一目惚れなんて、存在しないと思ってた。見た目だけで好きになるなんて、そんなもの本物の恋とは言えないではないか。だが、どうやら人というものは単純らしい。
仕事帰り。私は1人でたまに通う居酒屋へと足を運んだ。横開きのドアを開け、カウンター席に着く。いつもなら男性客で溢れかえっていたのだが、タイミングが良かったのか、向かいにできた新しい居酒屋のせいなのかほとんど客はいない。私としては静かでいいのだが、お店としてはたまったものでは無いだろう。
せめて私が少しでも売上げに貢献してあげようと、何故か上から目線になりながら品を決め、店員さんに声をかける。
「すみません 」
「はい! 」
元気よく返事を返してくれたのは、女性店員さん。このお店に女性なんていたかなとメニューから目を離し、店員さんを見る。
つい、目を見張り、硬直してしまった。
「あ、あの、ご注文は……? 」
「す、すみません。生ひとつお願いします 」
見惚れてしまい、店員さんに迷惑をかけてしまった。謝罪しながら注文をすると、かしこまりと店員さんは店の奥へと消えてしまった。しかし。
「可愛かったなぁ、あの店員さん 」
元々、私にそっちの気はなかったはずだ。片手で数えきる恋愛は全て男性とだったし、なんなら経験だってある。しかし、ここまで見惚れてしまったのは初めてだ。
「ま、女同士で付き合えるはずもないけどね 」
「お待たせしました 」
ビールだけだからだろうか。予想以上に早く提供され、独り言が聞こえてないか心配になる。もし聞かれてたら、気持ち悪がられ、この店の店員全員に情報が共有され、陰でいじられ続ける恐れがある。そんな事になったらこの店に通えなくなってしまうから勘弁して欲しい。
提供されたビールを一気に煽り、すぐに追加を注文する。あまり頻繁に飲酒はしない方だが、そのせいか1度に多くなってしまう。それでも酔いつぶれないように制限はしているのだが、なんせ可愛い店員さんがいるのだ。注文すれば会話ができるとおっさん的な思考を働かせてしまい、ついついいつもより多く頼んでしまった。そのせいか、何杯目か忘れ始めた辺りからの記憶が全くなかった。
カーテンの隙間から朝日が射し、私の顔面に直撃する。あまりの眩しさに目を覚まし、体を起こした。頭が痛い。昨日飲みすぎたか。薄らと目を開けると、そこは知らない部屋だった。低血圧と二日酔いのせいでイマイチ状況が理解できない。とりあえず携帯を取ろうと、周辺をまさぐってみると、柔らかい何かに触れた気がした。しっかりと掴み、何度か握ってみる。ムニムニと、手に吸い付くような感触だ。癖になりそう。何だか、1部が硬くなってきた。指先でそこをなぞる。
「ンッ 」
ん?今のはなんだ?辛いのを我慢し、目を開く。目に入った光景に、思わず酔いと眠気が吹っ飛んでしまう。昨日の可愛い店員さんが、裸で私の横で眠っていた。私は思わずベットから飛び降りてしまった。
「おはようございます、有彩さん 」
なんで私の名前を知ってるの、とか、なんで裸なの、とか、色々聞きたいことはあったが、驚きのあまり声が全くでない。
「昨日あんなに激しかったのに、まだ足りませんでしたか? 」
「き、昨日!?いったい私なにをしたの!? 」
私の慌てようが面白いのか、店員さんはニヤニヤしながら覚えてないんですかと尋ねて来る。ちなみに一切覚えていない。
「ナニって、ナニですよ 」
私は、私は……昨日知り合った女の子に手を出してしまったらしい。
「て言うか、有彩さん。ビックリして動きがオーバーになるのは分かりますけど、あまり激しく動くとおっぱいが揺れてとてもエッチですよ? 」
「え!? 」
言われるがまま下を向き、自分の姿を確認する。何一つ見に纏わぬ、産まれたままの姿。
私は悲鳴をあげ、そのまま床に座り込んでしまった。
店員さんはそんな私に近寄り、布団を羽織らせてくれた。
「ところで、有彩さん 」
しっかりと布団を体に纏い、顔以外隠した時、店員さんはスマホを見せてきた。て言うか、服着るか私みたいに布団羽織って。
どうやら動画を流すらしく、音量を調整して再生ボタンを押す。すると、私の声が流れてきた。嫌な予感がする。
『店員さん可愛い。抱いて 』
寝言のような声。数秒の動画はそこで終了し、さらに操作を続ける。いや、もう嫌な汗が溢れてるんですが。
『し、しおりぃ、わたし、もう……!ッ! 』
『キスして……ん…… 』
「も、もうやめて! 」
勝手にスマホを操作し、停止させる。店員さんが少し残念そうな顔をするがこれ以上自分の喘ぐ声を聞かされていたら気が狂いそうだ。
「そんな動画撮って、何が目的なの……? 」
「目的?そんなの無いですよ? 」
「どういう事? 」
「だって、有彩さんが撮ってって言ったんですよ? 」
こんな自分が、嫌になってくる。
「本当にごめんなさい! 」
さっきまで驚きすぎて、大切なことを忘れていた。そもそも私が酔い潰れて、変なことを口走ったせいでこんな事になったのに、私だけ動揺して、自分を正当化しようとしていた。そんな自分が本当に本当に嫌になる。謝ったところで許されることでは無いかもしれない。でも、謝らなければいけないと、私は思った。
店員さんは何かを言いかけ、途中で止める。そして何かを考え、閃いたらしい。
「じゃあ、キスしてください。後、私のお願いを1つ聞いてくれたら、許します 」
目を瞑り、顔を近づけてくる。もう少し抵抗があるものかと思ったが、意外とそんなことは無かったらしい。まぁ、シてる時もキスはしたし、これが最後、そして、これで罪が償えるなら、安いものだ。私は唇を重ねた。女の子の唇は、男性のものと違い柔らかく、そして心地がよかった。
なんだか名残惜しくもなりながらも唇を離す。後は、お願いとやらを聞いて終わりだ。
「お願いって、なに? 」
「私のセフレになってください! 」
とてもいい笑顔で、お願いされた。
私はまた思考が鈍るのを感じた。いったい、これから私はどうなってしまうんだ?