Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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Z地点へ/全ての零から1998

 

 

 

〈ジュウ!〉

 

 剣と槍の刃を弾き合い、ジオウとウォズが互いに距離を取り合う。

 ジオウの腕はその間にギレードの刃を回転させ、銃身を展開していた。

 

 銃口に連続して閃光が瞬き、無数の弾丸が発砲された。

 

 放たれた弾丸は直進の軌道を外れ、不規則な動きをしながら囲うようにウォズに迫る。

 彼は自身に迫る銃撃を前にしかし焦る様子もなく、手にした槍のタッチパネルに指を触れた。

 

〈カマシスギ!〉

 

 手にしていた槍、ジカンデスピアが大鎌へと変形する。

 ウォズが両腕でその大鎌を振るい、回転させて全方位から迫る弾丸を迎撃した。

 弾き返された弾丸が地面を砕き飛散させる。

 

〈ケン!〉

 

 ジオウが再びジカンギレードを剣に変える。更にコピーの魔法。

 魔法陣がギレードを読み取るように動き、まったく同じものを複製してみせる。

 両手に剣を構えた彼が、大鎌を持つ相手を見据えた。

 

「それで、ジキル……ハイドを完全なアナザーダブルにして何が出来るの?

 多分それ……弱くなるよね?」

 

 ソウゴの問いかけに白ウォズが一瞬だけ大鎌を揺らす。

 

「弱くなる? 君も見ただろう、魔王。

 ハイドの力は増大している。それなのに何故?」

 

 動揺らしきものは一瞬で消し、彼はおどけるように言い返す。

 その様子を気に止めもせず、ジオウは確信をもって問いを続けていた。

 

「―――だってバランスが悪くなってるじゃん。

 ハイドが強くなりすぎて、ジキルの方が支えられてない。

 これがスウォルツや白ウォズが作りたかったアナザーダブルなの?」

 

 最初は黒い方だけに力があって、緑の方には力を感じなかった。

 それがハイドが目覚めて時には緑の方が力を増して―――

 今も、その力の増大はまったく止まっていない。

 

 だというのに。

 先程ジオウがアナザーダブルと肩を並べた時には紛れもなく()()()()()()()、と。

 そう確信を得る程の状態であった。

 

 力が落ちているのではない。

 片方だけの力の向上にもう片方が追いつけず、バランスを崩しているのだ。

 

「………まあ、答え合わせをしようと言ったのはこちらだ。

 いいだろう。教えてあげようじゃないか」

 

 隠すことなどもう不可能と。

 肩を竦め、ジカンデスピアを構え直した白ウォズが苦笑混じりにそう言った。

 

 

 

 

「ヒャハハハ―――!」

 

 哄笑しながらアナザーダブルが腕を振るう。

 その動きに合わせて蠢くのは、緑色の右腕から垂れている包帯らしきもの。

 それは突然伸びだし、絡まり合い、硬質化して刃となった。

 

〈アームファングゥ…!〉

 

 牙を生やした腕が、ダビデに向けて振るわれる。

 狙われた彼は目を眇め、杖でその右腕を叩き落さんとし―――

 しかし強靭な拳を打ち払う事は出来ずに、防ごうと振るった杖ごと弾き返された。

 背後に押しやられた彼が、奇妙な感触に目を瞬かせる。

 

「む、これは……!」

 

 そんな彼の背後から式の影が跳び出す。

 相手に向かって右、アナザーダブルの左半身側から回り込む軌道の疾駆。

 

 彼女の武装であるナイフの煌めき。

 それをアナザーダブルの赤い目が追いかけ、迎撃すべく右腕の牙を構えようとして―――

 

「ぎゃ……っ!?」

 

 ずるり、と。何もないというのに黒い足が地面を滑り、その体が床を転がった。

 思わず足を止めて目を見張る式の前で、アナザーダブルがふらつきながら起き上る。

 

「ちっ……! あぁあぁ、みっともねぇ……!」

 

 自嘲するような声。

 そんな物言いの怪物の言葉を聞いて、床に伏せるオルガマリーが困惑した。

 

「なに、あいつ……? 自分の力を制御できてない、ってこと……ッ!?」

 

 オルガマリーの背中から足が退く。

 直後に彼女の全身を衝撃が襲い、彼女の体は宙へと舞った。

 蹴り飛ばされた、と理解したのは一秒後。

 

「かは……っ!?」

 

 そのまま壁に叩き付けられ、床に崩れ落ちる彼女。

 そちらに顔を向ける事もせず、スウォルツは近くのソファに腰かけた。

 頬杖までつく余裕を見せる彼を床に伏せたオルガマリーが睨む。

 

 起き上がったアナザーダブルが牙のある右腕を振り回し式を狙う。

 それを潜り抜けながら式のローキックが黒い左足を払った。

 あっさりとその攻撃を受け、そのまま再び転倒するアナザーダブル。

 

 力は増大しているというのに、明らかにそれに振り回され弱体化している有様だ。

 

「こいつ……」

 

「ヒハハ―――ッ!」

 

 跳ね起きる二色の体。

 その腕の横に形成されていた牙が解れ、また包帯のような状態に戻った。

 同時に緑色の半身が一瞬黄色く光る。

 次の瞬間にはその右腕がぐにゃりと長く伸び、うねりながら式を目指して奔っていた。

 

「ちっ……!」

 

 彼女が躱そうとする―――その前に。

 

「よっと」

 

 彼女の前にはダビデが立ちはだかり、その杖を構えてみせていた。

 こちらに接近してくる腕を、殴り飛ばすための構え。

 伸びながら迫る拳を前に、彼は悠然と微笑みながら杖を振るう。

 

「ハッ―――!」

 

 だが、ダビデの杖が奔った瞬間。

 緑の拳が開き、その掌で振るわれた杖を握り取っていた。

 

「ハハハ、まずはてめえから……!」

 

 ダビデを捕まえた。そう認識したハイドが、一気に伸ばした腕を引き戻す。

 その反応を見たダビデがほんの数秒耐えてから―――そのまま杖を手放した。

 

 がっくん、と揺れるアナザーダブルの体。

 踏ん張るように力を込めていた足が浮き、そのままの勢いで腕を引き戻すことになる。

 後ろに向かって転倒し、挙句そのまま後ろに転がっていくアナザーダブル。

 それは彼が壁に後頭部を衝突させ、大穴を開けた所で停止した。

 

「……体と心。いや、ジキルとハイドのバランスが崩れてる。

 お前、随分と余裕ぶってるけどさ。こんな有様で何が出来るんだ?」

 

 式が横目で見たスウォルツは、テーブルの上の瓶ジュースを開けていた。

 何のことはない、と言いたげにそれに口をつける。

 一気にそれを飲み干した彼が、ガラス瓶を透かして彼女を見る。

 

「何が出来るか? 決まっている、“進化”だ」

 

「……随分と抽象的な発言と聞こえるが、君には何か意味のある言葉なのかい?」

 

 アナザーダブルが再び起き上がらぬ内に、と。

 落ちた杖を拾いながらダビデがオルガマリーの方へと移動する。

 

 そちらには視線も向けず、式を見ながら立ち上がるスウォルツ。

 彼の手からガラス瓶は転がり落ち、床に落ちた。

 歩き出す彼の足でそのまま踏み潰され、砕け散るガラス片。

 

「では言葉を変えよう。地球との一体化、心と体の融合、陰陽の合一……

 さて。気に入った例えがあったか?」

 

 スウォルツの歩みが向かうのは、壁に埋まり足掻いているアナザーダブル。

 彼がまるで溺れているかのようにもがく様子に、どことなく満足しているように見える。

 歩きながら彼が振り返るのは、またも式の様子だ。

 

 オルガマリーから離れたというのなら、最早戸惑う必要はない。

 式はその眼で直死しながら、相手の手足を飛ばすつもりで踏み込み―――

 

 ―――ガチリ、と。その場の全ての時間が停止する感覚を覚えた。

 

「―――厳密には何かが出来るようになるわけではない。

 だがソウルサイドの力が増大し、ボディサイドが追い付かずにバランスが崩れる。

 結果、ダブルという存在の能力が大幅に下落するというのは―――時報だ」

 

 停止した時間の中、彼は悠然と歩みを続ける。

 アナザーダブルもまた彼の力によって停止させられ、動くような様子はない。

 

「時、報……!?」

 

 停止した時間の中、口だけが動かせた。

 そんなオルガマリーの口から絞り出される疑問の言葉。

 

「ダブルという存在が次のステージに上がるための、“進化の予兆”。

 それが今のアナザーダブルを襲っている感覚だ。そして……」

 

 彼はアナザーダブルまで辿り着くと、倒れた彼に手を伸ばし―――

 その腕を、彼の胴体の中へと突き入れた。

 

「グ、ガァッ……! アァアアアアアア――――ッ!?」

 

 アナザーダブルの全身にノイズが走り、その体が揺れる。

 怪物に変貌していた肉体が、ヘンリー・ジキル―――あるいはエドワード・ハイドのものへと戻っていく。

 

 人に戻った彼から引き抜いたスウォルツの手の中にあるのはアナザーウォッチ。

 ヘンリー・ジキルという人間の中で形成されたダブルの力が握られていた。

 その衝撃のせいか、彼は完全に意識を喪失している。

 だがあれがヘンリー・ジキルに戻ったのか、未だエドワード・ハイドなのか。

 それさえも分からない。

 

〈ダブルゥ…!〉

 

 抜き取ったアナザーウォッチを彼は再起動する。

 リューズを押し込まれたウォッチは起動音を鳴らし、力を解放するための待機状態へ。

 そうして、スウォルツが振り返り見据えたのは―――

 

「……っ!」

 

「あとはアカシックレコードに直結する存在と一体化させれば無事完成、というわけだ」

 

 ―――両儀式。

 

 スウォルツは今にも飛び掛かろうという構えのまま静止する彼女に対し歩み出す。

 それを止める事が出来る者はここにはいない。

 だが口は開ける、と。式がその眼でスウォルツを睨みながら、吐き捨てた。

 

「生憎だけど、オレじゃもう陰陽は成立しない。

 二つで一つなんてこと、オレの中ではとっくに破綻してるものだ」

 

「構わん。ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 もっとも、お前は存在さえしていればどうでもいい。

 もう一人の両儀式さえ使えるならば、多少の瑕疵など無視しても十分な性能になる。

 ――――さて。お前にとって、新しい体験の時間だ」

 

 口の端を吊り上げ笑う彼が、そのウォッチを持った腕を式の体に突き入れる。

 

「ガ……ッ! ぐ、ぅ……!?」

 

 静止させられたままの彼女が呻き、その体を怪物へと変貌させていく。

 緑と黒の怪物―――アナザーダブルへと変わっていく。

 同時にその右半身から緑が薄れ、黒く染まる。全身を黒一色に染め上げた姿。

 式はソウルサイドを失った黒い怪物に変わっていた。

 

「さて、どうする? まさかこの期に及んでなお、無視を決め込むか?」

 

「お、前……! な、にを……!」

 

 時間停止したままの彼女に動く術はない。

 ただ苦渋の声をあげるその彼女を見据えながら、スウォルツは挑発するよう声をかけていた。

 

 アナザーダブル、らしきものに変わった式。

 その内から湧く破壊衝動―――殺人衝動を堪えながら、動かない体でスウォルツを睨む。

 今、解放されれば本当に無差別に人を殺して回りそうなほどの衝動。

 それに見舞われながら彼女は耐えてみせようと意識を集中し―――

 

「――――ええ、なら仕方ない。式に殺戮なんてさせるわけにもいかないでしょうし。

 それに―――どうあれ、これだけ準備をしたのだから出てこい、と望まれた。

 その健気さに報いてあげるのは吝かではないもの」

 

 彼女は意識をその瞬間に喪失し、同時に緑色の手刀がスウォルツを目掛けて奔る。

 対応するスウォルツの腕を黒い光が覆い、その手刀と衝突した。

 だが衝突は一瞬、まるで抵抗などないかのように黒い光は斬り裂かれて霧散。

 

 軽く鼻を鳴らした彼は、後ろへと大きく跳んでいた。

 着地したスウォルツが手刀を振り抜いた姿勢のアナザーダブルを見る。

 

 黒一色に変わっていた体は再び緑と黒の二色へ。

 更に二つの色の繋ぎ目が脈打つように極彩色の光を放っていた。

 

「出てきたか。―――では、後は任せる。好きに殺し尽くすがいい」

 

 ただそれだけ言い残し、彼の姿が光に包まれる。

 光の球体となったスウォルツはそのまま天井を突き破り、彼方へと消え去った。

 

 時間停止の影響が消えたオルガマリーとダビデが式へと視線を送る。

 

「両儀……?」

 

「―――ごめんなさいね? あなたたちを助ける側も心惹かれるのだけれど……

 こうなってしまった以上、こうするべきでしょう?」

 

 明らかに式とは違う何かが、たおやかにさえ思える動作で行動を開始する。

 ゆるりと右腕を挙げた彼女の前に、剣と合体したラウンドシールドが出現した。

 それを見て困ったように首を横に倒す怪物。

 

「こっちはいらないわね……少し、カタチも変えようかしら?」

 

 彼女は剣だけを取り、そのまま盾を放り捨てた。

 更に直剣だったその刃が軋み、日本刀のような形状へと変形させられる。

 

「ふふ……私が戦いの場を直視することになるなんて……

 不謹慎かもしれないけれど、少し……楽しく思ってしまっているのかしら?

 では、相手をお願いね?」

 

 怪物の顔で優しく微笑み、慈愛すら感じる声で―――

 オルガマリーたちに、死を宣告した。

 

 ダビデが即座にオルガマリーの腕を引っ掴み、窓に向かって投げつけた。

 ガラス窓を突き破り外に投げ出される彼女の体。

 彼に投げられた方がまだこの場にいるよりよほど安全だという判断だ。

 

 投げ出された彼女が、ダビデのすぐ側を見て目を見開く。

 彼女を逃がすための投擲の合間に、既にアナザーダブルはダビデの懐まで踏み込んでいた。

 

 振り下ろされる刃が“死”を直死していることに疑いはなく。

 それを受ければ間違いなく殺されるだろう。

 声を上げる暇もなくそれはダビデを斬り捨てんと振るわれて―――

 

 しかし、その刃はダビデに届く前に他のモノを切り払うために返された。

 

 風を切る音とともにアナザーダブルの全身を目掛けて奔る無数の矢。

 それを一本残らず優美な動作で斬り捨てて、彼女は矢を放った射手を見る。

 

「あれは……ジキル、ではないな?」

 

「両儀よ……!」

 

 砕けた窓の縁に立つのは、矢を放った直後にオルガマリーを抱えたアタランテ。

 片手に弓を持ち、もう片手にマスターを抱えた彼女がアナザーダブルを睨む。

 目前の怪物の正体を聞いたアタランテは、難しそうに眉を顰めていた。

 

 相手には特定条件を満たさねば倒せない耐久力があり、更に直死の魔眼があることになる。

 まともに戦っていい相手ではない、という話になるだろう。

 

「とにかくここは狭い。さっさと出ようじゃないか」

 

 いつの間にかジキルを回収し、こちらまで移動していたダビデ。

 ジキルをそのまま霧の中に連れ出すのは、彼にとって危険が大きい。

 更にハイドかも分からない現状あまり彼を抱えるようなこともしたくない。

 だがそんな悠長なことを言っていられない状況になっているだろう。

 

 小さく頷いたオルガマリーに従い、アタランテが窓から飛び出す。

 それにダビデも続き―――しかし、アナザーダブルの追撃はなかった。

 

「……さあ。私も、あの子たちも、一体どうなってしまうのかしら?」

 

 手にした剣の刀身を撫でながら、彼女はそう呟いて微笑むような声を漏らす。

 それからゆったりとした動作で彼女はオルガマリーたちを追い始めた。

 

 

 

 

 大鎌が振るわれる。

 その刃は攻撃を打ち払おうとしたジカンギレードを引っ掛けて、思い切り振り抜かれた。

 力任せにジオウの手の中から弾き飛ばされるギレード。

 

 武器を弾き飛ばす勢いに蹈鞴を踏んだウィザードアーマーの胴体に、流れるような動作から連続して繰り出された白ウォズの回し蹴りが突き刺さる。

 その衝撃にもう一振りのギレードも手の中から投げ出され、更にジオウも地面を転がった。

 

「……っ!」

 

「今の君ではこの程度。救世主ではなくとも、私一人でも十分な相手だ」

 

〈フィニッシュタイム!〉

 

 転がったジオウを見ながら、白ウォズがジカンデスピアのタッチパネルに触れる。

 そのままパネルをスワイプすることで必殺待機状態へ。

 大鎌の刃に膨大なエネルギーが発生し、そのライトグリーンの刀身を輝かせる。

 

 ジオウが即座に腕を前に出す。同時に白ウォズの周囲に展開される赤い魔法陣の数々。

 そこから炎の鎖が多数伸び、彼の体を縛るように巻き付いた。

 バインドの魔法による拘束を鬱陶しげに見下ろす白ウォズ。

 そんな彼の前でジオウは更に地面に手を置き、石の壁を地面から迫り上げた。

 

 仮面の下。彼はバインドの拘束、ディフェンドの壁を前に鼻を鳴らす。

 

「この程度で防げるとは思わない方がいい」

 

〈一撃カマーン!〉

 

 炎の鎖に縛り付けられながら、ジカンデスピアが強引に振り抜かれる。

 放たれる三日月型の光刃が全ての鎖を切断しながら、更にディフェンドの壁をも粉砕した。

 

 弾け飛ぶ石壁の破片。粉塵を撒き散らしながら直進する三日月の刃。

 ―――その光刃を打ち砕きながら、白いボディが突き抜けてくる。

 その迫る脅威に対し、微かに首を揺らす白ウォズ。

 

〈3! 2! 1! フォーゼ!〉

 

「宇宙ロケットきりもみキィ―――ック!!」

 

 フォーゼアーマーに換装したジオウが、コズミックエナジーを纏い突撃する。

 きりもみ回転の生み出すエネルギーを破壊力に転嫁し殺到する必殺の一撃。

 それを前に小さく笑ったウォズが、ビヨンドライバーのレバーを開く。

 展開した直後に再び、取り付けられたウォズウォッチを叩き付けるようにレバーを入れた。

 

〈ビヨンドザタイム!〉

 

 解放されたウォズウォッチから迸るエネルギー。

 それがキューブを形成し、ビヨンドライバーから発射された。

 

 空中で衝突するロケットと化したジオウと、エネルギーキューブ。

 数秒の拮抗。その果てにロケットの方が押し込まれ、キューブの中に取り込まれた。

 時計盤を浮かべる立方体のキューブの中でジオウがもがく。

 

「ぐ……っ!」

 

「ははは、君はここで暫し倒れているといい。すぐに終わるだろうからね」

 

 そのままキックを放つために足を運ぶ白ウォズ。

 ―――その彼の前で、ソウゴの声に僅かに笑い声が混じった。

 

「いやぁ、それは困るからさ。出してもらうよ?」

 

「なにを―――」

 

 瞬間、白ウォズの背後でバイクのエンジンらしき爆音が轟いた。

 咄嗟に振り向いた彼の視線の先には、石畳を爆走するバイクに跨った鎧姿。

 彼女の放つ赤雷までも纏ったライドストライカーが、白ウォズ目掛けて突進してきていた。

 

「くっ……!?」

 

「オラァアアッ!!」

 

 彼女はそのままの速度でもって、白ウォズの背中に激突する。

 白ウォズの銀色のボディが大きく空を飛び、地面に落下してそのまま転がった。

 同時に全速力で追突事故を起こしたライドストライカーも転倒し、地面を滑っていく。

 激突と同時に飛び降りたモードレッドは危うげなくジオウの横に着地する。

 

 必殺の態勢が崩れたためか、白ウォズの放ったエネルギーキューブも消失した。

 拘束から解放されて地面に降りるジオウ。

 

「やられてんじゃねえよ、仮にもオレと引き分けた奴がよ」

 

 モードレッドがその手の中にクラレントを出し、肩に乗せる。

 視線は轢き飛ばしたもののすぐに立ち上がる白ウォズへ。

 だがそんな彼女の腕をジオウは掴み取った。

 

 その行動を受け、苛立たしげにジオウを見返すモードレッド。

 

「お前、何を……」

 

「それどころじゃないから、こっち着いて来て!」

 

「はぁ……っ!?」

 

 モードレッドの返答を待つでもなく、ジオウはブースターモジュールを点火した。

 高速で飛行を開始するジオウと、それに強制的に引っ張られるモードレッド。

 行先はジキル邸に間違いなく、それを見上げた白ウォズは肩を竦めた。

 

「やれやれ。まあ、これで十分だと言う事にしておこう。

 あとはスウォルツ氏のお手並み次第だ」

 

 霧の天空からライトグリーンとシルバーの巨体が降りてくる。

 そのまま彼は着陸したタイムマジーンへ向かって歩き出した。

 

 

 

 

 ふと、上から音が聞こえて彼女は霧の空を見上げた。

 

「あら、来たのね?」

 

 少し声を弾ませて、彼女はオルガマリーたちから何のことはないと言うように視線を切る。

 直後に飛来する矢と投石の連続は、視線すら向けずに切り払う。

 

 真っ先に落ちてきたのは赤い雷だった。

 飛び道具を切り払うのに剣を使っていた彼女は困ったように荒ぶる赤い稲妻を見つめ―――

 

〈ショルダーファングゥ…!〉

 

 仕方なさそうに右肩から牙を生やし、それを飛ばして雷を殺してみせた。

 

 残滓も残さず一瞬で消滅する雷の後にやってくるのは、鎧の騎士。

 彼女は大きく剣を振り上げながらアナザーダブルを目掛けて落下してくる。

 状況を知らずとも持ち前の直感のおかげか、その表情は大きく引き攣っているように見えた。

 

 いま彼女が飛び掛かろうとしている相手がやばいものだと、全身が理解を示しているのだろう。

 だがその感覚を捻じ伏せて、彼女は剣を振るう。

 一度振り被ったクラレントを退いて逃げる無様は許せない。

 王剣たるクラレントにその無様を演じさせることは、誰よりモードレッドが許せないのだ。

 

「オォオオオオ――――ッ!!」

 

「ふふふ……」

 

 空を奔る雷鳴を見上げ、式はゆるりと剣を構えなおした。

 

〈ヒートォ…!〉

 

 赤い光が灯り、構えた剣の刀身が燃え上がる。

 それを振り上げようとした式の耳に、ソウゴの叫びが入った。

 

「モードレッド! こっちに!!」

 

 モードレッドより更に上から、白いロケットが式へ向かって飛来する。

 落下速度で抜かれたモードレッドがすれ違いざまに歯軋りし―――

 しかし、彼の背中に向かって赤い雷を全力で叩き込んだ。

 

 雷電の後押しを受けて赤く輝くジオウが、アナザーダブルを目掛けて殺到した。

 切り上げられる炎を纏った刃。式の剣と突撃するジオウが交錯する。

 その瞬間、彼女の剣が纏っていた炎がフォーゼアーマーに吸収されていく。

 吸収した分だけ力を増し、加速するジオウ。

 

「あら―――?」

 

「あんた、あっちの式……!? 式をアナザーダブルにって、そういう……!」

 

 詰問しようとするソウゴに、式は苦笑して刃を返す。

 受け流されたロケットの突撃が彼女を追い越し、地面を粉砕しながら着陸する。

 吸収した炎による噴射で加速しながら反転し、吸収した雷で回転力を増しながら再度突撃を慣行しようとするジオウの前で、アナザーダブルは剣を構え直していた。

 

「ああ、こちらの力が吸収されてしまったのね?

 ふふ……色んな力が貴方の中にはあるのね。でも、残念だけど……」

 

〈フィニッシュタイム! フォーゼ!〉

〈リミット! タイムブレーク!!〉

 

「宇宙ロケット―――爆熱電光きりもみキィイイイイック!!!」

 

 更にウォッチのエネルギーを解放し、ジクウドライバーを回転させる。

 フォーゼウォッチの全エネルギーと言っても過言ではない。

 それだけの威力を込めて、ジオウは炎と雷を纏うドリルと化してアナザーダブルへ突撃し―――

 

 ふい、と。彼女が先程までと変わらぬ様子で剣を振り上げる。

 圧倒的破壊力と貫通力を併せ持つ強化必殺状態のフォーゼアーマーに。

 

 ―――それはいとも簡単に炎を斬り裂き、雷を斬り捨て、フォーゼアーマーを吹き飛ばす。

 アーマーを解除されたジオウは、吹き飛ばされて地面に落ちて転がった。

 

「が、ぁ……!?」

 

 炎も。雷も。まして彼女にすら死の見えないフォーゼアーマーも。

 けして直死の魔眼で斬られたわけではない。

 荒ぶる超高速回転突撃は意図してどこか狙った場所を斬ることを不可能としていただろう。

 

 ―――だというのにこの結果に至った理由は一つ。

 

「ごめんなさいね。この力は……とても大きな力を溜め込んだ相手に、よく効くらしいの」

 

〈プリズムゥ…!〉

 

 剣が啼く。彼女の手の中にある刃は、極彩色の光を纏っている。

 どれだけ力を増そうが、それを利用して逆に捻じ伏せる水晶の力。

 限界を超えて力を増したフォーゼアーマーを容易に迎撃せしめた刃を軽く振るい、彼女は本当に申し訳なさそうに苦笑した。

 

 

 




 
ナダロス中。
お前のそういうところがほんま…ほんま…
 

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