Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「……本気?」
地下へ伸び、どんどん奥に向かっていく回廊を歩きながらオルガマリーが呟いた。
踏み込んだ時計塔の内部は静寂に包まれている。
ここには明らかに魔術師の一人さえも、残っていない。
「だから言ったろ、全滅だぜこれ」
モードレッドはそう言いながら気にもせず歩いていく。
確かに彼女の言う通りに既に時計塔は機能していない。もしかしたら我先にと外に逃げ出した魔術師もいるかもしれないが、少なくともここには一人として魔術師は存在しなかった。
「時計塔の外、ロンドン郊外の
ここが滅びた所でアニムスフィアにエルメロイ、お前たちのご先祖様も無事だろうよ」
「そう言う問題じゃ……!」
アンデルセンの言葉にオルガマリーが声を荒げれば、無人の建物内に声が大きく響く。
反響する自分の声を聞いてか、彼女は一度口を閉じて気を落ち着かせる。
「秘骸解剖局まで機能停止なんて、いくらサーヴァントであってもありえないでしょう……! 絶対におかしいわ。パラケルススやバベッジ、メフィストフェレスだけではこの状況は説明がつかない……!」
それでも気分がざわつくのを抑えきれないのか、彼女の声から震えは消えない。
そんなオルガマリーの様子を見ながらアンデルセンは肩を竦めた。
通信先からはダ・ヴィンチちゃんの声が届く。
『ふむ。別の存在……“M”が魔神であったならそれも可能かもしれないね。
ただそもそも何故時計塔を、という話だ。アンデルセンの言った通り有力者……
彼女もまたこの状況は分からない、と言う。
相手が何をしたいのかが分からないのだ、この特異点は。消極的かと思えば、この時計塔のように積極的に破壊した場所はある。だがその破壊した理由はさっぱり見えてこない。
どうなっているのかと考えている彼女たちを差し置いて歩き続けるアンデルセン。
その彼が一つの扉を発見する。その扉の横のルームプレートを見て、彼は笑みを浮かべた。
「時計塔の書庫、恐らくはここだな」
「ちなみに書庫が目的なのは、自分が本を読みたいだけではなく?」
「俺が本を読みたいついでにバベッジの遺言も達成してやるんだ。ありがたく思え」
胡乱げな玉藻の目に悪びれもせず言い返し、彼は意気揚々とその中へと踏み込んだ。
彼はバベッジが時計塔に導いた理由は書庫にあると確信している様子。その後ろに顔色が悪くなり始めたオルガマリーもついていく。そんな彼女の様子を見た玉藻も仕方なさげに同道した。
警戒も必要だろうと書庫の扉で待機することにした残るフランとサーヴァントたち。
モードレッドは軽く周囲を見回し、別の部屋へと目を付けた。彼女は勝手にそこへと踏み込むと、やがて椅子を持って出てきてフランの前に置いた。
「ウ……?」
「お前も休めるときに休んどけよ。サーヴァントじゃなくて生身なんだからよ」
きょとん、と首を傾げたフランが、しかし彼女に言われた通り椅子に座る。
アタランテはその二人の様子を目の当たりにし、珍妙なものを見たというような表情を見せた。
モードレッドがそのような事を進んで行う人間だと思っていなかったのだ。
そんな光景を見ながら金時は彼女たちから少し距離を取りつつ、壁に寄り掛かる。
そうしてふと思いついた疑念をアタランテにぶつけていた。
「なあアタランテ。人理焼却と、このロンドンのことは大体把握したけどよ。
あっちのソウゴの力の方の事なんかはどういう話なんだ?」
「―――あれは人理焼却とは別口のようだ。ソウゴの力も。敵として現れたあの怪物も。
人理と共に焼け落ちた仮面ライダーという戦士たちの記憶、ということらしい。私も詳しくはない……というよりソウゴ自身もよくは分かっていない、というのがカルデアの実情らしいな」
腕を組みながらそういう彼女。
力の由来よりも彼らの名が引っ掛かったらしい金時が軽く口笛を吹かした。
「へぇ、ライダーね。モードレッドとアンタが乗り回してたバイクもソウゴのってことか?
いいねぇ、ライダー。オレっちもよくベアー号を乗り回したもんだがよ、あの風を切る感覚は最高にクールでゴールデンだ」
生前を思い返すように回顧する金時。そんな彼を訝しむアタランテ。
何故バイクの話がベアー号……熊? の話になるのか。
アタランテは首を傾げながらも、バイクに同乗した時の感覚を思い起こした。
「熊……熊? 私も熊には縁が深いが……あれは、熊の背に乗るのとはまるで違ったと思うが」
「まあクマ公の中にも変形する奴としない奴がいるからな。
オレの知ってるベアー号は、まあ実際バイクみたいなもんだったからよ」
当然のようにそう言ってみせる金時。
そんな言葉を聞いて彼女は、自分の知る熊との差異を感じて眉を顰める。
「変形……?」
少なくとも彼女の知る熊は変形はしないが……まあ相手は国も違えば時代も違う英傑だ。
彼の国にはそういう熊もいたのだろうと納得しておく。
人智の及ばぬ怪物など彼女の生きた時代では珍しくもない。
「しかし、あの怪物はやばかったな。
人理焼却だけじゃなくあんな奴らとまで戦ってるなんて、ちいとばかしハードじゃねえか」
そう言い出した彼の言葉は、間違いなくアナザーダブルのことを言っているのだろう。
アタランテが知るのはアナザーダブルとアナザーフォーゼだけだが、ソウゴたちの反応から言っても別格だったのだろう。カルデアで聞いた話ではジャンヌ・オルタとブーディカもアナザーライダーにされていたらしいとは聞いているが……
「あれに関しては流石に規格外だったのだろうがな。
恐らくアナザーライダーとしたサーヴァントの能力によって戦闘力が左右されるのだろう。
あのアナザーウォッチというのはサーヴァントの霊基に癒着するという話だからな」
今回の場合はヘンリー・ジキルを素体にしたものと、両儀式を素体にしたもの。
そこで明らかに差がついていた。もっとも、彼女が直死の魔眼を持っている人間だからというだけでは説明がつかないほどに強化されていたように感じるが。
「へぇ……」
「―――なんですって!?」
二人が話していると室内からオルガマリーの声が轟いた。
即座に二人揃って中を覗く。
そこにはノイズ混じりの通信映像。ロマニ・アーキマンの姿が浮かんでいた。
彼女は彼から聞かされた話に頭を抱えている。
「藤丸たちが先に地下鉄に向かったって……ああ、もう……!
仕方ない! こっちもすぐに準備して現場に向かうわ! 全員準備を……!」
「馬鹿かお前は、そんなものあっちに任せておけ。
―――わざわざチャールズ・バベッジがホームズを動かしてまで調べさせた情報、お前がカルデアに持ち帰らずしてどうする。少しは考えろ」
書庫から出ようとした彼女の背に、本を抱えながら読んでいるアンデルセンの声がかかる。
その言葉にオルガマリーは足を止めて、彼に向かって振り返った。
「それは……ただ時間が……」
「時間が無いのはどっちも同じだ。外の脳筋どもを送り付けて、お前はさっさと本を読め。
そこの駄狐も行っていいぞ、どうせこっちでは役に立たんからな」
「なんです、その物言い。いい加減にしておかないとそろそろ潰しますよ?」
喧嘩を売るような物言いに対し、玉藻が足の素振りを始めた。
どこか、まるで下半身を蹴り抜くような動き。
恐らく子供な身長のアンデルセンを狙えば、胴体に直撃の軌道となるだろうが。
「じゃあ読んだらどうだ。日本語や中国語の本なぞここにはほとんどないがな」
「……読めないわけではないですけど! サーヴァントですので!
ただ読み慣れてない言語の本はちょーっとつらいなーって思ってただけですから!!」
「いいからさっさと行け。読書の邪魔だ」
プンプン、と口に出しながら大股で出ていく玉藻。
そんな彼女の背を見送って、オルガマリーは表情を苦渋に歪めながらアンデルセンが積み重ねた本のうち一冊を手に取った。
室外に出た玉藻がすぐ傍にいた金時とアタランテに声をかける。
「アタランテさんはこちらであの二人をお願いします。金時さん、行きましょうか」
「お、おう?」
呆れた顔でそれを見ていたモードレッドが立ち上がる。
真っ先に元凶に向かっていったと知り、彼女はオレも外で待つべきだったかと小さく呟いた。
椅子に座っていたフランが立ち上がって唸り声をあげる。行ける、と言っているようだ。
「……オレの背中にくっついてな。全力で走るぜ」
「ゥ……」
フランを背負うモードレッド、そして金時と玉藻。
三人のサーヴァントが来た道を戻るために、全力疾走を開始した。
「霧がどんどん濃くなってく……! 近づいてる、ってことだよね……!」
「はい……! ―――もうすぐそこに、開けた空間が……!」
地下鉄の奥へと走り抜ける立香、マシュ、ドレイクの三人。
彼女たちは地下数百メートルの位置まで走り抜け、最奥の空間へと辿り着いた。
目の前に鎮座するのは巨大な魔力炉心。
間違いなく、バベッジの語った“アングルボダ”に相違ないだろう。
「こいつぁ……聖杯ってのと殆ど変わらないんじゃないかい?」
聖杯を宿したこともあるドレイクさえもが、その威容に息を呑んだ。
鼓動とともに霧を吐き出し続ける魔霧都市の心臓部。
それを見たマシュは、冬木で見た聖杯を思い出していた。
「まるで冬木の大聖杯と同じような……超抜級の魔力炉心です……!」
「あそこ、誰かいる……!?」
立香が霧の中に見えた人影を指差した。
その周囲から徐々に霧が薄れていき、逆に彼の足元にある魔法陣が輝きを増していく。
霧が薄れたおかげでその姿が確かに見えるようになる。
そこにいたのは青髪の男性。彼は瞑っていた瞼を開くと、現れた一団を見渡した。
「―――奇しくも、パラケルススの言葉通りか。
悪逆を為す者は、善を成す者によって阻まれなければならぬ、と。
だが、遅かったな。聖杯を組み込んだアングルボダが発したこの霧により呼ばれたサーヴァント、その大部分は脱落し循環した。今ならば十分に星の開拓者に手が届く」
彼は視線だけ立香たちに向けながらも、意識は全てその魔法陣に割いていた。
立ち昇る青白い光が柱となり、魔法陣の上に聳え立つ。
スパークする魔力の渦という光景を、彼女たちはよく知っていた。
「英霊召喚……! ドレイク、止めて……ッ!!」
「あいよ―――ッ!!」
立香の声に応え、大砲が一門展開する。
そこから魔力が収束して吐き出される直前、彼は光の中で呪文を呟いた。
「汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者―――
汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
轟音とともに大砲が火を噴いた。
それが着弾する寸前に、男の足元から光と雷が氾濫する。
暴れ狂う雷は迫る砲撃さえも焼き払いながらその空間に溢れ、爆発した。
「っ……今のは、間に合わなかった……っ!?」
「ちィ……ッ! 悪いねマスター、今のは弾かれた。ただ……」
ドレイクの視線が横に飛ぶ。
彼女の視線の先には、雷光の爆発に吹き飛ばされ地面に転がる男の姿があった。
自分が呼んだ暴走する雷電に巻き込まれたのだ。あの規模の魔力の雷だ。魔術師であってさえも助かるまい。いや、今原型を留めているだけでも十分に非常識とさえ言えるだろう。
―――召喚サークルが崩れ落ち、その周囲に迸る雷が落ち着いていく。
同時に今まで霧を生み出し続けていたアングルボダも停止していた。
動力源たる聖杯が消失し―――否、移譲されたのだ。今まさに召喚されたサーヴァントに。
そのサーヴァントは、一人の男性だった。
オールバックに決めた黒い長髪と肩にかけたコートを靡かせる男。
彼はただ悠然と、立香たちの前に歩いて姿を現した。
「――――私を呼んだな。雷電そのものたるこの身を。天才たるこの頭脳を。
旧き神話を焼き払い、人類に新たな神話を齎せし私を!
インドラを超え、ゼウスを超え、人の世を革新せしめたこの二コラ・テスラを!!」
「ニコラ・テスラ……電気エネルギーで稼働する現代社会の礎を築いた天才発明家……!?」
マシュが上げた声を聞いたテスラが小さく口の端を吊り上げる。
そのまま右手を覆う機械のグローブを持ち上げ、掌を大きく開いてみせた。
弾ける雷電。それに反応して周囲の魔霧が膨れ上がり破裂する。
発生した爆発が周囲を舐める。即座に盾を構えたマシュが立香を守るために動いた。
「霧が……!」
まるでガスか何かのように爆発した霧を見て、驚きが口をついて出る。
『魔霧が彼の雷電に反応して活性化したんだ……! つまり、マキリ・ゾォルケンの目的はこの現象を街全体という規模で発生させること……! そんなことになれば、ロンドンどころかブリテン島がまるごと消し飛ぶぞ……!?』
そんなことになれば、もはや取り返しはつかない。
人理修復を達成する手段はなくなるだろう。
拳を握りしめた立香が彼を睨み据え、彼女は声を張り上げた。
「ここで止めなきゃ!」
「――――させ、んぞ……!」
横合いからの声に驚いて振り向く。そこには、地面を這いずる男がいた。
彼は半死半生の身でなお動く。
『マキリ・ゾォルケン、生きているとはね……』
ダ・ヴィンチちゃんが立香の横にノイズ混じりの映像を浮かべる。
その姿を見たマキリが顔を顰め、眉根を寄せた。
「モナ・リザ……いや、なるほど。レオナルド・ダ・ヴィンチか……
道理でパラケルススの動きが鈍るわけだ……だが、私には関係のない話だ……!!」
『君が人類の破滅を望む。私としてはそれがまるで解せない。
一体何を見たと言うんだい、君たちは』
「……抗おうと試みたとも。だが既に人類の生存圏はこの星の上に残されてなどいない。
救済は成り立たない。救世は人の領分では許されない。
過去も、現在も、未来も。彼の王は許しはしないという沙汰を既に下していた。
―――人類は3000年かけて、どこにも届かなかった。これ以上の無様を、これ以上の生存を見るのは飽きたのだと彼の王は賜われた。ならば最早……!」
死人のような有様ながら、彼は立ち上がってみせた。
苦痛を呑み込み立ち上がった彼の内側から、何かの光が漏れだしてくる。
「―――破滅の空より来たれ、我らが魔神が一柱……!
我が悪逆のかたち成すもの……魔神バルバトス――――!!!」
彼の体を突き破り、黒い肉の柱がその場所にそそり立った。
巨大な腐肉の柱には無数の赤い目が開き、その中で黒い十字の瞳孔がぎょろりと蠢く。
それは間違いなく、今まで確認してきた魔神たちと同じもの。
「魔神……バルバトス……!」
「我が王は私の悪を見出した。人々を救わんとする私の中に潜む悪逆の醜さを。
我が醜悪の極みを以て、善を敷かんとする者たちを消し去らん―――!!」
「ッ―――! 宝具を使用します! “
魔神の瞳から見開くと同時に放たれた閃光。
それを正面からマシュが展開した光の盾が受け止める。
身構えた彼女が、想定を下回る威力に対して僅かに表情を崩した。
「今までの魔神のような圧はない……?」
『聖杯だ! 今までの魔神と違い、彼は聖杯を使っていない―――! 周囲に残っていた霧だけを媒介に魔神を降臨させたせいで、出力は今までの二体を下回っているんだ!
代わりに今、聖杯を彼が……!』
通信機から届くロマニの声。
彼が言い終わる前に、魔神の背後でニコラ・テスラが宙に浮いた。
アングルボダにより彼に聖杯は移譲されている。無限の魔力、無限の雷電と化した彼は頭上を見上げて惜しむように呟く。
「フランシス・ドレイク。レオナルド・ダ・ヴィンチ。
この人類の神話たる私に劣らぬ天才。星の開拓者たちと語り明かしたいのは山々だが……
しかし今我が体を動かすのは、この街を雷電にて照らせという狂気。
残念なことこの上ないが……致し方なし、私は地上に出ることとしようか」
そう言うと彼は立香たちに目を向けず、この空間から離脱するための移動を始めた。
「止めなきゃ……!」
彼の背中を追うように視線を向けた立香。
そんな彼女に対して魔神の中からマキリの声が放たれる。
「逃がさぬ……! 貴様たちは私が……! ―――否、魔神バルバトスが静止する」
その言葉の途中でマキリの声が消え、フラウロスやフォルネウスと同じ声が響く。
明確に何かが切り替わった。が、魔神の行動は変わらない。テスラの追跡は阻止する、と。例え出力が下がっていようとその脅威は全て彼女たちに向けられる。
「管制室バルバトス、点灯。無知なるものどもよ、その足掻きこそを我は嘆く。
我らは全てを知るが故に、全てを嘆くのだ」
ゴポリ、と。肉の柱が泡立った。
全ての瞳が立香たちを見据えて、その中に大量の魔力を充填し始める。
「っ……! 不味いです、マスター!
わたしの宝具で攻撃に耐えられても、あの攻撃でこの空洞が崩れ落ちれば……!」
「っ……!」
魔力を高速で充填する魔神を前に、立香が歯噛みする。
このままテスラを追う事も出来ない。そうして追い詰められた状況下で、この魔霧都市の首謀者との決戦は地底深く開始された。
この霧の中にあってさえ分かる、魔力の奔流。
それが天に向けて放たれたことを、走っていたモードレッドたちは感知した。
―――それは、彼女がよく知る魔力であると確信する。
足を止めた彼女と一緒に金時たちも足を止めた。
「こいつぁ……地面の下でやべぇのが出たと思ったら、もう一つかよ……!」
「……バッキンガム宮殿の方ですね。
その地下で出たやべーのに対するカウンター、という可能性も高いですが。
どうなさいます?」
まるで分かりきっているかのように玉藻はモードレッドに問いかけた。
何故わざわざモードレッドに問いかけるのか、と金時が怪訝そうな表情を浮かべる。
フランもまた彼女の顔を覗き、不思議そうに首を傾げた。
「……お前らは地下の方行けよ。どっちにしろ聖杯はそっちだ。
あっちはオレが一人で行く」
「……おい、一人で大丈夫かよ。聖杯もねぇのに聖杯がある方と同じくらいの魔力が渦巻いてるなんざ、まともな相手じゃないのは間違いないぜ?」
「わーってるよ。あの槍の事は……死ぬほどな」
背負っていたフランを下ろす。彼女の意志に従い鎧から兜が展開し、彼女の頭を包んだ。
そのまま答えを聞かずに踵を返し、新たに現れた魔力の方へと駆け出すモードレッド。
今の言葉である程度は察したのか金時が眉を顰める。
「で。こっちはどうなさいます、金時さん?」
「―――まずは聖杯の方に行くしかねぇだろ」
一度だけ既に霧の中に消えたモードレッドの背中を見て、彼はフランへと手を伸ばした。
彼女を腕の中に抱え、再び金時は走り出す。
玉藻は一度肩を竦めてから、その後ろについていくのだった。
辿り着いた地下鉄の入り口。
彼らが到着すると同時に、そこから出てきた紳士然とした男と邂逅する。
その瞬間にウォズがストールを渦巻かせ、周囲の霧を一時的に薙ぎ払った。
一瞬の後、周囲の霧が急速に雷電を帯びて暴れ始める。
「我が魔王、この霧は生身では危険だ」
「―――分かった」
体力はまるで戻っていないが、そう言うならどうにかするしかない。
ソウゴは即座にジクウドライバーとジオウウォッチを取り出すと装着した。
「変身……!」
〈ライダータイム! 仮面ライダージオウ!〉
即座にジオウと変わったソウゴが、敵であろう雷電の化身と対峙する。
その隣でアレキサンダーが大きく顔を顰めた。
「霧に魔力が……吸われているのか?」
霧が孕む敵の雷をゼウスの雷で弾きながら、彼は剣を引き抜いた。
ジオウを興味深そうに見ていた男が、その雷を前にして笑みを浮かべる。
「ほう。その雷、ゼウスの子たる征服王イスカンダルと見た。
では先に潰しておかねばな。その身は天の英雄でも地の英雄でもなく、間違いなく人の英雄であるが……それはそれとして。この人類神話たる私、ニコラ・テスラの前に立たれては避けて通ることなどできはしないだろう?」
「二コラ・テスラ……」
ただ目的地に向かう事だけ考えていた筈のテスラが足を止める。
彼が人の物として引きずり落とした雷霆を権能として持つ神の子。
その少年を前にして、彼の方が避けて通るなどという足取りが許されるはずもなかった。
「霧は我が雷電により活性化し、周囲の魔力を貪欲に喰らい尽くす。
真っ当なサーヴァントであれば、魔力に留まらず霊基さえも魔霧に喰われるだろう。
そういう意味では助かったぞ、征服王イスカンダル。
ゼウスの雷であれば、纏い続ける限り霧に喰われるようなことにはなるまい。
つまりは………」
テスラが右腕。機械のグローブをはめた腕を持ち上げた。
その途端に彼の周囲に膨れ上がる雷電。
膨大な雷光が周囲を照らし、その熱量が周囲を灼き払う。
「神の雷たる貴様を、人類の雷たる私が蹂躙する機会があるということだ!!」
振り抜かれるテスラの腕。そこから放たれる雷撃。
アレキサンダーが対抗するように放った雷とそれが衝突し、魔霧計画の成就を阻止できるか否か。それを問うための決戦が地上において開始された。
三面決戦。
バルバトスくんは聖杯がないせいで他のより弱くなってるなんて失望しました、バエルの下に集います。