Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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容疑者J/与えられた者の暴戻1818

 

 

 

ちょきちょき、ざくざく、ちょきちょき、ざくざく―――

 

石壁に囲まれた工房の中に鋏の音が響く。

鋏が一度ちょきっと閉じれば、肉片が二つに分かれてざくんと転がる。

血の海に沈む無数の肉片。

鋏の持ち主はそれを嬉しそうに眺めた後、彼はやり遂げたと額の汗を拭うような動作をみせた。

 

一仕事やり遂げた、と言わんばかりの彼の背後。

そこで突然、強固な守りにより固定されている筈の工房の扉が吹き飛んだ。

ぐしゃぐしゃに潰れた扉が壁にぶつかり四散する。

 

「おやぁ?」

 

不思議そうに振り向く。

目を向けるのは、扉を吹き飛ばされ開けっ放しになってしまった部屋の前。

そんな彼の目の前でこの部屋に、金髪の大男が入ってきた。

 

肩に黄金の刃を持つマサカリを担いだ男―――サーヴァント。

彼はサングラスをかけた顔を左右に振ってその惨状を確かめて、一度舌打ちした。

 

「―――よお、悪党。

 血と臓物の臭いがすると思って邪魔してみりゃ、こりゃどういうことだよ」

 

「いえいえ、見ての通りですが。何かおかしいものがありましたかぁ?」

 

バリ、と彼の周囲で雷光が空気を弾く。

 

血と肉片と臓物の海で薄ら笑いを浮かべるもの。

それは白と紫の蔦が絡み合うような形状の角を持つ、悪趣味な道化師(ピエロ)の如き格好をした白い顔。

彼はこの光景を作り出してなお、こんなものは何でもないと言いたげに嗤笑する。

 

「あ、それとわたくし悪党ではなく悪魔ですので。そこのところお間違えなくどうぞ」

 

「そうかい、じゃあオレにゃ関係ないな。こちとら悪鬼を砕くのが生業なんでな。

 テメェが悪党だろうが悪魔だろうが鬼だろうが、ぶちかます事には変わりねぇからよ!!」

 

そう叫んだ彼の全身が雷を纏い、マサカリを振り上げ突撃していた。

ピエロがすぐさま目の前に鋏を持ち上げ、それを受け止めようと構え―――

 

武器を打ち合わせた瞬間、吹き飛ばされて石壁に叩き付けられていた。

 

「ぐぇ……!」

 

彼が叩き付けられた石壁の方が砕け散る。

体の半ばまでそこに埋まったピエロが、驚いたように笑ってみせた。

 

「おやこれは不味い。あ、さっきの悪魔というの嘘で実はわたくし英霊なのです。

 なので鬼でも悪魔でもないので見逃すというのは……」

 

「そうかい。悪党であることには変わんねぇなぁ!!」

 

「確かにその通り!」

 

二撃目。そこで相手を完全に粉砕せんと一気に踏み込むマサカリの男。

それを笑いながら迎えるピエロ。

 

間近に迫ってくる死を前にして、しかしピエロに動揺はない。

死を恐れていないだけではなく―――

そこを引っ繰り返すための秘密があるからだ。

 

それを証明するように、彼の腕に這っていた何かが男に向かって飛び掛かる。

懐中時計に虫のような足を生やした、何かおかしな物体。

 

それを見た男は舌打ちしつつ踏込みにブレーキをかけ、マサカリでそれを斬り払う。

当然のように迎撃に成功した彼の目の前。

その時計みたいな虫は、切り捨てた瞬間爆炎を巻き上げた。

 

「ひひははは――――!」

 

炎と煙で満たされる工房内。

周囲から聞こえてくる笑い声に顔を歪め、彼は両腕でマサカリを掴む。

その状態のまま体を大回転させてみせれば、周囲の炎を吹き飛ばす竜巻が巻き起こる。

 

「ゴールデンタイフーン!!」

 

―――炎と煙を吹き飛ばした先。

驚いた表情のピエロが工房の出口のすぐそばまで移動していた。

回転しながら彼は己の武具、“黄金喰い(ゴールデンイーター)”に雷を込めたカートリッジを喰わせる。

連続して三回、排莢されたカートリッジが空を舞う。

 

カートリッジに内包された雷を喰らい、その武装は刃に雷光を現出させる。

マサカリから迸る雷。彼はそれを、ピエロ目掛けてそのまま解き放った。

 

「“黄金衝撃(ゴールデンスパーク)”――――ッ!!!」

 

地下の密室に雷鳴が轟く。

周囲を灼く雷撃が熱波を伴い、ピエロを呑み込まんと一気に氾濫。

雷の嘶きと破壊される周囲の物体の断末魔が混ざり合い、甚大な破滅の音が天へと昇った。

 

 

 

 

「ちょっと、金時さん? やりすぎでしょう、これ。

 外から見てても屋敷が地面から跳ねたかと思いました」

 

よほどうるさかったのか、彼女は狐耳をぺたりと倒しながら苦い顔。

現れたのは、肩まで大きく露出させるような青い着物という衣装の女性。

そんな彼女が地下に歩いてくる。

 

「…………よお、フォックス。逃げてく奴は見かけたか?」

 

「いいえ? 逃がしたんですか、あれだけの規模で宝具まで使っておいて?」

 

フォックスと呼ばれた彼女は怪訝な顔。

次いで、ちらりと地下工房の惨状を流し見る。

惨殺死体があるが、まあそれはそれ。彼女に大した感慨は湧かない。

 

「ああ、手応えはなかった。多分、逃げられちまった。

 わからねぇが……どうだか、運がなかった、って感じだ」

 

「運がねぇ……」

 

周囲の破壊痕を見るフォックスと呼ばれた女性。

呪術の類、というより運命力というか。

あるいは彼が“人”の英霊だからこそ、“悪運”に見舞われたかのような。

 

相手は呪術に傾倒したタイプのキャスターだろう。

彼女は姿も見ていないが、そう推測する。

 

舌打ち一つ。

サングラスに隠された彼の瞳が、惨殺された老爺に向かう。

 

「フォックス、火ぃ貸してくれ。このまま放ってはおけねぇだろ」

 

「……まあ、火葬したいというのなら手伝いますけども。

 ここ、土葬するとこなんじゃありません?」

 

バヂン、と。二人の会話を遮る何かが弾け飛ぶ音。

自然と、一瞬で臨戦態勢に入る二人のサーヴァントたち。

 

その音は奥の何か、人が一人そのまま入れるだろう巨大な装置。

まるで機械で出来た棺桶のようなものから出た音だった。

 

音は次第に大きくなっていき、やがてその棺桶の蓋が勝手に開かれる。

更に黒煙を上げ始める機械棺桶。

 

「………なんだ?」

 

「金時さんが馬鹿でかい電気出したせいで壊れたんじゃないですか?

 最近の家電は繊細ですから」

 

「そりゃまあ、オレたちに比べりゃこの時代のモンも最近だろうがよぉ……」

 

とりあえずこの老爺の工房のものだろう。

サーヴァントに対し危害を加えられるものだとも思えず、金時と呼ばれている彼が近づいた。

そして棺桶の中を覗き込むように頭を突っ込んだ彼が、

 

秒で踵を返してフォックスのところへ帰還した。

 

「おうフォックス、任せた」

 

「は?」

 

彼は棺桶に完全に背中を向け、微動だにしない。

何ですか、と訊いても完全に無言を貫く。

 

仕方なしに彼女が棺桶の方に歩み寄り、その中身を覗いてみる。

 

―――その中には、ところどころに包帯が巻かれた全裸同然の少女が入っていた。

 

 

 

 

明け方、と言っても霧のせいで朝日が差し込むようなこともない。

明るくなった、というより闇ではなくなった。という程度の状況だ。

屋根から降りたオルガマリーとアタランテ。

そんな彼女たちを玄関でダビデが迎えた。

 

「………すまない、夜通し頭を冷やしてきた。

 激昂して掴みかかるような真似をしたのは、全面的に私が……」

 

「いや、もうそんなことはどうでもいいんだ。必要経費の類さ。

 そんなことより、僕がわざわざ君たちをここで出迎えた理由。分かるかい?」

 

彼の視線はオルガマリーとアタランテ、両方に向いている。

普段以上に彼の表情には遊びがない。

 

「いえ――――」

 

「だろうね、そこはしょうがない。彼女は普通より面倒なタイプだろうから。

 とりあえず今、僕にしたようにモードレッドに謝るべきではない。

 というか、少しの間はアタランテがモードレッドに話しかけるべきではないんだ。

 だからそうするようにお願いだ。彼女、本気で決壊寸前みたいだから」

 

そう言って、ダビデは小さく首を動かして家の奥を見るように視線を送る。

その言葉に対して、マスターとサーヴァントの二人は揃って顔を見合わせた。

 

 

 

 

「ソウゴー、ソウゴー起きてー」

 

ソファで寝ているソウゴの肩を揺する立香。

彼はどんな夢を見ているのやら、唸り声を上げながら枕代わりのクッションに抱き着いている。

 

やがて揺すられ続けた彼が、眠たげに瞼を開いて立香を見上げた。

 

「あー……うん、おはよー……」

 

「おはよう」

 

彼を起こした立香がそのまま朝食準備の手伝いに回ろうとした、その瞬間。

 

「祝え! 人理焼却における第四の特異点―――!

 ロンドンにおいて、常磐ソウゴが二日目の朝を迎えた瞬間である―――!!」

 

ウォズが目を覚ましたソウゴを認識し、そう高らかに叫んでいた。

 

それはそれとして、テーブルの上に朝食を並べる。

マシュの盾により召喚サークルを設置出来たおかげで、カルデアから食糧は送れた。

なんと今回は朝食としてブーディカが作ってくれたものをそのまま召喚だ。

拠点がジキルの家になったことで、休息や食事は大助かりだった。

 

突然の奇行に目を見開いていた式が、気にするでもない立香に声をかけてくる。

 

「なあ、あれなに?」

 

「うーん、趣味なんじゃない?」

 

もしかして彼はあれをやり続けるために今回同行したのだろうか。

自分も朝食の準備を手伝いながら、マシュは流石にそれはないかとその考えを振り払った。

 

「うるせぇ!!」

 

空飛ぶ酒瓶。それはモードレッドの筋力から繰り出される剛速球。

肩を竦めた彼は、ストールを跳ね上げてそれを割れないよう優しくキャッチした。

そのまま空き瓶が並んでいる場所に持っていく便利な衣装。

 

「やれやれ、突然なにをするんだい?」

 

「朝っぱらから突然なにしてんだはこっちのセリフだ!」

 

普段から怒りっぽいだろう彼女だが、昨日の夜から輪をかけて常にキレている。

 

「よしなよ、モードレッド。別にいいじゃないか。

 アンタもアタシも、静かなよりは騒がしいくらいが落ち着く性分だろう?」

 

そう言いながらまだ酒をかっくらっているドレイク。

本気でカルデアのアルコール事情が心配だ。

次の特異点は酒が購入できる時代だと嬉しいが……

 

ドレイクはそのままバンバンと彼女の背中を叩くと、笑いながら彼女に酒を渡す。

舌打ちしながら彼女もそれを受け取り、一気に呷った。

 

そんな彼女たちを眺めていたソウゴの肩を、後ろからアレキサンダーが叩く。

 

「マスター。ちょっといいかい?」

 

着いて来てくれ、というポーズを示す彼。

ソウゴが腹に手を当てながら、切なげな顔で彼に問いかける。

 

「え? 朝ごはんは……」

 

「後でね」

 

彼に一切躊躇はなかった。

 

 

玄関口まで連れてこられたソウゴが要求されたのは小声での密談だった。

そうして集まったオルガマリー、アタランテ、ダビデ、アレキサンダー。

そして通信先から参加しているロマニ。

彼らから聞かされる昨日の話。

 

「ふぅん……」

 

「というわけで、ダビデの話ではモードレッドが爆発寸前。とのことなんだけど……」

 

「それは分かるけど……でもそれ、アタランテとの話。あんま関係なくない?」

 

そう言ってソウゴはダビデを見る。

彼は肯定も否定もせずに、ただ笑みを深くするだけだった。

ソウゴの言葉にオルガマリーが首を傾げた。

 

「……それ、どういうこと?」

 

「うーん……」

 

オルガマリーに問いかけられて、難しそうに俯くソウゴ。

そんな彼に、通信先からロマニが声をかけた。

 

『アーサー王が女性だった、ということ。

 これを考えれば、モードレッドの出自も恐らく伝承より複雑なものだったんだろう。

 それを考慮するときっと彼女も親子関係に事情があるだろう、という推測なんだが……』

 

「それもあるかもしれないけど……」

 

多分、そこは余り気にしていない、と思う。

まったくではないだろうけど。

怒りに対する内訳をだすなら、そこは3割もないだろう。

 

アタランテが叫び、そしてモードレッドが返したという言葉。

 

子供たちに対する救い、という話。

ソウゴにも思うところはあるが……それは、考えることを許された人間故だ。

 

考えることも許されず死した怨念に対する救い。

モードレッドはそれが前提として破綻していると語った。

恐らく、その憎悪が犯す過ちを止めて、憎まれてあげることくらいしかできないだろう。

 

そしてアタランテの願う救いをソウゴが受け入れられるか、といえば。

彼は受け入れられないだろう。

 

だって彼女は子供への愛しか望んでいない。

親への幸福は、その子供が成長した結果としか見ていない。

あるいは子が幸福でさえあれば、親というものは絶対に幸福だという確信からか。

 

否定をするつもりはないけれど―――

けど彼は受け入れられない……いや。そこでは終わらせられない。

だって常磐ソウゴが目指すのは、全ての人を幸福にできる最高最善の王だから。

子供に関わらない人が目指す幸福だって望む人がいる限りは諦めない。

 

―――多分、アタランテがジャックに対して願う救いは……

救いの代わりに最後の希望すら奪うものなのだろう。

 

だってそれは……

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そんな心の防波堤を取り払って、正解を出してしまうことだ。

それが良い事か、悪い事か。語り切れる話でもないけれども。

 

少なくとも……止めなきゃいけないのは変わらない。

それより前に。だからこそ、先にモードレッドと話をつけなくちゃいけない。

 

「多分、そこだけで本気で怒ってたらモードレッドは剣を抜くと思う。

 今のモードレッドが怒ってるけど剣を抜かないのは、自分が怒ってると認めたくないんだ」

 

彼女の気性ならば協力者、程度のカルデアに剣を抜くこともあるだろう。

カルデアを全滅させて世界を滅ぼす気はないにしても、叩き伏せる事を厭うタイプではない。

ソウゴの言葉を聞いて、眉根を寄せるアタランテ。

 

「認めたくない……?」

 

「ウォズー!」

 

リビングにいるはずのウォズをソウゴが呼ぶ。

呼ばれた彼はリビングから出てきて、こっちの集団に合流した。

 

「どうしたんだい、我が魔王。悪巧みに私も加えてくれるのかな?」

 

「悪巧みじゃないけど、ちょっとだけ手伝って」

 

訝しげな視線を飛ばすオルガマリーたち。

そういう視線を向けられていると分かっているだろうに、彼は自信ありげに悠然と微笑む。

 

「任せといて、これならいける気がする」

 

 

普通に歩いてリビングに戻ってきたソウゴが、戻ってくるやいなやモードレッドを見て口を開く。

 

「ねえ、モードレッドって王様になりたいの?」

 

「あぁ?」

 

酒瓶を握る手を強くし、ビシリとそれに罅が入った。

最早その瓶の状態こそが彼女の理性の指針だ。

今のたった一言で、彼女の精神状態は最悪を更新したと言っていい。

 

その様子を見てぎょっとしたジキルが止めようとして―――

彼の前に立ちはだかったウォズに静止される。

立香たちも彼を見るが、彼は怪しく微笑みを返すだけだ。

 

「俺も王様になりたいからさ。訊いておこうかと思って。

 俺がなりたいのは、全ての人々を救える……どんな王様より凄い、最高最善の王様」

 

バキリ、と彼女の手の中で酒瓶は致命的な音を立てた。

砕けた硝子片が床の上に散らばる。

彼女はソウゴから目を逸らすように俯き、動かない。

 

「―――それで、それをオレに訊いて、何がしたいって?」

 

怒りを押さえ込もうとはしているのか、震える彼女の声。

そんな彼女に対して、彼はまるでいつもの調子で答えを返した。

 

「それを訊かれて何かしたいのはモードレッドの方でしょ?

 だからアタランテも許せなかったんだよね。

 全ての子供が愛されるとか、俺の言った全ての人を救うとか、そんな事出来るわけ無いって。

 モードレッドが誰より憧れた王様が出来なかった事、簡単に口にしたのが許せないんだよね?」

 

明らかに限界を超えて怒りを募らせているモードレッド。

そんな彼女を見ても、ソウゴに揺るぎはない。

 

「お前が簡単に口にしたそれが、どれだけのことなのか分かってるのかって。

 今までの王様がどれだけ苦しんで切り捨ててきたものか、分かってそれを言ってるのかって。

 オレの王を馬鹿にしているのか、って叫びたい」

 

彼女が俯いていた顔を跳ね上げる。

碧眼を怒りで血走らせた眼光が、正面に立つソウゴに突き刺さった。

彼はそれでも静かに口を開く。

 

「―――分かって言ってるつもりだよ。俺は最高最善の王になる。

 何一つ簡単に行くなんて思ってない。簡単な気持ちで口にした言葉なんかじゃない。

 どんな王様よりも、モードレッドの王様よりも、俺は多くの人を救える王様になってみせる」

 

「―――そうかい、そうかい。そこまで代弁してくれてありがとよ。

 そこまで分かってるならさ。分かってるよな?

 人類最後のマスターの片割れとか、そんなどうでもいいことで――――!

 オレがテメェを見逃さねぇってことをよォ――――ッ!!!」

 

怒りを抑えていた心の堤防は既に決壊している。

いや、ソウゴが自分の言葉でわざわざ粉微塵に吹き飛ばさせた。

 

抑えの消えたモードレッドの赤雷が爆発する、寸前。

ウォズが揮ったストールが竜巻を起こし、モードレッドとソウゴを呑み込んだ。

一瞬のうちに姿を消してしまう二人の姿に、立香が唖然としてウォズを見る。

 

彼は肩を竦めるだけで、さほどソウゴの様子を気にしている様子もない。

 

「せ、先輩! ソウゴさんが……!?」

 

消え失せた彼の姿に、マシュが立香とウォズの間で視線を往復させる。

その近くではエルメロイ二世が顔を押さえて天井を仰いでいた。

 

「………モードレッドをわざわざ挑発したのか……

 確かに爆弾を抱えていたくはないが、わざわざ爆発させるか普通……」

 

「まあ大丈夫だろうさ。モードレッドも殴り合えばまだ止まる範囲だよ、多分ね」

 

「ほんとかい……? あれは明らかに……殺意が……」

 

ドレイクもさほど心配していないのか、酒瓶を空ける勢いは落ちない。

竜巻のせいでずれた眼鏡のブリッジを押し上げながら、ジキルがそんな彼女に問う。

 

「そりゃそうさ。今のモードレッドはキレてるからごっちゃにしてるけどね。

 ソウゴが喧嘩を売ったのはモードレッドの王様にじゃなくてモードレッドに、だよ。

 あいつ多分、王に喧嘩を売られたとなりゃ相手の首を取るまで止まれないだろう?

 けど、自分相手に売られた喧嘩ならひたすら殴り合って終わりさ。

 正気に戻れば、そこを履き違えるような奴じゃないよ。

 だって自分の喧嘩で王の名前を出したら、それこそ王の名に泥塗る事になるんだから」

 

「正気に戻る前に決着がついちゃったらどうするんだい、それ……」

 

「そこはそりゃあ、ソウゴの方の力を信じるんだね」

 

けらけら笑って、再び酒に戻るドレイク。

そろそろ酒蔵の限界が見えてきたのではないだろうか。

 

状況を見ていたアタランテが、くらりときた頭の眉間に手を添える。

 

「…………すまない。本当に」

 

「―――いいんだよ、アタランテが気にしなくても。

 多分、ソウゴもそういう気持ちを隠される方が気になるよ。

 自分も隠さなくてもいい、ってなったから……

 だからきっと、そういう気持ちが嬉しいことだって思って動いてるんだろうから」

 

一時的な突風で荒れた部屋。それを片付けるために立香が動き回る。

 

―――残されていたソウゴの朝ご飯もひっくり返ってた。

せっかくブーディカが作ってくれたご飯なのに。朝ご飯抜きだろう、これは。

まあ二人が帰ってくるのを待っていたら、どうせお昼になっちゃうだろうけども。

 

式さえも大きく溜め息を吐いて、その掃除を手伝ってくれた。

 

ダビデも仕方なし、それを手伝おうとして。

顎に手を添えて悩んでいるアレキサンダーに目を止めた。

 

「どうしたんだい?」

 

「いや、僕が少年期ということもあるのかな? 学ぶこともあるな、と思ってね」

 

二人の話を片付けながら聞いていたエルメロイ二世の顔に、勘弁してくれという感情が浮かぶ。

 

「君とマスターじゃ王としての方向性が違うのさ。

 恐らくマスターの王としての素質は、モードレッドの王の方に近いだろうからね。

 そういう意味では……どうだろう?

 とても相性が良いか。とても相性が悪いか。どっちかになっちゃうのかな?」

 

「ふむ。流石はダビデ王、なのかな。学ぶところが多そうでより楽しみな旅路になってきたよ」

 

エルメロイ二世の顔には、本当に勘弁してくれと書かれていた。

 

そして、最後に彼らの後ろでオルガマリーが叫ぶ。

 

「大事になりそうなことをするときは……

 ちゃんと相談しろって言ってるでしょうがぁ―――――っ!!!」

 

 

 

 

暴れても民家に被害の及ばなそうな場所。

ウォズに指定した条件はきっちりと果たされた。

赤雷を纏って殺到するモードレッドを受け止めながら、ウィザードアーマーが炎を広げる。

 

ジカンギレードから吐き出された銃弾が縦横無尽な軌道を描き、モードレッドを囲う。

それを一喝、叫ぶとともに放たれる雷となった魔力が迎撃した。

 

「それで!? まだモードレッドの答え聞いてないけど!」

 

「黙って―――死ねぇッ!!」

 

雷を纏う剣が大上段から振り下ろされる。

即座に“コネクト”の魔法でフォーゼウォッチを手の中に呼び出す。

それをジカンギレードに取り付け、ケンモードへ変形させた。

 

〈フィニッシュタイム!〉

 

モードレッドとの鍔迫り合いに入る。

その結果、彼女の剣が纏う雷をフォーゼウォッチが取り込んでいく。

予め見たこともあった雷の吸収能力に、モードレッドが舌打ちする。

 

彼女がその体勢のまま無理矢理蹴りを見舞い、距離を開けさせる。

 

「オラァアア――――ッ!!」

 

〈フォーゼ! ギリギリスラッシュ!!〉

 

モードレッドの放つ雷と、ジオウの放つ雷。

二つの稲妻が空を奔り衝突して爆発し、そこから光芒を四散させる。

雷火の立つ戦場と化した地。

 

そこで二人が再び互いの剣を打ち合わせた。

 

 

 




 
俺への憎しみで関係ない奴を巻き込むなと言って倒すたびにより広範囲を巻き込んで強くなるやべー奴がいるらしい。
ジャックちゃんも見習えば更に強くなれる……?

爆弾があるなら爆発させればいいじゃない。
ソウゴのそういう姿勢はオーマジオウになっても変わらないから若き日の私よ…
ってなるのだと思う。
 

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