統帥絹代さん   作:B・R

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ううん⋯⋯尺と文章力()


中下・ヨセ砕撃ヲナーアリログ聖

砲弾が飛び交い、着弾した一撃が己の真横の地を抉り飛ばす。

そうそう当たるものではないとしても、はね上げた小石が頬に掠って血が垂れた。

だが、そんな些事を気にしている暇はない。

 

 

「辻小隊は細見小隊と合流、再編成し、出来うる限りTOGとマチルダ四輌を戦場から引き離せ!」

『了解!』

 

 

⋯⋯この展開は、拙い。

まさかTOG IIが出張ってくるとは思わなかった上、こちらは開幕早々に二輌を失ってしまった。

この期に及んであのような戦車を持ち出してくるとは⋯⋯心理戦においても、我々は一歩劣っていたか。

高所で戦いが始まったのを確認し、総員を見回す。

 

 

「⋯⋯傾聴! 細見と名倉の仇を討つ! 動じるな、急いては同胞の決意を無駄にする! 絶対に、奴らの鼻を明かすぞ!」

 

 

緊急時ではあるが、我々の練度は統率という面においても高い。どうにか混乱を収めることはできた。

しかし、相手の主砲に対してこちらの装甲はあまりにも無力。速度を活かして突破し、戦線を立て直そうにも、その為には誰かが犠牲にならねばなるまい。それは、潔い覚悟のある彼女らにとっては何ら苦ではないだろうし、彼女らの練度はそれを必ずやり遂げられる程に高いのも、私は知っている。

 

 

「⋯⋯西隊長、進言を!」

「どうした、玉田」

「今度こそ、私の隊にやらせてください。私にしかできないことを、私に!」

 

 

はっと息を呑む。

悔いはないのか、そう聞こうとして愚かな己の口を閉じた。

彼女の眼は、そんな言葉を望んではいない。もっと、別な私からの何かを求めている。

 

 

「⋯⋯玉田、その意思、確かにお前の胸の中に在ると見た。愚かな私の尻拭いをさせること心苦しさの極みではあるが、ここは、お前に任せる」

「ありがとうございます! 西隊長のお役に立てることこそが、我らの本望! ここまで連れてきて下さり、ありがとうございました!!」

 

 

眩しいな。

私は、事ここに至って、慎重になりすぎていたらしい。大統帥だなんだと言われてはいても、所詮私は対戦校の隊長の言葉に心を乱される程度の小娘でしかない。

 

⋯⋯いいや、隊長である私がそれだけで終わっていいはずもなし。

 

ここまでついてきてくれた皆の為に、私が一層の努力を見せずしてなんとする。

 

 

 

「福田、玉田、辻先輩⋯⋯同胞達よ、この戦いに勝つ」

『⋯⋯応』

「勿論です」

「御助力するであります!」

 

 

 

私は、隊長という立場でありながら知波単学園の名誉あるチハを降りて、辻先輩から譲り受けたこのチトに乗っている。

 

 

何ら恐れることは無いのではないか(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

私は、数多の先輩後輩同輩達から信を受けてこの座に着いた。そして、同胞達はどこまでも本気で私に命を捧げてくれている。

 

 

これ以上の無様を晒すわけにはいかないの(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ではないか(・・・・・)

 

 

私は、黒森峰と継続を打ち破り、西住さんとの対戦の誓いを立ててこの戦いに望んでいる。試合前には、ダージリンさんと素晴らしい戦いにすると約束した。

 

 

何よりも(・・・・)私を裏切ることはできないのではないか(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

「⋯⋯!!」

 

 

全身が沸騰するように熱い。

だが、頭はどこまでも冷たく冷ややかで冷静だ。これが、我が最高の状態。これ以上は望むべくもない。

これからやることを、無線で全体に告げる。勝つ為であると知っているからか、異論も反論も無かった。

 

 

 

「玉田小隊、後進の為、突撃を敢行する!!」

「「応!!」」

 

 

 

右舷、九輌のマチルダがじりじりと躙り寄る中、建物によって包囲網に隙が出来たその瞬間。

玉田は、その好機を見逃す程に鈍感ではない。

しかし、聖グロリアーナもそれを待っていたとばかりに火力を集中。何発かを掠らせながら、玉田小隊は戦場を走り抜けた。

 

 

三輌のチハと三輌のマチルダが相打たんと衝突する。

 

 

 

 

「―――我・身・無・用ッ!!」

 

 

「総員、突撃ィ!!」

 

 

 

通り抜け様に、攻撃を受けながらも生き残っていたマチルダを撃破。我々は、六輌を残して包囲網を突破することに成功した。

 

六つの白旗が上がる音を耳に、私は単身(・・)高所を目指した。

福田小隊と我が隊の二輌には、村の奥へと敵主力を引き付けるのを任せてある。あわよくば、建物を使って主力を各個撃破することも。

 

後は、私がどれだけの覚悟を見せられるか、だ。

 

 

「⋯⋯辻先輩、状況は?」

『⋯⋯マチルダを三輌撃破したが、こちらは二輌を持っていかれている。幸い、マチルダもTOG IIもこちらを見失っているため、マチルダは撃破可能だろうが⋯⋯』

 

 

やはり、チハの砲ではTOG IIの装甲を抜くことは出来ないか。

だがしかし、私ならば、チトならば撃破出来る。

 

辻小隊と合流した私は、木々の中を我々を探して進むマチルダとTOG IIを視認していた。

間近で見れば分かる。あれは、どれだけ時代遅れだのゲテモノだのと言われていても、我々にとっては脅威そのもの。よくもまあ、あのようなものを引っ張り出してきたものだ。

 

 

「辻小隊、マチルダをお願いします。TOG IIは私が責任を持って討ち取りますので」

「やれるのか?」

「やります」

 

 

不敵に微笑んだ辻先輩は、敵の様子を窺っていた久保田へと目配せすると、再度私に視線を戻す。

 

 

「少し、いつもの調子に戻ったな、西」

「はい。浮き足立っていただけ、子供が装いを一新して喜んでいただけですので。もう、迷えません」

「そうか」

 

 

彼女は、それだけ言うと戦車に前進を指示する。もう、私に言うことはないと、彼女は背で語った。

 

 

 

「⋯⋯西! いや、西隊長!! 我々の意思を、任せた!!」

 

 

勢いよく木々の間を抜けた久保田車は、マチルダに横合いから突撃すると砲撃。マチルダの撃破と共に、そのままTOG IIの直撃を受けて白旗を上げる。

砲塔を回転し、こちらへと砲口を向けた長物。だが、その砲、恐るるに足らず!

 

砲口が火を噴くよりも前に木々から飛び出したチハが、TOG IIの砲塔に砲撃。接射を受けたチハは吹き飛ばされ、TOG IIの砲塔は明後日の方向を向く。

 

 

 

「⋯⋯その意思、受け取った。チト、吶喊! 必ず、TOG IIを討つ!!」

 

 

 

その砲口が再度こちらを向くよりも早く。速く。エンジンが焼けついてでも、あの長物を討ち取るのだ。

 

全速力でその長大な車体へ横合いからぶつかる衝撃。放り出されそうになるのを気合いで耐える。

 

辻小隊の作り出してくれたこの好機を、逃すわけにはいかんのだ!

 

 

 

「撃てぇいッ!!」

 

 

 

四式の主砲が装甲に直撃。TOG IIは爆音を立て、白旗を上げた。そうなるのが定めであったかのように。

TOG IIを撃破したことで、汗がどっと吹き出す。閉じていた頬の傷口が開いて血が垂れたのを手で拭う。

 

周辺に敵影が無いことを確認し、待機を指示。無線を福田に繋げた。

 

 

「⋯⋯福田小隊、状況報告」

『マチルダ二輌撃破、こちらの損害は軽微であります!』

 

 

流れは、今や我らに有り。

その身を賭した勇士達の覚悟を無駄にしないためにも、私は采配しこの流れを掴まねばならない。

まだ、戦いは終わっていないのだ。

 

私にとっても、聖グロリアーナにとっても。

 

砲戦の音を遠くに聞きながら、私は前進を指示した。

 




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