Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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大・英・雄・船1573

 

 

 

炎を踏み締めながら戻ってきたメテオが、ジオウを見つめる。

ジオウもまた向けられるその視線から目を逸らさない。

 

彼の指が、メテオドライバーに装填されているスイッチに伸びた。

カチリ、と音を立ててメテオスイッチが起動。

 

〈メテオ! オン! Ready?〉

 

「これが、最後の一撃だ」

 

メテオの全身にコズミックエナジーが漲る。

溢れ出す青のオーラが、彼を覆うように包み込んでいく。

そのエネルギーが徐々に右足一ヶ所に集束。

 

必殺の一撃の前兆。

それを見たジオウが、片腕のブースターを手放して放り出す。

自前で飛行することで、ジオウのすぐそばで待機するブースターモジュール。

空いた腕で彼は、ウォッチとドライバーに手を伸ばす。

 

〈フィニッシュタイム! フォーゼ!〉

 

メテオが腕を振るいメテオドライバーの中央、天球儀のような部分を回す。

同時にジオウもまた腕を振るい、ジクウドライバーを回転させた。

ドライバーを回すと同時。浮いているモジュールを力強く掴み取るジオウ。

 

〈メテオ! リミットブレイク!!〉

 

〈リミット! タイムブレーク!!〉

 

フォーゼアーマーの各部が変形し、ロケットそのものへと変形する。

そのまま空高く舞い上がるフォーゼアーマー。

ロケットモードとなったジオウが空を飛びながら苛烈な横回転を始めた。

 

それを見たメテオもまた自身を青い球状の光で包み込み、相手を追うように舞い上がる。

 

空翔ける星となったメテオと、ロケットと化したジオウが空中で何度か交差。

何度目かの衝突で大きく弾かれた二人が、相手に足を向けて再び加速した。

 

「メテオストライク――――ッ!!!」

 

「宇宙ロケットきりもみキィ――――ック!!!」

 

青い光を纏いながら、跳び蹴りの姿勢で飛ぶメテオ。

そして、ロケットモードで横回転しながら足を向けて突撃するジオウ。

 

その二人が空中で激突し―――

 

「心が折れない限り、どんな状況だろうと必ず勝機はある。

 お前の夢が折れるのは―――お前自身が、自分の滅びを認めた時だ」

 

ぶつかり合う中で、彼の声がソウゴに届く。

彼の言葉を受け取りながら、フォーゼアーマーが回転速度を増していく。

拮抗状態から、徐々にジオウ側へと傾いていく勝負の天秤。

 

自身に近づいてくる敗北を受け入れながら、メテオが最後の言葉を送る。

 

「未来に突き進め。もし、自分で自分が支えきれないと思うなら―――

 お前の運命で嵐を呼んで、全部巻き込んで纏めて一つの銀河にでもしてしまえ―――!」

 

()()に向けて同輩(ダチ)を思い浮かべながら言葉を残していく。

 

拮抗が遂に完全に崩れ去る。

空舞う青い流星を、回転しながらロケットがぶち抜いていく。

 

光となって消えていくメテオの姿を背に、ジオウは人型にモードチェンジしながら着地した。

 

「………うん」

 

消えたメテオを見上げ、小さく呟くソウゴ。

 

その背中を見ていた立香の目の前に、ライドウォッチが落ちてくる。

彼女がそれを拾い上げれば、それはジオウが今まさに戦っていたライダーの顔。

仮面ライダーメテオのライドウォッチだった。

 

そんな彼に向けて、ぱちぱちと気の抜けた拍手が送られる。

そちらに視線を向ければ、ディエンドの姿がそこにはあった。

 

「おめでとう、立ち直ったようだね。オーマジオウ」

 

ジオウがディエンドに向き直る。

確固たる意志をもって、彼は自身に誓った事を言い放つ。

 

「俺は……オーマジオウにはならないよ」

 

「好きにしたまえ、僕には関係のない話だからね。

 そして僕に関係ある話としては―――」

 

ディエンドが空中に上がっている黒髭の船を見る。

ドレイクが上っていった、黒髭との決戦場。

 

「聖杯が二つ。放っておいて、決着がついたあとに両方僕が貰うとして―――

 今の内に邪魔になりそうな君を、ここで止めておこうかな?」

 

〈カメンライド!〉

 

彼の手が素早くカードを引き抜き、ディエンドライバーにセットする。

ジオウが身構えて、立香に下がるように腕を振って示す。

直後。ディエンドライバーの銃口から光が走り、ライダーの姿をカードから開放した。

 

〈サイガ! パンチホッパー! サガ!〉

 

Ψの紋章を浮かべながら現れる白いライダー。

飛蝗を思わせる造形のダークグレーのライダー。

銀色の鎧を纏うステンドグラスを彷彿とさせるライダー。

 

一気に船上に三人のライダーが呼び出される。

 

「一気にこんなに……!」

 

ブースターモジュールを持ち直し、それらのライダーに向き直るジオウ。

ディエンドはドライバーのハンドグリップを軽く叩きながら、仮面の下で微笑んだ。

 

「さ、じゃあ頼んだよ。彼を抑えておいてくれたまえ」

 

白いライダーが背中のフライトユニットに火を入れる。

コバルトブルーのフォトンブラッドを輝かせ、彼は空へと舞い上がった。

 

空へと飛んだ敵の姿に、フォーゼアーマーが身構える。

 

Let the game begin(さあ、ゲームを始めよう)……」

 

彼が飛び立つと同時に、そのまま加速しようとする。

が、しかし。

彼―――仮面ライダーサイガが、何も無い筈の空中で何かに背中をぶつけていた。

 

「What?」

 

彼の意識が当然それに向かう。

咄嗟に振り向いて、自分がぶつかったものを確認するサイガ。

 

―――そこにあったのは、チョコレート色の正方形のブロック。

それも一つや二つではない。

周囲一帯に、そのブロックが無数に展開されていた。

 

困惑して周囲を見回すサイガに対し、呆れるような声が飛ぶ。

 

「ゲームをしようと言ったのはお前だろ」

 

〈カメンライド! エグゼイド!〉

〈マイティジャンプ! マイティキック! マイティマイティアクションX!〉

 

彼がその声を認識した瞬間、ブロックを足場にピンクの影が跳んでいた。

 

逆立った髪の毛のような造形の頭部。その顔には大きな二つの目。

胴体を覆うアーマーには、何かのゲージらしき表示がある。

そんな突如現れた存在が、カードを腰のドライバーに差し込んでみせた。

 

〈ファイナルアタックライド! エ・エ・エ・エグゼイド!!〉

 

ゲームエフェクトのような派手な効果演出が発生する。

『MIGHTY CRITICAL STRIKE!』

そう描かれたエフェクトを周囲に発現させながら、彼の足がサイガを捉えた。

 

驚く彼の胸に一撃。直撃した瞬間、ダメージエフェクトと『HIT!』の文字が発生する。

 

空中で静止し、もう一度胸に蹴りを叩き込む。またも派手なエフェクトと『HIT!』

そのまま空中で横回転してもう一撃。蹴り抜いた勢いで足が上に、頭が下に来る。

その体勢から相手の頭部を蹴り下ろしながら体勢を元に戻す。

 

と、落ちそうになる相手をムーンサルトでかち上げて、無理矢理空中に留めさせる。

そして両足で相手の胸に乱打を叩き込み―――最後に、全力で相手の胸を蹴り抜いた。

 

爆炎を上げながら海に墜落していくサイガが、光となって消えていく。

 

自身の召喚したライダーが消えていくのを見て、ディエンドが声を上げた。

 

「エグゼイド……士か!」

 

サイガの撃墜。

それを敵対と取った残る召喚ライダーが行動を開始する。

銀色のライダー、仮面ライダーサガはその手にサーベル状の武装を構えながら走り出していた。

 

赤い刀身のサーベル、ジャコーダーロッドがエグゼイドに向け振るわれる。

急襲を受けながら、背後に跳び退ってそれを躱すエグゼイド。

だが、振るわれる武装が急に鞭のように撓り、着地したエグゼイドを打ち据えた。

 

火花を上げながら弾き飛ばされ、船上を転がるエグゼイド。

サガは鞭状に形態変化したジャコーダービュートを、一度思い切り振って引き戻す。

再び剣となったジャコーダーロッドを構え直し、彼は相手を見据えて口にする。

 

「王の判決を言い渡す―――死だ」

 

「なるほど、死刑か。なら、今から一度死んで蘇ってみるか」

 

ジャコーダーに打ち据えられた場所を叩きながら、エグゼイドは立ち上がる。

そのエグゼイドの手が腰に伸び、ライドブッカーからカードを抜き出した。

彼は手慣れた動作でドライバーを開放し、新たにカードを投入する。

 

〈カメンライド! ゴースト!〉

〈レッツゴー! 覚悟! ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!〉

 

エグゼイドの姿が消失し、その空間にオレンジ色の顔面が浮かび上がる。

ぼう、と浮かんだ顔はまるで墓地に浮かぶ人魂の如く。

ゆらりと風景の中に浮上する黒いボディと、それに着せられたパーカー。

 

角の生えた頭を覆うパーカーのフードを、彼はゆっくりと手で脱がせる。

パーカーを外した後、彼が両の掌をぱんぱんと軽く打ち合わせた。

 

ジャコーダーの赤い刃が鞭となり殺到する。

その縦横無尽に奔る斬撃を前にし、ゴーストは風に吹かれた火が揺らめくように動く。

ふらついているようにさえ見える体の揺らめき。

しかしそれを、ジャコーダーの刀身が捉えられない。

 

「なに……!?」

 

「天才弁護士としての経験上、裁判の結果ってのは力尽くで捻じ伏せるもんだと思ってるんでな」

 

飛行、というより浮遊で足を船上から離すゴースト。

そんな彼の手が、更なるカードを握っていた。

そのカードを見せつけるように軽く揺すり、そのままドライバーの中に投げ込む。

 

〈ファイナルアタックライド! ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!!〉

 

ゴーストの手が印を結び、その背後に巨大な眼の紋章を浮かび上がらせる。

その紋章のエネルギーを足に集中させながら、彼はゆっくりと跳び蹴りの姿勢をとった。

勢いをつけたわけでもなく、浮遊しながらその体勢で進むゴースト。

 

ジャコーダーが彼を目掛けて殺到するも、それをまるですり抜けるように突き進む。

実在しない亡霊であるかと錯覚するほどの手応えの無さで、しかし彼はサガへと激突した。

 

幽霊にはあり得ない破壊力がサガを襲い、彼がその威力に弾き飛ばされる。

吹き飛ばされていくサガは光となって消えていく。

 

それを見送ったゴーストが、残る一人に向き直った。

一人立ち止まったまま俯いている、三人目の仮面ライダー。

 

「兄貴もいない俺なんかじゃ……

 兄貴のいない地獄なんて、ただの暗闇じゃないか……」

 

呆れるように仮面の下で鼻を鳴らすゴースト。

その声を聞いて、彼がピクリと肩を震わせた。

だがそのまま肩を落として、空に燦々と輝く太陽を見上げる。

 

「今の俺に太陽は眩しすぎる……俺にはもう、日向の道は歩けない。

 俺の持っていた正義の味方の燃えカスは、とっくに燃え尽きたんだから」

 

「道なんてどこを歩いてようが、歩いてりゃその内勝手に夜明けに続いてくもんだ。

 本当の自分を探すための旅をし続けている限り、な」

 

そう言いながら、新たなカードをカードホルダーから抜き放つゴースト。

ドライバーを開いてゴーストのカードを排出し、彼はそのカードを装填した。

 

〈カメンライド! ビルド!〉

〈鋼のムーンサルト! ラビットタンク! イェーイ!〉

 

ウサギと戦車のエネルギーがそれぞれアーマーを成型する。

それぞれ造り出した赤と青の半身が、ゴーストに被さるように組立てられた。

アーマーを強く圧着して固定して、装着が完了すると同時。

圧力を逃がすために全身から白煙を噴き出す。

 

首を倒しながら、目の前に現れた赤と青のその姿を見る仮面ライダーパンチホッパー。

 

「俺は闇の住人……兄貴と一緒じゃなきゃ光を目指す理由もない。

 俺にできることは、お前たちの太陽を汚してやることだけだ……!」

 

パンチホッパーの腕が腰のホッパーゼクターに伸びる。

飛蝗の脚を思わせるゼクターのレバーを跳ね上げるパンチホッパー。

 

「ライダージャンプ」

 

〈RIDER JUMP〉

 

ゼクターから供給されるエネルギーを得て、パンチホッパーが飛蝗の脚力で跳び上がる。

頭上へと跳んだ相手を見上げ、ビルドは更なるカードをドライバーへ差し込んでいた。

 

「バッタのジャンプに、アンカージャッキ付きのパンチ。

 なら、ウサギのジャンプと戦車のキャタピラで対抗してみるか」

 

〈ファイナルアタックライド! ビ・ビ・ビ・ビルド!!〉

 

赤いアーマーの左足で、思い切り地面を踏み切るビルド。

彼の体がパンチホッパーを追うように空高く跳び上がる。

互いに空中にありながら、ビルドとパンチホッパーが視線を交わす。

 

「ライダーパンチ―――ッ!!」

 

〈RIDER PUNCH〉

 

パンチホッパーの腕がゼクターのレバーを倒す。

ホッパーゼクターの持つ全てのエネルギーを集中させた拳を、彼は突き出した。

 

それに対するビルドが青いアーマーの右足を突き出し、跳び蹴りの姿勢で迫る。

足裏には戦車の履帯があり、それが高速で回転を始めていた。

 

「ハァアアアア――――ッ!!」

 

激突する両者の攻撃。

インパクトの瞬間、パンチホッパーの腕に装備されていたアンカージャッキが駆動する。

弾けるように展開されたアンカーは、攻撃の威力を増加させるための機構。

 

だが戦車のキャタピラに巻き込まれたその拳は、アンカーごと回転に受け流される。

高速回転するキャタピラは、回転する方向へと接触した相手からの衝撃を逃していく。

直撃を逸らすそのギミックに威力を削られたライダーパンチ。

それがビルドに痛打を与える事はなく―――

 

逆にそのまま突き抜けたビルドの蹴りがパンチホッパーを打ち砕いた。

空中で光となって消えていくパンチホッパー。

キックを終え着地したビルドが、息を吐きながら両の掌をぱんぱんと打ち合わせる。

 

瞬く間に召喚ライダーを撃破した相手を見て、ジオウが呟く。

 

「………強い」

 

その声に反応してか、ビルドがジオウへと振り返った。

しかしそんな彼に、それはもう大きな声でディエンドが声をかける。

 

「やあ、士。久しぶりじゃないか」

 

「………ふぅ」

 

自然と出てくる溜め息。

ビルドがその場で疲れをとるように軽く首を回してみせた。

 

今の彼の姿を見て、ディエンドが問いかける。

 

「ビルドたちのカードも持っているようだね」

 

「―――オーマジオウが存在する以上、他の奴らも存在してなきゃおかしいだろう。

 それに干渉できるかどうかはそいつ次第。俺は出来る、ただそれだけだ。

 ま、俺も俺と魔王以外にそれが出来る奴は知らないがな」

 

ビルドの姿のままディエンドを見返す。

その回答に、仮面の下で小さく笑うディエンド。

彼はその話を自分から振っておいて打ち切り、別の話題を持ちかける。

 

「君もこの世界に何か用があるのかい?」

 

楽しげに問いかけてくるディエンドに、ビルドがその体ごと向き直る。

本題に入ったと理解したからだ。

 

「随分と楽しそうじゃないか、海東。だいぶ好き放題してるみたいだな。

 そのせいでどこぞの誰かさんは、俺を利用してまでお前を排除したいらしい」

 

「……ふぅ。つまり君がこの世界に来た目的は僕の邪魔をすること、というわけかい?

 やれやれ……やめてくれないか。いちいち僕を後ろから付け回すような真似は」

 

呆れるように肩を竦めるディエンド。

それを聞いて、ビルドもまた呆れるように肩を竦めてみせた。

 

「別にお前の後にくっついてきてるわけじゃない。俺の目的はこっちだ。

 こいつをくれてやったら、もうこの世界からは大人しく消えるさ」

 

そう言ってビルドがその手にライドウォッチを取り出す。

それを見たディエンドが小さく唸った。

 

手の中にウォッチを持ったビルドがジオウを見る。

 

「そら、魔王。お前にくれてやる」

 

「え?」

 

ぽーんと、放り投げられるマゼンタカラーの形状が普通のものと違うウォッチ。

投げられたので、ジオウは咄嗟に手を伸ばし―――

ブースターモジュールの先端が、ウォッチをがつりと殴り飛ばした。

 

「あ!?」

 

船上に転がっていくウォッチ。

それを―――高速で移動するシアンの影が即、拾い上げた。

ジオウが焦りながらその影、ディエンドの姿を見る。

 

「へぇ、これが君のウォッチなんだね士。ふぅん、これも中々のお宝じゃないか。

 ―――士がこれを魔王に渡したってことは、今のこれは魔王の持つお宝ってわけだ」

 

拾い上げたウォッチを眺め、裏返し眺め、手の中で遊ばせる。

ひらひらとそれを振り回しながらビルドの方を見るディエンド。

 

「折角だから今回はこっちのお宝を頂いていくとするよ。

 この世界のお宝より、こっちの方が面白そうなお宝だったからね」

 

ウォッチを手にしたディエンドがそう言った。

すると彼の背後にいつの間にか浮かび上がる銀色のカーテン。

それがあっという間にディエンドの姿を呑み込んで、完全に消えてしまった。

 

それを何をするでもなく見送って、再び肩を竦めるビルド。

 

「………どういうつもりだい、門矢士。

 ウォッチをみすみすディエンドに渡すなんて」

 

「あ、ウォズ」

 

マストの上で祝っていた彼を、マストごと爆発で吹き飛ばしてしまった気がする。

が、無事な様子で普通に出てきたということは大丈夫だったんだろう。

そんな彼がいつの間にやら立香の隣に並んでいた。

 

だが何も気にしていない、といったような声でビルドはウォズの言葉を切り捨てる。

 

「魔王に俺のウォッチを渡す。海東の奴を追っ払う。

 どっちも約束通りこなしただろう?」

 

今にも舌打ちをしたいのを我慢している、と言うような表情を浮かべるウォズ。

そんな彼の言葉を聞いて、立香はジオウに歩み寄りながら話しかける。

 

「ほら、ソウゴがちゃんとキャッチしないから……」

 

「いやだって、今俺の腕ロケットだし……えー、俺のせい?」

 

ゴンゴン、とブースターモジュール同士を打ち合せるジオウ。

そんな彼を慰めるように、彼の頭を撫でる立香。

フォーゼアーマーの頭を撫でると、面白いくらいにキュッキュッと音がした。

 

「わっ、凄い良い音が鳴る……!」

 

「え、ほんと?」

 

自分でも撫でてみようとして、自分の頭をブースターで殴るジオウ。

あらら、と困ったような表情を浮かべる立香の前で、ジオウの姿がふらついた。

 

そんな彼らを見ながら、ビルドは鼻を鳴らす。

 

「ま、俺のウォッチが欲しければ、海東の奴から奪い返してみせるんだな。

 ―――少なくとも、俺が待つお前たちにとっての最後の特異点に来る前には。

 最低そのくらいには強くなってなきゃ問題外だ」

 

立て直したジオウが、その赤と青のライダーの姿を見据える。

 

「……あんたは誰なの」

 

ビルドがディエンドのように、その背後に銀色のオーロラを出現させる。

それが彼の姿を呑み込むと同時。

その銀幕の中でビルドの赤と青の目が、緑色のものに変わっていた。

 

本来の姿を影だけで見せながら、彼はジオウの問いに一言だけ残していく。

 

「――――通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ」

 

 

 

 

実質的に既に負けている、という戦場。

そんな中で困ったような顔のまま、彼は未だにクー・フーリンの槍を凌ぎきっていた。

一対一ならこのまま時間稼ぎに終始すれば先に船が沈むだろう。

が、他のサーヴァントもマスターももうフリー。

 

流石にこの戦力差で防戦出来るとは言えない。

 

「いやぁ、困っちゃうね」

 

「―――――」

 

対してクー・フーリンは無言。

船が炎上したがための沈むのを待つ立ち回りは関係ない。

相手は最初から時間稼ぎに終始している。

先の発言からして、黒髭とも純粋に仲間というわけでもないのだろう。

 

海賊組が次々と撃破されているのに、焦る様子も微塵もない。

その何が有ろうと心を揺らさない構えこそが防戦の神髄、と言われればそこまでだが。

 

「ン。俺の狙いが判らなくて悩んでるのかい?」

 

「まぁそうだな。とはいえ、ここからそっちに逆転の目があるとも思えねぇが。

 まして、他の陣営として横入りしてくる余裕もな」

 

「ははは、そうだなぁ。それは難しいだろうなぁ……

 何せ周りは水平線だし。見回しても、どっこにも助けに来てくれる船は見えない。

 凄い速さで空飛んでくる船があれば別だろうけどさ」

 

やれやれだよ、と。大きな溜め息を吐いてみせる。

その溜め息の意味を見極めようと、クー・フーリンは彼を睨み付け―――

睨まれていることを知った彼は、朗らかにさえ見える表情で笑った。

 

「いやほら、だってさ。俺の仕事、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 怒られちゃうなーってね」

 

「―――――ッ!」

 

瞬間。彼方から何かが、空に浮く黒髭の船に向かって飛来した。

 

 

 

 

ドレイクの放った弾丸を、腕に装着したフックで弾き返す。

人間のままであったなら無理な動きだろう。

空に浮いているせいで火の回りは早い。

積んでいた火薬が全て一気に着火し吹き飛んだ、ということもある。

 

海に浮いているドレイクの船より、先にこちらが限界を迎えるだろう。

とはいえ下にでかい穴も開いている。

海上に下せばそのまま燃え尽きる前に沈むだけだ。

 

そんな事を考えながら、黒髭は銃を乱射する。

跳ね回りながらそれを躱し、撃ち返してくるドレイク。

 

「とはいえこのまま空で花火と散る、ってのは面白くねぇ!」

 

「ハ―――船を空に飛ばしといて言う事かい!」

 

言い返された言葉に、笑い声を返す。

船上に張り巡らせられたロープが燃えて、その炎が帆にまで燃え移る。

様々なものが燃えて崩れ落ちだした黒髭の船。

 

最早結末は互いに見えているようなものだ。

勝とうが負けようが、どっちも死ぬ。

 

だが、そんな事死んでから反省すればいい。

ここでビビって退くくらいなら、そっちの方がマシってものだ―――

 

そうしてまだこうして銃撃戦を続けようとする二人の耳に、異音が届く。

 

〈ロケットォ…!〉〈ドリルゥ…!〉

 

次いで、有り得ない速度で水を船の船首が掻き分ける爆音。

その音のする先に、二人が同時に視線を送る。

 

巨後部に、凄まじい勢いで炎を吐き出す推進装置。

そして先端には高速回転する円錐型の金属衝角。

ドリルを先頭につけた、ロケットで加速する巨大船が突撃してきていた。

 

「なんだいありゃあッ!?」

 

叫ぶドレイクの正面で、舌打ちした黒髭が下にいる最後の船員を見る。

彼はこちらを見ると、悪いねとでも言いたげに申し訳なさそうに微笑んだ。

 

「いやはや。面白いもの飛ばしてきますな、ヘクトール氏は」

 

黒髭がドレイクに向かって踏み込む。

咄嗟に反応したドレイクが、銃を撃ち放っていた。

それら全てが彼に当たり、穴だらけにされた胴体から大量に血を噴き出す。

 

「ああん!? 何してんだい、アンタ!」

 

彼は穴だらけになりながらもドレイクに接近。

その腕のフックで彼女の襟首を捕まえ、強引に振り回す。

 

「おうおう! よくよく考えてみりゃ俺が憧れたのは世界一周成し遂げた偉人!

 海賊でありながら“星の開拓者”、フランシス・ドレイクって奴よ!

 まだ世界一周した頃でもねぇBBAと拙者じゃあ、立ってるステージが違うのさ!

 意識高い系海賊、黒髭様の船はそんな安くはねーんだよ!

 今のオメェがこの“アン女王の復讐(クイーンアンズ・リベンジ)”に乗り込んでくるなんざ、時期尚早!

 あと一億トンで七年くらいは早いってこったぁ!!」

 

そのままフックに引っ掛けたドレイクを、彼女の船へと目掛けて投げつける。

次の瞬間―――

 

海面から吹っ飛んだ巨大船の先端のドリルが、彼の船へと突き刺さった。

 

 

 

 

上から投げ捨てられたドレイクを下でジャンヌが受け止める。

 

そんな彼女たちの目の前。

爆砕された黒髭の船の残骸が降り注ぐ中、飛んでいた巨大船が海面まで落ちてきた。

 

着水の衝撃に、津波の如く押し寄せる海水が船を襲う。

炎上していた船が、その海水の襲来で強引に鎮火される。

 

その波に流されぬように、と誰もが船体にしがみ付き耐えて―――大波が収まった瞬間。

アステリオスにしがみ付いていたエウリュアレの体がひょいと持ち上がる。

 

「え?」

 

「悪いね、女神様。ウチの船長があんたも御所望なんだわ」

 

息を詰まらせて声の出所を見上げるエウリュアレ。

彼女を掴みあげていたのは、困ったように笑う敵のランサーだった。

 

「テメェ―――ッ!」

 

津波に一瞬、彼を見逃したクー・フーリンが吼える。

エウリュアレを小脇に抱えた彼が、そのまま突如現れた船の方へ跳ぶ。

 

「足は速いわ、頭は回るわ、ほんとアキレウスみたいだったよオタク。けど悪いね。

 オジサン、そういう奴を出し抜かなきゃやってられない戦いしてきたんだ。

 どうすりゃ目を外せるか、どこで動けばいいのか、なんとなーく判っちゃうのさ」

 

「えうりゅあれぇ――――!!」

 

アステリオスが叫ぶ。

船同士の間隔は、一足跳びでは届かない距離は開いている。

しかし空中に魔力を押し固めた足場が現れ、彼はそれを蹴って船まで跳んだ。

 

―――彼が着地した船の上には、金髪の青年が立っていた。

その横には、今まさに彼の離脱を援護した魔術師、青髪の少女。

 

「―――それで? 女神を確保したのはいいとして、聖杯はどうしたんだい?」

 

金髪の青年は海面に散らばり、魔力となって溶けていく黒髭の船の残骸を見る。

問いかけられた男はいやぁ、と頭を掻きながら笑って誤魔化す。

 

「ハ、それでもトロイアの英雄か。ヘクトール。

 ごろつきどもすら出し抜けないんじゃ、馬小屋育ちに負けて当然だ」

 

「そう言われると弱いねぇ、負けたのは事実なもんで」

 

たはは、と。笑ってその叱責を受け流すヘクトール。

ふん、と鼻を鳴らす彼の耳にロケットの推進音が届く。

見上げれば―――相手の船から、両腕にロケットを装備した相手が飛んできていた。

 

それを見て、彼は自分の背後にいる男に問いかける。

 

「あれかい? 君の言う倒せば新たな力が手に入る存在、というのは」

 

「はい。奴の持つ力は貴方と同質の、“王の力”。

 奪い取り己が物とすれば、貴方はより強大な力を得ることになるでしょう。

 “王の力”とは最も相応しき者が持つべきもの。

 あるべき力は、あるべき場所へと集めるのが、正しき行いかと……」

 

はっ、と咽喉の奥で笑い声を転がす男。

 

確かに。彼は今ここに来た方法のように、実際に凄まじい力を得た。

相手が実際に力を持っているのも事実のようだ。

どっちにしろ、倒さねばならない相手なのだから関係ないか。

 

こちらの頭上まで飛んできたそれが、彼の後ろの男を見て声を上げた。

 

「スウォルツ―――!」

 

スウォルツは呼び声に応えることなく、頭を垂れて彼に対して希う。

 

「我らが王、英雄船アルゴー号船長―――イアソンよ。

 どうか悪しき魔王を打ち倒し、この世界に救いを」

 

声をかけられた男。イアソンが顔を大きく歪め、口角を吊り上げる。

彼の体内に収められたアナザーウォッチが、彼の意思に反応して起動した。

 

〈フォーゼ…!〉

 

今まさに目の前に存在する、フォーゼアーマー。

それと明らかに同系統のフォルムに、イアソンの姿が変わっていく。

ロケットを思わせる白いボディのアナザーライダー。

アナザーフォーゼが、ジオウの目の前で誕生していた。

 

「アナザーライダー……!

 だけどもう、俺は同じ力を持ってる―――!!」

 

ブースターを吹かし、アナザーフォーゼに向け加速してくるジオウ。

その反逆者を前にしてしかし、アナザーフォーゼはまるで一歩も動かない。

ジオウはその様子に僅かに逡巡したものの、一気に加速して突撃する。

 

「私と戦いたいか? だが私は王―――!

 最高の英傑たちを乗せたアルゴー船の長であり、世界の王たるイアソンに他ならない。

 戦いたいというならよし、受けて立とうじゃないか―――!

 タイマンでも何でも………!!」

 

アナザーフォーゼが頭を撫で上げるような動作を見せる。

そうして高速で接近してくるジオウを見て、高らかとその名を叫ぶ―――

 

「この俺の、ヘラクレスがなぁァ―――――ッ!!!」

 

「■■■■■■■■■―――――ッ!!!」

 

瞬間、二人のフォーゼの間に鉛色の巨人が落ちてくる。

圧倒的な力の気配。神をも凌駕する力を漲らせる、絶大なる栄光の戦士。

アルゴー船を揺るがしながら登場したその大英雄が、ジオウへ向かって咆哮した。

 

 

 




 
アナザーライダーフォーゼ! タイマン張らせてもらうぜ! ヘラクレスがなァ!!
 

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