Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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台風こわ(一か月ぶり二度目)
 


光・導・星・座1580

 

 

 

ぶくぶくと拡大し続ける肉の塊。

その中のところどころに目が開き、ぎょろぎょろと周囲へと視線を飛ばす。

外見だけは少女趣味にさえ感じる怪物の拡大は止まらない。

 

「お、まえッ……!?」

 

直近にいたイアソン、アナザーフォーゼに被さる肉の津波。

彼は悲鳴さえ残しきることなく、その中に呑み込まれていった。

更にアルゴー船ごと呑み込みだした相手を見て、ダビデが目を細める。

 

「不味いね、これは」

 

彼は即座に踵を返して、ドレイクたちの船へと駆け出した。

ダビデがあれに呑み込まれるような事になろうものならば、そのまま恐らく―――

契約の箱(アーク)”の所有権は、魔神と化したメディアに奪われる。

そう簡単に奪われるものじゃない、と言っても彼女クラスになれば話は別だ。

 

甲板を走り出した彼を追い迫る、なにかの動物を模したのか可愛らしい造形の肉の塊。

趣味が悪い、と吐き捨てている暇もない。

 

押し寄せてくるそれらを、空からの矢が粉砕していく。

空中を自在に駆け巡り矢を放つ月の女神。

アルテミスからの援護射撃だ。

 

「うぇ、気持ち悪い。あの子、よくあんなもの呼び寄せるわね!」

 

「ただの怪物じゃねーぞ! 聖杯の魔力でメディアの魔術が常に発動してる!

 再生魔術の常時発動だ! ヘラクレス以上の速度で再生し続けるぞ!

 …………え、じゃああれどうやって倒すの……?」

 

声をあげたオリオン本人が困惑する。

何故、ヘラクレスに対して“契約の箱(アーク)”による即死戦法を仕掛けたか。

それは彼を殺しきる大火力がこちらに存在しないからだ。

 

そんな相方の答えのでない自問自答を横に、アルテミスがその瞳を銀に輝かせた。

月の魔力が体に満ちて、女神の神性がこの霊基で可能な限り発揮される。

月光を帯びた女神が、悪性に対して眼光を飛ばす。

 

「こうなったら行くわよ、ダーリン!」

 

「おう! ……別に俺、何もすることないよね?」

 

青空に黄金の月が浮かび上がり、彼女の出力が最大に届く。

彼女の愛をもって形成した矢を弓に番え、その手で大きく引き絞る。

そんな彼女の肩の上で、熊の腕が魔神の姿を指し示した。

 

「よ、よぅし! やってやれ、アルテミス!!」

 

「ええ! 私とダーリンの愛の力、見せてあげるわ!

 “月女神の愛矢恋矢(トライスター・アモーレ・ミオ)”―――――ッ!!!」

 

愛をもたらす月光の矢が解き放たれる。

空から船上の怪物に突き刺さった神の矢が、その威力を余すことなく解放した。

着弾点から爆発的に広がっていく銀色の閃光。

 

爆心地から立ち昇る銀光の柱。

そこから迸る神威は、彼女の真名が冗談などではないという証明。

轟々と渦巻く神の気配の残滓が、やがて薄れて晴れていく。

 

―――その光が晴れた先には、僅かに穴の開いた魔神の姿がある。

が、一秒と待たずにその穴は消え去り、再び肉の塊を氾濫させ始めた。

 

「デスヨネー」

 

「ちょっと、ダーリン! こいつどうするの!?」

 

「どうにかする方法があったらヘラクレスを普通に倒せてるんだよ!

 あ、いや、流石にそれでも12回分は難しいかもぉおおおっ!?」

 

肉柱が各所の目を開く。

十字に裂けた瞳孔が光を放ち、空を舞うアルテミスがいた場所が爆発する。

即座に体を翻して回避に専念する彼女の手の中で、オリオンが絶叫をあげた

 

アルテミスの援護のおかげで何とか走り抜けたダビデが跳んだ。

着地した勢いのままに黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)の上を転がっていく。

 

「いやぁ、まさかこんなことになるとはね。やっぱりソロモンはダメな奴だなぁ」

 

特に気にする様子もなく、起き上がりつつそんな事を言い出すダビデ。

するとマシュが所有している通信機から、ロマニの大きな声が上がった。

 

『ソロモン王は全然関係ないよね!?』

 

「ドクター静かにして! 来ます、ジャンヌさん!!」

 

マシュが通信機に怒鳴りながら、敵性体へと視線を送った。

 

ダビデの着地と同時に、エルメロイ二世の誘導で船は離脱を開始している。

アルゴー号の船上から溢れ、海中にボトボトと落ちていく肉塊を回避するため。

それを逃すまいと、魔神の瞳が全て船に対して向けられる。

 

瞳孔に輝く十字の光。

圧倒的な熱量を灯した眼が収縮し、直後。

 

「――――“我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)”!!!」

 

爆発的に膨れ上がった。

船を呑み込む光のその爆発の前に立ちはだかるのは、主の御業の再現。

ジャンヌ・ダルクの掲げた旗を中心に展開される、光の結界。

 

結界に船を守り切るほどの範囲はなく、光が各所を爆砕していく。

氷結しかけていた船に一転火の手が上がるが、それを消火する暇もない。

光の爆発は断続的に発生し、結界の外にはみ出た船体を次々と破壊する。

 

「くっ……!?」

 

「アルテミス様――――!!」

 

アタランテが空に舞う神に対し叫び、その弓に二矢を番える。

即座に放たれたそれは天空に消え――――

 

「“訴状の矢文(ボイポス・カタストルフェ)”!!!」

 

次の瞬間、光の雨がアルゴー船に降り注いだ。

周囲に広がった肉の海に浮かぶ赤い眼球を潰していく光の矢。

光源である目を潰された魔神が、光の爆発を放てなくなる。

 

―――だが、すぐさまそれは再生を開始した。

 

「――――目を狙ったところで魔力がもたんぞ、なにか打開策は!?」

 

とはいえ、放っておくわけにはいかないと。

再び宝具の矢を番えて空に向けるアタランテ。

目の再生が終わったらすぐさまそれを放つという構え。

 

マスターもいない彼女がそんなことをすれば、すぐに消滅へと至るだろう。

だが、あの爆破を受け続けるなどという選択肢が取れるはずもない。

 

船体に手を置いていたエルメロイ二世が目を細める。

 

「っ、無限に発動し続ける、宝具にまで昇華したようなメディアの再生魔術。

 そんなものに対抗する手段は、当たり前の力業しか存在しない……!」

 

焼け石に水と分かっていても炎の剣を射出するオルタ。

それは肉の壁に無数に突き刺さり呪詛の炎を撒くが―――

内側から現れた新しい肉体に押し出され、古い肉壁は外へ押し出されてしまう。

押し出されたそれはまるで菓子のような形状に変わりながら、海の底へと落ちていった。

 

「勿体つけてないでさっさと言えってーの!」

 

盛大に舌打ちしつつ、そんな彼女が、エルメロイ二世に対して怒鳴り声を飛ばした。

言ったところで方法が無ければ仕方ないだろうに、と。

苦い顔をしながらその方法を述べる二世。

 

「―――再生の暇無く、依代である彼女ごと吹き飛ばすことだ!

 だがそんなことが出来るなら、そもそもヘラクレスに対して――――!?」

 

船の魔力を管理していた二世が、驚愕に目を見開いた。

すぐさま彼が、ドレイクに対して振り返る。

彼女はこの状況で盛大に笑みを浮かべていた。

 

その胸では、聖杯が輝いて――――

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「バッ―――!? 何をしているキャプテン!?

 そんな魔力を今この船体で受け止め切れるわけがないだろ!?

 私が敷いた魔力経路では耐え切れずに弾け飛ぶぞ!?」

 

彼女が強引に流入させる魔力を抑えながら、声を荒げるエルメロイ二世。

しかしそんな彼に、彼女は笑いながら言葉を返した。

 

「いやぁ、さっきの砲撃で少し慣れたのさ。

 自分の銃だけでなく、船の砲に魔力っての籠めるにはどうすればいいのかって。

 今なら全力で――――ぶっ放せるに違いないって思ってねぇ!」

 

答えになっていない、と。彼が眉を吊り上げた。

 

「貴女が出来るようになっても、この船には不可能だ!!

 放つ前に回路が焼き切れ、船の方が爆発すると言っているんだぞ!?」

 

「はっ、()()()ねぇ―――?

 生憎、今のアタシにそんなもんはないよ。100年後のファンから訓示を受けちまったからねぇ。

 こうなったからには元の海に帰って、アタシの日誌と世界を繋いだ地図ってのを……

 ド屑が待ってる―――未来に届けなくっちゃならないのさぁッ!!

 野郎どもォ――――! 砲撃用ォ――――意!!」

 

彼女が飛ばした指示に対して、全ての船員が走り出す。

その光景を見ながら、エルメロイ二世が顔を引き攣らせた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

いや、それこそ黒髭が言っていた通りだろう。まだ、彼女は星の開拓者ではないのだ。

それでも届くかもしれない―――だが、そんな賭けに出れる状況か?

あの魔力に耐えられるとロード・エルメロイ二世が、ウェイバー・ベルベットを信じられるか?

 

――――出来るわけがない!

 

「バッ、……馬鹿かアンタは!? 出来ないって言ってるだろ!?

 私の魔術ではこんな膨大な魔力は扱い切れないって……!」

 

「あー、はいはい! アンタが出来ないって思ってるのは分かったよ。

 けどね、アタシの船に乗り合わせたんだ。最後まで付き合いな!

 そうすりゃアンタに、()()()()()()()()()()()()()―――――ッ!!」

 

そう叫んだ彼女の顔を見て、呆然と目を見開くエルメロイ二世。

すぐさま歯をギリギリと食い縛ってから正面に向き直り―――

 

その頭上から、タイムマジーンが接近してきていることに気が付いた。

 

「っ……! マシュ! 通信機を渡せ!! 投げろ!!」

 

「え、あ、は、はい!」

 

マシュが放った通信機を引っ掴み、そちらに向かって叫ぶ。

 

「マスター! 私に令呪を使え! 全てだ! 魔力の運用はこちらでする!!」

 

『え、あ、うん! 分かった、行くよ!!』

 

二世の声を聞いて立香が即決する。即座に発動される令呪の魔力。

 

宝具を三度解放してなお余る魔力の奔流が彼に押し寄せた。

それを使用して船に奔らせた魔力経路の防護に回る。

同時に、船が彼の指示に従い回頭。船首を魔神の方向へと向けた。

魔神に対して向けられる、船首四門の大砲。

 

ドレイクが凄絶に笑いながら、正面に聳え立つ魔神を見据える。

彼女の意志に呼応して船に流れ込む聖杯の魔力。

 

「ヒュー! 大砲も砲弾も何か光ってるぜ!」

 

「姐御の船だぜ、そんなこともたまにはあるさ!」

 

砲手となった船員たちが、その異常な光景にげらげらと笑いながら役目をこなす。

装填、よし。照準、よし。おうさ、後は船長の号令待ちだ。

 

そうして、彼女は船首へと乗り上げた。

一番前に立ち、対峙する怪物に対して船員たちへ船長として号令を下す。

 

「さぁ―――ここが命の張りどころってね!

 一発限りの砲撃さ、しっかり受け取って――――藻屑と消えなぁッ!!!」

 

船首から光が溢れる。

正面に設置された大砲から、膨大な光の帯が放出。

大砲というには砲弾からかけ離れた一撃が、魔神に向かって迸った。

 

その瞬間に顔を大きく顰め、エルメロイ二世が歯を食い縛る。

魔力経路が砕けた部分をその都度繋ぎ直し、死ぬ気で堪えさせてみせる。

溢れた魔力が行き場を失い、船内で幾度か小爆発が巻き起こった。

だがそれを気合と増量された魔力で押し切ってやる。

 

魔力光の砲撃は、確実に魔神の本体を貫いた。

止め処なく肉片を吐き出し続ける異形の腹。

そのど真ん中。そこを真正面から完全無欠に撃ち抜いてやった。

 

爆炎を上げる船上でその光景を見送るドレイク。

彼女の目の前で、肉の柱が徐々に崩れ落ち始めていた。

 

「ああ、――――でも、この結末が妥当なのでしょう。

 だっていつでも、(メディア)が望んだことは何一つ叶わない運命……

 どれほど魔術を極めようと、欲したものは何一つ手に入らない裏切りの魔女。

 なら、イアソン。貴方を守るためだけに立ち上がった私は……守れず、果てるのが―――」

 

少女の声がする。それは自分への悲哀か、それとも誰かへの憐憫か。

再生能力を失ったそれは、ぼろぼろとあっという間に崩れ去った。

 

彼女だった肉の塊は消え失せて、その場に水晶体・聖杯が姿を現す。

 

「―――魔神……並びにメディア。消滅を確認」

 

マシュがその魔力の残滓を眺めながら、小さく呟く。

そんな彼女に対して、手にしていた通信機を投げ返すエルメロイ二世。

マシュは慌ててそれをキャッチする。

 

振り返り、早くも消火活動に勤しむ海賊たちを見る二世。

彼は何とか爆発四散だけは免れたと深々と溜め息を落としてみせた。

 

崩れ落ちていく肉が、そのまま魔力に還っていく。

その下から姿を見せる、アルゴー船とアナザーフォーゼであるイアソン。

 

転がっていた彼が体を起こし、そのまま拳で甲板を叩く。

メディアは消滅した。スウォルツはいつの間にか消えていた。

彼はその英雄船の上に、ただ一人残っていた。

 

化け物が消えてご満悦の女神の肩の上で、オリオンが彼を何とも言えない表情で見下ろした。

けして悪意の存在ではないが、彼はただ破滅に向かってしまう。

 

「ぐぅ………っ! ちくしょう、ちくしょう……!

 どいつも、こいつもォ――――ッ!!!」

 

彼が顔を上げた先、飛行するタイムマジーンの姿が目に映る。

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「――――あ? なん、だと? ………ヘラクレス!

 ヘラクレスはどうした! 何故奴らがここに戻ってきて、アイツが戻らない!?」

 

周囲を見回すイアソン。だが、当然ここにヘラクレスの姿はない。

代わりにタイムマジーンの上から、フォーゼアーマーがドレイクの船に降り立った。

ジオウがイアソンに目を向けて、その戦闘の結果を告げる。

 

「ヘラクレスは、俺たちが倒したよ」

 

ソウゴの言葉を聞いて一瞬呆けるイアソン。

だがすぐに堰を切ったかのように、彼の口から怒りの言葉を噴き出した。

 

「―――倒した、だと? ヘラクレスを?

 ふざけるな、負けるはずがない! アイツはヘラクレスだぞ! 不死身の大英雄だ!!

 英雄(オレ)たちの誰もが憧れ、挑み、一撃で返り討ちにされ続けた頂点だ!!

 それが……! お前らのような人間どもを寄せ集めただけで倒されてたまるものかァ!!!」

 

「事実だよ、分かるだろうイアソン。汝の負けだ」

 

ヘラクレスの力をよく知っているアタランテさえもそれを認める。

その人間たちがヘラクレスを打倒し得る者たちなのだと。

彼女の言葉にふらりと体を揺らした彼が、そのまま両手で顔を覆う。

 

彼の様子を見ていたダビデが、少しだけ声を低く。

間違いを正すように彼に対して言葉を向けた。

 

「イアソン。君は無駄なき運営のもとに国を作りたいという。

 ―――けれど、それは人の国の成り立ちじゃないんだ。

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どこか寂しげに。どこか憐れむように。

それは真っ当な人間の道ではないのだと、彼は先達の王として告げた。

 

「………黙れ、黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れェ――――ッ!!

 何故どいつもこいつも理解しない! 何故どいつもこいつも理解できない!!

 何故誰も彼もが全てを無駄に浪費する!? ただ正しく運用すればいいだけだ!

 オレを王として! ヘラクレスを英雄として! 怪物を怪物として!」

 

絞り出すような彼の慟哭に、アタランテが目を細める。

事実、彼は誰より英雄を英雄として扱うことに長けていた。

だからこそアルゴー船には、彼に惹かれて英雄が集った。

―――アタランテはまた違うが、それは確かに真実。

 

「怪物を恐れるものとして排斥するだけのような節穴どもに何が扱える!?

 怪物という資源を何故有効活用できない!? 王! 英雄! 怪物! そして国と民!

 全てを資源として有効に扱えるものが王になるべきだろう!?

 出来るのは誰だ!! オレだけだっただろう!? だからオレは使った、全てを!!

 何故オレという王を戴けない!? オレは誰より王としての資格があった!!

 無駄など出さず、全てが適切に運用され、あらゆるものが祝福される国の王としての!!

 全てをオレに委ねれば、誰もが満ち足り、争う必要もない本当の理想郷を―――!!」

 

「あんたは無駄のない王になんてなれないよ」

 

慟哭の訴えを、ジオウが一切の温情なく切り捨てた。

アタランテが、ダビデが、彼の姿を振り返る。

湧き出し続ける言葉を一度止め、イアソンもまた彼を睨みつけた。

 

「お前に、何が分かる………ッ!!」

 

アナザーフォーゼの目が光る。憎悪の視線。

それを正面から見返して、ジオウは彼に静かな言葉を返す。

 

「一番それを分かってるのはあんただろ。

 だって無駄のない王に、憧れや、友情なんて――――要らないでしょ」

 

「――――――」

 

イアソンが静止する。

ソウゴの言葉に微かに肩を揺らしたアタランテが、再びイアソンの姿を見た。

それは怒りに身を任せ、癇癪を起している彼を止めるほどの彼の真実。

少なくとも彼女は、あの調子の彼をこうまで止める言葉は知らなかった。

 

一歩踏み出したジオウが、ソウゴが、イアソンに向かって叫ぶ。

 

「―――あんたが一番大切にしている想いを、あんた自身が否定するなよ!!!」

 

その言葉を聞いたドレイクが僅かに笑って目を閉じた。

彼女の胸にある光が、ぼうと浮かび上がってくる。

 

ジオウに一歩詰められて、一歩退いたイアソン。

 

だが彼は、今の言葉で自分が怯んだとは認められない。認められるわけがない。

怒りに震えるイアソンの体が、大きく片足を持ち上げた。

その足が船の甲板を思い切り蹴りつける。瞬間、彼の足元でアルゴー船が再起動。

アナザーフォーゼの力により現出していた武装が全て、再展開される。

ジオウを標的として確実に撃ち滅ぼさんと、それら全てが同時に動き出した。

 

「ぐ、ぅ………ッ! うるさい、うるさいうるさいうるさい――――ッ!!

 お前に何が分かる……! オレが、アイツに……!

 アイツに抱いた想いを、何も知らないお前がぁ――――ッ!!

 憧れや、友情なんて陳腐な言葉だけで………オレの感情を勝手に語るなぁあああッ!!!」

 

嚇怒の叫び。

燃え上がるようなイアソンの雄叫びとともに、アルゴー船の全武装が発動態勢に。

今まさに、それら全ての武装が使用されようとする瞬間。

 

「ソウゴ!」

 

ドレイクが声を上げ、ジオウに自分から排出した聖杯を投げつけた。

咄嗟にブースターを手放してそれを受け取るジオウ。

 

「これ……」

 

「海賊ってのはお宝は誰にも渡さないもんだけどね。

 命預ける船に対してケチる馬鹿はいないよ―――もうまた壊れちまったけど。

 この船直した船大工分の代金さ、持っていきな!!」

 

呵々と笑う彼女を見て、小さく頷いて返す。

その水晶体を握り込みながら、ドライバーを操作した。

押し込んだライドウォッチが必殺の時を告げる。

 

〈フィニッシュタイム! フォーゼ!〉

 

即座にブースターモジュールを再度掴み、ロケットモードに変形する。

ロケットと化した彼の体が、アナザーフォーゼに向けて突撃を開始した。

アルゴーからジオウを目掛け、撃ち放たれる数々の武装。

その全てを全速力で振り切って、一息に彼のところまで辿り着く。

 

「ぐ、ぅおああああああ――――ッ!?」

 

ロケットの先端、つまりジオウからすれば頭突きの姿勢。

全力加速の頭突きでアナザーフォーゼの胴体にぶち当たり、そのまま軌道を上に取る。

 

「宇宙にぃ―――――行く―――――――ッ!!!」

 

「な、にをぉおおおおッ―――!!」

 

大気圏をぶち破り、宇宙(ソラ)にかかった謎の光帯さえも追い越して。

ジオウはアナザーフォーゼごと、星の外へと飛び出していた。

 

後ろに青い惑星が見える場所まで吹き飛んで、そこでブースターの炎を打ち切る。

全身各所のスラスターで姿勢を制御し、ロケットモードを解除。

ここにきた勢いのまま宇宙を漂うアナザーフォーゼを睨む。

 

アナザーフォーゼもまた姿勢制御のためにジェットを吹かし、ジオウを睨んだ。

ソウゴは彼に視線を向けたままに、両腕のブースターを放り投げる。

そして開いた手で背後にある地球を指さした。

 

「―――あんたが王様になるための旅は、あんたの思い通りにならなかったかもしれない。

 けどあれは、あんたと、あんたの誇りである仲間が拓いた世界だろ―――ッ!!」

 

「なにを、言っている……!」

 

地球を指差していた拳を握りしめる。

ギシギシとスーツが軋むほどに強く、強く、拳を握る。

そうして、ソウゴはイアソンに対して全ての感情を載せた叫びをぶつけた。

 

「あんたとその仲間の旅が星座になったんだ―――!

 なら、ドレイクや、黒髭……! あの惑星(ほし)の海で旅をした全ての人が!

 あんたたちを空に見上げて、あんたたちの光に導かれたんだ!!

 あんたは自分の理想の国は作れなかったかもしれない……!

 けど、今の世界を創ったのはあんたが何より大切にしてる、あんたたちの冒険だろ!!

 それを他の誰でもない―――あんた自身が壊すことに力を貸してどうするんだよ!!」

 

「ッ………! だ、まれッ……! 黙れ、黙れ!!

 オレは王になりたかっただけだ! 王に、なって……オレの国を!!

 “契約の箱(アーク)”が使えないものならもういい……! お前の力だ! 王の力!

 お前からその力を奪って、オレは今度こそ王になる! 世界を治める全ての王に!!

 オレの理想を――――今度こそ叶えるんだァッ!!!」

 

〈ロケットォ…!〉〈ドリルゥ…!〉

 

あるいは最早、彼自身も正気ではない様子で。

精神の均衡が決壊した瞬間に、アナザーライダーの邪念に憑りつかれたのか。

アナザーフォーゼはその双眸を赤く輝かせながら右腕にロケット、左足にドリルを装備した。

 

「あんたの理想は、本当にそれだけだったの?

 最初はそうだったとしても、そうじゃなくなったから友達を持ったんじゃないのかよ!!

 もう分かってるだろ、アナザーフォーゼになったあんたなら!

 この力は何でも出来る力じゃない……一人じゃ出来ないことを、教えてくれる力なんだ!!」

 

ジオウの腕がドライバーを回転させる。

ヘラクレスとの戦いで失われたエネルギーを聖杯で補って、フォーゼのウォッチが輝いた。

 

〈リミット! タイムブレーク!!〉

 

溢れ出すコズミックエナジー。

そのエネルギーを纏いながら、ジオウの目の前にジカンギレードが出現した。

それを掴み取り、必殺技のエネルギーを使用した直後のフォーゼウォッチをドライバーから外す。

 

「抜いて、くっつける――――!」

 

〈フィニッシュタイム!〉

 

ジカンギレードに装填されたフォーゼウォッチが、再びコズミックエナジーを解き放った。

刀身から立ち上る、まるで地球のように青い光の刃。

更に全身からエネルギーを発奮しながら、ジオウはその剣を両腕で構えてみせる。

 

「超宇宙ぅ………!」

 

「ァアアアアアアアア―――――ッ!!!」

 

剣を構えたジオウの元に、ロケットで加速したアナザーフォーゼが迫る

彼が突き出す左足にはドリルモジュールが装備され、高速で回転していた。

一秒先、ジオウを砕くそのロケットドリルキックを前に。

体を一回転させながら、全てを込めた最後の一撃を振り抜く―――

 

「フォーゼロケットフィニッシュ斬りぃ―――――ッ!!!」

 

〈フォーゼ! ギリギリスラッシュ!!〉

 

迸る青い閃光。

それはドリルの回転も、ロケットの加速も、全てを粉砕していった。

無敵にさえ感じたアナザーフォーゼの装甲が砕けていく。

その全てがバリバリと剥がれ落ちると、イアソンの中からアナザーウォッチが排出され―――

 

彼の目の前で砕け散った。

 

感覚を全て失い、それでも体が消えゆくことは理解できて。

彼は目前に広がる地球に手を伸ばす。

 

「ヘラ、クレス……アルゴー……オ、レの……栄光―――」

 

周囲一帯に広がる青いエネルギー波に呑まれ、彼の姿が消え去った。

 

その姿を見送り、宇宙に漂い続けるジオウ。

仮面の下、ソウゴはただただ彼が消えた場所を見つめていた。

 

 

 




 
ライダァー……! 超銀河フィニィイイイッシュ!!!
あとはエピローグで三章も終わりですねぇ。
 

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