ヨセ倒打ヲ峰森黒者王
「戦車、前進ッ!!」
戦友の決死の突撃により、こちらの接近を許す程に彼我の距離は近い。この距離ならば、如何な屈強なるドイツ戦車集団といえど撃破は可能!
この牙が、その肌に突き立つ!それは全て、我らが同胞の勇気によるもの!心の中でだけで申し訳ないが、敬礼を送らずにはいられない!
「各員、取り巻きに集中砲火! 意地を見せろよ、知波単のッ!!」
獅子たちの驚く顔が目に浮かぶ。また、勇者である同胞達の一気呵成の雄叫びが聞こえる。
突撃しか能の無いとすら言われる我々に押されている現状こそ、貴様ら黒森峰の最も恐怖するところであろう。
何故、我ら鉄血の猛者が斯様な能無しと名高い学園に一矢報いられ、あまつさえここまで押されてしまっているのか。戦車の性能は断然上、隊員の練度も圧倒的であるはずなのに。
ああ、そうとも。
だがしかしッ!!
戦車とは砲や体当たりで打ち勝つのではなく、気迫で撃破するものなのだということも忘れてはいないか!?
「総員、突撃! 先輩方の無念が、我ら後進の回天へと誘う起爆剤となったのだ!! 故に、今この瞬間に、命を懸けて突き進めッ!!」
「「突撃ッ!!」」
煩わしく長い髪を振り払い、後に続く仲間達の為、戦車は往く。その無限軌道は、荒々しくも実直に歩みを進め往く!
目指すは王者の喉元。道を開くための犠牲となり、積み重なった仲間たちの屍を超えて。
―――いざ、常敗無勝の名を返上せんと、知波単学園!参るッ!!
我が名は、知波単学園戦車師団統帥、
◇
『知波単学園大本営発表
回天、知波単栄華の極みここに至れり。
本日執行の第六十三回戦車道全国大会初戦に於いて、我らが知波単学園戦車道科は黒森峰女学院機甲科と戦い、最少の損害で圧倒的勝利を収めた。本日の夕餉には全生徒、鯖の味噌煮と選択甘味一品を付ける為、英気を養うこと。』
◇
学園長直々の呼び出しで学園長室にて泣きながら感謝を告げられた帰り道。
未だにあの黒森峰に勝利出来たことが信じられない。だが、こうして我々は勝利を収め、後には継続高校との二回戦が待っている。
「西隊長!」
こうして万年初戦敗退の我が校を二回戦へと導けた栄誉の高揚感に打ち震えながら、こちらへ走り寄ってくる眼鏡を掛けた少女福田へと軽く手を振った。
校長と話があるからと先に帰らせたはずだが、彼女は私のことを待ち続けてくれていたらしい。
「ご、ご一緒しても良いでありますか!?」
「ああ、勿論いいとも。待っていてくれたのか?」
「はい、であります! 最大の功労者たる西隊長を置いて帰るなど私には出来ません!」
「ははは、そうか。と言っても、別にそんな功労なんてしてないんだけどな」
彼女は素直で聞き分けが良い方なんだが、どうにも尊敬の念が強過ぎるように感じる。私なぞ、少々特殊なだけの小娘なのだが⋯⋯。しかし、今はその眼差しがやけに心地良いのも事実。
しばし無言で歩いていると、もじもじとしていた彼女が意を決したように声を上げた。
「西隊長!此度の勝利、流石でありました!」
「ありがとう。しかし、これは、私一人が齎した勝利ではない。この栄光こそ、我ら知波単学園戦車道科全員で賜るべき栄誉だろうと私は思う。だから、私からも福田達の健闘を讃えさせてもらおう」
「はぁあ⋯⋯! わ、我ら、西隊長と共に進むことが出来て、光栄であります!」
それだけ言うと、彼女は満足したような顔でまた黙ってしまった。
⋯⋯話すことがない。元々私は私生活では口下手な方だし、彼女に黙られてしまうと本当に話が続かなくなる。
「なあ、福田」
「なんでありましょうか?」
「今回の私の作戦、あれで良かったと思うか?」
福田はポカンとした顔で固まってしまった。何か変なことを言っただろうか。
今回の作戦、細見率いる三輌の参番隊が黒森峰主力を陽動、玉田達弐番隊を黒森峰のフラッグ付きの戦車に突撃させ足止めしている間に、後続の私率いる壱番隊が取り巻きを各個撃破。その後、西住まほの乗るフラッグ車ティーガーIを壱番隊を中心に残存戦力の総力を上げて撃破するという流れであった。
はっきり言って、玉田達が足止めを成功させてくれるとは思っていなかったが、彼女達は鬼気迫る様子で黒森峰フラッグ車の取り巻きを見事に足止めし、あまつさえ玉田は一輌を撃破するという大戦果を上げてくれた。参番隊も黒森峰の誇る戦車軍団五輌を相手によくぞ健闘してくれた。
彼女達の功労こそ、今回の戦い最大の決め手であったことは疑いようもない。それを彼女達に伝えた時は、どういうわけか泣き出すわ玉田に至っては感極まったような様相で気絶してしまっていたが⋯⋯具合でも悪かったのだろうか。
「どうしてそのようなことを聞くのでありますか?」
「ん? ⋯⋯いや、今回の作戦は犠牲を厭わないどころか、率先して犠牲を出す作戦だった。そんな作戦しか立てられないのでは、この先不味いんじゃないかって思ってな」
そう。だからこそ、疑問に思うのだ。
勝てば良いのではない。これは戦争じゃなくて戦車道なんだ。さもなくば、それこそ小耳に挟んだ強襲戦車競技とやらでもやっていれば良い。
先輩方の築き上げた知波単学園の伝統を崩してしまったのではないかと、不安で仕方がないのである。
「私のような若輩な未熟者如きが隊長になっ「そんなわけありません!」!?」
見れば福田の眼には涙が浮かんでいた。
どういうわけだか、私は彼女を泣かせてしまったようだ。どうしよう。
「西隊長は、我々知波単学園戦車道科の力そのもの! 私達は、西隊長だからこそあの作戦に従ったのであります!」
「⋯⋯福田」
「我々の隊長は、西隊長しかいないのであります!」
そこまで言うと、福田は途端にあわあわと慌て始めた。
ふふふ。いや、良い。そこまで言われたのならば、応えるしかあるまい。
「
「はいであります、西隊長!」
そうと決まれば、二回戦の為の準備だ。モッティ戦術とやらを得意とする継続高校との戦いが、苦戦しないはずもなし!
だからこそ滾る!強敵だからこそ、打ち破るために突撃する。突撃するために活路を開く。活路を開くために策を練り、修練を積むのだ!
さあ、待っていろ継続高校!我ら、知波単学園がいざ往かん!
◇
カンテレの風情ある音色が響く。
戦場に迸るは厳かでありながら、その時を今か今かと待ちわびる闘志の波動。
気合十分、戦意昂揚の極み。
「あの黒森峰と闘わずに済んだこと、安堵していたのだけれどね、
「その安堵、いつまで続きますかな?」
「いやいや。もう、安心はここにはないさ。君達は、
―――私達が打ち破るべき最大の障壁だ」
ああ、なるほど。これは、強敵だ。
だが、それでも
「各員、戦闘準備ッ!! 敵は、継続高校也ッ!!」
我が校の進展の為、いざ、突撃。
目指すは二回戦突破。
―――否、遥かなる栄華への道であるッ!!
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