俺とみほは西住家の玄関の前にいた。本来ならば帰ってくるべき暖かい家のはずではあるが、今は重い空気が流れており今は冷たくも感じてしまう。
「うう……」
『大丈夫か? みほ』
「はい……これは……私自身でやらなくちゃ……」
『……! いい心がけだ。でも辛くなったらいつでも俺に言え』
今回はみほと俺が決めた転校の話を親である西住しほに説明しにやってきた。
必要書類は学校に提出をという事でまほに書類自体は押し付けてやってきた。渡した時すごい顔をしていたが、そんなことはこっちの知ったこっちゃねぇ。みほ自身は罪悪感ありまくりだったようだが。
というわけで、今回ではラスボスとも言える母親にケリをつけに来たわけではあるが。
「そうですか」
冷たい目線で目の前で正座するみほを睨みつける母親の姿がそこにあった。
しほは目の前の書類に判子を押し、書類をみほへ投げつける。
「ひっ……」
「貴方が決めたのなら私は何も言いません。早くお行きなさい」
……いや……もう少し態度っていうものがあるのではないのではないだろうか? 確かのこちらとしては西住流の顔を汚した戦犯かもしれねぇが、あの行動のお陰で人の命が救われたことを分かってないのか?
あれでもし、試合続行の判断なんか下して死人を出したらそれこそ西住流の評判は地に落ちるだろう。戦車道が二度とできないぐらいに。
みほは下を俯いてふるふると震えている。
反論なんかいくらでもできるが、今のみほにはそれは難しいことだろう。どこまでも優しい少女。それがみほという人間だ。
だが俺は生憎みほよりかは優しくはねぇ。
ムカついたらムカついたとハッキリと言える性格をしている。
俺は無理やり、みほと精神を入れ替える。
入れ替える際にみほが涙目でキョトンとしていたが、どうも俺の怒りが収まらない。
「ええ……あんたの言われた通り出て行きますよ、さっさとね」
「……?」
「……カカ、いきなり豹変したから驚いた顔してやがる」
「……みほ……貴方いったい!」
俺は立ち上がって、目の前にあったテーブルに片足をドンと大きな音を立てて乗っけてやる。
俺は真っ直ぐにしほを睨みつける。……恐らく、しほは母親であるがためにあのような危険な行為に及んだ娘を叱りたかったのだろう。しかし、西住流としてのメンツ、上からの圧力などで、西住流の事でしか叱れなかった。
大方そんな所ではあるだろうが、それがみほに伝わってなきゃ意味がない。
「……あんたも不器用だねぇ」
「……!? みほ……ではありませんね? 貴方は一体何者ですか」
「そんな事はどうでもいいだろ、どうせさっさと出て行くんだ」
俺は踵を返し、その場から立ち去ろうとする。
すると反射的にだろうか、しほが俺……みほの手を掴んできた。
その顔は何が起こっているのか分からないような顔をしているが、母親として心配しているかのような顔だった。
しかし、しほは何も言えない。ただ困惑した表情を浮かべ今、目の前でみほに起こっている異常に向き合えないのだ。
「……ッ!」
「何も用がないのなら離してくれませんか?
しほは恐る恐る、手を離す。
俺はその手を振り払い、居間から出て行ったのであった。
────
(貴明さん……その……なんて言ったら)
「悪いみほ。もしかしたらお前の地位を悪化させてしまったかもしれん」
(いえ……ありがとうございました)
ああ……俺はなんて事をしてしまったんだ。後先考えないのは悪い癖だな。反省しなければならない。
俺のせいで、みほがまた糾弾される立場になってしまったらと思うと……やらかした……。
せめて転校先では平穏な生活が送れるといいのだが……。
(あの……その……)
「なんだ?」
みほが何か言いたそうな顔をしている。
なんなのだろうか?
(もし、貴明さんが嫌じゃなかったらお兄ちゃんって呼んでもいいですか?)
「なんで?」
むしろ兄貴って呼ばれる権利などないと思うのだが。あんな事をしでかしてしまったので逆にみほに申し訳ない気持ちでいっぱいなのだが?
(いえ……なんだか私を守ってくれてる姿を見て、お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかなぁって思っただけで……他意はないんですけど……ダメですか?)
「……こんな喧嘩っ早い奴でいいのならいいけどさ」
正直言って、兄貴の役目を務めれる気がしない。みほの事は可愛い妹のように思っているが、俺と言ったら急にみほの精神の中に入り込んでいる謎の生命体だ。
こんな奴が兄貴と呼ばれていいのだろうか……? いや、良いんだろうな、みほがそう呼びたいって言うのなら、好きにさせてやろう。
(ありがとうございます……! お兄ちゃん!)
なんか小っ恥ずかしいな……。俺は頰を人差し指でかく。顔がかなり熱いので赤くなっているかもしれない。
しかし……お兄ちゃんか……いい響きだな……。
というわけで、いつのまにか精神の中に入り込んでいた兄と、気弱な妹の奇妙な共存生活が、ここ転校先の土地である大洗で始まったのだった。