Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「ドゥフフwwwアン氏メアリー氏は敵船を掻き乱し、エウリュアレ氏は逃げ惑う。
そして拙者はここから逃げ惑うあの子のひらひら舞うスカートを姿勢を低くし眺める!
あの短いスカートから覗く柔らかそうなおみ足、一瞬たりとも見逃さぬ!
完璧! 完璧なる布陣! これこそ黒髭海賊団の究極コンビネーション!
いや、待てよ―――あそこに見えるは旗持つ白黒ダブル美少女……!
そして大きくスリットの入ったロングスカート……!?
揺れる前垂れからちらりと見えるその美脚! あちらも決して見逃せぬ!
足りぬ、目が足りぬ! ぬおぉおおおおおお――――!
脳内HDに永久保存すべき光景を見逃してしまうぅ~! 今こそ開け、第三の目!!」
遠くの船からなお届く黒髭の奇声。
こちらの船上を飛び回るアン&メアリーに対処しながら、ドレイクが怒鳴る。
別にスルーしているわけではなく、アンとメアリーも舌打ちはしていた。
「何なんだいアンタは! さっきっから気持ち悪い声あげてんじゃないよ!」
「――――はぁ~? BBAに文句言われる筋合いはありませぬが?」
彼女の怒鳴り声に気持ち悪く表情を崩していた黒髭が真顔に戻る。
直後にすっ呆けた風な顔をしながら、煽るような言葉を吐く。
その表情が全力で何言ってるんだこのBBA、という意見を主張していた。
「アァンッ!?」
「姐御!? キレてる場合じゃあ……!」
船員が彼女を押し留めようとした瞬間、船上の一角が爆ぜた。
咄嗟に振り向いて状況を確認するドレイク。
朱色の閃光と、金色の閃光。
二つが互いに向かい合い空中で衝突し、その場に無数の火花を散らしていた。
呪槍の攻撃を聖槍の払いでもって受け流しながら、聖槍の担い手は困ったように笑う。
「あらら、こりゃまずい。まるでアキレウスと変わんないわ」
目の前を過ぎ去る朱色の閃光。
それに自身の槍を添えるようにして逸らし、一歩だけ距離を取る。
その余裕のありそうな体捌きに対して笑うクー・フーリン。
「ハッ―――そのアキレウス相手でも止めてみせると言いたげじゃねぇか」
槍を突き出し、引き戻す。単純かつ初歩たる動作を瞬きの間に星の数ほど繰り返す。
ただの高速なる単純作業が、刺突の壁となって押し寄せる。
それら全てをいなし、弾き、躱しながら彼は笑みを崩さない。
一度大きく槍をぶつけ合い、弾けるように距離を取り合う。
「いやいや、オジサン。止める止めない以前にアキレウスと戦うのはもう勘弁だね。
まあ、必要に駆られりゃ誰とでも戦うしかないんだけどさぁ」
そして誰であろうと止めてみせる、と。
言葉の裏にある防衛戦への絶対の自信を察し、くっ、と笑い声を噛み殺す。
魔槍を存分に振るえる相手を前に、ランサーは凄絶な笑みを浮かべる。
「違いねぇ。だったらここでは、俺の槍を味わっていきな――――!」
「ああ。ここでは――――ま、アンタを止めることに専念しようかね」
クー・フーリンが船上を駆ける。
それを待ち受けながら、敵ランサーは僅かに目を細めてみせた。
「くッ、海戦ではこうも勝手が違うか―――!」
流石に海上で“
孔明の霊基は海戦にも対応しているが、陸上ほどの性能は発揮できなかった。
あるいは彼自身が使いこなせていない、というだけか。
再び舌打ちしながら、突風を導いてロープを揺らす。
ロープを含め船上にある全てを使って縦横無尽に跳び回るアンとメアリー。
彼女たちの動きを少しでも止めようとしての事だが―――
「嵐の中でだって戦うのが海賊―――
環境を変える程度で、私たちを止められるなんて思わないでくださいます?」
揺れたロープを危うげなく踏み、そこで宙を跳ねながら連続して弾丸を放つアン。
マシュとジャンヌがそれらを弾き飛ばす頃には、彼方へ着地した彼女はまた銃を構えている。
再び発砲。それらを防ぐのが手一杯の彼女たちには、反撃の手段がなかった。
更にその近くではメアリーもまた攻勢を仕掛けてくる。
体勢を低くしながら相手を目掛けて駆けるメアリー。
その彼女に対して剣を向ける、ネロとオルタ。
駆け抜けながら振り上げられるカットラスに対し、彼女たちも剣で対抗した。
軽く掠るような衝突だけで、彼女はそのまま二人を離れていく。
「逃がすか―――!」
オルタが振り向きざまに周囲に炎の剣を浮かべ、連続して射出する。
その攻撃の初見に、呆れるような表情を浮かべるメアリー。
彼女の手がカットラスを閃かせ、飛来する炎の剣を下の方へと打ち落とす。
「正気かい? 自分たちの船の上で炎とか出す? 普通」
剣を打ち払ってから、愛剣をくるりと回し肩に乗せる。
そんなことをしながら、対峙する相手の黒と赤の炎を見て彼女はそう言った。
「あっ……!」
「ぬっ……!」
自分の足場が木なのだと言われて気付いたかのように驚く二人。
オルタが黒い炎が船に燃え移る前に、その剣を消し去った。
同時に、ネロが炎を噴き上げていた自分の剣を消火してしまう。
勝手に弱体化してくれた相手にメアリーは小さく笑い、再び駆けだした。
直後、咆哮とともに牛の角持つ怪物が彼女のもとへ襲来する。
雄叫びを上げながら片刃の戦斧を振り抜いてくるアステリオス。
少しだけ驚いたものの、狂人はあっちの船で見慣れた。
彼女はそれを少しだけ引きつけて、回避のために大きく跳んだ。
その場に振り下ろされるアステリオスの攻撃。それは、船上をぶち抜く破壊の一撃。
「あ――――」
困ったように声を漏らすアステリオス。
呆けている彼のすぐ近くに戻ってきたメアリーは、苦笑しながら剣を振るう。
「海賊と、船上の戦いってのを舐めすぎだよ。
こういう場では―――ただの超人を揃えればいいってわけじゃないのさ」
静止したアステリオスの体に斬り込むメアリーの刃。
体が堅すぎて殆ど通らなかったが、しかし彼は血を噴き出して一歩下がった。
メアリーの一撃がアステリオスに叩き込まれるのを見届ける。
当然のことながら有効打とは程遠い。怪物くんが相手では仕方ないだろう。
ならばどうにかしてダメージを与える方法を模索しなくてはならない。
ギシリ、ギシリ、と。
エイリークが引き寄せるロープの音を聞きながら、引っ張り縮めた互いの船の距離を確認する。
それが相手の最終防衛ラインを超えたのを見て、黒髭がぼやいた。
「優勢でござるなぁ、ではではそろそろ詰め切りますかな?」
軽い口調のままにこりともせず、彼はロープを引くエイリークに目を向けた。
唸りとも呻きとも知れない声を上げ続ける彼。
仕事終わりに悪いが、すぐに次の仕事に就いてもらう予定があるのだ。
ドレイクが鉛玉を連射し、アンの射撃を中断させる。
彼女はすぐさま場所を変えて行くだけだ。
自分が蜂の巣にされるようなへまはしない。
戦いながら頭を悩ませるドレイクに、再び向こうの船から声が届く。
「えーん! えーん! 黒髭えもーん! BBAイアンがしぶといよぅ!
空を自由に飛んでBBAイアンをけちょんけちょんにしてやりたいよぉー!
ドゥフフフ、仕方ないなぁブラッドアクス太くんはぁ(裏声)」
はぁ? と首を傾げている余裕なんてものはない。
―――が、今そこで船を引っ張っていたテンションがかかっていない事に気付く。
余裕がなくても確認せざるを得ない。
そうして、振り向いた彼女の目の前にあるもの。
ロープは繋がったままだが、エイリークはそれを引くのを止めているという状況。
ではエイリークは一体どこへ行ったのか。
「ウ~フ~フ~フ~! 未来の道具、人・間・大・砲~!(裏声)
テレテレテッテッテー! アンメアママン! 新しい戦力よー!(精一杯の可愛い声)」
黒髭のふざけた声の直後に目に映る光景。
それは向こうの船の大砲の中に半身を突っ込み、砲弾の如く発射されたエイリークの姿だった。
「なッ―――!?」
既に相手の砲の射程内まで船が引きずられている。
その上で大砲ではなく、あの男の船は船員を砲弾として撃ち放っていた。
筋肉の塊が船の一部を吹き飛ばしながら着弾。
血を求める魔獣の斧を振りかざし、活動を開始する。
「ギギギ―――グガ、ガガガガガガガ―――――ッ!!!」
「ゲェ―――!?」
着弾箇所の傍にいた海賊が一人、魔獣の斧で血煙と消える。
その血を啜りながら再起動を果たした狂戦士は次の獲物を求め―――
正面から激突してきた、自分よりも1mは大きい巨躯に足を止めさせられる。
先程まで笑いながら、自分に話しかけてくれていた一人の人間。
自分の、アステリオスという名前を呼んでくれていた、名前も知らない誰か。
それが血煙に沈むのを見て、知らぬ間に理性が決壊する。
「グガ、――――!」
「ふぅ――――ふぅ――――! やらせ、ない! これいじょうは――――!!
ぼくが、おまえをとめて――――おまえが、しね――――!!!」
二振りの戦斧が力任せに振り抜かれ、血を吸う魔獣の斧を押し返す。
それを受けたエイリークの瞳からもまた狂気が溢れだした。
二体のバーサーカーが、船上という狭い戦場の中で理性を失くしながら衝突する。
「アステリオス……!」
「エウリュアレ、こっち……!」
立香がエウリュアレの手を引きながら、何とか無事でいられそうな空間へと走る。
狭い船上と比較して拡大しすぎた戦場は、彼女たちを常に危機に晒す。
だがそんな彼女たちの前に、青い影が浮かび上がってくる。
特異な形状の銃を持った仮面ライダー、ディエンド。
「やあ、久しぶりだね。カルデアのマスター」
「ディエンド……!?」
エウリュアレを抱えて、彼から距離を取ろうとする。
が、彼はエウリュアレ含めこちらに大した興味もなさそうに、ドレイクを見ていた。
アンに対して銃撃を仕掛けている彼女の背中に、その青い銃身を向ける。
「黒髭くんたちのおかげで随分と楽にお宝は手に入りそうだ」
「―――ドレ、」
間に合うはずもない叫び。
彼女の背に声をかけようとした立香より早く、彼はトリガーを引き絞り―――
ごう、と。彼の目の前に巻き起こった竜巻にその銃弾を弾かれた。
その竜巻の中に見知った顔を見つけた立香が叫ぶ。
「ソウゴ!」
「おや、先に脱出してきたのかい。魔王」
竜巻を消すと同時に、限界を迎えたウィザードアーマーが消失する。
タイムマジーンの中から直接転移してきたジオウが、ディエンドを前に拳を構えた。
ディエンドが首を傾げ、海へと視線を送る。
それと同時に、水底に沈んだはずのタイムマジーンが浮上した。
その頭部についているのは、ドライブウォッチ。
〈フォーミュラ01! 02! 03!〉
三体のシフトカーを召喚したタイムマジーンが、修理されながら登場する。
無理矢理動いているのは明白だが、ディエンドがその状態に感心してみせた。
「なるほどね、乗り物修理は彼らの十八番か。けど」
バチン、とドライブウォッチが外れて消える。
それと同時にタイムマジーンはエアバイク型に変形し海上を漂いだした。
沈没しない程度の浮力は生むが、戦闘には耐えられまい。
くるりと一度ドライバーを回し、ディエンドはジオウに向き直る。
「流石はG4、きっちり仕事は果たしてくれたね」
「あんたはここで俺が止める……仮面ライダーに、世界は壊させない!」
まるで、自責の念に駆られるように。
すくなくともそれを聞いていた立香がそう感じ取れるくらいには。
そんな言葉を叫んで、ジオウはディエンドに向け走り出した。
彼の疾走が自分に届く前に、ディエンドはカードの装填を終えてドライバーを操作する。
即座に周囲を舞い踊る解放されたライダーの影。
それがディエンドまでの道を遮るように、ジオウの前に立ちはだかっていた。
〈カメンライド! メテオ!〉
「ホゥ―――ワチャァ――――ッ!!」
星々の輝きを散りばめた宇宙の如き黒いスーツ。
その上にクリアブルーとシルバーのアーマー、そして隕石を思わせるマスク。
ジオウにとってまた初見のライダーが、目の前に現れていた。
走り込みながらそのライダーに向かって拳を振り抜く。
それをメテオは掌で受け流しながら横に回転した。
回転の勢いも乗せ、ジオウの側頭部に裏拳をカウンター気味に叩き込む。
「ぐっ……!」
揺らされた頭に手を当てながら、ジオウが蹈鞴を踏んだ。
「ふん……」
〈マーズ! Ready?〉
ジオウを弾いたメテオはそのまま、右腕に装着されたガントレットを操作する。
コズミックエナジーをそれぞれの惑星の属性に変換する必殺兵装、メテオギャラクシー。
彼は火星を選択してメテオギャラクシーを待機状態へ。
最後に指紋認証パネルに指を当て、最終ロックを解除。必殺技を始動する。
〈OK! マーズ!〉
メテオの拳が炎の惑星に包まれた。
小さな火星と化したその腕で、怯んでいるジオウに向け拳を連打する。
炸裂する炎の拳がジオウの装甲を赤熱させ、その防御を追い詰めていく。
「ゥワチャッ! ゥワチャッ! ホゥ…ワチャァ――――ッ!!」
「ぅ、ぐぁ……っ!?」
連撃の締めに放つ正拳突き。
ジオウの胴体へと叩き込まれた火星が破裂して、その熱量を全て彼に浴びせかけた。
全身から煙を噴いてふら付くジオウを前に、メテオがベルトからスイッチを取り外す。
「そんな程度か? お前が仮面ライダーを止めたいと思う気持ちとやらは」
〈リミットブレイク!〉
外したスイッチを彼はそのまま腕のメテオギャラクシーに装填した。
ふら付きながらも、必死にメテオを見返すジオウ。
そんな彼の懐へと瞬時に潜り込み、メテオの拳がアッパーでジオウを空中へと打ち上げた。
流れるようにメテオギャラクシーの認証を通す。
〈OK!〉
「ホォ―――ゥ、ゥワッチャァアアア―――――ッ!!!」
両の拳に纏う青いエネルギーの渦。
青い炎に燃えているようにも見えるその拳を、彼は宙にいるジオウへと振り上げた。
拳から放たれる、無数の青いエネルギー波となった拳撃の嵐。
それは地上から放たれ、天空へと翔け上がっていく流星めいて。
―――正確に、ジオウのボディの各所を撃ち抜いていく。
空へと昇る流星群から解放され、悲鳴もなく船の上へと落ちるジオウ。
その変身が解かれて、彼は常磐ソウゴの姿に戻った。
「ソウゴ!」
エウリュアレを抱えながら立香が走る。
駆け寄って彼を起こそうとすると、まだソウゴはメテオを睨んでいた。
オーマジオウにやられた傷だって癒え切っていないというのに。
彼はまた傷を負いながら、しかしまだ立ち上がろうとする。
そんなソウゴを見ていたメテオが、小さく後ろのディエンドの様子を窺う。
ディエンドは自分が相手をする必要もないと思っているのか。
さほど興味を抱いてもいないようだ。
ならば、と。メテオがその足を前に進めだした。
立香の手を借りて起き上がろうとするソウゴへ、少しずつ歩み寄っていく。
彼の目から闘志は消えてない。だがその闘志を支えるだけの力はもう持っていない。
そもそもその闘志の源泉である根幹が揺らいでいる。
彼はソウゴを見ながら、小さく鼻を鳴らした。
「仲間の力を借りなければ立つこともできないか。
群れなければ戦えないほど弱いのなら、最初から戦わない方がマシだ」
「俺、は……!」
ソウゴの腕が、弱々しく立香を突き放す。
彼は一人の力で起き上がり、再び変身しようとウォッチを握り―――
立香に後頭部を掴まれ、床に額を押し付けられた。
エウリュアレが唖然とした表情で立香を見る。
―――それを見て、メテオは今度は楽しげに鼻を鳴らした。
「なに、するんだよ……!」
押し付けられた頭を持ち上げながら、ソウゴが立香に抗議する。
彼女は顔を持ち上げた彼を目を真っ直ぐ見つめ、逆に問い返した。
「そういうソウゴは何してるの」
「俺は……! この世界を救って、皆が……幸せになれる世界の、王様に、……ッ!」
ウォッチを握る手が震えている。
食い縛った歯の隙間から嗚咽を漏らしながら、しかし彼は戦う意志を示し続けた。
ドライバーは捨てない。捨てられない。この力にはもう、他の人間の命を載せてしまった。
彼には最期まで戦い抜く以外に選択肢はない。
「だって……! 俺が最初から何もしなければ、こんなことには……ッ!!」
すこーん、と彼の頭を立香の平手が叩いていた。
叩かれたままに、そのまま俯くソウゴ。
「未来のソウゴの言葉、気にしてるんだ。でもね、あの人言ってたよ。
“ソウゴがいなければ私だけで世界を救える”“あの世界はソウゴが創った世界”」
俯いたままのソウゴの頭に手を載せて、彼女は優しく撫でる。
確かにその言葉をそのまま受け取ればソウゴには先がないのかもしれない。
けど、
「じゃあいいじゃん。そんなこと関係ないでしょ?
だってソウゴの夢は世界を救うことじゃなくて、世界を救ってから最高の世界を創ること。
私たちの旅の中、本当はいなかったはずの仮面ライダーの歴史が敵になるかもしれない。
でも、その代わりにソウゴが私たちと一緒にいてくれる。
ソウゴだけで最高の世界を目指したらどこか間違えてあの世界を創っちゃうかもしれない。
だったら、私たちと一緒に最高の世界を創るとこまでやっちゃえばいい」
僅かに震えた彼の体を引き起こして、互いに目を合わせる。
「だからこれからの私たちの戦いは―――
“私たちで世界を救って、皆が幸せになれる最高の王様がいる世界にすること!”
ソウゴが最初に言いだした夢なんだから、私より先に諦めてちゃダメでしょ!」
「立香……」
「ソウゴは隠そうとするから伝わらないだけ。
今みたいにソウゴが辛いと思えば、助けになりたいと思う仲間がソウゴにはいるんだよ。
私だけじゃなくて、マシュや所長や、皆だってそうなんだから」
ウォッチを握るソウゴの手に、彼女も手を重ねる。
きつく握られた彼の拳をほぐし、そのウォッチを彼女が取る。
彼女はライダーと描かれたその顔を見て、再びソウゴに目を合わせた。
「私には一緒にいて、後ろから応援するくらいしかできない。だから―――
後ろにいるからこそ変な方に行っちゃいそうになったら、頑張って引っ張って止めてあげる。
もう一回、ソウゴはソウゴとして……戦える?」
彼女の瞳を見返して、彼女の手にあるジオウウォッチを見る。
彼はそこで一度瞑目し、歯を食い縛り、そうしていつも通りの顔で目を見開いた。
立香の手からジオウウォッチを取る。彼女が笑い、肩を貸してくれる。
肩を借りながらも立ち上がった彼は、メテオに向かって向き直った。
「精神的に立ち直ったところで、それで俺に勝てるつもりか?」
「うん、大丈夫。だって……」
想いがある。
自分一人じゃできないことが、仲間のおかげで出来る気がする。
どん詰まりだったあの未来さえぶち壊して、その先に行ける気がしてくる―――
ソウゴが腕を突き出した。
この世界に散らばっている筈の、自分のせいで散らしてしまった筈の力がある。
彼が突き出した掌の中に、白とオレンジのウォッチが一つ、浮かび上がって現れた。
「今から俺の体は、超強くなる! ―――気がする」
微か、メテオがその仮面の奥で笑ったような気配を発した。
一瞬だけで、あっさりと掻き消えるその気配。
そんな彼を前にしながら、ソウゴは新たに手にしたウォッチを起動する。
〈フォーゼ!〉
ジオウウォッチと、新たに手にしたウォッチをジクウドライバーへと差し込む。
ライドオンリューザーを押せば、ジクウドライバーを傾けて回転待機状態に。
「―――変身!」
背後に展開されるライダーの名を刻んだ時計。
左腕を右肩の上に持っていくように構え、それを振り子時計のように大きく反対へと振るう。
その腕の動きで回転させたジクウサーキュラーが、ジクウマトリクスを連動させる。
ライドウォッチ内のエネルギーを具現化する。
〈ライダータイム!〉
弾け飛び、そして再構成されていく背後の巨大な時計。
全身を覆う黒いアジャストライクスーツ。
その上から更に、特殊金属グラフェニムで形成された各種アーマーを装着。
頭部のキャリバーAに先程時計から離れた“ライダー”の文字。
インジケーションアイが合体する。
〈仮面ライダー! ジオウ!〉
〈アーマータイム!〉
再び誕生した仮面ライダージオウの姿。
まるでそれを祝福するように、海中から一つの物体が飛び出してきた。
―――その正体は白いロケット。
そのロケットはジオウを目掛けて飛来したかと思えば、空中で一部分解。
幾つかのパーツが分かれ、ジオウを取り囲むように装着されていく。
ジオウの手が分離したロケットユニット、ブースターモジュールを握り締める。
アーマーと化した白いロケットに合わせた新たな文字が、ジオウ頭部に合着。
――――その名こそ、
〈3! 2! 1! フォーゼ!!〉
新たな姿を得たジオウが、メテオに対してその腕のブースターを突き付ける。
「皆との絆で――――俺は、俺の
そんな姿をメテオの背後から、ディエンドはつまらなそうに眺めていた。
まさかここでいきなりフォーゼの力を拾うとは思っていなかった。
これはさっさと自分も加勢して終わらせるかな、と。
そうしてディエンドライバーを構えようとした彼の腕に、暗色の布が巻き付いた。
「これは……」
「祝え!!」
ディエンドがその声を追い、振り返る。
この船上のマストの上で、一人の青年が本を片手に大きく天を仰いでいた。
彼の腕を捕まえた布は、彼があそこから伸ばしたマフラーだったようだ。
ランサーたちやバーサーカーたちはまるで止まる気配がない。
が、アンやメアリーたちさえもその光景に足を止め、彼を見上げていた。
エルメロイ二世がその光景を見て、微かに目を細める。
「全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来をしろしめす時の王者―――
その名も仮面ライダージオウ・フォーゼアーマー!
また一つ、ライダーの力を継承した瞬間である―――!!」
マストの上で僅かばかり息を切らせながら、そう祝福するウォズの姿。
どうやら突然の継承に驚いて必死に登場したらしい。
突如現れたウォズを見上げていたメテオが、小さく笑った。
彼の手がメテオギャラクシーに装填されていたスイッチを外す。
「仲間に縋る弱さ、孤高であり続ける強さ――――」
「………」
「そして仲間を頼る強さ、孤独に震える弱さ。強さ弱さなんてどっちにもある。
だから選べばいい。他の誰でもない、自分にとって意味のある強さを」
そして彼はメテオドライバーにスイッチを装着しながら、目の前のジオウへ向き直った。
互いの視線が交差し、二人の仮面ライダーは腰を落として戦闘態勢に入る。
「見せてみろ。お前が夢の翼に選んだ、お前の強さを―――」
メテオがまるで鼻の頭を撫でるように、親指を立てた拳を顔の前で横に動かす。
「―――仮面ライダーメテオ! お前の
「―――あんたに俺の運命は決められない。俺の運命はもう決まってる―――!
俺は、俺たちで世界を救って――――皆を幸せにできる、最高最善の王様になる!!!
そのためなら俺は……俺が創った俺の運命だって超えてみせる―――――!!!」
メテオの手がメテオギャラクシーに伸び、スイッチを一つ押し込む。
同時にジオウがその腕のブースターモジュールを点火する。
流れるようにメテオの指はメテオギャラクシーの動作認証に移っていた。
〈ジュピター! Ready? OK! ジュピター!〉
ジオウがロケットの如く加速して、メテオに向かって殺到した。
対するメテオはその拳に圧縮された大質量の塊を纏い、迎撃行動に入る。
ロケットと木星。
それぞれを拳に纏った二人のライダーが、船上でその拳を衝突させた。
我が魔王のお気に入りアーマー登場。
我、王の名の下に! 変えるぜ、運命!