西住みほのすぐ側に   作:うみうどん

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七話

 生徒会室に着くと、片眼鏡をかけこちらを睨んでくる女から第一声が発せられた。

 

「これはどういう事だ?」

 

 目の前に出される、戦車道に丸をしなかった必修選択科目の紙。

 

「どういう事……とおっしゃられましても、その書面通りですが?」

 

 俺は睨み返しながら、口を開く。一応、先輩なので口には気を遣ってはいるが、いざとなれば徹底抗戦の準備はできている。

 俺がそんな事を考えていると、感慨深く生徒会長が椅子に深く腰をかけ、手で顎を支える。

 

「なんで選択しないかなぁ」

 

「我が校、ほかに戦車経験者は皆無です」

 

 やはりか、此処までの圧力を戦車道に対しかけてくる。何か裏があると踏んでいたが、どうやらそうらしい。

 じゃないと過去の経歴を見て、その上で西住流であるみほを強引に戦車道へ入らせようとするんだ。何か思惑がある。俺にはそう感じられた。

 その後の我が校はこれで終了という、言葉。……まさか、この戦車道で何かしら結果を残さなければ、この学校に何か不利益が被られる……という事か? 

 しかもあの破格の待遇。ますます、そうとしか思えない。この学校に対し、何かしら大きな圧力が動いているのかもしれない。

 しかし、それはそれであり、みほを強制的に戦車道に入れさせる理由があちらから提示されていない。それが無ければ、こちらは受ける必要のない事だ。

 俺はそれを考慮して、卒直に生徒会長に質問した。

 

「なぜ……こうやって、強制的ともいえる態度で、私を勧誘してくるのでしょう? どうもその理由が分かりません」

 

「理由なんてないよ、ただ戦車道を復活するにあたって、手頃な戦車道経験者が西住ちゃんであっただけでね」

 

「もっともらしいですが、それでは私を半ば強引に戦車道へ入らせる理由にはなりません。何か……思惑でも?」

 

「西住ちゃん……」

 

「私の経歴は既にお調べになってる筈です。その上で、この学校が……この学校のブランドが傷ついてもいい覚悟で私を勧誘しているのですか?」

 

「西住ちゃん、もう私たちはなりふり構って居られないんだよ、多分、察しのいい西住ちゃんなら分かってると思うけど……」

 

「私が戦車道を履修するとなると、西住流と事を構える可能性が高まりますよ、それでも良いのですか?」

 

「……それでも良いと私は思っている」

 

 沈痛な面持ちで、顔を伏せる生徒会長。

 まさかみほがここまで言ってくるとは予想できなかったのだろう。生徒会メンバーは全員顔を曇らせている。

 恐らく……恐らくではあるが、こうもなりふり構わず、学校の重鎮達が言ってくるとは、相当な事に違いなかった。

 戦車道を復活させ、良い成績を残さなければ、何かしらのデメリットを与えるとでもお偉方に言われたのかもしれない。

 それはそれで可哀想ではあるが、しかし、残念な事に俺たちの意思は変わらない。戦車道は履修しない。そう決めたのだ。

 

(お兄ちゃん……何か……おかしいよ……。もうちょっとお話を聞いてみよう?)

 

(……みほはそれで良いのか? もし、この先を聞いてしまったら戻れなくなるかもしれないんだぞ?)

 

(……でも、やっぱり……放って置けないよ)

 

(分かった、話を聞いてみよう)

 

 みほは、やはり優しい。そのせいで自分に不利益が被ろうとも、その優しさによって何もかもを包み込んでしまう。

 しかしそれは欠点でもあり、弱点である。

 だが、それでもみほがその道を歩むというのなら、俺はそれに従うだけだ。

 

「……理由を聞かせてください。表面的なものでは無く、内部的な物を」

 

「……それは……」

 

「会長……お話ししてもよろしいのでしょうか?」

 

「これから、戦車道をするにあたって、士気が落ちる可能性が……」

 

 生徒会が寄って集まり、何やら深刻そうな会話をし始める。

 数分話し合い、意志が固まったようで、真剣な表情を浮かべて会長はみほを見据えてきた。

 その目は先程まで見せていた目と違う。三者共に悲しげな目をしており、しかし、その表情にはしっかりとした決意が感じられた。

 

「西住ちゃん……これから先は他言無用でお願いするよ」

 

(みほ?)

 

(はい……大丈夫です)

 

「わかりました、話してください」

 

 生徒会長はまたもや深く椅子に腰をかけ、一回深呼吸をした。

 そして、心の準備ができたのか、恐る恐るではあるが、口を開き始めた。

 

「……この戦車道で……近々行われる全国大会で優勝しなければ……我が校は廃校になる」

 

 これでようやく合点が行った。

 生徒会としてはこの学校が廃校になるということは見過ごせない事案である。学校を愛している者からすれば尚更のことだ。

 それでなりふり構わずにみほを勧誘してきたというわけか。

 

「いや〜最初はね、西住ちゃんをうまく言いくるめて、それで廃校のことは知らせないつもりだったんだ。だって、廃校だっていう事を知っちゃうと……西住ちゃん……プレッシャーで押し潰されちゃうんじゃないかって思ってさ……」

 

 どうやらこの言葉に嘘はないようだ。生徒会メンバー全員は暗い顔をして、罪悪感からかみほから目を逸らしている。

 確かに、みほならば、生徒会にうまく言いくるめられて、この事実を知らずに戦車道をやっていたかもしれない。それが良い方向に行こうが、悪い方向に行こうが、今の俺では到底わからない事だ。

 そして、生徒会の最大の誤算は、まさかみほの中にイレギュラーが存在しているとは今現在も思っていないだろう。

 ただ、みほが西住流だったという事実だけが、生徒会に突きつけられただけだ。

 

(……お兄ちゃん)

 

 ──ードクンと心臓が脈を打った。

 それは何故だろうか、みほが一言発した瞬間に体の底から燃え滾るようなパワーを感じた。

 いや、これは俺が原因ではない。みほだ、みほの感情によってこの体はなぜか熱くなっているのだ。

 

「だから……さ、西住ちゃん……いや、西住さん。どうか……私達に協力してほしい」

 

 生徒会長が椅子から立ち上がり、頭を下げた。

 前までの飄々とした態度から一変して、この学校の為ならなんだってしても構わないという意志が感じられた。

 生徒会長という権限……いや上級生なのに、下級生にさんで呼び、頭を下げる。それがどれ程の事か……。

 

「虫がいい話ってのは分かってる、西住さんも前の学校で苦しい思いをしたっていうのも分かってる。でも……! それでも、私たちはこの学校を守りたいんだ……!」

 

 ゾワゾワとした感触が体を駆け巡った。知っている、これは俺が原因じゃない。みほが……みほ自身が心を滾らせているのだ。

 

(……お兄ちゃん……私……!)

 

(……みほがやりたいように……好きにすればいい。俺はその意思を尊重して、どこまでも付いていくよ)

 

 みほが感じた記憶が俺の頭に流れていく。

 苦しみ、悲しみ、それらを乗り越えた先にあったのは大洗女子学園にいた二人。

 武部や五十鈴。その二人の笑顔が脳裏に焼き付いて離さない。

 この学校はいい学校だ。それはあの優しい二人が証明してくれている。それはたった数日しか通ってない学校であったとしても、みほが感情移入をする程にもう、大洗という学校にのめり込んでしまっているのだ。

 そういう事なら、次に何がしたい? みほは何を選択する? 

 

(私……私! この学校を守りたい!)

 

 あの二人の笑顔を曇らせない為。そのために戦車道を選択する。

 しかし、それはとても困難な道。戦車道全国大会優勝などと、初心者が大それた事を言うもんじゃないと世間から批判されるような絵空事。

 しかし、俺は知っている。みほは守りたいものができた時、その秘めた力を存分に発揮できる事を! 

 

(戦車道……! やります!)

 

「よく言ったぁ!」

 

 急に大声を出したから、目の前にいた生徒会メンバーはビックリした表情でこちらを見ている。

 

「この学校を守りたい……理由はたったそれだけだが、いいじゃあねぇか! だったら俺も協力してやるよ! やろうぜ! 戦車道!」

 

(──ー! はい!)

 

「……西住ちゃん……!」

 

 会長は目を潤ませ、絞り出すような声で「ありがとう」と呟いた。

 両隣にいた二人も満足そうな顔で頷いている。

 これから先は修羅の道だ。西住流に喧嘩を売って、みほ自身がこの学校と共に優勝を目指す。それは即ち、黒森峰を倒すという事。

 世間からバッシングされるかもしれん、家を追い出されるかもしれない。だが、どんな理不尽が襲ってこようと俺はみほを全力で守る。これまでとやる事には変わりはない! 

 

 ────

 

 俺たちは教室に戻って一番に武部と五十鈴の元へ向かった。

 

「ちょっとみほ! 大丈夫だった!?」

 

「何か、言われたのではないでしょうか」

 

 みほの事をどこまでも気遣ってくれて優しい二人だからこそ、頼める事がある。

 しかし、これは俺の口から言うべきことではない。みほ自身が言わなきゃならん事だ。

 だから、俺はみほの背中を押してやって表に出させた。入れ替わる時にみほの顔をチラリとみたが、どうも覚悟が決まった顔をしている。

 

「武部さん! 五十鈴さん! 一緒に、戦車! 乗りましょう!」

 

 この後の二人の顔は面白かった。めちゃくちゃ驚いた顔をしていたが、数分経って状況が飲み込めたらしく、二人ともにっこりと笑い、みほの手を取った。

 それは了承のサイン。言葉には出さなくとも一緒に戦車道をやっていこうという意思の現れだった。

 

 そして、戦車道履修日。

 この大きなグラウンドに大洗の乙女たちが集結していた。事情は知らなくとも、一緒に戦ってくれる仲間がいる。それだけで、みほは充分だろう。

 そして、古びた倉庫の奥にあったIV号戦車にみほは手をかけ、会長に目線を送りうなづく。

 

「装甲も転輪も大丈夫そう……! これでイケるかも」

 

 こうして、みほは大洗で新たな戦車道を歩み始めたのである。

 




(IV号か…懐かしいな)

(…お兄ちゃん?)

(ん?……ああ、なんで懐かしいって思ったんだろ)
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