次回、決着。
「呵呵!! 好い! 流石は我が好敵手でありますなぁ!!」
仲間の履帯修理を待つその心意気。賞賛に値する。攻撃などさせん。それは、我が好敵手への不義。
何より、我が熱意に嘘をつくことに他ならぬこと也!
福田のチハがこちらに向かってくるのを視界に収め、私は西住みほ達から目を離す。
「西隊長、残存十八輌揃いました!」
「良し、待機だ」
「了解であります!」
あちらは残り七輌。こちらは残り十八輌。
数の利は依然としてこちらにある。あちらの方が市街地には近いが、遭遇戦はこちらとて十八番のひとつ。今、祖霊達の加護を受けている我々からすれば、俄然、負ける気がしないな。
しかし、ここは今一度士気を上げておこうか。
「諸君傾聴!」
外套をばさりと翻しながら振り返る。帽子を被り直し、全体を見据える。
これ以上ないほどに我々の士気は高い。
「私は諸君らの勇み戦う姿をこの上なく好ましく思う。高潔な知波単魂を持った諸君らの進撃する姿、正しく英霊にすら匹敵し得るだろう!」
英霊、祖霊の皆様方の勇姿に、伝え聞くその生き様に私は憧れて焦がれた。その結果、今、大統帥とすら呼ばれるようになった私が居ると言っても過言ではない。しかし、今を生きるのは我々だ。彼女達も例には漏れない。
だからこそ、私は彼女達の事情を話そうと思う。
「彼女達は、たった今廃校の危機に瀕している!」
学園長から聞いた話だ。大洗女子学園は今年度末で廃校となる。我々もここで戦果を挙げなければ廃校となるやもしれぬと、学園長は嘆いておられた。あの焦り様はそれ故にかも知れない。しかし、そんな些事はどうだって良い。至極興味の無い話だ。
「だが、彼女達は、今我々と戦っている最中もその戦車道への熱意を失っていない! ただ、己らの学園を守るための尖兵へと成り下がってなどいない!」
普通なら、大洗女子学園の境遇であるならば諦観に支配され投げ出しこそすれ、ここまで戦い抜くことなど出来はしないだろう。私自身、西住みほと同じ立場であったなら、ここまで辿り着くことは不可能だと断言する。
だが、彼女たちはここまで勝ち進んできた。
そしてそれは今もだ。
「諸君、私は勝ちたい。彼女達の熱意を、彼女達の想いを踏み躙るとしても、私は勝ちたい。私の我儘を貫きたい」
なんて醜くて、卑しい勝利欲求か。
我ながら反吐が出る、唾棄すべき願望。有り得ない、でも、曲げられない。曲げたくはない。
「こんな低俗な私ではあるが、諸君らと並び立つことが出来て身が引き締まる想いだ。故、私は今日この日に全てを使い果たし、祖霊と、そして今日この日戦っている皆に顔向けできる西絹代にならんと、戦い抜く所存である」
これは一種のけじめ。彼女達の戦車道を魅せられ、ならばと意地を張った私の声明。
これに応える者がいなくとも大いに結構。上の命令として従わせるまでのことだからだ。だが、私は彼女達の応えが聞きたい。
「西隊長。不肖福田、以下知波単学園戦車道履修生全員は、貴女の悲願のため、総力戦、玉砕すら辞さない覚悟であります!」
「然り!」
「やらいでか!」
「この日、大統帥の為に散りましょうぞ!」
「⋯⋯お前達⋯⋯」
思いは遥か昔に同じであったらしい。
私は、幸せ者だ。
「ここに我々の意思は一つとなった。進軍を開始する」
「「御意ッ!」」
エンジンを動力する。
目指すは市街地。道中のありとあらゆる障害は捩じ伏せる。
戦車は火砕流の中であろうと進むことが出来るのだ。ならば、道理に適っている。
大洗女子学園は、正しく火砕流すら凌駕する我が道最大の妨げ。障害には、この大統帥の名において相応しい天誅を与えてやろう。
◇
森の中で息を潜める。
道を挟んだ向こう側のカメさんチームとカモさんチームにアイコンタクトを送り、カモフラージュ用の木々を車体に被せる。
「みぽりん、皆配置に就いたって」
「分かりました。これより、バッサリ作戦を開始します。全車両は、レオポンさんチームの発砲まで待機してください」
橋を越えた向こう側にはカバさんチーム、アヒルさんチーム、ウサギさんチームがスタンバイしている。
「この作戦の肝心な部分は、決して深追いしてはいけないことです。相手車輌の数を減らすことに尽力してください」
『了解しました!』
『了解です!』
『りょうかーい』
『心得たぜよ』
『分かったよー』
『分かりました』
それから少しもせずに、その時は訪れた。
何輌分ものエンジン音。地響きの音。迂回路よりも、迅速に橋を越えて来るだろうことは予想していた。
だから、こんな策を取れた。
「⋯⋯二、三、四⋯⋯」
五輌目のチハが橋を渡ろうとしたその時、轟音が響く。橋の崩れる音、重たいものが地面に落下する音。
そして、いくつもの砲声。白旗の上がる軽快な音が四つ響いた。
「二輌撃破。攻撃の手を緩めないでください」
『こっちも二輌落としたよー』
アナウンスによる撃破報告が立て続けに響き渡る。今の一瞬で四輌、落ちて撃破扱いとなった車輌も含めれば五輌か。目視出来る残存車輌は向こう側に二輌、こちら側にも二輌。ここで殲滅出来れば大きく差を付けられる。
バッサリ作戦の内容は、橋の手前と越えた所の二箇所に三輌ずつ配置。遠方からのレオポンさんチームの砲撃で橋を落として、戦列を分断され乱れた上、後退出来ない知波単学園を包囲殲滅するというもの。
「了解です。そちら側の車輌はなるべく全車撃破してください」
『根性で殲滅します!!』
『御意!』
ここに大統帥西絹代は居ないと思う。いや、居ないって断言出来る。あの人は市街地へと一足先に赴いているに違いない。そして、ここにこちらの戦力を削ることが出来る精鋭も置いている。必ず。
『きゃぁあ!』
一輌、動きの違う車輌があった。チハ旧砲塔。そして、そのキューポラから顔を出している女性に見覚えもあった。
『こちらカモ、やられちゃいました』
「大丈夫です、それより怪我はありませんか?」
『大丈夫です! 皆様の健闘を祈ります! 冷泉さん、約束は守るから! 後はお願い!』
アナウンスによるB1bis、カモさんチームの撃破報告を聴きながらカモさんチームに怪我はないか確認するが、幸い、誰も怪我はしていないらしい。それに、激励で麻子さんもやる気が漲っているようだ。
ならば、今は目の前の強敵に注力するのが最優先だろう。
「辻つつじ先代隊長⋯⋯」
「彼の軍神にこの名を覚えてもらえていたとは光栄だな!」
練度という面において、単体戦力としては申し分ない選択だろう。
ここで、全員でかかることこそ、今においては相手の思う壷。一輌を当てて、全車でこの場を離れることが最善にして必須の動き。
問題は、誰にその役を全うしてもらうか、だよね。
逡巡する時間は無い。一瞬で決めるしか、ない。そして、この場において、この役を任せられるのは⋯⋯。
『西住ちゃん、ここは私達に任せてもらって良いかな?』
『あの女とは何やら似た何かを感じるのでな。私達が倒しておく』
『だから、皆は先に行っててちょうだい。私達なら、大丈夫だから』
「⋯⋯分かりました。お願いします」
振り返らない。
去り際に、こちらを追撃せんとする一輌を撃破し、私達は市街地へと向かう。カバさんチーム達の方も二輌を撃破してくれた。
作戦は、成功した。
「⋯⋯絶対に、大洗を。会長達の想い出を、私達の戦車道を⋯⋯!」
「潰させたりなんてしない。勝つんだ、知波単学園に」
神妙な面持ちの沙織さんの言葉に続く。
大洗の軌跡を、途切れさせたりなんてしない。会長達の想い出を蔑ろになんてさせない。私達の戦車道を、私達の熱意を、死に際の輝きだと誰かの語り草になんてさせない。
私は、仲間の為に濁流に飛び込んだあの日、単なる西住流の予備から
サンダースは草原に伏した。アンツィオは丘陵に散った。プラウダは白雪に埋もれた。継続は砂漠で討たれた。聖グロリアーナは村落で砕かれた。黒森峰は山岳で倒れた。
そして、今残っているのは知波単学園と大洗女子学園。西絹代と西住みほ。
今となってはお姉ちゃんの率いる黒森峰に勝つことは不可能となってしまったけど。
私が私であることを、私の戦車道が本物であることを証明するには、知波単学園に、大統帥に勝つしかないんだ。
チハ旧砲塔及びヘッツァーの撃破アナウンスを耳に。私達は市街地への道を急いだ。
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