初夏の町並みは、やはり蒸籠の中だ。
呆れるほど暑い中をたった一つの目的の為に歩くのは、改めて考えると馬鹿馬鹿しい。
そうは言っても、生憎と女の性分としてか。今年の夏服を、去年の着まわしというわけにはいかずに、新しいものを探しては大差ない服を買ってしまう。
「やっぱり、これかなぁ」
手にとったものはVネックシャツと地味めなパンツ。
これが安定している。というか、ショートパンツはもっての外。スカートは論外だ。
私がもっと可愛ければ、こういった服も似合うかもしれない。と何度憧憬の目を向けてきただろうか。
明るい色を着ればもっと……
だが、何度思っても変わらないものは変わらない。この身長も、容姿も、性格も……
「あらー?誰かと思えば香穂子ちゃんじゃない。」
「えっと、確か……小野木――」
「千早でいいわよ。」
ひらひらと手を振りながら歩いてくる女性。彼女は小野木 千早。学校内でよく見かける三年生だ。正体はよくわからないが長くきれいな黒髪と整った顔立ち。そして、体からにじみ出る陽気なオーラ。といったくらいの事しか知らない。
とは言いつつも、彼女が手に持っていた服は、お世辞にも似合っているものではないと思ってしまう。
外人が喜んで買うよくわからない漢字の入ったTシャツや、猫のような変な生き物のプリントされたパーカー。そして、背中に「休日手当」と書かれたジャージ。しかも上下セット。
「何なんですか?その服は……」
「面白そうだなーっておもって、買おうか悩んでいるの。でも――」
深刻そうに悩む先輩は、私に三着の服を見せびらかす。そして
「三着は買えないから、どれがいいと思う?香穂子ちゃん」
と、どうでもいい話を私に向けてきた。
「で、結局二着は買うんですね。先輩」
「たまに買うくらいですもの、たまには奮発してもいいじゃない。」
「奮発ってほどの値段でもないような……」
先輩の持っていたよくわからないTシャツは流石に返して、パーカーとジャージだけにさせたのだが、それもあまりオススメはしたくはないが……
それでも本人は大満足みたいなのでまぁ、良しとしよう。
「それで――香穂子ちゃんはそれでいいの?」
「え。あ……まぁ、これが無難ですし。」
「今着てるのとあまり変わらないような……」
先輩の言葉を聞いて、私の服を改めて見渡してみた。
変わらない格好。自分の惨めな姿を見せのショーケース越しに見てしまった。
横に並ぶ先輩の姿と自分は雲泥の差。月とスッポン。いや、雪と墨くらいだろう。そのくらい明確だった。
だからこそだ。見慣れたこの格好が一番いい。そうだ、そうなんだ。と私はわたしに言い聞かせてきた。
「もったいないなぁ。全くもってもったいないなぁ。」
先輩はゆっくりと私の腰元を触れた。
「えっ!!」
撫でる手に対し、何もできない私を良いことに、存分に楽しそうな先輩。
「こんなにスタイルが良いのだからもっと良い服を着れば良いだろう。たしかに、パンツは脚のラインが綺麗だ。だが、ダボついたシャツではココは見えないなぁ」
大きく振り払い、先輩と距離を取る。
「なっ」
「何をするんですか。とでも言いたそうだから、先に言っておくね。私、いつも思っていたの。もったいないなって……だからね。いつか言おうと思っていたの。」
先輩は、少し悲しそうに私を見て続けた。
「後悔することはいっぱいあると思う。失敗を恐れるのもわかる。だけど、何もしないままだったら一生後悔すると思うよ。」
先輩は、一着の服を私に託すと、そのままどこかへと消えてしまった。