Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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野・獣・音・速2009

 

 

 

ビーストが腰を落とし、右肩のバッファローを前に向けた。

その角で全てを粉砕する激突の構え。彼がその足で二度、地面を擦る。

次の瞬間、ビーストは全速力でジオウに向かって疾走を開始していた。

 

即座に対応するジオウ。

ドライブアーマーの速度が全力で発揮され、バッファローの直線軌道からすぐ外れた。

そのまま背後に回り込み迎撃を―――

 

〈シグナルバイク! シグナルコウカン! マガール!〉

 

「え?」

 

ビーストを躱したその後ろにいるマッハ。

そちらからした声に意識を引かれ、咄嗟に視線を送る。

彼はそのドライバーの中にあるバイクらしきアイテムを入れ替えていた。

連動するように、右肩にある円形のパネルの表示が変わる。

 

その右肩のシグナコウリンに表示されるアビリティシグナルは“マガール”。

マッハがそのままドライバーの上部にあるスイッチを拳で叩く。

叩く、叩く、叩く。

 

四連続のブーストイグナイターの発動により、マッハドライバーが限界稼働状態へ。

 

〈キュウニ! マガール!〉

 

「その攻撃、借りるよ!」

 

直後、マッハの手にしている銃。ゼンリンシューターから光弾が放たれた。

しかしそれもソウゴはドライブアーマーの機動力で躱し―――

 

「っ、今の攻撃―――!」

 

躱して気付く。マッハの放った攻撃。

その光弾は、元よりジオウを狙ったものではない、と。

マッハの狙いは過たず、そのまま光弾は猪突猛進するビーストに直撃した。

 

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

直角に等しい方向転換を成し遂げたビーストが、そのままジオウに激突する。

ミシリ、とドライブアーマーが衝撃に軋む感覚。

 

「ぐぅ……っ!?」

 

バッファローの突撃力に、ジオウが耐えきれずに空を舞った。

更に宙に浮いたジオウの下に回り込むマッハの姿。

つい一瞬前に銃として用いたゼンリンシューターが、今度は打撃に使われる。

 

〈ゼンリン!〉

 

ジオウを更に上に打ち上げるように、下から上へと振り上げられる攻撃。

銃口の下に取り付けられたバイクの車輪が、火花を散らしてジオウを削る。

そして更に上空へと吹き飛ばされるジオウの体。

 

〈ファルコ! GO! ファ・ファ・ファ・ファルコ!!〉

 

そこに隼の頭を肩に顕わして、天空を舞うビーストが追撃にかかってきた。

彼の手にはサーベルが握られて、それを構えながら高速で飛来してくる。

選択の余地はなく、ジオウは肩部からタイヤを射出した。

 

その空中で動きの取れないゆえの悪足掻き染みた攻撃は届かない。

多量の撃ち出されたタイヤを回避し、接近するビースト。

彼の手が揮うサーベルがジオウへ届いた。

 

「う、ぐぅ……!」

 

火花を散らして落下を始めるジオウ。

それを見下ろしながらビーストは軽やかに武装、ダイスサーベルを持ち替えた。

そのままサーベルの側面にあるドラムを回転させる。

 

「もういっちょ! よーし、頼むぜぇ……!」

 

ドラムロールを奏でる彼の武装に、落下しながらジオウが頭をそちらに向ける。

 

「ハ、ハズレのある必殺技……っ!?」

 

ダイスサーベルのドラムの逆側。

指輪装填口に、彼の指にあるファルコの指輪が叩き込まれる。

一瞬の無音。

 

そして―――直後のファンファーレ。

 

〈シックス! ファルコ!〉

 

「よっしゃ来たぁっ―――! 大当たりだ!!」

 

〈セイバーストライク!!〉

 

彼が再びダイスサーベルを持ち替えて、その刃を虚空に揮う。

六体の巨大な隼が、その刀身から放出された。

 

獲物を狙う隼そのままに、そのエネルギーの塊がジオウに襲いかかる。

荒ぶる突風を起こす翼と獲物を捕らえる嘴が六つ。

怒涛となって、ジオウにダメージを与えていく。

 

最後に弾け飛ぶエネルギー体に吹き飛ばされ、地上に転がり落ちるジオウ。

倒れ伏したソウゴは己に放たれた攻撃に、どこか文句混じりに呟く。

 

「アタリでした……」

 

限界の近いドライブアーマーのまま、とにかく何とか立ち上がろうとする。

そんな状態の彼に、今度はマッハの声が届く。

ジオウがそちらに視線を送れば、彼はマッハドライバーを開いていた。

 

彼はドライバーを展開して、再びシグナルマッハを装填。

そのまま必殺待機状態へ移行する。

 

「二体一だったけど、これでこのレースは俺たちの勝ちってわけだ。

 悪いね、俺はアンタが着てる仮面ライダードライブよりも強い! ってわけで」

 

〈ヒッサツ!〉

 

ドライバーを展開したままに、ブーストイグナイターを点火。

彼の手がマッハドライバーのシグナルバイク装填口。

シグナルランディングパネルを倒し込み、ドライバーを閉鎖する。

 

その瞬間に、マッハドライバーの動力。コアドライビア-Mがフル稼働に移行した。

限界までエンジンを吹かして、エネルギーを極限まで高める初動。

 

〈フルスロットル! マッハ!!〉

 

そのエネルギーを放ちながら、マッハが空中に舞いあがる。

膨大なエネルギーを破壊力に転化して、タイヤのように縦回転しながら舞う白いボディ。

その体が飛び蹴りの姿勢を取り、ジオウに向かって飛び込んだ。

 

胴体に直撃する必殺の一撃、キックマッハー。

その衝撃でドライブアーマーが機能不全を起こし、ジオウから分離する。

周囲の木を薙ぎ倒しながら吹き飛んでいくジオウを背に。

 

彼は着地するや否や、地上に降りていたビーストに向けてポーズを決めてみせた。

 

「いい画だったでしょ?」

 

「いやぁ? ピンチとチャンスは表と裏。まだまだどっちが出るかは……」

 

ジオウが吹き飛んだ先、折られ倒れた木々が炎上していた。

咄嗟に振り返ったマッハのバイザーに、姿を変えたジオウの姿が映る。

 

〈アーマータイム! ウィザード!〉

 

魔力の鎧を纏ったジオウが、二人の前に現れていた。

マッハのキックを受けた胸を手で押さえながら、しかし闘志に陰りはない。

限界まで魔力を振り絞るジオウを前に、再びビーストはサーベルを構えた。

 

「分っかんないみたいだぞぉ?」

 

「あらら……あっちの方がいい画だことで」

 

両手の人差し指と親指で枠を作りその場面を切り取ってみるマッハ。

炎を背負い立ち上がる戦士の画に、彼は小さく笑った。

 

 

 

 

ジオウの対処は二人に丸投げし、ディエンドはドレイクを目指し駆ける。

その前に、二人のサーヴァントが立ちはだかった。

マシュ・キリエライト。ジャンヌ・ダルク。

防衛に向いた、というよりそれに特化したサーヴァント。

だが、

 

「残念ながら僕の興味は君たちには無いんでね」

 

ホルダーから更なるカードを引き抜く。

そのまま流れるように、ディエンドライバーへとカードを装填。

誰に向けるでもなく、すぐさまそのトリガーを弾き絞る。

 

〈アタックライド! イリュージョン!〉

 

「え……っ!?」

 

その瞬間に、ディエンドの姿が増えていた。

二体のディエンドの分身が、それぞれマシュとジャンヌに向かってくる。

彼の侵攻を止めようと前にでた二人。

だが、そうなってはそれぞれ分身のディエンドを相手にせざるを得ない。

 

彼女たちはディエンドの相手をしていると言うのに、ディエンドはそのままドレイクを目掛け彼女たちを素通りしてみせた。

 

「くっ……しまった……!」

 

抜かれたジャンヌが焦ったような声をあげる。

が、背後に庇われていたドレイクは不敵な笑みを浮かべながら銃を構えていた。

彼女の胸の中に、極彩色の光が灯る。

ポセイドンとアトランティスを沈め、彼女が正統な所有者として認められた聖杯の起動。

 

「―――そもそも、そんな気張って守ってもらわなくてもどうにかするさ!」

 

銃声が連続する。

本来ならば一度ごと弾と火薬を込めなおさねばならないようなアンティーク。

だというのに彼女はそれを乱射してみせる。

何発かそれを受け、アーマーから火花を散らしたディエンドが感心した様子を見せる。

 

「……へぇ、それがこの世界のお宝。聖杯って奴の力なのかい?」

 

「さぁねぇ、こいつを拾ったら出来るようになったんだから、そうなんじゃないかい!」

 

再び銃声。

最早機関銃染みた速度で放たれる弾丸を、横に跳び退きながら回避する。

 

「面白いね。そのお宝、僕が頂くよ!」

 

「ハッ! 海賊からお宝奪おうたぁ太い奴だね、そういうのは嫌いじゃないよ!」

 

銃撃戦の場と化す戦場。

ネロがそこに踏み込もうにも、オルガマリーと立香は放置できない。

流れ弾や弾け飛んでくる木片やらを切り払いながら、ネロが歯噛みした。

 

「ぐぬぅ、せめて余とマシュかジャンヌが入れ替われれば……!

 突然分身するのはずるいであろう!」

 

彼が明確にドレイクを狙っているがゆえに防衛に入ったマシュとジャンヌ。

彼女たちが防衛している間に、それをネロが横から討つべし。

そう考えていたことが、まさかの分身で完全に流れが破綻させられていた。

 

「――――あの人も仮面ライダーで、何で聖杯を奪おうとするんだろう……

 まさか、人理焼却側ってこと、なのかな?

 今この世界はドレイクの聖杯とレフの聖杯で均衡を保って、修正も破滅もしない。

 そんな状態になってるってことなんだよね?」

 

「………ええ。ドレイクの聖杯を盗られれば、破滅側に傾くでしょう。

 盗られただけですぐに崩壊、ということはないでしょうけど……

 あの聖杯を同時に時代の焼却を目的に使えば、その時点でおしまいでしょうね」

 

アヴェンジャーを戻すべきか、とオルガマリーがもう一つの戦場を見る。

だがそちらはそちらでランサーとバーサーカーの戦い……

 

とは別に、エイリークに従うヴァイキングたちが雪崩れ込んでいた。

アヴェンジャーはそれがこちらに流れないように、そいつらの抑えに回っている。

どう見ても手は開かない。

 

エルメロイ二世に視線を送れば、しかし彼も渋い表情をしている。

一度結界を破られた以上、再展開までは時間を要する。

その上、結界を破られたということは魔術師としての工房を破壊されたも同然だ。

 

今の彼は多少の火や風は起こせる程度にすぎない。

サーヴァントやそれに匹敵する存在に痛打を与える手段はないのが実情だ。

せめて最低限の展開をするにも、数分は必要だろう。

 

「ねえ! 貴方は何で聖杯を手に入れようとするの!」

 

そんな中で、立香がディエンドに向かってそう叫んでいた。

銃撃戦の最中、僅かに反応を示す彼。

彼はドレイクと撃ち合いをしながらも、それに対して答えを返していた。

 

「お宝を求めるのに理由が必要かい?

 お宝っていうのは誰もが求めるものだからこそ、お宝と呼ばれるものだろう?」

 

「そのお宝を手に入れたら、世界が崩壊してしまうとしても?」

 

ディエンドがドレイクの銃撃を潜り抜け、森の中へと走り込む。

姿を隠した相手に彼女も撃つのを止め、相手の動きを窺うように木々を睨みつけた。

その木々の合間から、彼の声が立香に届く。

 

「何で僕がそんなことまで考える必要があるんだい?

 そんなもの、僕がお宝を手に入れた後に崩壊する世界の人間が考えればいいことさ」

 

「貴方だってその世界の崩壊に巻き込まれるかもしれないのに?」

 

「その時はその時さ。手に入れる前から、手に入れたあとの事なんて考えないよ。

 それにもし、仮に世界が崩壊して僕も巻き込まれるのだとしても―――」

 

〈アタックライド! ブラスト!〉

 

森の中から空に向けて、大量の青い光弾が飛んでいく。

それはある程度まで上がっていったと思えば、一気に反転して地上へと降ってきた。

 

「ドレイク!」

 

咄嗟に叫んだ立香の声。

舌打ちでそれに答えたドレイクが、立香たちのすぐ傍まで跳び込んできた。

更にすぐさま立香とオルガマリーをネロが引き倒す。

その上からエルメロイ二世が微力ながら結界を張り直し、守護の体勢を整える。

 

無数の青い弾丸が雨霰と降り注ぐ。

木を砕き、地を砕き、破壊痕を周囲一帯に刻んでいく光の雨。

 

「それで僕が僕の生き方を変える理由にはならないだろう?

 僕の旅の行先を決められるのは、僕だけだ。

 世界がどうなるから、なんて理由でお宝をみすみす見逃すなんてゴメンだね」

 

銃撃の雨で巻き上がる砂塵の中に、ディエンドが再び姿を見せる。

僅かにノイズを混じえたロマニの通信音声が彼にも届く。

 

『その自分が生きてる世界なのにかい!?』

 

そんな言葉を彼は鼻で笑い、即言い切った。

 

「僕が生きてる世界だからさ。

 僕にお宝を我慢させるくらいなら、世界の方こそ滅びるのを我慢したまえ」

 

『無茶苦茶だ!?』

 

「自分に正直なだけさ。さて、そろそろこの世界のお宝を……」

 

そう言って歩み出そうとした彼の周囲に、突風が渦巻いた。

彼の銃撃が巻き上げた粉塵が、彼の視界を覆い尽くす。

 

何重にも折り重なる風の檻が砂塵を運び、ごく狭い空間にディエンドの姿を閉じ込める。

だがそんなもの、ただの強風程度にすぎない。

今は観察するために足を止めたが、突き破ろうとすればいつでもできる。

 

「風ときたら、諸葛孔明くんかな? これで何をするつもりかは知らないけれど」

 

「悪いが、既にやるべきことは終えている」

 

凛、と。その声がした瞬間に、砂塵の檻は風を失い崩れ落ちていた。

 

視界の晴れたディエンドの目の前にいるのは、鮮烈なる赤きセイバー。

そして周囲は海の見える森の中ではなくて、黄金の劇場。

彼女は床に剣を突き立てて、ディエンドを睨み据えていた。

 

「なるほど?」

 

完全に不意をつかれ、周囲の光景を変えられていた。

外と内を完全に隔離する特殊な結界だ。

 

仮面の下、小さく溜め息を吐くディエンド。

カメンライドで召喚したライダーはまだ戻ってきていない。

ということは維持できているはずだ。

 

だが、イリュージョンによる分身は消滅した実感がある。

隔離されたことで、向こうでは消えてしまったらしい。

つまり戻ってもマシュ・キリエライトとジャンヌ・ダルクはフリーになっている。

 

「やれやれ、せっかくあと一歩だったのに」

 

「せっかくなので貴様の攻撃をめくらましに使わせてもらったぞ。

 そしてその内に、立香たちには余の招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)の範囲から離れてもらった。

 結果、こうして貴様だけ見事に余のライブステージへご招待というわけだ」

 

炎を纏いし剣を構え直し、ネロがその切っ先をディエンドに向ける。

そんなことを気にも留めず、ディエンドはカードホルダーに手を伸ばす。

 

「悪いが僕はそんなことには興味ないね」

 

彼がホルダーから一枚カードを取り出し、そのままディエンドライバーへ。

すぐさまグリップを押し出し、カードの能力を実行する。

 

〈アタックライド! インビジブル!〉

 

ディエンドの姿が消えていく。

まるでその場には何も存在しなくなっていくように。

そのまま完全に消えようとした彼が―――しかし。

直後に、再び完全に姿を現していた。

 

姿を消失させてさっさと脱出するつもりだったディエンド。

だというのに、この結果。彼が小さく戸惑うような声を漏らす。

 

ディエンドの発動した能力は、その効果を完全に発揮しないまま完全に打ち切られていた。

 

「……なんだって?」

 

困惑する彼の目の前で炎が上がる。

ネロ・クラウディウスが不敵に笑い、けして逃がさぬという表情を浮かべていた。

 

「余の劇場は開演したが最後、余の興じる演目の終わりまで決して退場は許されぬ。

 易々と逃げられるなどと思ってくれるなよ?」

 

剣を構える彼女を前に、仕方なさげにディエンドも銃を構えた。

劇場の床を駆け出した赤き薔薇の皇帝が迫りくる。

ディエンドライバーから迎撃の光弾を放ちながら、彼は仮面の下で深く息を吐いた。

 

 

 

 

マッハの能力が発揮され、圧倒的速度での戦闘行動を開始する。

 

赤い魔方陣を無数に展開し、炎のチェーンを伸ばすジオウ。

その鎖を振り切る速度で潜り抜け、マッハがジオウに接近―――

 

瞬間。目の前に土塊の壁が聳え立ち、進行を阻害した。

即座に方向を転換しようとするマッハの前に、更に左右前後に聳え立つ土の壁。

ディフェンドで作り出した壁が、相手の足を止めさせた。

 

「っと! 通行禁止ね!」

 

「今!」

 

〈ストライク! タイムブレーク!!〉

 

即座に必殺技を始動して、ジクウドライバーを回転させる。

振り上げたジオウの腕が巨大化し、それに大きく伸長した。

その腕を鞭のように撓らせて、壁に囲まれたマッハを壁ごと潰す勢いで振り抜く。

 

しかし、その腕が届く前に。

 

「おっと、じゃあそっちも止まってもらおうかな?」

 

〈シグナルコウカン! トマーレ!〉

〈シューター!〉

 

マッハの右肩の標識が切り替わる。再表示される標識は“トマーレ”。

 

ゼンリンシューターが頭上から迫りくる巨大なジオウに腕に弾丸を放つ。

その射撃が当るや否や、“STOP”の文字が描かれた標識が浮かび上がる。

まるでその標識に従うかのように、彼の腕は空中で静止した。

 

「あっ、ちょっ……! なにこれ、動かないぃ……ッ!!」

 

「そんで。的がでかけりゃ狙う必要もない、ってね!」

 

でかくなった腕を動かそうと四苦八苦するジオウ。

そんな彼を嘲笑うかのように、マッハが更にシグナルバイクを変更する。

マッハドライバーにシグナルバイクをランディングさせ、拳でドライバーを叩く。

 

〈シグナルコウカン! カクサーン!〉

 

空中で停止した巨大な腕に、ゼンリンシューターから放たれた無数の弾丸が直撃。

固定されていた腕が動き出すと同時に縮み、ジオウも後ろへと転がった。

 

再びマッハが行うドライバー操作。

新たなシグナルバイクが、マッハドライバーに装填される。

 

「まだまだ行っちゃうよ!」

 

〈シグナルコウカン! キケーン!〉

 

放たれた一発の弾丸。それが突如巨大化し、巨大な銃弾の化物へ変化した。

鋭い目とギザギザ並ぶ歯の並ぶ口を得た銃弾がニヤリと笑う。

 

自身を目掛けてくるだろう、などと考えるまでもない。

ジオウが地面に手を滑らせると、そこに青い魔方陣が浮かび吹雪が立ち昇る。

突撃してくるキケーンな銃弾は吹雪の中に突撃して凍り出した。

 

動きが鈍り出したそれの突撃を横っ飛びに躱す。

と、同時。更にキケーンの頭上に黄色い魔方陣を展開して、重力場を発生させる。

 

増加する重力に自重が増して、地面に墜落するキケーン。

ジオウの腕捌きに従い、吹雪を吐き出す青い魔方陣もそちらへ向かった。

地面の上で氷漬けにされるキケーンの姿。

 

「へぇ、やるねぇ!」

 

「あとは―――! あれ、ビーストは……っ!?」

 

キケーンを処理してすぐ、マッハに視線を戻し―――

今この場のどこにもビーストがいないことに気付く。

その直後、ジオウは自身の胴体を腕ごと巻きつき縛っていく何かを感じた。

 

「しまっ……!」

 

「こっちだぞ、っと!」

 

〈カメレオ! GO! カカ・カ・カカ・カメレオ!!〉

 

声の方向を振り返れば、風景の中からビーストの姿が浮かび上がってくる。

その肩にはカメレオンの頭部を模したマント。

そこから更に舌が伸びて、ジオウの体に巻き付いていた。

 

思い切り引っ張られ、宙に舞う。

ビーストはその場でそのまま一回転して勢いをつけると、ジオウの拘束を解いた。

スイングされた勢いのままにすっ飛ぶジオウ。

彼の体が、自分で凍結させたキケーンの氷像へと叩き付けられる。

 

「づ、……!」

 

〈ドルフィ! GO! ド・ド・ド・ド・ドルフィ!!〉

 

ジオウを放り投げたビースト。

彼はすぐさまビーストリングを交換し、肩のマントを新たなものに変えた。

ドルフィンの頭部を模した、青いマント。

それをばさりと大きく翻して、彼は大きく跳び上がった。

 

「だっぱーん―――!!」

 

押し寄せる怒涛の海流。

激しく流れ込むそれは、ジオウの体を氷像に押しつけるような鉄砲水の如く。

ジオウ自身が維持しているブリザードの余波が、自分ごとその水流を氷結させていく。

 

氷を跳ね除けようと魔力の炎を出そうとして―――

しかし今、自分は凍ったキケーンを背にしていると思い出す。

 

「こん、のッ……!」

 

一瞬だけ迷い、しかし決断する。

だからと言って、大人しく氷漬けにされるわけにはいかない。

炎を自身に纏ってブリザードの影響下から脱出しようとし―――

 

四度、マッハがマッハドライバーのスイッチを押し込む動作を繰り返した。

 

〈トテモ! キケーン!〉

 

背後で凍っていたキケーンが巨大化する。当然の如く砕け散る氷塊。

吹雪に巻かれ弾け飛ぶ水流は、すぐさま空中で氷の礫になり降り注ぐ。

周囲の炎と氷を丸ごと粉砕するように、再始動したキケーンは暴走した。

 

無軌道に暴れ回るトテモキケーンが起こす修羅場。

ジオウもまた、その荒れ狂う氷の濁流に呑み込まれていった。

 

その光景を見ていたマッハが、流石に決着だろうと構えを解いた。

くるりとゼンリンシューターを一回転させながら、しかし完全に油断することはしない。

いつでも加速できるような状態で、一応氷地獄の様子を窺う。

 

「……さって、流石にこれまででしょ」

 

「―――上からくんぞ!!」

 

暴れ狂うトテモキケーンと氷の渦の中ではなく、頭上を見上げるビースト。

それに倣ってマッハが頭上を見上げてみれば、そこにウィザードアーマーはいた。

即座にそちらに銃口を向けながら、マッハが感心するよう声をあげる。

 

「なるほど、瞬間移動ね!」

 

〈ファルコ! GO! ファ・ファ・ファ・ファルコ!!〉

 

ビーストもマントを変え、その身を空に舞い上げた。

流石にダメージも限界なのか、既にジオウの動きは緩慢でさえある。

ジカンギレードにウィザードウォッチを装着し構えようとするが、遅い。

 

〈フィニッシュタイム!〉

 

「やらせるかって!」

 

ジオウが剣を振るうより、ビーストがジオウに届くより、マッハの銃撃こそが速い。

放たれる弾丸は回避の動作すら見せないジオウに直撃した。

連続して直撃し、盛大に火花を散らす。

 

―――そうして、その場からジオウの姿が消失する。

 

「あぁん!?」

 

空を翔けるビーストが止まる。

 

「っ!?」

 

ジオウを撃ち抜いたマッハが止まる。

 

そうして――――

 

〈ウィザード! ギリギリスラッシュ!!〉

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

疾風を呼び起こす緑の魔力。それが斬撃のかたちになって解き放たれる。

吹雪ごと氷の山を蹴散らし、それに留まらずトテモキケーンの巨体までも吹き飛ばす。

残る魔力を全て注いだ暴風が、マッハに向けて放たれていた。

 

「あっ、やべっ!」

 

ビーストが空に誘われたことを理解する。テレポートではなくただの分身(コピー)

空に自身と連動するだけの姿を出し、自分は氷の中に身を潜めた。

それをもって、剣持つビーストと銃持つマッハを完全に分断しにかかったのだ。

 

暴風とともに飛ばされてくる膨大な量の氷塊と、トテモキケーンの巨体。

更にその後ろから飛来する圧縮された風の刃。

それを完全に回避するには、既に反応が遅れすぎている。

 

「……なるほどね、ハメられたってわけか。

 けど俺は仮面ライダーマッハ! スピードこそ俺の真骨頂って奴なんでね―――!」

 

彼の姿が遅れながらも動き出した。

走り出しながら即座にシグナルバイクをシグナルマッハに変更する。

そして彼の拳がドライバーを四度連続して叩いてみせた。

マッハドライバーに灯る炎が、一気に勢いを増す。

 

〈ズーット! マッハ!〉

 

マッハが限界まで加速する。シグナルマッハの能力が最大限発揮される。

今更動き出して、前から飛んでくるキケーンも氷塊も風の刃も躱す道があるとするならば。

それは、この軌道しか有り得ない―――

 

一瞬でトップスピードに乗って、そのまま()()する。

その勢いを全て載せたままに体を後ろに倒し、スライディングの姿勢。

地面を削り取りながらの荒々しい滑走で、飛来物が全て後ろに流れていく様を見る。

 

「これで……!」

 

風の刃が通り過ぎたのを知覚して、僅かに首を持ち上げる。

その目の前には最後の逆転に失敗したジオウがいるはずで―――

 

「……これで、いける気がする――――!」

 

〈フィニッシュタイム!〉

 

しかし、そこにいたのは最後の逆転劇を今まさに実行しようとしているジオウだった。

魔力は底を尽き、既にウィザードアーマーは消失している。

アーマーを纏わぬジオウは、そのままジクウドライバーを一転させて駆けた。

 

〈タイムブレーク!!〉

 

跳ぶ間も惜しい、とばかりの助走からの飛び蹴り。

だが確かに、この姿勢ではマッハの回避はどうしようもなく間に合わない。

それでもしかし、スピードスターがこのまま負けてたまるものか。

 

「このまま、みすみす負けらんないでしょ―――!」

 

マッハドライバーを開く。

シグナルマッハが弾き出され、すぐさま別のシグナルバイクをランディングする。

ズーットマッハの発動中のシグナルコウカン。その反動がマッハの全身を軋ませた。

が、そこにまた無理を押し通す。

 

ドライバーを閉じて、イグナイターを四連続で押し込んだ。

すぐさま全力で効果を発揮しようとするシグナルバイク。

彼はそのパワーを全てゼンリンシューターから、弾丸と成して撃発した。

 

〈イマスグ! トマーレ!〉

 

スライディングとキックで互いに接近しあう両者に、それほどの距離は無い。

だがジオウのキックが届く前に、マッハの射撃が彼に届いていた。

“STOP”の標識を浮かべて、空中に静止するジオウの姿。

 

それを見届けたマッハが、完全に勝ち誇った。

滑りながらそのまま体を起こし、体勢を立て直すマッハ。

そのままジオウに勝利を宣言しようとし―――

 

「悪くなかったけど、それでも俺の方が―――」

 

()()()。アンタならこうなった時、()()で止めるだろうと思ってた。

 でもこれじゃあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

空中に跳び蹴りの姿勢で固まるジオウが言う。

何を、と問い返す前に。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

マッハを取り囲む12の“キック”の文字。

それがジオウの攻撃の予兆であることには疑いなく、そして――――

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

一つずつマッハを中心として時計回りに消えていく“キック”の文字。

 

「な―――ッ!?」

 

気付いたその瞬間には、最後の“キック”の文字。

ジオウから見て0時方向。マッハの背後に残されたそれが、()()()()()()()()()()()()()

 

「おわっ……!?」

 

マッハの背中に“キック”が追突する。

それは、ジオウの足裏に刻まれた“キック”の文字を目掛けて飛んでいくものだ。

背中に追突したそれの勢いに、ジオウに向かって体を持っていかれる。

 

「ま、じかよッ……! ああ、くそ!」

 

マッハがその位置からどれだけ足掻こうと、まるで背中から外れない。

既にマッハドライバーもシグナルバイクも限界まで酷使した。

これ以上のパワーはどうやっても出てこない。

 

そして“キック”の勢いは一切緩まない。

マッハごとジオウの場所まで軽々と持っていくパワーを発揮してみせる。

そうして彼の体が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

迸る足に溜め込まれたエネルギー。

ジオウウォッチもまたその力を振り絞り、接触したマッハを粉砕するだけの力を発揮する。

限度を超えた破壊力の負荷を浴び、マッハが爆炎に包まれた。

 

光となって消えていくマッハの姿。

彼はカードという二次元空間に封印されたエネルギーに還り、ディエンドの元に戻っていく。

 

停止から解放されたジオウが蹴りの姿勢を崩して着地する。

その光景を見て、すぐさま次の行動に移った。

 

「……マッハは、自分がドライブより強いって言ってた。ってことは……」

 

過剰ダメージによって一時機能停止しているドライブウォッチを取り出す。

そこに反応して輝くドライブのウォッチ。

ドライブウォッチから分かれて落ちるように、一つの白と黒のウォッチが生成されていく。

 

「―――当たり。ドライブの中のライダー……!」

 

マッハを撃破してもなお、その場に留まっているジオウ。

そんな彼を空中から見下ろしながら、ビーストは頭を掻く。

 

「あー、負けちまった……んー、まあ悩んでても仕方ねえ。うし、俺も行くか!」

 

だが、ジオウの戦力はもうほぼ無いだろう。

アーマーのためのライドウォッチはどちらも一時的に機能を停止。

挙句、ジオウライドウォッチとて最早限界のはずだ。

重なったダメージに、必殺技のためのエネルギー。既に限界まで絞り出しているはず。

 

「ピンチはチャンス! 引っ繰り返されたなら、もういっぺん引っ繰り返せばこっち側っと!」

 

ファルコマントを翻し、ビーストは眼下のジオウへと加速した。

急降下しながらビーストリングをドライバーに接触させ、魔力を解放。

自身にライオンの頭部を模した黄金の魔力を纏う。

 

〈キックストライク! ファルコMIX!!〉

 

「はぁあああ――――ッ!!」

 

そこに更に隼の頭部が重なり、黄金と橙の魔力が螺旋を描く。

隼の如く空から急襲する獅子の狩り。

未だ動きのないジオウに迫る、その一撃を―――

 

「ずっとこっちがピンチだったんだから、もうちょっとこっち側でいいでしょ?」

 

〈フィニッシュタイム! スレスレシューティング!!〉

 

振り向きざまに、マッハのウォッチをつけたジュウモードのギレードで迎え撃つ。

急襲するビーストに向けて放たれる光弾。

それは彼に着弾すると、“STOP”と描かれた標識を浮かべて彼を空中に静止させた。

 

「うぉおおうっ!? ―――げ!?」

 

撃ち終わった後、すぐに外したマッハのウォッチを放り投げる。

次に手に取るのは、ビーストのウォッチ。それを再び、ジカンギレードへと装填する。

渦巻く黄金の魔力を滾らせる銃口。

 

〈フィニッシュタイム!〉

 

「悪いけど、こんなところで負けてらんないんだよね……!」

 

銃口に集う黄金の魔力が、ビーストキマイラの形状を構成していく。

キマイラ状の魔力の塊を前に、停止しているビーストが仕方なさそうに声をあげた。

 

「あーあー……みなまで言うな。ただ一つ言っとくぞ!

 明日のことばっか考えてる奴は、今日の飯が美味いことにも気づかないもんだ。

 今日は今日をちゃーんと生きて、そっから明日のことを考えるんだな!

 よし、話は終わり! どーんと来い!」

 

「んじゃ行くよ!」

 

〈スレスレシューティング!!〉

 

野獣の咆哮が轟き、キマイラの形をした魔力が解き放たれる。

空中で逃れることもできないビーストはそれに呑まれ、消え去っていった。

 

何とか二人のライダーを撃破したジオウが、ギレードを取り落とす。

既にジオウも限界なのには変わりない。

だが、だからといってここで寝転んでいるわけにはいかない。

 

「あとは……あのディエンドって奴を……!」

 

重い体を引きずってでも、元の場所に戻るために歩き出す。

ふらつきだした意識を気合で維持して、何とか目的の場所へ。

 

 

 

 

「おや」

 

カードホルダーに二人のライダーのカードが回収される。

どうやら、ジオウの足止めも失敗してしまったらしい。

 

やれやれ、と一つ溜め息。

 

「仕方ない。一回出直すとしようか」

 

「逃がさぬと言ったはずだぞ―――!」

 

炎の襲来に、ディエンドが大きく後ろに跳ぶ。

直前までいた場所に灼熱の軌跡を描く、ネロの揮う炎の剣。

 

着地した彼の手はホルダーに伸びて、その中からカードを一枚引き抜いていた。

 

「逃げる? 僕は君たちを相手にする気なんて最初からないだけさ。

 そういうわけで僕はこの劇場、途中退場させてもらうよ。音痴な皇帝さん」

 

「誰が音痴か―――!」

 

再び炎の剣閃がディエンドに迫る。

それが届くより速く、彼はディエンドライバーにカードという名の弾丸を込め終えていた。

グリップをスライドすれば、そのカード内のエネルギーが解放される。

 

〈アタックライド! バリア!〉

 

彼が突き出した銃口から、青い光の壁が展開する。

斬りかかるネロの一撃を受け止めてみせる障壁。

 

刀身から弾け飛ぶ火の粉に目を細めるネロの目の前で、ディエンドが軽く腕を振るう。

すると彼の背後に()()()()()()()()()()が出現した。

 

「君たちの持ってるお宝を頂くのはまた今度にするよ。

 おっと、それと魔王にもよろしく言っておいてくれたまえ」

 

「なにを――――!」

 

カーテンがそのままスライドし、ディエンドの姿を呑み込んだ。

次の瞬間には、彼の姿は黄金劇場のどこにも残されていなかった。

ネロが目を見開いて周囲を見回す。

 

「馬鹿な……! 余の黄金劇場(ドムス・アウレア)から余の許しなく出ることなど……!?」

 

だが自分の腹の中とさえ言えるこの劇場の中、彼女がどれだけ探ろうとディエンドはいない。

口惜し気に唇を噛んだネロが、はっと何かに気づいて振り返る。

 

「………ソウゴが魔力の限界か。しまったな、余の宝具の分まで無理をさせた」

 

最後に一度だけもう一度劇場を見回して、彼女は自身の宝具を解除した。

 

 

 




 
仮面ライダーディエンドは『仮面ライダーディケイド』に登場するライダーなんだジオ~
共に助け合うディケイド自慢の仲間なんだジオ~
ディケイドとディエンドは互いに信頼しあう最高のパートナーなんだジオ~
 

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