黄泉川家の日常   作:祖牙武

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ああっ!私の生命線!

ゲコ太ランド、と銘打ってはいるものの、某夢の国のように遊園地全体がそのキャラクターシリーズのものではない。どちらかと言えば、夢の国のライバルのように幾つかの作品のエリアに分かれているうちの一つである。よって一方通行らが現在いるのはまた別のエリアであった。楽しみは後に回した方が良いとは芳川の言だが、ソシャゲのキャンペーン対象エリアを先に回りたかっただけなことを一方通行達は知らない。ともあれその提案に打ち止めが乗ったため、ゲコ太ランドは後にまわされたのであった。

 

 

「さーて、早速遊園地を満喫するじゃん!」

 

「それじゃあ私はそこの休憩所で待ってるわね」

 

「…………協調性が大事とか宣ってミサカに釘刺したのはどこの誰だったかな?」

 

番外個体の鋭い声に芳川の肩がびくんっ!と跳ねるが、彼女はそのまま休憩所へ向かうのをやめない。目的の遂行(ソシャゲのコラボ)のみを考える人間はここまで強いのか。そして芳川は表情を整え、こう言い放った。

 

 

「私は大人だから良いのよ」

 

「良いわけないじゃんスマホ没収ー」

 

 

ああっ!私の生命線!などというダメな大人の声を聞きながら心底うんざりする一方通行。最初からこれでは先行きが不安過ぎる。そもそも一方通行は現在進行形で突き進もうとする打ち止めの首ねっこを掴んでいる。いきなり迷子とかメチャクチャ困る。

 

「なんで意地悪するのーっ!ってミサカはミサカは憤慨してみる!!」

 

「オマエを一人で行かせて迷子とか洒落になンねェンだよ」

 

「ミサカは迷子になんかならない!ってミサカはミサカは胸を張って主張してみたり」

 

「前科が二つほどあるンだがそれについてはどォお思いで?」

 

「頭ぐりぐりするのやめてーっ!!ってミサカはミサカはみぎゃー!!?」

 

 

ちなみにこの状況に一番辟易してるのは意外なことに番外個体であった。基本的に悪意を向ける、向けられることに慣れている彼女でも、連れが悪目立ちすれば羞恥心を抱くことはある。そして現在の彼らは周囲から完全に好奇の目を向けられている状態だ。正直このお出かけを楽しみにしていた番外個体は、珍しくため息をついていた。

 

(これだったらくろにゃんと二人の方が良かったかなぁ………)

 

 

悪意満点から、少し人間味の増した番外個体であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、まずはどれにすンだ?」

 

 

パンフレットに付属した地図を見ながら一方通行が言う。先ほどの件は、最終的に黄泉川の鉄拳によって芳川のスマホが粉々に砕けたため終結した。どんな諍いも永遠には続かないのだ。芳川は完全に意気消沈し一言も発しないが、誰もそれを気にしない。

 

 

「取り敢えずゲコ太ランドにないものを優先したいから………これなんてどうじゃん?」

 

一方通行の持つ地図を覗き込み黄泉川が指差したものは、学園都市でもトップクラスに怖いといわれるお化け屋敷であった。

 

「え?最初からこれにするの?フツー後にまわすと思うんだけど」

 

「何でも良いから早く楽しみたいってミサカはミサカは急かしてみる」

 

 

「行くから跳び跳ねるなうぜェ。………オマエ泣き叫ンで逃げたりするなよ?」

 

「のーぷろぶれむ!ってミサカはミサカは最近見た映画のセリフを真似てみたり!」

 

「すっげェ不安なンだが」

 

だが打ち止めの中で既に行くことが決定してしまった以上、取り消す労力の方が面倒くさい。方針は決定したも同然だった。

 

 

「それじゃあまずはお化け屋敷に行くじゃんよ!」


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