Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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キャッスル&キングダム2004

 

 

 

「限、界かッ……!」

 

 遂にウィッカーマンの壁が瓦解する。迸る光はその残骸すら残さず巨人を消滅させていた。

 膝を落として息を切らすキャスターは、しかしよくぞ持ち堪えたという話だ。

 自身の宝具と引き換えとはいえ騎士王の振るう聖剣の全力の一撃を凌ぎ切るなど、並のサーヴァントには成し得まい。

 

 余波の衝撃でさえ受けて常人が立っていられるものではない。

 マシュを抱えたまま立香がその衝撃波に蹲る。

 オルガマリーもまたその近くで膝を落としていた。

 

「何よ……あんなインチキじみた強さ……! こんなの勝てるわけ無いじゃない―――!?」

「いや、こっから勝つよ」

 

 は? と。

 うっかり間抜けな声をこぼしながら、オルガマリーの視線がソウゴの声を追った。

 

 ウィッカーマンの残滓を踏み締めながら歩み、距離を詰めてきていたセイバー。

 彼女さえもが足を止め、ソウゴの方へと視線を向ける。

 そこには、コートを着た長身の男を後ろに侍らせたソウゴが立っていた。

 

「―――キャスターのマスターか。なるほど、変わり種というのは見て取れる。

 だが既にそちらは壊滅した。今から逆転は私を甘く見すぎだと言うより他にない」

 

 黒い聖剣を握り直し、セイバーはくすんだ黄金の瞳を周囲に巡らせる。

 既に魔力を使い果たしたキャスター。そしてどう見ても戦闘不能な状況なマシュ。

 この戦力で打倒できるほど、騎士王の剣は軽くない。

 

「別にあんたを甘く見てるわけじゃなくてさ。

 ここで負けたら俺の夢が叶えられないから、絶対に負けられないってだけだよ」

「―――ほう、清々しいまでに根拠が無いな」

「根拠ならあるよ。だって今の俺なら、()()()()()()()()()()!」

 

 ウォズから渡された道具を、自然と腰に当てる。

 それが正しい使い方だと何故か体が知っているように。

 

〈ジクウドライバー!〉

 

 その声こそは、このガジェットの起動音声に他ならない。

 ジクウドライバーと名乗り上げたそれは両端から噴き出すようにベルトを形成。

 自動で動くベルトはソウゴの腰をぐるりと回り、ぴたりと装着された。

 

 そしてもう一つ、ソウゴが懐から取り出したアイテムを正面に掲げる。

 グレーの本体部に白いカバーが嵌め込まれた懐中時計らしきもの、()()()()()()()

 

 そのライドウォッチ前面のウェイクベゼルを回転させ、起動待機状態へ移行。

 上部のライドオンスターターを押し込み、ライドウォッチを起動する。

 

〈ジオウ!〉

 

 ウォッチに描かれた顔。

 レジェンダリーフェイスが発光し、眠っていた力が呼び覚まされる。

 

 起動したライドウォッチをジクウドライバーのD'9スロットに装填。

 これでジクウドライバーは変身待機状態。それを知らせる待機音が繰り返し鳴らされる。

 

 ジクウドライバー上部のライドオンリューザーを拳で叩き、ドライバーの最終ロックを解除。

 ジクウマトリクス上でジクウサーキュラーが回転するために傾いた。

 

 ソウゴがジクウドライバーを操作する動作に合わせ、彼の背後に出現する巨大な時計。

 それは中央に大きく“ライダー”の文字が浮かんだ異様なもの。

 だが確かに()()()()()()()を背負いながら、腰を落とし、左腕を右肩近くまで上げ。

 最後に必要な言葉を叫び、ソウゴはシークエンスを完了する。

 

「変身!」

 

 上げた左腕を振り下ろし、傾かせたジクウサーキュラーを回転させる。

 それが360°回るのと同時、彼の背後で()()()()()()()()()

 

〈ライダータイム!〉

 

 ライダーの文字だけ飛ばし、背後の時計が分解される。

 砕けた時計はソウゴの周囲を取り囲みながら回転するリングへと再構成。

 次の瞬間、リングに囲まれたソウゴの体は全くの別物に変身していた。

 

 黒いボディ。胴を覆う時計のベルトを連想するような装甲。

 そして時計そのもののような頭部。

 最初に時計から飛ばされたライダーの文字が戻ってきて、最後にその頭部の目に収まった。

 

〈仮面ライダー! ジオウ!〉

 

 拳を握り締める。足を踏み締める。全身に力を漲らせる。

 自分が変わった。全身から迸るパワーがそれを十全に伝えてくれる。

 己の体を確かめながら昂揚する意識で世界へと向き合うソウゴ。

 

「これなら……!」

「祝え――――!」

 

 と、後ろにいたはずのウォズがいつの間にか前に立っていた。

 片腕で本を抱えたまま、ジオウと化したソウゴの家臣として彼の変身を祝福している。

 

「全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来をしろしめす時の王者!

 その名も仮面ライダージオウ―――まさに生誕の瞬間である!!」

 

 そう言いながら自らの腕を振り上げて、背後にいる彼の姿を大仰なまでに示すウォズ

 ただ、更に後ろで彼を見ていた者たちの反応は芳しくなかった。

 

「誰よ、あいつ……一体どこから……」

「爆発の時もカルデアにいた人ですけど……」

「あんな奴、わたしのカルデアのスタッフにはいないわよ……!」

『確かに……彼は事故現場にいました。ただ、ボクにも心当たりは……』

 

 どうやら突然この修羅場に湧いて出た彼自身の存在の方が注目を集めたようだった。

 不本意だという表情を全力で浮かべたウォズの背中にソウゴが声をかける。

 

「ウォズの方が注目されてるね?」

「……こんなはずでは―――!」

 

 やたらと困惑して手元の本を開き、頁をめくるウォズ。

 そんな彼から視線を外し、とりあえず。

 

「これなら、いける気がする!」

 

 ジオウが溢れる力のまま、セイバーに向けて駆けだした。

 

 目の前の光景に興味があったのかなかったのか、セイバーの対応は迅速だった。

 彼女が横薙ぎに払う黒い聖剣。その刀身から噴き出す黒い魔力の渦。

 嵐の如く立ちはだかるその壁を、ジオウのボディが()()()()()()()()()

 その姿を前にしたセイバーの眼光が僅かに鋭くなった。

 

 魔力の嵐が吹き荒ぶ100mを5秒で走破し、セイバーを目掛けて拳を繰り出す。

 ジオウの拳とそれを目掛けて振り上げられる黒い聖剣が衝突した。

 魔力と火花の弾け飛ぶ衝突の中、当人たちが小さく言葉を交わす。

 

「―――世迷言、ではないようだ」

「でしょ?」

 

 ジオウの拳を覆うグローブ、ジオウリープハンドにより増大したパンチ力。

 それはけして魔力の怪物たるこのセイバーのサーヴァントにさえ劣らない。

 

 魔力の壁だけでは阻めない超威力のパンチ。

 何度なくそれを繰り出し、セイバーへと叩き込もうと振るい続ける。

 剣と拳が打ち合えると言うのなら、手数で優る拳がいずれ勝つだろう。

 

 ―――その相手が、セイバーのサーヴァントでなければの話だが。

 

 来たる拳を剣の腹でいなし、胴体に蹴りを見舞う。

 僅かに体勢を崩したジオウの腹に魔力を漲らせた聖剣の横薙ぎが直撃した。

 盛大に火花を撒き散らしながら後方に吹き飛ばされるジオウ。

 

(―――斬れん、か)

 

 セイバーが聖剣の柄に乗せた指を微かに動かし、その手応えに目を細める。

 

 今のはサーヴァントでさえ十分に両断が可能な一撃だったはず。

 この聖杯戦争に呼ばれていたバーサーカー相手ですら今の一撃ならば痛打となった筈だ。

 だというのにジオウは火花を散らしただけ。まるで斬れるという手応えを感じない。

 

 ジオウの全身を覆うアジャストライクスーツが、攻撃の接触と同時に硬化したためだ。

 平成ライダー最先端技術により形成されるこのスーツの物理的な破壊は困難極まる。

 実質的な攻略法は許容を超えるダメージによる変身解除以外にないだろう。

 

「っ、たた……! やっぱ剣相手に素手は厳しいよね。こっちにも剣があればいいのに……」

 

 蹈鞴を踏んだジオウが体勢を立て直しながらそう呟く。

 するとジクウドライバーが発光し、その光が目前にジオウの武器を生成した。

 横に『ケン』とそのまま書いてある、分かり易いほどに直剣な武装。

 

〈ジカンギレード! ケン!〉

 

「ホントに出た!」

 

 嬉しげにその剣を手に取って、ジオウは再びセイバーへと躍り掛かった。

 字換銃剣と聖剣の刃が衝突する。火花を咲かせながら幾度となく交錯する両者の刃。

 

 セイバーの立ち回りはまさに要塞が如く。ジオウの攻撃は全て弾かれ、僅かな隙に逆に撃ち込んでくる。

 あらゆる攻撃に応対してくるセイバーを打ち崩すため、何度となく立ち位置を変えながら斬りかかるジオウ。

 だが剣士として呼ばれた者の剣技を打ち崩せるほどの技量は、今のソウゴにはない。

 

 ソウゴには天性の戦闘センスがあるというならば、セイバーもまたそれを持っている。

 彼女はその力で戦い抜いたが故に英雄として名を馳せ、今この場に立っているのだ。

 

 ジカンギレードの剣閃を逸らしたセイバーの返す刃。

 斬り上げる聖剣の閃きが、再びジオウの胴体へと直撃した。

 盛大に吹き飛ばされるジオウ。その瞬間に―――

 

「今!」

 

〈ジュウ!〉

 

 彼の手にした剣が銃へと変形していた。

 今の攻防による結果、彼はただ吹き飛ばされたのではない。

 剣を振り抜いた姿勢の彼女にその銃口を向けるため、射線を取れる角度でセイバーに吹き飛ばさせた、なのだと。誘導されたことになるセイバーは思わず息を呑む。

 

 瞬間、連続して響く銃声。

 ギレードマズルから射出された弾丸が、その狙いを過たずセイバーに向けて殺到する。

 銃撃の嵐を前に眉を顰めるセイバー。

 

 されど彼女は剣の英霊。

 振り抜いた剣を無理矢理に引き戻し、迫りくる弾丸を剣撃をもって迎撃する。

 

 無視しても鎧で弾ける軌道のそれは見過ごし、命に届き得るものだけを優先して切り払う。

 弾かれなかった弾丸は鎧に傷をつけながら、しかし鎧の曲面に弾道を流され逸れていく。

 全ての弾丸を捌き切り、彼女は結果的に銃撃の雨をほぼ無傷で凌いだと言っていい。

 

〈タイムチャージ! 5! 4!〉

 

 だが吹き飛ぶことで距離を開けたジオウの攻撃はそこで終わらない。

 彼の手はジュウモードの必殺技起動装置、ギレードリューズを押し込んでいた。

 タイムカウントと共に徐々に充填されていく銃撃のエネルギー。

 

 それが通常の攻撃以上の威力を持つなど、言われずとも理解できるだろう。

 だが武装そのものが大声でカウントダウンしているならば、攻撃のタイミングはよく分かる。

 5秒もあれば迎撃のための猶予は必要十分。

 今からでは真名解放は間に合わずとも、先にそうしたように卑王鉄槌で薙ぎ払える。

 

 銃撃を切り払ったままに剣を振り上げ、魔力を噴き上げる騎士王。

 

〈3! 2!〉

 

卑王(ヴォーティ)……!」

 

 そうして構えられた聖剣を突如、横合いから灼熱の熱波が薙ぎ払った。

 対魔力を有する彼女にはほぼ通らない。

 だがほんの僅かに抜けてきた熱を浴びながら、思わずその熱源に視線を向けるセイバー。

 そこには、とうに限界だろうに不敵に笑うキャスターがいた。

 

「――――キャスター……ッ!」

「悪いなセイバー。これでもサーヴァントとしての矜持はそこそこあるつもりでな。

 マスターばっか戦わせてたら、情けないにも程があるって話だ……!」

 

 既に聖剣の光を塞き止めるのに魔力を使い果たしていたキャスターの横槍。

 それはほんの僅か、聖剣に魔力を積み上げる事が遅れる程度の被害。

 だがそれこそが、ジオウを止める事が出来ないという最高の結果を引き寄せる。

 

〈1! ゼロタイム!!〉

 

「いっけぇえええ!!」

 

〈スレスレ撃ち!!〉

 

 先程の弾丸を凌駕するエネルギーが、その瞬間に銃口から溢れだした。

 

 剣で払い切れる量ではない怒涛の銃撃。

 だがセイバーはキャスターから視線を戻してその攻撃に対して正面から向かい合う。

 聖杯より体に流れ込む無尽蔵の魔力を解放し、彼女は迎撃を開始した。

 

 着弾までの僅かな間に放った魔力を載せた剣撃。

 それを凌駕する銃口から放たれた圧倒的なエネルギーの奔流。

 魔力放出による壁も、聖剣での迎撃も。

 ど真ん中から撃ち貫いていく正面突破の一撃。

 

 ―――止めきれなかった弾丸が彼女の体を直撃する。

 

 初めて彼女が後ろに吹き飛ばされるカタチで、その侵攻を阻止された。

 セイバーは背後の岩壁まで弾幕に押し飛ばされ衝突し、瓦礫と粉塵を巻き上げる。

 

「やった、の……?」

 

 マシュの治療を行っていたオルガマリーの声。

 彼女の治療のおかげか、マシュは何とか体を起こせる程度に回復しているようだ。

 

「いや……()()()()、だと思う」

 

 彼女の希望的観測に対して、ソウゴは己の直感に従って否定を示す。

 

 ―――その次の瞬間。

 瓦礫と粉塵を蒸発させながら、黒い魔力の柱がそこに立ち上った。

 

 誰もが理解する。

 それが、それこそが“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”であると。

 そして同時、ソウゴはこの決戦にどう決着をつけるべきなのかを何となく理解した。

 

「立香! マシュ! ちょっと手伝って! 俺じゃあれ止められなさそう!」

 

 すぐさま倒れたマシュたちに走り寄って声をかけるジオウ。

 ぎょっとした顔のマシュが立香の手を弱々しく掴む。

 

「ちょっと……マシュはまだ宝具の解放も出来ないのよ!? あのセイバーの宝具なんて止められるわけがないわ! 魔力の充填を今すぐあなたが止めに行けば―――!」

「あの一撃は()()()()()()気がする。だから、俺じゃ止められない。

 多分、マシュにしか止められない」

「で、ですがわたしには真名を解放した聖剣どころか……ただの魔力放出さえ止め切れませんでした……ここでわたしが前に出ても……ただ、負けてしまうだけで」

 

 そう言って視線を下に落とすマシュ。

 ―――彼女にサーヴァントとしてキャスターが声をかけようとして、しかしマスターである藤丸立香の目に止められた。肩を小さく竦め、口を閉じるキャスター。

 

 そんな自分のサーヴァントの手を握り返しながら、立香は声を張り上げた。

 

「ただ負けるだけなんて、そんな事ないよマシュ。

 だってマシュは、あのアーサー王にだって勝ったじゃない!」

「……え、それはどのような。今もわたしは、セイバーの攻撃でこうして……」

「マシュの仕事は私を護ること! あっちはあんなに凄い攻撃バンバン出してきたのに、私は今こうしてピンピンしてる。実質マシュの勝ちでしょ!

 ううん、誰が認めなくても私の判定ではマシュの勝ち!」

「そ、それは流石にどうでしょう! 誤魔化すにもほどがあるような!」

 

 抗議に顔を上げたマシュの頭を、立香が抱きしめる。

 その行動にどう反応を返せばいいのか、マシュが当惑しておろおろと。

 

「え、そ、その、マスター……?」

「マシュは勝ち負けになんて拘らなくていいよ。私が一緒にいれば、誰相手にだってマシュの勝ちだって言い張ってあげるから。

 ―――だから、()()()()()()。前に行く時は私が先に歩くから、マシュは私みたいな力になれないへっぽこマスターを護ってあげて」

「あ……」

 

 ぐいと自分も立ち上りながら、マシュを引っ張り上げて立たせてみせる。

 その視線はマシュを治療していた姿勢のまま固まってる所長に向いていた。

 

「所長!」

「な、なによ……!?」

「マシュの宝具に名前を下さい!」

「名前……?」

 

 困惑するオルガマリー。

 たとえマシュが知らないとしても、これは既にサーヴァントの宝具だ。

 正しい名前がもうあって、他の名前なんて何の意味もないだろう。

 だが、立香の顔は本気のそれだった。

 

「マシュの中のサーヴァントも、宝具も、名前が分からないから呼べないっていうのなら。とりあえず名前をつけて呼びかけてみれば変わるかもしれないし、違うなら違うって言ってくれるかもしれない。カルデアのサーヴァントとしてマシュが構える初めての宝具なんだから、そこは一番偉い所長につけてもらわないと!」

「な、なによその理屈―――!? そんな簡単にできることだと思って―――!」

「それとも所長にはマシュの中の人に怒られそうな変な名前をつけるセンスしかないんですか!」

「何の話よ!? ……っ、ならカルデアよ! いえ、人理保障機関が掲げるに相応しい名なら“カルデアス”ね! 霊基の起動をさせる呪文として、と言うなら“ロード・カルデアス”!

 ほら、どう!? これでいいでしょう!!」

「よし決まった! 行こう、マシュ!」

「ちょっ!?」

 

 マシュの手を引いて、そのまま立香が走り出す。

 思わず無抵抗について行ってしまうが、マシュとしては何とか彼女を止めねばならない。

 彼女を引き留めるために足に力を入れ直す。

 

「ま、待ってください先輩! セイバーの宝具に立ち向うにしても、わたし一人で行きます!

 マスターはわたしの後ろに退避していてください!」

「大丈夫! マシュが護ってくれるから!

 ……マシュは凄いよ。いきなりこんなところに来ちゃって、何もできない私をずっと助けてくれて。だからどんな相手だって私はマシュが護ってくれる事を疑ったりなんてしない。マシュが私を守れないかも、なんて怯える必要はない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 きょとん、と。彼女の言葉にマシュの顔から恐怖も困惑も全部が吹っ飛んだ。

 見える立香の横顔はいっそ得意気ですらある。

 

 いろいろ言いたいこと、感じたこと。いっぱいある。

 恐怖だって一回吹っ飛ばせたけど、まだまだどんどん湧いてくる。

 けれど、それ以上に今。

 

「―――はい。マシュ・キリエライト、マスターを騎士王の聖剣からも必ずお守りします!」

 

 ―――彼女を護るための勇気で、胸がいっぱいに満たされた。

 

 黒い膨大な魔力の柱が集束し、やがてその中から剣を構えた騎士王の姿が露わになった。

 全ての魔力は聖剣の刀身に圧縮されている。今から振り下ろされる一撃は、先にウィッカーマンを消し飛ばしたあの一撃すら凌駕するだろう。

 

「顔つきが変わったな。試すに足る、と改めて判断しよう。

 ―――遅くなったがこの一撃を以って貴様の真価を見極めるとしよう。盾のサーヴァント」

「……マスター、わたしが倒れないように支えてくれますか?」

「うん!」

 

 マシュが立香の前に立ち、そして彼女の背にマスターの手が置かれる。

 背負ったものを認識し、サーヴァントの表情が変わる。

 そしてそれを見届けた騎士王が己が聖剣を振り下ろした。

 

「受けるがいい、“約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)”――――――!!!」

「敵サーヴァント宝具、来ます――――!」

 

 溢れる黒い魔力の濁流。全てを呑み込む極光は一瞬の内にマシュの構えた盾へと辿り着いた。

 極光は盾を突破できずに弾かれて、周囲を蹂躙しながら飛散する。

 だが一瞬だけで終わるはずもなく、光の奔流は徐々に勢いを増していく。

 

 全身が軋む。オルガマリーにより治療された傷が一気に開く。

 

「ぐ、……ぅぁ……っ!」

 

 体が引き裂かれるような痛み。

 本当に引き裂かれるような痛みだけか? もう引き裂かれてバラバラになっているのでは? そんな恐怖が止まらない。だが、背中に感じる温かさが、自分の心を支えてくれている。

 

「マシュ――――!」

「は、い……!」

 

 今日と言う日に色んな事がいっぱいあった。

 ほんの1日のはずなのに、カルデアという環境で見たこと、聞いたことに負けないくらい。

 

 だから、正直に言おう。守りたいと思った。

 よく知りもしない()を初めて感じさせる人に出会って、初めて守りたいと思った。

 自分はそのためのものなのだという事に、胸を張れると知った。

 だから、自分を()()に連れてきてくれた人たちに感謝して、与えてくれた―――

 

 ――――わたしの盾の名を呼ぼう!

 

「宝具、展開……! “擬似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)”―――――ッ!!!」

 

 余波でさえ凶器足り得る聖剣の光。それらが全て、彼女の背後から消え去った。

 絶対に通さない、守り抜いてみせる。そうと心に決めた少女の覚悟。

 それが今、光の盾と化して最強の聖剣さえも凌駕した。

 漆黒の光は盾へと激突し続けるが、揺るがす事さえ出来ずに四散していく。

 

「――――自明、か。だが」

 

 それでも騎士王の聖剣が放つ光に衰えはない。

 漆黒に塗り潰された光ながらも、けしてそこに邪悪はない。

 ただただ迸る光の勢いが増し続ける。

 

 余裕など生まれるはずもなく、セイバーの攻撃は苛烈なまでに威力を増し続ける。

 正面から受け止めていられるのはこの光の盾があるからだ。

 これを支え続ける腕も、足も、既に限界なんて超えている。

 ただ背中を支えてくれる手だけが、今マシュが立っていられる理由なのだ。

 

「マシュ……!」

「は、い……なん、でしょう、マスター……!」

「えっと。勝って……違う。負けないで、も違う。―――うん」

「は、はい……?」

 

 彼女の手が背中から離れて盾を持つ手に添えられた。

 驚いて彼女の方を見ると、にこりと笑って前を見る。

 

()()()、マシュ!」

 

 そう言って彼女の手の甲が光る。令呪の輝き。

 既に底を割っていた体力が戻ってくる感覚。

 その感覚と、支えてくれる彼女の暖かさに、マシュもまた前を見た。

 

「はい!!!」

 

 盾を前へと強引に押し込む。光の斬撃ごと押し返す限界以上のパワープレイ。

 騎士王の目が驚愕に見開かれる。

 寄せ来る魔力の津波をそっくりそのまま全部押し返すように、盾を思い切りスイングした。

 

「やぁあああああああッ!!!」

 

 寄せ来る光の斬撃と跳ね返る光の濁流が衝突した。

 マシュの背後から先以外のあらゆる場所に光が飛散し破壊が齎され、大地が捲れ上がり、壁が裂けて、天蓋が崩れ落ち始める。

 そして遂には逆流する聖剣の破壊力に騎士王さえも体勢を崩し、聖剣の放出が消えた。

 

「やってくれる……!」

 

 よろめきながら、僅かに喜色が混じったような、しかし尖った声。

 

 そしてこの瞬間こそを待っていた。

 この瞬間こそがこちらが聖剣を越えて相手の咽喉元まで斬り込める唯一の隙。

 

 ジオウの手がドライバーにセットされたジオウウォッチを分離させる。

 そのウォッチの行先は、ジカンギレードの装填口。

 

〈フィニッシュタイム!〉

 

 その音で気付いたセイバーが立て直そうと構え、迫る敵影の纏うエネルギーに目を見開いた。

 ジオウの手にあるジカンギレードの発する力は先程までの比ではない。

 

 騎士王とてあれは宝具以外では受け止めきれまい。

 足場は崩壊、周囲は先に氾濫したエクスカリバーの魔力で未だに爆砕が続いている。

 聖剣を振るうための状況が確保できない。

 

「小癪な――――! だが!!」

 

 それでもなお、彼女は黒き聖剣を振り上げた。

 そしてただそれだけで物理的な破壊を伴う圧倒的なまでの魔力放出。

 上へと立ち上っていく魔力のブーストが、彼女を()()()()()()()()()

 

 捲れあがった岩盤を踏み砕く。暴れ狂う瓦礫を蒸発させる。

 安定した足場でないと言うのなら、それを全て押し潰して自分の足で均せばいい。

 自ら発動条件を整えたセイバーの魔力がすぐに聖剣の起動へと回される。

 どれほどの悪環境に押し出されようと、それを斬り開いてこその剣の英霊。

 

「“約束された(エクスカリバー)―――――!!」

 

 目の前に再び黒い壁と見紛う魔力の柱が立ち上がる。

 それが振り下ろされれば、如何なジオウの装甲であろうと耐えられる保証はない。

 

 だがそれでももう彼は止まらない。

 その絶体絶命を斬り開くのが剣の英霊だというのなら。

 この絶体絶命から勝利に至るのが()()()()()()なのだから。

 

 ジオウの体が全力で稼働し、セイバーまでの距離を一息に詰め切った。

 

 ジカンギレードのトリガーを引き絞る。

 魔力の満ちた聖剣が振り下ろされる。

 

勝利の(モルガ)―――――!」

 

〈ジオウ! ギリギリスラッシュ!!〉

 

「おりゃあああああッ!!」

 

 ―――斬り抜く一閃。

 

 ライドウォッチのエネルギーを破壊力に転化して、光の刀身を形成した斬撃。

 それが僅か一瞬だけ速く、彼女の体へと斬り込んだ。

 

 ―――そしてその一撃こそが、黒きアーサー王の霊核を両断していた。

 

 

 

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