Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
ジカンギレードから放たれた弾丸がテスラを目掛けて殺到し、しかしその身に纏われた雷電によって消し飛ばされる。
対峙するテスラは悠然と構え、ゆるりと腕を動かし雷光を放つだけ。
だがその威力は圧倒的だ。軌道上の全てを灼き払い、それはジオウの横を過ぎ去っていく。
「くっ……!」
直近を通っていった雷光に呻き、雷撃に対する耐性を持つフォーゼウォッチを取出す。
だがそれを押し込んでも、ウォッチの起動音声の代わりにノイズが響くだけで起動しない。
アナザーダブルによって致命的なダメージを受けたフォーゼアーマーは、未だに起動できる状態にはなっていなかった。
フォーゼウォッチをしまい、代わりに取り出したドライブウォッチを起動する。
〈ドライブ!〉
ジクウドライバーにそのウォッチを装填しながら走り出し、ドライブアーマーを纏う。
真紅のアーマーが装着されると同時にその肩から車輪が飛ぶ。
放たれたのは牢屋を思わせる造形の車輪。ジャスティスハンターが宙を舞い、柵となる鉄棒をテスラを目掛けて無数に吐き出した。
だが彼はそれを一瞥すると、雷電のみを差し向け全てを吹き飛ばす。
鉄柵のためのポールがバラバラと弾き返され地面を転がる。
「これじゃ近付けない……!」
仮面の下で呟くソウゴ。
雷撃の雨はアレキサンダーを重点的に狙っている。
霊基すら呑み込む霧の渦は、本来サーヴァントですら耐えられない。
彼が耐えられているのは神の雷をその身に宿しているからだ。
だがそれはつまり、英霊馬たるブケファラスには耐えられぬということ。
宝具すらも封じられた状況で彼は必死に回避へと専念していた。
「将来の僕なら、もう少し何とかなったのかもしれないけどね……!」
神獣たる
手にしたスパタの刀身に雷を纏い、降り注ぐ雷撃を力任せに打ち払う。
「ははははは―――! 人類の神話たるこの私が旧き神話の継承者に敗れる道理なし!
もしこの身が敗れることがあるとするならば! 最新にして最大の雷の神たるこの身を打倒できる者がいるとするならば! それは正しく新たなる神話の始まりとなる偉業!」
テスラの周囲に発生している雷電が更に出力を上げる。
腕を天に掲げる彼の纏うそれは、最早本当に“雷の神”と言って差支えない規模のもの。
ジオウが両腕を突き出し、その腕からタイプスピードスピードを射出する。
更にその両肩からは無数の車輪が放たれ、彼に向かって殺到した。
だがしかし、それらの攻撃は雷の壁に阻まれて通ることはない。
「くっ……!」
「我が頭脳が地上に降した神の雷霆を今、ここに御覧にいれよう!
“
宝具であり、彼自身。
神の怒りたる雷電を人類の物とし、文明のステージを上げた偉業の具現。
その真名を唱えようとした彼の頭上で、黄金の光が炸裂した。
「“
「む……!?」
黄金の雷撃が天空から霧を斬り裂き、雷の柱と化したテスラに直撃する。
宝具の前兆たる大雷電の壁がその一撃と衝突し、引き裂かれて千切れ飛ぶ。
すぐさま空を見上げたテスラの前に、金髪の偉丈夫が落ちてくる。
「―――ほう、今度もまた雷神の子でありながら人の英雄たる者か!
だがそうまで接近しては如何に雷神の力とはいえ、ただでは済まんぞ?」
マサカリより落雷の斬撃を放ち宝具は阻止してみせた。
だがそのまま落ちてくれば、テスラの近くで最大限に活性化した霧に呑まれる。
そうなれば雷神の子とはいえ霊基が保つまい。
頭上から落ちてくる金時を見上げながら、テスラはそう言って楽しげに笑う。
そして迎撃のための雷を再度迸らせ、天上に向け放とうとした―――その瞬間。
「ここは我が国、神の国。水は潤い、実り豊かな中津国。
国がうつほに水注ぎ、高天巡り、黄泉巡り、巡り巡りて水天日光。
我が照らす。豊葦原瑞穂の国、八尋の輪に輪をかけて、これぞ九重、天照―――!
“
光が走ったかと思えば、辺りの霧が風に裂かれて割れていく。
霧が晴れた光景の中に周囲を取り囲む鳥居の群れ。
その光景に一瞬目を奪われたテスラ。そこに、金時の放つ裂帛の咆哮が叩き付けられる。
「オォオオオオ―――ッ!!」
「ぬぅ……っ!?」
そのまま落下してきたマサカリの一撃を雷電を纏った右腕の機械グローブで迎撃する。
一瞬の拮抗の後、大きく後ろへと吹き飛ばされるテスラ。
着地した金時がマサカリを構え直し、口の端を大きく吊上げた。
「おう! そのまま頼むぜ、フォックス!」
「―――いえ、今のは不意打ちだから機能しただけですね。
私の宝具は霧の影響を最小限に抑える程度だと思ってください、いやホント」
常世の理を遮断する結界である宝具を起動しながら、玉藻は難しい顔で呟く。
呪力を使い放題にする宝具を用いて彼女が行ったのは、気密を操作する呪術である。
力尽くで霧を押し返した一瞬だけ彼の周りから霧が消えただけだ。
このまま呪術を行使し続けても、結局霧は雪崩れ込んでくる。
「ほう! その気配は正しく旧き神話のもの。この私が不要と断ずる天の英雄のそれに違いない! だがしかし、ああしかし……なんと眩く、美しき女性か……っ!
このニコラ・テスラ。世界を破滅に導く狂気に突き動かされてはいるが、貴婦人に対する礼節を忘れたわけではない。
ここは戦地。オリエント薫る麗しき人よ、どうか巻き込まれぬように避難されるがいい」
「みこっ?」
突然、紳士然とした振る舞いを見せるテスラ。
その変調に面食らった玉藻が、巫女狐らしさをアピールする鳴き声を漏らした。
「避難しても世界が破滅したら変わらなくない?」
呆れるようなジオウの声。それに対しておかしそうに笑うテスラ。
彼の発言を聞いていたウォズが、小さく溜め息を吐いた。
「彼は狂気と口にした。どうやら黒いジャンヌがそうしたように、彼は他のクラスでありながら無理にバーサーカーとして召喚されたのだろう。恐らくは、バーサーク・アーチャー」
その言葉を聞きながらジオウが金時たちの方を見て、その後テスラを……
正確には彼の背後にある地下鉄の入り口の方へと目を向けた。
彼がここにいて出てこない、ということは立香たちはまだ中なのだろう。
恐らくMと呼ばれていたものに足止めされているのか。
「……ウォズ。頼みがあるんだけど、いいかな?」
「……我が魔王。私が断れないと知りながら、そういう言い方はするものではないよ」
「じゃあお願いね」
ジオウが手を伸ばしウォズに押し付ける。
その掌にあったものを見て、彼は眉を顰めた。
が。もう言い返すような事はせずに受け取って、そのまま自分の周囲にストールを渦巻かせる。
一瞬後には、そこからウォズの姿は完全に消失していた。
「……どうあれ」
横でアレキサンダーが腕を振るう。
その手にはいつの間にか手綱が握られて、魔力の渦とともに黒い巨体が出現する。
跳び上がり、英霊馬たるブケファラスの巨躯に跨る少年王。
「玉藻の前が宝具を維持できている期間でなければ、まともに接近すらできない。
速攻をしかけるしかないね―――行くよ、“
彼がその言葉を言い切る前に、黒い馬身は走行を開始する。
僅かに薄れた霧の中を強引に走破するブケファラスの巨体の上から、アレキサンダーはテスラを目掛けて剣を振るった。
紫電とともに来臨せしめたサーヴァント。
黒い馬に騎乗し、黒い全身鎧に包まれたその威容。
竜を思わせる兜を纏った顔がゆっくりと、彼女が光来した地に現れた騎士に向かう。
「……アーサー王。己が国の危機に、貴方は何をなされている」
全身を鎧に包んだのはその騎士、モードレッドも同じこと。
彼女が知るアーサー王とはかけ離れた外見だが、あの王の威風を、己を貫いたあの槍の威光を、モードレッドが間違えるはずもなかった。
黒い鎧は何も語らず、ただ馬の頭を彼女に対して向けさせる。
王の愛馬、ラムレイがモードレッドに対して怒れるように一度嘶いた。
「はっ……オレとは、話す気もないってことかよ。
乗せる相手を殺された馬の方がまだ反応が大きいぜ」
モードレッドの手の中にアーサー王を貫いた剣、クラレントが現出する。
言葉が不要だと言うのなら、彼女にはもう剣を振るう以外にはなかった。
口を開くことを止め、王剣を手に駆け出すモードレッド。
対し、黒き王はその場で手にした槍を横一閃に振り抜いていた。
奔る疾風。嵐の王の纏う魔術、
赤雷を纏う弾丸と化したモードレッドが風の破城槌を力任せに突き抜けた。
「オォオオオ―――ッ!!」
「―――――」
黒槍が引き戻され、迫りくるモードレッドに向けられる。
赤雷と暴風が宙で激突し、周囲に破壊を振り撒いた。
即座に王の腕が手綱を軽く引いた。王の指示に従い黒馬ラムレイが突進を開始。
嵐の王と切り結んでいたモードレッドがそれに突き飛ばされ、大きく後ろに吹き飛ばされる。
「チィ――――!」
宙に舞い上がった彼女を目掛け、黒槍が引き絞られる。
その穂先に風の集約。風王結界が収束し、弾丸と化してモードレッドに向け放たれた。
「――――させん……!」
周囲の風に干渉する魔術が僅かに風王鉄槌を逸らし、モードレッドを回避させた。
掠めただけの風の弾丸に弾き飛ばされ地面に落ちた赤い騎士。
彼女がすぐさま起き上がり、その下手人を睨みつける。
―――そこにいたのはロード・エルメロイ二世に他ならない。
彼はモードレッドに睨み据えられていることも気に掛けず、嵐の王の方を見つめていた。
黒い鎧の騎士の手の中にある黒い槍。
色こそ彼の知るものとはかけ離れているが、間違いようもなくそれはロンゴミニアドだ。
「……やはりあの魔力、ロンゴミニアド……!」
「テメェ、あのモヤシの同類がオレの邪魔して何のつもりだ……!!」
返答次第によってはまずお前から、という意志を隠さない声。
その声に大きく顔を顰めた二世が額を押さえた。
「………私はあの魔力反応を追ってきただけだ。
君が手を出すなというなら手は出すまい。ただし、君が勝ってくれるのならばだが」
「ふざけたこと抜かしてんじゃ―――ッ!」
「貴公は」
激昂していたモードレッドが一瞬で押し黙る。
そのまま彼女は目を見開いて嵐の王へと視線を向けた。
対峙するアーサー王が身に着ける竜の兜。そこから微かに覗く、くすんだ金色の瞳。
その金色が彼女の姿を無機質に見据えていた。
「貴公は何故、私の前に立った。
かつて我らがロンディニウムと呼んだ街を、貴公はどうするためにここに来た」
「決、まってる……! オレは、オレ以外が王の国を蹂躙することを許さない……!
人理焼却だか何だか知らないが、そんな事をアンタの国の上でやろうなんざ、他の誰が許してもこのオレが許さねぇ―――ただ、それだけだ……ッ!!」
「そうか」
咄嗟に叫び返したモードレッドに、極めて平坦な答えが返る。
黒き槍、“
圧倒的な暴風が生む衝撃。それを彼女の下で受け止めるラムレイが、強く地面を踏み締めた。
「やはり貴公はその程度か」
彼女が一度振り向いて、ロンドンの街の彼方。
もう一つの巨大な魔力の渦。聖杯の所有者がいるだろう方向へと視線を向ける。
数秒間そちらを見ていた彼女が顔を戻す。兜の下の無機質な金色の瞳は、僅かたりとも揺れることなくモードレッドの姿を捉えていた。
「この身は、魔霧と雷電を介し世界に響いたこの街の悲鳴を拾い上げしもの。
その目的はこの街を襲う害悪の排除に他ならず―――故に」
二世の顔が歪む。
彼女は、未来の王である騎士王は、決着せぬ前に聖杯を宿した英霊に対するカウンターだったのだ。だからこそこのタイミングに召喚され、これほどに充足した魔力に満ちている。
だがその騎士王でありながら嵐の王たる彼女は、モードレッドを見据えて槍を突き付けた。
「モードレッド卿、貴公はここで斃れろ。
貴様を野放しにすることこそ、かつて我らが駆けた地上への害悪だ」
そう言い放ち、彼女は手綱を引くとラムレイを走らせる。
歯を食い縛りながら迎え撃つモードレッドとの間で、再び嵐と雷が激突した。
「―――いいさ、くれてやるよぉッ! “
ドレイクの叫びと同時、周囲の空間が軋みを上げてそこから無数の小舟が現れた。
更に続く彼女の愛船、
フランシス・ドレイクの宝具たるワイルドハントの軍団は宙を舞い、一気にバルバトスの周囲を包むように展開してみせていた。
「ドレイク……っ!?」
「ハッ、簡単な勘定さね!」
高まり続け、臨界に達したバルバトスの魔力が今にも解き放たれるという状況。
その中で宝具を切った女海賊は、盛大に笑みを浮かべていた。
「――――焼却式 バルバトス」
バルバトスが焼却を宣言し、その魔力を全て解き放った。
全ての目の瞳孔が輝いて放たれる圧倒的な魔力の渦。
それは魔神の周囲を取り囲む亡霊船と黄金の鹿号を吹き飛ばす。
だが一英霊の宝具である船団を薙ぎ払ったからには、その威力は大きく減衰していた。
洞窟を崩落させるほどの威力は、周囲の岸壁まで届かない。
「アタシの
さあ。二発目なんざ撃たせる余裕はないからねぇ、一気に行くよ!!」
爆炎を上げながら墜落し、炎上する黄金の鹿号。
それを横目に一瞥し、ドレイクはすぐさま魔神を見て銃を手にしていた。
だがその有様を魔神柱バルバトスは嘲笑する。
この場において唯一、彼を打倒し得る火力が彼女の船だったのだ。
盾にされ炎上するその宝具では最早バルバトスは倒せない。
「愚かな、既に決着だ。その無知ゆえの愚かさが嘆かわしい。その愚かさゆえに、人類は我らが王に焼却されるのだと知るがいい―――」
焼却式まで魔力を溜め込まずとも、彼の瞳の輝きは人間など十分に殺すに足る。
無数の目が連続して光を放ち、マスターの前に立つ盾持ちに着弾。
その場に光の柱が留まることなく立ち上る。
彼の目や肉にドレイクの放った銃弾が当たり削られていくが、大したダメージにはならない。
「………全てを知るから、全てを嘆くって。そう、言ったよね」
盾の後ろ、光の柱の陰。
そこから、人類最後のマスターの片割れ。藤丸立香の声がする。
バルバトスはその声に耳を傾けることもなく、いずれ限界を迎えるだろう盾持ちに対して攻撃を続けた。
「でも多分。全てを知っていたヒトが、自分にも知らないことがあったって言ってた」
先の決戦。両儀式はアナザーダブルとしてジオウと戦い、そして消えていった。
彼女が厳密に何であったのか、立香にそれはまったく分からない。
けれど―――もしかしたら、あの魔神たちと同じような超常の存在だったのかもしれない、という想像には簡単に行きついた。
そんな彼女は全てを知りながら無知を嘆き、新たに視た光景を喜んでいた。
その光景が生じるこの世界を、地獄と称しながら楽しんでいた。
だから、思う。
「貴方たちはただ、全てから目を逸らして嘆いてるだけじゃないの?」
「――――」
ギチリ、と肉の柱が軋みをあげた。
全ての眼球が強引に盾を睨み、その十字に割れた瞳孔の中に光を灯す。
―――焼却式 バルバトス。
再び魔神の体内で爆発的に魔力が増大していく。今回は無秩序に破壊を振り撒くような使い方はしない。狙うは一点、藤丸立香とその前に立つマシュ・キリエライトだ。
勝敗を決するならばこの洞穴を崩せばいい、と理解しつつもしかし。
あの人間が吐いた言葉をそのままにしておく、という選択肢がそこに発生しなかった。
「―――マシュ!」
連続使用になる上、明らかに先より威力を増しているだろう魔神の一撃。
それを支えるために立香の手の甲から一画、令呪の赤い光が欠けていく。
急速に魔力を充填されたマシュが、魔神を前に吼えた。
「はい……! 宝具、再度展開します―――!!」
溢れかえる魔力の渦を前に、盾を構え直すマシュ。
それに反応してか、キンキンと耳鳴りを起こすほどに荒れ狂うこの空間の大気。
ぎょろり、と。魔神がいっそう目を剥いて立ちはだかる盾を睨んだ。
「焼却式 バルバトス――――!!」
「“
マシュの構えるラウンドシールドから光の盾が展開する。
その光の盾に対し光芒が奔り、直後に爆炎がその場を完全に包み込んだ。
炎の中で光の盾は消えない、凌がれたということだろう。だがそれだけ。仮に令呪を用いたとしても、防げるのはあと二回だけ。相手の矛たるフランシス・ドレイクの攻撃は意に介す必要もない。意識を向ける必要もない。
彼はただ漫然と攻撃し続けるだけでさえ、勝利を得ることが叶う。
そしてバルバトスは再度魔力の充填を開始する。
再び焼却式を実行し、全ての意味なきものを灰燼に帰するために。
先の焼却式が発生させた爆炎と粉塵が晴れていく。
刻一刻と追い詰められ、反抗など無意味と理解せざるを得ない状況になっているだろう、その盾の向こう側にいるマスターをバルバトスの瞳は見据え―――
「なに……?」
マシュの盾の後ろに、藤丸立香がいないことに気付いた。
全ての目が盾に向かっていたが為。ドレイクなど気に掛ける必要などないと断じたため。
彼は相手の動きを見逃していた。
「――――やれやれ。元は私のものなのだがね」
代わりに盾の後ろにいたのは、本を抱えたコートの男。
彼は何をするでもなくその場で肩を竦め、手にした本を軽く持ち上げる。
宝具を解除したマシュがバルバトスへ向け走り出す。
迫りくる少女の姿に魔神の目が光り、爆炎を彼女の周囲にばら撒いた。
足を止めて盾でその攻撃を受け止めるマシュ。
そちらに半分の視線を割きながら、残る瞳でこの空洞の中に視線を巡らせる。
「小癪な……」
果たして彼女は、すぐに発見できた。
無駄な銃撃を続けるドレイクの傍で、
サーヴァントの銃撃さえも効かぬ魔神の身。特殊能力を有する常磐ソウゴならいざ知らず、ただの人間である藤丸立香が持てる銃に一体何が出来ると言う。
バルバトスの視線の半分が立香に向かい、魔力の充填もそこそこに攻撃を放とうとし―――
〈エクシードチャージ〉
「―――ここ!」
せいぜいが拳銃程度のサイズの武器から、赤い銃弾がバルバトスに放たれた。
防ぐ理由も見い出せず、その攻撃に対応することもしない。
故にそれは魔神の巨体から外れる筈もなく、いとも簡単に直撃して―――
魔神の体を赤い光で覆い、その動きを静止させた。
「な、んだと……!?」
予想外の性能に言葉を詰まらせるバルバトス。
だが止められるのは恐らくほんの数秒だろう。しかし、それで十分。
マシュが攻撃が止んだ瞬間に疾走を開始し、孤立した立香の前まで走り抜ける。
ドレイクは即座に後ろに跳び退り、炎上する船に飛び乗っていた。
彼女の手が伸ばされるのは、
それを力任せに引きずり出し、肩に担ぐように持ち上げてみせる。
「生身じゃこうはいかないだろうけどねぇ、サーヴァントならこういう使い方も出来るってわけさ!」
キャプテン・ドレイクが担いだ大砲に魔力が集う。
その僅かなチャージ時間を惜しむため、立香の手から二画目の令呪が消えていく。
一瞬で充填を完了した魔力砲を放つべく、ドレイクが船首を踏み締めた。
サーヴァントの力で強引に反動を相殺するパワープレイ。
「オ、オォオオオオオォ―――ッ!!」
一体その咆哮に乗せられた感情は何なのか。
バルバトスが封印されているにも関わらず、肉の柱である体を大きく揺すった。
サーヴァントでさえもあと1秒は縛れただろう、と言えるだけの拘束力。
それを力任せに、力尽くで粉砕する。
相手の猶予だった筈のその1秒を使い、バルバトスはドレイクの足元に視線を向けた。
魔力を高める時間はない。ドレイクを直接狙っても、撃ち合いになれば敗北するのはこちらだろう。ならば既に崩壊寸前である彼女の足場、黄金の鹿号を狙えばいい。
あの砲から光線と化した魔力が放たれれば、大きくバルバトスは大きく肉体を削られるだろう。だが撃ち始めた瞬間だけ直撃することを覚悟して足場を狙えば、砲撃は継続出来ずドレイクではバルバトスを倒し切れない。
想像より早い復帰に焦ったか、藤丸立香がその攻撃を防がせるべくマシュ・キリエライトに指示を飛ばそうとするが―――遅い。
「―――ッ!!!」
ドレイクの抱えた大砲が爆炎とともに光線を吐いた。
反動で潰されそうなほどの衝撃を受けながら、しかしドレイクは耐えてみせる。
その光線がバルバトスに突き刺さる、その直前。
「お前たちには、無理だ――――!!」
バルバトスの視線が光り、黄金の鹿号を破砕せんと迸り―――
船とバルバトスの間に巨大な本が突如現れ、その視線を遮った。
魔神の凝視が起こす魔力による破壊は本に塞き止められ、船まで届くことはない。
「――――ッ!?」
突然の光景に混乱するバルバトスの体に、ドレイクが放つ砲撃が突き刺さった。
表面の肉を、目を、蒸発させていく魔力砲の一撃。
砲撃の反動だけでも船は崩壊を始めたが、それより先にバルバトスの体が限界を迎えるだろうことは疑いようがない。蒸発していく肉体を感じながら、潰れていない目が蠢いて周囲を見回す。
その蠢動する目たちの前で巨大化させた本―――
『逢魔降臨暦』を元に戻して手の中に収め、その表紙の汚れを払うように叩く。
そうして、ウォズは魔神を見据えながら仕方なさそうに肩を竦めた。
「我が魔王から頼まれた以上は、負けてもらっては私の信用に関わるのでね」
「オ―――オォオオオォオオォォォォォ………ッ!?」
崩れ落ちていく魔神の体。それは蒸発し、金色の光となって消えていく。
砲撃に撃ち抜かれた肉の柱はその大部分を消失していた。
ドレイクの行った砲撃の反動に耐え切れず、遂に
大砲を放り捨てたドレイクが、残骸と化して魔力に還っていく船を背に着地する。
そんな彼女に対し、立香が声をかけた。
「ありがとう、ドレイク」
「―――ま、必要経費さ。とりあえずはこれで……」
一部だけ残った肉の柱と、そこに開いた幾つかの目。
黒ずんだ目は光を映しておらず、機能は停止しているように見えた。
「魔神バルバトス、撃破……でいいのでしょうか」
身構えたまま少しのあいだ様子を窺うが、魔神が再び動き出すことはなかった。
風に浚われるように残った部分も光となって消えていくバルバトス。
消失を開始した魔神の姿を見て、立香は出口へと振り返る。
「……うん。急ごう、まだ終わってないだろうから」
―――管制室は消灯し、その機能を停止する。
知るが故に嘆いた過去と未来をよく知る悪魔は霧の中に還るよう、その場で溶けて消え去った。
管制室、消灯。じゃあ俺、次は羽狩りにフォルネウス行くから…
残るはテスラとアルトリア。
ライトニング(Lightning)とロンゴミニアド(Rhongomyniad)
LとR、左と右が最後に立ちはだかる決戦です。
ビーストかな? …ビーストもいるやん!