Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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Wをつないで/もう一人のウォズ2019

 

 

 

突如現れたもう一人のウォズ。

そして彼が変身した姿、仮面ライダーウォズ。

銀色に煌めくその存在を前にした黒い衣装のウォズは、顔を大きく顰めた。

 

その光景のまま時間が止まっているかのような状況で彼は後ろを振り返る。

 

「この本によれば……普通の高校生、常磐ソウゴ。

 彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた」

 

彼の手の中には預言書である『逢魔降臨歴』が開かれている。

焦るような手つきで何度もその本の頁を捲るが、知りたい記述は見つけられない。

 

「……だが、人理焼却により燃え尽きた歴史を前にした彼は仮面ライダージオウに変身。

 七つの時代。人の歴史の転換点となる、七つの特異点の修復に挑んでいた。

 そして第四特異点、西暦1888年のロンドンにおいて―――」

 

「魔王に仕えるウォズの前に、救世主を導くウォズ。

 仮面ライダーウォズが立ちはだかった」

 

背後からかけられた声に振り返るウォズ。

ライダーウォズの手には本型のデバイスがある。

両腕を高らかに掲げた彼はウォズのセリフを奪うと、そのまま滔々と語り継ぐ。

 

「定まった魔王の未来は揺らぎ、歴史は救世主が創り出す未来への道を歩み始める。

 この私の導きによって……」

 

「救世主……?」

 

魔王とは常磐ソウゴを指し示す称号。

では救世主とは、と。

彼が疑念を顔に浮かべていると、ライダーウォズは仮面の下で小さく笑った。

 

「悪なる魔王に討ち滅ぼすべく、我らの戦いはここより始まる。

 まずは未来を取り戻し、その先にある三つのライダーの力を得るために。

 ―――さあ、失われた歴史をリバイブしよう」

 

そうして、ライダーウォズがそう宣言すると同時に時間が再び動き出す。

 

 

ウォズに対して、彼と対峙しているドレイクの声が飛ぶ。

 

「で!? これはあの青いのみたいな敵ってことでいいのかい!」

 

「青いの? ああ、仮面ライダーディエンドだね。

 彼と私は関係ないが……私は常磐ソウゴに敵対するもの、ということには違いない」

 

〈ジカンデスピア! ヤリスギ!〉

 

彼の手の中にライトグリーンの刀身を持つ槍が現れる。

それを開戦の狼煙として受け止め、ドレイクは二丁拳銃での攻撃を開始した。

無数の鉛玉がそのままライダーウォズに直撃。大きく火花を散らす。

 

「ちっ、まずは外に追い出せ! この建物の中にも寝ている古書店のオーナーがいるぞ!

 というか、あの本を排除したからそのうち起きてくる!

 見つかったら騒がれて更に面倒ごとだ、さっさと摘まみだせ!!」

 

「店主さんは知り合いじゃないの?」

 

声を張った少年に立香が問いかけると、彼は当然とばかりに頷いた。

 

「俺はサーヴァントだぞ。この世界に知り合いなどいるものか。

 たまたま見かけた品揃えのいい本屋に忍び込んだだけだ!」

 

「ジキルの家に繋がる無線機見つけたのもたまたまなんだ」

 

一周回って凄いな、と流しつつ戦場を見る。

 

銃撃の嵐になすがままになっている彼は、銃撃を受けながら片手に乗せた本へと語りかけた。

 

「―――【フランシス・ドレイク。銃に弾が詰まり、発砲できなくなる】」

 

ライダーウォズの発言と同時、彼の持つ本がノートのようにその発言を書き留める。

その結果。ガチリ、とその瞬間にドレイクの拳銃が二丁とも弾詰まり(ジャム)を起こした。

 

「ああん!?」

 

当然、魔力で補充される銃弾にそんなことは普通起きない。

だと言うのに発生した、という事実にドレイクが困惑する。

動きが止まった彼女に対して、ライダーウォズが槍を回しながら強襲をかけた。

 

その前に立ちはだかるアレキサンダー。

彼の振るうスパタが、ジカンデスピアと激突する。拮抗したのは僅かな間。

押し込まれるアレキサンダーは、体を捻ってその一撃を逸らす。

 

返す刃で再び迫るジカンデスピアを躱しつつ、ライダーウォズの手にある本を見る。

 

「随分凄いものを持っているね。それは未来を測定しているのかな?」

 

「君たちの言葉で説明するならば、そういうことになるかもしれないね」

 

答えながら同時に放たれる刺突撃。

それがアレキサンダーへと届く前に、彼の前に巨大なラウンドシールドが割り込んだ。

槍の切っ先が触れると同時に、それを逸らすべく振り抜かれる盾。

 

無論、そこに姿を現す者はマシュ・キリエライトに他ならない。

 

「……っ、まずはここから追い出します―――!」

 

「君たちだけで私をかい? それは難しい話だ」

 

ライダーウォズを睨む少女の視線に、彼は笑い声を返す。

だが更に彼女の後ろから銃を封じられたドレイクの姿が飛び出してきた。

 

「はっ、そっちの方が燃えるじゃないかい!」

 

銃は未だに封じられているはずだ。

そんな彼女が屋内で発揮できる攻撃力では、ライダーウォズに傷一つつけられない。

彼は悠々と迎撃行動に入ろうとジカンデスピアを構え直し―――

 

「私がいるのを忘れていないかい、もう一人の私?」

 

その腕が、ウォズのストールに絡みつかれていた。

鬱陶しそうにそれを見て、しかし余裕を崩さないライダーウォズ。

 

「オーマジオウ配下の君に、それ以上の何が出来ると言うんだい?

 魔王の歴史では未来にライダーは誕生せず、救世主の歴史では新たなライダーが誕生する。

 仮面ライダーである私と、仮面ライダーではない君。それが決定的な君と私の差だ」

 

「ごちゃごちゃ言ってないでさぁ!」

 

そうしてドレイクがウォズの眼前に辿り着く。

彼のその余裕は一切崩れない。

彼女に殴られようが蹴られようが、彼はビクともしないのだから。

 

瞬間、彼女の背後の空間に波紋が浮かぶ。

そこから顔を出すのは、彼女の宝具たる“黄金の鹿号(ゴールデンハインド)”の砲門。

 

仮面の下でライダーウォズが僅かに眉を上げる。

確かにそれならばこちらに十分以上の傷を与えられるだろう。

だが同時に、この周辺一帯すらも破壊する。故に撃てる筈もなく―――

 

「吹っ飛びなぁッ!!」

 

尋常ではない勢いで飛び出してくる砲身が鈍器となり、ライダーウォズの胴体を強打した。

ミシリと軋む胸部アーマー・トノーライトテクター。

そのまま彼は、壁を突き破って家の外へと叩きだされていた。

 

石畳の上に落ちて転がるライダーウォズ。

 

「……なるほど。甘く見すぎていたようだね」

 

彼が体を起こしながら、片腕に抱えていた本をどこかへと消し去った。

塞がっていた片手を空けて、自分が追い出された壊れた二階家を見上げる。

そこには今にも飛び出すつもりだろうドレイクがいた。

 

「マシュ! 足場貸しな!!」

 

「は、はい!」

 

盾を横に持ち替えてドレイクが踏めるように。

そのまま思い切り上に向かってのフルスイング。

マシュの動きに合わせて跳んだドレイクが盾を踏み、凄まじい速度で霧の天空に消えていった。

 

霧の空で確かな姿は見えないが、空の彼方に薄く魔力の光が灯る。

恐らくはカルバリン砲による魔力砲のチャージ。

光は四つ、彼女の背後からは四門のカルバリン砲が出現しているのだろう。

 

上空で撃てば発砲の衝撃は逃がせるかもしれない。

だが当然、その大威力の砲撃が地上に大爆発を巻き起こすだろう。

 

そのために同時、ライダーウォズを囲うように石畳の上に石柱が落下してきていた。

 

「……着弾による破壊力であれ、それを()()()()()()()ためならば。

 “石兵八陣(かえらずのじん)”――――多少は融通を利かせてみせるさ」

 

未だに古書店の二階に留まるエルメロイ二世が、そう呟く。

 

石柱に囲まれたライダーウォズの全身に負荷がかかる。

動きを阻害する過負荷。

そして直上で大きくなっていく魔力砲の光。

 

「さて、流石に直撃は不味い」

 

起き上がった彼が、ジカンデスピアのタッチパネルに指を伸ばす。

その指は四つ並ぶアイコンの一番上。“カメン”という文字のクレストが描かれた部分へ。

 

〈フィニッシュタイム!〉

 

ジカンデスピアを必殺待機状態へ移行し、そのままタッチパネルを二度スワイプ。

加速する待機音を響かせながら、槍の穂先を天へと突き出す。

 

直後に、四門の大砲から放たれた魔力の砲撃が地上―――

結界に捕らわれたライダーウォズの頭上に降り注いだ。

 

〈爆裂DEランス!!〉

 

天から降り注ぐ魔力砲の光に突き上げられる緑の槍。

エネルギーを纏った穂先が砲撃へと突き刺さり、結界の中で光と炎が炸裂した。

 

衝撃を、音を、全てその内側で完結させるべく結界が機能する。

その引き換えに、展開されている石柱が耐え切れず崩れ落ちていく。

 

――――貫通してきた砲撃に身を灼かれたライダーウォズ。

その身から白煙を上げながら、しかし行動に支障はないと爆炎の中で彼は立っていて……

 

「―――そして次は君、だろうね」

 

宙に舞うアレキサンダーに、そのライダーと描かれた顔を向けた。

砲撃との衝突で未だ煙を上げるジカンデスピアを彼に向け、構え直す。

 

雷光とともに舞う彼が、襲撃を予測されていると知ってなお虚空で手綱を掴んだ。

 

「“始まりの蹂躙制覇(ブケファラス)”――――!!」

 

空中で彼が己の宝具の銘を告げる。

当然、そこには英霊馬が降臨。その巨体を霧の中に投げだした。

空中でそのまま騎乗した彼は、ライダーウォズに向け落下して―――

 

その途中で、まるでブケファラスはライダーウォズに尻を向けるように半回転した。

 

「――――なに?」

 

突撃に備えていた彼が僅かに困惑した。

 

そのブケファラスの横に並ぶようにマシュが跳んでいる。

彼女の腕がブケファラスの後ろ脚に添えるように盾の縁を添え―――

 

瞬間。馬の脚力でもってマシュが()()された。

 

「っ!?」

 

「やぁああああ―――ッ!!」

 

飛来する盾を構えたマシュ。

ブケファラスの後ろ蹴りで射出された彼女の速度は、一時的にブケファラスさえも超える。

咄嗟に突き出すジカンデスピアが彼女に届く前に、ライダーウォズの頭部に盾が叩き込まれた。

 

首を上に跳ね上げて、後ろに吹き飛ばされるライダーウォズ。

だが吹き飛ばされながらもなお、彼はジカンデスピアを振り上げる。

追撃は許されず、マシュがその一撃に弾き返された。

 

「やって、くれる……!」

 

倒れずに着地した彼は大きく蹈鞴を踏んで、殴打された頭に手を添える。

 

「そしてもう一撃、ということだね」

 

更に半回転。

一回転して再び頭をライダーウォズに向けたブケファラスが、空より飛来する。

天から地に下る稲妻の如く。その巨体を支える太い足の蹄鉄に雷を纏い。

 

英霊馬が、敵を踏み砕かんと落下した。

 

「AAAALaLaLaLaLaie―――――!!」

 

「ぐっ……!」

 

巨体馬の脚力。その重量からの落下。迸るゼウスの雷。

それらが全てライダーウォズのボディに圧し掛かる。

しかしその全てのエネルギーを掛けても、彼を戦闘不能にまでは追い込めない。

 

「―――なるほど。マスターの装甲より硬いのは確かみたいだ。

 けれどこれで……追い詰めた、と言っていいと思うけど?」

 

「確かに、ね」

 

ブケファラスに踏み付けられている彼に、馬上から声をかけるアレキサンダー。

ライダーウォズはそこから無理に抜け出そうともしていない様子だ。

 

霧の空からドレイクも地上に降りて、着地する。

着地した彼女が手の中にある拳銃を確かめて、一発空に向けて発砲。

問題なく射撃できる以上、既にあの本の効果は切れているようだ。

 

古書店二階からその様子を見ていた少年が声を上げる。

 

「ようやく終わったか。何なんだ、この本の擬人化みたいな連中は。

 こっちの黒いのもあっちの白いのもろくでもない。連れてる奴の気が知れんな」

 

「………私に何か言いたいことでも?」

 

「馬鹿かおまえは。俺におまえのような奴に対して言うべきことがあるわけないだろう。

 おまえみたいな奴は、俺の作風からまるで外れている」

 

その会話に耳を澄ませながら、エルメロイ二世が壁の修理を魔術で行う準備をする。

このまま穴を放置していては霧が屋内を満たすだろう。

そうなればこの家に住んでいるという人間が危険だ。

よほど深い眠りなのかまだ起きてこないが、それを済ませたらすぐさまここから出るべきだ。

 

「作風って、芸術家のサーヴァント? ダ・ヴィンチちゃんみたいな」

 

「ダ・ヴィンチ? レオナルド・ダ・ヴィンチか……

 おい、そこのマスター。芸術家のサーヴァントに声をかける時は気を付けるんだな。

 おまえの今の発言はあらゆる芸術家に対して、喧嘩を売っているようなものだ。

 芸術家といえばレオナルド・ダ・ヴィンチ、他の名前は知らん。とな」

 

そういう意図ではなかったが、言われて素直に謝っておく。

 

「そうなの? ごめん」

 

「俺はどうでもいい。まるで関係ないからな。

 要するにそんなどうでもいいことでキレるのが芸術家サーヴァントの面倒臭さという話だ。

 俺はアンデルセン、ハンス・クリスチャン・アンデルセン。一応はキャスターだ」

 

彼の口から飛び出た名前を聞いて、立香がおお、と驚きに目を見開いた。

ハンス・クリスチャン・アンデルセン。

世界中で愛される童話を数々生み出した、世界的童話作家。

 

「わ、凄い。絵本でしか読んでないけど知ってる作品ばっかの人!」

 

「………なるほど、お前はあれか。考えなしか。天然ボケか。一番面倒なタイプだ。

 まあいい。それで? あの銀色の変身ヒーローはどうする気だ?」

 

そう言って外を見るアンデルセン。

ウォズはそれを少しの間眺めると、まだ開いている穴から体を投げ出し外に飛び出した。

 

そんな彼の背中を、アンデルセンは胡乱な目で見送った。

彼の背丈に合わせるようにしゃがんだ立香が、彼に問いかける。

 

「……ねえ、ウォズが作風じゃないってどういうこと?」

 

「――――絵本だろうが俺の作品を読んだなら知っているだろう。

 俺が語るのは“失う者たちの物語”だ。

 大半は当然、死んで終わるような“人の物語”。その作風から外れている、という話だ」

 

「それって……」

 

式に死がないと語られたソウゴ。いや、ジオウ。

けれど彼女は、ウォズに対してジオウに対するような疑問は浮かべていなかったような。

果たして彼に死はあったのだろうか。

 

「得ることもなく、失うこともなく、ただただ坦々と平々凡々。

 あれは“人”として括るべき存在じゃなかろうよ。それこそ、本みたいなものだ」

 

「……でも、ソウゴのライダーの歴史の継承を手伝ってるけど……」

 

悩むように口に出した立香に、アンデルセンが僅かに目を眇めた。

 

「なんだ、分かってるじゃないか。そう、あいつの行動理念は()()だ」

 

「え?」

 

「起承転結に至らない。一度起を整えたら、転も結も訪れない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 まるで俺の作風とはまるで交わらん、真逆のものだ。

 ただまあ、その手のものは50年もやり続ければ国民的存在になるものだ。

 そうしたい、というのであれば間違ってはいないんだろうがな」

 

そう言って彼は自分は跳び降りる気はないのか。

階段で下に降りるために部屋を出ていった。

彼の発言を頭の中で転がした立香が、小さくその言葉を呟く。

 

「継、承……」

 

家の壁を修繕しながら、その彼女の呟きをエルメロイ二世もまた聞いていた。

 

 

ライダーウォズを拘束している外のメンバー。

そんな中で、マシュの持つ通信機が反応を示した。

 

「通信……?」

 

『……った! 聞こ…………い!? 聞こ…たら返………てくれ!』

 

ロマニの声。だいぶ通信状況が悪い。

レイポイントも遠く、霧の濃度も深くなっているからだろうか。

 

「はい、ドクター。こちらマシュ・キリエライトです」

 

『…あ! よし、繋がった! ―――緊急事態だ。

 ジキル氏が確認していた無線機が、ロンドン警視庁(スコットランドヤード)の救援信号を拾った!

 ジャック・ザ・リッパーによる警視庁襲撃だ! 所長がジキル氏と現場に急行中!

 すぐに現場に向かって欲しい―――んだけど、そっちの状況は……』

 

ロマニからの報告でひりつく空気。

すぐさまこっちのウォズをどうにかして、現場に向かわねばならない。

だがここからどうするべきなのか、と。

 

「ではそちらの私は、私が抑えておこう」

 

そうしている内にこちらのウォズが現れて、ライダーウォズに歩み寄ってきていた。

だがブケファラスに踏まれている彼が小さく笑う。

 

「いや、その必要はない。私はここから離脱するからね」

 

次の瞬間には彼の手の上に、再び本が現れていた。

それを叩き落とすべく、すぐさまストールを伸ばすウォズ。

だけではなく、ドレイクが、マシュが、そしてブケファラスの足が。

 

それを止めるべく奔り―――

 

「【タイムマジーンによる砲撃が空より降り注ぐ。

 このままでは街も危険だ。私以外は力を合わせ、街を守り抜くことだろう】」

 

そして彼を目掛けた攻撃が全て止まり、全員の視線が強制的に上に向けられる。

その視線の先、彼らの直上に白い光が灯った。

霧を割るほどのエネルギーの先に見えるのは、白いタイムマジーン。

 

「タイムマジーン!? 彼もあれを……!」

 

「私専用のタイムマジーンだ。

 言っておくが、魔王の使っている量産型と一緒にしないほうがいい」

 

ブケファラスが本を蹴飛ばすために持ち上げた足を払い、彼は下から抜け出す。

そのまま彼は霧の中に身を沈め、姿を隠してしまう。

 

「くっ……!」

 

追っている場合じゃない状況。だからこそ、あの未来の測定は確定する。

この場の全員は、タイムマジーンからの攻撃の迎撃を優先しなければならない。

 

「ははははは。おっと、私を倒すほどの力を見せてくれたことに敬意を表しサービスだ。

 【常磐ソウゴ。不穏な気配を感じ、スコットランドヤードに向かう】

 以上だ。では、頑張ってくれたまえ」

 

霧の中から響いた声はそうと言い残し、完全に消え去った。

 

 

 

 

ひたすらに暴れ回って。

二人揃って大文字に引っ繰り返って。

同時に盛大に溜め息を吐き出した。

 

「………よお、どっちの勝ちだ?」

 

「モードレッドが決めれば? どっちでもいいや」

 

魔力が起こす自然災害の数々に蹂躙された戦場。

そこでごろりと転がって、ジオウは今更思い出したかのように空きっ腹を押さえた。

 

「そんなことよりお腹すいた」

 

「………じゃあオレの勝ちだ。オレの夢をテメェに語る必要はねぇな」

 

そんな相手を睨みながら、モードレッドが上半身を起こす。

その鎧は無傷なところがないほどに傷がついている。

彼女が睨むジオウもまた、ウィザードアーマーが解除されていた。

 

「それでいいよ。別に話したくないなら最初から聞かなくてもいいし」

 

「あ? テメェから仕掛けといてきて何言ってやがる?」

 

「モードレッドが売った喧嘩買っただけだって言ってるじゃん」

 

眉を大きく上げた彼女が戦いを再開しようとして―――

からっけつの魔力に思い至り、背中から地面に転がった。

 

「ちっ、もう魔力がねえ。あーくそ、もう少し続けてりゃオレの勝ちだったのによ。

 どうしてくれるんだよ、これじゃロンディニウム回る魔力もねえ!」

 

「別に俺のせいじゃないし。俺は魔力減ってないし」

 

「はぁ!?」

 

そう叫んでガバッと起き上がったモードレッドが、ジオウに歩み寄ってくる。

ジィ、と。ジオウを思い切り睨み付ける彼女の視線。

外から見ただけでは分からないのか、彼女は大きく舌打ちした。

 

「んなわけねぇだろ、どんだけ魔術使ってたと思ってやがる」

 

「使った分は補充されるだけだし」

 

ひょい、と腕を上げるジオウ。

そこにはライドウォッチホルダー、そして霧を食べ続けるビーストウォッチがあった。

周囲を満たす霧の魔力をどんどん取り込んでいたのは分かるのか、彼女が眉を吊り上げる。

 

「なんだそりゃ!? テメェそりゃイカサマだ!

 こっちが泥臭ぇ正面からの削り合いに応じてやったってのに、テメェはバックアップ持ちだぁ!? 反則負けだ反則負け! 完全にオレの勝ちだっての!」

 

「だからそれでいいって言ってるじゃん」

 

やれやれと腕を投げ出すジオウに、ぐぬぬと彼女は歯噛みした。

そのまま数秒、苦渋の表情で悩みこむモードレッド。

やがて一応答えが出たのか、苦い顔をしながら彼女はジオウを見下ろす。

 

「ッ、……引き分けだ引き分け! いいか、次こそオレがぶっ殺すからな!

 それでいいとして、お前その令呪オレに一つよこせよ!

 魔力が足りねぇんだ、お前は魔力がそんだけ有り余ってんなら別にいいだろ」

 

「いいけど、どうやって?」

 

ソウゴの疑問に大きく舌打ち。

彼を睨み付けながら、モードレッドは機嫌悪そうに続ける。

 

「契約すりゃいいだろうが」

 

「でも俺、もう二人とここで契約しちゃってるし。

 二人以上は特異点では契約できないって聞いてたような?」

 

いつだったかそんな話をダ・ヴィンチちゃんから聞いたようなきがする。

胸の前で腕を組んでうーんと唸るジオウ。

 

「あん? そりゃテメェだけの魔力じゃ二人が限度って話じゃねぇのか。

 霧のせいでそんだけ魔力が溢れてんなら関係ねぇよ。

 さっさと令呪よこしな!」

 

「じゃあやってみ………っ?」

 

モードレッドの前で大きく首を左右に振るジオウ。

何かを探している、という様子の彼にモードレッドが訝しげな表情を向けた。

どうやら漠然として予感から周囲に何かを感じているみたいだが……

そういう話なら、モードレッドの直感も彼女に警告を飛ばしてくるだろうと思う。

 

「なんだよ」

 

「―――なんだろう、でも行かなきゃいけない気がする」

 

モードレッドに視線も向けず、ジオウが立ち上がる。

彼の手には既に新たなウォッチが握られていた。

 

〈ドライブ!〉

 

ジクウドライバーにセットし、ドライバーを回転。

するとジオウの隣にアーマーが出現し、彼に次々と装着されていく。

 

〈アーマータイム! ドライブ! ドライブ!〉

 

真紅のボディを纏った彼が、ロンドン市街を駆け抜けるための姿勢を取る。

その様子を見たモードレッドが、僅かに焦ったように声を荒げた。

 

「おい!」

 

「ごめん、これ使って!」

 

そう言ってホルダーからライドストライカーを放るジオウ。

放り投げられたウォッチが展開し、巨大化し、人が乗れるバイクへと変形した。

彼は返事を聞くこともなく疾走を開始する。

 

置き去りにされたモードレッドが、渋い顔でバイクを見つめる。

 

「………バイクはいいけどよ、鎧でかよ」

 

腰から広がる鎧のスカートを軽く叩き、仕方なさげにバイクに跨る。

バイクと鎧が擦れるが、もはや致し方ない。

勝手に先行したジオウを見失っては、どこにいけばいいかも分からなくなる。

 

彼女は耳を澄ましながら、石畳を駆けるジオウのホイールの音を追いバイクを走らせた。

 

 

 




 
物語がエンドマークが完成するように、人もまた死で完成する。
なので千翼は駆除するゾン。
 

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