異世界あべんじゃーず   作:カイロ・レン(ハイパースペース特攻)

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異世界アークファイブ

 異世界転生――それは、異世界ファンタジーの中で進化したジャンル。

 その中でも特別な特典を持って再誕した者を、人は「チート転生者」と呼んだ。

 

 

 

「レイジョーノ・ザマ! この私、ワイテル・アッターマンは、君との婚約を破棄する!」

 

 某WEB小説投稿サイトでは、女性向け恋愛小説ランキングの上位を独占しているそのジャンル。

 学園中の生徒たちが集まっている卒業式のアリーナの中で、のっけから放たれた男の台詞はもはやごく一般的なプロローグと化した貴族令嬢への婚約破棄宣言だった。

 

 婚約破棄――それは「ざまあ」への第一歩。

 婚約破棄――それは大いなる未来への挑戦。

 

 乙女ゲームの悪役令嬢に転生した元OLが、理不尽な攻略対象者たちから受けた婚約破棄から這い上がり、或いはそれを阻止する為に奮闘する「悪役令嬢もの作品」。詳しくは、某WEB小説投稿サイトに乗り込めば一発で理解できるだろう。

 

 

 ――今この世界でもまた、一人の悪役令嬢転生者が実家のような婚約破棄を喰らっていた。

 

 

 その宣言を張りのある声で叩きつけたのは、俺様系生徒会長「ワイテル・アッターマン23世」である。

 彼は例によって彼女が前世でプレイしていた乙女ゲームの攻略対象であり、悪役令嬢である今は政略的に婚約させられていた相手だった。

 

 ワイテルは金髪碧眼の超絶イケメンであり、学園ではフィクション界特有の権力を誇る生徒会長を務めていた。

 

 家柄は継承権一位の皇太子様であり、圧倒的なカリスマオーラを放ちながらキラキラとしていた。

 そんな彼の後ろには、ビクビクと怯えた仕草をしているピンク髪の美少女の姿があった。

 

 彼女の名は「アイ・サレン」。身分は平民だが実は聖女の末裔であり、元の乙女ゲームでは主人公の座に君臨していた王道的乙女ゲー主人公である。

 

 しかしそんな彼女の中の人もまた、もちろん転生者だった。

 女性向け「ざまあ系作品」内においては悪役令嬢in転生者と敵対することが多く、最後は痛恨の「ざまあ」を喰らうことが多いかませ犬的ピンク脳であった。

 

 原作にもあったワイテル皇子の婚約破棄宣言を間近に眺めながら、主人公in転生者は怯えた演技の裏で勝ち誇った笑みを浮かべる。

 そんな彼女の猫かぶりをつまらなさそうに一瞥した後、この世界の悪役令嬢「レイジョーノ・ザマ」は冷静沈着な態度で彼の発言に応じた。

 

「ええ、そうしましょう」

 

 ざまあ系悪役令嬢作品において、主人公を務める転生者の性格は基本的に冷静で理性的だ。

 

 今回のように攻略対象から婚約破棄を叩きつけられた場合、彼女らは怒れる彼らに対して「高貴なる者が公爵家の令嬢を一方的に糾弾し、衆人環視の中で婚約破棄を行うこと」に対する現実的観点から理詰めの猛攻で、ことごとく論破してみせる。

 そんな攻略対象者が口では勝てないからと癇癪を起こした場合には、誰かしらの第三者が介入すること(悪役令嬢に対して密かに想いを寄せていた護衛の騎士や、攻略対象の両親、他国の貴族や人外のイケメン魔族など、ただ一人悪役令嬢の不器用な乙女心を見抜いていた真の王子様役)が多い。

 クールな主人公が勘違い野郎や脳内ピンク女を撃破していくのが、これら悪役令嬢ものの多くで見られる展開である。

 

 ――そしてその瞬間に受けるカタルシスこそが「ざまあ」の魅力であり、婚約破棄ものの王道なのだ。

 

 尤も、最近は「ざまあ」が主題にないコメディーチックな婚約破棄ものの数が非常に多く、とても面白いので是非閲覧なさってほしい。

 

 

 

 

 閑話休題。

 

 皇子ワイテル・アッターマン23世の発言に対して、悪役令嬢が極寒の眼差しを返す。

 この状況において、彼女は転生者らしい冷静さで受け応えていた。

 そんな彼女は「レイ様……」「そんな、婚約破棄だなんて……」とざわつく取り巻きたちを左手で制しながら、妖艶な笑みを浮かべて言い放った。

 

「お生憎さま、わたくしも男色家皇子の偽装結婚に付き合う気はございませんので」

 

 その発言に対して、場内の野次馬たちが一斉に静まり返る。

 直後に響いたのは、感心した様子のワイテル皇子の言葉だった。

 

「ほほう? さすがはレイだ。やはり見抜いていたのだな。私の性癖を!」

 

「……え?」

 

 彼がニヤリと返したのは、「男色家」という言葉に対する堂々たる肯定だった。

 婚約破棄を宣言した時の厳しい顔つきが嘘のように和らぎ、皇子は満足げな表情で頷き肩をすくめる。

 そんな彼の豹変ぶりに、戸惑いを返したのは乙女ゲー主人公in転生者のアイ・サレンである。

 二人が何を言っているのかわからない。わかりたくないと訴えるように震えるアイに対して、ワイテル皇子は申し訳なさそうな顔で振り向いた。

 

「ワ、ワイテル様、あの、それはいったい、どういう……」

「すまない、サレン嬢! 私は君の想いに応えることはできない! 何故ならば知ってしまったからだ! 真実の愛を!」

 

 便利ワード「真実の愛」。古往今来多くの若者たちが憧れを抱いてきたそれは、主に恋愛系フィクション作品の王道である「身分違いの恋」に対して使われることが多い。

 この乙女ゲームにおいてもそれは、本来であれば主人公と攻略対象を結びつけていく筈の言葉だった。

 しかしその「真実の愛」を語る皇子は、よりにもよって主人公の求愛を拒んだのである。

 一人愉悦している悪役令嬢の前で、ワイテル皇子は盛大に語った。

 

「そうとも! いつもいつでも傍で私を支えてくれたのは、婚約者のレイでも私を慕ってくれた君でもなかった!

 我が無二の友、アンディー! 私の中で燻っていた君への気持ちこそが、まさしく真実の愛だったのだ! 故にアンディー! 私は君を求める! 果てしないほどにっ!」

 

 彼にとっての真実の愛――それは身分違いの恋ではなく、性別違いの恋だったのだ。

 

 キラーパスのような彼の告白を受けたのは、生徒会副会長であるメガネのイケメン。ゲームではドSのヤンデレ枠を務めていた攻略対象だった。

 もちろん、性別は男である。「結婚したのか? 俺以外の奴と……」とか言いそうないい声をしている正真正銘の美男子である。

 

「ワ、ワイテル……っ、僕の想いに応えてくれたんだね!」

 

 この婚約破棄騒動の一部始終を傍で見守っていたアンディーが、雌の顔をしながら彼の告白を受け取る。

 あはははっ、と花畑を駆け抜けていくような足取りでお互いに寄り添った二人は、周囲からエヴァンゲリオン最終回のような祝福を受けながら、お互いに熱い抱擁を交わし合い、幸せのキスをして終了した。

 

 

 そう――今まさに、乙女ゲームの世界は悪役令嬢も攻略対象も苦しまない、原作以上の大団円に終わったのだ。

 

 

 

 

「なにこれ……」

 

 

 ただ一人、うざったい悪役令嬢をやっとこさ蹴落とせると思った矢先、意味不明な薔薇園を見せつけられた乙女ゲー主人公だけが困惑していた。

 放心状態で固まる彼女の肩を叩き、悪役令嬢たるレイジョーノ・ザマがイイ笑顔を浮かべながらグッと親指を突き立てた。

 

「貴方は負けたのよ、アイ・サレン。なぜなら皇子×副会長こそがジャスティスだから」

「えー……」

 

 悪役令嬢はごく一般的な腐女子だった。

 テンプレ悪役令嬢ならぬ、テンプレ腐女子である。

 この世界に転生した彼女はお手本のような腐女子ぶりを発揮し、それこそ生まれた頃から皇子×副会長のカップリングを実現させる為だけにここまで邁進してきたのだ。

 

 ――彼女は悪役令嬢として持ち得る全てのアビリティを行使し、婚約者である彼を徹底的に調教することで女性に対する恐怖心を植え付け、立派な男色家へと育て上げたのである。

 

 それはもはや、国家転覆のテロ行為だった。

 幸いだったのはこの世界が魔法の存在するファンタジーであり、同性同士でも世継ぎを作ることが可能なことであろう。故に男同士の同性婚もマイノリティーではあるものの国際的に認められており、法的に問題はなかった。

 

 すなわち、このくそみそな展開は全てこの女が元凶だったということだ。

 

 

 

 ――推しの皇子様がホモになっていた。

 

 

 

 今明かされた衝撃の事実を前に、アイ・サレンは膝から崩れ落ち、恐れを込めた目でレイジョーノの姿を見上げた。

 

「あ……悪魔よ……あなた、悪魔よ……!」

 

 せっかく乙女ゲームの世界に転生したのに、やることはホモカプの成立かよ……!と、悪役令嬢のあまりにもあんまりな努力の方向にノーマルな性癖を持つアイは愕然とした。

 そんな彼女に対してウフフと微笑みかけながら、レイジョーノは決め台詞のように言い放つ。

 

「悪役令嬢ですから」

 

 天才ですからみたいに言うな!と突っ込む気力は、もはや今のアイには残されていない。

 彼女はただ「ちくしょう……」と、前世から抱き続けていた恋が最悪の形で終わったことに涙を流していた。

 

 

 ――その時である。

 

 

「皇子を同性愛者に調教することで誰一人修道院送りすることなく物語を完結させるとは、恐ろしい女だな。レイジョーノ・ザマ」

「!? だ、誰!?」

 

 薔薇色の空気に包まれたアリーナの天井から、禍々しい闇を纏いながらそれは現れた。

 

 突如として姿を現したのは、明らかに人ならざる者とわかるヘドロ状の物体。

 この世界にもファンタジー的なモンスターは存在しているが、それは彼女らが知るモンスターの特徴とも一致しない不気味な姿だった。

 

「私はテンプレクス、次元を越えし者だ」

「醜いわね……」「きもっ……」

 

 まるでゾンビだ。明らかに乙女ゲームの雰囲気を壊している醜い姿にレイジョーノが毒を吐き、アイが女子高生的な感想を呟く。

 そんな少女たちの発言に対して薄ら笑いを返しながら、テンプレクスと名乗る怪物は言い放った。

 

「悪役令嬢に転生せし冷静沈着なOL、臼井本子。その身に宿すチート能力は、薔薇を始めとする植物系チートだったな」

「……あなた、私の名前を……」

 

 この世界では誰も知らない筈の前世の名前を語るテンプレクスに対して、レイジョーノは警戒の目で睨んだ。

 その間合いからただならぬ雰囲気を察したアイが、ちゃっかりと巻き添えを食わないように後退る中で、一人の転生者と怪物が対峙した。

 

「植物を支配する君の能力は、万物の頂点たる私にこそ相応しい。よっていただくぞ、そのチート!」

 

 前述した通り、この乙女ゲーム「なんだかとってもピュアな学園生活」の世界には魔法が存在している。

 何と言っても原作は恋愛そっちのけでファンタジーRPGを楽しむことができ、そのクオリティーは無駄に高かった。 

 存在する魔法には炎、水、草など様々な属性があり、学園生たちはそれぞれに得意分野の魔法を持ち、それを武器にモンスターと戦うことが出来る。

 

 主人公のアイ・サレンは入学当初こそ得意の魔法が無い劣等生であったが、ストーリー後半に掛けて伝説の光属性使いへと覚醒し、聖女の末裔であることが発覚し攻略対象と結ばれるのが元々のシナリオだった。

 

 

 一方で悪役令嬢レイジョーノ・ザマは、草属性魔法のエキスパートである。

 

 「いばらのムチ」などいかにも悪の女幹部チックな戦闘スタイルを好み、サディスティックな行動で主人公に度々嫌がらせを仕掛けてくるのが本来の役回りだった。

 そのレイジョーノが、自身に敵意を向ける怪物に対して一応とばかりの警告を行う。

 

「やめておいた方がいいわ。流石のわたくしも、化け物を調教する趣味はなくてよ」

 

 転生者であるレイジョーノ・ザマもまた草魔法に長けているが、こちらは転生者特有のチート能力と合わさって、原作とは比べ物にならないスペックを誇っていた。

 RPGで草属性と言えば割と不遇な印象があるかもしれないが、彼女が扱うそれはもはや「薔薇属性」という名の新種属性と言っても過言ではない。

 

 現にその力によって天才炎魔法使いである筈の元婚約者は打ちのめされ、肉体的にも精神的にも薔薇の洗礼を受けることとなったのだから。

 

「やめたまえ!」

 

 化け物を相手に戦闘態勢入ったレイジョーノを見て、心なしか慌てるように元婚約者のワイテルが割り込んでくる。もちろん隣には恋人同士になった副会長も一緒だ。ふたりはホモキュア。

 

「穏やかじゃないな! ここを我が学園と知っての狼藉か!」

「モンスターの分際で僕とワイテルの愛の巣を侵した罪、その身で償うがいい!」

 

 ワイテルが炎を、アンディーが氷と、ケーキ入刀の如くお互いに腰を支え合いながら共同作業で魔法を放つ。

 一部の女子生徒たちとレイジョーノの熱い視線の中で放たれたその一撃は、相反する二つが合わさって最強に見えるスーパーロイヤルビームとなった。

 しかし。

 

「そんな非生産的な技が私に通じる筈なかろう」

 

 砲撃とも言える一撃を背中から受けて、テンプレクスと名乗る怪物は全くの無傷だった。

 

「なんと!?」

「そんな……僕たちの愛の波動が通じないなんて……っ」

 

 驚愕する二人の前でテンプレクスは不敵に笑う。

 

「他の転生者からアテクシ属性を奪ってきた私に、乙女ゲー攻略対象の攻撃など効かん」

 

 相手のチート能力を奪い、自在に自らの能力とする怪物テンプレクス。

 そんな彼は、数々の異世界転生者を襲ってきたことであらゆる耐性を身につけていたのだ。

 濃厚なBL描写を見せつけられても平然としていられるのもその為だ。

 

 ――そんな彼の腕を、横合いから無造作に伸びてきた植物の根が拘束する。

 

「む……」

「わたくしの能力は通じるようですわね」

 

 どこからともなく巨大ないばらが出現し、根を伸ばしてテンプレクスの腕を絡め取ったのである。

 それは悪役令嬢レイジョーノ・ザマが誇る草属性魔法にして、チート能力の一片だった。

 

「出た! レイの薔薇拘束プレイだ! かつて子供の頃の私はアレがトラウマになり女性恐怖症になった! ああ、思い出すだけでも恐ろしい……」

「大丈夫だよワイテル、僕がついてるから」

「そうだ……私には君がいる。ああ、健気だな……アンディー」

「ワイテル……」

 

 テンプレクスとレイジョーノがシリアスバトルを始めようとしている最中、良い空気を吸っている男が二名。

 そんな二人の姿を見やりながら呟いたテンプレクスの言葉に、レイジョーノが返す。

 

「ここはBLゲームの世界だったか……」

「乙女ゲームよ。まあわたくしが改造したのですが」

「……素晴らしい悪魔ぶりだな。敵にしておくのが惜しいぐらいだ」

「貴方に褒められても嬉しくありませんわ」

 

 自身の腕をいばらに拘束されたテンプレクスが、その腕を乱暴に振るい根を断ち切る。

 あっさりと拘束を解除されたことに少しだけ表情を変えるレイジョーノの前で、テンプレクスはふわりと宙に浮き一同を見下ろした。

 

「興が削がれた……あらゆる耐性を持つ私も、ガチガチのBLはあまり好きではない」

 

 TS雌堕ちからの精神的BLならば寧ろウェルカムなのだが、流石にこれは敬遠する。

 そう呟きながらテンプレクスは、心なしか溜め息を吐くように間を置いた後でレイジョーノの姿を見やった。

 

「君の能力も魅力的だが、奪うのは後回しにするとしよう。だが……」

 

 舐められるのは嫌いでね、と――その呟きが聴こえた瞬間、彼が次に起こす動きを察したレイジョーノが学園生一同に呼び掛ける。

 

「!? 貴方たち、伏せなさい!」

 

 普段冷静沈着な彼女が見せた反応に一同が驚くよりも速く、アリーナが――爆ぜた。

 

 それは、ミサイルが着弾したようなおびただしい爆発だった。

 広大なアリーナの内壁が粉々に吹き飛び、天井が崩れ落ちていく。

 テンプレクスがその身体から、何かエネルギー波のようなものを全方位に放射したのだ。

 

「ははははははははははははははははははははははっ」

 

 自らの力を示し、自賛するように笑いながらテンプレクスはこの世界を飛び去って行く。

 崩れ落ちていくアリーナの中でチート悪役令嬢が起こした行動はそんな怪物を追い掛けることではなく、一同の身をその爆発から守ることだった。

 

 

 

 

 ――女性向けWEB小説において悪役令嬢ものの評価が高いのは、破滅を防ぐ為に奔走する主人公の行動がどこか男前に見えるからなのかもしれない。

 

 

 

 

 





 因みにレイジョーノはガチレズで乙女ゲー主人公ちゃんのことを狙っています。こう、傷心したところを甘い言葉で的な感じに(∩´∀`)∩
 
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