Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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2周年アンケートフェスでやっとグランドジオウが引けたので初投稿です。
 


暴かれたM/おとぎのものがたり20XX

 

 

 

「ゥー……」

 

「よう、フォックス。

 オレの記憶が正しけりゃよう、ありゃウェディングドレスって奴じゃねぇのか?

 なんでそんな服があの爺さんの家にあるんだよ」

 

「そんなこと私に訊かないでくださいます?」

 

家の中を適当に探し回った結果、見つけた女物の服。

何故か唯一あったのは、今まさに少女が着ている純白のドレスだった。

それしかなかったんだから仕方ない、とばかりに顔を顰めるフォックス。

 

少女はこの状況をどう考えているのか、工房の床にぺたりと座りこんだまま動かない。

 

フォックスがそんな少女を一度見てから視線を外す。

彼女の視線はこの工房内の奥に纏められているガラクタの山へ。

 

一体そこから何を感じるのか。彼女はそのままそのガラクタの山を崩し始めた。

真剣な顔で物色を始めた彼女に、金時は首を傾げてみせる。

山のように積まれているガラクタを崩して、その中を掻き分けるフォックス。

 

そんな彼女の背中に金時は声をかけた。

 

「おい?」

 

声をかけられたからではないだろうが、彼女がその動きを止める。

中から何かを見つけたのだろうか。

 

「これでしょうね。どっこい……いえ、金時さん。

 これ。引っ張り出してください。くれぐれも壊さないように」

 

「あん? 別にいいけどよ……」

 

言われた金時が彼女が見ていたガラクタの中。

そこに手を突っ込んで言われたものを掴み、慎重に引っ張り出す。

 

―――それは先端に鉄球のようなものがくっついた人の身長ほどもあるメイスだった。

その鉄球は明らかに打撃を目的とした、ただの金属の塊ではない。

どういうものだか分からないが、何らかの機関であるように見える。

 

「こりゃあ……」

 

「多分あの子の心臓なんでしょうね、それが。

 そこに金時さんが電気を入れちゃったから動き出した、というところでしょう」

 

そう言って彼女は座っている少女に視線を向けた。

髪をガシガシと掻いて、その話に対する言葉を探す金時。

 

「あー……つまりあれだ、改造人間って奴か? 眠らされてた」

 

「改造じゃなくて人造では?

 まあ……()()は人間っぽいので改造でもいいでしょうけど。

 人で造ったキメラってことでしょうね。造ったはいいけど封印されてた」

 

説明を受けた金時の舌打ち。

そういう反応だろうと思っていたので、フォックスから突っ込むこともない。

 

彼はそのメイスを持って座り込む彼女に近寄ると、自分も腰を落とした。

身長に差が有って目線は並ばないが、彼女に合わせようとしているのだろう。

 

「へい、ガール。こいつはお前さんのもんだ。持っときな」

 

そう言って少女にメイスを差し出す。

少女も躊躇うことはなく、それを受け取って胸に抱いた。

それが自分の心臓であるということに自覚があるのだろうか。

 

そうしてから金時は立ち上がり、またも困ったように頭を掻いた。

 

「しかしどうすっかな、どういう状況かまるで分からねぇ。

 この時代がイカれてる。この霧がイカれてる。表にゃよく分からん人形たち。

 情報はそれだけで、どうすりゃいいのかマジで分からねェ。

 しかもマスターも無しでちと魔力を使いすぎた」

 

「あんな派手に暴れるからでしょうに」

 

少し前に敵対した恐らくキャスターだろうサーヴァントだけではない。

召喚されてからこっち、道端で出会う敵全てを粉砕しているのだ。

マネキンのような人形や、鋼鉄の塊みたいな機械人形。

更には命を与えられた肉塊、としか言えないような―――恐らくホムンクルスか。

 

それを薙ぎ倒し続けた彼の魔力は、流石にそろそろ限界。

というよりよくここまで保ったものだと彼女は感心する。

 

「もしかしたらオレたちにマスターを与えないためか?

 生きてる魔術師を殺してるのは」

 

「そんな感じじゃ……なさそうですけどねぇ」

 

金時の言葉に、相手の活動を考えてみる。

サーヴァントならいざ知らず、魔術師を殺すだけならサーヴァントなんていらない。

あの鋼鉄の兵器、そうでなくても大量のマネキンを投入すれば磨り潰せるはず。

 

まあ魔術師の総本山らしい時計塔は分からないが……

 

「ちっ、マスターさえいりゃあもう少し無理が利くのによぉ」

 

そう言って膝を叩いた彼のズボンの裾がくいくいと引っ張られる。

振り返った彼が見たのは、少女が自分の足に縋りついている光景だった。

サングラスの下で瞳が困惑の色を浮かべる。

 

いや、彼女の言いたいことは何となく伝わってはくるのだ。

金時は言葉を持たない動物ともある程度だが意思疎通が叶う。

それは彼女のように喋らない人間であっても同じ。

強い感情はなんとなし、彼に誤解なく伝わってくるのだ。

 

彼女は嘆いていた金時に、協力を申し出ている。

あと無駄に電気をばら撒くなとも言っている。

 

「……おう、どうしたんだガール」

 

「ウゥ……」

 

「ふぅむ……」

 

彼に縋りついている少女を見て、フォックスが首を捻る。

そして彼女が胸に抱く彼女の心臓部を見つめた。

 

「現地の生きた人造人間。恐らく高等な魔力炉心と見られる心臓。

 これは、もしかしたらもしかするのではないでしょうか?」

 

そこまで言われれば金時も理解する。

くいくいと何度も引っ張ってくる彼女が、金時に言いたいこと。

 

―――わたしが、おまえのますたーに、なる。

―――まずはその、でんきのむだづかいを、かんりする。せつでん、しろ。

 

 

 

 

メフィストフェレスを名乗る英霊を撃破した、が。

その状況にアナザーダブルが顎に手を添える。

 

「………ヴィクター・フランケンシュタイン。

 小説『フランケンシュタイン』は僕も知っているんだ。

 この時代に生きる彼は、小説のモデルとなった魔術師の孫になる」

 

『科学者ではなく、魔術師……だったのかい?』

 

「そうだね。どのような経緯で小説になったか、それは僕には分からないことだけど」

 

彼がそう口にしたのを聞いていたエルメロイ二世。

その視線が合流してきた式に向く。

幾つか言葉を交わしていた彼女ならばもしかして、という考えで。

 

「あれは、マスターの存在を示唆していたのだろうか」

 

「どうだろうな。多分、マスターってのはいなかったんじゃないか?

 あいつは……うん、契約者と雇い主は分けてたと思うぜ。

 あと雇い主から与えられた仕事の中に愉しみを見出すってことは―――」

 

果たして彼女は、欲しい答えを得ていたようだ。

だがサーヴァントでありながら、マスターではない何かに従えられていた。

その結論には眉を顰めるしかない。

 

「雇い主、とやらは彼が遊びたい“人間”じゃないんだろうね」

 

式の言葉をダビデが継ぐ。

彼女も肩を竦めて、その意見に同意を示した。

 

マスターならば契約者と呼び、彼はそれを一番の玩具にするだろう。

だがメフィストは、雇い主と呼んだ相手から与えられた仕事の中に遊びを入れていた。

恐らくは彼が雇い主に対して大した興味を持てていなかったということだ。

 

「―――その雇い主は……特異点を形成した聖杯の所有者だろうね。

 さて、そうなると……恐らくサーヴァントではないだろう。

 レフ・ライノールのような魔神の可能性が高いね」

 

アレキサンダーが現時点で出せる結論を出す。

サーヴァントであれ、それが人間性を保有していれば彼は遊ぶだろう。

だとすれば、あれに指示を下していたのは人間性を持たぬもの。

もっとも可能性が高いのは、レフ・ライノール・フラウロスの同類だ。

 

その名を聞いて、オルガマリーが僅かに眉を顰めさせた。

 

「……人間に擬態した魔神、らしきものはまだいると?」

 

「少なくともフラウロスは人として活動した存在であった。

 そして同時にフォルネウスを自称するものがいたんだ。

 あと七十、それらと同列の存在が控えていると見た方がいいんじゃないかな」

 

少なくともあれきりだ、と考えていて奇襲されるよりはそっちがいい。

そう言って、アレキサンダーは絶望的な絵面を想起させるような発言をする。

 

「あの魔神が、七十……」

 

呆然としたような声をあげるマシュ。

アルテラやメディアの手によって破壊、あるいは利用されてはいたが。

しかしあれらが超級の存在であることに何ら変わりはない。

微かに怯えさえも混ぜ息を吐く彼女。その背をドレイクが軽く叩いた。

 

「なに、逆に言えばあれが七十出てくるって分かっただけでも儲けもんさ。

 一本ずつ切り倒していきゃいいんだよ」

 

『……うーん、それはどうだろう。

 仮に真に悪魔だったとすると、現世の器を壊しただけじゃ死ぬことすら……』

 

ロマニの声は、おそらく式を意識しているのだろうか。

彼女の死を視る眼ならあるいは、と。

式は特段気になることでもない、というように肩を竦めた。

 

『……まあ、どちらにせよ無制限に出現できるはずはない。

 そんなことが可能なら、それこそ聖杯さえも必要なくなる。

 あれらは人理焼却側における、切り札的な存在だと思っておいていい……はず』

 

「その魔神という連中は僕には分からないが、とにかく。

 恐らく敵の狙いは霧によるロンドンという都市の衰弱死だろう?

 なのにわざわざ、一人の魔術師を狙ってサーヴァントを動かした。

 かく乱が目的だった可能性を考えればそれまでだけれど……」

 

そう言ってより深く思考に落ちていくジキル。

と、そんなところに家から出てきたウォズの姿が現れた。

どことなく面倒そうに、彼は悩んでるジキルに対して声を飛ばす。

 

「いいかな、ヘンリー・ジキル。

 君の家の無線機に、救援を呼ぶ声が届いているようなのだが」

 

肩を竦めながらそういった彼。

その言葉を聞いた皆で顔を見合わせてから、家の中に駆け込んだ。

 

 

 

 

「ソーホー地区に住んでいる人たちが醒めない眠りに落ちる……

 これ、どうやって気付いたんだろう」

 

極力外に出ないような生活の中だ。

家の中で発生した異常を、他人が見つけるのは難しいだろう。

そうなると被害者の身内からだった、のだろうか。

 

無線機で通信を送ってきた人間は、事実だけ告げるとさっさと話を終えてしまった。

何かとてつもなく忙しい、という風だったように思う。

追い詰められて焦っている、というよりは純粋に忙しそうな。

 

「メフィストフェレスを皮切りに、住民への攻撃が開始されたのでしょうか……」

 

「さて。まあ、その連絡をくれたソーホー地区の古書店とやらに行けばわかるさ」

 

ジキル宅に無線で連絡を入れたのは、危急の状態にあるソーホー地区。

そこにある古書店だということらしかった。

 

彼が懇意にしている書店らしく、それ故に彼の家へと通信できたのだろう。

ただ彼も無線から聞こえた声に聞き覚えはないそうだ。

少なくとも店主ではない、と。

 

誘い出すための罠なのか、あるいは一般人が古書店に逃げ込み必死で助けを求めたのか。

 

それに対応するべく立香が、マシュ、アレキサンダー、エルメロイ二世、ドレイク。

あとついてくることになったウォズ。

そのメンバーを引き連れて、連絡があった現場へ向かうことになったのだ。

 

「……何故私まで」

 

「一般人を霧の中連れて帰るわけにはいかないだろう?

 マスターの転移魔術の代わりに、君の移動能力を借りたいのさ」

 

文句を述べるウォズに対し、アレキサンダーは当然のように。

無線機の先、待っているのが一般人……

あるいは魔術師であったとしても、助ける場合は霧の中を長時間歩かせるわけにはいかない。

だがウォズのあの転移能力を使えば、即座にジキル邸に送り届けることができるはずだ。

 

言われて小さく溜め息を吐くウォズ。

 

「もういっそのこと、タイムマジーンを呼んだらどうだい?

 あれならば物資含めて一気に運べるだろうに」

 

「ジキルの家の中であんなの召喚したら家が吹き飛んじゃうよ」

 

「そうなっても私は困らないからね」

 

そんなことを言いながら一応着いてきてくれる気はあるのか。

 

移動は市街の見回りも兼ねて、サーヴァントの移動速度で一気に駆け抜けること。

その移動速度にウォズはついてこれるのか、と視線を向ける立香。

だが彼は危うげなく、マシュに抱えられソーホーへ向かう彼女たちの移動に追随してくる。

 

 

―――そうして辿り着いた先。

 

静かな街並みの中に佇む古書店の中に、彼女たちは踏み入る。

 

そこでは、棚に腰かけて本を読む青髪の少年が待っていた。

彼は踏み込んできた者たちを一瞥すると、すぐに本へ視線を戻す。

 

「思ったより早かったな。少し待て、せっかくだから稀覯本だけでも読み尽くす」

 

少年らしくないやたらと良い声。

それは無線機から聞こえてきたものと一緒な気がする。

つまり彼こそがSOSの下手人のはずだ。

 

「えー……」

 

だが、そんな彼は本に熱中していて異常事態などに構えない、という様子だった。

思わず困惑の声をあげるが、彼が気に掛ける様子はない。

 

彼の横に積み上げられている本を見て、むう、と唸るエルメロイ二世。

それほどの本があるのだろうか。

 

「どのくらいかかりそう?」

 

「一日半と言ったところか、読み終えるまで外で時間を潰していろ。

 霧の中でランニング、とかいいんじゃないか? 何より俺の邪魔をしないのがいい。

 読書の邪魔にならないなら好きにしろ」

 

その言い草にマシュが困ったように立香を見る。

子供だからどの程度強く出るべきか、というのが判断できないのだろうか。

本しか見ていない様子の彼に、アレキサンダーが声をかけた。

 

「君もサーヴァントかい? はぐれ、ということでいいのかな」

 

警戒の態勢。

サーヴァントであるのなら、敵性である可能性はある。

戦闘能力が高そうにも見えないが、絶対ではない。

 

そう声をかけられてちらりと視線を動かす少年。

彼は小さく溜め息を吐いてから、読んでいた本をぱたりと閉じて積み上げる。

 

「見ての通りだ。どういうわけかこの街に放り出され、やることもないから読書中だ。

 街が霧に沈む異常事態? だからどうした、物書きにやれることがあるものか。

 マッチ売りの少女も外がこの有様じゃマッチが湿気て話にならん」

 

棚から飛び降りて、そのまま歩き出す少年。

 

「この上にいるぞ。ソーホーを眠らせた犯人はな」

 

眠りに沈んだ街で救援を求めた少年は、当然のように犯人の所に行こうとする。

その迷いのない様子を見て、エルメロイ二世が少年の背に問いかけた。

 

「……どういう状況か把握しているのか?」

 

「どうもこうもない。無線で言った通りだ。

 ソーホーは眠りについた。夢を見ているのではない、夢に見られている状況だ。

 このままでは遠からず、そのまま永眠するものも出てくるだろうさ」

 

そう言ってさっさと建物の二階に上がっていく。

こちらの意見を聞く気もなさそうなその様子に一同が顔を見合わせる。

 

盾を構えたマシュが真っ先に続き、警戒のためにエルメロイ二世が最後尾に。

―――とはいえ何も起きることはなく、少年の導きであっさりと到着する。

古書店、二階の書庫。

 

そこにふわふわと、一冊の本が浮いていた。

 

「これは……」

 

()()()()()()()。もっとも、姿が固定される前の状態だがな」

 

「姿が固定……?」

 

最後に到着したエルメロイ二世が、それを見て息を呑む。

一瞬だけアレキサンダーに視線を送った彼が、難しい顔でその名を漏らす。

 

「固有結界……」

 

「分かる奴がいて何よりだ。さあ、俺の代わりにさっさと説明しろ」

 

ふんぞり返る少年。

何故そうまで偉そうなのか、と言いたげに顔を顰める二世。

 

「固有結界って?」

 

立香の問いにそのまま口を開こうとした彼が、しかし一度その口を閉じる。

それから数秒、何かを考え込むような様子を見せて―――

もう一度口を開いた。

 

「……そうだな。まあ君に分かり易く伝えるならば、ネロ帝の宝具のようなものだ。

 厳密には違うが、あれが一番視覚的に分かり易い。

 あれは彼女の生前の偉業の再現だ。だが固有結界は術者の心象の具現するもの。

 もちろんその術者によるが……

 あれだ、ネロ帝よりやりたい放題できる大魔術と覚えておけばいい」

 

「ネロより! それは凄いやりたい放題……!」

 

途中で投げやりになった説明に、困ったような表情になるマシュ。

とはいえここで講義をしても仕方ないと思っているのか。

エルメロイ二世は油断なく宙に浮く本に視線を送る。

 

「そんでその固有結界ってのと空飛ぶ本に何の関係があるのさ。

 その本、心があるっていうのかい?」

 

ドレイクが発した疑問の声を鼻で笑って一蹴する少年。

 

「馬鹿め、本に心なんぞ持たせてどうする。そんな気味の悪いものが読めるか。

 あれは本の形をしているだけで、本質はそこじゃない。

 ―――“物語”だ。不特定多数の誰かから心を向けられて、成立してしまった概念だ」

 

「物語……?」

 

マシュの声に小さく鼻を鳴らしてから、少年は続ける。

 

「物語として成立している奴に心など持てん。

 当たり前だ、奴は物語を読んだ誰かの心に感応するだけの鏡。

 サーヴァントとして契約した人間の心の中にある物語に影響され、その姿を得る存在。

 鏡として入力したものを歪曲せずに出力するには、余計なものはあってはならない。

 ―――だというのにな……」

 

本へと視線を送る少年。そこで僅かに本の放つ魔力が乱れる。

その何かの予兆に全員が身構える中、しかし少年だけは何をするでもない。

ただ口だけを動かし続ける。

 

「一体どれだけ愛されたのやら。奴は奴の知る自分を捨てたくないらしい。

 他の誰かの鏡になって、今の自分が別物に代わることが許せない。

 だからこそ奴がとった行動こそが―――」

 

「付近の住民を眠りに落とすこと、なんですか……?」

 

イマイチ彼女には理解が及ばなかった、が。

とにかく相手マスターによって変化する存在。

変化したくないがゆえに、マスターを求めない存在であるという話に聞こえる。

 

少年は一度鼻を鳴らすと、それに答えを返す。

 

「そんな自覚すらないだろうさ。ただ奴は探しているだけだ。

 自分が望む一番大切な読者をな。まったく、持ち主を探す本などろくでもない。

 飼い主を探させるなら犬でも主人公にしろという話だ。本が彷徨ってどうする」

 

呆れるように、憐れむように、彼はそうとだけ言って言葉を打ち切った。

 

「ではこの周辺に出たという被害は、あの本を撃破すれば……」

 

「もちろん解消するだろうよ。だが喜べ、このままでは解決法がない。

 何せ今の奴は実体はない、“物語”という概念でしかないのだからな。

 まずは実体を与えてやらねば、触れることすら叶わないぞ」

 

「どうやって?」

 

「決まってるだろう。大体、“物語”なんて名前の物語なんぞ―――

 おい、ちょっと待て。お前は何をしている?」

 

そうして説明する口を止めた少年が声をかけたのは、ウォズだ。

彼は自分に話しかけてきた少年に訝しげな視線を返す。

 

「―――なに、とは?」

 

ウォズは何もおかしなことはないだろう、と言う風だが―――

 

少年だけではなく立香もまた彼を見る。

彼女も困惑げに彼の様子を見て、戸惑うような表情を浮かべた。

周囲のサーヴァントたちも、彼が何をしようとしているのかと身構えた。

 

「それ……」

 

「―――なに?」

 

まるで自分の状態が分かっていないような様子のウォズ。その首元。

彼はそこからストールを思い切り伸ばしていた。宙に浮く本に向かって。

 

立香が指差して初めて、それが不自然なことだと気づいたかのように。

ウォズ自身もその事実に驚きの表情を見せた。

どうやら彼自身さえも、何も感じずやっていたことらしい。

 

正気を取り戻したウォズがそれを止めようとするが、しかしそれはまったく止まらない。

 

ストールの先端が本に対して接触する。

その瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

少女の夢を抱えて眠る童話の本が、別の物に染め変えられ始める。

 

誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)”が、ウォズの心に更新されていく。

 

その物語が望む在り方、いつか過ぎ去った少女の夢。それが上書きされていく。

その本の本来の在り方、契約者の夢の具現。元来の在り方に矯正されていく。

 

「なっ、―――何をしてるんだ馬鹿かお前はッ!?」

 

「づっ、私も好きでやっているわけではない……!」

 

彼自身も今までに見たことのないような必死さで、それを止めようとしていた。

その物語が心を映しだす鏡なのであれば、自分を映し出されるのは困ると言わんばかりに。

だがその繋がりが、何かを引き寄せるのを止められない。

 

ウォズの行動がどこまで本気なのか、それが分からないカルデアの面々も理解する。

これが非常事態であったのだと。

だが動こうとする前に、既にその現象は完了していた。

 

―――“誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)”の霊基により再現され、更にそれを侵略した存在。

 

彼は、引き換えに消滅した本があった場所に立っていた。

目を隠すようなバイザーを装着した顔が、笑顔を浮かべながら周囲を見渡す。

その衣装はまるでウォズとは真逆の白一色。

ウォズと同じ声で、しかし彼より少し軽薄な響きでもって彼は語る。

 

「――――【ウォズ。ナーサリー・ライムと契約し、自分の心を映して変質させる。

 そしてそれが媒介となり、この地にもう一人の自分が現れる】」

 

手にした本型のデバイス。

その液晶に表示された文字を読み上げながら、彼は顔にかけたバイザーを外した。

現れた顔は紛れもなくウォズのもの。

 

「ウォズさんが、増え、た……?」

 

マシュのどう反応すればいいのか、と戸惑う声。

 

「もう一人の、私……!?」

 

だがそれ以上の驚愕が、ウォズ本人の声からは感じ取れた。

そんなウォズの顔を見て、微笑みを浮かべるウォズ。

 

「どうしたんだい、もう一人の私。ただ驚いているだけかな?

 確かに。ナーサリー・ライムが映すのは、契約者の心の“物語”だ。

 コピーされる姿は契約者が思い浮かべる、いわゆる“物語の主人公”の姿になるはず。

 私の姿が魔王でなかったことに驚いているのかい? それともバールクスではなかったことに?

 ―――けれどどうか安心してほしい。私はナーサリー・ライムではなく……」

 

言いながら彼は目の前に手を翳す。

その空間に緑色の光が走り、何かディスプレイのようなものを虚空に浮かび上がらせる。

そこから浮かび上がってくるライトグリーンとブラックの物体。

彼の手がそれを取り上げる。

 

初めて見る形状であるが、おおよその推測はできる。

 

「それは、まさか――――」

 

「ふふ、そう」

 

〈ビヨンドライバー!〉

 

ベルトのバックルのように、手にしたそれを腰に当てる。

その瞬間、そのユニットからベルトが展開されてウォズの腰に巻き付いていた。

更に彼の手の中にあるものは、ソウゴの持つそれとは形状が違うが間違いなくライドウォッチ。

 

「仮面ライダーだからね」

 

〈ウォズ!〉

 

彼が起動したライドウォッチを装着したビヨンドライバーにセットする。

 

〈アクション!〉

 

白い服のウォズの背後に展開されるスクリーン。

緑の光で形成されたそれの横では、リューズが回っている。

それ自体がスマートウォッチを思わせる形状。

 

ウォズを取り囲む緑色の光が飛び交い、球体となり彼の体を包んでいく。

 

ゆったりとした動作。ドライバーの前で交差させられるウォズの両腕。

その動きの中で、彼の腕は再びセットしたライドウォッチのスターターを押していた。

外装が中央から横に観音開きになり、内部が露わになるウォッチ。

 

「変身」

 

〈投影!〉

 

彼の手がウォッチがセットされた部分を掴み、ドライバーの内部に入れるように動かした。

ビヨンドライバーの中央のパネルが光を放ち、ウォッチに描かれていた顔を映し出す。

同時、ウォズの周囲の緑の光が完全に彼の姿を包みこむ。

 

〈フューチャータイム! スゴイ! ジダイ! ミライ!〉

 

ジオウの装甲さえも上回るスムースグラフェニウムの装甲が形成される。

現れたるはシルバーとブラック、ライトグリーンで構成される輝くアーマー。

背後のスクリーンから射出された“ライダー”の文字―――

インジケーショントラックアイが、彼の頭部に飛来して収まった。

 

〈仮面ライダーウォズ! ウォズ!〉

 

「馬鹿な……」

 

その銀色の戦士を前にして、ウォズが呆然と呟いた。

もう一人の自分の様子に小さく仮面の下で笑った彼が腕を掲げる。

 

「祝え! 我が名は仮面ライダーウォズ!

 悪しき魔王を打ち倒し、新たなる未来を創出する救世主の導き手にして―――

 未来の創造者である―――――!!」

 

 

 




 
おとぎのものがたり2019

ありすのままじゃないナーサリーと今のウォズが契約したらSOUGO(ナーサリー・ライム)とかで出てくるのでは、みたいな。
 

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