策略にはまり台所へと放り込まれた一方通行であるが。
当然、彼は自分で料理などしたこともない。コンビニ飯か人に作って貰ったものが主食の彼にとって料理を任せられる事ほど困る事はない。とはいえ既に腹は括った。分からないのなら調べれば良いのである。幸い、朝食であれば手間のかかる料理を催促されることもない。どうにかなるだろう。
「まァ……焼くぐらいの行程しかねェ目玉焼きとベーコンを乗せたパンで良いだろ」
方針を固め、てきぱきと準備を進める一方通行。その手際は初めて料理をするにしては良い。今回作るものが簡単な事もあるが、元々彼が高いスペックを持つ故だろう。
(さて、まずはベーコンからか)
ネットで仕入れた知識通り、肉の油を利用するためベーコンから焼き始める。そこで彼の頭にある記憶が浮かんだ。
(そォいやいつだかの昼番組で料理は科学とか言ってたな)
彼の能力、一方通行は科学的な利用価値の観点からしても貴重なものである事は周知の事実だろう。そのベクトル操作を料理に活かす程度、簡単な事である。
(家ならバッテリーを気にする必要もねェ……せっかくだ、久々に能力を使ってみるとしよォか)
「おい、出来たぞ」
「あら、思ってたよりも早いわね」
「さーて、どんなシロモノか、な………?」
「えっ…………え?」
打ち止めと番外個体どころか、芳川までもが絶句してしまった。一方通行の料理があまりに酷かったから、ではなく、あまりに美味しそうだったからだ。ベーコンは一切の焦げなく、打ち止めの好みに合わせしっかりとカリカリに、完熟の目玉焼きは絶妙な火加減により白身が固くなり過ぎないようになっており、綺麗にクレイジーソルトが振りかけられている。
「あなた料理したことあるでしょ」
「いやねェが」
「嘘つけ!絶対これはプロだろ!」
プロ仕様なのは能力を使ったからであって、経験が無いのは嘘ではない。まあそんな事は些末な違いだが。
「どっちでも良いから早く食べたいってミサカはミサカは急かしてみたり」
「そォだ、さっさと食え」
「今度からは一方通行に料理を任せるのはどうかしら」
「ふざけンな」
そして食べ始めてすぐ、女性陣はまたも絶句することとなるのであった。
「ねぇ、今日の夜もあなたが作った方が良いんじゃない?特別なんだし」
プロ級の朝食を食べ終え、各々の雑談を楽しんでいた時、番外個体がこっそりと耳打ちをしてきた。
「あァ?なンでだよ」
「だってわざわざ花とかプレゼントも買うんだし、晩御飯くらい代わりに作ってあげても良いでしょ?」
もっともらしいことを言っているが要は自分が旨い飯を食いたいだけである。そしてそんな魂胆は当然一方通行も見抜いている。だから番外個体は魔法の言葉を使った。
「黄泉川に感謝してるんじゃないの?」
「チッ………」
ずるい言葉だ。しかも番外個体の本音も入っていない訳ではないのが特に。仕方がない、今日一日くらいは自分のプライドを捨てるか。そんな覚悟を決めた一方通行である。
「おい芳川、俺とコイツらは昼過ぎたら出かけンぞ」
「あら、本当に珍しいわね。今日はどうしたの?」
「ちゃんと理由があるんだよーってミサ」
「はいオチビちゃんは黙っててね」
いきなり口を抑えられた打ち止めは抗議の目線を向けながらもおとなしくする。肝心の芳川は一体なんのことか見当もついていないようだ。少し日付を確認すれば分かることであるのだが………やはり彼女は大切なものを失なったのかもしれない。