Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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Cの旅立ち/霧の都へ1888

 

 

 

「彼女の様子かい?」

 

パタリ、と。手にした本を閉じながらアレキサンダーがソウゴを振り向いた。

 

「そうそう。なんか俺余計なこと言っちゃったみたいで」

 

書庫の椅子に座ったソウゴは、机に突っ伏しながらそう語る。

どうやら今回の件では意外とへこんでいるらしい。

 

彼から見たオルタは別に少し拗ねてるだけでいつも通り。

というかいつも通りの調子だから、拗ねると言う子供らしい反応を返しているのだろう。

あの程度愛嬌だと思うけどね、と。

口にせずに考えるだけに留めておくアレキサンダー。

 

「まあ、彼女はよくここにきては本と睨めっこしているけどね。

 自分の知力が白い方のジャンヌ以下なのは許せない、みたいなことを言ってたかな」

 

「…………性格上の問題で、むしろ純粋な知力ならばジャンヌ・オルタの方が……」

 

アレキサンダーが彼女と交わした言葉を思い返しながら語る言葉。

それについ反応してエルメロイ二世はぽつりと呟いた。

 

精神的な極まり具合、という意味では二歩も三歩も白い方が上だ。

が、人間的な知恵という意味では現状でも黒い方が上なのではないか。

いや、つまりジャンヌ・ダルクよりジル・ド・レェの方が学があっただろうという話だが。

 

言わぬが花か、と途中で言葉を打ち切る二世。

彼はそのまま無言で本棚に視線を送り、蔵書の確認をし始めた。

その様子に苦笑したアレキサンダーが、ソウゴへ向き直る。

 

「そこまで気にする必要はないよ。どうせすぐに元通りになるさ」

 

「そっかなー」

 

どうやら思った以上にへこんでいるようだ。そんな様子にくすくすと笑いを漏らす。

彼はどっちの王様に転ぶんだろうね、なんて考えながら。

 

そのように話している彼らの中に歩み寄る影が一つ。

一体どこから出現したのか、彼は自前の本を持ったままこちらに歩いてくる。

そのままソウゴの傍まで歩いてくると、隣の椅子を引く。

 

「やあ、我が魔王。どうやら元気がないようだが」

 

そのまま座りながらソウゴに話しかけてくるウォズ。

余りにも今更すぎて、その登場に驚くようなこともない。

声をかけられたソウゴは溜め息交じりの返答。

 

「んー、ウォズに相談してもなー。

 どうせ何を訊いても気にする事じゃないとか言うだけだしー?」

 

突っ伏しながら間延びした声でそんなことを言うソウゴ。

それを聞かされたウォズが僅かに顔を顰める。

彼は顔だけでなく体ごとソウゴの方に向け、文句を言いだした。

 

「まるで私が彼らサーヴァントより信頼を勝ち取れていない、というような事を言うね。

 言っておくがね、我が魔王。私はこう見えて裏でとても……」

 

「ええー、だってウォズだし。何してるのか俺には分かんないし。

 それに俺、ウォズが言うみたいにオーマジオウになる気はないし」

 

ぶつぶつとそう言いながら机を手で叩くソウゴ。

そんな様子を見たウォズが柳眉を小さく上げてみせた。

少し肩を怒らせた様子の彼は、そんなソウゴに対して口を開く。

 

「…………なるほど、ならこうしよう。

 次の特異点、私も同行しようじゃないか。既におおよその道筋は整えてきた。

 こう見えて君の臣下としての務めはきっちり果たしているのでね。

 そこらのサーヴァントなどより、私の方が家臣として優秀なのだと思い知ってもらおう」

 

「そんなことより所長とオルタを仲直りさせてくれれば見直すのに」

 

彼らの会話を聞いていたアレキサンダーとエルメロイ二世が顔を見合わせる。

 

ウォズはちょこちょこカルデア内に現れては、ソウゴに話しかけてはそのまま消える。

神出鬼没、もはや怪奇現象的な扱いをされている人物だ。

幽霊であるはずのサーヴァントからさえも。

 

そんな彼が当然のようにレイシフトした時代に着いてこれるのは周知の事実であるが……

 

何故か彼は、ソウゴのサポートをすると言いつつ常に着いているわけではなかった。

普通に考えれば、何がしか彼一人でやらねばならない事があったわけなのだろうが……

 

それをする必要が既に無くなった、というのはどういう意味なのか。

 

「―――ソウゴ。お前の目的と、その男の目的は反しているんじゃないのか?」

 

二人が会話、というよりウォズが詰め寄りソウゴが適当に流す様子。

そこに口を挟むように、エルメロイ二世が問いかける。

 

オーマジオウに導く、と宣告するウォズ。

オーマジオウにはならない、と宣言するソウゴ。

 

彼らの目的は明確に違っているはずだ、と。

これまではオーマジオウという存在の不明瞭さ故に気にしないでも良かったかもしれない。

だが彼自身がオーマジオウを知った今、その状況は既に崩壊しているはずだろう。

 

しかもウォズは今まさにソウゴをオーマジオウにするため活動している事を隠しもしない。

だというのに、彼と雑談できるような関係なのは―――

 

「うん。ウォズはウォズのやりたいように、俺をオーマジオウにしようとすればいいと思う。

 けど俺は―――俺たちは。そのウォズの思惑を超えて、最高最善の王様になってみせるから。

 ウォズもびっくりしちゃうんじゃないの? 俺たちの新しい未来にさ。

 ――――ウォズも別にそれでいいでしょ?」

 

強い。おどけているような口調でも、強い意志で固まった彼の言葉。

微かに、ウォズの視線が揺れた。

 

横目でその様子を見ていたアレキサンダーが少しだけ目を細める。

果たしてそんな征服王の様子を気にしているのかいないのか。

ウォズはいつもの調子でソウゴに言葉を返していた。

 

「―――君がそれでいい、というなら私から言う事はないさ」

 

じゃあ所長とオルタを仲直りさせるの手伝ってよ、と言って立ち上がるソウゴ。

ウォズを無理矢理に立たせ、その背中を押しながら彼は書庫を後にした。

凄まじく嫌そうな顔をしたウォズも、そこまで無理矢理されたら逆らえないのか。

本気で嫌そうな表情のままされるがまま、連れていかれた。

 

「………さて。どう思う、我が軍師?」

 

「放っておけ」

 

自分は間違いなく、今は征服王として声を上げた心算なのだけれど。

珍しく、彼の軍師はどうでも良さそうに彼の問いを蹴飛ばした。

 

きょとん、とした顔で本棚に視線を移してしまった彼を見る。

彼は大した話でもない、というような表情を浮かべて本を取っていた。

 

「―――ふうん。先生は問題ないと?」

 

「―――そうとも、我が王。王と王で通じ合うものがあるように……

 臣下には、臣下として通じ合うものがあるという話だ。

 だからこそ()()()()()()()()()()()()()()()()。以上だ」

 

確信、と言ってもいいだろう。彼の意志そのままの言葉。

それなりに疑り深い、というか深いところまで探らないと気が済まないタイプの男。

そんな彼が、ここまで断言したということは……と。

 

「ふ、む。それは―――なるほど、では我が軍師を信じることとしようか」

 

くすくすと口の中で笑い声を転がして、読書に戻る少年王。

その後、彼の軍師は余計な事を言ったとばかりに軽く鼻を鳴らした。

 

 

 

 

「オルタ、ねえオルタ」

 

カッカッ、と。カルデアの廊下をブーツで鳴らしながら早歩き。

着いてくる白いのを振り払おうと躍起になる。大体、何が姉がどうとか言ってるんだという話だ。

無視したままにいつも通りに書庫へと向かって―――

 

「ていや」

 

ガツリ、と頭部を捕まえる手甲に包まれた腕。

いきなり後頭部を掴まれた彼女の足取りが止まる。

思い切り振り払いながら、下手人に対して振り返ってみせるオルタ。

 

「何すんのよ!?」

 

「無視をしないでください。こちらは用事があって……」

 

突然のバックアタックに抗議の声をがなりたてるオルタ。

しかし彼女は腰に手を当てて、それはこっちのセリフですとでも言わんばかり。

偉そうに胸を張るジャンヌを睨みつつ吐き捨てる。

 

「こっちには無いのよ」

 

「まったく……子供っぽいですね、オルタは。やっぱりここはお姉ちゃんの出番なのでは?

 所長さんとの仲を取り持ってあげましょう!」

 

むん! と力を入れてみせる彼女。

仲を取り持つだのなんだの、そんなことを言われてオルタの眉が吊り上がる。

他の奴らからそんなことに介入される覚えはないのだから。

 

「余計なお世話よ!」

 

怒声を叩き付け、踵を返してそのまま歩き出す。

今度はジャンヌも追ってこなかった。

 

廊下を曲がり消えていった彼女の背中。

それを見送ったジャンヌが、小さく溜め息。

 

「うーん、拗ねれば拗ねた分だけ後が余計に大変になるだけでしょうに」

 

「もう割と後悔してんじゃねぇか……? 変なのに纏わりつかれて」

 

おや、と振り返ってみせるジャンヌ。

そこにはランサーが立っていた。シミュレーター帰りだろうか。

 

「最初に拗ねた態度見せたせいで、どうにも引っ込みがつかなくなってるだけだろありゃ。

 素直に受け入れてるって姿勢を見せられないだけで」

 

そもそも彼女は合理的な判断を下せないほど馬鹿ではない。

オルガマリーのサーヴァントが増えたところで、何を言うでもなかったはずなのだ。

ただそれを言われた瞬間に何かもやもやとした感情を抱いたのは事実。

 

そこをソウゴに見抜かれ言及された。

結果、彼女は爆発した。別に最初から文句などつけるつもりもなかったのに。

だが一回キレたからには引っ込みがつかない。怒っていないとやってられない、みたいな。

だって一度キレておいて、直後にやっぱ無しはないだろう。

一度怒りを露わにしたからには、怒りを引っ込めるための落としどころが欲しい。

そんな程度の話なのだ。

 

「はい。なのでそこの橋渡しを私がしようかと!

 マスターがソウゴくんにお姉ちゃんポイントを稼いだ今、今度は私の番なので!」

 

お姉ちゃんポイント? と首を傾げるランサー。

一瞬考えたが、絶対まともに考えても意味の無いヤツだと思い直して思考放棄。

暴走したダンプカーみたいな女だ、とどうでもよさげにスルーしておく。

 

まああれだ。どこも姉っての面倒くさいものなのだろう。

 

「まあ、好きにしたらいいさ。

 どうせ次の特異点を攻略してる間は揃って居残りだろうしな」

 

言われたジャンヌが表情を引き締めた。

今も次の特異点特定作業は、カルデア職員たちの手によって進行している。

少しずつ判明していく情報を、彼女たちは常に聞くようにしていた。

 

「―――今のところ分かる調査状況で次は随分と現代に近いと聞いています。

 神秘は社会の裏側に隠され、今の文明が完成された時代。

 こういう言い方もあれでしょうが、それ故に楽な旅路であってほしいですね」

 

小さく息を吐くジャンヌ・ダルク。

そんな彼女に対してランサーは肩を竦めるのであった。

 

 

 

 

そうして書庫から出たソウゴたちと、書庫に向かうオルタが顔を突き合せた。

前門のソウゴ、後門のジャンヌ。

挟み撃ちの形になったオルタが嫌そうに声を上げる。

 

「げ」

 

「あ、オルタ。ねえねえウォズ、どう言えばいいと思う?」

 

嫌そうな顔をしているオルタを前に、背中を押していたウォズにソウゴが問う。

問いかけられて大きく溜め息を吐くウォズ。

彼はやれやれと、無理矢理押されて乱れたマフラーを直しながら、オルタへと視線を向けた。

 

「ジャンヌ・ダルク・オルタ。君に我が魔王が謝罪をしたいとのことだ。

 確か……君がオルガマリー・アニムスフィア唯一のサーヴァントという地位を追われたがために、新たなサーヴァントであるアタランテに嫉妬している。という話で良かったかな?

 まあ契約者が一人きり、という唯一性くらいしか誇れるものがなかった君にとっては辛いことなのかもしれないが……我が魔王が気に掛けている。さっさと克服してくれないか」

 

「ぶっ殺す」

 

ノータイムで彼女は戦闘態勢に入っていた。シャラリ、と鞘から引き抜かれる彼女の剣。

当然のように噴き上がる黒く燃える呪いの炎。

 

「俺より怒らせてるじゃん。ウォズってもしかして全然ダメなやつ?」

 

「生憎、こんな仕事は専門外でね」

 

怒り心頭のオルタを前に、のんびりとした会話を続ける二人。

それを見ていた彼女の表情が大きく引き攣った。

 

「二人揃って表ぇ出なさい!!」

 

「私は外に出ても構わないが……君が表に出ても、人理焼却の影響で消失するだけだろう?

 出来ないことを言うのは止めておくといい」

 

明らかに挑発を続ける彼をしょうがないので押し退けて、ソウゴが前に出る。

思った以上にウォズが役に立たなかった。

そのままオルタの前に出て頭を下げる。ぐっ、とその姿勢を見てオルタが半歩退く。

 

「ごめん、オルタの気分を悪くさせるつもりはなかったんだけど」

 

彼に頭を下げさせている、という状況にぎりぎりと歯を食い縛るオルタ。

完全にキレていた頭を冷やして、剣を納める。

そも、こっちだってキレたくてキレていたわけでもないのだから。

 

「別に! アンタやマスターにキレてたわけじゃないわよ!」

 

「……我が魔王に頭を下げさせてその態度とは、まったく度し難い」

 

「言っとくけどアンタにはキレてるからね!?」

 

ただしお前にはキレている、と彼を指差すオルタ。

ぎゃーぎゃーと叫ぶ彼女のことを、ウォズはただ残念な人間を見る目で眺めていた。

 

その廊下の両側からうるさいにもほどがある廊下の状況を見守る影。

ランサーとジャンヌ、アレキサンダーとエルメロイ二世。

 

「……あんたがそのお姉ちゃんポイント? だかを稼ぐ場にはならなかったみてーだな」

 

「むぅ……」

 

茶化すようなランサーの言葉。

それは良かったのだが、と。ジャンヌがその顛末に少し寂しさを感じている、その反対。

 

「君が共感した家臣のように、君もああやって征服王を庇ってくれるのかい?」

 

「冗談にしては笑えんが?」

 

アレキサンダーの口にした冗談に、エルメロイ二世が本気で嫌そうな顔をしていた。

 

 

 

 

そういった色々を経つつ、再びカルデア管制室に召集される人員。

集まった皆を見回しながら、ダ・ヴィンチちゃんが喋りだした。

 

「やあやあ、こうして集まってもらったのは他でもない。

 遂に第四特異点の観測に成功し、ついでにもう一ヶ所の観測にも成功したからだ」

 

「もう一ヶ所?」

 

彼女の適当な話の始め方に眉間を抑えるオルガマリー。

首を傾げている者たちに対して、ロマニが補足を開始した。

 

「―――ソロモン王と七十二の魔神。その関与を裏付けするための調査さ。

 つまり紀元前十世紀、ソロモン王の時代をシバで観測してみようという試みだね。

 結果から言えば、そこに特異点は観測されなかった」

 

「やっぱりね。僕は信じていたよ、あいつはそんなことをする奴じゃないってね」

 

うんうん、と何度も首を縦に振るダビデ。

それを見ていたロマニが、口の端をひくひくと引き攣らせた。

停止した彼の後を継いでダ・ヴィンチちゃんが口を開く。

 

「もし仮に紀元前十世紀から未来に向け魔神を送り込めば、その干渉は痕跡を残す。

 だけど今回の観測でそれは一切感知できなかった。

 つまりあの魔神を名乗るものたちは、少なくともソロモン王の時代とはまったく別の時代から人類史への干渉を行っている、ということになる」

 

「……なら、もしかしたら。ソロモン王がサーヴァントとして呼ばれた場合は」

 

マシュの言葉。彼女が考えた状況。

それを肯定するように深々と頷いたダ・ヴィンチちゃんが言葉を続ける。

 

「ソロモン王がサーヴァントとして別の時代から人理焼却を行っている。

 その可能性は現時点で否定できないね」

 

「やっぱりね。僕は思ってたよ、あいつはいつかこういう事をやるような奴だとね」

 

やれやれ、と何度も首を横に振るダビデ。それを見ていたロマニが頭を抱えだした。

そんな彼に対して、ソウゴがいっそ訊ねてみる。

 

「実際どうなの?」

 

「さあ? 今の所はズレてる奴の犯行だ、と思うけど」

 

しれっと言い放ちながら、彼はいつもの調子で微笑む。

一体何がズレているのかという部分は口にする気がなさそうだ。

 

そんなやり取りを額に手を当てながら見ていたロマニが、気を取り直して口を開く。

どちらかといえばここからが本題だ。

 

「―――とにかく、特異点は七つ。

 それを修正し続ければ、いずれ黒幕にも辿り着くことになるだろう。

 今回観測された四つ目の特異点は十九世紀。

 七つの特異点の中でもっとも現代に近い、文明が発展と飛躍を迎える時代。

 つまりは産業革命。現代の消費文明に繋がる大きな足掛かりだ」

 

ほんの百年、と言葉にすれば簡単なのだが。

数千年の人類史を基準に考えれば、ごく最近のことではある。

しかしほんの百年前の世界がどれだけ現代と違うのか。

小さく唸ってから、立香が呟く。

 

「百年ちょっとかぁ。明治時代?」

 

「前に会った沖田総司がいれば近い時代の話を訊けたかも?」

 

「いや、残念ながら日本ではないからそれは難しい。

 ―――場所は大英帝国、首都ロンドン。

 今回は国一つまるまるとか、見渡す限りの水平線が特異点化したわけじゃない。

 一国の一首都。明確にその範囲が特異点となっているようなんだ」

 

「ロンドンか……」

 

苦い顔を見せるエルメロイ二世。

魔術師たちにとっては大きな意味を持つ都市。

彼の小さな呟きに反応して、オルガマリーも小さく表情を歪めていた。

 

そんな彼女が軽く目を瞑り、気を入れ直して目を開く。

 

「では、新たに特定された第四特異点。

 1888年、ロンドンへのレイシフトを開始します。

 参加人員は私のサーヴァントとして、アタランテ。

 藤丸立香のサーヴァントとして、マシュ・キリエライト、諸葛孔明、フランシス・ドレイク。

 常磐ソウゴのサーヴァントとして、アレキサンダー、ダビデ。

 ……………常磐ソウゴの協力者として、ウォズ。

 以上のメンバーによる作戦の実施となります。

 参加メンバーは準備して、各自クラインコフィンへの搭乗を行うように」

 

「私は自分で現場に移動するのでお構いなく」

 

そう言ってソウゴの後ろに立っていたウォズが管制室から出ていった。

当然カルデアにそんなことが出来るのは管制室以外にないはずだが―――

彼の場合は今更である。

 

それを見ていた皆が気を取り直し、司令官である彼女の声に従い全てが動きだす。

そうして、第四特異点の攻略が開始された。

 

『アンサモンプログラム スタート。

 霊子変換を 開始します。レイシフト開始まで3、2、1……全工程、完了(クリア)

 グランドオーダー 実証を 開始 します』

 

聞き慣れさえしてきたアナウンスに導かれ、彼らは新たな特異点に向かう。

 

 

 

 

レイシフトが完了し、まず視界に入ってきたのは―――

というより、まず視界を覆い尽くしたのが白い霧だった。

 

「……これは……視界が阻害されるほどの、濃霧ですね」

 

それを目撃したマシュが思わず、といった様子で呟く。

が、早速オルガマリーとエルメロイ二世が顔を顰めた。

 

周囲の霧に視線を巡らせて、どんどん表情を厳しくしていく。

 

「……産業革命時のスモッグ、か。いや、だがこれは……」

 

「明らかに魔力を含んでいる……わね。異常よ」

 

『―――こちらからも見えているよ。

 というか、さっきからモニターが常に異常表示を出し続けている。

 周辺一帯が異常に包まれているせいで、ほとんど何も見えていないのと同じだよ、これ』

 

ロマニの声が彼女たちに届く。

でしょうね、と吐き捨てるオルガマリー。

異常しかない中で異常の察知など出来る筈もないだろう。

 

「あれ?」

 

と、そこでソウゴの体がぐらついた。

近くにいたアレキサンダーが彼の腕を掴み、支える。

彼を支えながら、その状態を確認するアレキサンダー。

 

「―――どうやらこの霧は魔力が充足し過ぎてる。

 僕たちサーヴァントならともかく、人間は呼吸さえも毒になるみたいだ。

 カルデアの装備である服にかかった魔術でさえ、その大気の魔力が濾過しきれないらしい。

 マスター、とりあえず変身しておいた方がいい」

 

「あー、うん」

 

ソウゴの元気のない返事。

アレキサンダーの見立てに、二世もまた周囲に視線を走らせてから頷いた。

そうと推測が立った瞬間、マシュが一気に立香にまで迫りその体の様子を確認しだす。

 

「先輩! 先輩はご無事でしょうか!?」

 

「え? う、うん。私は別に何ともないんだけど……」

 

ぺたぺたとマシュの手に触られながら答える立香。

ソウゴがいきなり不調になって驚いたが、立香の方はまるで何ともない。

 

彼女たちの横でソウゴがドライバーを装着してジオウに変身した。

そうなれば彼の不調も解消されたのか、問題ない様子を見せる。

 

アタランテが特に問題なさそうな自身のマスターを見た。

 

「マスターは問題なさそうだな」

 

「そりゃまあ、私はそうでしょうよ。

 呼吸も何もそれ以前の問題だし……藤丸は……」

 

ダ・ヴィンチちゃん特製のボディがどこまで耐えるのかよく分からない。

とはいえ、今の彼女の本体は頭の中の眼魂だ。

大気に魔力が多い、というような理由では大したダメージにはならないだろう。

が、問題は藤丸立香だ。

 

『うーん、毒への耐性だろうか?

 仮にあるとしたら、マシュの中の英霊の力ということかもしれない。

 サーヴァントがマスターに肉体的な影響を及ぼす、っていう話は知らないけれど……

 デミ・サーヴァントだから、ということもありえるのかな……?』

 

通信の中でそう推測するロマニ。

どうあれ、現状では立香にこの霧の影響はない。

経過観察が必要だろうがとりあえずはそう結論していいだろう。

 

立香とマシュ、二人の様子を窺いながら二世が声をかけた。

 

「………まあ、過信は禁物だろう。マスター、不調が出たらすぐに言え」

 

「うん。今の所は大丈夫」

 

「しっかしまあ、しょぼくれた街だねぇ。

 並んだ家は立派だが、人っ子一人歩いてやしない。今、真昼間だろう?」

 

霧を軽く払いながら、ドレイクが周囲を見回しそう言った。

時刻は午後二時。普通なら往来に人がいない、なんてことはないだろう。

ロンドンの街並みは今が深夜であるかのように、完全に静まり返っていた。

 

『とはいえこの霧は最早毒ガスだ。そんな状況で外に出る人間はいないだろうね』

 

「そんなになのかい? アタシにゃ分かんないけどね」

 

外に出るだけで致命傷、そういう事態なのだと口にするロマニ。

サーヴァントの身となったドレイクは、その話に大きく肩を竦めて返した。

 

『生体反応と思しきものは家屋の中から感知できている。

 おそらく、この異常事態を前に普通の人間は全員閉じ籠っているのさ』

 

「せっかくなら未来の酒を買い足そうと思ってたけど、それどころじゃなさそうだねぇ」

 

残念そうにそう言う彼女。

全ての家屋が締め切られているというのなら、当然商店も開いていないだろう。

 

そんな事を話していると、ふとアタランテが顔を上げた。

続くようにダビデとアレキサンダーも。

どうしたの、と声を上げようとしたジオウの耳にもその音が届く。

 

石畳の上を歩く鉄靴の足音。そして金属鎧が揺れて擦れる音。

それが深い霧の奥から、こちらに向かってきていた。

 

咄嗟に全員でそちらを向けば、姿を現したのは……

 

「…………なんだ、お前ら?」

 

兜だけ外した全身鎧を纏う、金髪の女性。

手にした剣を肩に乗せながら歩んできた彼女は、こちらを見て足を止める。

西洋騎士風の彼女は考えるまでもなく、サーヴァントに違いあるまい。

 

そしてそんな彼女の後ろからこちらにやってきたのは―――

 

「どうしたんだい、セイバー? こっちに誰かいるのかい」

 

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()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()

 

 

 




 
ジャックがいるところにアタランテを投げる采配。
聖女がいないからセーフ。
 

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