統帥絹代さん   作:B・R

9 / 19
満を持して。投稿30分遅れについては、申し開きもございません。


中上・ヨセ砕撃ヲナーアリログ聖

がたがたという揺れに、確りと砲塔の出っ張りを掴むことで耐える。振り落とされてしまえば一巻の終わり。冷や汗はなくとも、緊張は高まる。

はね上げた砂利が鉄の車体に当たりからからと音を立て、()に落ちた中程度の木の枝が水音を立てて川に突き立った。

 

 

「下に落ちれば脱落は必至。それどころか当たりどころが悪ければ、最悪の事態も考えられる! 早急に越えて、開けた地を目指すぞ!」

「これは、なかなか⋯⋯」

「あわわわ!」

「下を見るな! 後ろに下がるな! 前に進め!」

 

 

十五輌による山岳地帯の進軍。それは、混迷を極め思うようには進まぬ至難の道であった。

山の周り、その粗く舗装された道を一列になって進む。下は木々が斜面に生い茂り、川の流れは緩やかでありながらも衝撃を軽減出来るほどの深さはない谷。

戦車乗りと言えど、結局は年頃の乙女。怪我をするのは怖い。混乱するのも無理はないことだろう。

 

こういう時、辻先輩の喝程、我々を勇気付けてくれるものもない。その、我々のことを思った叱責が痛快なのだ。

これがあるから辛く苦しく黒星を重ねようと、我々は辻先輩の下で一年間やってこれたのだろう。

 

 

「全体、止まれ!」

 

 

しばらくして山道を抜けて十五輌が入っても余裕のある砂利の広場に辿り着いた我々は、三本に分かれたトンネルの前で止まった。

この先に主戦場となるであろう村落がある。この三つのトンネルの内、真ん中だ。しかし、その隣の二本を行った先には中央の村落を一望できる地点及び奇襲を仕掛けられる地点がある。このどちらもが、重要な位置。それは、逆に敵に取られてしまえば相応に厳しい展開になるという事だ。

開始地点で言えば我々よりも聖グロリアーナ女学院の方が近い。どれだけあちらの戦車が鈍足であっても、我々も山道に慎重になって時間を取られている。故に、猶予はない。

 

 

「辻小隊、細見小隊は二手に分かれて両箇所の占領を。玉田小隊、福田小隊は私の隊に続いてこのまま前進!」

「辻小隊、了解!」

「細見小隊、了解です!」

「玉田小隊、了解しました!」

「ふ、福田小隊、了解であります!」

 

 

辻小隊、細見小隊を見送り、視線を残った八輌に戻す。各小隊三輌の今回の編成は、十五輌となったことで戦術に幅が出来たゆえの判断。

 

⋯⋯福田は力が入り過ぎている。良くないな。

 

そっと玉田に目配せすれば、やはり彼女もそのように思っていたらしい。頷くと、口を開く。

 

 

「どうした、福田! 副隊長だからと、要らん緊張をしているのではあるまいな!?」

「玉田⋯⋯」

「西隊長のチハを受け継ぎ、辻先輩の座を先輩本人から任されたのだ! そのような体たらくでは困るぞ!」

 

 

流石に、それでは激励出来ていないのではないか?

少し短絡的で直情的に過ぎる嫌いがある玉田に任せたのは失策だったか。

 

そう思い、玉田に代わって福田を激励しようとした。しかし、その心配は杞憂のものであった。

 

 

「玉田、ありがとうであります! 私は、西隊長に戦車を託され、辻先輩の意志を受け継いだのであります! もう、情けない姿は見せないであります!」

「それでこそ、知波単学園戦車道科、西隊長の補佐を務める副隊長だ!」

 

 

そうか、私が思っていたよりも、彼女達は成長を続けていたのだな。私が心配し過ぎる意味は無かった。まさに僥倖。

 

 

「往くぞ、知波単学園戦車道科本隊、速度を上げ前進!」

「「はっ!」」

 

 

先の山道とは違い、比較的綺麗に舗装されたトンネルを往くこと数分。

光の漏れる出口、そして徐々に視認可能になる村落の姿を視界に収め、後続の全車に停止を呼びかける。

 

 

「ここから先は、慎重に行く。くれぐれも無理な突撃はしないように。勝利してこその突撃であることを努努忘れるなよ」

「了解しました!」

 

 

鞘に納めていた軍刀をゆっくりと抜き放ち、その輝きに想う。

 

この切っ先には、我が知波単学園戦車道科の全てが懸けられている。ならば、私はこの(戦車)と共に殉じ、仲間達の為に戦場で華々しく潔く屍を晒す覚悟が必要だ。そして、仲間達の命を然るべき時に果てさせる覚悟も。

 

 

「総員、戦闘準備! まだ、辻小隊、細見小隊による援護は期待できない状況故、マチルダ及びチャーチルを相手に、我々は現在の戦力で挑まねばならない。過酷を通り越して不可能に近い戦いではあるが、諸君らの奮闘に期待する!」

「「はっ!!」」

 

 

 

そうして、気合い良しとトンネルを抜けた瞬間。

 

 

目に入ったその光景に、視覚化した危機に。

 

 

私は咄嗟に声を張り上げていた。

 

 

 

「―――撃ち方、始め!!」

 

「総員! 前進!! 直ちにトンネルを抜け、建物の陰へ移動!!」

 

 

 

トンネルを抜けたそこに居たのは、九輌を超えるマチルダと一輌のフラッグ付きチャーチル。全車輌がトンネルの出口を囲む様に大きく配置され、その砲口を全て私達に向けて、砲弾を吐き出す。

いくつかの弾が車体を掠り、塗装を剥がして装甲に凹凸を生む。砲弾の雨の中を、一目散に民家の陰へと突き進めば、四式中戦車の車体は至る所に小さな損傷を受けていた。

しかし、あの場での後退は明らかなる愚。前に進むしかないのだ。

チャーチルのキューポラから出た可憐なその隊長は、紅茶を手に歪んだ笑みをたたえていた。

 

 

「もうここまでの布陣を敷いたのか⋯⋯流石は聖グロリアーナ、やりおる!」

「西隊長! 我が小隊が突撃を敢行し活路を開くことを進言致します」

「駄目だ。我々はこの窮地において出来ることがまだあるはず。それをみすみす見て見ぬふりなど出来ぬ!! 突撃は最大の好機に行え!」

 

 

確かに、砲撃の雨を民家を盾にして凌ぐ今の我々に出来ることは少ないかもしれないが、時が経って出来るようになることもいくつか存在する。

 

なにより、我々には、志を共にする同胞がいる。

 

ちらりと両斜面の上を見れば、そこには陣取った辻小隊と細見小隊の姿が見えた。

 

 

『こちら辻小隊。予定位置についた。指示を』

『こちら細見小隊、準備万端です。いつでも指示を』

「斜面を下り、敵を背後から奇襲。我々もそれに乗じて挟撃を行う。後、反転して敵を引き付けて村の奥まで進め」

『『了解!』』

 

 

いつまでも撃たれ続けるだけの私達ではないということを、思い知らせる。

機会については両小隊に一任している故、我々はただただ止まぬ砲撃の中を待つだけのこと。忍耐強く、我慢を知る人間こそが強い。

 

 

『今! 辻小隊、突撃ィ!!』

『続け! 細見小隊、突―――』

 

 

 

 

―――瞬間、爆音が響き白旗の上がる音が鳴った。

 

煙を上げる左方、細見小隊の方を見て嫌な予感に駆られる。

 

 

 

「どうした! 応答しろ、細見ッ! 辻先輩、状況報告を!」

『⋯⋯あ、ああ! 我々奇襲部隊、敵伏兵と交戦中。細見車及び名倉車が撃破された。敵車輌はマチルダが四輌、そして⋯⋯』

「⋯⋯ああ、こちらも、見えている」

 

 

斜面の上、木の陰にこちらからでもはっきりと分かるような異様な姿の存在。

私自身、アレ(・・)は初めて見た。何より、アレがここにあるとは、微塵も思っていなかった。

 

 

その戦車は、長大(・・)であった。

 

 

その戦車は、鈍足(・・)であった。

 

 

その戦車は、強力(・・)であった。

 

 

そしてその戦車は、何よりも長大(・・)であった。

 

そのようなイギリス製戦車、私は一輌しか知らない。

 

 

その戦車の名前は―――

 

 

 

 

 

 

 

「―――TOG II(・・・・)⋯⋯!!」

 

 

 

 

 

 

第二次世界大戦期におけるイギリス製の試作型超重戦車、The Old Gang(古いろくでなし)が、我々の前に立ち塞がった。




感想、誤字脱字報告お待ちしてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。