Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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未・来・破・壊2009

 

 

 

木々を削り取りながら振るわれる戦斧。

木端でなど邪魔はされぬとばかりに振り抜かれるそれは、障害物などものともしない。

一度当たれば致命だろうそれを、ランサーはその体捌きで潜り抜ける。

 

「グガガガガガ―――ッ!!」

 

躱される攻撃に苛立つかのように、エイリークが大上段に戦斧を担ぐ。

構えるや否や、即座に振り抜かれる兜割り。

自身の頭上から降り下ろされるそれを、彼はその手の槍で横へ流すようにいなしてみせた。

直後、ランサーの体がエイリークの至近まで滑り込む。

 

瞬間、迸る呪力の渦。

必殺の前兆。朱槍は呪詛の嵐を噴き上げて、ランサーが僅かに腰を落とす。

エイリークの表情が明らかに変わる。

理性などなくとも必殺の一撃にそうなったのか。あるいは、呪詛ゆえに反応したのか。

 

どちらにせよ、ランサーの一撃は滞りなく放たれる―――

 

「“刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”――――!!」

 

そうして、彼の槍がエイリークの心臓を穿つ。

 

直前に、エイリークの姿はその場から完全に消失していた。

空ぶる槍を引き戻して軽く回すランサー。

宝具が先に発動しさえしていれば、その後に逃げられても仕留められていたのだが……

どうやら相手の方が一瞬、撤退を決めこむのが速かったらしい。

 

「……呼び戻したか。つーことは、あいつは聖杯持ちの管理下にあるわけだ。

 その割にはこの戦い自体、何の考えも無しの突撃に見えたが……」

 

だというのに、撤退のタイミングは見極めていた。

戦場を監視されている気配はまったくない。

つまり、バーサーカーであるエイリークと繋がるパス頼りの監視のはずだ。

 

ゲイ・ボルクの発動の前兆。

そこでエイリークが発した何らかの感情を読み取り、撤退を即断させた。

 

豪放でありながら勝負勘に優れた立ち回り。

勝つ時は大きく勝ち、負ける時にも上手く負ける。

きっちりとした勝敗をつけるのが面倒なタイプの可能性が高い。

 

「なによ……逃がしたの?」

 

「あん?」

 

攻め込んできていたヴァイキングの相手をしていたオルタ。

彼女も戦闘を終えてランサーの方へ寄ってくる。

ちらりと彼女の背後を見れば、炎に包まれたヴァイキングが粒子に還っていく姿が見えた。

 

「……船員どもはサーヴァントの宝具でもねぇのか。だとすりゃどっから湧いてきたんだ?」

 

宝具というわけではない。だが、この世界に取り残された人間でもない。

だとすると……

 

「偉大なるエイリークがなんたら、ってずっと繰り返してるんだもの。

 ホント、鬱陶しいったらなかったわ」

 

「……海上にあいつが召喚されたせいで連鎖召喚された“ヴァイキング”の概念ってとこか」

 

「血斧王エイリークが海上にいる以上ヴァイキングの船員もそばにいるべきだ、って?

 どんだけ海の上が好きな人間の世界なのよ、この特異点は」

 

呆れるように溜め息を吐くオルタ。

さぁな、と肩を竦めて戦闘中に離れた距離を帰還するために走り出すランサー。

オルタもまた彼に続くように焦って走り出した。

 

 

 

 

ランサーたちがマスターの位置を感知しながら辿り着いた場所。

そこは、彼らが上陸した岸から島のちょうど反対側に位置する浜であった。

更にここには船が一隻乗り捨てられている様子。

エイリークたちはもしや、この船に乗ってここまで来たのかもしれない。

 

少し前。

立香たちはネロがディエンドと戦闘に入るため、とにかくその場から離れた。

ドレイクもだが、立香やオルガマリーという戦闘力に欠ける彼女たちを守る都合上、奇襲を受けかねない森の中ではなく、とにかく視界の開けた空間を確保したいという狙いもあった。

そこを孔明が一時的にでも工房化することが、最も守護に適した備えだという判断だ。

 

結果として彼女たちは海岸に辿り着いていた。

 

そこをエルメロイ二世の手によりある程度工房、前線基地と化して―――

しかし。その頃には、完全に戦闘が終了していた。

 

ネロの肩を借りながら歩くソウゴと、ランサーたちの帰還。

敵の襲撃を受けることはなく、それを出迎えることになる立香たち。

 

「疲れた……」

 

到着するや、砂浜の上で寝転がるソウゴ。

ほっとした様子で立香がエルメロイ二世を見ると、彼は小さく肯いた。

戦闘を想定した結界を停止し、警戒のための結界だけを起動した状態に。

 

立香が歩き出しながら、ネロへ問う。

 

「あの青い仮面ライダーは?」

 

「すまぬ、完全に逃げられた。それもどうやって逃げたのかさえもさっぱりだ」

 

むむむ、と。顔を顰めながらの答え。

何とも言えない、と口を噤むネロに皆で顔を見合わせる。

ネロの宝具“招き蕩う黄金劇場(アエウストゥス・ドムス・アウレア)”の中にある以上、彼女が“逃がさぬ”と言えばまず逃げられないはず。

だというのに、こうも易々と逃げおおせるとは。

 

『やあやあ、新しい仮面ライダーが出たんだって?

 アナザーライダーではなく仮面ライダー、っていうなら中々非常事態じゃないかい?』

 

『レオナルド……工房から出てきていきなりそれかい?』

 

そんな中で、通信先からダ・ヴィンチちゃんの声が聞こえてくる。

隣からはロマニの呆れたような声を聞こえてきた。

 

寝転がったままそれを聞いていたソウゴが、小さく呟く。

 

「あいつも俺のことをオーマジオウって呼んでた。

 ウォズともスウォルツとも仲間じゃないみたいだけど、また別の……」

 

『彼は仮面ライダーディエンド、海東大樹。

 数多の世界を巡り、その世界の中で価値の高い存在……“お宝”を集めて回る存在さ』

 

通信の先。ダ・ヴィンチちゃんの更に後ろから、ウォズの声がする。

予想外のところからの声に、皆できょとんとした。

 

「あれ、ウォズ。今回はそっち?」

 

『彼の出現は私にとっても少々予定外でね。

 そちらの時代に行く前にやっておかなければならない事ができてしまったのさ。

 君が新たな力を継承するまでにはそちらに行くので安心してくれていい』

 

「別にそんな心配はしてないけど……」

 

そんなことより、と。立香が通信先のウォズに対し問いかける。

 

「数多の世界を巡り、っていうと……?」

 

『彼は時空間を私やスウォルツのように移動できると思ってもらえればいい。

 そしていま君たちが彼と交戦した事から分かるように、彼は我が魔王の味方じゃない。

 スウォルツと同じようなものと思って、敵として対応してくれて構わないよ』

 

「はぁ……」

 

そもそもなんで出来るの、なんて訊いても答えてはくれないのだろうけど。

 

そんな中で背後から、ずさぁっ、と砂を巻き上げる音がする。

振り向いてみると、そこにはドレイクが立っていた。

彼女がこの場に乗り捨てられた船の上から飛び降りてきた音だったようだ。

 

「どうしたの?」

 

「あの斧男の方はヴァイキングだったんだろう?

 だったらこれがあるはずだと思ってね!」

 

そう言って彼女は手にしていた本。海図を広げてみせた。

真新しい紙に真新しいインク。それが描かれたばかりの海図だというのが分かる。

マシュがそれに驚いたように目を見開く。

 

「海図……バーサーカーである血斧王が、ですか?」

 

あるいは亡霊のようなヴァイキングたちが、かもしれないが。

それにしても理性が消失しているとしか思えない連中だったというのに。

海図を残すような航海をしているとは、驚き以外になかった。

 

「バーサーカーだろうが何だろうが、海に出た奴は海のルールに従うもんさ。

 ヴァイキングは航海する際にはあらゆるものを文字と絵で残すもの。

 間違いなく、この辺り一帯をあいつらが航海した時の海図だろうさ」

 

その本を抱え直し、ドレイクは笑った。

 

「どうせ話も長くなるんだろう? だったら船に乗ってからにしな。

 この海図を見る限り、こっから北西にも島があるからね。

 ここで立ち止まって話すより、そこに船で向かいながらの方がいいだろう?」

 

オルタがそれを聞いて、クー・フーリンに顔を向ける。

エイリークの船の出航した場所、というならそこが彼のマスターがいるはずの場所だ。

恐らく彼のマスターは聖杯の持ち主。この特異点の中心ということになるだろう。

 

「そこが敵の本拠地の可能性が高い、ってわけだな。ただ………ちと怪しいな」

 

「怪しい? 何がかしら」

 

僅かに目を細めたランサーに、オルガマリーが問い掛ける。

この特異点。つまり、七つの海のパッチワーク。地球上全ての融合海域。

そんな世界を作った聖杯の持ち主が、陸に拠点を置くだろうか。

いや。陸に拠点はもっているだろうが……それを本拠地とするだろうか。

 

「相手からは海上を世界の中心にしたいとすら感じる。

 だってのに島の上で大人しく生活する連中か、って話さ」

 

「――――それは、確かに……

 ただ海賊やヴァイキングだって別に海だけで生きているわけじゃ……」

 

思考に落ちていくオルガマリー。

船にいったん戻ろうという話なので、立香はオルタに彼女を任せたとアイコンタクトする。

メンドくさ、と言わんばかりの表情でオルタが彼女を突っついた。

 

すぐさま正気に戻った彼女を回収し、船へと帰還を始める。

その道中で、小さくネロが呟く。

 

「己の財も名誉も、全てを一隻の船に詰め込んで。果てる時には全ては船とともに水底へ。

 恐らく、そやつは世界の終焉も良しとするのだろう。……少し違うか。

 世界が終わるにしろ続くにしろ、常に自分がやりたい事だけを見ているのだ。

 ちょうどあのディエンドなる奴と同じようにな。

 余も似たところがあるゆえに、こういう風に感じるのやもしれんがな」

 

「それでもネロは、世界が続くようにって戦ったじゃん。

 自分が終わったあとにも、世界が続くことに希望を持てたなら―――

 それは紛れもなく、ネロが世界を愛していたってことなんじゃない?」

 

彼女の呟きを拾い、ソウゴがそう口にする。

彼の口から愛なんて言葉が出たことにきょとんとして、ネロは笑った。

 

「うむ。余ほど愛が深いものはそうそういないと自負している」

 

 

 

 

この街を訪れた時、彼に与えられた家の中に入る。

現代人としてこの生活水準の低さはどうかと思うが、住めば都。

まあ慣れればどうとでもなるものだ。

 

そうしていつも通り家に入れば、背後から声がする。

いつの間にか家に忍び込んでいたようだ。

 

「今の君は、突然この街に現れた偏屈な芸術家、らしいね?」

 

背後に視線をやれば、コートの男が本を片手に話しかけてきている。

だが、彼の視線は自分よりも本に向かっているようだ。

なので大きく手を伸ばして、そいつから本を引っ手繰ってやった。

 

本を奪われ、眉を顰めさせる男―――ウォズ。

 

「人に話しかける時は相手の目を見ろ。親に教わらなかったのか?」

 

奪い取った本で相手を指しながら、からかうように言ってやる。

するとウォズのマフラーがまるで蛇のように波打って、掴んでいた本へと向かってくる。

それは本へと巻き付いて、力尽くで奪い返していった。

 

「人の物を盗ってはいけない。親に教わらなかったのかい?」

 

「俺にはそんな覚えはないな」

 

さっさと彼に背中を向け、家の奥へと入っていく。

改めて本を開いたウォズは、こちらの背中へと声をかけてくる。

その第一声こそ。

 

「今、仮面ライダーディエンドが暴れているのだが……」

 

家の奥に向かおうとした足が止まる。

意図せず、自然と大きな溜め息を吐き落とす。

 

「……そんなこと俺が知るか。俺はあいつの保護者でもなんでもない。

 ――――それともアイツを倒すのにこいつが欲しい、って話か?」

 

そう言って彼は自分のライドウォッチを取り出す。

通常のものとは違い、横長の特徴的な形状をしたライドウォッチだ。

それをぷらぷらと振り回しながら、ウォズへと視線を送る。

彼は静かに息を吐くと、視線を外へと向けた。

 

「―――残念ながら今の我が魔王の力は発展途上。

 面倒なことに、仮面ライダーディエンドを跳ね除けるにはまだ力が足りない。

 そうなれば、我が魔王がここ―――()()()2()6()5()5()()()()()に辿り着くことも遅れる。

 それは君だって本意じゃないだろう?」

 

家の外に広がる活気ある街並み。

彼は此処こそが、紀元前の都市国家ウルクであると語る。

小さく鼻を鳴らして、彼は言い返す。

 

「言っておくが、俺は魔王とやらのためにここにいるわけじゃない」

 

「だが、この世界での君の旅路は我が魔王の到着とともに始まる」

 

ウォズの言葉に肩を竦め、椅子にどかりと腰かける。

取り出したウォッチを眺めるように持ち上げて、指で軽く叩きながらの思考。

数秒後には、彼は小さく笑みを浮かべていた。

 

「分かった、いいだろう。そこまで言うならやってやる。

 このウォッチとやらも魔王に必要だというならくれてやるさ。

 ただし俺がやることは海東の奴を誘き寄せることだけだ、そっから先は俺は知らん」

 

そう言うとウォズも小さく笑う。

 

「もちろん、それで構わない。

 ディエンドさえ排除できれば、特異点の攻略は進められるのだから。

 そして特異点を攻略し成長した後ならば、この程度のことに煩わされはしないのだから」

 

ウォズの姿があっさりとこの時代から消える。

それなりに切羽詰っているのだろう。

まあ、元から存在する敵に加えディエンドを相手にするのだ、仕方あるまい。

 

「仕方ない、俺も動くとするか。―――ただし、俺のやり方でな」

 

懐からマゼンタカラーのドライバーを取り出し、彼は小さく微笑んでみせた。

 

 

 

 

『おおっ、この島には召喚サークルが設置できる霊脈ポイントがあるぞ!』

 

新たな島に上陸する頃、ロマニはそう言って声を弾ませた。

ジャンヌがはて、と首を傾げながら周囲を見回す。

 

「サーヴァントの反応は……ありませんね? 敵の本拠地という感じではなさそうです」

 

「そもそも面積が少ない地上に、上質な霊脈。ふむ……

 まあ問題はさておき。私も陣の再構成のために霊脈に一時待機させてもらいたい」

 

「うむうむ! そしてあれだな? あれが出るのだな?

 余は乗りたい! 乗りたーい!」

 

「だってさ、所長」

 

ネロを所長に丸投げするソウゴ。

こいつっ…! とオルガマリーが彼を睨みつけるが、さっさとふらつきだした。

ネロが尻尾を振る犬の如く、オルガマリーの周囲に纏わりつく。

 

「……あれを召喚するための陣はマシュが設置するのよ」

 

仕方ないので、彼女はネロをマシュへと丸投げした。

ぎょっとするマシュに向け、ネロが纏わりつき始める。

 

そんな彼女を見ていたジャンヌが、不思議そうにオルタの方を見た。

 

「オルタも言わなくていいんですか? 乗りたいって」

 

「―――別に乗りたくないって言ってんでしょ!」

 

そんなやり取りを聞いていたドレイクが首を傾げ、ネロに問う。

 

「乗るだの乗らないだの、一体何の話だい?」

 

「ふふふ、楽しみにしておくがいいキャプテン。

 必ずやそなたの度胆を抜く、凄まじい船を見せてやろうではないか!」

 

そんな皆の様子を笑いながら、立香がマシュを伴って霊脈を辿り出す。

ロマニの誘導がなくとも、エルメロイ二世の観測があればこの程度は余裕だ。

少し歩いてみれば、あっさりと召喚サークルが設置できる場所に到着した。

 

「では、召喚サークルを設置します」

 

「ええ。設置が終了しだい………タイムマジーンを含む物資を転送して」

 

期待に輝くネロの表情に顔を引き攣らせながら、オルガマリーはそう言った。

もちろん、通信先にいるロマニに対する言葉だ。

だが、その言葉に対する答えは返ってこない。

眉を吊り上げながら、オルガマリーはもう一度カルデアに呼びかける。

 

「ロマニ? 聞いているの、ロマニ!?」

 

声を荒げて何度もロマニに呼びかける。

しかしまったく返事はなく、それどころか通信機器はノイズを吐き始めた。

 

それを聞いて、エルメロイ二世が眉間に皺を寄せる。

 

「――――通信途絶、か。……これは結界だな。

 他所の結界の内部と化したせいで、私の陣の再構成も思うようにはいかん」

 

「島ごと、だな。どうやら獲物を逃がさねぇ、ってタイプらしい。

 広範囲の分、俺たちサーヴァントに大した効果はねえだろうが……多分、船も出れねえな」

 

空を見上げてそう判断するランサー。

ソウゴがジャンヌの方を見ると、彼女は首を横に振った。

サーヴァントの反応は変わらず感知できないらしい。

 

「今まではドレイクの聖杯が近くにあったし大丈夫だったんだよね。

 それより強い力ってこと?」

 

「そうとは限らないわ……

 例えドレイクが近くにいても、ネロやロード・エルメロイ二世の宝具―――

 ああいった結界宝具に捕まれば、通信は不可能だもの。

 つまりこの島がああいった“閉じ込める”事に特化した宝具に閉ざされたと考えられるわ」

 

「余の宝具は芸術なりを鑑賞するためのもので、閉じ込めるためのものではないのだが」

 

立香の問いをオルガマリーは否定する。

その物言いにドレイクが頭を掻いて、彼女に対して問いかけた。

 

「つまりどういうことだい?」

 

「この島に私たちを閉じ込めようとする何者かがいる。

 そして恐らくは、そいつの狙いはキャプテン・ドレイク。貴女の持つ聖杯です」

 

「アタシたちがこうして島に乗り込んだところを見計らってネズミ捕りかい?

 ご苦労なこったねぇ……」

 

溜め息を落とすドレイクに、マシュが緊張するように周囲を見回した。

 

「サーヴァント反応がない、ということは仮面ライダー……ディエンドでしょうか?」

 

「そうと確信するには早い。ルーラーの感知を潜り抜けるサーヴァントがいないとは限らん。

 まして、こうして張られた結界の中なら猶更な」

 

そう言いながらエルメロイ二世は膝を落とし、レイポイントに手を添えた。

霊脈の流れを感知するかのように、そのまま意識を没頭していく。

ここまで広範囲の結界ならば、中心にはそれなりに歪みが生じるはずだ。

内から外に出さない結界という構成ならば、そこに食われた霊脈のどこかで断線が発生する―――

 

「――――あそこか」

 

立ち上がった彼は立香たちを見て、そのまますぐに歩き出した。

全員でその後についていく。

 

そのまま数分の道程を歩くと、小山に大きく開いた横穴に辿り着いた。

一歩その場に踏み込んでみれば、一気に山肌の光景は消え去った。

 

「これは……迷宮、ですか?」

 

「へえ、こりゃいい! お宝でもありそうな雰囲気じゃないか!」

 

一面に広がる、特徴のない白い壁の連続。

踏み込んだものを逃がさないため、迷わせるための秩序染みた無個性な背景。

その光景を見たエルメロイ二世が小さく息を呑んだ。

 

そんな様子に、オルガマリーが訝し気な表情で彼を見上げる。

 

「……どうかしたのかしら」

 

「―――いや。大したことじゃない。

 いつぞや、ミノタウロスの迷宮(ラビリンス)を講義の題材として使った事を思い出しただけだ」

 

「へー、講義ってどんな?」

 

立香が楽し気に彼に問いを重ねた。

小さく息を吐いた彼は、その話を掻い摘んで彼女へ話す。

 

「迷宮とは宝探しの場ではない。

 その道程を進む者から余分な感覚を削ぎ落し、自己を再認させるための儀礼だという話だ。

 そして迷宮最奥で待つミノタウロスもまた、ただのクリーチャーではない。

 怪物とは、迷宮の進行という儀礼を終えた者を死なせる()()()()()()()に他ならない」

 

「死なせる?」

 

「ああ……迷宮最奥で怪物の手にかかり死んだ者。

 そうなった―――と仮定された存在は、歩んできた迷宮を逆に出口に向かい辿り直す。

 それはそれまでの道程で、先に削ぎ落したものを拾い直す行為だ。

 こうして迷宮を脱した者は、一度死して生き返る事で再生した新しい命になった。

 迷宮とは過去、そういう儀礼の場として生み出された……」

 

語るエルメロイ二世の長髪が、ばさりと()()()()()

風など微塵もないはずの地下空間で、突然発生した突風。

それに表情を変えた彼が、直後に別の理由で表情を一気に険しくした。

 

即座に振り返る。

 

「――――マスター!?」

 

マシュの悲鳴。理由は分かる。

オルガマリーとオルタが、戸惑うような顔で周囲を見回す。

 

だがそれ以外のサーヴァントの表情は既に最大級の危機だと理解していた。

マシュもジャンヌも自分も、恐らくクー・フーリンもネロも。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

マスターとの繋がりの喪失を感知できないのはオルタだけであり―――

しかし次の瞬間、オルガマリーも膝を落とした。

彼女自身も驚いたような、性能の低下。ゴースト眼魂の出力喪失。

 

ロマニより一応内容を聞いていたオルタが、それで状況を理解した。

ソウゴ、そして立香もだろう。その二人のこの空間からの完全な消失。

 

―――彼女の機能停止寸前、というところで。

空間に、銀色の波紋が流れるように広がっていく。

 

まるでそこにゴーストの力を保てる何かが存在するかのように、オルガマリーの停止は訪れない。

だが明らかに力が入らない状態に、彼女が歯噛みした。

 

迷宮最奥(どんづまり)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()―――か。

 なるほど、面白い話を聞かせてもらった。

 だが俺にはどうやら関係ない話のようだ……生憎俺は、ただ破壊するだけなんでな」

 

銀色の中から声がする。

総員が戦闘態勢に入り、銀色のカーテンの中で揺らめく相手の登場を待ち受ける。

その中から歩み出てきたのは、明らかに仮面ライダーらしき姿であった。

 

金色のボディアーマー。二本の角に、赤い複眼。

徒手空拳で戦うらしき彼は、ゆったりと腰を落とし構えを取る。

相手の攻めを待ち、完璧に迎え撃つための姿勢。これこそがこの姿の真骨頂なのだから。

 

 

 

 

「な、に、これ……!」

 

立香とソウゴは突然現れ、迫ってきた銀色の壁に呑み込まれていた。

それが晴れたかと思えば、一面の荒野。目の前には巨大な石像が建っている。

十九体のライダーの石像。

 

彼らに分かる顔は、ウィザードとドライブの二人だけだが―――

それでも、それが仮面ライダーなのだと直感できた。

 

その石像たちの中心には、もう一つの石像がある。

―――それは、今より歳を重ねているが間違いない。ソウゴの像であった。

 

“常磐ソウゴ初変身の像”

そう銘打たれた石像が、ライダーたちの中心に据えられている。

 

そしてその場には、一人。

黄金のライダーがこちらに背を向けて立っていた。

ソウゴは、その姿を前に自分の鼓動が激しくなっていく事を感じている。

それが何故なのかまだ分からない。だが、あの姿を見ると―――

 

立香がその背中を見て、自然と感じた名前を呼ぶ。

 

「ソウ、ゴ?」

 

その声に反応してか、彼はゆっくりと振り返った。

黄金と黒に染まった装甲。赤く燃える“ライダー”と名を示す眼光。

姿形は変わっているが、それは間違いなくジオウであった。

それは間違いなく――――常磐ソウゴであった。

 

「………迷い込んだか、あるいは迷い込まされたか。

 どちらにせよ――――王となった己の未来の姿を見に来たか」

 

振り返った炎の如きその顔が、ソウゴを正面から見つめる。

それを必死に睨み返す。拳を握りしめ、歯を食い縛る。

分からない。何故だかさっぱり分からないけれど―――

 

「若き日の……私よ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 




 
第七特異点担当ディケイド。
ウルクで突然現れた天才芸術家として活動中。そこそこ楽しんでいる模様。
作品を上納された王様は「何だこのピンク一色で気色の悪い前衛芸術は!? 5000年早いわ!」と絶賛した。
 

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