Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
脚部に装備されたブースターが火を噴いて、ジオウの体を後ろに飛ばす。
同時に腕のブースターモジュールが火を噴き、そちらは前に飛ぼうとする。
ジオウは自分の体を後ろに飛ばしながら、ブースターを握る腕を振り抜いた。
「宇宙ロケットミサイルパーンチッ!!」
拳を振り抜くと同時にモジュールから手を放した。
パンチの勢いで投げ出されたブースターは自身の推力のまま飛行する。
更に続いてもう片方のブースターも。
迫りくるブースターを前に、メテオの指がメテオギャラクシーに伸びた。
〈サターン! Ready? OK! サターン!〉
認証ロックを即座に解除し、その右拳に土星を纏う。
土星と化したメテオの右腕の周囲に、コズミックエナジーが土星の輪を形成。
そのリングが高速回転を始め、回転鋸の如き鋭利さを発揮する
「ホォ―――ゥ、ゥワチャアア――――ッ!!」
刃と化したリングを周囲に振り回し、飛んでくるブースターを迎撃した。
チェーンソーでも叩き付けられたかのように盛大に音と火花を撒き散らすブースター。
弾き返されたそれは、くるくる回りながらジオウの元へ帰ってくる。
だがそれがジオウの元に届く前に、メテオが腕を一閃していた。
彼の手元から離れて飛来する土星の輪。
刃の如き光輪が回転力を増しながら、ジオウを目掛けて一直線に飛んでくる。
それをジオウは、モジュールを手放した腕にジカンギレードを召喚して迎撃する。
フォーゼウォッチをジカンギレードに装填。
その刀身に膨大な電気を纏わせながら、土星のリングへ斬りかかる。
〈フォーゼ! ギリギリスラッシュ!!〉
「宇宙ロケット電気斬りぃ―――!!」
一撃でもってリングを切り捨て、返す刃で電撃波をメテオへ飛ばす。
サターンを粉砕しての逆撃に僅かに怯む。
だが彼は両腕を前で交差させ、襲来する電撃の刃を正面から受けてみせた。
爆風とそれが巻き上げる木片に呑み込まれるメテオの姿。
その彼を前に、ジオウが戻ってきたブースターモジュールを掴み取った。
瞬間、爆風を突き破りメテオの姿がジオウへ襲来する。
〈OK! マーズ!〉
炎の惑星を纏った拳を構え、踏み込んでくるメテオ。
それを前にジオウが胸を張るようにして待ち構えた。
「ホゥワチャアア――――ッ!!!」
炸裂する炎の星。
ジオウの胸に叩き付けられた拳撃はその威力を遺憾なく発揮する。
溢れる熱量はフォーゼアーマーの胸部を赤熱させるほど燃え上がり―――
そして、ジオウがその熱量を全てブースターモジュールに移動・集中させた。
モジュールを引っ繰り返し、ブースターを逆向きに持ち替えるジオウ。
そのまま、ブースターのノズルをメテオに向け―――
「ッ!」
「宇宙ロケット、爆発熱噴射ぁ――――!!!」
ブースターが炎を吐く。
自身が受けた熱エネルギーさえも吸収し、メテオを呑み込む爆炎を生み出す。
至近距離で巻き起こされた炎を受け、彼の体は大きく吹き飛ばされた。
更にその爆発は船上全てを震撼させて、
「あ」
燃えながら吹き飛んでいく巨大な船の残骸。
ロープがあらゆるところで千切れ飛び、この船は今にも沈没しそうな様相を呈する。
“フォーゼ”と描かれた顔で周囲を見回して、ドレイクと目を合わせた。
仮面の下で見えないが神妙な顔をしたソウゴは―――
「えっと、ごめん?」
「やりすぎだよ、このスカタン!
ええい、ここまできたらもうどこまでやっても変わりゃしないさ!
そのままやっちまいな! ここまでやっといて負けたら承知しないよ!!」
「だったら大丈夫、俺が勝つから―――!」
そこかしこに炎が広がり始めた船の上。
その炎の中から、メテオが再び現れる。
「およよ……これはヒドイ……」
炎上するドレイクの船を見ながら、黒髭は目を白くする。
同時に、状況が不味い方向に転がり出したと小さく笑ってみた。
あの船は爆発炎上を繰り返し、船としての色々が失われた。
アンとメアリーの立ち回りはこれで一気に制限される。
それだけではなく、ここまできたら相手のサーヴァントも船を多少壊す程度躊躇うまい。
「いやはや、やーっと面白くなってきましたなぁ」
髭を撫でながらその船上を眺める黒髭に巨大な影が被さる。
ちらりとそちらに視線を送れば、空中を飛ぶタイムマジーンがそこにいた。
フォーゼウォッチを頭部に装着し、両腕に巨大ロケットを装備した状態だ。
それを同じく見上げていた船員の一人が叫ぶ。
「船長! でっかい人型ロボが!!」
「何でござる? 巨大なロボが拙者の船に迫ってきてる?
そんな馬鹿な話があるか、操舵に戻れ! みんな疲れているのか……?
これが現代海賊業の闇、休めないブラック企業化する海賊団……!」
黒髭が虚空を見渡し、見えない振りをしながら首を横に振る。
そんなタイムマジーンが撃ち出す、ミサイルの如き勢いで迫るロケット。
それが黒髭の船の横っ腹へと叩き付けられる。
「おほーっ!?」
間抜けな悲鳴とともに、黒髭が船上を転がった。
「フォウフォウ!」
フォウがオルガマリーの頭の上で暴れる。
彼はモニターに映るドレイクの船の惨状に焦っているようだ。
オルガマリーは、分かってるから人の頭の上で暴れるな。
そう怒鳴ってフォウを投げ捨てたい気持ちを堪えながらマジーンを動かす。
「こっちが先にあの船を沈めて、エドワード・ティーチの聖杯を手に入れる!
あっちの船に黒髭以外のサーヴァントはいないわ。
恐らく宝具であろうあの船をこのまま転覆させて、彼を捕獲する―――!」
連続でロケットが衝突したティーチの船が一気に傾く。
あの大質量を高速でぶつけたにも関わらず、この頑丈さ。
やはりこれが黒髭の宝具なのは間違いないだろう。
だが所詮は船、このまま体当たりして一気に転覆させてしまえば―――
「あーまーいーでーごーざーるーぞっと」
揺れる船上でピンボールのように吹き飛んでいたティーチが笑った。
「え―――」
傾いていた船、その姿勢のまま海面を離れて飛行し始める。
巨大船とは思えぬ細やかな動きを見せる黒髭の船。
それは体当たりしようと向かってくるマジーンに、無数の大砲を正確に照準していた。
「ドゥフフフwww
拙者の“
まあ海賊船を空に飛ばしたところでなーんも面白くないですけどネ。
ンじゃとりあえず、四十発ほど行っとく?」
オルガマリーが息を呑み、そしてティーチがマジーンを見る。
その瞬間、黒髭の宝具が無数の砲弾を相手に向かって吐き出していた。
この巨体が躱し切れる密度ではなく、無数の砲弾が直撃。
修理もろくに終わっていないマジーンが、更なる攻撃に黒煙を吐き出し落下し始める。
「きゃあああぁ――――!?」
「フォーウ!?」
ざぱーん、と盛大に水柱を建てて今一度着水するタイムマジーン。
そのまま再度浮上することもなく、水没していくその姿。
それを見て、黒髭が砲門をドレイクの船に向けようと船の回頭を開始した。
黒髭の船の浮上。そうなれば、繋がれていたロープも引っ張られる。
だが今の
敵ランサーの手により槍から外され結ばれていたロープ。
ロープは切れず、結んだ先を破壊しながら一気に引っ張り上げられた。
一気に引き戻されていく、躍るロープの端。
それを見つけたドレイクが一瞬、楽しげに笑った。
「悪いね、こっちは任せたよ!」
「ドレイク船長!?」
彼女の手がロープを掴む。
引っ掛かっていたロープが外れた反動で一気にすっ飛ぶその勢い。
彼女の体はあっという間に空へと舞い上がり、空飛ぶ黒髭の船へと飛び込んでいた。
それを見ていた黒髭が、きょとんとした顔で彼女を見つめる。
「OH……空からBBAが降ってきた。
空から降ってくるのは美少女と相場が決まっているというのに。
そして始まる記憶を失った美少女と拙者の共同生活……
二人は互いに惹かれあうも少女の失われた記憶が戻る時、事態は風雲急を告げ―――」
「んな相場は知らないねぇ! けど海賊が海賊の船に乗り込んでんだ!
アタシが知ってるのはそっちの相場くらいなもんさ―――!」
クッ、と咽喉の奥で笑いを漏らす黒髭。
彼が右腕に装備したフックで殴り、近くに転がっていた樽を粉砕した。
「よく吼えたじゃねえか!
聖杯持ってるだけの生身の人間が、聖杯持った英霊であるこの俺にだ!
おうおう……じゃあ死ぬしかねえなぁ、フランシス・ドレイク―――!!
野郎ども、あの女を殺っちまいなぁ―――ッ!!」
船長の号令に従い、船員たちが武器を持ちドレイクに殺到する。
雄叫びを上げながら剣を銃を、彼女に向けて突撃してくるものたち。
そんな相手たちをドレイクは、盛大に笑いながら迎え撃った。
「っ……! まさか自分たちの船をここまで吹き飛ばすなんてね!」
「余のマスターの責任であって余の責任ではないがな!」
最早力を抑える必要は無用と考えているのだろう。
ネロの剣には炎が溢れ、周囲の木片を焼き払いながら振るわれる。
そのネロの背後で着かず離れずの位置を保つ黒い旗持ち。
彼女もこちらが隙を晒せば漆黒の炎を投げつけてくるだろう。
「流石に不味いね、とはいえこれはもう……」
ドレイクの船は最早終わっているも同然だ。
即沈没とはならないだろうが、このまま延焼を止められなければ十数分。
このまま時間を稼ぎ続けて戦闘の余波で状況を悪化させれば更に短縮。
あとはもう、時間がくるのを待つだけの勝利だった。
メアリーがネロの攻撃を避け、火災を加速させている中。
アンはマストが折れて禿げ上がった船上で距離を取る方法を失っていた。
マストの高さとロープの張力を借りて立ち回っていたのが彼女だ。
こうなれば、マスケット銃の取り回しでは対応しきれない戦場になる。
それでも彼女の相手は、ドレイクが離脱したおかげでマシュとジャンヌ。
攻撃力に乏しい彼女たちが相手なおかげで何とか戦えている。
そうでなければ時間稼ぎのために逃げ回ること一択だったろう。
「そこ―――!」
マスケット銃が火を噴いた。マシュが構えた盾に当たり、火花を散らす鉛玉。
盾を構えたままにマシュがアンを目掛けて走り出した。
その後ろには、続くジャンヌの旗が見えている。
最早空中で足場に出来るものはないが、しかし―――
彼女たちを相手に空中戦で負ける気はなかった。
アンが大きく跳び上がり、空中でマスケット銃を構える。
そして連続して発砲。
マシュがその攻撃を確実に遮り、そして―――大きく盾を引いた。
ジャンヌが軽く跳び、マシュが引いた盾に着地する。
マシュを砲台にした、聖女の人間砲弾。
確かにアンは空中に舞う今の状態では躱せない。
だが―――
「―――届く前に撃ち落とすまで、ですわ」
アンが抱くマスケット銃の銃口は確実にジャンヌを狙っている。
撃ち出された瞬間に、過つことなく撃ち落とせる―――
「行きます――――!」
マシュがジャンヌを乗せた盾を振り上げた。射出される金髪の聖女。
だが射出された瞬間にはもう、自分もまた相手の攻撃を回避不能になるのだと教えて―――
相手の射出を見たと同時に、流れるように発砲していたアン。
その瞬間にダンッ、と響く発砲音。
撃ってからその音が彼女の耳にまで届く前の、ごく短い時間の中。
彼女がふと、何か違和感があることに気づく。
向かってくるのは白の聖女、ジャンヌ・ダルク。
白い旗、ネイビーブルーの衣装、銀色の鎧……金髪の髪。
果たして彼女の髪は―――短髪だった、か?
アンが放った弾丸が、漆黒の炎に包まれる。
「しまっ……!?」
彼女に突っ込んでくる聖女の色が剥がれ落ちていく。
白と銀は漆黒へ。輝く金の髪はまるで燃え尽きたような灰色へ。
船上のエルメロイ二世が、苦渋を滲ませながらそれを見る。
「諸葛孔明の霊基を借り受けながら、即席とはいえ偽装魔術で色以外を誤魔化せんとは。
フラットのような連中ほどとは言わずとも、もう少しマシなものにならんのか私は……!
ええ、まったく―――無才もここまでくると清々しい……!」
何一つ清々しくなさそうにつぶやく彼の前。
空中で、ジャンヌ・オルタがアン・ボニーへと到達した。
咄嗟に銃身を盾にしようとするアン。
オルタが旗でもって銃を弾き、そのまま空いた手で腰に下げた剣を引き抜く。
抜剣すると同時、黒く燃える剣が彼女を突き刺し、貫いた。
刀身から噴き上がる漆黒の炎が、アンを体内から焼いていく。
「く、あっ……!?」
「貰ったわよ―――“
「アン―――!!」
空中で漆黒の炎の華が咲く。
その光景を下から見上げたメアリーが、立ち止まって彼女の名を叫ぶ。
炎に包まれながら、アンは断末魔を飲み下して口角を上げる。
「今回は―――私の方が、先みたい、ね。―――――メアリー!!」
相棒の名を叫び、炎に巻かれながらも銃を下に向ける。
狙いは、自分を突き刺すオルタではない。
炎を放出し続けるオルタが、相手の高まる魔力に目を見開いた。
メアリーがアンから視線を外し、正面に向き直る。
そこには加速してこちらに斬り込んでくるネロの姿があった。
アンが最期に定めた狙いは、彼女だ。
一気に加速して、メアリーの方からもネロへ向かって突進する。
燃えるアンの口が、小さくその名を告げた。
「“
そして、船上を走るメアリーがその名を続ける。
「“
アンが最期の力を振り絞り、引き金を引いた。
今までとは比較にならない、圧縮された魔力の塊が吐出される。
すぐ傍でその弾丸の発射を見たオルタが、愕然とした様子でそれを見送った。
「どこにあんな魔力を……!?」
くすり、と。最期に笑って、アン・ボニーが消失していく。
宝具“
女海賊アン・ボニー&メアリー・リードの生き様の具現。
追い詰められれば追い詰められるほどに威力を増す、二人の同時攻撃。
瀕死まで追い詰められたアン・ボニーの放った弾丸は最大威力。
霊基が半分消失したことを理解しながら、メアリー・リードは更に加速。
全ての力を載せた彼女のカットラスとネロの振るう炎の剣が、正面から激突した。
びりびりと空気を震わせながら、衝突の勢いは拮抗する。
そうして一秒先、ネロはアンの遺した弾丸に貫かれる。
だからこそ―――
その未来を変えるべく、偽装魔術の黒い外装を剥離しながら白の聖女が割り込んだ。
二人が衝突する場所の横に躍り出て、旗を掲げるジャンヌ・ダルク。
「“
極大の魔力を圧縮された弾丸を、光の結界が受け止める。
絶対防護の結界に衝突した弾丸はそれを貫くべく突き進み―――
しかし軌道を逸らされて、船体を削りながら海の中へと消えていった。
ネロと鍔迫り合いを演じながら、メアリーが苦々しいとばかりに言葉を吐く。
「っ……! やってくれたよ、あの時か――――!
マストの上で本を持ってる変な奴が叫んでいた時―――!
確かにあのタイミングは僕もアンも、完全にあんたたちから意識を外してた!」
「うむ! 余もあっちを見てたら気づかぬ内に二人が入れ替わっていた!」
「偉そうに言う事か!」
ウォズがマストの上で祝福を叫んだ瞬間だ。
エルメロイ二世は、二人のジャンヌに偽装魔術を展開した。
大きな影響のある魔術でなく、あくまで他人から見た姿を偽装する程度の魔術だ。
その影響のなさから何とか高い耐魔力に弾かれることなく通ったそれ。
本人の魔術を孔明の霊基で補強してもなお、色を偽る程度の事しかできなかった。
そんな、お世辞にも優れているとは言えない魔術が成立した瞬間。
二人のジャンヌは、エルメロイ二世の意図を理解した。
ウォズが目を引いてくれたことを利用してすぐさま入れ替わるジャンヌたち。
そうした結果が今―――二人の女海賊の攻略を可能とした。
互いに力尽くで剣を振り抜いて、距離を離し―――
そして同時に、ネロとメアリーは互いに相手に向かって踏み込んだ。
メアリーの振り抜くカットラスに、ネロの魔力を炎に変える
衝撃に千切れ、吹き散らされる炎が薔薇の花弁の如く空に散る。
炎が作った薔薇吹雪の中で、彼女はその一撃の名を謳う。
「“
「―――――ッ!!」
カットラスを粉砕し、そのまま赤い刃がメアリーを斬り裂いた。
完全に彼女の霊核へと届いた一撃。
霊核を斬り裂かれた彼女は、速やかに退去が開始される。
金色の光の粒子となって消え始めるメアリー。
彼女は一度ふぅ、と大きく溜め息を吐いてから空を見上げた。
「……あーあ、負けちゃった。ま、でも楽しかったよ。
いい感じに海賊として生きて、海賊として死ねた気分さ。もう死んでるけど。
ごめんね、船長。僕たち、先に死なせてもらうよ」
彼女もまた、そう言いながら笑って消え失せた。
「グ、ガ、ガガ、ギギギギギギ―――――ッ!!!」
エイリーク・ブラッドアクスが返り血の中で叫ぶ。
その返り血は今目の前に立ちはだかるアステリオスのものだ。
相当な血を流していながら、しかし彼の動きは鈍る様子もない。
「お、お、お、■■■■■―――――ッ!!!」
向かってくるエイリークに雄叫びを放ち、アステリオスはそれを迎え撃つ。
突撃の勢いのまま打ち合せる互いの戦斧。
ぶつかり合った瞬間に互いに弾け飛び、再び衝突するために相手に向かう。
まるで独楽みたいなやり取りをしながら互いの血に塗れていく。
その衝突を見て、エウリュアレが立ち上がる。
彼女の手にはハートが意匠に取り込まれた黄金の弓が握られていた。
「こんの、こんなもの使ったことないけど……ええい、何とかなるわよ!
行くわよ、“
エウリュアレがとにかくと言った風に弓を引く。
するとそこにはハート型の鏃の矢が形成され番えられた。
彼女はよく分からないながら大きく引き絞ったそれを、エイリークに向ける。
ふらふらと震える腕では正確な狙いなど望める筈もないが。
しかしそれでも何とかなれ、と解き放つ。
そうして放たれた矢。
それは甘い狙いからは信じられぬほどの正確さで突き進む。
自動で追尾するような能力でもあるのか、それは確かにエイリークへと突き刺さった。
ガクリ、と停止するエイリーク。
「や、やった……の?」
恐る恐る弓を下ろしていくエウリュアレ。
相手が止まったことを見て、アステリオスも動きを止める。
「えうりゅあれ……?」
「アステリオス! 私の許可なく勝手に暴れて……!」
「わ、が……」
エイリークがその口を動かし、何かを喋ろうとしていた。
ぎょっとして一歩下がるエウリュアレ。
彼の口から出てきた言葉、声は―――明らかに、彼のものではなかった。
ぎょろり、と今までのエイリークとは明らかに違う目がエウリュアレを見る。
「我、が、夫に……
「な、―――!?」
その瞬間、エイリークが再始動する。
狙いは明らかにもうアステリオスから外れている。
どう見てもそれは、エウリュアレを殺すための進軍。
反応などできる筈もない彼女の前にエイリークが迫る。
そして――――
「えうりゅあれに、てを、だすな――――!!!」
そのエイリークに対して、アステリオスが激突した。
形振り構わず、頭から突っ込む姿勢。
エイリークに横からぶち当たった彼の牛の角が、エイリークの胴を串刺しにする。
そのまま突き刺した相手を、上半身ごと首を捻って投げ飛ばす。
船上に転がるエイリークの巨体。
彼はまるで先程までとは中身が違うかのように、無言のまま立ち上がり斧を構えた。
エウリュアレの前に立ち塞がるアステリオスを破壊するため。
無言、無表情のエイリークが迫ってくる。
アステリオスが斧を振り上げ、そのまま静止する。
エイリークがその斧を全力で彼の胴体へと振り抜く。
魔獣の斧がアステリオスの胴に突き刺さる。
だが、それでも彼を両断するにはまるで足りない。
天性の魔たるアステリオスの頑強さは、血斧王の一撃さえも体で受け止めてみせた。
その一撃で口からも血液を溢れさせながら、アステリオスは吼える。
「■■■■■■■―――――ッ!!!」
自分の胴体に斧を叩き込んでいるエイリークは隙だらけだ。
だからこそ彼はその攻撃を肉体だけで受けてみせた。
彼が振り上げて止めていた斧を振り下ろす。
エイリークの頭部に、アステリオスの戦斧が叩き込まれた。
―――そうして、魔力に還っていくエイリークの姿。
それを見届けて―――
アステリオスは全身から血を噴き出しながら膝を落とした。
「づ………!」
『所長! 所長! 無事かい!? 無事なら返事をしてくれ!』
海中に沈んだタイムマジーンの中、通信機からロマニの声がする。
ぶつけたせいか痛む頭。
生身だったら頭が割れてたんじゃないの、と心の中で愚痴る。
「フォーウ……」
マジーンの中でシェイクされたせいで心なしかフォウにも元気がない。
割りとどうでもいい。頭の上にわざわざ昇るな。
また勝手に頭の上に乗ったフォウに溜め息を一つ。
「外の状況、分かるかしら……?」
『サーヴァント・ライダー、アン・ボニー&メアリー・リード。
そしてサーヴァント・バーサーカー、エイリーク血斧王を撃破したようだ。
それに絡めてもう一つ』
こっちが沈んでいる間に、一気に状況を有利に持って行ってくれたらしい。
頼りになる部下たちだ。こうして自分は海に沈んでいるというのに。
卑屈になってるわけではない。
―――せっかくこんなものに乗ってるのに、見せ場の一つもないではないか。
今のはもしかしてネロのような文句だったろうか。
反省だ、やっぱり今の愚痴は無しにしよう。
「なに、かしら……?」
『先程キミが攻撃して弾かれた黒髭、エドワード・ティーチの船。
ついさっきまで。こちらがサーヴァントを撃破するまでは、凄まじい魔力反応だった。
だが、今計測される相手の船の魔力反応は、明らかに小さくなっている』
こっちが突撃したら逆に吹き飛ばされた話。
だが、そのパワーが今は感じられないという。
「つまり―――海賊船長として、
三騎のサーヴァントを失ったいま、能力はさっきまでの半分以下―――」
上に残っている筈のサーヴァントは黒髭本人。
そしてランサーのサーヴァントだけだ。
三騎も脱落したというのなら、目に見えるほど能力は低下しているはずだ。
オルガマリーがマジーンのレバーを動かす。
動く。状態を見れば、ダメージは大きいがまだ少しくらいなら何とかなる。
両腕には射出したフォーゼウォッチのロケットブースターが戻っている。
「だったら、やられた分はしっかりやり返してあげるわ―――!!」
『あ、ちょ!?』
ロケットを二基、一気に射出する。
タイムマジーンのセンサーが捉える、海上の敵の船を目掛けて。
水中でもちゃんと動くのか心配だったが、ロケットはちゃんと飛び立った。
よし、と頷く彼女。その彼女の耳に、ロマニの声が届く。
『いま黒髭の船にドレイクが乗り込んでるのに!』
「――――え」
海面を突き破り、巨大ロケットが顔を出した。
それは一直線に“
船員が減少して能力の落ちた船では耐え切れず、どでかい穴がぽっかりと開く。
同時にそれで大砲の火薬に引火したのか、彼の船も爆発炎上を始めた。
ヒュー! と自分の船が花火になったかのような光景に口笛一つ。
黒髭はドレイクに向き合った。
「あちゃー、こりゃ拙者の船。爆発四散一歩手前ですな。
聖杯があろうと生身じゃ耐えられませんぞ。
こんな高所で爆発寸前の船に乗ってる今どんな気持ち? ねぇねぇどんな気持ち?」
ぷすすー、とドレイクを指差して笑う黒髭。
黒髭がけしかけた船員たちを捌き切り、殆どを船上に転がしたドレイク。
彼女は銃を持ち直しながら、何でもなさそうに一つ笑う。
「なんてこたないさ!
自分の船が燃えてるってのに笑ってるんだ、アンタだってそうだろ?」
「―――俺ぁ海賊になった時から死ぬ時は笑うって決めてるのさ。
船に穴が開いた? 船が燃えた? 船の爆沈一歩手前?
だからどうした!! 全部死ぬよか安い、とるにたらねぇ些末事よ!
死ぬ時笑うと決めた奴が、死んでもねぇのに笑いを崩すなんざ、三流以下もいいとこだ!!」
呵々大笑する黒髭。
そんな彼の背後、船室の中から彼の船員の声がした。
「船長! 船長の部屋も爆発しました!」
「オッホォオオオオ!?
拙者の部屋には聖杯の力で集めた美少女フィギュアコレクションがぁああ!?
OH……少し泣く……コレクターにとってコレクションは命より……重い(至言)」
そう言って呵々大笑から一転、本当に目の端に涙を浮かべる黒髭。
ドレイクは胡乱げな目で彼のそんな様子を眺める。
数秒後、彼はぴたりと涙を止めてドレイクの顔を覗き込んだ。
「―――
海の上で好き勝手し放題。そんでもって最後は誰の手も届かねぇ海の底に沈みてぇ。
勝手だねぇ、ああ勝手だ。そんな屑どもの名前、アンタは知ってるかい?」
「フランシス・ドレイク」
一瞬と開けずに返された答え。
クッ、と。彼は口の中で笑いを噛み殺そうとして、しかし失敗する。
腹の底から溢れてくる笑い声を口から吐き出しながら。
―――彼は、手にした銃をドレイクに向けた。
「ダハッ、ダハハハハハハハ―――――ッ!!
よぉ、フランシス・ドレイク!! テメェは一体何なんだ―――――!!!」
ふざけた笑いが完全に消えて、彼は最高に楽しんでいるという表情を浮かべて叫ぶ。
決まり切った問いをかけられたドレイクは一度鼻を鳴らし、しかし満面の笑みを浮かべる。
彼女もまたその手の銃を彼に向けながら、彼が知る答えとまったく同じ答えを返してみせた。
「決まってんだろ―――? 海賊さ―――――ッ!!!」
いつまで生きようが。いつ死のうが。
最初この道に一歩踏み込んだ時点でそれ以外に答えはない。
海賊として生きて。海賊として敬われて。海賊として疎まれて。海賊として楽しんで。
そして、海賊として死ぬ。
終わる時が百年先でも一秒先でも変わらない。
彼女と、彼は、今を最高に楽しみながら殺し合うために銃を抜き―――
そして、二人が構えた銃が同時に火を噴いた。
派手に行くぜ!(船爆破)