黄泉川家の日常   作:祖牙武

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それはミスるわ

「あらおはよう一方通行。珍しく早起きだなんて、健康思想にでも目覚めたのかしら」

 

 

ニートが何か言っている。一方通行の感想はその一つであった。目の前でオトナの女性オーラをかもし出している(と本人は思っている)女性の名は芳川桔梗。本来ならとても優秀な研究員であるはずなのだが、何を間違えたか現在は寝て食ってゲームするニートと化している。

 

 

「というか、朝から両手に花だなんてどこの貴族よあなた?」

 

 

「コイツらに花なンて形容詞が似合うかよ」

 

 

芳川が形容した通り、一方通行は左右に少女を侍らせていた。右から腕を絡ませている少女の名は番外個体。かつて一方通行を殺すために作られた軍事用のクローンだ。左から腰に抱きついているさらに小さな少女は打ち止め。こちらは軍事用クローンを統括する目的で作られたクローンである。二人にはいくつもの共通点があるが、ここで特筆すべきはどちらも過去に一方通行に命を救われたということだろう。

 

 

「今の言葉は聞き捨てならないねぇ、ミサカだってオンナノコなんだよ?」

 

 

「そうだそうだー!ってミサカはミサカは憤慨してみる!」

 

 

とはいえ、今の一方通行の言葉を寛容するほど惚気ている訳ではない。案の定、彼女達は騒ぎ出してしまった。

 

 

 

「花と形容されるよォな女は寝てる奴に落書きしたりボディプレスかましたりしねェよ」

 

 

「あれはあなたが起きないのが悪いんだよ!ってミサカはミサカは抗議してみる!」

 

 

「ミサカは未遂だし除外かな?」

 

 

「同罪だボケ」

 

 

まるでコントの様な会話からは、過去の闇は感じられない。彼らにまとわりつき続けていた禍根は既に無くなっていた。

 

 

 

「何ジロジロ見てンだ」

 

 

「いえ………変わったわね、一方通行」

 

 

芳川は見逃さない。彼が彼女達を既に受け入れている事を。この甘ったるい平和を大切に感じていることを。

 

 

「ふン……」

 

 

「ちょっとーミサカを放って勝手にオトナの世界に浸らないでくれるー?」

 

 

「放ってねェよ。オマエらの事考えてる」

 

 

「あらイケメン」

 

 

「そーゆー話じゃないんだけどな、ってミサカはミサカは煮え切らない気持ちを抑えてみる」

 

 

しかしこの平和は、朝から展開するにしては少々騒がし過ぎるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば黄泉川は?」

 

 

各々顔を洗う等を済ませた頃に番外個体が訪ねる。

 

 

「言ってなかったかしら?今日は早いって」

 

 

「じゃあ朝ご飯は芳川が作るの?ってミサカはミサカは訪ねてみたり」

 

 

ギクリと、であった。

その言葉を聞いた途端、芳川の肩が目に見えて跳ねる。

 

 

「ど、どうしたの?」

 

 

「……実は、愛穂から朝は頼むって、言われてたんだけど…」

 

 

歯切れ悪く話す芳川を中心に、不穏な空気が漂い始める。これは、まさか。

 

 

「………やっちまったのか?」

 

 

「やっちまったのよね………」

 

 

由々しき事態である。芳川、番外個体、一方通行の三人は最悪朝抜きでも問題は無いが、打ち止めにとっては非常にまずい。

 

 

「ごめんなさい、材料を無駄にしてしまったわ……」

 

 

「一体何をしたンだ?」

 

 

「愛穂から教えてもらった方法で炊飯器調理を」

 

 

「それはミスるわ」

 

黄泉川の炊飯器調理は教えてもらってできる物ではない。無意識的に魔術を使っていると言われた方が納得できるレベルの調理法を真似するなど無理がある。あの女、二つ名は炊飯の錬金術士なのではないだろうか。

 

 

「しょうがねェ、買ってきてやる」

 

 

一方通行が自分からそういった役をやるのは珍しい。まあ今回は朝抜きで駄々をこねる打ち止めをなだめるのとどちらがマシかを天秤にかけた結果に過ぎないが。

しかし今回の不幸はそんなものではなかった。

 

 

「じゃあどうするの?ミサカは料理できないよ?」

 

 

「聞いてたのか?買ってくるって──」

 

 

「流石に失敗した後でやる勇気は無いわ」

 

 

「だから買ってくるって──」

 

嫌な予感がする。ここは多少強引にでもさっさと買いに行った方がいいのではないか。そう思った時にはおそかった。

 

 

 

「じゃあ一方通行に作って貰えば良いってミサカはミサカは名案を出してみたり!」

 

 

「「それだ!」」

 

 

「それだじゃねェェェェェ!!!」

 

どうやら今日の最悪な朝は一味違うようだった。

 

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