統帥絹代さん   作:B・R

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プロローグ。劇場版、開幕です。
新しいタグが全てを物語る。


大統帥絹代、修羅ノ道程。
プロローグ


カーテンが閉じられ光が遮られた暗い部屋、目の前の画面には足を組んで腰掛け、外套を肩掛けにした少女が映し出されていた。

画面越しにも、その洗練された佇まいから滲み出る指導者の風格が伝わってくる。

 

 

Buon giorno(こんにちは、) o(もしくは、) Buona sera(こんばんは)。知波単学園戦車道科の諸卿ら、初見となる。こちら、ドゥーチェ・アンチョビだ。まずは、諸卿らと共に戦えること、心より嬉しく思うことを伝えさせて欲しい』

「ドゥーチェ⋯⋯総統か」

『まず身の上から話そう。私はアンツィオ高校にて、戦車道チームを指揮している身ではあるが、それと同時に一人の戦車道を嗜む女生徒でもある』

 

 

彼女の言葉一つ一つには、魔性の魅力があった。まるで、心から崇敬したくなるような情熱的な言の葉。

思い上がるつもりは無いが、彼女、アンチョビ総統は私と似た類の人間であるらしい。

 

 

『私は、大洗女子学園にも、黒森峰女学院にも勝ちたい。これは、私だけでなくアンツィオ高校の総意と受け取ってもらって構わない』

「ほう⋯⋯」

『このメッセージを聴いている、ということは少なからず私の熱意も伝わってくれていることと考える。カルパッチョ』

『はい。知波単学園の皆様、ドゥーチェ・アンチョビの補佐を務めさせて頂いておりますカルパッチョと申します、以後お見知り置きを。早速ですが、こちらをご覧ください』

 

 

後ろで控えていた落ち着いた雰囲気の金髪の少女が、手元の旧式機材を操作する。スクリーンに映し出されたのは、戦場の見取り図。

 

 

『大洗の地形は大洗女子学園に有利であると同時に、我々にとっても有利です。強豪黒森峰女学院に対しては大きなアドバンテージとなることでしょう』

『優れた知慧を秘める彼の大統帥絹代なら既に理解しているやもしれないが、ここで提案がある。心して聞いてくれ』

 

 

彼女とは、何やら縁がありそうだ。

そう、例えば明日に控えたエキシビションマッチ(・・・・・・・・・・)のように。

事務局まで届けられていたビデオメッセージを見ながら、私は薄く微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――『劇場版GIRLS und PANZER』大統帥絹代、修羅ノ道程。―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よもや、ここまで早く再戦の機会が巡ってくるとは思いませんでした」

「はい、私もです。エキシビションマッチがあること自体知りませんでしたから⋯⋯」

「ですが、私共としては僥倖。大洗さん、此度は我々が勝たせていただきますのでそのおつもりで」

「⋯⋯いえ、私達も負けません」

 

 

今回のエキシビションマッチ、本来ならば聖グロリアーナ女学院とプラウダ高校というベスト4の二校が大洗女子学園と黒森峰女学院の混成チームと戦うという催しであった。しかし、我々の決勝戦敗退を嘆いた知波単学園学園長先生がどうにかリベンジ出来ないかと戦車道連盟にまで掛け合い、結果的に順位だけで見た戦力調整もあって、知波単学園とアンツィオ高校の混成チーム対大洗女子学園と黒森峰女学院の混成チームという戦いになったのである。

 

 

「え、あのみぽりんと話してる人誰⋯⋯!?」

「容姿は先日戦ったあの方とそっくりですのに⋯⋯雰囲気が全く違います」

「二回しか会ったことは無いが⋯⋯流石に雰囲気が違いすぎるんじゃないか。姉妹か何かなのか?」

「いえ、どちらも西絹代の素ですね。アンツィオ高校のドゥーチェ・アンチョビもその類の方でしたし」

「あー、確かに。戦った後、この人誰!?ってなったもん」

 

 

遠くで西住さんのチームメイトの方が何やら話しているのが見えた。試合前の挨拶のため、そちらの方へと足を運ぶ。

 

 

「IV号戦車の搭乗員の皆さん、お久しぶりです⋯⋯と言っても決勝戦以来なのでそこまで日は空いておりませんが」

「あら、どうもご丁寧に。今日はよろしくお願いしますね」

「西絹代殿、よろしくお願いします!」

「未だに信じられない衝撃だけど⋯⋯よろしくお願いします」

「よろしく」

 

 

ああ、戦時の私とそれ以外の私との違和感か。得心の行った私は、彼女達に説明するために口を開く。

 

 

「大統帥の絹代も、いち知波単学園生徒の今の私も、同じく西絹代であることに変わりありません。違和感もあるとは思いますが、御容赦を」

「あ、いえいえいえ! 戦ってる時の絹代さんは凛々しくて格好良いと思いますし、今の絹代さんも気品と余裕があって、大和撫子って感じで良いと思います!」

「私も憧れます⋯⋯もっと余裕が欲しいです」

「華殿は今でも十分大和撫子だと思うのですが⋯⋯」

「むしろ、沙織の方が大和撫子らしさを得るべきだと思う」

「あー! 麻子酷い!」

「ふふ、あはははは!」

 

 

なるほど。前に大洗に単身訪れた時には掴みかねたが、簡単なことではないか。

彼女たちは素晴らしい人達だ。そんな彼女達がいるから、西住さんも強いのだろう。

 

 

「ふふ⋯⋯失敬。それにしても、西住さんは素晴らしいご友人をお持ちのようだ」

「はい。私の大好きな皆です」

「そうですね。そんな貴女達だからこそ、私達に勝ち得たのでしょう」

 

 

ですが、今回はそうはいきません。

私達は常に前に進み続けている。

そして、何よりも此度の戦いには盟友がいる。

 

 

「おー、皆もう揃ってるみたいだな!」

「アンチョビさん」

「ドゥーチェ・アンチョビ⋯⋯」

「西絹代、初めまして、だな。私がドゥーチェ・アンチョビだ! 今回は、よろしく頼む!」

「はい、よろしくお願いします」

 

 

差し出された手を握る。

なるほど確かに、どこまでも私と近しい。西住さんの軍神のような本能的な近さではない、もっと本質的な部分だ。

彼女は私と酷似している。この非戦時下でも。

 

 

「エキシビションマッチの前に宴会⋯⋯とも思ったんだけどそんな時間はなさそうだし、終わったら宴会するからそのつもりでな!」

「はい、楽しみにしてます」

「ああ、アンツィオの全力を振舞ってやる。勝っても負けても恨みっこなし。最後は美味いものを食べて楽しもう。⋯⋯ただし」

 

 

 

彼女の雰囲気が変わる。指導者特有の覇気を身に纏い、その声音には熱が灯る。正しく、ビデオメッセージでの彼女そのもの。

そう、酷似しているのは非戦時下だけではない。

戦時下でも、だ。

 

 

 

 

「―――勝つのはもちろんアンツィオだが、な」

「その通り。勝つのは知波単学園です」

「いえ、大洗です」

 

「―――いいえ、私達黒森峰よ

 

 

不意に聞こえた声。聞き覚えがあって、知らない声だ。

以前のような心酔しただけの駒の声じゃない。一人の統率者にして勇士の声。

 

 

エリカさん(・・・・・)

「みほ、こんなヤツらに負けるわけにはいかないわ。何より、黒森峰の隊長として(・・・・・)、大統帥には負けられないの。西住さんの想いを託された者としても、ね」

 

 

そうか。彼女も隊長となったのか。あの頃のまま、なんて有り得ないだろう。

それに、西住みほと彼女が並んで立つ様は、我が腹心の玉田、細見に通ずるものがある。

いったいいつ、西住みほと逸見エリカがそんな関係となったのか。興味が無いと言えば嘘にはなるが、それもまた些事だ。

 

 

 

「ならば、我々と貴方達は白黒つけねばならぬ、宿命的な間柄、ということですな」

「そうよ。だから、首を洗って待っていなさい」

「ああ、実に楽しみだ。それではな、軍神と虎よ」

「はい、また後で」

 

 

 

好敵手達との戦いに胸を躍らせながら、待機場所へと向かう。

この機会、逃してなるものか。何としてでも物にする。

 

 




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哀れアンチョビは大統帥西絹代に次ぐ二重人格族のドゥーチェ・アンチョビへと変質してしまった。
ここから、不定期更新になります。ここのところ不定期でしたが、単純に書くのが遅くなります。ご了承ください。

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