Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
意識を取り戻し、大きく息を吐く。
干渉は既に完全に断ち切られ、彼女の意識は全てこちらに戻されていた。
椅子に腰かけながらゆるりと竪琴を奏でていたダビデ王がちらりと彼女を見る。
ただ楽器を奏でるその手は止まず、ただ演奏を続けていた。
呪詛どうこうよりも奏でることを楽しんでいるようなので、そのせいだろうか。
「……マスターに必要なことは伝えられたでしょう。
あちらではまだソウゴくんと合流出来ていない様子でしたが……」
「なに、アイツまだ着いてないの?」
その声に振り向く。
するとそこでは、壁に背中を預けたオルタが呆れるように息を吐いていた。
「それで先輩の様子は……! どこかお怪我をされていたりするようなことは……!」
ジャンヌに今も詰め寄らんという勢いのマシュの頭上。
彼女を落ち着かせるように、フォウが前足でマシュの額をてしてしと叩いてみせる。
その動作に落ち着かされて深呼吸する彼女。
「大丈夫ですよ―――恐らく、アヴェンジャーこそが彼女を護り通すでしょう」
そんなジャンヌの言葉に首を傾げるマシュ。
アヴェンジャーこそが立香を狙った魔術王の呪い、という話だったのではないか。
「その……アヴェンジャーのサーヴァントは、先輩への呪いだったのでは?」
「はい、呪いとして彼が送り込まれたのは事実でしょう。
ですが―――彼はそれこそ、アヴェンジャーだからこそマスターを護る」
疑問をそのまま問いかけ、返ってくるのはその答え。
しかしその宣言には、ジャンヌ・ダルクが得ている確信がある。
―――彼女がそこまで言うのならば、事実としてそうなのかもしれない。
眠っているような様子の立香の顔を見つめながら、マシュは彼女の手を握った。
彼女の背後で医務室の扉が開く音。
だがそちらを確認もせず、ただ立香を見ているマシュ。
そんな彼女が脇に手をかけられて、無理矢理立たされた。
「ひゃっ!?」
「ほら、マシュ。ずっとマスターについてばかりで休憩しないのは流石に駄目だよ?」
すぐさま振り向いた彼女の前にはブーディカの顔があり、彼女は小さく笑っていた。
優しいけれど強固な意志を感じる表情。それが何を求めているかは明白で……
彼女に対し何か言い募ろうとマシュが口を開こうとする。
「え、ええと……ですが……」
「はいはい、自分から休憩しにこない子は問答無用で連行だ」
しかしそのまま運搬され始めた。
強制退場するマシュを見て、ずっとモニターを睨んでいたロマニが苦笑する。
「確かに。まだ長くなるかもしれない、マシュは少し休んできなさい」
「はっはっは、いつからマシュだけの話になったんだい?
君もだよロマニ。力尽くで連行されたくなければ、君もさっさと退出するように」
が、その後から入ってきたダ・ヴィンチちゃんに睨まれる。
彼女の後ろではオルガマリーもまた肩を竦めていた。
何かを言い返そうとロマニは口を開こうとする。
が、しかしここで何を言おうがどうなるか、その結果が見えたのだろう。
「……はい。大人しく休ませて頂きます」
そう言って彼は手元で必要なデータを引き継ぐために纏め始めた。
そんな彼を見張っているダ・ヴィンチちゃんの横をすり抜け、踏み込むオルガマリー。
彼女は立香を覗き込みながら、その傍にいるジャンヌへと声をかける。
「それで、あのロンドンに現れたアヴェンジャーが藤丸を護る、っていうのは?」
「―――そうですね。何故そうするのか、と問われれば恐らく……」
彼女はマスターの心中で顔を合わせた復讐者を思い浮かべた。
立香が囚われたのは人の悪性により煮詰まったこの世の地獄にして、復讐者の始まりの地。
そして同道する復讐者は憎悪、嚇怒が止まることを知らぬ全てを焼き尽くす地獄の業火。
―――けれども、あそこには一つだけ間違っていることがある。
だからこそ、アヴェンジャーは何よりをそれを許せないはずだ。
その事をオルガマリーに伝えるために、ジャンヌは言葉を選びながら口にする。
「オォオオオオオオオオオッ!!!」
赤きマントと金の鎧に包まれた男が奔る。
その無双の強力から繰り出される拳打を捌きながら、漆黒の炎が逆に男を焼いていく。
自らが焼かれることにさえ頓着せず、狂気に身を任せたもの―――狂王カリギュラはアヴェンジャーに対しての攻撃を繰り返し続けた。
「足りぬ……足りぬ……! 満ち、足りぬ……!
飢えている、渇いている、どれほど喰らい、貪っても……!
余が満ちるにはまだ足りぬ―――ッ!!」
彼の繰り出す一撃とアヴェンジャーの拳が激突。
お互いに弾け飛びあい、床を滑りながら黒衣の男は二人の少女の前に戻ってくる。
打ち合せた拳を軽く振りながら、アヴェンジャーは鼻を鳴らす。
「これがこの裁きの間における番人にして暴食の具現、カリギュラだ。
この世のあらゆる快楽を貪り、溢れども飽き足らず喰らい続けた悪逆」
「カリギュラ……」
ローマでソウゴたちが戦闘したネロと関係深い英雄だ。
バーサーカーである彼は瞳を狂気に染め、ただ目の前の全てを破壊すべく活動する。
彼女たちの目の前で、床を砕くほどの踏み込みが成される。
「―――させない!」
メルセデスが手にしたファイズフォンを向け、カリギュラに対し発砲。
赤い光が弾丸となって彼に対し殺到する。
黄金の鎧に直撃した光弾が弾け飛び、しかし怯むことすらせず疾走を続けるカリギュラ。
軽やかにその目の前に躍り出たアヴェンジャーが炎に包まれた両腕を突き出した。
炎の塊が弾丸となり、続けざまにカリギュラへと着弾する。
溶解する鎧、炎上するマント。呪詛の炎に炙られながら彼が、狂気に染まった目を剥いた。
「ネロォオオオオオオオオオオオオオオ―――――ッ!!!」
唸りを上げながら放たれる拳。
アヴェンジャーがそれに対して応じ、互いの拳が衝突する。
破裂した黒炎が周囲に飛散する中で幾度となく拳を交わす両者。
カリギュラが両手を組みながら大きく振り上げ、スレッジハンマーの如く振り下ろす。
微かに口元を吊り上げるアヴェンジャー。
彼がカリギュラの懐に滑り込み、振り落とされる腕に手を絡ませてそのまま背負い投げの要領で相手を背中から床に叩き付けた。
「ガァッ……!」
床を粉砕する勢いの衝撃に、カリギュラの動きが一瞬鈍り―――
直後、彼の心臓にアヴェンジャーの手刀が突き刺さっていた。
霊核を打ち砕かれ、金色の光と変わり消滅していく姿。
それを見送りながら、立香が小さく呟く。
「ファントム・ジ・オペラ、フェルグス、ジル・ド・レェ、ジャンヌ、カリギュラ……」
並べるのはこれまで対面してきたサーヴァントたちの名前。
それらを思い返しながら、次の戦いへと歩き出すアヴェンジャーの背中を追う。
メルセデスも彼の背中に注意しながら小声で立香に話しかけてきた。
「……ねぇ、このまま彼に着いていって大丈夫なの?
あの人、前に戦ってた女の人の時は凄い怒ってたし……
多分、私たち二人じゃ彼は止められないわよ?」
「大丈夫だよ、多分……最後までちゃんと見て、私が答えを返さなきゃいけないことだから」
立香の言葉にメルセデスが首を傾げる。
意味こそ伝わっていないがしかし、彼女の表情から覚悟と確信があることは伝わったのだろう。
何か言いたそうに一度口を開き、だが何も言わずに立香に追従することにした。
裁きの間を踏み越えて、更に奥に続いていく通路を進む。
一体どう繋がっているのか、ひたすらに並ぶ牢屋を横目に見ながら歩み続ける。
石畳を踏む足音だけが響く中で、唐突にアヴェンジャーが口を開いた。
「―――次の間こそは強欲を掻いた男の支配する裁きの間。
彼が証明するのは、おおよそ人の欲に限りなどないという事実だ。
嘆きと涙を見て、苦悶と苦悩を重ね、やがて彼はこれ以上ないほどの強欲な大望を抱くに至る」
不機嫌さを隠そうともしていなかった今までから一変。
その事を口にする彼からは軽快ささえ感じるような気がする。
「成し遂げられこそはしなかったが、それは確かに世界で最も高潔な復讐劇だったろう」
「……何か、楽しそう」
彼の背中を眺めていたメルセデスが、ぽつりとそう呟く。
そんな彼女の言葉が届いたのか、アヴェンジャーは足を止める。
「楽しそう? オレが?
―――なるほど、なるほど。惜しくも達成されなかった高潔なる復讐を前に楽しそう、などと。
このオレが、まるで人の凋落を楽しむ悪魔であるかのような話だ」
そう言って笑う姿こそ、正しく今までとは違い楽しそうな様子だ。
「だが否定はすまい。人の善性を削ぎ落とせし悪辣の復讐者。それこそがこのオレ。
……どうあれ、オレは彼に一種の敬意のようなものを持っているのだ。
無謀にして夢想、強欲にして高潔。その願いに命を使い果たした彼の生涯は、喝采に値する
そう。彼こそは強欲の具現たる
その場でバサリと黒衣を翻し、彼は周囲の空間を指し示す。
―――いつの間にか次の間まで辿り着いていたのか。
大広間の中の中心にいるのは、白い髪に灼けた肌でカソックを身に纏った男。
「―――天草四郎時貞」
「……はじめまして、アヴェンジャー」
神父服の青年はいっそ朗らかにさえ見える様子で、復讐者に微笑んだ。
そんな彼を前にして、立香の口からその名前がついてでる。
「天草、四郎……」
立香とて当然聞き及んだことはある。
そんな故郷の偉人の一人を前に、彼女は軽くを目を瞑った。
もう、確信していいのだろう。この場こそが―――
思考している立香の目の前で、天草が動き出す。
「さて。私はあなたたちの障害としてこのイフ城に配置された。
で、あるのならば。剣を執りあなた方に斬りかかるのが道理というものでしょうか」
さほど気も乗っていない、という風に彼は刀に手をかける。
対するように、楽しそうに拳に火を灯すアヴェンジャー。
数秒後にはあっさりとぶつかり合い、決戦を繰り広げていそうな状況。
―――そんな状況で、立香が天草に声を上げていた。
「天草四郎、貴方の願いは何?」
小さく顰められるアヴェンジャーの眉。
天草は少し驚いたような様子を見せながら、彼女へと視線を送る。
彼は少し悩むようにすると、しかし一切虚偽はないとばかりに告白してみせた。
「無論。全人類の救済です」
アヴェンジャーの語っていた、もっとも強欲なる願い。
彼がそう語っていた時点で、立香の中でその答えはおおよそ検討がついていた。
だからこそ―――
「そっか。じゃあきっと、
彼女は笑いながら、天草にそう言い放つ。
いきなり何を、と彼女の後ろでメルセデスが顔を顰める。
きょとん、と。一瞬呆けた彼はしかし、すぐに楽しそうに微笑んだ。
「と、言うと?」
「私たちの夢は、全ての人の夢が叶えられる、皆が笑顔になれる世界。
だったら、全ての人の願いが叶って欲しいって願いの方が、ずっと強欲なんじゃない?」
彼女の言葉を大真面目な顔をして聞いていた天草が、小さく笑い声をこぼした。
「―――なるほど、そう言う。ええ、もちろん。私の願いはどこまで行っても我欲だ。
ですが、あなたの言う願いもまた我欲。もっとも、その口振りではその願いはあなたの夢でも無いのでしょうね。けれど……」
正面から立香と視線を交わす天草。
彼女と視線を交わしていても、その言葉が全身全霊の本音であるとしか伝わってこない。
「―――人の善性だけを取り上げ、それ以外を放棄させることで救済する私の願いより……全員纏めて笑い合える世界を作る、という自分たちの願いの方がよっぽど大きい……
ということですか。口にすると随分な内容に思えますが、なるほど……」
彼女の強い眼差しと視線を交わしながら、天草は手を顎に添えて困ったように笑う。
「―――そう言われると、困った。それはただの理想。
逆に私の願いは全てを救えぬのならばと一度折れたが故に、達成し得る目標として再設定した現実味を持たせたもの―――そう言うのは簡単でしょう。
ですが、そんな言葉を言わされる時点で強欲の番人として既に負けている」
彼が刀に手をかけていた手を放し、どうしたものかと首を傾げた。
「確かに、私は願いを叶えるためなら何でもしましょう。人を救うためなら、何でも。
ですが……おまえより上手く世界と人類を救って見せるから黙って見ていろ、と言われたのは初めての経験だ。いやはや、なるほど。
―――その大言、人類に残されたマスターに相応しいと称賛するより他にない。その覚悟があるのであれば、私などがわざわざ立ちはだかる必要はないでしょう」
眉を顰めるアヴェンジャーの前。
天草が役目を終えたとばかりにひとりでに退去を開始した。崩れ落ちていく天草四郎の体。
そんな彼が僅かに俯いて、誰に向けるわけでもなく小さく呟きだす。
「……だから最後の門番は締め出された、というわけですか。
ならば疑うまい。
天草四郎は俯いていた顔を上げる。
裁定者の視線は復讐者に向き、そして笑いかけた。
「良いマスターに出会ったようですね、アヴェンジャー。
であるならば、私が言う事は何もないでしょう。
ではいつか、地獄ではないどこかでまた――――
彼の返す言葉も聞かず、天草四郎は金色の光となって消え失せた。
―――先程までの機嫌の良さはすっかりと消え、彼は全身に炎を漲らせる。
彼の足場が炎上し、その口が開くと共に炎が噴き出した。
「オレがエドモンだと……! 否! 否! 聖女といいオレを奴と同じにするな!
エドモン・ダンテスだと―――? それは無辜の罪で投獄された哀れな男の名!
そして恩讐の彼方にて、奇跡とも呼ぶべき愛によって救われた者!
決してこのオレではない。我こそはアヴェンジャー、永劫の復讐鬼なり!!」
まるでそれは黒い火山のように。
彼を中心として炎が噴き上がり、足場を溶かして暴れ狂う。
咄嗟に立香を引いて距離を取ろうとするメルセデスを、立香は止める。
「変わらないよ」
黒い溶岩から逃げることもせず、彼女はアヴェンジャーを見据えてそう言い放つ。
声をかけられた黒い悪鬼は、ゆっくりとそちらへと振り返る。
「何だと……?」
「変わらないよ、アヴェンジャー。
だって終わりが救われて人間に返ることでも、永劫の復讐鬼になることでも―――
貴方の始まりは、この地獄の中でファリア神父に救われたことなんでしょう?」
ジュウジュウと石が音を立てながら赤熱する。
溶けていく足場の中で、アヴェンジャーは確かにマスターを睨み据えた。
すぐに彼女の横に並び、ファイズフォンXを構えるメルセデス。
「だから私を助けたんだよね。だって、貴方にとってのシャトー・ディフは地獄であっても……同時に、誰より輝かしい善人が救ってくれた希望の地でもあったから。
だから、魔術王の人の悪性だけ詰めればシャトー・ディフになるなんて考えも許せなかった。
今まで会ってきたサーヴァントだって、罪だけの存在じゃないのに、罪だけを取り上げて裁きの間の支配者にされてた。
他ならない貴方だからこそ、
炎を挟んで対峙するアヴェンジャーが、彼女の言葉に小さく口の端を歪めた。
その咽喉の奥からは堪え切れぬとばかりに声が漏れてくる。
「ク、クハハッ……! ハハハハハハ――――!!
……よかろう。それでいい、それでおまえはどうする?
シャトー・ディフは善悪を問わず朽ちるまで収監する呪いの監獄搭。それは変わらない。
ファリア神父の起こした奇跡のみが、ただ一人の人間を救った。
だからこそ、出られるのは一人だ。オレか、おまえか。はたまた迷い込んだ女、メルセデスか」
彼の言葉に嘘はないだろう。誰かの死と引き換えに、誰か一人だけ助かる呪いの搭。
現実のシャトー・ディフを基に築かれた呪詛の監獄。
ここがそういう場所であることには、何の代わりもない。
―――隣に立つメルセデスが銃を構えながら立香の様子を窺う。
彼女が見たのは、アヴェンジャーの言葉に強く笑い返した彼女の姿で―――
地面に撒き散らされるコンクリート弾。
射出したタイヤが放つそれを振り切り、躱し、鎧武が疾走する。
何度となくすれ違い、そのたびにギレードとソニックアローをぶつけ合う膠着状態。
それを打ち破るために地面に張ったコンクリートを、ドライブアーマーの足が踏み砕いた。
走行するための足の車輪がコンクリートの粉塵を巻き上げ、周囲に散らす。
瞬く間に周囲はコンクリートの霧に包まれた。
「目晦ましか!」
鎧武が足を止め、周囲を窺う。次の瞬間、彼の後ろからジオウが突撃してきた。
即座に反応して振り返り、ソニックアローを切り上げる。
が、その刃がジオウの体をすり抜けて空振った。
「ああ!?」
「こっちだ!」
武装を振り抜いた鎧武の横合いからジカンギレードが奔った。
無防備な胴体に直撃し、大きく吹き飛ばされる。
コンクリートの粉塵は更に濃くなり、周囲の状況を隠すように広がっていく。
それを突き破り、正面からくるジオウ。
対応しようとした鎧武が今度は背後から斬り付けられて火花を散らした。
「―――幻覚ってことか……! だったら!」
〈ピーチエナジー!〉
地面を転がりながら鎧武は、ドライバーに装填されたチェリーエナジーロックシードを外す。
新たに取付けるのはピーチエナジー。
即座に操作を完了させると彼のアームズが一度外れ空へ行き、オレンジとチェリーに分離。
チェリーの代わりに新たに現れたピーチとオレンジが合体し、再び装備される。
〈ミックス!〉〈ジンバーピーチ! ハハーッ!〉
桃の描かれた陣羽織を身に纏い、鎧武が意識を集中する。
ジンバーピーチにより圧倒的聴覚を得た彼の前に、ジオウが現れた。
ジオウが腕を振るう、地面を踏み切る。しかしそこに音がない。
一切反応を示さない鎧武に対して振るわれた攻撃は当たらず、そのまますり抜け消えて行く。
―――次のジオウが背後から現れた。
両腕を前に出して、腕のシフトカー型射撃武器を使用する構え。
二つのタイプスピードスピードが射出され―――しかしそこに音はない。
攻撃はすり抜けて消えて行き、
ガリ、と。その向こうで足が地面を削る音を聞き取った。
ソニックアローをそちらに向けて、即座に引き絞り解き放つ。
桃色のエネルギーで形成された矢が弓から放たれ、音源を目掛けて飛んでいく。
それは粉塵の目晦ましを突き破り、その奥に潜むドライブアーマーに直撃する。
残光を散らしながら大きく吹き飛ばされるジオウ。
「ぐっ……!」
「もう一丁ォ!」
即座にソニックアローを返し、背後から聴こえる風を切る音目掛けて更に一射。
矢が空中を舞うタイヤを一つ撃ち落とし、弾けさせた。
カラフルコマーシャルが消え、ジオウが映し出していた立体映像が全て消え失せる。
「今度はこいつだ!」
〈レモンエナジー!〉
〈ミックス!〉〈ジンバーレモン! ハハーッ!〉
鎧武の手が再び新たなロックシードを手にし、開錠。
再びドライバーを操作して、今度はオレンジとレモンを融合した鎧を形成する。
装着する鎧にレモンの描かれた陣羽織を纏い、彼は創生弓を構え直した。
〈ロックオン!〉
〈ソイヤッ! オレンジスカッシュ!〉
ドライバーから即、ソニックアローに移し替えられるレモンエナジー。
続けざまに倒されるドライバーのカッティングブレード。
弓を構える彼の前に、スライスしたオレンジとレモンを思わせるエネルギー体が出現する。
レモンエナジーロックシードのエネルギーはソニックアローの先端に集束し、弓引く鎧武の指が離れる瞬間を待ちわびるように唸りを上げた。
鎧武からジオウまで。
放つべき矢の軌道上に浮かぶその果実を前に、ジオウが起き上がりながらタイヤを肩から射出せんとし―――
「くっ……!」
〈レモンエナジー!〉
そのタイヤごと吹き飛ばし殺到するレモンの矢が、ジオウの胸に直撃した。
「ッ……!」
先程までとは比較にならない一矢。
それが直撃した瞬間、果実型のエネルギーがジオウを覆い爆発する。
ドライブアーマーの機能が停止し、そのまま投げ出されるジオウ。
彼の姿が爆風でまたも舞い上がった粉塵の中に放り込まれる。
恐らくこの粉塵を突き抜けまだ立ち上がってくるだろう彼を待ち受け、鎧武が新たにロックシードを握り込んだ。
「さあ、まだまだ―――! おっ……?」
一瞬、そんな彼の顔が他所を向いた。
ちょうどその瞬間に、粉塵を巻き込み突き破る一撃が鎧武に対し殺到する。
―――白いボディ。両腕のブースターモジュールと一体化して、ロケットの如く変形したジオウの持つ更なる別の姿。
それは高速で回転しながらブースターによる加速を全開にし、鎧武へと一直線に飛来する。
〈リミット! タイムブレーク!!〉
「宇宙ロケットきりもみキィ―――ック!!」
「……!」
〈カチドキ!〉
〈ロックオン! ソイヤッ!〉
鎧武が戦極ドライバーのロックシードを切替えると同時、今までのものより巨大化したオレンジが落下してくる。彼がそれを被った瞬間、直撃するフォーゼアーマーの必殺の一撃。
回転と速度を増しながら激突し続けるそれを受けながら、力尽くでアームズが展開していく。
全身を覆っていくオレンジの甲冑。
髭を思わせる造形のマスク、その兜に取り付けられた黄金の角はより絢爛に。
重厚なるその姿は背に二本の旗を立て、勝ち鬨の声を上げた。
〈カチドキアームズ! いざ出陣! エイエイオー!〉
フォーゼアーマーの足を掴み、強引にその攻撃を止めようとするカチドキアームズ。
回転を止められたジオウは、腕のブースターの向きを変えて更に加速する。
更には脚部のブースターが火を噴いて、鎧武の体を炎で炙っていく。
「うぉおおおおお―――ッ!!」
「はぁあああああ―――ッ!!」
押し切ろうとするジオウ。
鎧武はその攻撃を受け流すように身を逸らし―――やがて、互いに弾けあった。
進行方向を逸らされ、そのままの勢いで突き抜けていくジオウ。
そして逸らしたと同時に衝撃で薙ぎ倒され、転がっていく鎧武。
ジオウはそのまま地面に直撃し、盛大に破砕音を轟かせながら滑っていく。
足が止まり、白煙を噴き上げるアーマーの調子を確かめながら振り向いたジオウ、その目前。
周囲に広がっていた白い空間が砕け、まるで牢屋のような場所に投げ出される。
その場で軽く首を振り、周辺の状況を確かめるソウゴ。
「……時間稼ぎは終わり?」
オレンジを纏っていた彼は、再び白い衣装の超然とした存在に戻っていた。
その彼の体が風景とともに崩れるように消えていく。
「―――ああ。悪かったな、だが俺は必要だと思ってやったことだ」
彼がゆるりと手を挙げて、その手の中に何かを生み出し―――
ほい、と。それをジオウの傍に投げ込んだ。
ころころと彼の足元まで転がってくるのは、緑色の―――
「ウォッチ……?」
〈スイカアームズ! コダマ!〉
ソウゴの呟きに応えるように、地面を転がりながらそのウォッチが展開する。
手足を生やした小さな人型に変形するライドウォッチ。
そんなコダマスイカがぴょんぴょんと跳び回りながら駆け出した。
「そいつに着いて行くといい。君の友達のところまで連れて行ってくれるだろう」
言われ、走り出したコダマを視線で追うジオウ。
彼が視線を戻した時にはもう、鎧武の姿は完全に消え失せていた。
「……変わった人だったなぁ」
言いながら走り出すジオウ、が。
フォーゼアーマーの肩を壁にぶつけて大きくふらついた。
ふらついた先で今度は手にしたブースターを衝突させて引っ繰り返る。
「狭い……」
起き上がりながら、ぽつりと一言。
牢獄の狭隘な通路に文句をつけながら、ジオウは装着していたアーマーを解除した。
フォーゼに変わっていたインジケーションアイが、再びライダーと刻印される。
そうしてから、彼はコダマの後を追いかけるように走り出した。
「今、言ったばかりだよアヴェンジャー。
直後、裁きの間の壁が弾け飛ぶ。
穴の開いた壁からは、外側から力尽くで壁を粉砕した下手人の腕が突き出されていた。
三人の視線が向いたそこからは、緑色の小さい何かがひょいと飛び出て跳ね回る。
あとから続いてくるはずの相手を手招きするように跳ねるコダマスイカ。
「やっと着いた……! あ、立香。大丈夫?」
その小さいのに続いて、瓦礫を踏み越えてくるのはジオウ。
彼は目的の人物である立香を見つけ、何のことはなさそうに声をかけた。
彼女は小さく頷いて、再びアヴェンジャーを見る。
「―――そんな呪い、払わずに踏み倒す。命なんて捧げずに、皆揃って力尽くで脱獄する。
貴方がここまで連れてきてくれた私は、こんな場所のルールなんて蹴倒して救われてみせる。
だってそのくらい出来なきゃ……世界を救った上で、更に皆が幸せになれる世界にすることなんて出来ないでしょう?」
「―――――」
視線を交差させる立香とアヴェンジャー。
そんな彼女たちの様子を眺めながら、ジオウは首を傾げていた。
ふと、その立香の横に立っている白い服の人間へと視線を送るジオウ。
彼女もまたジオウを見て、そして頭を抑えて顔を歪めていた。
「………?」
豪胆な宣言に対して小さく笑いを漏らし、アヴェンジャーは肩を揺らす。
「ハ、―――であるならば、オレの導きはここからは不要か。
己らの力でこのシャトー・ディフと突破すると言うのなら、それはそれで……」
「その、私たちが力尽くで救われるための己らの力っていうのには……
もう貴方の力も入ってるんだよ、アヴェンジャー」
立香の言葉が彼の言葉を遮り、そして彼女はより強くアヴェンジャーを見据えた。
そのまま立香は腕を軽く振り上げて、アヴェンジャーに向ける。
「貴方がいたから私が歩けて、メルセデスに出会えた。貴方が私たちを守ってくれた。
貴方の導きでこの監獄搭を巡ったからこそ、
ありがとう―――そして、魔術王相手に……
言われ、アヴェンジャーが微かに目を見開いた。
そのまま手を振り上げたまま止めている立香を前に、彼は堪え切れぬと声を漏らす。
「クク、クハハ! ハハハハハハハ――――ッ!!
―――ああ。寝言は寝て言え、マスター。
魔術王に勝っただと? 此度の呪詛程度は、奴のただの気紛れにすぎん。これを攻略した程度で勝利宣言などとは片腹痛い。
……オレに勝利を報告したいと言うのなら、おまえの言うやり方で人理焼却を蹴倒して、完膚なきまでの勝利を刻んでからにするんだな」
立香がハイタッチのために出していた腕を無視し、黒衣を翻して背を向ける。
むむ、と顔を顰めるが彼は彼女の顔を見てもいない。
「―――エドモン・ダンテスという男の生涯は、恩讐の彼方に復讐を捨てる事で完結した。
オレという存在の正体は、復讐者でありながら復讐を完遂できぬ者だ」
語りながら、彼の体が徐々に黒い炎に包まれていく。
その姿を隠匿するように人型の炎にその姿を変えていくアヴェンジャー。
「だからこそ―――勝利を知らぬ。戦いを放棄するか、永劫に続けるかしかない故に。
だが……オレが気紛れにファリア神父の真似事をして救った共犯者が。この地獄に送られながらも脱し、己を地獄に送った者を打倒するという目的を果たすと言うならば。
なるほど。オレが初めて得る、勝利と呼べるやもしれぬわけだ」
完全に炎と変わった彼が、その状態で振り返る。
目と思しき炎の洞が立香と視線を交わした。
「―――行くがいい、
おまえたちで、あの恩讐を知らぬ者に正しく見せてくるがいい。人間の姿を」
徐々に薄れながら消えていくアヴェンジャーの姿。
少し悩んでいた立香が、最後の言葉をかけるために彼へと疑問を飛ばす。
「ねえ、アヴェンジャー。貴方のことは何て呼べばいい?
エドモン・ダンテス?
「ク、――――貴様の中でその二つに違いがないと言うのなら、好きにするがいい。
どうあれ、我は復讐者。永劫に恩讐を語り続ける、地獄からの使者なれば」
「そっか。じゃあ……またね、エドモン。ここまでありがとう」
その場所から消えて行く黒い炎。
徐々に薄れていく彼が、そんな別れの言葉に小さく笑う。
「また、か。―――フン、望むのなら最初からオレのような存在が必要になる事態にならないことを望むんだな。……それでも、このオレとの邂逅を望むのであれば。
オレがおまえに残すべき言葉は一つ―――“待て、しかして希望せよ”だ」
やがてそれは完全に消え失せて、その場から黒い炎は一切無くなった。
しん、と静まり返る裁きの間。そこで立香が小さく息を吐く。
それを眺めていたジオウが、話が終わったと見て声をかける。
「で、あの人だれ?」
「エドモン・ダンテスだって。ここで死にそうになってた私を助けてくれたんだよ」
凄い黒くて燃えるんだよ、と言うよく分からない説明を受けながらうんうんと頷くジオウ。
脱出のためのウィザードウォッチを取出しながら、次いで目を向けるのはメルセデス。
「それで、そっちの人は?」
「この人はメルセデス……なんだけど、記憶喪失で本当の名前が分からないの。
あ、メルセデスって名前をつけてくれたのはエドモンね」
「え、ええ。そう、私は……今は、メルセデス……貴方は……?
それにその、鎧……? は……」
〈アーマータイム! プリーズ! ウィザード!〉
ジクウドライバーを動作させ、魔法陣を展開。
アーマーを纏いながらジオウは、メルセデスからの問いかけに答える。
「俺は常磐ソウゴ、この力は仮面ライダーって言うんだけど……
とりあえず脱出しよっか。皆心配してるだろうし」
「そだね。メルセデスも一緒に」
そう言ってメルセデスと手を繋ぐ立香。
ジオウが彼女たちの手を取り、エンゲージの魔法を始動する。
立香の意識の中から解放されていく感覚。
まるで浮上するように持ち上がっていく意識に引きずられ、
帰還は突然のことだった。寝かせている立香の上に浮かぶ、赤い魔法陣。
そこから出てくるのは、入っていったときと同じようにジオウ・ウィザードアーマー。
そしてもう一人。白い服の女性。
まさか一人増やして帰ってくるとは思っておらず、おや? と首を傾げる皆。
そんな中で床に降り立つ二人と、目を覚ます立香。
―――その次の瞬間。
白い服の女性が手にしていたファイズフォンXを、ジオウの背に向ける。
振り返ったジオウが、その状況に面食らって顔を仰け反らせた。
「え?」
冗談ではない、と言うのは彼女の目を見れば分かった。
カルデア側とて、突然の事態に動くべきなのかどうかさえ判別できない。
メルセデスは突きつけた銃を握り締めながら、ジオウに向かって叫んでいた。
「……思い出した。私の目的を……! それは、貴方を止める事!!
例え刺し違えてでも貴方を止めてみせる。常磐ソウゴ……いえ、オーマジオウ!!!」
コダマでしょうか? いいえ、大玉ビッグバン。
キリシュタリア様が強すぎる。
ゴッドマキシマムとかギンガファイナリーみたいなことしてんなお前な。