特異点を成立させた。

 そして特異点と化した世界で水没していた、アトランティスに安置されていた聖杯Bが起動。

 その結果アトランティスの王として、ポセイドンが降臨した。

 特異点を創る聖杯Aと、神霊を呼ぶ聖杯B。聖杯が二つあり、負荷を分担していたのならば、神霊降臨さえも不可能ではないだろう」

 

『………アトランティスにポセイドンが降臨し、海底大陸が海面に浮上。

 そうだね。非常事態ではあるが、同時に人理定礎になる“世界の開拓”と離れすぎてる。

 だとするならこの時代を選んだ意味もないし、最終的に破綻する可能性が高い。

 聖杯があったところで、海神の権能を維持し続けるには流石に無理があるからね。

 仮にこの世界にアトランティスが浮上したところで、また沈んでしまえば意味がない。

 未来ではただの都市伝説止まりになるだけだろう』

 

「つまり、そのポセイドンが出てきたのはあくまでちょっとした二次災害?」

 

『うん……まあ、うん……ちょっとした……?』

 

身も蓋もない言いように、ロマニが困ったように返答する。

じゃあ関係ない聖杯なんだ、とがっかりしたように肩を落とす立香。

カルデアの面々が何やら話しているのを見て、ドレイクが首を傾げる。

 

「つまりなんだい? アンタら、この金のジョッキを探してたのかい?」

 

「それだけど、それじゃない奴よ。

 この世界にそれがもう一個あって、そのせいで海とかが滅茶苦茶になってるワケ」

 

オルタの要約した答えを聞いたドレイクがふーんと肯き、また酒を呷る。

いつまで飲んでんのよこのアル中、とオルタが顔を顰めた。

 

そんな彼女が、飲み終わったジョッキをテーブルに叩き付けるように下ろす。

木を打ち合わせる音が、辺りに大きく響いた。

 

「アタシとしても誰かが海を滅茶苦茶にしてる、なんて聞いたら黙ってられないね。

 アタシの方からどっか魔の海域に迷い込んじまったって言うなら仕方ない。

 そういうことなら、やるだけやって野垂れ死ぬしかないだろうさ。文句の言いようもない。

 だけど海を手前勝手にしてる野郎がどっかにいるってなら話は別さ。

 そんなもん、海賊として黙ってられる話じゃないだろう?」

 

一瞬前まで笑いながら、酒樽の如くラム酒を腹に流し込んでいた彼女。

その顔に明確に苛立ちが浮かび上がり、同時に心情を吐き出した。

そんな彼女に対して、通信先からダ・ヴィンチちゃんの声が向けられる。

 

『一ついいかな、キャプテン・ドレイク』

 

「なんだい?」

 

先程までとは違う女性の声に面食らいつつ、ドレイクは対応する。

 

『君の手にするその黄金の杯、聖杯。それは世界をも望み通りに書き換える力の塊だ。

 君が使っている酒や食事を出す力なんて、その力のほんの僅かな部分でしかない。

 だからこそ訊きたい。君は、君が元々いた世界の海を望んでいるだろうか?』

 

そう大仰な話をされたドレイクが、手にある黄金の杯を眇めつつ答える。

 

「もちろん」

 

そんな大層なものであろうとも、彼女にとってはただの戦利品で酒の湧く便利なジョッキだ。

世界を変える力などという、そんなろくでもない機能なんて望んでいない。

 

『だとしたらやはり、君の聖杯の“正しい歴史に戻そうとする力”。

 それと吊り合うだけのレフの聖杯、“人理を焼却しようとする力”がこの世界にはあるわけだ。

 君がそれを許せないというのなら、やるべきことは一つなんじゃないかな?』

 

「なるほどね、よくわかったよ。親切にどーも……ところでアンタ誰?」

 

『おっと、申し遅れたね。私はレオナルド・ダ・ヴィンチ―――

 君が生まれる二十年ほど前に死んだ、世紀の天才だったりするのさ。

 よろしくね、時代を先に進めた偉人同士仲良くしようじゃ……』

 

「あっそ、知らない名前だね」

 

『な、………なん、だと………!?』

 

あっけらかんと天才の名前を聞き捨てる。

ダ・ヴィンチちゃんの自尊心にダメージを与えながら、彼女はジョッキを手に立ち上がった。

周辺一帯にいる海賊全員に届く声が、彼女の咽喉から放たれる。

 

「うし、野郎ども! 何だか知らないが、この海を好き勝手してる奴がいるんだとさ!

 んなこと見過ごせるわけがない!

 明日になったら海に出て、そんな野郎どもをとっちめに行くよ!!

 今日は飲むだけ飲んだらさっさと酔い潰れて寝ちまいな!!

 ほら、ついでにアンタたちも一緒に行くんだろう? こいつらにも飲ませてやんな!」

 

「え? 俺まだ未成年……」

 

「私も」

 

「あ、わたしも……その、お酒は」

 

火山の噴火の如く騒ぎ出す海賊たち。

どんどん持ってこられる酒に食いものに、ソウゴたちがどうしたものかと困惑する。

そんな中で、ネロがシュバッとその身を躍らせていた。

 

「よかろう! その酒宴の席、余の歌が飾ろうではないか!」

 

返事も聞かずに、彼女は海賊たちの中心で歌い始める。

エリザほど破壊兵器ではないが、普通に下手な歌。

思ったより音痴な歌が出てきたことに割と誰もが驚き―――

 

バンバン、と。天井に向けて放たれた銃声がネロの歌声を掻き消した。

 

「む? どうした、キャプテンよ。突然銃など撃ち出して。

 それでは合いの手には音が大きすぎよう」

 

「誰が合いの手なんか送るか! アタシはねぇ、歌の下手な女が嫌いなんだよ!!

 なんだいその歌! 声だけは悪くないから余計にタチが悪い!!」

 

「なんと、余の歌が下手とな!? 聴く側のセンスに欠けているぞ、キャプテン!」

 

「歌を聴くのにセンスなんざいるか!」

 

ぎゃーぎゃーと騒ぎ出す宴の場。

誰もを巻き込んで何故かカラオケ大会に発展していく海賊の集団。

 

食う、飲む、歌う。

誰もがそれらを繰り返しているうちに夜になり、いずれ喧騒は収まった。

どんちゃん騒ぎの結果、ねぐらの中にも外にも溢れた人間たち。

 

周辺一帯、寝息だけが聞こえる空間となったその場に溜め息の声が混じる。

 

「やっと静かになったわね……」

 

「……君も寝たらどうだね、見張りなどサーヴァントだけで事足りる」

 

外の木に寄りかかりながら、エルメロイ二世はそう言った。

言われたオルガマリーは、むっとした表情で彼に視線を送る。

 

「この程度で問題は……」

 

「君の気持ちも多少は分からないでもない。

 私は偉大なる先達が喪われ、その後釜として何故かロードなんぞになってしまった男だ」

 

自分に対して呆れるように、彼はそんな事を言った。

オルガマリーが僅かに目を細める。

 

「………私と貴方が同じ立場である、と?」

 

「まさか。そんな思い上がりはする余裕もない。

 私どころかライネスとて何もできず、エルメロイは諸々取り上げられ現代魔術科(ノーリッジ)に島流し。

 アニムスフィアは君が保たせ、こうしてカルデアという計画を成就させたのだろう。

 そら、比べるまでもなく私なぞより君の方がよほど優秀だ。

 まあこれはあくまで私が君に劣る、という話。

 エルメロイがアニムスフィアに比べて特段劣っているという話ではないがね」

 

まったくもって遺憾である、とばかりにエルメロイの現状を嘆くロード。

そんな物言いに呆れたように、オルガマリーは口を半分開いた。

 

「……それ。もしかして、先代ロード・エルメロイは優れていた、って言いたいだけ?」

 

「…………偉大なる先代がいると苦労が多いものだ、という教訓だ。

 どうにかこうにか、そちらの私も生き残っていたのだろう?

 なら私ごときより優れた君が、どうにかできないはずがないという話だよ。

 ―――私は生徒に恵まれたこともあるが、それを言うなら君も職員に恵まれただろう?」

 

む、と顔を引き攣らせるオルガマリー。

カルデアのメンバーは大体外に投げ出されている。

もしもの時は即脱出できるように、ランサーが誘導した結果だ。

まあネロだけはドレイクと一緒に室内で寝呆けてるようだが。

サーヴァントならば問題あるまい。

 

ちらりと一瞬だけ既に寝ているマスター二人を見て、小さく溜め息。

 

「そう、かもね」

 

「いつも通りに自分を崩さずいればいい。

 少なくとも、そんな君の下に望んでついている人間はいるのだから。

 もしくは正直に言葉でそうと伝えてみたらどうだね」

 

「そう……ロード・エルメロイ。

 貴方は自分の生徒に言葉で“自分は生徒に恵まれた”と伝えていたのね?

 人理焼却解決の暁には、ノーリッジに訊き込みに行ってやるわ」

 

「……………………ロード・エルメロイ二世と呼んでくれ」

 

近くから小さな笑い声。この声はジャンヌか、オルタか。

寝たフリをして聞いているのだろう。ええい、忌々しい。

フン、と鼻を鳴らして彼女は就寝するために木に寄り掛かった。

 

 

翌朝には彼らはキャプテン・ドレイクの所有する船。

黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)”に乗り、この島を旅立つことになる。

 

この世界のどこかにあるもう一つの聖杯。

レフがローマで消滅する前にバラまいたであろう、歴史を壊す存在。

それを回収し、未来を取り戻すために。

 

そうして出航する彼らを、木陰に隠れて一つの影が見送っている。

彼は島から離れていくその船を見て、小さく微笑む。

それはまるで獲物を見つけた、と言わんばかりの表情で―――

 

船が水平線の彼方に見えなくなると、彼もまたその木陰から離れていく。

そのすぐ後、彼の姿はこの島のどこからも消失していた。

 

 

 




 
メイルシュトロームの中からアトランティスとともに現れた存在。
間違いない、ポセイドンの正体はロビン・マスクですね。
ロビン・ダイナスティはアトランティス王家だった…?
 
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