Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「なに、つまり―――こことは別の特異点で
その情報を聞いて一度怒鳴ったにも関わらず、もう一度訊ねるエウリュアレ。
確認のために彼女から聞き出した情報を、念の為にそのまま訊き返す。
立香はエウリュアレからのその問いに対して、何でもないように首を縦に振った。
「うん」
「紛らわしいわね! 何よそれ! 色々考えてたこと全部無駄!」
無駄に考えて疲れた、とばかりに寝転がるエウリュアレ。
よく分からないのでごめんねーと頭を撫でる。叩き払われた。
むっすーと拗ねた表情を浮かべながら、エウリュアレが起き上がる。
文句は尽きないという様子だが、しかしまあそれはいいと納得した様子。
「でもまあ、いないならいないで別にいいわ。
つまり私が狙われていることに変わりがないってだけだし」
「狙われてる?」
聖杯を持つドレイクでなく、いちサーヴァントであるエウリュアレを?
そう考えながら首を傾げる。
彼女は本当気持ち悪い、というような表情を浮かべながらそれを口にする。
「そうよ。とびっきりの変態海賊生ゴミサーヴァントにね」
サーヴァントは霊体だけれど、生ゴミに入るのだろうか。
実体化している場合は肉体を持つわけだし……ふぅむ、と首を傾げる立香。
そんなどうでもいい事を考えているうちに、エウリュアレの話は進む。
「ええ、もうほんと気持ち悪い奴だったわあいつ。気持ち悪さなら世界最強よ。
気持ち悪いサーヴァント大戦があったら即刻ワールドチャンピオン。
変態海賊生ゴミ……いえ、もう生ゴミでいいわね。ほんと動く生ゴミだったわ
どこからどう見てもゴミヒゲって感じよ」
「そこまで……」
どう見てもただの動く生ゴミ以上を嫌悪感を持っているようだ。
そしてとりあえず、彼女は相手をゴミヒゲと呼ぶことに決めた様子。
立香も一応それに倣い、相手をゴミヒゲと呼ぶことにする。
「そのゴミヒゲは何が目的だったの?」
「私が可愛いから狙ってきたんでしょう。それ以外に何かあって?」
「なるほどー」
自信満々に言いきってみせるエウリュアレ。確かに可愛いことには違いないのだが。
もしかして、本当にそういった理由で狙われているのだろうか。
相手は海賊らしいので、あるかないかで言えば―――あるかもしれない。
腕を組んで悩んでいる立香を見つつ、エウリュアレの視線がもう一人に向く。
部屋の壁にもたれかかりながら、難しい顔をした少年の方。
ソウゴはジクウドライバーを手に、俯きながら何かを考えている。
「暗いわね……私が傍にいるのにあれ?
普通の男なら、私と一緒にいられることに狂喜乱舞するところなのに」
「うん、その……ソウゴは多分落ち込んでなくても狂喜乱舞はしないだろうけど」
そんな会話をしている中で、エウリュアレの隣に座っていたアステリオスが頭を上げる。
この最奥の間に入る入口に誰かが入ってきた気配を察知したからだ。
直後、一気にカルデアの面々とドレイクがこの部屋へと雪崩れ込んでくる。
「先輩!」
「あ、マシュ。無事でよかった」
「そのセリフ、全てまるっとそのままお返しします!!」
一気に駆け込んできたマシュが、立香の無事を確かめるように全身を見回して抱き着いた。
よしよし、と頭を撫でる。
後から続いてきた所長も少しだけほっとした様子だ。
「無事ね、藤丸。――――ちょっと、あんたはどうしたの? 常磐?」
オルガマリーに声をかけられてソウゴの瞳が小さく揺れた。
少しだけ逡巡した彼はしかし、ジクウドライバーを懐に仕舞う。
微かに震えた唇のせいで、ほんの数秒だけ返答までに時間を要する。
「―――ううん。何でもない」
ソウゴがそうして言葉を発した時、既に彼はいつも通りに戻っていた。
きょとん、としたエウリュアレの視線も気にせず、いつも通りに笑う。
せめて、自分があんなものになるはずがないと信じて。
もしそうなるのだとしたら、あんな世界を否定してくれる誰かに自分が斃される事を信じて。
そう、信じるしかないのだ。
無理している事すら笑顔に隠し、いつも通りの表情を浮かべるソウゴ。
一体それに自分が何ができるのか、と。
立香が悩ましい表情でそんな彼を見つめていた。
「……つまり、女神エウリュアレの意図として。
この結界はその……ゴミヒゲ、という外敵を島に入れないためのものだった、と?」
「そうよ?」
エウリュアレの話を聞いたエルメロイ二世が額に指をあてる。
ランサーもどことなく呆れているように見えた。
明らかに用途が違う。
とはいえ、女神も怪物も言ってしまえばどちらも箱入り。
そもそもそんな細かい違いは気にも留めていないのかもしれない。
「……ミノ、いやアステリオスの宝具である以上、この結界は外敵の拒絶に向いていまい。
元来これは、入れた後に中の存在を外に出さないためのものだ。
無論、この宝具を扱う当人の意向である程度は作用するだろうが……」
エウリュアレの隣で座っている3mの巨漢。
牛の角を持つサーヴァント、アステリオスをちらりと見る。
彼は不思議そうに首を傾げていた。
「うるさいわね。理屈っぽいわ、さっさと結論を言いなさいよ」
罵倒されたエルメロイ二世が一層皺を深くする。
肩を竦めたランサーが彼の言葉を継ぐ。
「俺らが乗ってる普通の船ならまだしも、サーヴァントの宝具の船だったら上陸は防げねぇぞ。
この迷宮はともかく、広げてる方の結界は大した意味がねえってこった」
むむむ、と顔を顰めさせるエウリュアレ。
そんな彼女の様子を見ながら、立香は彼女をしきりに眺めているネロに気付いた。
彼女はふーむと腕を組みながら、エウリュアレを眺めては首を傾げている。
多分美少女なのにイマイチ食指が動かないな、とか考えているのだろう。
「つまり、あんたたちはその結界とやらで引き込もるくらいに切羽詰まってるんだろう?
だったら二人纏めてアタシの船に乗っていきなよ」
座っても人一人分の高さがあるアステリオスの背中を叩いて、ドレイクはそう言った。
そんな彼女の様子に、再び首を横へと傾げるアステリオス。
「………なんでそういう話になるのよ」
「何でって、アンタはこの迷宮の一番奥にいたんだよ? つまりはこの迷宮のお宝さ。
こいつを作った奴だって、アンタを守るためにこんな大それた迷宮を作ったって言ってる。
アステリオスだっけ、そうだろ?」
「? うん、これは、えうりゅあれまもるため」
自分の背中を叩く人間に、どうしていいのか分からない。
そんな様子のアステリオスがエウリュアレの方を見る。
彼女だってこんな風に絡んでくる人間の対処法は知らないのだが。
「だったら話は一つだろう? アタシは海賊。アンタはお宝。そんでここは迷宮。
海賊が迷宮の奥まできたんだ、お宝を持ち帰らなきゃ嘘じゃないか。
そんでほら、アステリオスは現地雇用さ。お宝盗られたらやることもないんだろう?
こんな良い体してる奴を見逃すなんて勿体無いことするもんか」
笑うドレイク。呆れるような表情のエウリュアレが、ちらりと立香を横目で見る。
自身の分身からの加護を貰っていた人間。それを疑っても仕方ないのは確かなのだが。
むむ、と少しだけ眉を上げながら考えを回す。
彼女たちが船に乗る乗らないを話している中。
少し離れて現状の確認をし始めるオルガマリーたち。
「―――つまりこの島は元凶、レフの聖杯の持ち主とは関係ないってことね……」
「サーヴァントの気配が感知できなかったのは、アステリオスの宝具の効果でしょう。
となれば、この島には他にサーヴァントがいるとも考えにくいと思います」
島に上陸してなお、ジャンヌの知覚にアステリオスとエウリュアレが入らなかった理由。
それは二人がアステリオスの迷宮に籠っていたからだ。
流石に同じ島の中にルーラーの知覚を掻い潜れる能力を持ったものがいるとは思えない。
「血斧王の海図から見ると、ここが本拠地っぽかったんでしょ? 次どうすんのよ」
「――――」
エウリュアレとの話にはついていけない、と離脱していたエルメロイ二世。
何か不思議な感覚だが、もしかしたら自分とは凄まじく相性が悪い存在なのではないか。
そう感じる相手だったのだ。
とにかくそうして離れていた彼が、オルタのその言葉に目を見開いた。
「女神エウリュアレ、貴女を追っているのは海賊のサーヴァントと言ったな」
「そうよ。それがなに?」
エウリュアレの問い返しを無視し、そのままドレイクに向きなおる。
「キャプテン・ドレイク。
ヴァイキングの船から海図を探る、というのは海賊なら普通に思いつくことだろうか」
「さあね? ただヴァイキングの航海は常識だろうけど。
そんで自分の知らない海図を見れる機会を逃す海賊なんていないんじゃないかい?
海に生き方を学んだ奴で、海を甘く見るようなアホはいないよ」
ランサーが肩を竦める。
そしてエイリーク血斧王は、恐らく聖杯の所持者が管理しているサーヴァント。
エイリークの海図をわざと彼女の手に取らせれば、ドレイクの行動を誘導できてしまう。
彼女たちがこの島にくるのは、相手の計画の内だったというわけだ。
聖杯を得たところで海賊となれば、自分で自由にサーヴァント召喚はできないだろう。
エイリークの召喚は狙ったものではないはずだが。
しかし海賊の習性を理解して完全に裏をかく流れであった。
「嵌められたか。女神エウリュアレ、そしてドレイクの所有する聖杯。
それを一気に手に入れる為に、相手はこの島の外に待機しているだろう」
「……でも何で別々に手に入れようとしなかったのかな?」
そんな計画を立てられるくらいなら、海上で自分たちを。
そしてこの島でエウリュアレたちを襲えばいい。
相手の戦力は分からないが聖杯がある以上、血斧王と本人だけということはないだろう。
二世もそれには僅かに目を細め、思考している様子だった。
そしてその理由までは分からない、と言葉を濁すエルメロイ二世。
「………海賊のサーヴァント、というなら何らかの制限があるかもしれんが」
「そりゃあれだろ? 要するにそいつ、海の上で決着つけたいんだろ。
地上のお宝を私たちに引き上げさせて、そんで海の上で奪い取ってやりたいのさ。
滾るじゃないか、こうして海賊として勝負を挑まれてんだ。
受けてたつのが海賊ってもんだ」
そんな彼に、当たり前の事だと言わんばかりにドレイクが言う。
言いながら表情に闘争への喜悦を浮かべ、にんまりと笑ってみせる彼女。
それを聞かされた彼は、思い当たる節があったのか額に手を当てた。
「同じ土俵で相手を征服したい、ということか……」
「なんだい、分かってるじゃないか。
悪いがそういうわけで、アンタらアタシの船に乗ったら戦いに巻き込まれるだろうね。
ま、お宝を奪われる趣味はないから安心しときな」
「当然みたいに言うわね……貴方はどうするの、アステリオス。
貴方がここから出る気がないなら、私も……」
「えうりゅあれ、まもる。まもるためなら、たたかう。
えうりゅあれねらってるやつ、ぜんぶたおす」
エウリュアレが言い切る前に、アステリオスが立ち上がっていた。
この場もまた、彼女を狙う外敵を寄せ付けないわけではない。
それを知って打って出ることに決めた、という風だった。
そんな様子を揶揄うように笑うドレイク。
「なんだい、愛されてるね。お姫様」
「………女神様、よ」
やる気に満ちるアステリオスの姿を見上げた彼女は、そう言って小さく溜め息を吐いた。
「結界を解除したらすぐに攻めてくる、ってことはない?」
「そもそもこの結界にはサーヴァントの攻撃を防ぐだけの能力はない。
普通の人間では通れないだろうがな」
アステリオスが宝具“
そのまま地上に出た彼らは、海岸に向かい歩きながら話しあう。
立香の疑問に答えるエルメロイ二世の言葉に、アステリオスがしゅんとする。
「つまり結界など最初から気にしていないというわけだ」
「キャプテン・ドレイクの海賊評を聞く限りは……海上で勝負をしたい、と。
そういう考えを持っている相手だから攻めてこないということになるのでしょうか」
マシュが少し離れた海岸に視線を送りながら、そう言って首を傾げる。
少なくともここから見える水平線に、船の存在は確認できない。
こっちが海に漕ぎ出した瞬間に襲撃は不可能なはずだ。
「………だとすれば、こちらがある程度陸地を離れた場所に行かなければ攻めてこない?」
「追い詰めたと思ったら陸地に逃げられた、じゃあ面白くねぇだろうからな。
どっちか沈むまで、きっちり勝負をつけたがってんだろうよ」
ジャンヌの推測を、クー・フーリンが補足する。
エイリークの運用に対し、ランサーが考えたのは戦上手な相手。
その後のこっちの誘導も含め、戦上手なのは間違いないだろう。
だが今回見えてくるのは、別人かと思うほどに刹那的な戦いを楽しむ方針。
別人だとは思わない。
聖杯を持つドレイクの船に求める宝を載せさせて、丸ごとすっぱり一回で奪い取る算段。
だが恐らくそれだけじゃない。
多分、
二つの聖杯に女神。この世界のあらゆる宝物を賭けた、一世一代の大一番。
「………さて。こいつはまた、決まってる奴が相手なもんだ」
世界の命運など知ったことかと、自分が愉しむだけの戦場を特異点にする。
何があっても一切ブレない、やりたい事しかしないタイプ。
だからこそ、そういう奴らを相手をするのが一番めんどくさい。
実際、最近そういうタイプに彼らは襲われたばかりであるし。
「船長さー、ここでいつまで待つ気?」
銀色の髪に、口元まで覆う黒いコート。
ぼんやりと水平線を眺めていた女海賊が、胡乱な目で船長を見る。
波を難しい顔で見つめていた男はその言葉に振り向き、ニヤリと笑みを浮かべた。
「もちろん。エウリュアレちゃんが俺の胸に飛び込んでくるまで!」
グッ! とサムズアップしながら歯を輝かせる船長。
盛大な舌打ちが響く。
銀髪の女海賊がその音源を見れば、彼女の相棒がニコニコと笑みを浮かべていた。
無かったことにしてくれ、ということらしい。
「そんなこと言ってたらここで何億年待つことになるのさ。
常識で考えなよ、そんなこと地球が滅びてもないから」
「今まさに地球滅びてますからありえますなwww」
ふと、いつの間にか自然とカットラスを握り締めていた。
体が勝手に動き出して、この剣を相手の首に叩き込んでやりたい衝動に駆られる。
本能があいつを殺せと全力で叫んでいるようである。
彼女も舌打ちして、しかし我慢。
金髪に赤コートの女海賊が、それに安心したように胸を撫で下ろした。
「船長は地球が滅びてもモテない。実際に証明されたようで何よりですわ。
地球が滅びた程度でこれにモテ期がくると思われたら、人類の尊厳に関わりますもの」
「人理は滅びたけど人類は最低限の尊厳は守り切れたんだね。何よりだよ」
「オッフwww拙者のモテ期人類存亡より重い説www
ハッ……! 拙者がモテなかったのは人理に邪魔をされていたからだった……?
マジかよ抑止力! 俺がモテた時一体何が起こってしまうというんだ!?
ふむ。拙者……いや『僕がモテたせいで世界が終了してしまった件について』
次のパイケットのネタ決まりましたな!
拙者が主人公になってヒロイン十数人とイチャラブハーレムを築く漫画!
大ヒット間違いなし、そのままアニメ化、実写化ときて拙者が主人公で銀幕デビュー!?
あ、アン氏とメアリー氏も実写ヒロイン役にコネ出演させてあげますので。
拙者を何よりも愛するヒロインM(仮)とヒロインN(仮)とかどうです?」
「いらない」
アン、そしてメアリーと呼ばれた二人の女海賊に同時に宣言される。
二人揃って自分の武装を船長に向けそうになっていた。
あちゃー、と手で顔を覆ってみせる船長。
「というか聞きました? メアリー。この髭、私たちをヒロインMとNですって」
「思い上がりも甚だしいね、アン。というかそのナンバリング、もうモブじゃないか」
そんな三人を見ながら、槍を持った男が割り込むように声をかける。
「あー、それでどうするんだい。船長さん」
彼に声をかけられた船長はぽん、と手を打って海上を適当に見回した。
「おっと、そうでしたそうでした。そろそろ来るころでしょうなぁ。
もちろんその時の最優先はエウリュアレちゅわん! あとついでにBBAが持ってる聖杯。
まずはとにかくなによりエウリュアレちゃんですぞ!
これより拙者、命に代えても世界エウリュアレ氏ペロペロ協会会長の任を全うします!!」
「そうじゃないですわ、この変態」
「早く死ねばいいのに、この馬鹿」
ドゥフフフwwwと気持ちの悪い笑いを浮かべる船長。
彼の脳内でエウリュアレ氏ペロペロ選手権決勝が開幕し、R18ものの光景が繰り広げられる。
それを絶対零度の冷ややかな目で見つめる女海賊二人の後ろ。
―――槍の男は、色々な感情を含んだ苦笑を浮かべた。
妄想から戻ってきたのか、ほんの少し彼の笑い声が低くなる。
「さぁて。時代遅れのBBA退治と洒落込みますかなぁ―――?」
船首近くで邪悪な笑みを浮かべる船長。
その声が低いドスの効いた声から、再びドゥフフフwwwと半笑いになっていく。
そんな彼の背後で、アンとメアリーが小声で会話を交わした。
「結局、どうやって見つけるんですか?」
「船長の頭の中の海図には今ドレイクがどこにいるか入ってるんでしょ。
どこをどうしてやれば、あのドレイクならこう舵を切る筈だ! こうしたからここにくる!
ってさ。気持ち悪いファンだなぁ、同じ女海賊としてドレイクに同情するよ」
「ファンというかもはやストーカーですわね……」
笑う船長を呆れるように見ながら、女海賊は二人揃って肩を竦めた。
とりあえず現地に転送したタイムマジーンをネロに思う存分操縦させる。
彼女には外で戦ってもらわねばならないので、マジーン操縦要員に回す余裕はないのだ。
そこでマジーンをぶん回した後には、あとは一応操縦経験のあるオルガマリーに託す。
戦闘もしたいと少し愚痴りつつも、しかし余裕がないのは分かっているので納得したようだ。
どう考えても決戦が近い移動になる。
一応マジーンにはソウゴとオルガマリーが乗り込み、戦闘に入った場合はジオウが降りてもオルガマリーが操縦できる状態にすることになった。
―――問題があるとするならば。
そのマジーンを動かすジオウの持つウォッチに、殆ど力が残ってないことだろうか。
マジーンにはビーストかマッハのウォッチを使う事になるだろう。
「空飛ぶ船たぁ、とんでもないモン持ってるんだねぇ」
『飛行機くらい私がその時代から80年は前に作ってたんだけどね!
なにせ私は人類史上最大の天才だから!』
『レオナルド、抑えてくれ。というか設計だけじゃなくて作ってたのかい?』
船に続いてくるマジーンを見て、感心した様子のドレイク。
そんな彼女の後ろで、船員たちが声を上げている。
「おぅい、新入り! これ運ぶの手伝ってくれ!」
カルデアから送った物資を船内に積み込んでいる船員。
それが甲板でぼうっとしていたアステリオスに声をかける。
きょとんとする彼の背中を叩き、ほら早くと。
「―――ちょっと。私の許可なく勝手にアステリオスを……」
止めようとするエウリュアレ。
それに、えー折角の筋肉もったいなーい、と労働力を惜しむ海賊たち。
エウリュアレが何だこいつら、と顔を引き攣らせた。
「ううん。ぼくてつだう、えうりゅあれはまってて」
「おお、言ってみるもんだな。
よし、これはあっちでそれは向こう。そんであれはそっちの……」
「アステリオスだけにやらせてないで、アンタたちもちゃんと働きな!」
うひゃーい、と荷物を抱えて散らばっていく海賊たち。
驚いているアステリオスに溜め息を吐いて、エウリュアレが荷物を指差す。
「それはあっちに運ぶんだって」
「うん。いってくる」
「おい、アステリオス。こっちこっち!」
でかい荷物をひょいと持ち上げ、のしのしと歩き始めるアルテリオス。
そっちに海賊たちが手招きをして、アステリオスを誘導し始めた。
何とも言えない顔でその背中を見るエウリュアレを、ドレイクは楽しげに眺めていた。
そんな中で、ジャンヌがこっそりと立香に後ろに回って声をかけてきた。
「マスター、ソウゴくん。どうかしたんですか……?」
「…………うーん。―――変だと思った?」
船の後ろからついてくる、ソウゴたちの乗るタイムマジーンへと視線を送る。
どう言ったものか……などと考えながら、立香はジャンヌに問い返してみた。
彼女は少し考え込んでから口を開く。
「変、というか……何かに対して無理しているのは、感じます。
―――いつか、彼に訊きました。その夢に、想いを裏切られたらどうするのか、と。
そして彼は……自分を裏切れるのは自分だけ、と答えてくれました」
「―――――自分を、裏切る」
「マスターたちがあの場から消えた後、別の仮面ライダーが現れました。
金色の……どういう名前の仮面ライダーかは分からないのですが。
ディエンドのように、カードに封じられた力で戦う仮面ライダーです」
残念ながら、完全に通信も途切れていた時の状況だ。
映像記録といったようなものは残せなかった。
「彼は私たちの前に現れて言っていました。
魔王……ソウゴくんは、エルメロイ二世さんが言っていたような儀式―――
迷宮の一番奥でもう一人の自分に出会い、死と再生を迎える儀式をしている。
というような風に。―――会ったのですか?」
立香がエルメロイ二世に求めた講義。その中で語られた、
あの荒野を思い出した立香が、ジャンヌの問いに頷いた。
「………うん。多分、未来の世界なのかな?
そこで会ったよ。自分のことをオーマジオウ、って呼ぶソウゴに」
「人理焼却されて存在し無い筈の未来で……未来のソウゴくんに、ですか。
つまり彼の様子は―――未来の彼が、今の彼の夢を……裏切っていた?」
どうだろう。ジャンヌに問われて改めて考えてみる。
立香はソウゴと違って、あの世界の状態を見て回ったわけじゃない。
だからもしかしたら、見当違いのことを考えているかもしれない。
でも彼自身――――それを裏切ることだけは、してはいなかったんじゃないか。
何故だか、そう感じた。
「ああ、そっか」
「マスター?」
何かに思い至った様子の立香に、ジャンヌが戸惑いの声を上げる。
彼女の結論をジャンヌに語ろうと口を開き―――
その瞬間、砲弾が水柱を立てる音が耳に轟いた。
一気に変化する船上の光景。総員が戦闘配置についていく“
船員の一人が大声でドレイクに声を上げた。
「姐御! 砲撃です!!」
「見りゃ分かる! どうせこんな距離じゃ当たるどころか届きゃしないよ!
挨拶のつもりかい、やってくれるじゃないか! 回り込むよ!」
ドレイクの指示に従い、船員たちが操舵にかかりきりになる。
確かに、彼我の距離を考えればどう足掻いても当てるどころか射程が届かない。
相手が自分の船の砲の射程距離を把握していない、なんてことはまずないだろう。
『そもそも相手の狙いはドレイクの聖杯とエウリュアレだろう?
いきなり船を撃沈する攻撃をしてくる、とは考えにくい』
「実際に撃ってきてるわよ」
ダ・ヴィンチちゃんの声に、しかし現状からそれを否定するオルタ。
『撃っても当たらない距離でだろう?』
だが即座に彼女はそう言い返した。
確かに砲弾は船の近くに着弾することもなく、ずっと手前で水柱を立てている。
それが事実な以上言い返せず、オルタは口を噤む。
『とりあえず俺たちが上から行くよ!』
『……仕方ないわね』
ダ・ヴィンチちゃんがタイムマジーンの中に仕込んだカルデアとの通信機能。
通信機からソウゴとオルガマリーの声がして、タイムマジーンが動き出す。
内部でジオウが変身するとともに、タイムマジーンは人型に変形する。
ロボとなったマジーンの姿が、敵の船に向かって一気に加速した。
「ロボかー、ロボは予想外だったナー……
くそう、拙者の心の中の
ぐぐぐぐぐ、しかし許せ変形ロボよ! 拙者はいま全人類の夢。
エウリュアレちゃんをペロペロすることを果たそうとしているのだ!」
「で、どうやって落とすの。アレ」
空から迫りくる巨大ロボ。巨大と言っても7m程度だが……
それでも人からすれば十分に巨大ロボだ。
メアリー・リードがカットラスを肩に乗せながら彼に問う。
流石にあれと船上で打ち合うのは難しい。
「私の銃でも流石に通りませんわねぇ」
アン・ボニーもまた困ったように首を傾げる。
関節を狙い続けて壊す、といったような事は可能かもしれないが。
不可能ではないとしても、先にこっちの船が沈みそうだ。
今の船長の宝具船ならば、砲撃を直撃させれば撃墜できる目もあるだろうが……
空を自由に飛べる奴に接近されては、そもそも船の大砲では射線が通らない。
「うーん、拙者の船も今なら飛ばそうと思えばイケそうですが……
流石にアレの小回りのよさにそんなことしても焼け石に水じゃなーい?
まさかの展開でござるなー。先生、先生の宝具で何とかなります?」
どうしたもんか、とロボを見上げる船長。
先生と呼ばれた槍の男は接近してくるロボを見て、一つ溜め息。
「やってみないと分からないねぇ。―――仕方ない、オジサンの……」
槍を構えようとした彼は、しかし静止した。
そして見上げるのはこの船のマスト。
船長たちもそれに気付いて、同じようにマストを見上げる。
シアンカラーの銃を持ち、同じ色の全身鎧を纏った存在。
仮面ライダーディエンドがそこにいた。
突如現れた謎の存在に対しても、船長は態度を崩さない。
「おろろ、拙者の船にどちらさま?」
「やあ、黒髭エドワード・ティーチ。
君もフランシス・ドレイクが持っているお宝を狙っているんだろう?
僕もあれを狙っていてね、どちらが先に手に入れるか競争してみる気はあるかい?」
「競争?」
訝しげに表情を曇らせる黒髭。
そんな船長の前で彼は一枚のカードを出し、ディエンドライバーに装填していた。
「そう、同じお宝を狙う狩人が同じ場所にこうして揃ったんだ。
そういう試みも悪くないだろう?」
「………おぉ、なるほどなるほど。お宅さん、名前は?」
「仮面ライダーディエンド。通りすがりの仮面ライダーさ、覚えておきたまえ」
〈カメンライド! G4!〉
ディエンドがトリガーを弾けば、彼の背後に召喚される黒いボディのライダー。
人の意志が感じられない冷徹な青い目が、飛来するタイムマジーンを捉えていた。
敵対存在を認識した戦闘マシーンは、敵性排除のために行動を開始する。
彼が肩に巨大な四連装ミサイルランチャー“ギガント”を載せる。
全てのミサイルが一気に点火し、タイムマジーンに向け射出された。
突然のミサイル攻撃に、腕のレーザー砲で迎撃に入るマジーン。
だが三発まで撃ち落としたところで、間に合わず一発の着弾を許す。
爆炎を上げながら落下して、海の中へと叩き落とされるタイムマジーン。
「じゃあお先に。健闘を祈るよ」
〈アタックライド! インビジブル!〉
ロボットを撃墜した黒い兵士は消失。
そのまま更にカードを使い、ディエンドの姿はそこから消え去っていた。
ドレイクの聖杯を盗む気、という言葉に嘘がないなら向こうの船に向かったのか。
ひゅぅ、と小さく口笛を吹き上げる黒髭。
アンとメアリーが自然と彼から距離を取る。
「ンー、あれかな? 拙者舐められちゃったかナ?
挙句お宝探ししてるトレジャーハンター扱いされちゃってたり?
ドゥフッww! ドゥフフwwwwドゥフフフフフwwwwww!!
ダハハハハハ――――ッ!! ブワハハハハハハハハ――――ッ!!!」
堪えきれない、とばかりに腹を抱えて爆笑し始める黒髭。
あーあ、と二人の女海賊は何とも言えない風に苦い顔をしている。
どれだけ馬鹿にする風にしても彼女たちは知っているからだ。
これが、どれだけの
「ブフッ―――! ハハハ、おう……ケツから頭まで青いガキに教えてやるとするか。
コソ泥と、海賊ってのは……生き方からまるで違うって話をよォ―――ッ!!!」
先程まで緩い顔で笑っていた男が、凄絶な笑みを浮かべる。
その姿に、だから面倒なんだよなぁと槍の男はバレないように苦笑した。
「また砲撃来ます!」
「どうせ届きゃしないんだ、そんなもんいちいち驚いてんじゃないよ!
撃たれたソウゴたちの船はどうだい!?」
「沈んで浮かんできやせん!!」
大量の砲弾が連続して吐き出される。
相手の船に回り込もうと舵を切る
目の前を塞ぐ水柱の群れ。
それを見て、ジャンヌがその向こうからやってくる感覚を理解した。
「敵宝具来ます―――!!!」
全てのサーヴァントが緊張する。防御のためにマシュとジャンヌは宝具を構え―――しかし。
その宝具は、船上の彼らではなく彼らの足場。
「投げ槍――――!?」
ランサーの目が捉える。
船を貫いていったのは、一条の閃光。
どこぞの槍の英霊が投げ放っただろう、投げ槍であった。
盛大に木片を撒き散らしながら弾け跳ぶ船の残骸。
浸水が即座に始まるような位置ではないが、放置できるようなものでも―――
「なっ……!」
そうして船体の被害を検めようとして、ドレイクの目がそれを見つけた。
超常的な方法で結ばれたロープを見つけ、反射的にそれを切るための行動を取る。
ドレイクが即座に銃をロープに向け、そこに鉛玉をぶっ放した。
「させないよ」
「お邪魔しますわね」
しかし彼女の放った銃弾が、ロープを滑ってきた銀髪の振るう刃に弾かれる。
その後ろにいた金髪は大きくロープを撓らせて跳び上がっていた。
彼女は空中で手にした長大なマスケット銃をドレイクに向け発砲。
辛うじて間に割り込んだジャンヌが、旗でその銃弾を打ち落とす。
二人の女海賊は、こちらの船の縁に揃って着地する。
その瞬間、船が大きく揺らぎ始めた。
「あ、姐御!? 船が――――!!」
「分かってるっての! 敵が強いだけでいつも通りの海戦さぁ! 気合入れ直せぇッ!!!」
船員に喝を入れながら、ドレイクが相手の船を見る。
強引な手段で繋がれたロープを、向こうの船上で血斧王エイリークが掴んでいた。
彼は筋肉を震わせながら力任せにロープを自分の方へと引き込んでいるのだ。
こちらの船はそのパワーで一気に相手へと引っ張られる。
通常のロープなら保つ筈のないテンションが掛かるが、このロープは宝具であるあの船の一部。
その力にさえも耐えてみせて、みるみるうちに船は引き寄せられていく。
舌打ちしてから、今度は乗り込んできた二人の方を見る。
「あんたたちは……」
「アン・ボニー、御覧の通り」
「メアリー・リード、海賊だよ」
マスケット銃とカットラスを打ち合わせ、彼女たちは自然に構えた。
はっ、と軽く息を吐いたドレイクが小さく笑う。
「なら、目的は訊くまでもないね?」
当然のように女海賊コンビは頷いて、その目的を口にする。
「もちろん。海賊らしく―――」
「掠奪、制圧、そして―――」
彼女の言葉を継いだのは、エイリークが巻き上げ中の彼方の船の上にいる黒髭だった。
彼は船の縁からぶんぶんと手を振って、こちらの船上にいるエウリュアレに向かって叫んでいる。
「エウリュアレ氏のおみ足をペロペロすること! ヒュー!
エウリュアレ氏ー! 貴女のエドワード・ティーチがここにおりますぞー!」
「ひっ……!」
彼方からする声に、エウリュアレがアステリオスの後ろに隠れた。
怯える彼女を背に威嚇を始めるアステリオス。
その相手方の船長らしき海賊を見て、ドレイクが口を開く。
「はぁ?」
こちらの船上で二人の女海賊もまた溜め息を吐く。
分かってはいたが、やっぱりゴミはゴミだった。
「あの青いの……もっと挑発してってくれれば良かったのに」
「一瞬でゴミに戻りましたわね、あいつ」
そうして、誰もがアホ面の黒髭を見ている中。
騒ぎに乗じてロープを伝い、船の横へと回り込んだサーヴァントが一人。
ドレイクの船の後ろまで突き抜けた、自分の槍を回収することに成功した男。
彼は一人、隠れてはいるがいつでも出れるような位置を確保しながら呟いた。
「ほら、こんな風に思うように戦況を進めちまう。
嫌だねぇ、ああいうタイプとやりあうことになるのはさ」
「ほう、だったらそんな事にならねぇように……
ここでその心臓―――置いていきな」
船の横にぶら下がる彼に、船上から声がかかる。
彼が頭上を見上げる。その船上には、朱槍を携えた青いランサーが立っていた。
ほんと、嫌だねぇ。彼はそう呟いて小さく微笑んだ。
グランドジオウを倒したギガントさん! グランドジオウを倒したギガントさんじゃないか!