小学校の時、私は篠崎 香穂子に恋をした。
その日は炎天下の中の運動会。私は校庭で倒れていた。
炎天下の太陽が真上に登っている。容赦ない日差しが私の体力を奪っていく。
私は自分の教室へタオルを取りに行っていた。その帰り道、誰もいない校舎からグランドへ歩いている最中意識が途切れた。
校庭では午前中最後の種目が盛り上がっていた。
「あぁ、ダメなのかな」
子供ながらの諦めというのはとても客観的だった。
ゲームのようにリトライできるわけじゃないハズなのにやけに冷静だった。
「大丈夫?」
冷たい感触が首元に伝わる。目を開けるが、真っ白い視界が広がる。
あぁ、もうおしまいかな。
ゆっくりと体が浮く感覚に襲われる。これが幽体離脱ってやつなのか……
気がつけば、私は保健室のベッドの上に居た。
ちょうどこれから病院へ運ばれる前だったらしい。
診断結果は熱中症。二時間ほど泣く泣く点滴をして家に帰った。
次の日、学校を休んだ。
家でやることのなかった私は、ずっとテレビを見ていた。
学校では沢山の友達がいるのに、ぼんやりとして、体も元気なのに……
なんで……どうして……
空きのできた体は同しようもないことばかりを考える。
私のせいでみんなに迷惑をかけたんじゃないかって……
楽しい時間に水を指したんじゃないんだろうか……
私のせいで……
私のせいで……
気がつけば外は赤く染まっていた。
テレビでは、よくわからないニュースが、どうでも良いことを喋っていた。
「はぁ……」
タメイキがでた。
ため息を零すと幸せが逃げると言われていたが、今の私には逃げる幸せすらない。だけど、それでも、何かが抜けていくカンカクに襲われた。
真っ黒い感覚に飲まれそうだ。
誰もいない部屋で、家で、セカイで……
呼んだってこない場所で、私はひとりぼっちだ。
そんな私のもとに、一報のようにインターホンが鳴った。
玄関を少し開けると、隣のクラスの女の子が立っていた。
私よりも背の高い女の子は、少し恥ずかしそうに下を向いていた。
手には学校の紙袋が見える。
「これ、今日のプリント……家が近いから持って行けって……その……」
「え、あ……ありがとう……」
ぎこちない会話をする。いつものように話せなかった。
「それじゃぁ、私……」
帰ろうとする彼女の手を、無意識で掴んだ私は「よかったらお茶飲んでいかない?」と声をかけてしまった。
今考えると、私はいつの映画のナンパ師だろうか。と考えてしまう。
だが、それでついてくる彼女も彼女だ。私はコップに麦茶と簡単なお菓子を皿に盛り、母がやっているように……
「大したものはないけど……」
「いえ、ありがとう……」
そこからは特に会話という会話がなかった。というか、なにか言える感じはなかった。
友達を招いてもこんなことにはならないはずなのに、その日はとてもドキドキした。それだけはしっかりと覚えてる。
「……」
「……」
無心、無音が続く。
それでも、さっきよりは良かった。
さっきみたいに余計なことは考えられなかった。
「どうして笑っているの?」
私を見た彼女は、不思議そうに言葉を投げてきた。
「どうしてだろう……分からないや」
私は彼女に、一言だけ返し、わらった。