Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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エクスカリバー2004

 

 

 

「マシュ、大丈夫?」

「はい。多少ダメージは残っていますが、この程度であれば戦闘行動に支障はありません」

「フォー、フォフォフォウ?」

 

 アーチャーを撃破し、最後の休息をとる。後残されているのはこの洞窟の最奥、大聖杯とそこに待ち構えるセイバーだ。だがあのアーチャーをも容易に撃破するサーヴァントだと聞けば、準備などどれだけしても足りないほどだろう。

 

「……少しでもダメージがあれば支障が出るのが当たり前でしょう。

 マシュ、こっちに来なさい。わたしが治療します」

「あ、はい……その、ありがとうございます。所長」

 

 マシュが戦闘中に受けたダメージを治療する魔術を行うオルガマリー。

 それを見ていた立香がぼんやりとしながら言った。

 

「魔術って便利なんだねえ。私にも使えるかな?」

『もちろん、相応の訓練をすればね。このカルデアスタッフに選ばれた以上、少なくとも才能は秘めていると太鼓判を押されているようなものさ』

 

 軽く返すロマニの声に、マシュの治療を施行しながらのオルガマリーの平坦な声が被る。

 

「……マスターやレイシフトの適性と、魔術師としての才能は関係するものではありません。

 一般人のあなたでは訓練したところで、どうせ大した魔術は使えないわ」

「所長は魔術師としてはすごいのにマスターとしては駄目なんだっけ」

『ちょっ!?』

 

 ソウゴの歯に衣着せぬ物言い。

 怒るのかなと思いきや彼女はそうね、と返すだけだった。

 

『どっ、どうしたんだいマリー? キミらしからぬ反応だったけど……?』

「別に、その通りだからその通りだと答えただけでしょう。

 サーヴァント同士の戦闘を見た後で、意地を張るのも馬鹿らしいじゃない」

 

 自分で言っていて本当にそうだろうか、と疑問に思う。

 どちらかと言うと怒る暇もなく勝手に自分の口が答えを返してしまっただけかもしれない。

 だって別に今の言葉はただの確認で、馬鹿にされたワケでもなかったからか。

 

「つまり所長には魔術師としての活躍を期待して、私たちはマスターとして出来る事すればいい……そういう事なんだよね。どういうことが出来るのかまだよく分かってないんだけど」

『あ、ああ。うん。いや、キミは間違いなくマスターとして力を尽くせてる。立香ちゃんはさっきの戦いでマスターとして出来る事の一端を発揮したところだ。手の甲にある令呪が一画消費されているだろう?』

 

 言われて自分の手の甲を見る立香。そこにはいつの間にか、三つのパーツが組み合わさって絵柄を構成している、ほのかに輝く赤い紋様が浮かんでいた。

 ただしその内の一角分は滲んで、既に消えてしまっている。

 

「令呪……って、これの事? そういえばいつの間にかあって……何か、いつの間にかカタチが変わってるような?」

 

 自分の手の甲に描かれた赤い紋様を指でなぞってみる。

 そんな彼女に対して、調子の良い声でロマニは語り出した。

 

『我らがカルデアにおいて令呪とは、三回限りのサーヴァントへの魔力ブーストなんだ。キミというマスターに預けられた魔力の予備タンクだね。それを使用し通常を遥かに凌駕する大量の魔力を一気に供給する事で、例えばサーヴァントの損耗を瞬時に回復。もしくは宝具の起動に必要な魔力を瞬時にチャージし、即時起動を可能にする……なんて事ができるのさ』

「へぇ……」

『キミはアーチャーとの戦闘でマシュに対し、この力を最高のタイミングで行使した。追い詰められていたマシュは、体力と魔力のブーストによって状況の逆転を成し遂げただろう?

 正直、魔術の知識が一切ないキミたちに可能な事だと思っていなかった、というのが本音だ。マスター適性とはこういうものなのだ、と改めて思い知らされた気分だよ』

 

 どこか感心した様子でそう言ってみせるロマニ。

 理解しきれているとは言えないが、立香がそれに対して漏らす安堵の吐息。

 

「……そっか。マシュの助けになったなら良かった。

 ―――あと二回はセイバーとの戦いで使っていいんだよね?」

『もちろん。使えるならそれに越した事はない。令呪自体はカルデアに戻れれば補充可能だ。三回きり、というのは一度のレイシフトでって事だね。

 この特異点を解決するための決戦で惜しむことはないよ、キミの判断で使用してくれ』

 

 自分の令呪を見ながら唸る立香。

 そして、そんな彼女を見て首を傾げるソウゴ。

 

「俺にはないけど、キャスターのパワーアップは出来ないの?」

「ああ。あくまでオレはこの街の聖杯戦争に呼び出されたサーヴァント。

 流石にそんな部外者であるオレはサポート対象外ってこった。カルデアとやらでちゃんと自分のサーヴァントを召喚すりゃ使えるようになるだろうさ」

『そうだね。まずはカルデアに籍を置くサーヴァントと契約して初めて、英霊召喚システムであるフェイトから令呪を授かる事ができる。

 ただ、その後は現地で契約したサーヴァントが相手でも令呪は問題なく機能する筈だよ。あれはあくまでサポートのための膨大な魔力、という事でしかないからね』

「ふうん……じゃあ今のとこキャスターは俺より立香と契約してた方がいい?」

 

 令呪によるサポートの効果が強大であるならばこそ、その恩恵を受けられる立香がマスターの方がいいのでは。

 そういう意図で向けられた問いに対し、キャスターは首を横に振った。

 

「いや、セイバーとの決戦にはあの盾の嬢ちゃんこそが肝心要だ。令呪を使う事になるにしろ、それをオレに割く必要はねえよ。

 それよか嬢ちゃんを集中させるために、マスターとサーヴァントのレイラインを一本に絞っといた方がいい……ちなみによ、マスター」

 

 突然キャスターが声を潜めた。

 他の皆に聞こえないように、という配慮だろうか。

 首を傾げながら、ソウゴは彼に耳を寄せる。

 

「今、さっき言ってたみたく()()()()はするか?」

「うーん……してない。なんか、何かが足りなくなったような気がする」

 

 その返答に溜息を落としてから、そうだろうな、とキャスターは肩を竦めた。

 もっと前からそうだった筈だが、セイバーを直前にするまで感覚が曇っていたのだろう。

 だがここに至っては把握できている様子が見える。

 となれば、やはりソウゴの感覚自体は鋭いものであるのだろう。

 

「なんで?」

「盾の嬢ちゃんの宝具は……まあいいさ。

 ここぞ、って時には手が届くだろう。あれはそういうタイプだ。

 だが問題はウチのマスターなんだな、これが」

「俺?」

 

 質問の意図が読めずに首を傾げていたソウゴ。

 彼がより深い角度まで首を倒した。

 

「これでも今回はドルイドとして、キャスターとして呼ばれてる。戦士としての技量じゃねえ人を見抜く目は、槍を持ってる時よりあるつもりだ。で、だ。そんなオレの目を信じるとするなら、お前の言った通り―――()()()()()()()()

 もしかしたら後何年か普通に過ごしてるだけで満たせちまう、ほんの小さな話かもしれねぇ。だがここに至ってそんな暇はない。となれば、どうするよ?」

「どうするって言われてもなぁ……さっきは最後までいける気してたんだけど」

 

 何故その感覚が消えてしまったのか。

 それはもう本人ですら直感としか言えないもののため、誰にも分からない。

 恐らく今の世界、時代においては一人を除いての話だが。

 

「……一応訊いとくが、いける気がしなくなった今も行く気か?」

「当たり前じゃん。そうじゃなきゃ、皆が困るって事でしょ?

 俺は皆を守るために王様になるんだから、ここで逃げてる場合じゃないでしょ」

「はぁ? 王様?」

「うん、王様」

 

 くっ、とキャスターが笑いを噛み殺す。

 何の気負いもなく口にした彼の言葉には、冗談など少しも含まれてはいないと分かったから。

 

「何だそりゃ。やめとけやめとけ、王様なんてロクなもんじゃねぇ」

 

 笑いを噛み殺した彼は、そのままソウゴの背中を何度か軽く叩く。

 

「そう? いいじゃん、王様」

「いーや。オレの知ってる王様って連中はロクでもねえヤツらばっかよ。

 どうせなるならもうちっとまともなもんにしとけって」

「じゃあ俺がキャスターが初めて会った、ロクでもなくない王様になればいいじゃん。

 それならキャスターも次からは、オレが会った王様の中には凄いヤツがいたぞ! って言えるんじゃない?」

 

 良い事を思いついた、とばかりに自信ありげに語るソウゴ。

 それを聞いて先程より笑いをこらえるのが辛くなったのか。

 笑いをこぼしながらキャスターは応じてくれる。

 

「ぶっ、……くくく、そりゃいい。確かに愉快な話だそりゃ。

 ―――んじゃまあ、王様になったら是非とも召喚してくれ。これでもそれなりに忠は尽くす方でな。槍持たせて呼んでくれりゃあ、兵士の真似事くらいはしてやれるぜ?」

「じゃあ俺が王様になったら、キャスターには王室直属の騎士団長になってもらおうかな?」

「そいつは嫌だね。権力なんぞより槍を振るえる環境が欲しいんでな」

 

 ぱたぱたと手を振りながら王様からの勧誘を蹴るキャスター。

 その対応にソウゴが不満そうに声を上げた。

 

「えー……」

「さて、と。そろそろ黒くなった悪い王様を倒しに行くとするかね、王様マスター」

 

 まだ王様じゃないんだけど、という言葉を無視してキャスターが立ち上がる。

 それを見た皆が休憩は終わり、これから最後の決戦が始まるのだと理解した。

 事前の戦力分析は芳しくないとはいえ、だから勝てないなどと語れば英雄失格だ。

 彼はそれでも走り抜けたからここにいる、というだけなのだから。

 

 

 

 

 

「これが大聖杯……? なによ、これ。超抜級の魔術炉心じゃない……!

 なんで極東の島国にこんなものが……?」

 

 洞窟を潜り、辿り着いた大きく開けた空間。

 そこには知識のない一般人の視点でさえ異常なほどの存在感を感じる何かが存在していた。

 

 ―――それこそが大聖杯。

 冬木において運行されていた聖杯戦争の心臓部。

 

『資料によると、制作はアインツベルンという錬金術の大家だそうです。

 魔術協会に属さない、人造人間(ホムンクルス)だけで構成された一族のようですが……』

「お喋りはそこまでにしときな。やっこさんに気づかれたぜ」

 

 オルガマリーとロマンの会話をキャスターが横から打ち切る。

 と、同時に。

 

 ガチャリ、ガチャリ、と金属のブーツが大地を踏み締める音と共に姿を現す相手。

 病的なまでに白い肌。それを覆う漆黒の鎧。

 そして、その手に握られた黒く染まった聖剣。

 

 ―――姿を現した彼女はまずキャスターを一瞥すると、すぐにマシュへと視線を移した。

 

「―――っ、なんて魔力放出……! あれが、本当にあのアーサー王なのですか……!?」

『間違いない。何か変質しているようだけど、彼女こそがブリテンの王。最強の聖剣エクスカリバーの担い手、アーサー王だ……!

 伝説とは性別が違うけれど、何か事情があってキャメロットでは男装をしていたんだろう。男子でなければ王座にはつけない、みたいなそういうあれこれさ。そしてこの手の事は大抵が宮廷魔術師であるマーリンの入れ知恵だろうね。本当に趣味が悪い』

 

 珍しく吐き捨てるように語るロマニ。

 だがあの超級サーヴァントを前にそれを疑問に思っているほどの余裕はなかった。

 ただマシュは、ロマニの言葉で相手の性別を誤認していた事に気付く。

 

「え……? あ、ホントです。女性、なんですね。男性だと決めつけて見ていました」

 

 盾を構えながらそこに驚いている彼女にキャスターが声をかける。

 そんなどうでもいいことに驚いている場合ではない、と。

 

「見た目は華奢だが甘く見るなよ。アレは筋肉じゃなく魔力放出でカッ飛ぶ化け物だからな。

 一撃一撃がバカみてぇに重い。気を抜けば宝具さえ使わせないままバラバラにされるぞ」

 

 キャスターの語るセイバー評。

 彼からそれだけの評価を得ているのを知って、気を抜いていられる筈もない。

 それを聞いた誰もが体を強張らせて身構える。

 

 戦闘態勢を整えているこちらを見て、セイバーは小さく笑みを浮かべた。

 

「―――ほう。面白いサーヴァントがいるな」

「なぬ!? テメェ、喋れたのか!? 今までだんまり決め込んでたのは何だったんだよ!」

「ああ、何を語っても見られている。故に案山子に徹していた。

 だが―――そうしていた私が思わず口を開く珍客だ。その宝具を引っ提げて我が前に立たれたからには、この剣をもって試すしかあるまい」

 

 洞窟内にギチリと響く、剣を握り締めた手甲が軋れる音。同時に魔力が爆裂し、彼女の体から黒い靄が立ち昇る。それらは全て純粋な魔力というエネルギーに他ならない。

 アーチャーという先触れを見て上方修正した筈の、敵戦力の予測最大値。それを更に、圧倒的に凌駕する魔力の怪物。

 

「っ――――!」

「構えよ、名も知れぬ娘。その守りが真実か、この剣で確かめてやろう」

 

 セイバーが爆発する。

 いや。彼女の纏う魔力が破裂し、ロケット染みた推進力でこちらに突撃してきたのだ。

 咄嗟の行動、盾での防御は間に合った。

 が、その威力に耐えきれず、マシュはいとも簡単に後方へと投げ出される。

 

「マシュ!」

「ちぃっ―――!」

 

 弾かれたデミ・サーヴァントの姿を追うマスターの視線。

 

 それに構っている間もないと、キャスターの周囲に灯る火種。

 次の瞬間それは一気に膨れ上がって弾丸となる。

 一気呵成に解き放たれる炎の弾丸。

 だがそれは、狙ったセイバーに当たる前にあっさりと消失した。

 

『対魔力か!』

「いや、そこまで届いてもいねぇ。魔力放出で作った力任せの結界ってわけだ」

『そんな事がありえるのかい!?

 ただ魔力を放つだけでキミの魔術を強引にねじ伏せるなんて!?』

「目の前でやられたって事は有り得るんだろ。

 まあ、どっちにしろ宝具以外が有効打になるなんて最初から思ってねえっての―――!」

 

 ロマニの驚愕に軽く言い返しつつ、キャスターの身はセイバーとマシュの間に滑り込む。

 どちらにせよダメージは期待できない、と。

 彼はとにかく炎をばら撒き、相手の視界を焼き尽くす。

 

「なればこそ、私をあの娘に止めさせる以外に手はあるまい。キャスター」

「はっ、ここにきて饒舌になったなセイバー。

 どういう了見だ……ってのは聞かないでも大体分かるがな……!」

 

 セイバーの切り払い。それだけで炎ごとキャスターの身が吹き飛ばされた。

 その相手を追うでもなく、ただ剣を掲げたままセイバーは静止する。

 

卑王鉄槌(ヴォーティガーン)―――!」

 

 瘴気染みた黒い魔力の渦が刀身に纏わりつく。

 宝具解放には届かないまでも、それがどれほどの一撃かは容易に理解できた。

 

 今のキャスターにあれを防ぐ事は不可能だ。

 立て直したマシュが最速でその暴虐の前に立ち塞がる。

 

 セイバーの顔が一瞬だけ弛み、すぐにその猶予が消えた。

 下から掬い上げられるように振り抜かれる聖剣の一撃。

 大地を砕きながら迫る魔力の奔流に、マシュの身が強張る。

 

 ドッ、と周りの空気と地面が同時に爆破して消滅するかのような衝撃がマシュを呑み込んだ。

 足は地面についている筈なのに、濁流に流されているのかと錯覚するほどの覚束なさ。

 ほんの数秒の衝撃に、既に全身が砕け散りそうなほど追いつめられていた。

 やがて黒い魔力の奔流は消え、思わず耐え切った安心に力が抜けそうになる。

 

「――――ハッ、ハァッ……!」

「マシュ! 前! またあれが―――!」

 

 マスターの声。それを聞いて、初めて信じたくないと感じた。

 何とか顔を上げてみれば、目の前にある光景に自然と咽喉が引き攣る。

 漆黒の騎士王は既にもう一度、先とまったく変わらぬ魔力の刃を形成していた。

 

()()()()()()()

 

 否、見間違いでなければ先程以上だろうか。

 噴き上がる黒い魔力の刀身は、更に密度を増しているようにさえ見えた。

 

「くっ……うぅうう……!」

 

 必死に盾を握る力を絞り出す。

 前の一撃で既に限界まで引きだしていた力を、もう一度同じだけ引きずり出す。

 殆ど盾に縋るように構えて、今一度来たる絶望を待ち受ける。

 

 ゴウ、と再び漆黒の剣風が襲来する。

 周囲の物質は爆発して砕け散り、蒸発して吹き荒ぶ。

 強力な宝具をもって他のサーヴァントたちを容易に撃破した、という話が身に染みて理解できた。これだけの一撃を持っているならば、他の何が必要だというのか。

 

 何秒耐えたか、耐える事に固まってしまった体が動かない。

 速く動かなければならないのに。

 マスターを守るために、また動かなければいけないのに。

 

「マシュッ!!」

()()()()―――」

 

 三度。黒い衝撃波がマシュに見舞われる。今度こそは耐え切れない。

 固まった体は魔力の渦に呑み込まれた瞬間崩れ落ち、盾ごと吹き飛ばされる。

 衝動的に駆け出した立香が、倒れ伏したマシュへと縋りついた。

 

 そして、

 

「“約束された(エクスカリバー)――――!」

 

 最後を締めるべく騎士王が聖剣の銘を呼んだ。

 先ほどまでの尋常ではない魔力の連撃すら、聖剣の本当の力の前では露払いに過ぎない。

 それがあっさりと理解できてしまうほどの別格の力。

 

 立ち上る魔力はもはや今まで見てきたそれとは比較にならない。

 聖剣から迸る黒い光は、これと戦おうとしてしまった事が間違いなのだと。

 心の底から敵対者を後悔させるほどの光景としてそこにあった。

 その地獄のような光景を前に、

 

「“灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)”――――!!!」

勝利の剣(モルガーン)”――――!!!」

 

 炎に包まれる枝で編まれた巨人が立ち塞がる。

 暴虐としか言えない魔力の嵐。それを塞き止めるのは単純なまでの巨大な質量。

 洞窟に入りきらない巨大な人型が、その体全てを犠牲にして黒い極光を受け止めていた。

 

「苦肉の策と言ったところか、キャスター。その娘の盾で()()を防ぎ、貴様の宝具で私を始末する以外そちらに勝ち筋はなかろうに」

「ハッ、見る目ねぇな騎士王サマ。こっちにゃまだ逆転の秘策があるんだよ……!」

「―――面白い」

 

 セイバーが聖剣に力をこめる。ここにきて更に出力が上がる。

 ウィッカーマンの崩壊速度が目に見えて加速した。

 それを維持しているキャスターの顔が苦渋に歪む。

 オークの杖を握った彼の手が小刻みに揺れ、徐々に力が抜けていく。

 

「クッソタレ、どんだけだこの野郎……!」

 

 

 

 

 

 最早語るまでも無い。この先の結果は既に決まったも同然だ。

 ウィッカーマンは蒸発し、キャスターは敗北する。

 そしてその後を追うようにカルデアもまた全滅するだろう。

 だが、()()()()()()()()()()()()

 

〈エクシードチャージ!〉

 

「こんのっ!」

 

 崩れ落ちていくウィッカーマンの隙間。僅かに見えたセイバーの姿に銃撃を見舞う。

 発射される赤い弾丸。

 だがそれは届く事すらなく、あっさりと魔力の壁の前に霧散した。

 

 じゃあ後は何が出来る。常磐ソウゴが持っているのはこの銃だけだ。

 この、銃に変形する電話だけ―――

 

「電話……? ――――!」

 

 すぐに銃を電話に変形させて、通話ボタンを押す。

 番号とか分からないので、これで通じなきゃとても困る。困る。

 

〈Calling〉

 

「はやくー……! はやくー……っ!」

 

 ガチャリ、と相手側が出た音。

 そちらから出てきた声は、間違いなくウォズのものであった。

 

『やあ、待っていたよ我が魔王』

「遅いよ何やってたのウォズ!」

『先程は君が忙しいからまた後で、と。そちらからさっさと切ってしまったから遠慮していたのだがね』

 

 呆れた声で返してくるウォズに対し、ソウゴは即座に問いかける。

 

「どうにかできるの? 俺に」

 

 その問いに対して、電話先のウォズが押し黙る。

 と、次の瞬間には電話が切れていた。

 

「ちょ、ええ……?」

「もちろん。我が魔王の力は史上最強、この程度の些事に惑わされる事などあろう筈もない」

「うわ、出た!?」

 

 そして次の瞬間にはソウゴの背後にウォズが立っていた。

 更にその手には何らかの機械を持っている。

 ウォズはそれをソウゴに差し出すように跪き、恭しく頭を垂れてみせた。

 

「―――これを。使い方はご存じのはず」

「これ……?」

 

 形状だけ見るのであれば、そんなデバイスの使い方など見ただけで分かるはずもない。

 

 ―――だが、何故だろうか。

 ウォズから受け取ったそれを手にした瞬間に、それの使い方が解ってしまうのは。

 

 ふと、ここにきた時に持っていた懐中時計サイズの何かを取り出す。

 ()()だ。その確信がある。

 最初の一歩を踏み出すためのピースが揃った。そんな気がする。

 今この場は、とことん追い詰められた絶体絶命なハズなのに――――

 

 ―――なんか、()()()()()()()

 

 

 


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