「今日この日を待ち望んでおりました」
「はい、西さん。私こそ、西さんと戦うこの日を、今日を待っていました」
握手を交わす。勝っても負けても、などというわけではないが、お互いがお互いを認め合い好敵手として今日の戦いに臨むのだ。後腐れなど興醒めなことは抜きにしたい。
試合の詳細について最終確認をしてもらっていた福田達が戻っていくのを見て、みほさんに小さく礼をして列に戻る。
「それでは、これより第六十三回戦車道全国大会、決勝戦を開始します! 双方、礼!」
「「よろしくお願いします!」」
士気は上々。コンディションは良い。
大洗女子学園の車輌は、旗車のIV号戦車、ヘッツァー、八九式中戦車甲型、III号突撃砲、M3中戦車リー、ルノーB1bis、ポルシェティーガー、三式中戦車の八輌。それに対して、こちらは九七式中戦車チハが旧砲塔十一輌、新砲塔八輌の計十九輌に旗車の四式中戦車チトだ。
二十対八だが、これを過剰戦力だとは思わない。むしろ、これだけ揃えても揃え足りないとすら思っている。
「傾聴」
もう、私から言うようなことはほとんどないが、何も言わずに試合を始めるというのも味気ないだろう。
何より、私自身が皆に感謝を伝えたい。
「最後の戦いに臨む同胞諸君に、私からかける言葉はほとんどない。だが、ひとつ言わせてもらうならば。
―――我々の戦いが歴史を作る。我々の生き様が歴史を作り、我々の散り様が歴史を作るのだ。なればこそ、我々は歴史を刻むものとして、恥じない振る舞いを求められている」
結局、私達がどれだけ命を懸けようとも、戦車道は武道の域を出ない。戦争ではないのだから当然だ。
なら、ただの武道として戦車道に臨むのか?
否。断じて否である。
「我々は、知波単学園戦車道科は、今日この日、戦車道という歴史に我らの名を残す。名誉なことだ、栄誉なことだ。そんな諸君らを先導し戦えること、この西絹代、身に余る誉れとして、生涯胸に刻み続けるだろう」
この戦車道という道に命をも懸けてやろう。この道が、英霊達に顔向けできるものであるならば、この西絹代はどこまでも戦車道に邁進する。
戦車道に持てる熱意の全てを懸けようではないか。我々は、そうしてここまで来たのだから。
「総員にとって悔いのない戦いを要望する! 以上!」
チトに乗り込み、総員を見渡す。
⋯⋯結構。私が心配するまでもなく、良い顔だ。戦士の顔である。
「戦車、前進! 大洗女子学園を、叩き潰す!!」
「「応ッ!!」」
目指すは打倒大洗女子学園。優勝などは二の次だ。大洗女子学園に、西住みほに勝てれば私はそれで良い。
知波単学園戦車道科の戦いを、その覚悟の程を、この戦いで見せてやる。
「まず、我々は迅速にポルシェティーガーを抑える。辻小隊、福田小隊は偵察を頼む。指示は福田に委任する」
「応!」
「了解であります!」
旧砲塔三輌の三輌編成である辻小隊、旧砲塔三輌に新砲塔二輌の五輌編成である福田小隊の計八輌が隊列から離れていくのを見送り、我々は森へと向かう。
ポルシェティーガーは硬い。その上、あの一撃は我々の主力であるチハを容易く抜ける。八輌でポルシェティーガーを潰し、本隊十二輌でゆっくりと敵を削っていく。
「玉田小隊、細見小隊は全周警戒しつつ山へ行け。我が小隊は市街地へと向かう!」
「「了解!」」
我々は小回りが利き、機動性においては利がある。しかし、火力と装甲は四式以外心許ない。相手が旧式戦車の集団であろうとも抜けない時は抜けない。その上、大抵の砲撃は通してしまうのがチハだ。一撃も油断ならない。故、遮蔽物の多い市街地を取る。
玉田、細見の六輌には高所を取って、大洗が市街地から退却した場合に挟んでもらう。
『こちら辻、福田混成小隊! 敵車輌、八輌全てを視認! 山地へ向けて直行している!』
「⋯⋯何を考えている⋯⋯? 昔ならばいざ知らず、今の我々相手に高所を取りにかかるなど⋯⋯」
『今、旗車を含む六輌が森へと入って行きました! M3中戦車リー、III号突撃砲は依然進行中! 旗車を追いかけますか?』
そうか。恐らくは六輌で森の中での奇襲戦術、誘いに乗らずに二輌を追い掛けた場合は後ろから挟む、と。手数の多いM3中戦車リーと、III号突撃砲で山地から狙われたなら無視は出来ないからな。どちらに転んでも、それなりに手傷は負う、か。
「⋯⋯旗車を追いかけろ。誘いに乗ろうではないか」
『了解であります!』
「玉田、細見。絶対に高所を取らせるな。二輌とも倒す気概で行け」
『了解!』
後は練度の高さと意地がものを言う。
練度の高さでは負けるわけもない。大洗の気合いの入り方は目を見張るものがあったが、我々とて気合いと覚悟で負けるつもりはない。
後のことは同胞に任せ、我々は市街地を⋯⋯とも思ったが、敵に背を見せるのは面白くない。
「総員、停止! 有事に備え、ここで待機する」
これは、私と西住みほとの戦いだ。誰の命令であれ、私達の戦いは邪魔させなどしない。それがたとえ、学園長の期待であったとしても、だ。知波単魂は、戦車道に戦争など望んではいない。
むしろ、敗北してでも気高い戦いをこそ求めるはずだ!
『西隊長、こちら福田! 大洗、森の中で煙幕を用いた奇襲戦を展開する模様であります!』
『西隊長、こちら細見! M3中戦車リー及びIII号突撃砲も高所にて煙幕を張っています! 指示を!』
そう来るか。ただの奇襲戦でなく、こうも煙幕を用いてくる辺り、従来の戦車道戦では見られぬ戦い方。それでこそ、我が好敵手!
「両小隊、そのまま戦闘を開始せよ!」
この様子では、我々が戦うことになるのはまだ先になりそうだな。
次はどのような手を打ってくるのか、予想が出来ない。面白い。これぞ、新西住流⋯⋯!
◇
「カバさんチーム、ウサギさんチームは出来る限り敵を倒し、時間を稼いでください。カモさんチーム、アリクイさんチーム、レオポンさんチームは共にここで敵車輌を奇襲、アヒルさんチームとカメさんチームはアンコウと共にこの森を抜け、敵フラッグ車とその取り巻きを奇襲します」
「西住殿、大統帥はこの誘いに乗ってくるのでしょうか?」
「はい。きっと、西さんは高所を取ろうとしてくるでしょう。同時にポルシェティーガーを撃破しようと躍起になるはずです」
確信はない。でも、確証はある。
高所を取ってしまえば、私達は市街地へと向かわなければならなくなる。そうなれば、市街地は機動力の高い彼女達にとって最高の戦場だ。私達は各個撃破され、市街地からも敗走する羽目になるだろう。そこで私たちを挟撃する。そんな事態を打破出来るポルシェティーガーを真っ先に撃破しようとするのは当然だろう。ならば、私達は意表を突かなければならない。
きっとこの作戦で問題ないはずだ。問題ない、はずなんだけど。
「⋯⋯もくもく&バタバタ作戦、開始します!」
なんだろう、この違和感は。
西さんが、必ずこういう風に出るって納得してるのに、何かを見落としてる⋯⋯そんな感じ。
いったい、何が⋯⋯。
言い知れぬ不安に思考を巡らせていたその時、森の方から一つの大きな砲声の後、連続した砲声が七つ聞こえてきた。
『隊長! こちらレオポン、履帯破損! 動けません!』
「⋯⋯え⋯⋯?」
その報告は、あまりにもいきなりで、予想だにしていないもの。
こんなにも早くこちらが損害を被るなんて思ってもみなかった。
『こちらカモ、煙幕を張っているのにしっかり狙われてます!』
「落ち着いて! 状況を報告してください!」
まさか、西さんが直々に?
でも、そんなはず⋯⋯。西さんは、緊急時と終盤以外ではあまり自らの隊を出さない。だからこその戦術予想だったけど⋯⋯。
『敵、森の中を二列で走行中! 全方位に対応してて撃ったら撃ち返してくるので、迂闊に砲撃出来ません! フラッグ車はいない模様!』
『あれじゃ、まるで装甲列車だにゃ!』
「⋯⋯そうか、二列を崩さず両側面を窺い続けて煙幕の中を虱潰しに⋯⋯!」
場所が平地でなければこんなことは出来ない。でも、知波単学園の練度の高さと機動力なら⋯⋯。
「カモさんチーム、アリクイさんチーム、煙幕を焚きながら、敵を誘導してください! レオポンさんチームは、危なくない範囲で履帯修復を急いでください!」
『『了解!』』
まだ、試合は始まったばかりだ。いくらでも立て直すことはできる。何より、こんなので終わりだなんて、笑い話にもならない。
私は、私達は勝つためにここまで戦ってきたんだ。廃校を阻止するため、みんなと戦車道を続けるため。そして、西さんに勝つため。なら、勝つためにはいくらでも策を練る。それが、私にできること。私にしか、出来ないことなんだから。
私達の戦車道は、こんなものじゃない。
絶対に、負けたくない。
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