Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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託・宣・神・判-1000

 

 

 

ある程度の休息を挟んだことで回復したライドウォッチ。

変身し、ドライブアーマーを装着したジオウがタイムマジーンに乗り込む。

そうなればマジーンの頭部もまたドライブウォッチへと変更される。

 

その頭部を輝かせ、発揮されるドライブの力。

マジーンの周囲に展開される、シフトカー状のエネルギー体。

 

外見はミニカーの如きそれらの存在が、修理すべき対象の周囲を飛び回る。

ミニカー軍団はピットクルーと呼ばれる三体を主体にして行動を開始。

タイムマジーン自身。そして黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)の修理にかかった。

 

マジーンはともかく船は材料となる木材が足りていない。

そのためクー・フーリンとネロとオルタは、周辺の木々を次々と切り倒していく。

切り倒された木はシフトカーによって運ばれ、処理され、部品に加工される。

 

ちょっと信じられない速度で復旧していく黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)

 

海賊たちは感心しきりでその光景を見上げていた。

 

タイムマジーンの中でそんな状態を眺めながら、ソウゴは通信機から入ってくる浜辺での会議に耳を傾けた。

 

 

 

 

「“契約の箱(アーク)”?」

 

「そう。それがこの僕、ダビデの宝具だ」

 

立香が森の中から持ち出されてきた黄金の箱を見て、首を傾げる。

箱の横に挿した二本の棒を担ぎ、サーヴァントが皆で御神輿のように持ってきた箱だ。

それを見ながら名を告げるのは緑髪の青年、ダビデ。

 

古代イスラエルの王、ダビデ。

彼はアーチャーのサーヴァントとして、この特異点に召喚されていた。

 

「“契約の箱(アーク)”、というと……

 モーセが神より託された、十戒が刻まれた石版が収められた箱―――でしょうか?」

 

彼が宝具として語るその名を思い起こして、ダビデに問いかけるマシュ。

 

「うん、それ。まあ今まさに僕の宝具だ、なんて言っておいてあれだけど……

 厳密には僕の宝具というわけではない。あくまで僕はあの箱の“所有者”。

 簡単にそうはならないし、奪った側の人間はろくでもない結末が待っているだろうけれど……

 僕がこの箱が奪われる、という可能性もないわけではない」

 

彼は困ったようにその荘厳な黄金の箱を見ながら語る。

ジャンヌもまた、どういう反応をするべきなのかと迷っている様子だ。

何とも言えないような顔で、箱とダビデの顔を交互に見ていた。

 

そんな状況でダビデはとりあえず、と。

あの宝具に対しての注意点を簡潔に述べた。

 

「まあ、現状でとりあえず気を付けて欲しいのはあれは触ると問答無用に死ぬってことだ。

 危険だから触らないようにね」

 

「……死ぬの?」

 

「うん、完全に死ぬ。超死ぬ」

 

えぇ…と一歩距離を取る立香。

だよねぇ、と言いたげに目を伏せるダビデ。

 

「だからそうして、横に挿した棒で持ち上げないと運ぶことすらできない。

 偉大なる先祖(モーセ)に僕は尊敬を抱くけど、面倒なものを残してくれたとも思うよ。

 ねえ、そう思わないかい? アビシャグ?」

 

そう言ってジャンヌを見るダビデ。

彼女はそのともすれば踏み絵のような質問にイエスもノーも返さず、ただ呼び名に反応する。

 

「その、アビシャグというのは……」

 

「ダビデ王が娶られた女性の名前、ですよね?」

 

マシュが彼の来歴からその名を思い出し、確認した。

何故その名をジャンヌに対して使うのか、という疑問のつもり。

だが何を考えているのかダビデは周囲を見回しうんうんと首を縦に振る。

 

「そうだね、アビシャグだね。ところでこの場にはかなりアビシャグな娘が多い。

 立香にマシュ、キミたちも僕からすればかなりアビシャグだ」

 

「アビシャグというのは特定の個人の名前なのでは……?」

 

目の保養とばかりに彼女たちを見回すダビデ。

少し呆れている様子で、そんな彼に対してジャンヌが呟いた。

 

「……そのように女性にだらしなくしているから“契約の箱(アーク)”を託されながら、姦淫の罪を犯すことになったのでは?」

 

「うん? ああ、まあそうかもね」

 

それこそあの箱に収められている石板に刻まれた十戒の一つ。

姦淫の罪を犯したことのある彼は、さほど気にする様子もなくジャンヌの言葉に頷いた。

 

「別にそれだって僕からすれば次に活かすという意味で反省はしたけど、後悔はしてないよ。

 だって僕は最初から最後まで僕だった。その精神構造ばかりは何一つ変わらなかった。

 その反省を持たないまま同じ状況になれば、僕は同じように同じ罪を犯したはずさ」

 

自分だからこそ、彼は自己を精神をそう理解する。

そしてジャンヌに向き直り、言葉を続けた。

 

「だからこそ、全知なる神が僕に罰と反省を与えてくれたのだろう。

 神だって最初から僕を罰することになることは織り込み済みだったに違いない。

 僕という人間の事を、神が理解していないはずがないのだから。

 それにほら。僕が姦淫の罪を犯して、彼女を寝取らなければ―――

 僕の次の王であった、あのソロモンの奴だって生まれないわけだろう?」

 

ピクリ、とマシュがその言葉に肩を揺らした。

マシュほどに分かり易くもないが、ジャンヌもまた。

そんな彼女たちの様子を見て、ダビデが目を細める。

 

「―――うん? どうしたんだい、この雰囲気。

 残念ながら僕の言葉に惚れてしまった、という感じではないようだけど」

 

首を傾げるダビデ。

そんな彼に対して、通信機の先からロマニが声をかけた。

 

『………それはこちらから説明します、ダビデ王』

 

「おや、どこからともなく届く不思議な声。

 ろくでもない人生を辛いと思いつつそこそこ楽しみながら歩んでそうな声だ」

 

『どういう例え方なんだい、それ……』

 

よく分からない例えだと、呆れるようなロマニ。

適当に言った言葉だったのか、問われたダビデの方こそ首を傾げる。

 

「さて。僕が王様やってる時と同じような声ってことじゃないかい?

 羊飼いでいたいのに、王様でなくてはならないみたいな苦悩感?

 まあいいや、どうでも。それで、ソロモンの奴が何かしたのかい?

 言っとくけどあいつが何をしでかしたとしても、僕は責任を取らないよ?」

 

『―――この人理焼却。一つ前の特異点で我々は首謀者の一人と対峙しました。

 その時名乗った彼の名は―――フラウロス。

 彼が正体を現すと真正の悪魔に等しい怪物、魔神へと変貌……つまり………』

 

ローマで対峙した魔神フラウロスを思い起こす。

腐肉と赤い目で構成された、醜悪なる怪物。

フラウロス―――レフは、この人理焼却は己の王の偉業である、と口にしていた。

 

そこまで聞いたダビデはああ、と頷いて顎に手を当てる。

 

「ああ……この人理焼却、主犯がソロモンの可能性があるのか。

 ふーん。んー……やるね、あいつはやる。必要ならやる。あいつらしい根暗さだ」

 

うんうんと首を縦に振りながら、彼は間違いないと断言する。

ロマニが困惑しているかのような声で、ダビデの言葉に突っ込んだ。

 

『ちょ、そんなに軽く言う話かな……!?』

 

「軽く言おうが重く言おうが関係ないさ。やる時はやる奴だよ、ソロモンは。

 そんでもって最高に人でなしだ。もしかしたら僕よりも。

 ま、僕はあいつと殆ど関わってないからあいつのことよく知らないんだけど。

 子育てとかちょっと興味ないしね、僕」

 

子育てにまるで興味のない父親がそうのたまう。

そんな彼に対して、ロマニが爆発するように声を上げた。

 

『じゃあ何で断言できるんだい!?

 というか親ならまずそこはソロモン王の事を信じるところじゃない!?』

 

「信じてるとも。奴はやる、完全にやる。ほら、これこそ僕の信頼感。

 それにほら、親子の絆的な……いや、この言い方は違うな……

 ああ、そうだ。こうか―――だってアイツ、僕の息子だぜ?」

 

『―――くそう! その言い方だと言い返せない!

 ソロモン王が実はアレな奴かもしれないと思わせる圧倒的説得力!!』

 

バンバンと机を叩く音が聞こえてくる。

そんな彼が通信の向こうで、押し倒されるような派手な音が聞こえた。

 

『はいはい、一人盛り上がってるソロモン王ファンは脇に置いとこう』

 

直後に聞こえてくるダ・ヴィンチちゃんの声。

さっさとロマニを転がして、彼女がオペレートを始めるつもりのようだ。

入れ替わった通信相手に対して、立香が首を傾げた。

 

「ドクター、そんなにソロモンのこと好きなの?」

 

「わたしは聞いたことはありませんでしたが……」

 

『ははは、何せ相手は魔術王ソロモンだ。

 魔術師なら誰だって一度は憧れてみるものだろうさ』

 

へー、と相槌を打ちながらダビデを見る立香。

彼は小さく肩を竦めていた。

 

『それでダビデ王。この人理焼却、やはりソロモン王の犯行だと思うかい?』

 

「意味があるならやるだろうし、意味がないならやらないだろう

 何故あいつがそうした行動に至ったか、そんなの僕にはわからないし」

 

そう言った彼に対して、立香は思い出したかのようにそれを口にする。

 

「レフが言ってたね。人類は我らが王の寵愛を失ったから滅びるんだ、って」

 

それを聞いた彼が僅かに目を細めた。

人類は我らが王の寵愛を失った、だって。

そのセリフを聞いて少し笑いそうになった口元を固く縛る。

それくらいにかなり面白い冗談だった。

 

「……寵愛を失くした? あいつが? 人類に?

 ―――へぇ、じゃああれだね。原因は愛人十人に同時に振られたとかだ。

 振ったのはこっちだぞってアピールするために、世界を滅ぼそうとしてるのさ」

 

彼が持つ寵愛なんて、最初から「王」としての機能で持っていた感情だろうに。

ならその「王」の付属品を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

あれには最初からそんな余分な機能は用意されていない。

ルーティンワーク以外をこなすなんて、そんな機能があるのならあれは最初から……

 

しかしまあ、そんなアイツという機構。ソロモンという「王」の性能。

ソロモンをきちんと知ってる人間なら、誰だって理解しているだろうに。

ソロモンの存在を匂わせるくせに、何でそんなずれた主張が出てくるのやら。

そもそも彼を知らないのか、知ってるくせに理解できていないのか。

黒幕はあんな王様というシステムを使って何がしたいのやら。

 

ダビデは心中で軽く笑い、とりあえず彼の女性遍歴を盛ることにした。

「愛人も多くいたけど流石にソロモン王はダビデ王よりは節度があったと思うなぼかぁ!」

なんて、通信機から離れた場所から上がってくるそんな声が彼に届いた。

 

 

 

 

「私が召喚された時点で、奴の目的は“契約の箱(アーク)”だった。

 それと、この世界のいずこかにいるらしい神霊を手中に収めること」

 

アタランテの語るイアソンの目的。

それは“契約の箱(アーク)”の入手と、神霊の捕獲だったという。

神霊の捕獲とはつまり、エウリュアレの捕獲のことだろう。

確かに彼はエウリュアレに執着していた。

黒髭も執着していたが―――彼は恐らく、多分、関係ないだろう。趣味だと思う。

 

「ダビデ曰く、あの箱に神霊を捧げれば世界は終わる―――らしい。

 厳密に言えば、それは特異点限定の話とのことだが」

 

「世界が終わる、とな?」

 

諸々省略して語られた彼女の言葉に、ネロが反応する。

随分と話が大きくなった、と。とはいえ、今まさに時代の存亡を賭けて戦っているのだ。

そういうことでも何のおかしさもないとは言えるだろう。

 

それを聞いていたオルガマリーはおおよそ把握できたのか、渋い顔をする。

 

「つまり、特異点くらい不安定になっている時空では耐え切れない現象が起こるのね。

 そうなれば、この時代を消失した人類史自体が崩壊する。

 聖杯という火種で燃え尽きるのを待つのではなく、“契約の箱(アーク)”という爆薬を使う。

 言ってしまえばそれだけね。……これをそれだけ、で流すのもどうかと思うけど」

 

「……私は召喚されて早々、奴の船を降りた。

 何を求めているかは知らんが、ろくでもない事だろうとは見当はついたからな。

 その上でダビデと合流してあの箱が何かを知り、そして―――」

 

「私とも会ったんだよねぇ」

 

銀髪の浮遊している美女がそう言ってにこにこと微笑んだ。

彼女の肩の上には熊もいる。

どこか虚ろな目をしたアタランテが小さく頷いた。

 

「そんで、どっかにいる神霊ってのをこいつのことだと考えたわけだ。

 実際はそっちのエウリュアレのことだったみたいだけどな」

 

熊が彼女の上で肩をぽんぽん叩きながらそう言う。

―――神霊。彼女のことを神霊と、そう言った。

オルガマリーが目を細めて彼女を上から下まで眺めてみる。

 

「神霊……?」

 

「はーい、オリオンの霊基を借りてます。アルテミスでーす」

 

特に何のこともない、と言うかのように告白するアルテミス。

唖然とするオルガマリーの前で、熊もまた自己紹介を始めた。

 

「はーい、アルテミスに霊基を借りられた。オリオンでーす。

 オレ ノ カラダ ヲ カエシテ」

 

「ダメー、そんなことしたらダーリンってばまた浮気する気でしょう?」

 

肩に乗っていたオリオンを取り上げて、両手で抱えるアルテミス。

オリオンは彼女の言葉に即答しようとして―――

 

「シナ………イヨ?」

 

しかし、周囲の他の女性を見回して微妙に言葉を詰まらせた。

ギリギリと力を増していくアルテミス。

 

「ねえねえダーリン。何でいま言葉につっかえたの? 私とっても不思議ー?」

 

月の女神アルテミス。そして狩人オリオン。

ギリシャ神話において、恋物語を残した二人。

まさかそれが目の前に美女と野獣? となって現れているとは。

 

「オリオンの霊基を借りて限界まで神格を落としての降臨、みたいだな。

 まあ、そっちを生贄にしても目的は達成できるだろうが」

 

ランサーが肩を竦めながらそう言う。

神格が可能な限り落ちているとはいえ、その正体が純粋な神であることに変わりはない。

霊基がオリオンとはいえ、恐らく彼女が生贄にされても時空の消滅に繋がるだろう。

 

「きゃあダーリンこわーい! 私、生贄に捧げられちゃう!!」

 

「多分イアソンはエウリュアレを選ぶと思うぞ。

 お前を生贄に捧げるの凄いめんどくさいだろうから。ぶぎゅる!?」

 

「……私としては是非そっちに狙われてほしいけどね」

 

オリオンに抱き着いた腕を締め付ける。

潰れた人形のようになった彼が悲鳴を吐き出してぴくぴく動いた。

そんなやり取りを見ながら、エウリュアレは溜め息を一つ。

 

オルタがそれを眺めながら、周囲を確認する。

 

ドレイクたちは修理されていく船に付きっ切りで、エルメロイ二世も一緒にいる。

彼が出来る限りの防護の術式を船体に刻んでいるようだ。

同時にあの船を孔明の陣地にすることで、援護を円滑にする目的があるのだろう。

あれが聖杯。

 

そしてエウリュアレが神霊、更にダビデの“契約の箱(アーク)”。

 

「つまりあいつが求めてるもの全部、ここに揃ってるわけね。

 そのうち、あのイアソンはこっちに攻めてくるわけでしょ?」

 

彼女の言葉に、アタランテは肯定を返す。

 

「そうだな。お前のように、何も考えずヘラクレス頼みで攻めてくるだろう。

 そう、まるでお前のように」

 

「―――喧嘩売ってんのこの緑!?」

 

睨み付けるオルタ。

それを涼しい顔で流しながら、心外だとでも言いたげに言い返すアタランテ。

 

「違ったか? 確か世界を滅ぼすため、何も考えずファヴニールに乗って意気揚々と飛び立ち、撃ち落とされて泣きながら帰ってきた黒いのがいたような気がするが。

 ―――なんだ、頭がイアソンと同レベルだな」

 

「……あっそ。分かったわ、やっぱ喧嘩売られてんのね。

 いいわよ、やってやろうじゃないの―――!」

 

「やめなさい、アヴェンジャー……そんな無駄なことに魔力を使わせないで」

 

体から黒い炎を滾らせて、今にも抜剣しそうな態度を見せるオルタ。

彼女はギロリと視線を尖らせながら、オルガマリーを睨む。

だが数秒後、小さく舌打ちして炎を収めた。

 

そんな光景を横から眺め、小さく目を細めるアタランテ。

 

「………ふむ」

 

「しかしさて、どうしたものか。

 アタランテが断言するというのならイアソンたちがここにくるのは時間の問題だろう。

 キャスターは相手が陸に上がるというなら、ヘラクレスは足止めに終止。

 マスターにイアソンを狙わせ、決着をつけるべきと言ったが……

 イアソン側に隠し札がないとも限らん。倒せるならヘラクレスも倒したいところだろう?」

 

そう言いながらアタランテを見るネロ。

ヘラクレスの打倒、というのはそんな風に問われて簡単に出来ると返せる偉業じゃない。

彼女もそれが出来れば苦労はない、と肩を竦め―――

 

『ねえ、この辺りにさ。狭い洞窟か何かない?』

 

オルガマリーの持つ通信機から、マジーンの中にいるソウゴの声が届いた。

 

 

 

 

ダビデたちとアタランテたちに別れていたグループが合流し、会話を交わす。

その目的はただ一つ、ヘラクレスの打倒。

そんなことを目指して提案されたソウゴの案を聞き、ダビデは己の宝具を見る。

 

「“契約の箱(アーク)”とは死をもたらすもの。

 仮に接触してしまえば、大英雄ヘラクレスと言えど全ての命が死を迎えるだろう。

 けどだからこそ。バーサーカーである彼はきっと、本能でその正体を察知する。

 自身に確実な死をもたらすものに対して、彼は絶対に近づかない」

 

『だから、横に逃げられない洞窟の一本道に誘い込む。

 それでその奥に置いた箱まで押し込めばいい』

 

タイムマジーンの中でそう言うソウゴに、ダビデはうーんと唸ってみせた。

確かに彼を接触させさえすれば、“契約の箱《アーク》”はヘラクレスに“死”を与えるだろう。

だがそれが出来るかはまるで別問題だ。

 

そんな彼らを見ながら、この島を粗方把握しているアタランテが情報を出した。

 

「この島には地下墓地(カタコンベ)があった。

 そこならば、ヘラクレスがギリギリ通れる程度の通路だ。

 そういった方向性の作戦は不可能、というわけではないだろう」

 

場所という条件はクリアできるだろう。

アタランテはそう言った。

 

「―――けど、だからと言ってどうする気? ヘラクレスをある程度押し込むなんて……

 ヘラクレスでギリギリ通れる狭さなら、そのタイムマジーンは入れない。

 押し込む方法が……」

 

オルガマリーが疑問の声をあげる。

こちら側で純粋な膂力が一番あるのは、間違いなくジオウが直接搭乗したタイムマジーンだろう。

アステリオスが残っていたならば、現実的にもなったかもしれないが……

 

タイムマジーンの中で、小さくソウゴが笑った。

きょとんとするオルガマリーに、彼は言う。

 

『うん。立香と所長に、力を貸してもらおうと思ってさ』

 

言われた立香とオルガマリーが顔を合わせ、不思議そうに首を傾げた。

 

 

 

 

「イアソン様、どうやらあの島のようです」

 

そう言って見えてきた島を示すメディア。

やれやれ、と気怠そうに首を傾げたイアソンが目を細めた。

 

「特定まで随分時間がかかったものだね、メディア。

 こんなもの、ただ聖杯の発する魔力が通った軌跡を追うだけだろうに」

 

「もうしわけございません……」

 

彼女がイアソンの言葉にしゅん、と肩を落としてしまう。

軽く鼻を鳴らした彼は、仕方なさげにその顔に笑みを浮かべた。

そのまま彼女の肩に手を乗せて、優しげな声色で言葉を吐く。

 

「なに、気にすることはないさメディア。

 この程度のことは誤差みたいなものさ。少しの誤算など船旅にはつきものだからね」

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

頬を赤く染めながら俯く少女。

それをどうでもよさそうにしながら、イアソンは島へと視線を送った。

彼の後ろからヘクトールが声を上げ、彼に問いかける。

 

「それでどうしますか、船長。逃げられないように島の近くで待機します?」

 

「馬鹿か、何でそんなことする必要がある。こっちにはヘラクレスがいるんだぞ?

 散歩のように攻め込んで、全てを蹂躙してそれで終わりだ」

 

ヘクトールの問いを一瞬で両断するイアソン。

そんな返答を受けた彼が、ですよねぇと軽く笑った。

 

「ヘクトール、お前も女神の運搬のために行け。

 お前があの女神を運べばバーサーカーであるヘラクレスが運ばずに済む」

 

「ま、それはいいんですけど。船の守りはいいんですかね?」

 

彼の疑問に答えを見せるかのように、彼は口元を大きく吊上げて笑う。

肉体を変質させて、ロケットを思わせる怪人へと変貌する。

 

〈フォーゼ…!〉

 

「必要ない。オレにこの力がある限りな……!」

 

〈スクリュー…!〉

 

アルゴー船の後部に巨大なスクリューが出現して、装備される。

それは即座に回転を始め、海中を掻き乱して超常的な推力を発揮した。

一気に加速する船の上でヘクトールが小さく苦笑い。

 

「―――これ最初からやってりゃ、もう何時間か早く着いただろうに」

 

まあそのたった何時間程度に、勝負の命運を分けるだけの価値があったとも思わないが。

 

誰にも届かないように呟いた声は、高速移動の中で風に消えていく。

見る見るうちに近づいていく目的の島。

その浜辺の光景が近づくと見えるようになってきて―――

 

あの巨大な人型機械と、その掌に載せられたエウリュアレ。

一瞬で罠だと分かる状態に、ヘクトールが顔を顰める。

 

アルゴー船が接近すると、その機械が走り出していった。

追ってこいと言わんばかりだ。

 

「船長、罠ですけどどうします?」

 

「そんなもの見れば判るが、なんで私たちが気にする必要がある?

 ―――さあ、行ってこいヘラクレス。

 罠だの奸計だのでお前を止められると思い上がった連中に教えてやれ。

 真実、英雄たるお前に。そんなものは、何の意味もないんだってなァッ!!!」

 

「■■■■■■■■―――――ッ!!!」

 

ヘラクレスの巨体がアルゴー船を蹴り、飛び出して島に上陸した。

そのままエウリュアレを持って走り出したタイムマジーンを追って走り出す。

 

ヘクトールもまたイアソンの指示通りに船を飛び出し、

 

「―――貰ったぞ」

 

「っ!?」

 

周囲が一瞬にして燃え上がり、薔薇の花散る黄金の劇場に姿を変えていた。

ヘクトールが周りを見回しても、こっちで取り込まれたのは己だけ。

そして相手は、この結界宝具の持ち主であるネロ。

更に朱槍の使い手クー・フーリン。

 

恐らくは浜辺に転がっていた大量の木片のそばに隠れていたのだろう。

船を修理するための材料だろうと気にかけていなかった。

ヘラクレスを誘い込む戦場に全員揃っているだろう、という思い込みもあっただろう。

 

「“招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)”―――!」

 

「あらら、オジサン。誘い込まれちゃったわけか」

 

軽く槍を一閃して、劇場に舞う薔薇の花弁を払う。

そうして、思い浮かべてみる。到着した直後の浜辺の光景を。

あまりに大量に出ていた木の屑。

 

船の修理をしていたのだろう、とは分かっていたが……

二日に満たない時間の中で出るには、ちと多すぎやしなかったか?

それがただの目眩ましだというならいい。

だが……本当に、修理の分だけであれだけの残骸を出したのだとしたら。

 

「……もしかしてオタクらの船、直っちゃってたりするのかな?」

 

「知りたきゃここで俺を倒して、自分で外に出てから確かめな」

 

朱槍を構え、姿勢を低くするクー・フーリン。

その言葉に対して小さく笑うヘクトール。

まあ確かに、ここで死ぬようなら外の状況なんぞどうでもいいことだ。

 

「んじゃまあ、やってみますよ。お手柔らかに」

 

ネロは自身が踏み込む気配を見せず、ただ結界の維持のみに魔力を注いでいる。

恐らく一番の目的がヘクトールに対する時間稼ぎだからだろう。

ああ、いや。ヘラクレスを相手にするマスターの魔力節約だろうか?

 

そうして彼女が隔離を担当し、クー・フーリンが―――

 

青い弾丸が赤い尾を曳きながら殺到する。

恐らく、船上では出せなかっただろう全力の速度でもって。

爆発的な速度で迫る赤い光にしか見えない刺突を、金色の刃が軌道を逸らす。

 

逸らされたと見るや、青い光が跳ねてヘクトールの視界から消える。

上か横か後ろか、その青豹のスピードに舌を巻いて、頭を下げた。

頭上を横薙ぎに通り過ぎていく赤い閃光。

 

振り向きざまに槍を振り上げれば、彼の朱槍を衝突して火花を散らす。

 

「船の上で守りながらの戦い。ありゃ完全に俺の負けだったな。

 折角だ―――ここは俺のリベンジに付き合っていけ」

 

「―――ほーら、やっぱり全力ならアキレウスと変わんない。

 オジサンの足腰じゃどうにもならないねぇ。

 ま、しょうがない。逃げ腰でヘラクレスが勝ってくるまで待つとしようか」

 

まるでどうにもならないなんて思っていないだろう顔と声。

そんな相手に対して凄絶に笑ったクー・フーリンが、槍を薙ぎ払う。

二人のランサーが一度弾け合い、赤と金の二色の閃光が黄金劇場の中で乱舞した。

 

 

 




 
ハイパーガタックは予想外。
ただ今はアンケートフェス待ちですかねぇ。

三章ももう終わりが見えてきた。だいぶ短かった気がする。
あと三話か四話くらい?
 

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