Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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星4は蘭陵王を貰ったので初芥ヒナコです。
 


秘密のU/カウントダウン1888

 

 

 

「こりゃひでぇ」

 

 戦場になった結果、散々に踏み荒らされたジキル邸を見て金時がぼやく。

 魔力自体はマスターであるフランの特性もあってまったく問題ない。が、即死の視線に見入られ続けた精神は疲弊しきっている。休みたいところではあるが、まずはそこかしこに開いた大穴をどうにかせねばなるまい。

 

 フランがいてビーストウォッチがあるから多少霧があっても問題ない、と。

 そういう問題でもないだろうから。

 

「―――無理だな。そこらの傷も間違いなく“死”んでいる。

 魔術ではどうにもならん。そこらの板を打ち付けた方がよほどマシだ。

 というよりいつ崩れ落ちるとも分からん。建て替えをした方がいい」

 

 中を一通り見回したエルメロイ二世は渋い顔でそう言った。

 彼女がつけた傷はそう大きくないというのに、最早建物自体が死んでいる。

 曲がりなりにもジキルの魔術工房でなければ既に崩落していたかもしれない。

 

『んー、ダメだね。一度設置した召喚サークルも死んでる。

 通信状況が悪くなったと思ったら原因はこれかな。

 再設置は……無理そうだ。せめて死んでしまったジキル邸を撤去してからじゃないと』

 

 カルデアからダ・ヴィンチちゃんの声が届く。

 そんな彼女の声は確かに少し遠くなったかもしれない。

 原因はやはりこの家が死んだこと、らしい。

 

 そんな家の持ち主、未だ意識を喪失したジキルを抱えながらダビデは肩を竦めた。

 

「ではどうする? 人がいなくなったロンドン市警(スコットランドヤード)にでも間借りするかい?」

 

「………あまり歓迎できない話ね」

 

 警視庁内は恐らく酷い有様だろう。

 快楽殺人鬼と言っていいジャックの食糧とされたのだ。殺され方すら真っ当ではあるまい。

 ウォズに肩を借りているソウゴを横目に見ながら、オルガマリーは嘆息する。

 

 拠点を失った状況に頭を悩ませている中、立香はバベッジの最期の言葉を思い出す。

 彼は時計塔に行け、と言っていた。時計塔(ビッグベン)には今しがた行ってきたが、特別彼が隠していた何かはなかったように思う。

 つまり彼の言葉は魔術協会・時計塔(クロックタワー)を指していたのだろう。

 

「ねえ所長、魔術協会の時計塔ってどうやって行くの?」

 

「……いきなり何よ。時計塔本部、というなら大英博物館の地下からだけど……」

 

 オルガマリーが腰に手を当てながら立香を見る。

 そんなマスターの疑問の理由を理解しているマシュが説明のため言葉を継いだ。

 

「―――こちらではこの特異点における首謀者のひとり。

 チャールズ・バベッジ氏との戦闘が発生しました。

 彼は正気を奪われていたらしく、戦闘後に理性を取り戻した際に時計塔に行け、と」

 

『そうなのかい? あちらではそんなことが……』

 

 立香たちが分隊として行動していた時は通信状況が劣悪の状態。

 そしてその後状態が回復した頃には、アナザーダブルの問題が発生していた。

 立香たちとバベッジの戦闘の状況はロマニたちはほぼ把握していない。

 

「彼の語った首謀者はチャールズ・バベッジ、そしてヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス。

 ふたりの退去は確認できた以上、残るは“M”と称されていた者。

 彼らのマスターだった人間か、あるいは魔神なのか……といった所だね」

 

 アレキサンダーがパラケルススの名を出した瞬間、モードレッドが盛大に顔を顰めた。

 余程あれに庇われたというのが腹立たしいと感じている様子。

 オルガマリーは努めてモードレッドを意識にいれないように、顎に手を添えて俯いた。

 思い出すのは、パラケルススとダ・ヴィンチちゃん共通の知人として出された名前。

 

「M、ね。……マキリ、ゾォルケンだったかしら。少なくともイニシャルは合致するけれど」

 

「マキリ? ……その名は?」

 

 彼女が呟いた名前にエルメロイ二世が反応を示す。

 誰の名だ、と問いかける声ではない。何故ここでその名が出る、という確認の声。

 それを理解してオルガマリーが眉を顰める。

 

「知っているのかしら、ロード・エルメロイ二世」

 

「知っているも何も冬木の聖杯戦争の設立に関与した男の名だろう。

 己の名であるマキリを間桐という家名にし、日本の冬木に根付いた魔術師。

 土地の監理者である遠坂。聖杯の鋳造を行うアインツベルン。その二つの家と合わせ、御三家と呼ばれることになる一族の人間だ」

 

「―――――冬木の聖杯戦争、その設立者?」

 

『おやまあ、それはまた……』

 

 オルガマリーが愕然と目を見開いた。

 ダ・ヴィンチちゃんもそこで繋がるとは思っていなかったのか、少し驚いた風な声を出す。

 その話を聞いていた玉藻がふぅむと腕を組んでそれとなくドレイクを横目で見る。

 今の言葉に何か引っかかるようなものを感じつつ、特段気にはしていない様子。

 

「……マトウシンジの記憶なし、と」

 

 ぽつりと呟く玉藻。まあ彼女のことを知らない時点で大体分かっていたが。

 というかあのワカメは月じゃなくても聖杯戦争に関わってるのか、と。

 マトウという名前の一致なだけで関係ないかもしれないが、あまりそんな気はしない。

 何となく遠い目をする玉藻。

 

「どうでもいいが先に落ち着ける場所を探せ。

 仕事を終えたばかりの物書きに歩かせる距離じゃないぞ、さっさと休ませろ」

 

 宝具を用いて一仕事終えた、と言わんばかりのアンデルセンが愚痴る。

 

「……たった数ページでしょ」

 

「そのたった数ページに救われたのはどこのどいつらだ。

 本の厚みだけで価値を決めたいなら小説ではなく辞典でも読んでいろ」

 

 やれやれと呆れたように首を横に振る童話作家。

 こめかみを引くつかせながら、オルガマリーは深呼吸をして気分を落ち着ける。

 怒れる彼女の背中をマシュがどうどうと落ち着かせるように撫でていた。

 

「だが実際どうする? 拠点は必要だろう。

 あとはMとやらだけだからそのまま押し通る、というわけにもいかないぞ」

 

 マスターの様子に片目を瞑ったアタランテが溜め息混じりにそう言った。

 その視線が未だに意識を取り戻していないジキルに向かい、続いてウォズの肩でぐったりとしているソウゴにも向けられた。

 アナザーダブルとの戦い以後、流石に疲労がピークを越えたらしい彼。

 少なくともこの二人を休憩させる場は必要だ。

 

 アナザーライダーの打倒は終わったとはいえ、スウォルツや白ウォズがまた出ないとも限らない。もちろん、仮面ライダーディエンドのような相手が突発的に出てくる可能性だってある。

 この状態のまま探索を続行というわけにはいかないだろう。

 

「……ジキルには悪いけどいっそのこと家を破壊してタイムマジーンの転送を……」

 

 小さく呟くオルガマリー。

 どっちにしろ既に家が死んでいるというのなら、と彼女は本気で考え始めた。

 そんな彼女に対して困ったような顔でマシュが思考を止めさせる。

 

「あ、その……所長。バベッジ氏はもう一つ、この霧の発生源について伝えてくれました。

 魔霧発生装置“アングルボダ”は地下鉄(アンダーグラウンド)の先にあると……」

 

「…………それを先に。……いえ、そういった情報の擦り合わせのため、なおさら拠点とする場所が必要になるわけね」

 

 大きく溜め息を一つ。

 ついでに考えるならば、敵の本拠地が地下鉄の奥にあるというならタイムマジーンの運用は難しいだろう。タイムマジーンのサイズなら地下鉄に入れないことはないだろう。が、せいぜい前進か後退かだけでまともに動くことはまず無理だ。人型になればなおさら。

 そして外で使おうにも外部で活動していた首魁に通じる二人、パラケルススとバベッジは既に退去している。スウォルツや白ウォズ対策にあってもいいが……

 

「ねえ黒い方」

 

「……私かい? 君たちにまで黒ウォズ呼ばわりされる筋合いはないんだが」

 

「一応訊きたいのだけど、あの白い方のあんた。またこの特異点で仕掛けてくると思う?」

 

 黒ウォズは問われた事に対し、すこぶる嫌そうな表情を浮かべた。

 少し悩んでみせた彼は、一度大きく溜め息を吐き落としてから返答する。

 

「生憎、彼の言う救世主とやらを私は知らない。だが明らかに現時点ではスウォルツと組んでいる様子だ。なら恐らくはもう攻撃を仕掛ける理由はない。

 この特異点における我が魔王の継承の儀は済んだからね」

 

「あんた、そのスウォルツとやらの目的の方は知ってるの?」

 

 スウォルツの目的はソウゴ、ひいてはオーマジオウ。

 そう言われているだけではっきり言って何も分かっていない。

 

「…………さて。仮にそれを知っていても、悪いがそちらを話す気はない」

 

 そう言ってから視線を逸らす黒ウォズ。

 どこからどこまでを誤魔化されているのか、溜め息とともにオルガマリーが眉根を寄せる。

 

「……まあいいわ。目的に常磐が関わっていることには変わりないんでしょうし」

 

 オルガマリーと黒ウォズのやり取りを見ていた金時が頬を掻く。

 そして近くにいた苛立たしげなモードレッドに対し、小声で話しかける。

 

「よう、レッドサンダー。こいつはどういう話だ?

 さっき見たゴールデンなキック関連の話ってのは分かるけどよ」

 

「―――知るかよ、あっちに訊け」

 

 返答はにべもない。

 機嫌が悪いのは見て取れるが、どうにも怒っているように見える。

 そんな彼女が小さく視線を動かして、立香の傍にいるフランを見つめた。

 

「……お前たちのマスターなのか、アイツ」

 

「うん? おう、そいつがどうかしたか?」

 

「別に。少し気になっただけだよ」

 

 そう言い放って視線を逸らす彼女に、金時が何が訊きたかったのかと首を傾げる。

 

「……こうしていても仕方ないだろう、とりあえず大英博物館とやらに向かおうか。

 時計塔に踏み込むか否かは置いておいて、とりあえずそこの屋根を借りるとしようよ」

 

 アレキサンダーがオルガマリーに対してそう言った。

 だが彼女は微妙に渋っているように見える。

 エルメロイ二世の方もあまり気が進まない、という風に見えた。

 

「……問題は時計塔の状況よ。

 サーヴァントをぞろぞろ連れていって大丈夫か、っていう話ね」

 

「―――オレが召喚されてすぐ、そこで寝こけてるモヤシに言われて確認した。

 大英博物館は木っ端微塵。時計塔の入り口とやらは塞がってる。

 人の気配もまるでなかった。少なくとも付近には生き残りもいねえ」

 

「壊されている?」

 

 モードレッドの挟んだ言葉にエルメロイ二世が疑念の声をあげる。

 普通に考えれば巨大な建築物を破壊するのはバベッジ……そしてヘルタースケルターに与えられるだろう役目だ。彼が大英博物館の崩壊を把握していないはずがない。

 だが、ほぼ霧を拡大すること以外の活動をされていないロンドンにおいて、積極的に建造物の破壊を行っていたという事実。余程隠したいものがある、ということだろうか。

 

「まあ、元から本部にいる連中なんて外で何が起きようと出てこないでしょう。

 仮に逃げるとしても、外ではなく奥の迷宮にでも逃げ込めばいいと思っているでしょうし」

 

「…………いや、あれは多分中にも……」

 

 オルガマリーが時計塔に対し呆れるような様子を見せる。

 が、そんな彼女の言葉をモードレッドは小さく否定していた。

 まるで時計塔の中の魔術師が全滅しているかのような物言い。

 

「―――いくら何でも時計塔にこもってる連中を全滅させるのは無理よ。

 仮にパラケルススとバベッジ、それにメフィストフェレスが力を合わせてもね。

 多分、だから入り口を破壊して塞いだのでしょう」

 

 魔術師がサーヴァントに敵う道理はない。

 だが同時に、時計塔の総本山はサーヴァントが数騎で殴り込んで蹂躙できるほど軟ではない。

 彼女の反応を見たモードレッドは肩を竦めるだけだった。

 

「……だといいがな」

 

「―――とりあえず行ってみればいいだろう。

 少なくとも、ここで会話を続けるよりはそちらの方がマシだ」

 

 強引に会話を打ち切るアタランテの声。

 オルガマリーを話し込ませていてはここから進まないと判断したのだろう。

 む、と拗ねたような表情を浮かべる彼女に全員の視線が向かう。

 

「……そうね、とりあえず行きましょう。目的地は大英博物館、時計塔よ」

 

「やれやれ。ここが2000年代近くなら図書館だのついさっき死んだシェイクスピアの劇場の再現だの、見て回るものがあるものを」

 

 溜め息一つ、アンデルセンが肩を竦めてから歩き出す。

 観光気分で歩き出した彼を追い、彼女たちもまた歩き出した。

 

 

 

 

 辿り着いた大英博物館は、正しく瓦礫の山であった。

 地下に伸びる時計塔の存在はともかく、少なくとも屋根を借りるどころではない状態だ。

 

「そら、肉体派のサーヴァントども。ブルドーザーの如く働いて入口を掘り出せ。

 今この中に入れば普段は穴蔵に死蔵されてる資料が読み放題だぞ」

 

 到着した途端にアンデルセンはそう言ってモードレッドを見た。

 彼女に睨み返されるが、童話作家にはまるで堪える様子はない。

 軽く肩を回しながら金時が動きだし、アレキサンダーとドレイクが続く。慌ててマシュもそれに続いた。ジキルを抱えているダビデは動かず、当然のように玉藻も動かない。

 居残り組の面子を見てこっち組はごめんだと思ったのか、モードレッドも動き出した。

 アタランテがオルガマリーへ振り返り声をかける。

 

「マスター、入口のおおよその位置は分かるか?」

 

「………まさか本当に中も壊滅してるなんてこと……いえ、ありえないでしょう?

 ここは曲りなりにも魔術協会の総本山。サーヴァントといえど、落とせるわけが」

 

 ぶつぶつと呟きながら思考を回している彼女。

 仕方なしにアタランテはエルメロイ二世へと視線を向ける。

 

「私としても彼女の気持ちが分かるがね。恐らくあの辺りだろう」

 

 彼もまた渋い顔をしながら、瓦礫の一角を指差した。

 そこを目掛けてぞろぞろと移動を開始するサーヴァントたち。

 彼らの背中を見送りながら立香が首を傾げる。

 

「バベッジは時計塔で何を見つけて欲しかったんだろう。

 この特異点を解決するだけなら地下鉄の奥、だけでいいはずだよね?」

 

「探偵、シャーロック・ホームズがここにいるという話だったのでは?」

 

 バベッジの最期の言葉を思い起こしながら玉藻は言う。

 彼女の視線は、まずもってこの特異点にシャーロック・ホームズがいると断定してみせたアンデルセンに向いていた。

 

「ホームズがここにいるとバベッジが知っていたなら、奴のヘルタースケルターは全てここに雪崩れ込んでいただろうさ。つまり奴の遺言はホームズ本人ではなく、恐らくホームズに託したという何かの在り処を示していたんだろう。それが何かというのは分からんがな」

 

「それが一体何なのか、というのが一番重要なんでしょうに」

 

「それは―――」

 

 ドカンドカン、と瓦礫が次々と撤去されていくのを見る。

 大きな瓦礫の山でさえも、あのサーヴァント軍団にかかれば砂の城のようだ。

 次第に見えてくる時計塔に踏み込むための入口。

 その扉を見る目を細めて、アンデルセンは小さく呟いた。

 

「実際入ってみれば分かることだ」

 

 

 

 

 時計塔内部に踏み込める状況を整えたうえで、彼らは三手に分かれることとした。

 中の状況は分からないが、室内で群れるのが逆に危険なことが一つ。

 後は退路となる入口の扉の確保のため。

 

 外部には立香、マシュ、エルメロイ二世、ドレイクを残す。

 内部の入口付近の部屋を確保してアレキサンダー、ダビデ、ウォズを残す。

 そしてそこではソウゴとジキルを一時的に休ませる。

 オルガマリー、アタランテ、モードレッド、アンデルセン。更にフラン、金時、玉藻が奥まで様子を見に行くといったような編成だ。

 

 奥に踏み込んでいくオルガマリーたちを見送ったあと、外の様子を窺いながら立香は腕を組んだ。その顔には何か納得できない、という色がありありと浮かんでいた。

 

「うーん……」

 

「どうかなさいましたか、先輩」

 

「フォウ?」

 

 そんな彼女の様子に声をかけたマシュは、心配そうに首を傾げた。

 傾ぐ頭、その上に乗っていたフォウが落ちないように強くしがみ付く。

 

「この特異点の元凶……所長の話だと、マキリって人なのかな。

 その人がレフ・ライノールみたく魔神だったとして……何か、違和感があるような?」

 

 ここに到着してから、別れて探索を始める前に情報はおおよそ共有した。

 恐らくこの特異点における聖杯の所有者はマキリ・ゾォルケンなる人物だろうと。

 そして霧に鎖した街と、彼らが雷電と呼ぶ何か―――恐らく新たなサーヴァントの存在。

 

 レフ・ライノールは人間に対する憎悪が明確にあった。

 彼の同胞である人理焼却に加担した魔神ならば、似たような感情で動いているはず。だがこの霧の街から感じるのは憎悪、ではないのだと思う。メフィストフェレスやジャック・ザ・リッパーのような存在はいたが、どう見てもレフに比べれば積極性に欠ける動きしかしていない。霧で街を死都に変えると言う、真綿で首を絞めるかのような破滅への緩慢な舵取り。

 ここの元凶が抱く感情は憎悪ではなく、逆らえぬ滅びへの諦念であるかのように思えたのだ。

 

「……マキリという方は、魔神ではないということでしょうか……?」

 

 マシュが二世に視線を向ける。

 マキリ、という人物を知っているのはダ・ヴィンチちゃんと彼だけ。

 目を向けられた二世は困ったように片目を瞑る。

 

「逆に私はレフという男を知らないんだがね。

 ライダー……アレキサンダーはローマに召喚された際、顔を合わせていたらしいが」

 

「二世はアレキサンダーについていっただけの野良サーヴァントだったんだっけ」

 

「それはさておき。

 私もマキリという人間をよく知っているわけではない。殆ど名を知っているだけ、と言ってもいいだろう。知っているのは15、6世紀の人間であるダ・ヴィンチの知人であるという通り、現代においては500年を生き延びた魔術師ということ」

 

 マスターの指摘にすい、と視線を明後日の方向に飛ばすエルメロイ二世。

 ごまかしたー、と声をあげる立香の声を無視して続ける。

 

「そして―――少なくともロード・エルメロイ二世の知る冬木の聖杯戦争の創設者。

 その一人であったと……」

 

「私が知る彼はもはや無理な延命により魂が腐り果てた存在だったようだ。

 恐らくは生前の彼がどういった人間だったか、という目安にはならないだろう。

 まあ聖杯戦争の立上げに関わり、500年を生きるだけの実力がある魔術師であったのは間違いないのだろうがね」

 

「500年生きて、魂を腐らせて……そこまでして聖杯を求めてたの?

 人理焼却に似た目的をそっちのマキリも持ってたのかな……?」

 

 立香が浮かべた素直な疑問にエルメロイ二世は瞑目する。

 魔術師などいうものを彼女の常識で考えさせても仕方ない、とは思う。

 だがだからと言って打ち切らせることでもあるまい。

 エルメロイ二世自身もマキリの悲願を把握しているわけでもないのだから。

 

「さて……」

 

 まして彼の知るマキリ・ゾォルケン―――

 間桐臓硯は既に時間の流れで壊れていたと言っていい。何をもって彼が聖杯を求め、冬木の地に根付いたかなど外野から分かる筈もない。

 だが―――

 

「フォ―――ウ!!」

 

 二世が考え込んでいる中。

 マシュの頭の上で寝そべっていたフォウが突然、身を起こして大きく声を上げた。

 その声が上がった瞬間に周囲の空間が歪み、四門の大砲が空中に現れる。

 

「―――どこだい?」

 

 今いるのは広大な廃墟だ。

 流石に無差別には撃てないが、今までよりは余程彼女の火力を発揮できる。

 ドレイクはその両手に銃を構えながら周囲を見回していた。

 

 マシュと二世も立香を挟むように立ちながら周囲の様子を探っている。

 フォウが唸りながら睨んでいるのはただ一点。

 自然と彼女たちの視線はそちらに集約されていく。

 

「――――ク」

 

 その睨まれている一点の空間が歪み、染み出すように黒い炎が現れる。

 炎は人型に浮かび上がり、その顔らしき部分にある口と思しき部分を吊り上げた。

 

「流石は獣、オレの気配は嗅ぎ取るか。

 そうとも。我が恩讐こそは人の持つ理―――人間の競争の中に生じる妬み、嫉み……『比較』により引きずり降ろされ、蹴落とされた側の者たちが発する叫びに他ならないのだから」

 

 フー、とこれ以上なく毛を逆立てながら黒炎を睨むフォウ。

 そのような様子を見せるのは余りに珍しく、敵と相対しながらもマシュが困惑する

 

「フォウさん……? いえ。フォウさん、先輩の方へ行ってください……!」

 

「黒い炎のサーヴァント……アタランテの言ってたアヴェンジャー……!」

 

 ドレイクの全砲門がアヴェンジャーに照準される。その砲撃の火力は言うまでもない。

 四門全て放たれれば相手がどのようなサーヴァントであれ無事では済まないだろう。

 そんな状況にありながら、相手はまるで動じていない。

 

「………何をしにきたの? 貴方も魔霧計画に協力しているサーヴァント?」

 

 立香が一歩前に踏み出しながら問う。

 マシュが慌てて自分も踏み出して彼女の前に立った。

 

「―――否、だ。我はその魔霧計画とやらを実行している連中に聖杯を与えた者の手により召喚されたサーヴァント。計画に関わっているわけでもなければ、協力しているわけでもない」

 

「知ってる。じゃあ何故ここに?」

 

 人理焼却の主犯の手の者、という宣言に即座に言い返す。

 そもそもそこまではアタランテから聞いているから分かってる、とでも言いたげに。

 

「クク―――なに、揃いも揃って未だこんな場所にいる者たちを見物しにきた、とでも言えばいいか。動いていたキャスターどもを排除して猶予が出来たという考えなのだろうが……もうすぐこの時代が終末を迎える時間だ」

 

「それって―――」

 

 息を呑んだ立香たちの前で、黒い炎が徐々に消え始める。

 言いたいことだけ言って消えていくその姿を前に、立香が後ろを振り返った。

 

「地下鉄の奥に急がなきゃ―――!」

 

「そいつのこと信じるのかい?」

 

 既にほぼ完全に消えている炎を見ながらドレイクが問いかける。

 

「その人。誰に召喚されたかもこの計画に関わってるかどうかも、訊いたら答えてくれたし。

 信じさせたい嘘を吐きにきたなら人理焼却の黒幕に召喚されたなんて言わないでしょ。

 多分、何かを隠そうとはしてない人だと思うんだ。だから信じるよ。

 ―――行こう。わざわざ言いに来てくれたってことは、きっと本当にもう時間がないんだ」

 

「――――」

 

 彼女が走り出す前に、その炎はもう何も言う事はなく完全に消え失せていた。

 マスターが走り出すとすぐにマシュが続き、その後を肩を竦めたドレイクが続く。

 エルメロイ二世がこめかみに指を当てながら、小さく溜め息。

 

「……私はソウゴたちを呼んでくる、先に向かってくれ」

 

「お願い! ドクター! ドクター聞こえてる!? 所長にも伝えてね!」

 

 声を張り上げて通信機に声をかける。

 すると戸惑ったような彼の声が返ってきた。

 

『あ、ああ! 聞こえてる、聞こえてる!

 いきなりすぎて何が何やらだ! アヴェンジャーのサーヴァントがいたのかい!?

 こっちの画面では見えないから……』

 

「そっか……ソウゴにウォッチを借りておけばよかったかな!」

 

 霧が濃い場所ではあちらの観測は存在証明以上の仕事ができない。

 ある程度の観測をしてもらうためには、たとえばビーストウォッチなどで霧を薄めておかねばならなかったのだ。言われてから気付き、反省しつつ彼女は走る事に集中した。

 

 

 




 
 あとは本読んで、もっとよこせバルバトスして、アンチエレキひらめき発明王して、父上が増えて、立ちションする……4話? 5話?
 

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