Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「未来の―――俺……?」
突然投げ出された世界の中、立ち誇る黄金のジオウ。
それを見ていたソウゴが周囲を見回す。辺り一面に広がる何もない荒野を。
これが自分が治める世界だというのか、と。
自分の奥から湧き出る突き動かされるような感覚に、咄嗟に彼は走り出していた。
未来の自分だと語る黄金のライダーに背を向けて。
「ソウゴ!?」
立香の声も耳に入らない。
ただ脇目も振らずに走る、走る、走る――――
どこに行けばいいのかも分からないのに、それを確かめなければいけないという焦燥のまま走る。
そんな彼の背を眺め、オーマジオウは小さく笑った。
「見たいか。己が創り出した時代と、そこに生きる民の姿を」
一瞬前まで何も持っていなかったはずの彼の手。
その中にいつの間にか、ライドウォッチが出現していた。
〈龍騎!〉
押し込まれたウォッチがその名を告げ、オーマジオウの背後に赤き龍が現れる。
無双龍ドラグレッダー。龍騎の力の象徴、彼が契約したミラーモンスター。
その龍は一度体をくねらせると、ソウゴを見据え加速した。
「ソウゴ!」
龍に迫られているソウゴの背中に、立香の悲鳴が飛ぶ。
だがそれでもソウゴは止まらない。何も彼の耳には届いていない。
ドラグレッダーがソウゴを囲い、そのまま円を描くように回転する。
衝撃が起こす突風が、土埃を含む竜巻と化した。
数秒後。竜巻が消えた先、その中にいたはずのソウゴの姿は完全に消えていた。
ドラグレッダーがオーマジオウの元に戻り、消え去っていく。
彼の手の中にあった、龍騎の名を呼んだライドウォッチもまた何処かへと消える。
そうしてその炎に燃えるような目が、今度は立香へと向けられた。
「……貴方が、オーマジオウ?」
立香の問いかけ。それに答えることなく、オーマジオウは天を仰ぐ。
まるで若き日の自分を追憶するように、万感の籠った響きの声。
「―――藤丸立香、か。私の記憶には無い名前だ。
もっとも……あの年頃でありながら戦っている記憶もまた、私には無い記憶だが」
そう言って彼は一度石像たちを振り返ると、そこから離れるように歩み出した。
そんな彼の独白に対し、彼に追い縋りながら立香は声をかける。
「貴方は未来のソウゴなのに?」
追い縋られたオーマジオウが、初めて立香を見るばかりでなく目を合わせた。
「……未来とは不確かなもの。そして、過去とは曖昧なもの。
確固たる真実があるとするならば、それはただ一つ。今を生きる、己の世界だけだ。
その真実から目を逸らすものには、未来も過去も等しく意味がない。
今を認めて、初めて過去と未来は意味を持つ。故に―――」
像があった場所から歩き、そうして開けた場所へと出てくる。
大きく開けた、また荒野。
あるいは既に風化して全て亡くなっているだけで、もしかしたら何かがあったはずなのか。
その一面の荒野に足を下ろして、彼は口にする。
「常磐ソウゴの時間に意味はない」
断固たる口振りで、彼は確信とともにその言葉を吐き出した。
その場でゆっくりと腕を掲げる彼の底にあるその感情が何なのか。
積み重ねてきた他のものがありすぎて、立香には見えてこない。
ただ、立香が理解できたのは。
常磐ソウゴという人間の英雄譚があるのなら、彼の姿こそがその終わりだということだ。
最後の最後、常磐ソウゴはきっと勝利する。だがその末路はきっと――――
いつか、そう言われていただろうか。
彼こそが、その結果としての姿なのだろうと。
立香はその姿に何を言えばいいか分からず、ただ口を噤んだ。
ソウゴが現れたのは、瓦礫の街並みの中であった。
動悸は最高潮まで跳ね上がっている。
すぐさま駆け出して周囲を見回せば、襤褸切れを纏った人たちが身を寄せ合っていた。
誰かが雨風を凌ぐため、崩れ落ちたビルの中に身を潜めている。
誰かが水を吐き出し続ける壊れた水道管らしきものから水を掬っている。
誰もが生きるために、死んだような目で何かをしている。
「――――――これ、が?」
その光景によろめいたソウゴ。
この景色が、常磐ソウゴという名の王が創った世界。
どこにも笑顔はなく、どこにも幸福はなく、どこにも生命の強さは感じない。
彼らは生きているのか死んでいるのか、そんな疑問さえも浮かぶ。
これが、ソウゴが創った世界。これが、ソウゴが望んだ―――
ソウゴの周囲が、一瞬暗くなる。
直後、彼らの生活の風景は目の前から消えていた。
代わりにソウゴの目の前には、黄金の鎧を纏った未来の己の姿があった。
あの光景を自分に見せたオーマジオウが、彼を前に宣言する。
「これこそが私が創り上げた―――そして、お前が創り上げる時代だ」
「ふざけるな! 俺は、こんな世界にするために王様になりたいんじゃない!!
こんな未来、俺は望んでない!! お前は俺じゃない!!!
俺は皆が幸せになれる世界を創る、最高の王様に――――!」
反射的に言い返した言葉に、オーマジオウはその仮面の下で小さく笑った。
これ以上はもう昇らないと思っていた血流が、一気に頭に昇っていく。
「そうだ。貴様の望み通り……私こそが、最高最善の―――王だ」
絶対の確信のもとに告げる言葉。
それとともに、黄金の王は拳を握ってみせた。
血液が沸騰するかのような、今まで感じた事のない嚇怒が湧き上がるのを感じる。
もはや何一つ目の前の相手を認められない。絶対に倒さねばならない。
ジクウドライバーを装着し、ライドウォッチを取り出し―――
余りの剣幕を見て、驚いたように立香が彼を止めようとした。
「ソウゴ、待っ……!」
「うるさい――――ッ!! どけェ―――――ッ!!!」
〈仮面ライダー! ジオウ!〉
彼女を振り払い、変身シーケンスを完了する。
押し返された彼女が尻餅をつく前で、ジオウがその場に誕生していた。
困惑する彼女の前で、ジカンギレードを手にしたジオウが走り出す。
「愚かな……」
対するオーマジオウは無手のまま、その攻撃を迎え撃った。
振るわれるギレードを腕でそのまま受け止める。
火花を散らし、しかしオーマジオウは何の痛痒も感じさせない。
連続して奔る剣閃。
それらを全て片腕で受け止めて、オーマジオウは一歩たりとも動くことすらしない。
「あんたを倒して……俺はこんな未来を変えてみせる―――ッ!!!」
ジオウライドウォッチをギレードに装填。
ジカンギレードの刀身が大量のエネルギーを得て、光を帯びる。
それを前にしてしかし、オーマジオウに動きはない。
即座に振り下ろされる刃。大上段からの斬り下ろし。
それを―――オーマジオウは、悠然と片手で掴み取ってみせた。
ジオウがその両手で握る柄にどれだけ力を籠めても、ギレードは動かない。
「ぐぅ……!!」
オーマジオウが空いた片手を僅かに上げた。
瞬間、襲い掛かってくる衝撃波。怒涛の如く押し寄せる力の奔流。
その一撃に呑み込まれ、ジオウの体が大きく背後に吹き飛ばされていた。
「ぐ、あぁ……っ!」
吹き飛ばしたジオウに向けて、残されたジカンギレードを放り投げるオーマジオウ。
倒れ伏すジオウの前に、その剣が乾いた音を立てて地面に落ちた。
どう見ても限界なソウゴに、立香が駆け寄ろうとして―――
しかし彼は限界など知らないとばかりに立ち上がり、新たなウォッチを手にしていた。
その手にあるのはウィザードウォッチ。
彼がそれを何度か押し込むが、しかしノイズが走るだけでウォッチは起動しない。
二人のライダーと戦ってから十数時間。まだ、魔力が回復していないのだろう。
「くっ……!」
その事実にソウゴが歯を食い縛る。
ウィザードウォッチが駄目ならば、ドライブウォッチも使用不可能だろう。
ならばどうする、と頭を回し始めるソウゴ。
それを見たオーマジオウが、自分の手の中にもウィザードウォッチを出現させる。
〈ウィザード!〉
オーマジオウの背後に出現する、先程のドラグレッダーとは違う竜の姿。
金銀と主体にしたカラーリングのドラゴン。仮面ライダーウィザードの力の根源。
―――ドラゴンファントム・ウィザードラゴン。
オーマジオウの力として出現したそれが、ジオウに向かって飛来する。
思わず身構えたジオウに、ドラゴンが衝突する―――
ことはなく、何故かその竜はジオウの周囲を飛行するだけ。
困惑しながら飛行するドラゴンを見上げるジオウ。
そうして、どこからともなく魔法を導く声が響く。
〈エンゲージ! プリーズ!〉
空を舞うウィザードラゴンの体が薄れ、消えていく。
息を呑んだソウゴが、自分の手にしているウィザードウォッチを見た。
ドラゴンの魔力が与えられ、ジオウの手にするウィザードウォッチが魔力を取り戻していく。
咄嗟にオーマジオウを睨みつける。
彼はただ、その場から動くことすらせずにジオウを見ていた。
「どうした。私を倒し、この未来を変えるのではなかったのか?」
「―――――ッ!!」
〈アーマータイム! ウィザード!〉
即座にウィザードの鎧を纏う。
魔方陣から構成されたその赤い鎧を纏い、ジオウは空へと飛び立った。
迷うことなくドライバーに伸ばす腕。
〈フィニッシュタイム! ウィザード!〉
ウォッチの出力を全開にし、その力を足裏に集中させる。
その力を現出させるためにジクウドライバーを回転させた。
〈ストライク! タイムブレーク!!〉
業火と化した魔力を纏い、ウィザードアーマーはオーマジオウに突撃する。
隕石さながら、天空から地上へと降る炎の塊と化すジオウ。
魔力を限界以上まで集中した、全力の蹴撃。
それは凄まじい熱量を撒き散らしながらオーマジオウに激突し―――
再び、彼はそれを片腕で掴んで止めていた。
ミシミシと悲鳴を上げるジオウの脚部。
それでもなお押し切ろうとどれだけ力を籠めようと、僅かばかりも動かない。
「くぅ……ッ!!!」
「無力が恨めしいか。だが、安心するがいい」
オーマジオウを包むように、黄金のオーラが球体状に展開する。
それが展開した彼自身から離れて、ジオウの姿を完全に包み込んだ。
必殺技を発動しているとは思えぬほどに、あっさりと打ち消されるウィザードの魔力。
「なっ、ぐぅううッ――――!!」
自分を捕えた黄金の空間の中、ジオウはもがこうと体を動かそうとする―――
が、まるで動かない。その内部にかかる超常的な圧力は、ジオウに行動の自由を与えない。
「お前もそう遠くないうちに、私と同じ力に至るだろう。
時空を越え、過去と未来をしろしめす時の王者―――この私、オーマジオウへとな」
空間が圧縮され、オーラの輝きが更に高まった。
―――直後、爆発。
圧縮された時空が決壊する衝撃。
その中に捕らわれていたジオウの姿が、投げ出されて地面を転がった。
一瞬のうちに限界を超えたジオウの装甲もウィザードアーマーも機能不全に。
そのまま当然のように変身は解除される。
「ソウゴ!」
今度こそ立香はソウゴへと駆け寄った。
倒れ伏したまま、立ち上がる事も出来ないソウゴ。
しかし彼はそれでも、地を這いずりながらオーマジオウを睨み据えている。
そんな彼の様子を見て、オーマジオウがソウゴへ向けて歩み出す。
咄嗟に立香がソウゴの前に立ち、彼を庇ってみせた。
その立香の行動に、少しだけ悩むような態度で彼はその歩みを止めた。
立ち止まって一度小さく空を見上げた彼が、再び倒れるソウゴへと視線を送る。
「―――そんなに私になりたくないのであれば、いい方法を教えてやろう」
彼はそれ以上ソウゴに歩み寄ることもなく、その場でその言葉を告げた。
「――――ベルトを捨てろ。そうすれば、お前が私になることはない」
ソウゴの視線が、変身解除とともに地面に転がったドライバーに向く。
拳を握りしめたソウゴはしかし、そのドライバーへと手を伸ばした。
「俺は……あんたになんかならない! それだけじゃない……!
世界を救って、皆が……幸せになれる世界を……!」
「世界を救うことなど、お前の隣にいる藤丸立香がいれば十分だ。目を逸らすな。
お前がドライバーを手にしたことにより、世界を救う旅路は過酷さを増したのだ」
ドライバーを掴んだソウゴの手が止まる。
立香が困惑の表情でオーマジオウを見返した。
「スウォルツも、奴の生み出すアナザーライダーも、全てお前が発端だ。
お前こそが、ライダーの歴史を特異点へと介入させる楔になっているのだ」
彼の態度や声色に嘘はない。
そもそも嘘を吐く必要性なんてどこにも存在しない。
ただ彼は現実として―――特異点の悪化は常磐ソウゴが原因だと断言した。
「いまお前がそのベルトを手放せば、仮面ライダーの歴史は目印を失う。
つまり、スウォルツではもうアナザーライダーを生み出すことはできなくなる。
特異点にライダーの歴史が浮かび上がるようなこともなくなるだろう」
オーマジオウが手を翳すと、そこに19個のライドウォッチが出現した。
宙に浮かぶウォッチの中で見知った顔は二つ。ウィザードとドライブのものだ。
彼が一度手を振るえば、そのウォッチの姿が全て消える。
「そうなれば、藤丸立香は英雄たちとともにこの事態を解決に導く。
そして……お前が否定したがるこの私の時代もまた、消え去ることになる。
お前が私を否定するのならば、それ以外にお前の未来はない。
何故ならば――――お前は、私なのだから」
オーマジオウがソウゴたちに手を向けた。
何も出来ずとも、と身構える立香。地を這い、オーマジオウを睨むソウゴ。
そんな二人の周囲に無数の時計が浮かび上がる。
全てがそれぞれの時間を刻んでいる、大量の時計たちに囲まれたのだ。
歯車が噛み合うように、時計の針が噛み合って回り出す。
時空の歪みが生じ、二人はその中に呑み込まれていく。
「常磐ソウゴよ。この光景をその目で見た今こそ選べ、我々自身の未来を―――」
その声が届いたのを最後に、ソウゴと立香は意識を失った。
朱槍が奔り肩の装甲を掠めていく。
火花を散らしながら一歩退いた彼は、続いてくる黒い炎の剣の雨に鼻を鳴らした。
隙間を縫うように回避していき、回避し切れないものは手刀で落とす。
そこに黒い炎の海の中にあって一際輝く真紅の炎。
ネロの振るう炎の剣が流星の如く殺到する。
剣群に対応していた彼の姿が、爆炎とともに奔る斬撃に見舞われた。
衝撃と炎を浴びて、黄金のボディアーマーから盛大に火花を撒き散らし蹈鞴を踏む。
灼けるような音とともにボディから立ち上る白煙に、小さく息を吐いた。
次いで、無数の鉛玉が彼を目掛けて飛来する。
ドレイクの銃弾。聖杯の力を浴びたそれが、確実にこちらにダメージを通しにくる。
射線から飛び退きつつ――――
仕方なし。腰のライドブッカー……カードホルダーからカードを抜き取った。
カードの端を指でとんとん叩きながら、もう片手でドライバーを操作。
開いたバックルの中へと、そのカードを装填する。
入れると同時、バックルを閉じる動作。
「流石に……素手じゃ分が悪いか」
〈フォームライド! アギト! ストーム!〉
黄金の鎧が青く染まっていく。
左腕もまた肩から先の形状と色が変化し、更にその手には一つの武装。
それが伸び、展開し、両端に刃を持つ薙刀状の武器へ変形する。
「っ、敵仮面ライダー、カードを使用しました……!
仮面ライダーディエンドと同じタイプの能力と見られます……!」
立香の安否に心を揺らすマシュが上げた声。
それを聞いて彼は内心溜め息を吐き捨てつつ、ストームハルバードを構えた。
初撃のために突撃してくるのは、決まって青い槍兵。
赤い魔槍を青い薙刀で迎え撃ち、そこで鍔迫り合いに入る。
「坊主たちをどっかに飛ばしたのもテメェの仕業か?」
「ああ、せっかくだからな。魔王を専用の
互いに弾き、引き戻した刃で打ち合う。盛大に後ろへ跳び合う二人の間。
ジャンヌが割り込み、その旗が全力で振り抜かれた。
ストームハルバードで受け、その場で踏み止まる。
「マスターとソウゴくんを返しなさい!」
「言っただろう? 魔王を入れるための迷宮だと。
さっきその男が言った通り、儀式が終われば勝手に生き返るさ」
水を向けられたエルメロイ二世が顔を顰めた。
既にここは別の結界の中枢。彼が陣として支配できる空間を逸脱している。
彼にできることは膝を落としたオルガマリーの防衛くらいだ。
「フゥンッ――――!」
ジャンヌを弾き、その勢いのままハルバードを一度振り抜く。
風纏う薙刀、ストームハルバードが風を刃と変えて飛ばしてみせる。
後ろに跳び着地していたジャンヌを襲う風の刃。
その前に、マシュの姿が割り込みをかけてすぐさま盾を構えていた。
直撃と同時に盾を逸らし、その攻撃を受け流してみせるマシュ。
「あの銀色の幕こそが絡繰だろう―――出してもらうぞ!」
次は斬り込んでくるネロの剣とハルバードの衝突。
炎の剣を受け止めながら、彼は再びカードを抜いていた。
片手でカードを持ちながらドライバーを操作し、新たなカードを装填する。
ドライバーを閉じながら、炎の剣士に対して彼は吼えた。
「面白い、出させてみろ―――!」
〈フォームライド! アギト! フレイム!〉
ネロと鍔迫り合いをしながら、青いボディを赤く変える。
左腕は金のものに戻り、今度は右腕が赤い新たなものへと変貌していた。
組み合っていたハルバードの突然の消失に、剣を空振るネロ。
「なにっ……!?」
体勢を崩した彼女に対して、今度は炎を纏った長剣が振るわれていた。
それを止めるべくドレイクの手にした銃が、有り得ない速度で弾丸を吐き散らす。
聖杯の影響を受けた鉛玉が無数に直撃し、剣の軌道が僅かに揺らぐ。
そこを潜り抜けるように、ネロは思い切り跳んでいた。
狙いの軌道をずらされて、退避したネロを捉えきれず空振るフレイムセイバー。
だがネロは飛び退いた直後に踵を返し、今度は赤くなったライダーに向け踏み込んでいた。
振り下ろしたフレイムセイバーを、迎撃のために今度は振り上げる。
互いに剣に纏う炎で軌跡を描きながら、二振りの炎剣が衝突して熱波を迸らせた。
「なに、突然どうしたのよ?」
「……いりぐち、だれか、はいった。だれかと、だれか、いま、たたかってる……」
迷宮の最奥。そのラビリンスの主が、己の住処の異変を察知した。
そんな彼のたどたどしい説明を聞いているのは、藤色の髪を持つ美貌の少女。
彼女はそんなことどうでもいいとばかりにそっぽを向いた。
「誰がきたんだか知らないけど、潰し合ってるならそれでいいじゃない」
「うん……でも……」
ちらちらと彼女の様子を窺う、子供のような所作をする3m近い大男。
彼女は彼の膝を力任せに叩いて注意する。
彼女の細腕でどれだけ力を入れても彼はビクともしない。困った風にするだけだ。
「いいったらいいのよ! どっちにしろこの迷宮で……!」
その瞬間、迷宮最奥であるこの空間に歪みが生じた。
ビクリと体を震わせ後ろに下がる少女と、彼女を庇うように前にでる男。
彼の手には巨大な戦斧が二振り既に握られている。
時空間の歪みから吐き出されたのは、二人の人間だった。
しかも意識を喪失している様子だ。
危険な存在であるようには見えないが、そもそも普通ならこの空間に入ってこれるはずもない。
少女を守るために、思考を停止してそれを排除することを即断する。
そうして、大男は戦斧を振り上げて―――
「待って、ストップ! アステリオス!」
少女の声に引き留められ、彼―――アステリオスは静止した。
「えうりゅあれ……?」
ぱたぱたと赤毛の少女の方へと走り寄るエウリュアレと呼ばれた少女。
彼女の傍まで駆け寄った彼女が、困惑するようにその顔を覗き込んだ。
意識を失っている彼女の頭に手を添えて、自分の感覚が間違っていなかったのを確認する。
「なんで
もう薄れてるけど多分これ……
―――アステリオス! こいつら、目を覚ますまで面倒見るから!」
「うん……えうりゅあれがそういうなら、ぼくもそうする」
エウリュアレの声に即決したアステリオスが、その手の中から戦斧を消した。
そのまま転がっている二人を抱え、寝床の方へと運び出す。
彼の背中を見ながら、エウリュアレが表情を難しくする。
「……
ああ、もう……! なんでこういう時に限ってあの駄メドゥーサのやつったらいないのよ!
私や
だからいつまで経っても駄メドゥーサなのよ!」
理不尽に怒りながら地団駄を踏み、上と下の姉妹へと想いを馳せる。
その後に、隠しきれない心配を滲ませながら彼女は言う。
「無事でいてよね、
そうして彼女は、十数分後に目を覚ました立香の口から説明を受けることになる。
彼女は“全然関係ないところにいただけじゃない!”とキレた。
全てのサーヴァントがその瞬間にレイラインを取り戻し、マスターの存在を感知した。
彼らと戦闘していた仮面ライダーも時空の歪みからそれを知る。
「―――魔力の経路の先は……この迷宮の奥か?」
エルメロイ二世が訝しげに顔を顰めながら、レイラインを辿った先を見る。
フレイムセイバーを斬り上げ、迫撃するランサーを押し返す。
その間にもドレイクの射撃が無数に体に直撃していた。
体から白煙を噴き出しながら肩を竦める。
「戻ってきたか。なら、とりあえずは帰るとするか」
そう言った彼の背後に銀色のカーテンがかかった。
ネロが何度もしてやられているそれに苦渋を滲ませる。
「足止めのつもりだった、ということか?」
「どうせお前たちには行けないところに送った後で、わざわざ足止めする理由はないな。
ただ世界を救うって連中がどの程度か試してみただけだ。
――――また会おう。まあ、魔王がまだ立ち上がれるならばの話だがな」
不吉なことを呟きつつ、腕を動かすその男。
カーテンがそれに連動して、その仮面ライダーの姿を呑み込んでいった。
ソウゴがこの時代に戻ってきたからか、ある程度調子を取り戻したオルガマリーが立ち上がる。
「……とにかく、迷宮の奥に進みましょう。
あの二人が奥に連れ去られている以上、退くわけにはいかないわ」
「―――はい!」
マシュが大きく返事をして、すぐさま迷宮の中へと駆け込んでいく。
その様子に小さく息を吐いて、オルガマリーも後に続く。
―――確かに危機的状況ではあった。それはまだ続いているとも言える。
けれど、それを跳ね除けるだけの力があるはずだと信じていた。
「やってくれたね、門矢士……!」
迷宮の外に出て変身を解除した彼の前に、姿を現したのはウォズ。
彼は珍しく大きく表情を歪めていた。
迷宮の入り口が見える木に寄り掛かりながら、士はどうでもよさげに彼を見る。
「この段階でまさか今の我が魔王を未来の我が魔王に会わせるとはね……」
「どの段階だろうと大差ないだろう。
海東の奴を倒せるように成長を促してやったんだ。むしろ感謝してほしいくらいだ」
やれやれ、と呆れた風な口調でそんな事を言い放つ。
抑えきれない苛立ちのまま彼を睨みつけたウォズが、声を荒げないように問う。
「君はウォッチを渡し、ディエンドを誘き寄せるだけと言った筈だが……?」
「ああ。ディエンドは誘き寄せるだけだ、めんどくさいからな。
だがジオウに手を出さないと言った覚えはない。
それとあとでウォッチはちゃーんと渡してやる。安心しておけ」
ウォッチを片手で軽く振りまわしながら、士は笑った。
そんな彼を睨みつけるウォズ。
「安心できると思うのかい?」
「奇遇だな。俺自身も安心できない」
気が合った、とばかりにウォズの肩を親しげに叩いて歩き出す門矢士。
彼の姿は再び現れた銀幕に覆われて、完全に消え去った。
それを見送ったウォズが、“逢魔降臨歴”に視線を向ける。
荘厳な装丁のその本の表紙に描かれた時計の歯車。それがゆっくりと動き出す。
動き出した表紙を見て、ウォズが小さく息を吐いた。
「どうやら修正が必要になったようだ。少々甘く見過ぎていたね、門矢士を。
後は……我が魔王がここで折れてしまわないよう、祈るしかないようだ」
伸長するマフラーが渦を巻き、ウォズの姿を呑み込んでいく。
その数瞬後には、彼の姿はこの世界の中から消失していた。
ベルトは溶鉱炉に捨ててもダチなら戻ってくるゾ。