Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
活性魔霧による捕食を免れたとして、それでニコラ・テスラの出力が落ちるわけではない。
そして今の彼の出力は、多数のサーヴァントを同時に相手取りながらなお、優勢を誇れるだけのものだった。
疾走するブケファラスの周囲に分身した手裏剣型の車輪が舞う。
テスラが放つ雷光に迎撃され消えていくのはミッドナイトシャドー。
だがそれを盾にすることで、アレキサンダーたちの疾走は敵へと届いた。
「ハァアア―――ッ!」
「ははははは!」
大地を裂くように迸る雷電の柱。
それを見極め走り抜けるブケファラスの上から、スパタによる剣閃が放たれる。
機械グローブを装着したテスラの右腕がその一撃を受けて弾かれた。
馬の疾走の後に続き、金時がマサカリを振り上げながら跳んだ。
作らせた隙に差し込まれる豪腕から繰り出される一撃。
「オォオオオオ―――ッ!」
「二度も三度も同じ攻撃を受ける私ではないぞ、Mr.ゴールデン。
何故ならばこの私、ニコラ・テスラは―――天才であるがゆえにな!!」
余裕を僅かばかりも崩すことなく、笑みを浮かべるテスラ。
溢れだす雷電が更に勢いを増して、雷光纏うマサカリの一撃に対して電撃が叩き付けられた。
金時は微かに苦悶を交えた声を漏らしつつ、しかし何とか踏み止まる。
押し返される彼のその背中にジオウの声が飛んだ。
「金時、投げて!」
「あァン!?」
金時が怒鳴るように聞き返すと同時、彼のすぐ横に車輪が一つ飛んでくる。
その声を聞いたアレキサンダーが剣に雷を纏い、金時を襲う雷撃に無理矢理割り込んだ。
庇われた金時が飛んできた車輪に目を向ければ、その輪の先に別の空間が見えた。
それを見て何をする気か理解した彼が、マサカリを全力で投擲する姿勢に入る。
「だったらこいつはどうだ、Mr.ライトニング!」
投げ放たれたマサカリが車輪―――ディメンションキャブに呑み込まれ、そこから消える。
タイヤ一つ分のワームホールの開く先は、テスラの背後。
投擲されたマサカリは回転しながらそこから出現し、そのまま彼を目掛けて殺到。
「ぬぅ……!?」
マサカリが消えた瞬間にその手の攻撃だ、と理解したか。
テスラの反応は迅速極まりなかった。
即座にアレキサンダーが受け止めている攻撃を打ち切り、周囲に注意を巡らせる。
背後から来る、とすぐさま察知した彼は横へと跳んでいた。
その直後に、マサカリは直前までテスラが立っていた場所を通り過ぎていく。
だが咄嗟の回避に体勢を崩したテスラの上に、別の車輪が飛んでいた。
金と黒、二色の車輪はその場で回転すると重力場を発生させる。
ローリングラビティの生み出す力場がテスラに膝を折らせ、腕を地面に着けさせた。
「今……っ!」
続けてライトブルーの車輪を打ち上げ、地面を這わせるように凍気を噴き出した。
ロードウィンターの放つ冷気が地面ごとテスラの四肢を凍らせ、動きを封じる。
正面から飛び込んできたマサカリを掴み取った勢いのまま、金時はその得物を振り上げた。
体を覆い始めた氷ごと彼を粉砕してみせる、という構え。
「マスター、ここで全力注ぎ込むぜ―――!!」
「ウウゥ……ッ!」
やってやれ、と言っているのか。言葉にせず、唸るような声を上げるフラン。
この状況で節電しろなどと言うはずもない。
彼女は自身の能力で、薄れた霧を取り込んで発電と魔力変換を実行し続ける。
薬莢が次々と排出され、石畳の上で甲高い金属音を響かせる。
その金属音を掻き消す轟音と共に、マサカリが雷霆を纏う刃と化す。
自身の目前に現れた雷神たる赤龍の子、坂田金時が振り上げし神鳴る一撃。
それを前に、ニコラ・テスラは破顔する。
「ハ――――ハハハハハハッ!! 正しく! その雷電の輝きこそ!
この私が地上に齎した文明の灯りに他ならず―――!」
「オォオオオオ――――ッ!!」
地面に伏せたテスラが、迫りくる金時を前に目を細めた。
「そして私が神より簒奪した権能に他ならぬ。
故に私こそがこう名乗ろう―――“
瞬間、その場から雷電が溢れた。
だが金時は止まらない。どちらにせよ、彼の体勢は最悪の状態。
雷電の壁さえもう強引に打ち抜いて決着まで漕ぎ着けられると判断したからこうしている。
時間が経てば経つほど不利になるのはこちらなのだ。
だからこそ彼は振り上げたマサカリで斬り込もうと―――
「――――下がりなさい!」
耳を叩く必死ささえも感じさせる玉藻の前の声。
しかし金時は今の体勢から止まれるはずもない。
斬り込む彼の目の前の雷の柱は周囲の光景を削り取っていく。
自身を封じる氷も。重力場を生成する車輪も。地面も。
そして玉藻の前が宝具によって形成した結界さえも。
空間すら灼き払い、次元断層を発生させる雷霆。
それが玉藻の結界を引き裂いていた。
となれば当然、その出力に任せて掃っていた活性魔霧が全て雪崩れ込んでくる。
その中で二つの雷撃が激突。
雷の化身、ニコラ・テスラから放たれる雷にマサカリが叩き付けられる。
例えその一撃で消し飛ばされようとこの刃だけは届かせてみせる―――
そうと考えながら踏み込んだ金時が―――即座に霧に霊核を喰われ、膝を落としていた。
「ぐっ、あ……ッ!?」
「―――致し方なし。我が宝具の真名を開帳せねば倒せぬほどに輝かしきゴールデン。
だが私の全力の雷が解放されれば、そちらに魔霧を押し留める手段はない。
純粋な力比べで捻じ伏せられぬことは残念に思うが……だがそれは、宝具を解放せねば私が負けていたが故と断言しよう。雷神の子よ、私が人に齎した文明の雷に敗れ去ること。人の世を切り拓いた英雄として、誇りに思いながら呑まれるがいい」
自分が攻撃を放つことにさえ耐え切れていない状態の金時に向かう雷撃。
その威力が更に増し、体勢を崩す彼を呑み込まんと殺到し―――
〈フィニッシュタイム!〉
その雷撃を一時停止させ、方向を曲げて逸らす標識がそこに浮かび上がっていた。
マッハウォッチによるエネルギーで放った銃撃。
それがテスラの雷霆を逸らすが、絶え間なく吐き出され続ける攻撃は標識の与える影響では止めきれない。
一瞬だけ途切れた雷。その隙に金時の前へと踏み出したジオウがその場でマッハウォッチを放り、ビーストウォッチをジュウモードのジカンギレードに装填。同時にドライバーへと手を伸ばした。
〈フィニッシュタイム!〉
〈ヒッサツ! タイムブレーク!!〉
ドライバーの操作を完了し、ジカンギレードにエネルギーを集約する。
莫大な負荷に軋むジカンギレードを握り締め、ジオウはトリガーを引いた。
その銃口から放たれるのは黄金の野獣と真紅のマシン。
二つの巨大なエネルギーの塊が、同時に雷の氾濫に向けて放出される。
「無駄だ!」
停止も方向転換も力尽くで突破し、全ての雷撃が再び迫る。
次元を灼き切るほどの神秘的熱量。
そこに牙を立てたキマイラが破裂し、雷光の壁に激突したトライドロンは拉げて折れた。
「ぐっ……!?」
雷撃はそのまま突き進みジオウへと直撃する。
ジカンギレードを放り出し両腕を交差させ、防御のために整える姿勢。
そんな小細工など関係ないとばかりに、ジオウとその背後にいる金時が雷の津波に呑み込まれた。
「マスター!」
活性魔霧に耐えられないだろうブケファラスを送還したアレキサンダー。
その雷がまたも割り込もうとするが、まるで攻撃は通らない。
出力を最大にした彼を中心に広がる魔霧は、最早近づかなくても雷神の神性の上からさえ魔力を貪り尽くそうと牙を剥く。
「ゥウ……!」
周囲の環境を魔力に変えるフランもまた、吐き出し切れない余剰魔力に呻き声を上げて膝を落とした。
気密の操作ではどうにもならない次元に至り、玉藻が苦渋の表情でフランの前に立つ。
「ははは、これ以上抵抗しないと言うのであればレディたちには手は出さないとも。
しかし―――無論、雷神の系譜を逃がす気はないがね」
「それは良かった。こちらだって、ここで退くなんてないよ―――!」
テスラの纏う雷霆に比べれば、まるで何も無いのと同じだ。
それでもアレキサンダーは大神の雷をその身に纏い、刃を取って前を向いてみせた。
まだ主従の繋がりは生きている。なら、ここから逆転を信じればいい。
何故ならばそれこそが――――
黒馬ラムレイの機動力の上に更に風王結界を纏った疾風の如き動き。
ラムレイの蹄は地面ばかりか風を踏み締め、モードレッドを攻め立てる。
大嵐そのものとさえ言えるロンゴミニアド。
繰り出される槍の連撃は赤雷を引き剥がしながら、彼女の鎧に次々と傷を刻んでいく。
クラレントの刃が槍を弾けば、風を足場にしたラムレイの脚が鉄槌の如く彼女を殴打する。
「っ……くぁッ……!」
大きく弾かれたモードレッドが石畳を踵で削り取りながら地面を滑った。
地に突き立てたクラレントでブレーキをかけ、その勢いを何とか殺す。
兜の中で呼吸を荒くしながら、彼女は馬上にある漆黒の鎧を見上げてみせる。
その竜の兜の中から僅かに覗く金色の瞳にはまるで変化はない。
ただただ淡々と、彼女は街にとって悪と判断した敵を屠るために活動していた。
「今更だぜ……! このオレが、アンタの国を焼いたオレがこの街にとっての悪なんてなぁ!!」
赤雷を迸らせ、地面から引き抜いたクラレントを手に疾走する。
アーサー王が周囲に展開する風の守りを雷で切り裂き、一気に距離を詰め切った。
刺突の構えで突撃してくる彼女を、大上段から振り下ろされる聖槍が迎撃。
それに反応して斬り上げたクラレントの刃が、ロンゴミニアドと激突した。
「ああ、そうさ……!
オレがこの街のために剣を執ったのは、気に食わなかったからだ……! オレ以外がアンタの国を踏み躙るのがな! それは叛逆の騎士であるオレの専売特許だ!」
その体勢から剣を操り、上から叩き付けられた槍を地面へと受け流す。
長大な聖槍の穂先が地面を粉砕する間にモードレッドが跳ぶ。
だが彼女が跳んだ瞬間にラムレイがその首を振るっていた。
鎧の上から馬の頭が直撃し、押し返されるモードレッド。
「ちぃッ……!」
「―――――聖槍、抜錨」
瞬間、着地して地面を滑っていたモードレッドが唖然と目を見開いた。
槍を引き戻して構え直したアーサー王の手の槍に嵐が渦巻いている。
それは街一つを蹂躙してなお余るだろう破壊の力。
彼女が降りてきたのはバッキンガム宮殿の直近だが、あの槍の攻撃範囲では当然ロンドン市街まで突き抜ける。それは無論、モードレッドの手にする剣もまた同じだが。
「どういうつもりだ、アーサー王……!?」
「―――救うべきものを救うべく王となったものにとって。
目の前にしたものを救うため立ち上がるというのは、
彼女はそこまで口にして言葉を止めた。
槍はまるでドリルのように各部が回転を始め、周囲の嵐を巻き込んでいく。
嵐を圧縮したものを槍に番え、アーサー王は体の横へと槍を地面と水平に構えた。
「義務であるが故、特別な理由など要らぬ」
それを前にして兜の下で歯を食い縛るモードレッド。
その兜が展開し、彼女の素顔を霧の中に晒させる。
「……オレに王は務まらない、って話か? ……今更そんな話、聞くまでもねぇ!!」
素顔を晒すと同時に吼え、“
それを前に何も言い返す事はなく、王は嵐を纏う槍を突き出した。
「――――“
槍が圧縮した暴風を吐き出す。
ただでさえ破壊の渦だった嵐は黒い光の槍に押し出され、光線染みた一撃に変わっていた。
モードレッドはそれに対抗するべく赤い剣を振り上げている。
魔力を与えられ展開し、血色の刀身を形成した“
それを振り下ろすと同時に叫ぶ、その一撃の銘。
「――――“
赤雷とともに血色の魔力光が迸った。
それは迫りくる暴風と激突して、千切れ飛びながら四散し始める。
飛散する真紅の光がまるで血飛沫ように周囲に散っていく。
その光景にモードレッドの表情が歪む。
押し込まれていくのは当然のようにモードレッドの側だ。
拮抗などと言えるほどの規模の衝突もなく、暴風の槍は血色の剣を貫き通した。
「ぐ、ぅ……なっ……!?」
クラレントの光を突き破ってきた一撃。
それを前にしていたはずのモードレッドは突然、足場が割れて地中に落とされた。
地中で頭上から押し寄せる衝撃波を浴びながら、これをやっただろうエルメロイ二世がいるだろう方向を睨み付ける。
「あの、魔術師野郎……ッ!!」
槍が放った黒い光を伴う暴風が宮殿外へと出る前に。
その軌道上にまた暴風の壁が吹き荒れ、ロンゴミニアドの威風が進む軌道を押し上げた。
街ではなくそのまま上空へと、霧を削り落としながら過ぎ去っていく聖槍の一撃。
槍の穂先を下げたアーサー王が、地面から出てくるモードレッドを睥睨する。
「王であるならばそれは義務であり、騎士であるならば民を守る為に駆け回るのは職務だろう。
―――王でなく、騎士ですらなく。では貴公は何故この街を駆ける」
「……ハッ、オレは騎士ですらねぇってか……!」
クラレントを杖替わりに立ち上がるモードレッド。
そんな彼女の手の中の剣に視線を送るアーサー王はしかし、それには答えず口を噤んだまま、槍を再び振り上げていた。
再びその一撃をモードレッドに対し放つため、ロンゴミニアドが嵐を巻き込み取り込んでいく。
嵐を伴う黒い閃光が空に翔ける。
霧の空さえ引き裂いて地上から空に向かって落ちる、黒く輝く一条の流れ星。
それを感じ見上げていたテスラが感嘆の溜め息を漏らす。
「ほう……あれこそは黒く染まってはいるが、この星の輝きか。私が受け入れぬ神秘の領域の存在だが、しかしこうまで美しいと言うならば讃えるより他にない。
恐らくはこの私を止める為に遣わされたサーヴァントのものと見た」
玉藻もそれを見て顔を顰める。
あれが放たれているということは、モードレッドは絶望的かもしれない。
もっとも、今彼女の増援があったところでこの人類神話を止められるかと言うと怪しいが。
―――そして、雷撃に呑まれ吹き飛ばされ地面に這いつくばる二人。
彼らも巻き上げられた砂塵と黒煙の中、その空に落ちる流れ星を見ていた。
「モードレッド、だな……」
サングラスごしにも届く黒い光を見上げながら、それがあちらの決戦なのだと金時が口にする。
ドライブアーマーは機能を停止し、ジオウ本体も既に限界寸前だ。
先のフォーゼアーマーで受けたダメージも、ダブルアーマーで発揮したパワーも、全て受け止めるのは本体であるジオウであったが故に。
だがだからと言って止まってはいられない。ウィザードウォッチを握ったジオウが、何とか身を起こそうともがき出す。
「あっちも、ピンチなんだとは思うけど……!」
ウィザードアーマーが停止するほど追い込まれれば、更にモードレッドたちに供給する魔力すらも足りなくなる可能性が高い。だがもう、戦闘に耐えるアーマーに出来るウォッチは、これしか残っていなかった。
「―――よぉ、ソウゴ。ちぃとばっかし、相談に乗っちゃくれねぇか」
「え?」
満身創痍。いや、金時に至っては霊基が霧に喰われ、完全に致命傷だ。
そんな状態ながら笑みを浮かべる彼から声をかけられて、ソウゴは小さく首を傾げる。
―――そう言う金時の手の中には、彼が先の攻防でしまっている時間も惜しいとばかりに放り投げたマッハのウォッチが握られていた。
アレキサンダーに差し向ける雷撃を充電しながら、空を見上げるテスラ。
少年王の放つ雷撃は相手に届くこともなく、そのエネルギー量の差にただただ無為に灼け落ちていく。ただ立っているだけでも削り落とされていく魔力に顔を歪めながら、それでも彼は攻撃を続行する。
「さて、私には次の相手が待っているようだ。そちらに向かう必要もある……
そろそろ決着と行こうでは……」
その彼の最後の抵抗を全力で捻じ伏せるため、テスラは右腕を天へと掲げてみせる。
瞬間。雷撃で吹き飛ばした金時が、黒煙を突き破りながら現れていた。
未だに赤熱するマサカリを片手にテスラに向かって疾走する巨躯。
それを前にして、テスラが眉を顰める。
「なに……?」
「マスター! 回せるだけの魔力、全部オレっちに回しな!
こいつが正真正銘、最後の“
反射的にフランが有り余る魔力を金時に回す。
既にカートリッジは撃ち尽くし、直接魔力と雷を喰わせて起動するしかない。
カートリッジを全て使い込んだ先程の一撃に届かない。
が、それでも。振り上げた刃に限界まで高めた雷電を纏い、彼はアレキサンダーに向き直っていたテスラを強襲した。
即座に人類の神話たる雷霆が金時の方へと差し向けられた。
テスラの至近まで迫ることも出来ず、途中で迎撃される金時が最後と称したマサカリの一撃。
「既に霊基は半壊しているはず。何故未だに動き、宝具まで使えるのか。興味深いところではあるが、しかしだからこそ手加減して生かすような真似はすまい。
“
雷霆の波に押し戻され、そして呑み込まれて流される金時の姿。
その雷光の中にいて、金時は小さく口元を吊り上げて笑った。
最後に雷の海の中で思い切り叩き付けられた“
その中から
「変身、だぜ……!!」
「なんだと―――?」
マサカリが割ったテスラの雷の中から姿を見せたのは、今までと明らかに服装が違う金時の姿。
黒いジャケット姿に変わった彼はそのままバイクを全力で走らせていた。
それが今の彼の宝具であるということに疑いはない。
一瞬呆けたテスラがしかし、すぐさま雷を送り込む。
“
一方、霊基の変換を成し遂げた金時がその状態で冷や汗を流す。スピード、というより助走距離が足りない。彼の宝具は疾走した距離に応じて電力が上がるゴールデンベアー号。
今正面からテスラの雷撃と正面からぶつかれば―――
「だからっつって退けねぇよなぁ! 南無八幡―――ッ!!」
そう叫んだ加速中の彼の背中に、何かが跳んできて捕まった感触。
振り向く暇もないが、恐らくそれは―――
「マスター!? 何やってやがる、危ねぇぞ!!」
「ゥウ……!」
バイクの後ろに飛び乗ったフランは片手で金時にしがみ付きながら、もう片手には彼女の心臓たる動力炉を抱えている。
唸り声でしかない彼女の意思表示を確かに受け取り、頬を引き攣らせる金時。
だが彼はすぐに腹をくくり、バイクの加速を全開にした。
「………っ! ああ……なら、相乗りしてもらうぜマスター!!」
「ウゥ―――ッ!」
雷の津波に正面から駆け込んでいく二人を乗せたバイク。
その後ろで自身の心臓を掲げ、フランは咽喉の奥から声を絞り出していた。
「“
己の肉体、そして心臓を最大限に稼働させてテスラの雷霆を吸収する。
だが如何に彼女が優れた人造人間であっても、これほどの雷を受け止めればすぐさま限界だ。
それでも吸収した力を即座に金時に流し、なおも吸収を続ける。
「ウ、グゥ………ッ! ナァアアアアア――――アオゥ!!!」
マスターから回され続ける魔力を全てベアー号に。
テスラの攻撃すらも動力に変え、彼らは雷を纏いながら走り抜ける。
「チャージアップだ、オラァッ!!!」
ゴールデンベアー号の能力の限界を超えた魔力処理。
それは悲鳴が如きエグゾーストノイズを撒き散らしながら、黄金の龍を思わせる雷霆と化す。
テスラの雷霆へと正面切って激突し、それを喰い破りながら彼へ向かって殺到する。
「ベアハウリング……! “
「ぬッ、おぉおおおッ―――!?」
初めて、テスラの表情が意表をつかれたかのような驚愕に染まる。
彼は右腕を前に出し全電力でもって黄金の龍を塞き止めた。
この期に及んでなお、魔霧が龍の体を削り落としていく。
だが周囲の霧を逆に喰らうフランによって魔力はまた金時に還り、削られた部分の補修のために消費される。
「魔霧さえも取り込むレディはまだしも、最活性状態の魔霧の中で戦えるかMr.ゴールデン!
―――いや、そうか。あの人類に残されたマスター……! 彼のデバイスを砕けた霊基に融合させたか! その影響でクラスが変わるほどに霊基が変化を……
なるほど、純粋な霊体でなくなれば魔霧では喰らうことはできまい!!」
「ご明察だ、Mr.ライトニング……! あんな状況で大人しく死んでられないんでよォッ!!」
テスラの雷撃に牙を剥く雷の龍と化したモンスターバイク。
それを受け止めながらテスラの表情は愉快そうに笑みを浮かべた。
「では決着をつけようか! 神の雷と! 人の雷! この世界に轟くのはどちらか―――」
「生憎だが、んなもんどっちでもいい。オレを今動かしてんのは神鳴りでも何でもねぇ。
オレの背を押す……子供の声援って奴だ―――ッ!!!」
必死にしがみ付く少女の腕を感じながら、金時が吼えた。
その声に応えるべくゴールデンベアー号が幾度超えたかも定かではない限界をまた超える。
雷の龍がその牙でテスラの雷を喰い破るべく更に苛烈に攻め立てた。
それを前に目を見開いたテスラが、その場で泰然と構え直す。
「―――そうか、では決着だ。勝者は常に……神話を踏み越えた、人の英雄であるべきだ。
故に、人類神話を踏み越えた……!」
雷電の渦を龍が粉砕した。
そのまま龍の顎となるバイクの疾走がテスラを捉える。
雷神の雷、少女の雷、その少女が取り込んだ人類神話の雷。
全てがない交ぜになった雷の龍が、星の開拓者を呑み込んだ。
「君たちが勝者だ――――人の英雄!!!」
雷光を引きずりながら疾走するベアー号。
それに打ち砕かれしかし、テスラは勝者を讃えながら消滅していった。
限界なぞ超え尽くして最早何が限界なのか分からないようなベアー号が動きを止める。
その黒煙を噴き上げる車体を撫でながら、決着を感じた金時は呟いた。
「―――
「……宝具の真名、後で言うんです? というかそれが真名でいいんです?」
そんな金太郎の破天荒さに呆れるように、玉藻は気が抜けたように大きく溜め息を吐いた。
ぐったりとするフランを受け止めながら彼女はテスラが消えた場所に目を向ける
―――超級の魔力炉心である聖杯だけが、その場には残されていた。
後で言うんだ…