Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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Z地点へ/ジキルサイド1888

 

 

 

 オルガマリーたちは戦闘を終え、ジキル宅へと帰還した。

 パラケルススを野放しにする形となったが、無暗に追う事もできない。

 ソウゴとモードレッドは契約を交わし、彼女の魔力の問題を一応解決。

 

 その彼女とアタランテを組ませてジャックが逃亡しようとしていた方向の調査を行ってもらっている。立香たちの方は通信状態が悪いらしく、連絡は取れていない。

 

「場所は分かるんだよね? 俺が見てこようか?」

 

『ふむ。まあ当然、存在証明のためにある程度正確な位置は分かるけれど』

 

 ダ・ヴィンチちゃんがそう言ってそこで言葉を打ち切った。

 行動方針は所長であるオルガマリーから、ということか。

 

「………ジキルとあんたは一緒に置いとかないといけないでしょ。もしもの時のために」

 

 そう言って大きく息を吐き出すオルガマリー。

 まあそうか、と。ソウゴも同意して食事に戻った。

 改めて転送してもらったブーディカ印の昼食だ。朝食を抜いた腹に染み渡る。

 

 ここに来てから毛並みが霧でへたれるのが余程嫌なのか、ぐでーとしているフォウ。

 そんな彼も食事の時ばかりはそれなりに元気を出している。

 

 呑気に食事を続ける彼らを見て、彼女は頭を抱えながらソファに体を沈める。

 もちろん直接戦闘を行う彼が食事を行うことは必要不可欠の一大事ではあるのだが。

 

「アタランテが言う新しい敵サーヴァント、アヴェンジャーのことも気になるけれど……

 先に身内側の問題ね。アナザーダブル、ヘンリー・ジキル……いえ、エドワード・ハイド」

 

 彼はソウゴの称するところによる、白ウォズ―――仮面ライダーウォズとの戦闘において追い詰められ、霊薬の服用を決定した。

 その結果、善悪の人格が反転したジキルはハイドとなり、彼女たちに襲い掛かってきたのだ。

 

「……常磐、ちなみにあのアナザーダブルを完全に倒すための手段は……」

 

「うーん……」

 

 オルガマリーが問いかけたのは、つまりアナザーウォッチを破壊するに足る力。

 仮面ライダーダブルの力を持つ、新たなライドウォッチの存在だ。

 これまでを見るに彼の意思一つでその存在が左右されているように見える。

 

 すぐに出せると言うのなら早々に彼の中にあるアナザーウォッチを破壊するべきだろう。

 数秒間悩みこんだソウゴは、しかし首を横へと振った。

 今の彼にはダブルウォッチの入手のイメージが湧かないらしい。

 

「多分何か足りないんだ。でも、アナザーライダーの方も何かが足りてない」

 

「足りない?」

 

 その婉曲な物言いにむすっとした表情で問い返す。

 自分で言っていて自分で詳細は分からないのか、腕を組んで悩む様子を見せる。

 

 そんな彼の様子を見ているのはオルガマリーだけでない。

 窓際に腰かけ外を眺めていた式も、横目で様子を窺っている。

 

「何だろう……なんて言えばいいのかな……」

 

 どう口にしたものか、と悩んでいるソウゴ。

 彼が極端な感覚派だと理解しているオルガマリーも、その言葉を辛抱強く待つ。

 だが彼が口を開く前に、リビングの奥の扉が開いた。

 

「やあ、彼が目覚めたよ」

 

 そこから出てくるのはダビデと―――ヘンリー・ジキル。

 連れ帰ったジキルは寝かせ、そこでダビデによる独奏会があったのだ。

 彼の竪琴は傷を癒し、悪性を祓う。

 仮にハイドの影が彼に残っていたとしても、それをある程度排除できるだろうとの考えからだ。

 

「……すまない、迷惑をかけたようだね」

 

 その効果があったかどうか、申し訳なさそうにそう口にする彼はジキルに違いないのだろう。

 あの問題は言ってしまえば白ウォズとやらが発生させた問題だ。

 彼がそこまで気に病む必要はない―――のだが。

 

「それはいいのだけれど……あなたには、エドワード・ハイドという人格が?」

 

 問いかけられると分かっていたのか、彼は一瞬だけ目を伏せてすぐに返答する。

 

「そうだね。君たちに訊かれた『ジキル博士とハイド氏』に心当たりがないのは本当だ。

 僕が僕をモチーフにした小説が存在する、という話を知らないのは嘘じゃない。

 けれどハイドという人間……人格には心当たりがあった、文字通りにね」

 

 そこまで語った彼が一度口を閉ざして瞑目する。

 言葉を打ち切って数秒の静止。その後、意を決したように再び彼は口を開く。

 

「……もともとは一つだったんだ、彼は僕の中の“悪”だった。

 善良であろうと心がける僕の中で、あれは常に蠢いて悪徳への傾倒を促すものだった。

 ―――それを受け入れなかった僕は、自分の悪心を分離することを望んだ。

 その研究こそが先程僕が服用した霊薬。……確かに、僕の中の悪心は分離した。

 ジキルの中に、ハイドという悪の化身が誕生する、という形で」

 

「善と、悪……」

 

 綺麗に二つに精神を分離したジキル。

 その試みに対して、小さく声が漏れた。

 

「結果、あの霊薬は僕とハイドを入れ替えるためのものとなった。

 僕は善を愛し、悪を憎む。奴は悪を愛し、善を憎む。

 そういう一つの肉体の中に、二つの相反する存在が同居する存在こそが僕だ」

 

 胸に手を当て、恥じ入るように視線を逸らすジキル。

 

「あの霊薬を使う気はなかった。アナザーライダー、というのにされてからはなおさら。

 だが、あの銀色の彼が口にした言葉を実行せねばならないと思った……

 いや厳密には、追い詰められたからこそ、自分の中で“もうこうするしかない”という選択肢が浮かんでいたんだろうね」

 

 その行為に必要性を感じたが故に、行動を自分で打ち切る理由が見つけられなかった。

 彼はそう語って大きく溜め息を一つ落とす。

 

「未来の行動を測定するだけではなく、指定まですることが可能……

 それをあのノートみたいな本だけで……」

 

 頭を抱えるオルガマリー。恐らく彼は未来人なのだろう。

 もしあれが純粋な科学技術の結晶だと言うのなら、未来では魔術はさぞ肩身が狭いだろうと。

 というより、そこまできたら完全に廃れているのではなかろうか。

 

「……いえ。今はそれはいいとして。

 それで、もう大丈夫なのかしら。ハイドへの変貌の心配は」

 

「ああ。ダビデ氏に頼んで、僕の持つ霊薬は全て彼に管理してもらっている。

 もう僕の意志だけでは、ハイドになることは出来ない」

 

 そう言って隣のダビデに視線を向けるジキル。

 ダビデは大きく頷いて、自信満々に預けられた霊薬を掲げた。

 

「僕に託されたからには、無駄のない運用を心掛けるとも。

 差しあたって成分を解析して量産体制を整え、委託販売というカタチで……」

 

 今後の展望を得意げに語り出すダビデ。

 そんな彼に対して、反射的にオルガマリーは叫んでいた。

 

「売るわけないでしょ!?」

 

「冗談さ」

 

 少し勿体なさそうに冗談だと口にする彼の態度。

 突っ込まれなかった本当に商売に持っていく気だったのでは、と。

 オルガマリーがぴくぴくと眉を引き攣らせた。

 

 未だに悩む様子を見せていたソウゴの視線がジキルに向かう。

 善と悪。ジキルとハイド。一つの体に二つの人格。

 果たしてそれがアナザーダブルの性質に選ばれた理由なのだろうか。

 

「なんか……違う気がする……」

 

 頭を横に振り、思い悩むソウゴ。

 と、そんな状況の中で窓際の式が声を上げた。

 

「―――なあ、何か来たみたいだぞ?」

 

「え?」

 

 言われ、オルガマリーが立ち上がり窓に向かう。

 霧で完全に見渡せるわけではないが、外に蠢く白い何かが見えた。

 考えるまでも無い、パラケルススの放ったホムンクルスだ。

 

「こっちを攻めてきた……!?」

 

 今ここにいる戦力はソウゴ、ダビデ、式だけだ。

 モードレッドとアタランテは外しているし、立香たちは別動隊。

 確かに攻め入るならばこれ以上のタイミングはないだろう。

 

 ソウゴが立ち上がり、ジクウドライバーを腰に当てる。

 彼の手に握られたジオウとウィザードのウォッチが起動してその名を呼びあげた。

 

〈ジオウ!〉〈ウィザード!〉

 

「―――僕も行こう」

 

〈ダブルゥ…!〉

 

 ―――そんな彼の横で、今起きたばかりのジキルが声を上げた。

 同時に彼の体が緑と黒の装甲に覆われ、化け物然とした姿へと変貌する。

 思わず絶句し、ぽかんと口を開くオルガマリー

 

「ちょ、あなた! 自分がさっきまでどんな状態だったのか分かって……!」

 

「大丈夫。今は僕の中からハイドが起きる様子は感じない。

 当然。今持っていない霊薬を服用することも出来ない以上、変わる事は出来ないんだ」

 

 そのまま彼は式の横を通り過ぎ窓を開けた。

 流入してくる霧を緑の風で追い返しながら、彼は窓枠へと足をかける。

 彼のそんな背中を無表情で見据える式を気にも留めず、アナザーダブルは屋外へと躍り出た。

 

「―――ああ、もう!」

 

 そのまま続くように窓まで追おうとする彼女を押し留める腕。

 掴まれた彼女はその腕の先を振り返り、“ウィザード”と描かれた顔を見る。

 オルガマリーを留まらせたジオウは彼女の前で首を横に振った。

 

「所長。所長はダビデと式と一緒に中で待ってて」

 

〈仮面ライダージオウ!〉〈プリーズ! ウィザード!〉

 

 魔方陣を分割したマントを翻し、ウィザードアーマーが窓枠を乗り越えた。

 風が窓を動かして、勝手に閉めてしまう。

 僅かに霧の残る家の中に残されたオルガマリーが、小刻みに肩を揺らしながら叫んだ。

 

「あー……もう! どいつも! こいつも!」

 

「そう怒らないで。ほら、これ飲んでみるかい?」

 

 そう言って瓶に入った霊薬を彼女の前に出すダビデ。

 悪の心を分離するジキルの霊薬だ。

 これを服用すれば、もしかしたら彼女も善と悪に分離するやもしれない。

 

「飲むわけないでしょ!?」

 

 咄嗟にダビデから距離まで取るオルガマリー。

 

 漫才を始めた彼女たちを胡乱げに見ていた式が小さく息を吐く。

 そのまま彼女は窓の外の方へと目をやった。

 敵として展開しているのは、どうやらホムンクルスだけ。

 パラケルスス本人は出てきていない様子だった。

 

 

 

 

 豪風を纏う拳が白い体に突き刺さり、打ち砕く。

 アナザーダブルの纏う風は更に強大になり、戦闘力が向上していた。

 緑風で周囲の霧を薙ぎ払いながらの戦闘。

 

 その隣でジカンギレードを振るうジオウ。

 両断されたホムンクルスが崩れ落ち、そのまま魔力の光と消えていく。

 

「…………」

 

 ホムンクルスを薙ぎ倒すアナザーダブルの姿に、ジオウが小さく視線を向けた。

 先にハイドに変わり、変貌した時よりなお強い風の力。

 ジキルに戻った今、弱まるどころか更に増大したそれを見る。

 

 ハイドが一度表に出て、アナザーダブルに適合してきたという事か。

 ……なんとなくだが、それだけではないだろう。

 

 近場のホムンクルスを一体切り捨て、そのままギレードを放り投げる。

 同時にドライバーへと手を伸ばし必殺状態へ。

 ジクウドライバーが回転し、ライドウォッチのエネルギーが一気に解放された。

 

〈フィニッシュタイム! ウィザード!〉

〈ストライク! タイムブレーク!!〉

 

 ジオウがその腕を空に掲げ、その腕の周囲に魔法陣を展開する。

 魔法陣が取り巻く腕が家屋の大きさに匹敵するほど巨大化。

 彼はそのまま腕を振り下ろし、付近のホムンクルスを叩き潰した。

 

 霧に混じり魔力の光となって消えていくホムンクルスたち。

 周囲を一通り見回したジキルが、その怪物の口から小さく息を漏らす。

 今のジオウの一撃で今回の襲撃は防いだ様子である。

 

 ジキル邸からは少し離されてしまったが、大した距離でもない。

 

「これで終わりかな。偵察、程度のつもりだったのだろうか」

 

「うーん、どうだろ。他に目的があったのかも」

 

「そうだね。楽観視するべきではないか」

 

 そう言いながら踵を返し、自宅に向かおうとするジキルが―――

 何もない場所で軽くふらついて、蹈鞴を踏んだ。

 

「―――おっと、……起きたばかりでまだ不調なのかな……?

 自覚症状はないのだけれど、ね」

 

「……じゃあ、早く戻って休んだ方がいいんじゃない?

 俺は念のためもうちょっと周りを見てみるから。

 そろそろアタランテとモードレッドも戻ってくる頃だろうしさ」

 

 ジキルはソウゴが提示した行動方針に少し驚いた様子で彼を見る。

 自分も一緒に、と言おうとしたのだろう。僅かに口を開いて、しかしそれを噤んだ。

 今まさに倒れそうな様子でふらついた自分を思い返す。

 

「―――分かった。気を付けてくれ」

 

 ソウゴに注意を喚起して、ジキルは家の方へと戻っていった。

 

 その背中が霧に沈んで見えなくなり、数十秒。

 もう彼は家の中に入って変身を解除したころだろう。

 それほどに時間をおいてから、ソウゴは背後の霧の中に声をかけた。

 

「ねえ、俺に用があるんじゃないの? 白ウォズ」

 

 ウィザードアーマーの顔が振り向く。

 数秒後、何も見えない霧の奥から小さく笑いを堪えるような声が響いた。

 ―――ゆったりとした足取りで霧の奥から姿を現す白コートの姿。

 

「白ウォズ、というのが私のことならば確かにね。

 しかし魔王。もう少し捻った呼び名は無かったのかい? ヤギではあるまいし」

 

 あんまりな呼び名に対して文句をつける白ウォズ。

 それに取り合わず、ジオウは彼の手元に視線を送る。

 

「今の敵、パラケルススじゃなくて白ウォズが差し向けたんでしょ? その本? でさ」

 

 ジオウが腕を上げ、彼が手にしている本を指差した。

 その動作に対し惚けた顔を浮かべ、本を持ち上げてみせる白ウォズ。

 

「この未来ノートでかい?」

 

 彼の惚けた様子にもジオウは顔を動かさない。

 ソウゴの考えが疑惑ではなく確信である、と理解した彼が小さく笑った。

 誤魔化そうとする表情を放棄して微笑みを浮かべる白ウォズ。

 

「―――ああ、そうだとも。

 パラケルススが都市の索敵に使用しているホムンクルスをこれで誘導したんだ」

 

「それは俺を誘き出すため? ―――それとも、ジキルを変身させるため?」

 

 ソウゴの追及に一瞬だけ白ウォズの目から笑みが消えた。

 代わりに浮かべた冷徹な視線。しかしそれはすぐに消え、再び微笑みが再浮上する。

 

 まるで呆れるような口調で、彼はその問いに対する答えを返す。

 

「流石は魔王……そうだね。そこまで辿り着いたなら、答え合わせと行こうか。

 ダブルの力は何か、君は知っているかい?」

 

「ダブルの、力?」

 

 唐突に白ウォズが放つソウゴへの問い。

 風や腕を伸ばす特殊能力は見たが、力の由来は知らなかった。

 分からない、という回答が分かっていたのだろう。

 白ウォズは答えが返ってこないことを気にすることも無く、大仰に腕を振り上げた。

 

「ダブルの力は地球の記憶、ガイアメモリ。

 仮面ライダー(ダブル)とは、左翔太郎と園崎来人がダブルドライバーとガイアメモリを用いることで変身する仮面ライダーなのだよ」

 

 劇的な所作に対するソウゴの反応が薄いのを見てか、肩を竦めて腕を下ろす白ウォズ。

 彼はジオウを見据え、更に次なる問いを放ってきた。

 

「ところで魔王。アナザーライダーとは、どういった存在だと思う?」

 

「どういった存在? ……本来の仮面ライダーじゃない、本物の歴史を使った偽物?」

 

「まあそうだね、()()()使()()()()()()()()()()()()()()

 さて、ダブルの力の話に戻ろう」

 

 自分で振った話題を即終わらせて、再びダブルの力の講釈に戻る彼。

 胡乱げな瞳で見てくるソウゴの様子を気にした様子もない。

 

「ガイアメモリというのは、その中に“地球の記憶”を封入されたガジェット。

 例えば“風”の記憶、サイクロンメモリ。例えば“切り札”の記憶、ジョーカーメモリ。この二つをダブルドライバーに装填し変身したものこそが仮面ライダーW・サイクロンジョーカーだ」

 

「それで?」

 

 急かすようなジオウからの声にも、彼は肩を竦めて手を振るだけで返す。

 

「ガイアメモリには驚異的なパワーが秘められていて、ドライバーを介さずに使用した人間はドーパントと呼ばれる怪人に変貌する。その上、メモリには毒素があり使用した人間は精神的な変調をきたし、暴力的になったりメモリの力に依存したりすることになる。

 そう。まるで麻薬のようにね」

 

「――――」

 

 ―――ジオウのマスクの下で、ソウゴが顔を歪めた。

 すぐに引き返そうとする彼の前で、白ウォズがビヨンドドライバーを装着する。

 更にその手の中には仮面ライダーウォズのウォッチ。

 

〈ビヨンドライバー!〉〈ウォズ!〉

 

「さて? 確か善と悪の人格を入れ替える霊薬を用い、最終的に悪の人格から善の人格に戻れなくなり、自死という結末を選択した……

 まるで薬物中毒者のような人間こそがアナザーライダーの契約者だったような?」

 

 彼はそう、分かりきっていることを微笑みながら語る。

 拳を握りしめながら、仮面の下のソウゴの顔が相手を睨み据えた。

 

「……ダブルの力、ガイアメモリの力を……

 ()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()、ジキルをダブルが戦っていた怪人のドーパントっていう存在に近付けた?

 それだけじゃなくて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……?」

 

 ソウゴの呟く声に小さく口の端を吊り上げる白ウォズ。

 

 仮面ライダーディケイドの存在から僅かにサルベージしたダブルの力。

 それにより生成したアナザーダブルウォッチ。

 これをジキルに打ち込むことで、スウォルツはアナザーダブルウォッチの完成を目指した。

 

 ジキルはハイドというもう一つの精神を持ち、同時に暴力性を向上させ自制を無くす薬物による破滅が確定している人間だ。ダブル、ガイアメモリと相性は良く―――

 そしてハイドが暴力と破壊衝動の精神である以上、ジキルからハイドが肉体のコントロールを奪い破壊衝動に身を任せれば任せるほどにダブルの歴史の中の牙の記憶が刺激され、更に歴史の再現率は上がっていった。

 

 白ウォズの腕が流れるようにウォッチをドライバーに装填。

 操作をこなし、変身シーケンスを完了する。

 ライトグリーンの光が走り、彼の姿を銀色のアーマーが覆っていった。

 

〈フューチャータイム! 仮面ライダーウォズ! ウォズ!〉

 

 “ライダー”の文字が彼の頭部に合体し、ブルーに煌めいた。

 白ウォズがジオウの目前で変身を完了し流れるようにジカンデスピアを構える。

 

「なぜ私がここまで長々と君に解説してあげたか分かるかい?

 あと一度だ。今回の変身を経て、あと一度彼を変身させればダブルの歴史の再現度は目標値に達するからだ」

 

 考えるまでもなく、彼と同じ目的を持っているだろう人間が頭に浮かぶ。

 

「―――スウォルツ……!」

 

「そう、今ジキル邸には彼が向かっている。私の役目は君の足止めだ。

 悪いが少し付き合ってもらおうか」

 

 ジカンデスピアが奔り、それをコネクトで呼び戻したギレードが受け止める。

 盛大に火花を散らしながら、二人のライダーの影が霧の中で交差した。

 

 

 

 

「あ、っぐ……!」

 

 オルガマリーが床に倒され、その背中にスウォルツの足が叩き付けられる。

 その体がダ・ヴィンチちゃん謹製のボディだと知っているのか。

 おおよそ人間相手とは思えない力がかけられる。

 

「フォウ! フォーウ!」

 

 スウォルツに体当たりするつもりか、飛び出そうとする小動物を式が首根っこを掴み抑える。

 彼女の瞳が青と赤の螺旋を描き、死を視た。

 だがそれが視えたところで足元にオルガマリーを敷いている以上、反撃は叶わない。

 

「―――死が、薄い。こいつ……!」

 

「俺の死か? 仕方あるまい、お前と俺では時間軸が違う。

 お前の眼が視る死の未来の中には、本来俺の死は含まれていないだけの話だ」

 

 微かに笑みを浮かべるスウォルツに対し、彼女の中でナイフの切っ先が揺れる。

 

「薄いだけで視えてないわけじゃない。お前は、殺せる」

 

 式の体勢が一瞬低くなり、そんな彼女の様子にしかし彼は嘲笑を返す。

 

「―――化け物ではない俺を殺せるのか? お前が?

 ……まあどちらにせよ――――」

 

 スウォルツがオルガマリーの頭部に向けた手から黒い光が伸びる。

 それはまるで剣のように彼女の頭の真横に突き刺さり、床に穴を開けた。

 

「俺を排除しようとすれば、まずはこの女が死ぬだけだ」

 

 式の体が止まり、舌打ちを堪えるように顔を歪めた。

 自分の目前に刺さった黒い光の剣を見ながら、オルガマリーは体を震わせる。

 だがその震える口は式とダビデに言葉を投げていた。

 

「ひ、ぅ……! ぐっ、いえ、やりなさい……! 私のことは……!」

 

「いや、うん。要求を訊こう、こうしているということは目的があるんだろう?

 杖は捨てたほうがいいかい? 彼女のナイフは?」

 

 彼女がその言葉を言い切る前に、ダビデは諸手を上げた。

 式が彼を小さく睨むが、彼の態度はまるで常日頃のそれと変わっていない。

 その対応にスウォルツが悠然とした微笑みを見せる。

 

「話が早い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「おや、それは……」

 

 瞬間。バタン、と扉が勢いよく開く音が部屋に響く。

 全員の視線がそちらに向けば、そこにいたのはジキルに他ならず―――

 部屋の中に広がる光景を見た彼は、愕然とした様子でスウォルツを見ていた。

 

「久しいな、ヘンリー・ジキル。お前にアナザーダブルウォッチを渡して以来だ」

 

「お前は、何を……!」

 

 いっそ親しげですらあるスウォルツの口調。

 だが、そんなものは耳に入らないとばかりにジキルは顔を怒りに歪めていた。

 

「ジキル……?」

 

「ふふ……思考の単純化、自制心の欠落、暴力性の向上。

 悪を憎む善が悪を目の前にしたんだ、もはや理性も働くまい。

 ヘンリー・ジキルとは元々自身に悪徳があることさえ許容できない激情家。

 さあ、お前の前には友人を足蹴にする悪がいるぞ?」

 

 怒りのままに彼は走り出す。スウォルツを目掛け。

 そして彼の中で鼓動する一つの歴史が、彼に力を与えるために起動する。

 

〈ダブルゥ…!〉

 

 ジキルの肉体が変貌する。右半身は緑色。左半身は黒色。

 まるで二人の人間を縫い合わせたかのような異形。

 その異形は赤い目を爛々と輝かせながら、スウォルツへ向かい走る。

 

「お前には力がある。だが、ヘンリー・ジキルよ―――お前の意見は、求めん」

 

「オオォ―――! オオオァアアアァヒ―――ァハハハハハハッ!!

 だから言ったよなぁ、ジキル! てめえはもう転がり落ちてるんだってよォッ!!」

 

 それは走りながら雄々しく叫び、しかし途中で狂笑へと変わっていた。

 走り向かう先はスウォルツではなくダビデへと。

 既にエドワード・ハイドと変わった彼は、その破壊衝動を満たすためにただただ笑う。

 

 

 




 
その心には最高最善の部分もあるし、最低最悪の部分もある。
次回ジキルとハイドが合体、ジキルⅡ(大嘘)
 

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