統帥絹代さん   作:B・R

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あんこうチーム、覚醒目前。

でも、やっぱり作者の文章は日に日に酷くなっていく。


アナザーサイド・大洗女子学園

アンツィオ戦にて勝利を収めた私達大洗女子学園は、寄港先の大洗にてひと時の休息を取っていた。

私はと言えば、角谷会長と連絡船にある一室で今後の方針を詰めている最中である。

 

 

「西住ちゃん、取り敢えず次のプラウダ戦までに策を練らないといけないからね。頼んでばかりで申し訳ないんだけど、今回も頼んだ」

「⋯⋯はい」

 

 

後ろ背に手を振りながら部屋を後にする角谷会長を見遣りながら、私は小さくため息を吐いた。

サンダース大学付属高校を破り、アンツィオ高校を破ってどうにかこうにかここまで辿り着いたけど、去年、私達を破ったプラウダとの戦いともなれば今までのようなまぐれも含めた戦い方で勝ちを拾いに行くようなことは出来ない。

今の戦力で勝つための策を見つけださなくてはならないが、難しいを通り越して不可能にすら思えてきてしまう。

 

 

「⋯⋯どうしよう⋯⋯うーん」

「みぽりん、みぽりーん!」

「!? わわ⋯⋯落ち着いて。⋯⋯どうしたの、沙織さん?」

 

 

通路を駆け抜けて慌ただしく部屋に飛び込んできた沙織さんの背中をさすって落ち着かせながら、私は話を促す。

彼女がここまで忙しないのは珍しい。いったい何があったというのだろうか?

 

 

「知波単の、知波単学園の隊長っていう人が、みぽりんに用があるって!」

「⋯⋯知波単学園の⋯⋯西絹代、さん⋯⋯」

「知ってるの?」

 

 

 

西絹代、破竹の勢いで勝ち進む知波単学園の隊長。目下最大の壁であるプラウダ高校との戦いの後に待ち構えているであろうどちらかのうちひとつ。

聖グロリアーナ女学院が、ダージリンさん達が負けるようには思えないが、だとしても噂に違わぬ力を持っているのであれば私達の前に立ち塞がっても当然の存在。

不思議そうにする沙織さんに、実際に会ったことはない、という旨の言葉を伝える。

 

 

「今はカフェに案内して皆が相手してるけど、決勝で戦う前に一目お会いしたいって聞かないの」

「⋯⋯」

 

 

決勝で戦う前に一度会いたい。

なんという自信の表れだろうか。まるで、次に戦う聖グロリアーナ女学院戦での勝利は揺るがないとでも言いたげな言葉。

いや、もしかすればそれくらいの力を持ち得、ダージリンさん達を負かす算段が着いた上でのその言葉なのかもしれない。

 

⋯⋯これは、どうにも厳しくなりそうだ。

 

大統帥西絹代、ただ現れただけで、こうも私の心を揺るがすものなのか。

 

 

「⋯⋯分かった、会いに行くよ」

「うん、そうしてくれると助かる! じゃあ、早速行こう!」

 

 

沙織さんの後について、私は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

件のカフェについた私の目に飛び込んできたのは、気品すら漂うような優雅さでお茶を啜る、綺麗な黒髪の女性。

夕日に照らされたカフェの外の席なのに、どうして縁側が見えるんだろうか。いや、きっと彼女の雰囲気に呑まれてしまっているだけだ。

彼女とは別の席で座っている華さん達に目配せして、その女性の前へと出る。

彼女は、私の気配に気がついてゆっくりと顔を上げた。その凛とした黒い眼と視線が交差する。

 

 

 

「⋯⋯っ!!」

 

 

その瞬間、彼女の姿に、何か別の存在(・・・・)を幻視した。

まるで、彼女そのものと形容しても良いであろうその存在は、軍服に身を包み厳かに座っている。威厳というもの全てを集約したような、そんな存在感。私ではきっと太刀打ちできないであろうと気圧され、魅せられ、呑まれるような圧迫感。

 

しかして、私が呑まれるのは、他ならぬ彼女の声によって防がれた。

 

 

 

「貴女が、西住さんですね?」

「⋯⋯はい、私が大洗女子学園戦車道科隊長を務める西住みほです。貴女は⋯⋯」

 

 

西絹代は立ち上がると、綺麗に背筋を伸ばして一礼する。その所作は、正しく大和撫子⋯⋯いや、どちらかと言えばかつて映画で観た日本男児というものを彷彿とさせた。凛とした全体の雰囲気が、さらにそれを助長している。

 

 

「私は、知波単学園戦車道科西絹代です。此度は多忙の中、突然の来訪にも関わらずこうして機会を設けてくださり、感謝至極」

「い、いえいえ。私の方こそ、いつかお会いしたいと思ってました。今日は、遠くから遥々ありがとうございます」

 

 

礼儀正しい人で良かった。噂では、鬼神の如き強さと、豪胆無比な精神を併せ持った女傑であるとしか聞いていないから、一体どのような人物なのかと戦々恐々としていたのだ。

それで、西絹代さん。私が会話を促そうとして名前を呼びかけると、彼女は待ったをかける。

 

 

「私のことは西か絹代とお呼びください。西絹代は少しばかり妙な気分ですので」

「⋯⋯分かりました。それでは、西さんで」

「はい。ありがとうございます、西住さん」

 

 

満足気に頷いた彼女を見て、やはり、噂だけでは判断出来ないな、とつくづく思う。お姉ちゃんが敗北したというものだから、どのような人間なのか気になりはしたが、彼女ならば確かに私のお姉ちゃんに、お姉ちゃんの率いる黒森峰に勝てたのだろうな、と納得した。

 

 

 

それと同時に、勝ちたい(・・・・)と、どうしてか無性に私を駆り立てる熱があった。

 

 

理由は分からない。

いや、分かっている。お姉ちゃんを負かした相手に、私は勝ちたいのだ。敵討ちなんて弁えてないことを言うつもりはない。だけれども、私はお姉ちゃんを破った西さんに勝ちたい。純粋に、そう思った。

 

 

「⋯⋯西住さんは、私と同類のようですね」

「⋯⋯はい、私もそう思います」

 

 

そういう彼女の口元は、不敵な笑みを浮かべている。恐らくは、私も。

私と西さんとの間に、特にこれといった会話は必要無い。そう実感する。そう断言する。

 

 

「答えは得ました。決勝戦、楽しみにしておりますので。プラウダ戦、見に行かせていただきます」

「⋯⋯はい。そちらも、聖グロリアーナ女学院との戦い、頑張ってください」

「それでは、私はこれで。⋯⋯ああ、それと。代金は私が持ちますのでご心配なく」

 

 

そう言ってテーブルにお金を置くと、彼女は徐ろに立ち上がり、併設された駐車場に停めてあったバイクへと向かう。

すると、こちらに振り返り私達全員を見回すと一礼をして、跨ったバイクにかけてあったフルフェイスのヘルメットを被った。

そうして、彼女は過ぎ行く風のように去っていったのであった。

 

 

 

「⋯⋯西住殿、彼の御仁⋯⋯やはり一筋縄ではいかなそうですね」

「うん」

「やはり、噂に違わぬ高潔な方でしたね」

「かっこいい⋯⋯」

「確かにあれは強そうだ」

 

 

皆がそれぞれに彼女への印象を語る中、私は振り向いて皆の顔を見渡した。

確かに、印象なんかは大切だ。だけどそれよりも、私はもっと皆に伝えたいことがある。もっと直接的に、伝えたいことがあるんだ。

 

 

「沙織さん、華さん、優花里さん、麻子さん。私、あの人と戦いたい。そして、勝ちたい」

「そう言うと思ってたよ、みぽりん。うん、絶対に勝とう」

「沙織さんの言う通りです。元より勝つことだけを目指して進んできたようなもの。今更ですよ」

「⋯⋯そうですね。私も知波単学園(チハ)とは戦ってみたいです。潜入も行ってきましょうか」

「私も、知波単学園の連中とは競ってみたい」

 

 

皆、口々に言葉は違えども、心はひとつ。これならば俄然、負ける気がしない。

あんこうチーム、まずはプラウダ高校との戦いに向けて。

パンツァー、フォー。

 




感想、誤字脱字報告お待ちしてます。

知波単学園への戦車の追加は必要ですか?

  • 1:必要。味方の戦車二輌を変更する。
  • 2:必要。大統帥の搭乗車を変更する。
  • 3:要らない。

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