ところで、ガルパンの二次創作で一番難しいのってスナフキンロールじゃ⋯⋯。
段々と日が傾いてきた空を、大破したBT-42の上から眺める。
何気なしに鳴らしたカンテレの音色が、吹いた風にさらわれていった。
「負けちゃったねー、ミカー」
「そうだね」
今回の私達は、全力を尽くした。善戦もした、それなりには。
だけど負けた。
これは、当然の敗北だったのかもしれない。そんなものはないって断言したいけど、そう思えてならなかった。いや、負ける気はしなかったし負けるつもりもなかった。だけど、私達は物の見事に彼女⋯⋯大統帥西絹代に負けたのだ。
彼女率いる知波単学園との勝負を終えた私達は、次の旅に出るまでこの会場付近の空き地で少し休憩している最中であった。
「腹減ったなー」
「じゃあ、そろそろご飯にするかい?」
「またじゃがいもとベリー? やだなぁー」
「食べ物が人生の全てじゃない、要はそのひと時にどれだけ幸せになれるかが重要なんじゃないのかな」
私、アキ、ミッコの三人は母校である継続高校の学園艦を離れて旅をしている。時には無人島に漂流したりなんだりと大変ではあるが、それなりには満足のいく生き方をしているつもりだ。
まあ、高校自体にお金が無いため、そんな高校からすら離れている私達は万年金欠で食べ物すら満足に美味しいと思えるものを食べられていない。
そんな生活も慣れてくるもの。私に付いてきてくれているアキやミッコには感謝の念もある。
「そう言えば、知波単学園の隊長さん⋯⋯西さんだったっけ?」
「⋯⋯うん」
「西さんが少し待っていてくれって言ってたけど、何なんだろうね?」
大統帥西絹代、今回私達が戦った相手その人。西絹代なくして、今の知波単学園は語れぬと、少なくとも彼女と戦った者達はそう確信するはずだ。私もその一人である。
「どーしたのー? さっきから呆っとしてるけど」
「⋯⋯いや、なんでもないんだ」
今回の試合、こちらが隊を分けたのは単なるブラフであった。
本来はこちらの隊が二つに分かれていることを相手に確認させ、何か策があると誤認させるという小手先のもの。もう少し遮蔽物が多い地帯でやるものだが、今回は砂漠であったために簡略化せざるを得なかったが、往々にして人の心というのは惑わされやすいもので。
対黒森峰用に用意していた策であったそれを、今回完全なダークホースであった知波単学園用に急遽改変したもの、というのが真相である。
得てして、それは成功した。だが、それと同時にあの大統帥にとっては利用出来るものとしても認識されていた。
⋯⋯本当に、底が知れない。何をしてくるか分からない。
「⋯⋯西絹代⋯⋯か」
「お呼びですか、ミカさん。あ、こんにちは、フラッグ車の皆さん」
「あ、西さんこんにちは」
⋯⋯いつの間に。
噂をすればと言うやつで、私の後ろにいたのは件の大統帥西絹代であった。
知波単学園の制服に身を包み、その手には何かが入った紙袋があった。
「⋯⋯で、用事というのは何かな?」
「ああ、そうでした。継続高校様、此度の第二回戦、素晴らしき戦いをありがとうございました。知波単学園戦車道科所属生徒全員を代表して、この西絹代が感謝の旨を伝えに参りました」
ああ、なんだ。そういうことか。真面目な人、という印象は正しくそのものだったらしい。
彼女は頭を下げて礼をすると、人が好きそうな爽やかで凛々しい顔で手を差し出してきた。
⋯⋯うん、好ましい。とても珍しい人種だ。私としても、仲良くするのは吝かじゃない。
その差し出された手を握り返すと、彼女はささやかに力を込めて振る。
しかし、彼女は私の後ろに置いてあった籠いっぱいのじゃがいもとベリーを見て固まってしまった。
「⋯⋯それはなんでしょうか?」
「私たちの晩御飯」
「⋯⋯はい?」
心底理解が出来ないといった風の彼女は、試合中の大統帥と言われる勇姿とは真反対の少女のようであった。抜山蓋世の大統帥であったり、明朗快活な指導者の顔や、今のようないたいけな少女の顔⋯⋯彼女は色々な顔を持っている。
だからこそ、好かれ、尊敬されるのだろう。
力だけで支配した存在が永劫に栄えた試しが無いように、彼女が力だけであったのならばそれは長くは続かない栄光に過ぎない。しかし、彼女はとても人間らしい指導者のようだ。故に、西絹代という隊長は慕われているのだろう。
「晩御飯、というのはこのじゃがいもと果物のことでしょうか?」
「うん? まあ、驚くかもしれないけど、私達は長い間これで生活してきたし今更苦でも⋯⋯うん、ないよ」
「⋯⋯苦しいよね」
「じゃがいもとベリーは嫌だ」
⋯⋯だから、そんな憐れむような目で見るのはやめてくれ。
そんな思いが伝わったからなのか、彼女は私の顔と籠とで行ったり来たりしていた眼を私に向けると、徐ろに口を開いた。
「よろしければ、これをお受け取り下さい」
「これは?」
そう言って彼女が差し出してきたのはその手に持っていた紙袋。どういう風の吹き回し⋯⋯いや、ただ単に優しいだけか。しかし、一体何が入っているのだろうか。
「お土産と思い買っておいた、この地特産の美味らしいレーションなのですが、貴女達にお贈りします」
「ええ!? 本当!?」
「レーションだ! じゃがいもとおさらば出来る!」
「⋯⋯良いのかい?」
じっと彼女の顔を見つめる。
全くもって迷う素振りすらない。彼女は真剣な表情でその手袋をもう一度差し出す。他人の無償の好意を無下にするほど、腐った人間性であるつもりはない。受け取ると、彼女は嬉しそうに笑った。
「でも、どうして?」
「知波単は情けには厚いのです。昨日の敵⋯⋯まあ、先程の敵は今の友、というものです。何より、困っている人を見過ごすのは強くお淑やかで清い戦車道乙女らしくありませんから」
「⋯⋯ふふ、あははは! なるほどね。それが君の考え方か」
ああ、どこまでも逞しくて潔い。好い。とても好い。
⋯⋯だけど、その言葉は本当であって嘘だな。
キミの優しく高潔な少女の面はただの施しであるのだろうけれど、無意識的なキミの大統帥の面はそれを私達への
ああ⋯⋯どこまでも面白い。
西絹代、キミを何としてでも負かしてみたい。人生の大切なもの、それが詰まっている戦車道で、キミを打ち破ってみせたい。
「それでは、私は皆が待っていますので、ここら辺で」
「うん。ありがとう」
「レーション、ありがとうございました!」
かなり大量のレーションのセットを見ながら、アキとミッコが喜ばしげに一つ一つを物色していく。
その間、私の頭の中を埋め尽くすのは、次の知波単学園との戦いの機会。
そんな私の様子を怪訝に感じたのか、アキが物色を中断して後ろから声をかけてくる。
「どーしたの? さっきから様子が変だけど」
「いや⋯⋯うん。そうだね。確かに、今の私はおかしい」
そういう私の様子になにか思い当たったのか、彼女は顔を赤らめて驚きの声を上げる。
「もしかして、好きな人でもできたの!? あのひねくれ者のミカに!?」
「うん、好き⋯⋯ではあるね。好ましい。だけどね、アキ。今の私にとって、この想いは何物にも変え難い熱意なんだ」
そこまで言うと、先程まで顔を赤らめながらくねくねしていたアキの顔も真剣そのものになっていた。
私達のことが気になって話を聞いていたミッコも同様だ。
「だから、アキ、ミッコ。
―――キミ達の力を、私に貸してくれないか?」
「⋯⋯うん!」
「おうとも!」
うん、やっぱりキミ達には感謝してもしたりないな。キミ達がいるからこそ、今の私がいる、のかもしれない。それが真実かどうかは、その時になるまでわからないけど、ね。
さあ、首を洗って待っていろ、大統帥。次は私達が勝ってみせる。
―――これは、私達
⋯⋯それはそうと、早速ご飯にしよう。
感想、誤字脱字報告お待ちしております。
アンケートの締切は、明日投稿の『アナザーサイド・大洗女子学園』に続き明後日に投稿する『アナザーサイド・先輩』までとします。
⋯⋯ちなみに、二番になると福田が旧チハを受け継いで覚醒します。
知波単学園への戦車の追加は必要ですか?
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1:必要。味方の戦車二輌を変更する。
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2:必要。大統帥の搭乗車を変更する。
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3:要らない。