Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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これで決まりだ!
 


第四特異点:死界魔霧都市(ミストシティ) ロンドン1888
Cの旅立ち/新たなるパートナー2015


 

 

 

一切が闇に鎖された空間の中から、ぼんやりと大時計が浮かび上がってくる。

動き続ける秒針が正しく時間を刻み続けるその暗黒の空間。

その中に、一人の青年が姿を現した。

 

彼の手には『逢魔降臨歴』と書かれた一冊の書。

時計の前で立ち止まった彼はそれを開くと、ゆっくりと目を通し始める。

 

「―――この本によれば。2018年を生きる普通の高校生、常磐ソウゴ。

 彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた」

 

彼―――ウォズの背後に浮かぶ、二つの影。

今のジオウの姿と、黄金のジオウ……オーマジオウの姿。

二人のジオウは睨みあうように対峙している。

 

「しかし現代、2015年において人理焼却と言う名の異常に見舞われた常磐ソウゴ。

 地球の歴史は改竄され、彼の魔王へ続く道も途絶えたかと思われたが……」

 

ウォズの背後のオーマジオウが手を翳す。

すると周囲の暗闇が一気に晴れ、一面の荒野が広がっていく。

―――2068年、オーマジオウの時代の光景。

 

「2068年に君臨するオーマジオウに、一切の揺るぎはない。それも当然のことだ。

 もし仮にオーマジオウを消すことができるものがいるとするならば……

 それは、我が魔王自身に他ならないのだから」

 

再び背景は大時計一つがあるだけの暗闇に。

オーマジオウの姿は消失し、その場にはジオウの姿だけが残されている。

 

「我が魔王が戦う道を選んだ以上、オーマジオウはそこにある。

 彼は未来の自分の姿に絶望を抱きながらも、前に進むことを選んだ。

 故にこの世界の未来は、既にオーマの日に向かって歩き出したのだ」

 

ジオウの背後に新たな、別の戦士の姿が浮かび上がってくる。

右半身を緑、左半身を黒。二色で綺麗に割った仮面ライダーの姿。

風もないこの空間で銀色のマフラーを靡かせて、彼は軽く腕を振るう。

 

「オーマの日に向かい、我が魔王の継承の儀は進み続ける。

 次に彼らが向かう特異点は西暦1888年ロンドン。

 謎めく霧に覆い隠された、この人理焼却の真相に迫るための第一歩」

 

ザザ、と彼の後ろに姿を現していた二色のライダーの姿がブレる。

ウォズが視線をそちらに向けると、そのノイズはどんどん激しくなっていく。

消えるのではなく、何か別のものに変わっていくように。

 

そんな様子を見ていた彼が、本を閉じながら目を瞑る。

 

「―――果たして、彼らは真実を覆う闇を晴らす事ができるのか。

 霧に沈んだ都市に風が吹き込み、全てが白日の下に晒されることを……

 私も、期待することとしましょう」

 

そう言って、ウォズが踵を返し闇の中へ消えていく。

ダブルの変化は収まらない。

変貌していく彼の姿を置き去りにしたまま、その場は闇に覆われた。

 

 

 

 

「―――ハァ……ッ、ハァッ、ハ……ッ!?」

 

女性が霧の都市を走っている。

何度も何度も、後ろを振り返って追跡者の様子を窺いながら。

恐怖に引き攣ったその顔で、何度も何度も何度も。

 

やがて彼女は足をもつれさせて、その場に勢いよく倒れ込んだ。

絶望で顔が一気に青くなった彼女が、背後を見る。

 

―――そこには、くすんだ銀色の髪の少女が佇んでいた。

 

じい、と。アイスブルーの瞳が倒れ込んだ女を見据えている。

幼い手の中にぶらりと下げた、ナイフが鈍く輝いた。

擦れる金属の音が、女に向かってゆっくりと近づいてくる。

 

「いや、いやいやいやぁ……! こないで、こないでよ!!」

 

外見は幼すぎる少女だが、本能で理解できてしまう。

これが外見などあてにならない、ただの人を殺す化け物なのだと。

その絶望が迫る光景に、絶叫をあげて―――

 

「ごめんね、おかあさん。ごめんね、ごめんね、ごめんね。

 でも、わたしたちはかえりたいから、かえりたいの、かえりたいの」

 

そんなものが通じない、と理解させられた。

少女の目は女の腹部一点を見つめて、その手のナイフを振り上げる。

死が一秒先まで迫っていた。だが、女に何かが出来るはずもない。

せいぜい声を振り絞り、断末魔をあげるくらいだ。

そうして――――

 

「そんなにかえりたいなら、化け物らしく虚無にでも還ったらどうだ」

 

「え?」

 

少女の背後から、誰か別の女の声がする。

きょとんとした少女が、女にナイフを振り下ろすこともせず振り返った。

視線の先、少女は霧の中に青色の目が光っているのを見る。

 

瞬間、少女が女など差しおいて大きく後ろに跳んだ。

“死”がそこにあると、理解したから。

 

「おかあさん……?」

 

「生憎、お前みたいなでかい娘は持ってないよ。まして、亡霊の娘なんてな。

 ……ああ、それこそオレも今は亡霊みたいなもんなのか?

 ま、どうでもいいか。どういう理屈か知らないが、こんな状況に化けて出た。

 なら、やることは一つだろうさ」

 

青い着物の上から羽織った赤い革ジャン。

そのポケットに突っ込んでいた手を引き抜いた彼女の手には、ナイフが一振り。

彼女の目が青と赤、二色の光で螺旋を描いて輝きを増す。

 

「子供はもう寝る時間だ。迷い出たならさっさと帰れ」

 

自身の周りを走る線をナイフでなぞる。

周囲を包んでいた霧が“死”を迎え、あっさりと散っていく。

 

霧を殺した彼女が、そのまま少女に向かって踏み切った。

それを見た少女が目を見開いて、即座に逃げる姿勢に入る。

 

不自然なほどに固まっていた霧が晴れたその場所で、二人の持つナイフが交差した。

 

 

 

 

「ああ、マスター……清姫は寂しゅうございました……」

 

いつも通りに抱き着いてくる清姫の頭を撫でつつ、立香は歩き出す。

清姫はこちらの歩行を邪魔しないように抱き着くのが上手いな、といつも感心する。

慣れたものである。

 

第三特異点から帰ってはや一週間。

一週間の間ずうっとくっつかれてて、寂しいも何もないような気もするが。

 

未だ次の特異点の特定はできていないが、カルデアには余裕が出来始めていた。

彼女たちが特異点にレイシフト中の職員の行動もある程度マニュアル化。

二十人程度の職員を効率的に回すためのシフトもおおよそ固まった。

 

そして職員の休息に繋がるブーディカの料理。更にそれは清姫も手伝ってくれていたらしい。

休息時間に食堂に赴けば、温かい料理を食べられる。

それだけでも相当なリラックスになっている様子だった。

 

アレキサンダーも雑用として回ってくれていたようだ。

管制室から離れられない職員の指示を聞いて、結構カルデア内を走り回ったらしい。

王様に雑用ってどうなんだろうとも思うが、本人も割と楽しんでいたようなので良かったことだ。

 

サーヴァントが増えるごとに、当然人の手が増えて余裕が生まれる。

それがよく分かるというものだった。

 

だからこそ当たり前のように、第三特異点を攻略した暁に手にした魔力リソース。

それもまた召喚へと充てられることになる。

 

そうして呼ばれた彼女に、廊下でばったり会った。

 

「む、立香か。……汝はいつもそれをくっつけているな」

 

呆れるように清姫を見るアタランテ。

彼女も召喚されたのだが……まあ、彼女を召喚した際には結構騒ぎになった。

色々なことが重なった結果なのだろうが。

 

「オルタとは仲良くできてる?」

 

「……いや、そう言われてもな。正直なところ、私も困っている。

 ―――子供がこねる駄々ならまだ可愛らしいが、奴にああなられてはな」

 

はあ、と溜め息。

オルタと彼女の仲はまあ悪いが、だからと言って戦闘に発展するようなこともない。

 

基本的に第一特異点に狂化された事に対する恨みだが、実際そこまで彼女に怒りはないのだ。

彼女自身にそうされた自分も弱いし悪い、という考えがある。

仲良くする気もないが、だからと言って不和を撒く気は毛頭なかった、のだが。

 

始まりはダ・ヴィンチちゃんの言葉だった。

要するにオルガマリーのサーヴァントを増やす、というそれだけの話だ。

彼女は偽臣の書によりマスターを代行している。

が、その契約先をある程度自由に出来るように彼女は改良を重ねていたわけだ。

それがローマ分での召喚で発生したマナプリズムの使用先。

 

もうその話を聞いた時点でオルタは機嫌が悪かった。

ふーん、ほーん、へー、というもので。

 

ついでにソウゴも悪かった。というか主に彼がトドメを刺した。

 

―――どうやら前の特異点の出来事。

それで仲間と接する時の垣根、というか壁が一枚取り払われたのだろう。

もちろんそれは嬉しいことだ。立香はそう思うし、これからもそうでいてほしい。

それはそれとしてもうちょっと考えて発言をしてほしい。

 

にこにこしながら彼はオルタに対して一言。

「オルタも正直に言わないと。ずっと所長と一緒にいたいって」なんて。

 

そんなことを言われたオルタはキレた。「んなわけないでしょ!?」と。

それ以来彼女はぷりぷりと怒りながら図書室と自室を行ったり来たり。

所長は溜め息。ソウゴは「俺なんかやっちゃった?」

 

やっちゃったんだよ、このおバカ。

 

そんなわけでソウゴを経由し、オルガマリーの新たなサーヴァント。

アタランテが召喚され、オルタは彼女に対してずうっとむっつりした態度を見せている。

そしてそれを何とか解消しようと、白い方のジャンヌも行動開始。

お姉ちゃんにお任せ下さい、とアタランテの周りをうろつきだす。

白いのと黒いのに囲まれたアタランテは、死んだ目で溜め息というわけだ。

 

「まあ……人望のあるマスターで何よりだよ。

 黒いジャンヌもそのうち落ち着くだろう、中身が子供なだけだからな。

 ―――外見も子供ならば、まだ可愛らしかったというのに。

 ………白い方は子供にしても中身が変わりそうにないから微妙なところだが」

 

やれやれと首を横に振るアタランテ。

そんなにオルタが子供っぽかったんだろうか。

 

そうやって会話をしながら食堂を目指す。

どうやってかハロウィンチェイテからキャットの手で進呈された大量の食糧。

おかげさまでカルデアの食糧事情は明るい。

もちろん流石に丸々一年保つほどではないけれど。

 

ただ一つ、ここにきて新たな問題が発生した。

 

辿り着いた食堂のドアが開き、厨房にいるブーディカがこちらを向く。

今はネロも一緒にいるらしい。

とはいえ、彼女は厨房に入らずブーディカと話しているだけのようだが。

 

「いらっしゃい、マスター。今日は何を食べる?

 それともあたしじゃなくてそっちの清姫に作らせる?」

 

立香にくっついていた清姫が動き、蛇のような動きで厨房に滑り込んでいく。

 

「お任せください、マスター。

 この清姫、必ずやマスターの舌をご満足させる料理を……!」

 

「おっ! じゃあついでにアタシになんかツマミを作って欲しいね」

 

がたん、と。酒を飲み干したジョッキをテーブルに置く。

彼女は当然のように、厨房の清姫に要求を飛ばしていた。

今回の召喚で立香が呼び出したサーヴァント、フランシス・ドレイク。

 

清姫が嫌そうにしてブーディカを見上げる。

 

「はいはい。じゃあそっちはあたしがね」

 

笑いながら自身も動き始めるブーディカ。

 

問題とは彼女。ドレイクが酒の消費量を跳ね上げた、ということだ。

緊急時を考えて飲酒する職員など殆どいないから、今のところ問題はあまりないが。

とはいえ、アルコール飲料でストレス発散する人間もいるだろうから、と。

オルガマリーは微妙に頭を悩ませているらしい。

 

「ふーむ、流石はドレイクか。遠慮を知らぬな。

 しかし浪費と言えば余。余と言えば浪費。これは余も対抗せねばならぬか……?」

 

「馬鹿なこと言ってないで洗い物くらい手伝ってよ、ネロ」

 

料理を始めたブーディカがふらふらしている彼女に声をかける。

だが彼女は視線を逸らしてむむむ、と唸った。

 

「うむ……流石にこの状況で何もせぬ、というのも気が引けるのは確か。

 しかし余がそなたを手伝わぬのは、皿と言う貴重な物資を割らぬためと知ってほしい。

 ――――うーむ、余は余で皿の方を焼いてみるか?」

 

陶芸に思いを馳せ始めるネロ。

そんな彼女の言い訳を聞いたブーディカが肩を竦めた。

厨房の様子を覗きながら、立香の横にいるアタランテも同じように。

 

「―――家事手伝い、となると流石にな。

 狩りで獲物を捕りに行ける場があればいいのだが」

 

「一応、最悪の場合は狩りをするためにレイシフトも出来るらしいよ。

 そのレイシフトするための設備が特異点の特定のために年中無休だからやれないだけで」

 

「まあ、そう言われれば仕方ないとしか言えないがな。

 狩りでも料理でもなく、戦闘に駆り出してくれるのが一番楽といえば楽さ。

 バトルシミュレーターとやらではイマイチな」

 

やれやれ、と溜め息。

そんな彼女の様子に首を傾げる立香。

 

「なんで? あれも凄いと思うけど……」

 

「相手として乗ってくれるのがクー・フーリンくらいだからな。

 私としても奴としても殺し合いにならないようにするのが難しい。

 というより、明確に殺し合い前提の手が打てない私に勝ち目がほぼない」

 

微妙に悔しそうに、しかしそう言って相手を認めるアタランテ。

一対一、更に致命傷にはならない一撃のみ。

などと限定されると、そもそも彼の矢避けの加護を突破する手段が消える。

それでも殺し合いならばまだ手はあると言うのに……と、ぶつぶつ文句。

 

「強いもんねぇ、ランサー」

 

しみじみと頷く立香。

そんな彼女の声の後に、再びジョッキがテーブルに落ちる音。

 

「へえ、じゃあアタシと戦ってみてくれよ!

 いやさ、こうして召喚されて立香たちと一緒に戦ったことを思いだしたはいいんだけど。

 あの時の聖杯を持ったままの戦いの感覚、っての? あれを体に思い出させたくてね!」

 

笑いながらそう言ってアタランテを見据えるドレイク。

ふむ、と神妙な顔をした彼女はしかし頷いた。

 

「そういうことなら構わない。

 まあ戦闘行為を行う以上、マスターに許可をとってからだが」

 

「む、そういうことなら余も混ざろうではないか!

 そもそも余だって彼の麗しのアタランテと一手仕合ってみたいと思っていたのだ!」

 

面倒くさい奴が反応してきた、という露骨な顔。

ネロはそんなことはまるで気にせず、むふーと笑顔を浮かべていた。

そんな彼女がふと、ドレイクに視線を送って思い出した、という顔をする。

 

「そういえば、ドレイクも生前に立香らと会っていたことをここにきて思い出したのだな」

 

「あん? あんたもそうだったのかい?」

 

うむ、と頷いて返すネロ。

 

「まあ微妙に思い返せない部分もあるのだが……まあ、細かいことだ!」

 

「ふぅん。まあ、アタシは全部思い出せてると思うけどね」

 

少しだけ動きが鈍るブーディカを見ながら、立香がどうしたものかと顎に手を当てる。

ネロに話せば思い出せるのか、思い出せないのか。

そもそも何故いきなりそこだけ記憶が抜けているのか。

 

アナザーフォーゼを見てもアナザードライブを思い返さなかった。

ということは、もしかしたら話したところで思い出せないかもしれない。

 

そんなことを考えていると知る筈もなく。

仕方なしとオルガマリーに連絡を取ろうとするアタランテ。

 

そんな中で、調理を終えた清姫が立香に食事を出してきた。

 

「さあさあ、マスター。

 野蛮な方々は放っておいて、愛妻料理をどうぞお楽しみ下さいな」

 

愛妻? と首を傾げつつ受け取る立香。

意外と料理が得意だった清姫の出してくれる食事は、当然のように和食だった。

いただきます、と一言。それに手を付けながら、立香は思いついたことを訊いてみる。

 

「そういえば、あの人もアーチャーなんだよね。一緒に……」

 

「断る」

 

余りの即答に立香の箸がびくりと止まる。

そんなに嫌なの? という疑問の視線を向けられた彼女は再び顔を顰めさせた。

そうしてアタランテは嫌そうな顔でもう一度。

 

「断る」

 

断固として、拒否を示した。

 

 

 

 

「ふう、これで大丈夫そうかな」

 

職員たちのメディカルデータとのにらめっこを終え、目頭を揉み解す。

 

カルデア職員の仕事が軌道に乗り、余裕が生まれる。

だからこそ、ロマニの仕事は更に増加していた。

余裕を持った職員に対してメディカルチェックを行うのは、当然のように彼の仕事だからだ。

 

カルデアに設置された最新鋭の医療機器が収集したデータの確認。

それが異常を示せば、当然もっと発展した治療を行う必要に迫られる。

とはいえ気楽なものだ。人間の体の治療、という段階ならばダ・ヴィンチちゃんを頼ればいい。

 

だからこそ、その前段階であるチェックくらいは彼が一人で見なければ……

 

「ははは、一番大丈夫じゃなさそうなのが何か言ってるじゃないか」

 

「ん?」

 

メディカルルームの入り口からする声。

入り口の扉にダ・ヴィンチちゃんが寄り掛かりながら、彼を軽く睨んでいた。

そんな彼女の後ろでは、オルガマリーが呆れた顔を浮かべている。

 

「えっと、どうかしたのかい? レオナルドと所長が一緒なんて」

 

「どうもしてないのに休みを取ってないアホを寝かせにきたのさ。

 他の職員たちは余裕が出てきたおかげで周りが見えるようになってきた。

 つまり、一応お偉いさんの君がまるで休んでないことを認知しはじめたってわけさ。

 いい加減、君を休ませないと他の職員が申し訳なさで頭が上がらなくなる。

 一番偉いオルガマリーを見たまえ、学生気分で立香ちゃんやソウゴくんと遊んでるぞ」

 

「それは私に喧嘩を売ってるのかしら。ねえダ・ヴィンチ、ちょっと!」

 

噛みついてくるオルガマリーをぱたぱた手を振って無視する。

そんな二人の様子に、困った風な笑い顔を浮かべるロマニ。

 

「いや、けど……」

 

「お生憎様。残念ながら今回は君に弁明の機会はない」

 

ダ・ヴィンチちゃんの物言いに疑問符を浮かべる彼。

彼女はロマニの不思議そうな表情をふふん、と笑ってみせる。

 

「では。特別ゲストをご招待しよう」

 

すいー、と入り口扉の横に逸れる彼女。

そんな彼女を後ろから見ている所長、の横から一人の影。

 

「やあ、ソロモンの話を寝物語にしたいソロモンファンがいると呼ばれてきたんだけど。

 僕は語るよ、かなり語る。ないことからありえないことまで自由自在だ」

 

「ちょ!?」

 

机を叩きながら椅子から立ち上がるロマニ。勢いよく弾かれた椅子が倒れて床に転がった。

そこに登場した男は当然、古代イスラエルの王・ダビデに他ならない。

一瞬口をぱくぱくと動かした彼は、彼に向かって叫んだ。

 

「ガセ情報は出さないって言ってなかったっけ!?」

 

「息子の恥部を売り物にしないとは言ってないよ」

 

臆面もなく言い放つダビデ。

唖然とするロマニ。

 

「それ絶対実在しない恥部だろう!? 子供に興味ないって言ってたじゃないか!」

 

「もしかしたら存在したかもしれない話を、父親の視点から推測するだけさ。

 信じるか信じないかは聞いた人間に任せるとも」

 

まったく悪びれた様子もなく言い切るダビデ。

そんな彼を後ろから眺めていたオルガマリーも困惑する。

 

「ふふふ、どうだいロマニ。

 ダビデ王が語る適当千万のソロモン物語を聞かされたくなければ―――」

 

「分かった! 分かったから! もう今日は一日休むから!」

 

そう言ってそのまま医務室のベッドに跳び込むロマニ。

カーテンを閉めて即座にダビデを視界からシャットアウト。

 

そんな様子を見て、小さく溜め息を吐くダ・ヴィンチちゃん。

オルガマリーが懐からルーンを刻んだ石を出し、床に置く。

そのまま軽く蹴って、彼が跳び込んだベッドの下に転がり込ませる。

これである程度の生命力を回復させてくれるだろう。

 

やるべきことを終え、医務室から退室して扉を閉める。

そうして、彼女は本気で呆れたような声を出す。

 

「ロマニの奴、イメージを壊されるのが嫌なくらいそんなにソロモン王が好きなわけ?

 カルデアに来てからの付き合いでしかないけど、初めて聞いたわよ。

 ダ・ヴィンチ、あんたいつ知ったのよ」

 

「―――さて。いつだったかな?

 悪かったね、ダビデ王。こんなことに付き合わせて」

 

「別にこの程度は何でもないさ。いやはや、彼は美人に心配されて羨ましいね。

 それに名前もいい。ドクター・ロマンだなんて。

 流石の僕も初めて聞いた時は笑いそうになったくらい、いい名前だよ。

 ―――そうだね。自由がないくせにあんなにロマンに溢れた“人間”は初めて見たよ」

 

軽く微笑みながら、彼はそのまま医務室から歩き去っていく。

一体何を、と疑問を顔に浮かべるオルガマリー。

そんなことを言われた男の眠る医務室をちらりと見て、ダ・ヴィンチちゃんは肩を竦めた。

 

 

 




 
(ダブルの歴史を正しく改竄する…! サイクロンアクセルかサイクロンスカルに…!)

らっきょも纏めてやっちゃうマン。
 

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