Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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2-3 嚇怒の炎1838

 

 

 

「おお、おぉおおッ! ジャンヌ!

 主よ、尊き我らが聖女すらもこの舞台に上げるか! 何たる非道! 何たる悪逆!

 赦されぬ! けして赦されぬ! 例え神が赦そうとも、この私が赦さぬ!!」

 

 絶叫を上げながら瓦礫から再び現れたジルはアヴェンジャーを睨む。

 地面となった瓦礫を崩しつつ、その中から無数の海魔が溢れだしてくる。

 ヒトデを幾重にも重ねたかのような蠢く怪物たちを前に、しかし彼は凶悪な笑みを浮かべた。

 

「―――赦さぬ、だと? 赦しを乞うのはオレではない……! 貴様たちだ!

 復讐者たる我の前に立つ滅ぼされる者たちこそが、頭を垂れて赦しを乞う!!

 『俺が悪かった』、『命だけは』、『助けてくれ』、と!

 それらを踏み躙り、断末魔を哄笑で塗り潰し、全てを奪い尽くす悪鬼! それこそが我!」

 

 黒い炎が放たれる。それは容易に海魔たちを焼き切り、瓦礫の山ごと粉砕する。

 無数に湧き続ける怪物はしかし、湧くより速く焼き殺されていく。

 

 戦場と化した新たな広間の中、立香とメルセデスが巻き込まれないように後退る。

 

「アヴェンジャー! ジャンヌは……!」

 

 立香が張り上げる声は、聖女を焼き尽くそうとする彼の攻撃を止めようとするもの。

 だが彼はそれを鼻で笑い、むしろその黒炎を更に滾らせた。

 

「その女がなんであれ、此処においては裁きの間の支配者に他ならない!

 おまえがこの監獄搭を脱したいと言うのなら、奴を殺す以外に道はないと知れ!」

 

 海魔を焼き払いながら、アヴェンジャーがジャンヌに向け疾駆する。

 そのまま彼が放つ黒炎を纏う拳は、聖女の振るう白い旗と激突した。

 

「―――ええ。あなたの言う通りです、アヴェンジャー。

 この場において私は、どうあれマスターの旅路を阻むためのもの。

 ならば、マスターのために討ち取られることに否やはありません」

 

「だと言うなら! 貴様には裁きの間の番人たる資格もない!

 早々に死ぬがいい―――女ァッ!!」

 

 足場となる瓦礫が焼け落ちて、次々と崩れていく。

 そんな中で強引に旗を振り抜いてアヴェンジャーを押し返すジャンヌ。

 力任せに押し返された彼がしかし、瓦礫を踏み砕きながら耐え抜いた。

 即座に再度の踏み込み。

 

「私の中に憤怒はない。どちらにせよ、私にそんなものは務まらない。

 ―――そして、だからこそ私はあなたの前に立ちはだかりましょう、アヴェンジャー。

 憤怒などではなく、あなたに救いと赦しをもたらすために」

 

 再びの激突で撒き散らされる黒い炎。

 それに照らされたアヴェンジャーの金色の瞳が煌々と憎悪に輝く。

 

「ハ、ハハハハハ――――! 人間を信じ、主を信じ、全てに裏切られ炎に消えた聖女!

 おまえはオレを赦す、と。救うなどとほざくか―――!

 ―――だがオレは赦さない。誰がオレを赦そうと、オレは全てを赦さない!!

 それが復讐者であると、その身に刻んで滅ぶがいい―――ッ!!」

 

 そこから更にアヴェンジャーが踏み込み、ジャンヌに向かって拳を振るう。

 旗を繰り、両腕による拳打の嵐を受け流す彼女。

 が、その一気呵成の連撃全ては受け流しきれない。

 

 ―――彼女は手甲で無理矢理受け止めながら、旗を振り抜きアヴェンジャーを押し返す。

 彼は押し返されるがままに後ろに跳び、しかしすぐさま踏込み殺到する。

 二人が衝突した直後、その衝撃で周囲の瓦礫と海魔だったものが舞い上がった。

 ぐちゃぐちゃと地面に落ちてくる無数の物体。

 

 それらを避けるためにメルセデスが立香の腕を引き、走り出した。

 

「何してるの! ぼうっとしない!」

 

「―――そっか。だからアヴェンジャーは……」

 

 メルセデスに怒鳴られながらも、立香はジャンヌと無数に交錯する黒い影を見上げる。

 彼女を引っ張りながらも、訝しげにそんな彼女の様子を眺めるメルセデス。

 そのように彼女たちが黒と白の戦いから距離を置いている状況で。

 

「こぉの匹夫めがァアアアアアアッ――――!!!」

 

 ジル・ド・レェの絶叫とともに、残る海魔たちが黒衣を目掛け雪崩れ込む。

 その勢い余って崩れる足場に巻き込まれ、海魔が幾つか立香たちの方に転がり落ちてきた。

 それらは近くの獲物と認識したのか、彼女たちを目掛けて動き始める。

 はっとした立香がすぐさまファイズフォンXを構え、射撃を開始した。

 

 直撃した赤い光が弾け、ヒトデのような体が一部千切れ飛ぶ。

 通用はする。だがこの流れ込んでくる量では、あまりにも処理能力を超えていた。

 

「相手が多すぎる……!」

 

 処理しきれない、ということは通路には逃げ込めない。

 弾幕を張って寄せ付けないようにできるならともかく、この状況でそちらに逃げ込めばそのまま物量に押し流される結果しか見えない。

 部屋の中で走れそうなところを走り彷徨いつつ、射撃を続ける。

 このままではいずれ追い込まれることになるだろう。

 

 それを理解してメルセデスが足を止める。

 彼女に引っ張られていた立香が蹈鞴を踏んで、驚いたような表情を浮かべた。

 そんな彼女の手から、ファイズフォンが取り上げられる。

 

「メルセデス……!?」

 

「そのまま逃げてて! 今度は私が助ける番―――あっちは私が引き付ける!」

 

 そう言って、彼女は銃撃しながら蠢く海魔たちの中へと駆け込んでいく。

 大口を開いて溶解液を噴き出す海魔たち。

 それらを回避しながら、メルセデスがその場で大立ち回りを開始した。

 

「待っ……! っ――――! ッ、アヴェンジャー!!」

 

 ジャンヌの旗と拳を交差させていた黒い炎が鼻を鳴らす。

 

「そら、貴様のマスターから貴様を早々に殺せとの催促だ!」

 

「―――既に私がすべきことは果たしました。

 あなたにどうかマスターからの救いが与えられますよう……

 アヴェンジャー、エドモ―――」

 

 その瞬間。彼の表情が更に凶悪に歪み、黒い炎が更に燃え盛った。

 

「黙れ、黙れ黙れ黙れェッ!! 貴様はどこまでも―――!

 我が恩讐に救いなど要らぬ! 我が怨念は赦しを与えぬ――――!!

 オレは巌窟王(モンテ・クリスト)! 人類史に刻まれし復讐の悪鬼が陰影、永劫たる呪い!

 憤怒が無いというのなら今すぐにここで燃え尽きろ、ジャンヌ・ダルク!!」

 

 組み合っていたジャンヌから炎の塊となったアヴェンジャーが離れる。

 その動きは今までの比ではなく、尋常ならざる速度で奔る炎の流星と化していた。

 

「“虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!!」

 

 炎が奔り、周囲に散らばった海魔たちをついでにように焼き払う。

 分身して見えるほどの高速で彼が移動するごとに、辺りの瓦礫と怪物が焼け落ちていく。

 それらが自分に向かってくるのを見据え、ジャンヌは表情を変えもせず待ち受けた。

 

 ―――炸裂する黒い炎の渦。

 黒い火柱がジャンヌ・ダルクを包み込み、抜けた天井まで届くほどに立ち昇った。

 その光景を見て、それを受けたジャンヌが無事だと思うものはいないだろう。

 

 だからこそ、彼は溶けた瓦礫の上で膝を落とした。

 

「おお……! おぉ……!? ジャンヌ、ジャンヌ―――!

 何故私はここに……私は、もし次があるならばと……?

 もし、もし、再びあなたが十字架にかけられるようなことがあれば何としてもと……」

 

 自分が何をしているか分からない、と言うように。

 ジルは呆けてその黒い炎を眺めている。

 いや、炎ではなく―――()()()()()()()()()()()()

 そんな彼の背後に音もなく、黒い炎そのものと化したアヴェンジャーが現れた。

 

「怠惰の象徴、ジル・ド・レェ。

 主への信仰も、国に捧げた使命も、聖女を仰いだ精神も、全てを亡くした男。

 貴様の怠慢こそが、今再び貴様の目の前で聖女が火刑に処されることを見過ごした。

 その哀れな末期にオレが介錯をくれてやる。せめて聖女と同じ炎で燃え尽きろ」

 

 言い放ち、ジルの背中を殴り飛ばすアヴェンジャー。

 茫然自失のまま彼は黒い火柱に呑み込まれ、そのままあっさりと燃え尽きた。

 契約者を失った海魔たちが送還され、消えていく。

 

 次々と海魔が消えていく中で、アヴェンジャーがマスターたちに視線を送る。

 メルセデスは大事なく海魔の軍団を捌いてみせていたようだ。

 時間がかかればどうなるか分からなかっただろうが。

 

 少々手間が狂ったが、三つ目四つ目の裁きの間は終わった。残る裁きの間は三つ。

 そう思い耽りながら瓦礫の上に立つ彼が、ふと立香に視線を送る。

 

 ―――彼女は、アヴェンジャーのことを見据えていた。

 今までよりも確かに、彼がどんなモノなのかが分かったのだとでも言うように。

 

 

 

 

「うぉおらぁあああッ!!」

 

 ジカンギレードと大橙丸が衝突して火花を散らした。

 互いに一振りが弾け合ったところでもう一振りの刃を振り上げ、刃を交わす。

 ジカンギレードと無双セイバーが打ち合い、鍔迫り合いの姿勢に入る。

 

 直後。鎧武の手が大橙丸を捨て、無双セイバーの鍔にかけられていた。

 引き絞られるバレットスライド。その行為により銃撃のためのエネルギーが充填される。

 即座に柄にある引き金―――ブライトリガーが引かれ、銃としての機能を併せ持つ無双セイバーの鍔、ムソウマズルから連続して弾丸が吐き出された。

 

 宝石のアーマーにそれらが直撃し、ウィザードアーマーが大きく後退る。

 

「そっちが銃なら……!」

 

 ジオウが剣を片方鎧武に向かって投げつける。それは無双セイバーによって簡単に弾かれるが、その隙にもう片方のギレードがジュウモードに変形させられていた。

 連続して銃撃を放ちつつ、同時にコネクトで一度投げた剣を呼び戻す。二丁の銃による一斉射が鎧武へと着弾し、盛大に火花を撒き散らした。

 

「……だったらこっちはこうだ!」

 

 銃撃の嵐に押し込まれ、蹈鞴を踏みながら鎧武がドライバーの操作部―――

 カッティングブレードに手をかけて、オレンジを更に三度切るように動かした。

 

〈ソイヤッ! オレンジスパーキング!〉

 

 オレンジロックシード内のエネルギーが最大限発揮される。

 鎧武が被っていたオレンジの鎧が変形し、再び巨大な果物形態に戻った。

 巨大オレンジを頭に乗せている状態になる鎧武の上で、そのまま高速スピンを始めるオレンジアームズ。

 

「おらぁッ!!」

 

 その状態で彼は、まるで頭突きをするように全身を使って頭を振るった。

 結果、回転しているオレンジがまるで砲弾のように、鎧武の頭部から分離してジオウを目掛けて飛んでくる。

 

「ミカンが飛んだ!?」

 

 回転しながら突っ込んでくるオレンジアームズは、銃撃を容易に弾き返しながら迫りくる。

 撃墜が難しいと判断して身を翻し、一時銃撃を打ち切り横へと回避に移った。

 砲弾となったオレンジが、回避したジオウの横をそのまま通り過ぎて行く。

 

 きっちり避け、そしてオレンジアームズを失い戦力を落とした鎧武に再度の攻撃を開始しようとしたジオウの前で―――

 

〈イチゴ!〉

 

 鎧武が腰のホルダーから新たな錠前、イチゴロックシードを取り出していた。

 慣れた手つきで戦極ドライバーに装填されたオレンジとイチゴを入れ替えると、先程のように固定してそのイチゴに刃を入れる。

 

〈ロックオン! ソイヤッ!〉

 

 彼の頭上に形成されたのは赤い果物。巨大なイチゴだった。

 それは即座に空から降りてきて、鎧武の頭に被さり変形して鎧となる。

 

〈イチゴアームズ! シュシュッとスパーク!〉

 

「ミカンの次はイチゴになった……!」

 

「ミカンじゃねぇ、オレンジだ!」

 

 ソウゴの呟きにそう言い返しながら、赤い鎧武が無双セイバーを腰のホルダーに収める。

 直後、空いたその両手にイチゴが描かれたクナイが出現した。

 短刀二本で新たに構え直す鎧武。

 

 ―――そんな彼を見ながら、首を傾げつつ再びソウゴが一言。

 

「それって何が違うの?」

 

「えっ……いやほら、大きさとか……? 品種、とか………?」

 

 揃って首を傾げ、一秒、二秒。

 三秒立ったところで鎧武が仕切り直すように叫んだ。

 

「えーっと―――よ、よっしゃあ行くぜぇッ!!」

 

 気を取り直し、イチゴクナイが彼の手から乱舞する。

 乱雑に投げているように見えながら、相当な精度でもってそれはジオウに飛来した。

 ジオウは腕を前に突き出し赤い魔法陣を正面に浮かべ、炎の盾を呼び起こす。

 

 無数の苦無は盾に飛び込み、着弾すると同時に爆発する。

 投げた傍から鎧武の手の中に新たに出現する無限の飛び道具。

 止まる事なく投擲され続けるそれは、炎の盾を吹き散らしてジオウへと着弾した。

 

「ぐっ……!」

 

 爆炎に包まれたジオウが弾き飛ばされ、地面に転がる。

 その隙に鎧武の手がドライバーに装填されていたイチゴを外し、更に腰に納めていた無双セイバーを引き抜いた。

 

 イチゴロックシードの行先は無双セイバーにあるロックシード装填口だ。

 そこへと嵌め込み、鎧武は錠前をロックする。

 

〈ロックオン! イチ! ジュウ! ヒャク!〉

 

「はぁああ……セイハァ―――ッ!!」

 

〈イチゴチャージ!〉

 

 天を目掛けて剣を振り上げる鎧武。それにより無双セイバーに充填されたエネルギーが赤い光となり放たれて、空中に巨大なイチゴ型エネルギー体を作り出した。

 そのエネルギーは空高く舞い上がり静止すると破裂して、数え切れないほどのイチゴクナイを撒き散らした。空中より雨の如く降り注ぐイチゴクナイ。

 

 触れれば爆発する凶器の雨。天上から襲い来るそれに対し、ジオウは緑の風を渦巻かせた。

 降り注ぐ赤い雨を雷電を伴う緑の風で吹き散らす。雨が狙いを逸れ、周囲に撒き散らされる。

 周囲に落ちたイチゴクナイは爆発し、炎を撒き散らす。

 その炎に炙られながらも、その直撃は完全に避けてみせたジオウ。

 

〈ストライク! タイムブレーク!!〉

 

「はぁああ―――ッ!!」

 

 そのままジオウはジクウドライバーを操作して、ウィザードウォッチの力を解放する。

 白い地面に手を置くと、そこを走り抜けていく氷の柱。

 それがイチゴの起こす爆炎の中を駆け、鎧武の足元まで伸びていった。

 

「うぉっ!」

 

 足元が凍り付いた鎧武が足を滑らせ、一瞬ふらつく。

 すぐさまジオウは復帰して立ち上がり、ジュウモードのギレードを構え直した。

 開始される放火。それの直撃を受けた鎧武が、足場の悪さもあってひっくり返る。

 

 ―――絶え間ない銃撃に曝され火花を噴きながら、彼の手は腰のホルダーへ伸ばされた。

 

「なら次はこいつだ―――!」

 

〈パイン!〉

〈ロックオン! ソイヤッ!〉

 

 外していたイチゴの代わり、鎧武が新たなロックシードをドライバーに装填する。

 ロックシードがカットされると同時、彼の頭上に生成されていく巨大なパイン。

 それは空から落ちてきて、凍り付いた地面に叩き付けられた。

 そのまま何度かバウンドを繰り返し、地面に張った氷を力尽くで片っ端から砕いていく。

 

 ―――呼び出されてから一仕事を終えたそのすぐ後、パインアームズはイチゴアームズと入れ替わるように鎧武の頭部を包み込む。

 

〈パインアームズ! 粉砕デストロイ!〉

 

 金色の輝く装甲、新たな鎧を纏い直した鎧武が銃撃を受けながらも立ち上がる。

 

「うぉらぁあああ―――ッ!!」

 

 アームズを変更した彼の手にはパイン型の鉄球、パインアイアンが出現していた。

 鎖で持ち手と繋がっているそれを鎧武はすぐさま自分の目の前で豪快に回転させ始める。

 回転する鉄球と鎖が盾となり、ジオウの銃撃を弾き返す。

 

 そのままの勢いで投げ込まれるパインアイアン。

 ジオウが足元に黄色の魔法陣を展開し、そこから土の壁を生やしてそれを防ごうとして―――

 盛大に破砕音を轟かせ、鉄球の一撃で土壁が吹き飛んだ。

 

「――――!」

 

 だが土壁の向こうにいるはずだったジオウの姿はそこに無く、鎧武が仮面の下で息を呑む。

 直後に、そんな彼の頭上から降り注ぐライドウォッチの音。

 

〈サイクロン! ジョーカー! ダブル!〉

〈フィニッシュタイム! ダブル!〉

 

 回転を繰り返すジクウドライバーが放つ必殺の宣言。

 その声を追った鎧武が頭上に見るのは、緑と黒のアーマーを纏ったジオウの姿。

 風を纏い宙に浮く相手。

 それを見た鎧武は即座にパインアイアンの持ち手を振り上げ、鉄球の軌道を上へと跳ね上げた。

 

〈マキシマム! タイムブレーク!!〉

 

 下から迫るパイン型の鉄球。

 そんな状況下で二色のアーマーがジオウから分離し、人型に変形する。

 サイクロンメモリドロイドとジョーカーメモリドロイド。

 

 空中でジオウがジカンギレードを手にパインアイアンを受け止める。

 その瞬間に二つのメモリドロイドは鎧武に向かって殺到した。

 

「おぉ!?」

 

 まるで先にオレンジを飛ばした鎧武に対抗するように、鎧だけを飛ばしてくるという逆撃。

 迫りくるサイクロンメモリドロイドの色が変じ、赤く染まっていく。

 火の記憶を宿した両メモリドロイドの手には炎が燃え盛り、拳を振り上げていた。

 

 咄嗟に無双セイバーを振り上げて赤い方の拳を受け止める。

 が、しかし。パインアイアンと無双セイバーを抑えられては、続けてくる黒い方が振り被る炎の拳を防ぐことができるはずもなく。

 

 ―――燃える拳(ジョーカーグレネイド)がパインの鎧に突き刺さり、その熱量を解放した。

 爆炎とともに吹き飛ばされ、地面を転がる鎧武。

 

 地面に降りたジオウが二つに分かれた鎧を消し、新たなウォッチを構える。

 

「一気に決める!」

 

〈ドライブ!〉

 

 ウォッチを起動しドライバーに装填。即座に回転させ、レジェンドアーマーを形成。

 現れる真紅のボディが自分に合体していくのを感じながら、ジオウは鎧武に向け走り出した。

 

〈アーマータイム! ドライブ!〉

 

 速攻。起き上がるのを待たず、ドライブアーマーが鎧武へと肉薄する。

 立ち上がろうとしていた鎧武を阻むようにジカンギレードの剣尖が閃く。

 すれ違いざまの斬撃が直撃して、再び彼は地を転がった。

 

「ドライブの力か……!」

 

 ()()を思い起こしながら、視界を高速で過ぎていく真紅のボディを見る鎧武。

 その間にも地面を滑るように走行し、何度となく突撃してくるジオウ。

 それを受けながら鎧武は、疾走する相手へと強引にパインアイアンを投げ込んだ。

 

 ―――飛来する果実を急速ターンを決めて回避しながら、ジオウは再び鎧武に迫る。

 だがそこで生まれた一瞬の間隙に鎧武は身を翻し、横へと跳んでいた。

 横っ飛びに避けた鎧武に対し振るわれるジカンギレード。それは切っ先だけが掠めていく。

 その切っ先を受けた鎧武の一部が、カラカラと乾いた音を立てて地面に転がる。

 

「―――なんか外れた……?」

 

 今の攻撃が掠めたのはベルトであった。そこから何かが外れたように見える。

 ドライバーから何かが外れたのであれば、そのまま変身解除する可能性もあるだろう。

 すぐさま急ブレーキをかけて反転し、鎧武へと視線を送り―――

 

 彼の手がロックシードとは別のものを持っている事を視認した。

 鎧武はそれをベルト、戦極ドライバーの横。

 先程まで鎧武の横顔が描かれていたはずの部分に取り付ける。

 

「外れたのはあれ……?」

 

 その鎧武の横顔が描かれたプレートは地面を転がっていた。

 今の攻撃で外れたのはあの部分だったのだろう。

 そしてそれは継戦に支障を与えるものではなく―――それどころか、それは鎧武のパワーアップの前兆であるという様相を呈している。

 

「足の速さならこいつだ!」

 

〈オレンジ!〉〈チェリーエナジー!〉

 

 続けて鎧武が起動する二つのロックシード。

 頭上に再び巨大なオレンジ、そして巨大なチェリーが出現する。

 ドライバー本体と、プレートに変わるように取り付けられたユニット。

 彼はそれら二か所に同時にロックシードを取り付けた。

 

〈ロックオン! ソイヤッ!〉

 

 カッティングブレードが下ろされ、オレンジに刃が入る。と、同時。

 ゲネシスコアが連動し、チェリーエナジーロックシードもまた起動させられていた。

 

〈ミックス!〉

〈オレンジアームズ! 花道オンステージ!〉

〈ジンバーチェリー! ハハーッ!〉

 

 頭上に浮いていた二つのアームズが融合し、一つの鎧と化す。

 展開するのは鎧の上の羽織に見える部分にチェリーの描かれた黒い装甲。

 ―――そして手の中に出現するのは新たな武装。

 握り以外が刃となった赤い弓、創生弓ソニックアロー。

 

 走行を再開するドライブアーマー。

 その高速移動に対し、鎧武が続くように疾走を開始した。

 周囲を囲うように走ろうとしたジオウが鎧武に追い付かれ、互いに刃を振るう。

 ジカンギレードとソニックアローの刃が激突し、火花を散らした。

 

「悪いが決めさせねぇ! まだこっちに付き合ってもらうぜ!」

 

「―――つまり、あんたには立香たちの状態が見えてるってこと?」

 

 先程まで翻弄された速度に追い縋るジンバーチェリーアームズ。

 それと鍔迫り合いしながら、ジオウは問いかける。

 答えはなく、鎧武がその状態で足を振り上げて蹴りを見舞ってくる。

 こちらも膝を上げてそれをカットし、そのまま互いに後ろへと跳ぶ。

 

 ソニックアローが弓としての性能を発揮し、光の矢を放つ。

 ドライブアーマーが腕を突き出し、その腕からタイプスピードスピードを射出する。

 二つの飛び道具が空中で交錯し、衝撃が破裂した。

 

 

 




 



 
アヴェンジャー=絶対許さないマン
神様=絶対許さないマン
 

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