私、作者さん。今、小説書いてるの。   作:那由多 ユラ

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ぶつかったのは、私と背丈の変わらないの変わらない小柄で、茶髪でボブカットの少女だった。

 

意味のわからない英文の書かれたTシャツ、太ももすら隠せておらず履いている意味が無さそうなホットパンツ、耐久性に優れていることで有名な腕時計、厚底のスニーカー。

 

身につけているもの全てがこのファンタジー世界に似つかわしくない異物。

 

「痛ったた…大丈夫ですか?」

 

しりもちをついた私に手を差し出す少女。私は素直に手を取った。

 

「怪我とかありませんか?…いえ、あっても今の私にはどうしようもないんですけど」

 

「平気。そっちこそ、平気?」

 

「軽かったので転びすらしてませんよ。あ、私は菜氓(なたみ) 最央(もなか)といいます。最央が名前で、菜氓がファミリーネームですよ」

 

「そこまで言われなくても大丈夫。私も日本人だから」

 

「そうなんですか!?でも金髪…」

 

「染めてるだけ」

 

「あぁ、なるほどです」

 

私がいま考えるべきは彼女、菜氓最央はこの作品の何なのか、どうやってここに来たのか。

 

「それにしてもびっくりですよ。ファミレスから小説の世界にいるなんて。せめて準備くらいさせて欲しかったですよ」

 

「…小説?」

 

この作品は今は非公開になっているはず。読者なんて百人もいなかったと思うけど。

 

「あはは、多分知らないですよね。『ミリオン・ホープ』っていう、ネットに投稿されてた小説なんですけど、去年いつの間にか非公開になってたんですよね。二話までしか投稿されてなかったんですけど、私好きだったんですよ。だから実はちょっとこの世界に来れたのも嬉しかったりして」

 

…まさかの読者だった。確かに一人だけ感想をくれる人がいたけどまさかこの子か?

 

「ミリオン・ホープ、確か、数え切れないほどの希望に満ちた物語ってテーマで名付けたはず。もしかして感想をくれたチョコモナカさんって、あなた?」

 

「えっ、名付けた?チョコモナカは私のことだと思うけど………まさか、不可思議(ふかしぎ) 香椎木(かしぎ)さん御本人ですか!?」

 

『不可思議香椎木』

一応私のペンネーム。由来というか、元となったのは一番最初に書こうとした処女作にすらなれなかった小説の主人公の名前の流用。長いから手書きではあまり書きたくない名前。

 

「確かに、不可思議香椎木は私のこと」

 

「えぇ!?私ファンなんです!ミリオン・ホープにマッドアーティストはもちろんのこと喜劇シリーズは毎月楽しみにしてました!」

 

『喜劇シリーズ』

一話完結で五万文字程の短編小説。愉悦的喜劇から始まり、愚者的喜劇、楽天的喜劇、殺戮的喜劇、機械的喜劇etc…

全十作品投稿されている。すべてが暗い雰囲気から始まり、最後はハッピーエンドで終わることから、私の作品の中では比較的ファンの多い小説でもあった。

 

「私、読者の人と会うのって初めて。そんなに人気なかったはずだけど」

 

「私の周りではそんなことありませんでしたよ?SNSでの世間へのアンチテーゼも含めて学校では生徒、教師両方に大人気でした」

 

たしかに、一時期投稿した日は一時間に五百人近くに見られる日もあった。でもそれは、本当に一時期だけで半年と待たずして半分以下となった。確か、三月か四月くらいだったと思う。

 

「それはその、規制されちゃったんですよ。校長先生が変わって、その時にプチブームだった『不可思議香椎木』のことを知った校長が教育に悪いから読むなって。

…まぁ、私は家でこっそり読んでたんですけど」

 

「ふーん。

そういえばその服装なに?そのパンツ履く意味あるの?」

 

「えっ、ダメですか?これ」

 

「太ももすら隠せてないし、ちょっとずらせば大事なとこ見えそう」

 

「ずれないから大丈夫です!そんなこといったら不可思議さんもじゃないですか!」

 

「私は履いてないから」

 

「もっとダメでしょう!?よく見たら靴もスリッパだし!」

 

「お風呂上がりだったからね」

 

「なら仕方ない…のかな?あれ?」

 

ふむ。この子、話してて面白い。

 

「菜氓最央さん、この後行く所ってある?」

 

「えっ?いえ、ありませんけど。とりあえず冒険者登録して稼ごうかな~なんて思ってますけど。…やっぱ無理ですかね?」

 

「無理。一般人が魔物を倒すのは、素手で熊やライオンを倒すのと同じくらいには難関」

 

「でーすよねー。さ、どうしましょう」

 

楽観的かつ、諦め気味な最央。

勧誘チャンス!…かもしれない。

 

「良かったら、私のお手伝いとかしてみない?衣食住は保証できる」

 

「いいんですか!?」

 

よし釣れた。

 

「うん。身の回りの世話をしてくれる人が欲しいところだったし」

 

「お願いします!家事なら得意です!」

 

「ん、合格。じゃあこれからの私たちの家に案内する」

 

 

 

 

 

 

 

ところ変わってダンジョン201層。

 

入口の存在しないこの層には、レストラン『処女たる由縁』の裏に、私が来た時にだけ発生、発動するショートカット用の転移魔法を作り、ボツにし忘れている。

し忘れている。つまり、設定上は存在するが小説の内容には一切関わってこない機能ということである。…多分。

 

何はともあれ、無事に世界の外側にある201層に転移出来た私たちは、私が設定したとはいえ内装がどうなっているかはわからない設備を解説しながら周る。

 

 

「ここがキッチン。魔法的ななにかで常に色んな食材が置いてある。量は無限だから好きに使っていい」

 

「すごい広いキッチンです!家庭科室みたい!」

 

スイッチとレバーで火を調整するコンロ的なもの、中が常に冷たい冷蔵庫のようなもの、各種刃物、まな板、ざる、ボウル、その他色々と揃ったパーフェクトなキッチン。

 

 

「ここがお風呂」

 

「…なんでめちゃくちゃ広い空間にシャワーとドラム缶風呂がポツンと置いてあるんですか?」

 

「別に、水浴び出来ればいいかなって」

 

「妥協した上でのドラム缶風呂!?」

 

体育館のように広い空間の中央に円柱型の湯船と、そのすぐ近くにシャワーと蛇口に鏡。あとはただひたすらに大理石の床で、片隅にシャンプー類、タオル、ドライヤーが乱雑に積み重ねられた山が築き上げられている。

 

 

 

「ここは図書館。一番頑張った」

 

「本棚が浮いてる!?…あ、ラノベもある」

 

無数の本棚が宙をまい、本がこぼれ落ちては勝手に戻ってを繰り返している。

置いてある本のジャンルに偏りはなく、専門的なものから漫画、ライトノベルまで多種多様。

 

二人とも読書好きなことも相まって、無作為に手に取った本によって三時間ほど図書館にセルフ拘束されることとなった。

 

 

 

「…ここは小説を書く部屋。広いし、良かったら書いてみる?」

 

「ぜひ!色々教えてください!」

 

「ごめん無理。これは自論だけど、創作はゼロから最後まで自力でやるべき」

 

「基礎だけでも!」

 

「日本語、書ける?」

 

「書けますけど…?」

 

「なら大丈夫。世の中にはセリフだけで構成されたものを小説と言い張らない狂人もいる」

 

「…言い張らないんですか?」

 

「本人が小説か怪しいって明文化してるから」

 

「ほへ~」

 

お風呂場と同じく広い部屋の中央にはテニスコート並の大きい机、捻るとインクの出てくる蛇口、万年筆や筆、羽根ペンの入った無数のペン立て、いくら使っても使い切れそうにない箱詰めされた紙束、本の入っていない本棚。本当に本を書くのに必要なものだけで構成された部屋。

 

 

 

「ここは、トイレ」

 

「便器まで遠いとか、便器がでかいとか予想してたんですけど普通ですね」

 

「そんなことしたら使いにくいでしょ?」

 

「なんか納得いかないです!」

 

いかにも普通なトイレ。あえて特徴を述べるならさらに扉が続いていて、その先にはトイレットペーパーのピラミッド1:1が完璧なバランスで積み上げられている。

 

 

 

「ここは……寝室」

 

「枕しかありませんよ?不可思議さんも一瞬なんの部屋かな?って思いましたよね?ね?」

 

「菜氓さん、枕ぬき」

 

「独特な仕返しはやめてください!」

 

お風呂場ほどではないが広い部屋で、床全体が硬すぎず柔らかすぎずのちょうどいい硬さのマットレスになっている。床そのものがベッドで、寝る以外のことにはあまり使えそうにない部屋。

 

 

 

「ここは、えっと…」

 

「クローゼットですか?」

 

「そうそれ、そんな感じのやつ。ここに無い服は無い。っていう設定」

 

「確かに色々ありますけど…」

 

「好きな物を着るといい」

 

和服、洋服、中華、水着、コスプレetc…

有名なもの、定番なものから民族衣装までありとあらゆる衣服が揃うこの部屋は図書館に負けず劣らずの超広大エリア。

 

 

 

「あとは、空き部屋が沢山」

 

「部屋を見て回るだけなのに、すっごい疲れたんですけど」

 

「なら小説を書けばいい」

 

「さらに肉体にムチを打つんですか?」

 

「…?」

 

「あ、だめだこの人。一般人でいうところの睡眠とかお風呂が執筆と同列になってる」

 

「…?

小説さえ書ければお風呂も睡眠も要らない」

 

「お風呂にはちゃんと入ってください!…なんか、魔物倒すよりこの人のお世話する方が大変な気がしてきました」

 

「放っておいてくれても構わない。たまにご飯作ってくれれば」

 

「毎日食べさせますからね?」

 

「ま、毎日!?一週間に一度とかじゃなくて?せめて三日に一度とか」

 

「なんでそこで一番狼狽えるんですかぁ…

そんなだから背も小さくて痩せてるんじゃないですか?」

 

「あなたも大して変わらないと思うけど」

 

「私は両親ともに低身長でしたから、多分遺伝です。ちなみに年齢聞いてもいいですか?」

 

「いいけどたしか…………16?15かもしんない」

 

「うそ歳下!?私、17なんですけど」

 

「じゃあ私、小説の続き書くから。明日卵かけご飯お願い」

 

「せめてサラダとお味噌汁も用意させてください」

 

「…用意するだけね」

 

「手足縛ってでも食べさせます!」

 

「…人選ミスったかも」

 

「なんとでも言ってください!何を言われようときちんとした生活を送らせてみせます!」

 

 

これからの生活を思い描き、ちょっとげんなりする作者さんだった。

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