機巧少女は傷つかない~平等な世界~   作:首吊男

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チャプター1 最悪の出会い

 ヴァルプルギス王立機巧学院。

 機巧魔術(マキナート)の最高学府であり、大英帝国の機工都市リヴァプールに存在する。

 そこでは、世界中から優秀な魔術師・人形市を集め、日々機巧魔術の発展と貢献を行っている。そして四年に一度開催される夜会。正式名所「ヴァルプルギスの夕べ」。魔王(ワイズマン)と呼ばれる同世代で最も優秀な魔術師に与えられる称号、それを選ぶこのイベントの為に編入してくる生徒も珍しくはなかった。

 魔王に選ばれし者は、あらゆる禁術の使用、禁書の閲覧などの権限が認められ、法定の対象外にもなる。(ただし、殺人などの犯罪行為は許されない)

 

 

 

 

 バン・パトリックの朝は遅い。授業がある日でもそれは変わらない。

 時間ギリギリまで寝て、時にはそれ以上に寝ては悠々と朝を迎える。その都度、彼の自動人形(オートマトン)であるフィーナが叩き起すのが日課であった。

 だが今日は違った。太陽が出てくるよりも早くに目が覚めた。普段ならそのまま二度寝するが、落ちかけてくる眼蓋をしきりに擦りムクリと上半身を起す。

 

「ふわぁ~~~~っはぁー」

 

 バンは上半身だけ体操を始める。枕元では、パジャマ姿の髪を下ろしたフィーナが、リズムよく寝息をたてている。

 ベッドから床に足を降ろすと、布団の中で暖められた足の温もりが、一晩冷えた床に持っていかれる。ひんやりとした床を伝って微かな振動がバンに伝わってきた。

 どうやら部屋の隅に鎮座する巨大な猫から、その振動は発生しているようだ。グルルルルルと低い唸り声を吐きながら、音を聞くのに最適であろう耳を尖らしている。

 体長二メートル以上ありそうな体を震わせていると、その迫力はかなりのものだ。

 

「落ち着けゲブラー。ただの客だ」

 

 いきり立つ動物型の自動人形を落ち着かせ、ドアの外で響く微かな音に耳を傾ける。カツンカツンと一定の間隔で聞こえてくるのは足音だろう。音から察するにハイヒールが床を蹴るものだ。

 だがここは男子寮。女性が履くためのハイヒールの音がするのはおかしい。仮にそれが誰かの女性型の自動人形だとしても、こんな時間に一人で廊下を出歩くのことは考えられない。それなら術者の足音も聞こえていいはずだ。

 

「絶対アイツ。アイツしかいない。アイツじゃない筈がない」

 

 バンは足音の正体を知っているような口ぶりだが、何故か顔色は優れない。そして訪れる轟音。

 誰かがドアを勢いよろしく開き、ズカズカと他人の敷地を縦断する。

 

「な、なに!?」

 

 いきなりの騒音に、今まで気持ちよさげに寝ていたフィーナが飛び起きる。

 ゲブラーは先ほどよりも尋常ないほどにいきり立ち、フシャー!と殺気めいている。

 

「おはようバンちゃん♪お目覚めはいかが?」

「・・・最悪だ」

 

 突然の来訪者は見るからに異様だった。

 黒い肌に、鍛え上げられたムキムキのボディー。性別は男にもかかわらず、改造しまくったフリル付きの女性ものの制服を身にまとい、ツヤツヤの足を惜しげもなく剥きだしている。その足には、十センチはありそうなハイヒールが履かれており、巨体も相まって、寝転がればゲブラーと然程変わらないのではないかと言うほど。

 頭はスキンヘッドで、厳つい顔を無理やり柔和にしているため、見たこともないほどの不気味さだ。

 

「あら、ちょっと早く来すぎたかしら。夜ふかしはダメよ。折角いい男なんだからちゃんとケアしなきゃ」

 

 何故これほどの巨体で、僅か五ミリ程の小さなヒールが支えられるのか、よく見れば太もものガッチリとした筋肉が張っている。多分つま先で全体重を堪えているのだろう。 

 

「じゃ、じゃじゃじゃじゃ、ジャコット!!?」

「は~いフィーナちゃん♪今日も一段と小さくてキュートね」

「じゃ、ジャコットも、いつにも増してキ、キレイだね・・・」

「あっらぁ!そんなおだてても何も出ないわよ!」

 

 そう言いつつも、照れくさったように身をよじり、バンの背中を思いっきり叩く。バシーン!という尋常じゃない破裂音。さしものバンもあまりの衝撃に器官がむせ返りそうになる。

 

「いってぇ!!お前ら、まだ早いのに大声出したら、他のもんに迷惑だろ!」

「ああ、ゴメン」

「ん~でも、今のバンちゃんの声も相当大きかったわよ」

 

 しれっと言ってのける巨漢の男に、バンは一瞥くれてやる。

 しばしの沈黙の後、先に口を開いたのはバンの方だった。

 

「はぁ。話があるんだろ。今茶淹れるからちょっと待っててくれ」

「わかったわ。ならその間、ゲブラーちゃんと遊んでようかしらね。今日こそ懐いてくれそうな気がするのよ~♪」

 

 ジャコットが近づく度に、気を荒たてるゲブラーを見て、そんな日は永久に来ないだろうと思うバンであった。

 

 

 

 

「授業まで時間もないし、手身近に伝えるわね」

 

 片手に先ほど淹れた安物の紅茶を持ちながら、ジャコットは口を紡ぐ。椅子に座りながら足を組んでいるため、短いスカートからチラチラと下着が見え隠れしている。パンツは男物だった。

 

「ああそうしてくれ。じゃないと本当にやばいことになりそうだ」

 

 バンは右隣のゲブラーの方を見る。無理やりジャコットに迫られて相当ご機嫌ナナメのようだ。フィーナ愛用のくまのぬいぐるみを引きちぎっているのを見てもそれは分かる。

 

「ばぁ~ん~・・・」

「新しいの買ってやるから、お前はゲブラーに飯でもやってくれ」

「う、うぅ~ん」

 

 フィーナもかなり気を落としているようだ。ここで話をするのは失敗だったと思う。

 

「で、話は――まぁんなもん言わなくてもいいか」

「そうね。あなたに頼まれていた〈魔術喰い〉(カニバルキャンディ)の情報よ。って言っても、多分数時間後には出回る話だろうけどね」

「また被害が出たのか」

「言わずもがな、ね。酷い有様だったわ」

 

 ジャコットから一通りの情報を教えてもらう。

 〈魔術喰い〉(カニバルキャンディ)。今この学院で一番注目を浴びている魔術師と言っても過言ではないだろう。ただし、正体不明。

 名の通り、そいつは自動人形(オートマトン)を喰らうように殺し、ここ最近だけでも被害は十数件に及ぶ。

 

「術者は相当な腕前ね。目撃者も殆どいないし、いたとしても比喩的なものばかり。バンちゃんでも倒せるかどうかじゃない?」

「その前に見つけられるかどうかだけどな」

「あら、貴方ほどそれに最適な人物はそうそういないんじゃないの。貴方の能力があれば時間の問題だと思うけど」

「流石にそう上手くはいかないんだな、これが。術者と自動人形両方と対峙したならすぐ分かると思うが」

「そうなの?でもそれじゃ意味なくない?世の中そんなに甘くないということね」

 

 ジャコットは紅茶を飲み干してから、スッと立ち上がる。

 

「じゃあそろそろおいたまするわ。フィーナちゃんもゲブラーちゃんもマタネ~♪」

 

 そう残し、颯爽と立ち去っていった。

 

「僕、いつまでたってもあの人には慣れないよ・・・」

 

 怪訝そうに眉根を寄せながらフィーナが呟く。

 

「そう言うな。ああ見えて悪い奴じゃない。むしろいい奴だ」

 

 ジャコットはあの姿に巨体、それに黒人ともあってか、かなり多数の生徒から畏怖の目で見られている。最初に会った時は、同じ黒人の血を引くバンでさえ萎縮したものだ。

 だが、話してみれば気さくで気遣いもできる。ジャコットと同室の奴は、初めはかなりびびって、よく友人の部屋などに押しかけていたらしい。それが、今では良好な関係を築いているのだという。

 そして一番驚くべきことは、一部の女子生徒から絶大なファッションリーダーとして指示を得ているらしい。真相を確かめる気は毛ほどもおきないが。

 

「俺がこの学校で唯一普通に喋れるような相手だからな」

「でも、あのスカートはないよね。ゲブラー何て、見上げたら嫌でも視界に入っちゃうもん」

「それでか・・・。こんなに不機嫌なのは」

 

 くまのぬいぐるみは、最早原型を留めておらず、中に詰めてあった綿がそこらかしこに散らばっている。

 

「・・・やっぱり外見も重要かもな。・・・これ誰が掃除するんだよ」

 

 当然バンしかいない。

 朝から不快感MAXで授業に出ることになるであろうバンは、気を滅入ることしかできなかった。

 

 

 

 

 朝の授業を淡々とこなしていたバンは、今朝のことを思い出す。

 ジャコットが言っていたことは、実際学校中に知れ渡っていた。そこらかしこで噂になっていたので、聞き耳をたてて聞いていたものの、どれもジャコットから貰った情報以上のことはなかった。

 

〈魔術喰い〉(カニバルキャンディ)。目論見では十三人(ラウンズ)にも引けを取らない相手だと思うが・・・」

 

 被害にあっている自動人形(オートマトン)は、あと少しで夜会の百人に選ばれそうな候補組などの実力者達もいる。それを容易く一方的に狩るなど、相当な力の持ち主だ。

 

「バン!」

 

 そう考えにふけっていると、唐突に肩に座るフィーナが名前を呼ぶ。

 バンは俯いていた顔を上げるよりも早く、額に迫るソレを首だけで反射的に交わした(・・・・・・・・)

 その瞬間、バンの耳元を小さな飛来物が通過する。次いで、

 

「あぅ」

 

 と言う、間の抜けた可愛らしい声が後方から聞こえた。

 即座に後ろを振り返ると、そこには右手で額を抑えた、金髪碧眼の美しい少女の怒り狂う姿があった。

 パラパラと舞い落ちている白い粉はチョークだろうか。前を見ると担任のキンバリーが、右手に付いた同じく白い粉を払っていた。

 

「ほう。私の授業を横流しにしながら今のを避けるか。いい度胸じゃないか『緋紅』(スカーレット オブ クリムゾン)

 

 そこでバンはようやく己の失墜を理解した。

 

「いやー、えっと・・・大丈夫?」

 

 咄嗟に取り繕う言葉が出なかったため、キンバリーの視線から逃れるように、後ろにいるとばっちりを受けた少女に安否を確かめる。

 

「大丈夫かですって?あなたバカなの!?こんなか弱い乙女に怪我をさせておいて出てきた言葉がそれ!?」

「怪我したのか!?」

 

 バンは動揺しながら立ち上がり、少女の額に手を伸ばす。見ると当たった箇所と思われる所がうっすらと赤くなっていた。だが、強いて言えばその程度。コブや痣ができているわけでもない。

 

「な、な、なに気安くさっわってるのよ!!」

 

 伸ばした手を思いっきり弾かれる。ただ、弾いた時に骨の部分に当たったのか悲痛の声を上げる。

 

「~~~~~っ!!?シグムント!こいつ殺すわよ!」

「・・・バカバン」

 

 嘆息混じりに呆れた声が聞こえる。フィーナが我関せずといった感じで授業のノートに落書きをしている。

 どうみてもそんなことやってる場合じゃないだろとも思うが、朝の騒動でからっきし今日はやる気が無いようだ。

 少女の隣では猫ぐらいのサイズのドラゴンが羽ばたいている。このドラゴンが少女の自動人形なのだろう。少女から魔力が流れているのがくっきりと見て取れる。

 

「やれやれ、君のその短気さにはいささか呆れるな。彼も心配してくれているんだ。許してやったらどうだシャル」

 

 ドラゴンは喋った。ゆったりとした口調であやすように言葉を放つ。

 

「心配?そんなの無用よ!普通、まずは謝るのが先でしょ!こんな礼儀知らずに手加減の余地は無いわ!」

「ああ、悪かった!ゴメン!」

 

 バンは両手を合わせて即座に謝る。だが、遅かったらしい。流れる魔力は留まることを知らず、今にも魔術を放ちそうである。

 

「お、おいフィーナ!こういう時はどうしたらいい!?」

 

 人付き合いが苦手であるバンは、どうやったらこの状況を丸くおさめるられるのか皆目不可能だった。

 その為フィーナに泣きの懇願をする。

 すると帰ってきた答えは、

 

「そうだねー。あいらぶゆーって言っとけばいいと思うよ」

 

 と、どうでもよさげな返答だった。

 だが、緊迫しているバンは深く考えず、言われた通りに実践する。

 

「アァイ ラァブ ユゥー」

 

 舌を巻いて、なるべく発音が良いように。

 すると、けたたましい程の魔力が一瞬で消滅する。

 やはり、フィーナの方が自分より人付き合いは何倍も上手いのだと思ったのも束の間。さっきの魔力が可愛らしく思える程の怒気と殺気が溢れ出す。

 

「よかったじゃないかシャル。生まれて初めての告白だ」

「こいつ絶対私をバカにしてるわね・・・!!!」

 

 わなわなと震えながら、再び魔力を注ぐためにドラゴンの背中に手のひらを向ける。

 と、その時に、教壇の方から手を叩き合わせる音が響いた。

 バンも少女も音のする方に注意を向けた。するとそこには鬼の形相をしたキンバリーが仁王立ちして、こちらをキツく睨みつけている。

 

「君達。今が私の授業だと知ってての狼藉かね?夜会の参加者が聞いて呆れるな」

「なっ、・・・違いますキンバリー先生!全部この男のせいです!」

 

 実際その通りなのでバンは否定どころか、口を挟むこともできない。

 

「確かに。私のチョークを避けて、あまつさえ私を放置していたそこの阿呆が一番悪い。だが、だからと言って授業の邪魔をするのを無視しろと言うのか?「君臨せし暴虐」(タイラントレックス)

「う、でもでも、私は殆ど被害者・・って言うか、なに貴方が傍観してるのよ!私より貴方が怒られなさいよ」

 

 急に矛先がバンに向いてきた。キッと睨む少女――シャルロット・ブリューは、声を荒らげ激昂を飛ばしてくる。

 その視界の端では、彼女の自動人形――シグムントと、フィーナが話をしている。フィーナは先のノートを広げ、

 

「見て見て、これ僕が描いたやつ」

「ふむ。これは私か?よくできている。君は優秀な自動人形のようだな」

「えへへ」

 

 そんなやり取りが繰り広げられていた。

 

「あー。その、巻き込んだのは悪かった。キンバリー先生も授業の邪魔をしてすみません。少し考えごとで・・・」

「君はその程度の言い訳で済まされると思っているのか?」

「いや・・・」

「そうよ!それで終わりなんて、この私が許さないわ!それ相応の罰を受けるのが当然よ!」

「いいことを言うじゃないか「君臨せし暴虐」(タイラントレックス)。何、私は博愛主義者なもんでね。男も女も、黒人も白人も差別はしない。君等二人には、昼休みメインストリートの掃除を命じよう」

 

 しばしの沈黙。言い終えたキンバリーが、もう用はないといった感じで黒板に振り返り、新しいチョークを取り出して筆記を始めた。チョークが黒板にカツカツと当たる音がダイレクトに聞こえる。周りの生徒も一言一句喋らない。

 

「「は?」」

 

 ありえないといった感じで、バンとシャルは揃って疑問の声を上げた。

 今日は厄日になりそうな。いや、厄日だろうと思うバンであった。

 

 

 

 

「ふっざけんじゃないわよ!!!」

 

 苛立たしげに地面を蹴り飛ばす金髪碧眼の少女。

 ひぃ、と小さな悲鳴をあげて周りの生徒が道を開けていく。

 

「そろそろ機嫌直してくれないのか?・・・いや、すいません。俺が悪いです」

 

 そう後ろから声を掛けてくる青年。朝、シャルに無礼を行った男である。後ろには彼の自動人形(オートマトン)だろう巨大な猫が付いてきている。

 シャルがキツく一瞥くれると瞬時に黙り込む。

 

「ああああ、もおおお、イライラするわね!!どうして私がこんな事!!!」

 

 そう言うシャルの手には、袋とトングがそれぞれ握られている。今は罰則を行っている最中だ。

 

「だから全部俺がやっとくっていっただろ」

「バカなの?正真正銘のバカなの?頭の中ツルツルなのね!それでバレたら怒られるのは私じゃない!」

 

 青年にもシャルと同じく似たような袋とトングが装備されている。

 

「へぇ以外に真面目なんだな。聞いてた話と大違・・い!?」

「これ以上私を怒らせるとどうなるか分からないわよ。このストーカー」

 

 そう言いつつ、青年――バンの目の前に突き付けられるトング。泥や食べ零しなど、色々なゴミを拾っているそれは、かなりの臭いを漂わせている。

 

「いや、何か誤解してるぞ。断じてストーカーじゃない。この学院で「君臨せし暴虐」(タイラントレックス)を知らない奴はいないだろ」

「ふぅん。じゃあ貴方が聞いていた私はどういう奴なのよ」

「凶暴で強暴で狂暴。本当に女なのか疑っていたぐらいだ」

 

 バンが答えると、シャルの帽子の上に乗っていた仔竜がせせら笑った。

 

「はっはっは。随分と的を射ているな」

「何笑ってるのよ!お昼のチキンをひよこ豆に格下げするわよ!」

 

 もぞもぞとバンの服が動く。腹部辺りから胸部を伝って首元までいき、ポンとフィーナが顔を出す。

 今日は睡眠を無理やり起こされ寝不足だったのか、バンの服の中で寝ていたのだろう。フィーナが目を擦りながら空中に舞い出ると、シャルの目が一瞬で変わった。

 

「キャー♡♡♡カワイイ・・・く無いわよ!術者がショボイと自動人形もちんけなのね!」

 

 瞳を輝かせていたのが、我に帰ったのかいきなり罵倒してくる。

 

「え?何でいきなり悪口言われてるの?バン?」

「まぁこいつからしたら、今は俺たちはショボイんだろうけど、言い方があるだろ?」

「すまない。許してやってくれ」

 

 バンは多少むっと来て言い返したが、誤ったのは本人じゃなくその自動人形のシグムントだった。

 

「彼女は少し不器用なんだ。たまに、本当は思っていないことを口走ってしまう悪癖がある。残念なことにそのせいで友人と呼べる相手すらいない」

「なっ、なにベラベラと喋っているのよシグムント!今のは本心よ!本音よ!大体、ここに通う生徒は皆夜会を争う敵なのよ!敵と馴れ合うつもりはないわ」

 

 ふんと吐き捨てるように言う。周りの生徒をギロギロ見つめる。すると、目を合わせないように違う方向を見ながら距離を離していく。

 

「相当恐れられてるようだな」

「本意よ!その程度の腰抜け共としか思わないわ!」

「まぁ夜会の敵ってのは分かるがな。俺も勝ち抜けばお前に当たるわけだし。友達も欲しいと思って簡単に作れるわけじゃないしな」

「誰が欲しいなんて言ったのよ。私はそんなの必要ないって言ってるでしょ」

「ああ、いや。これは俺の話だ」

 

 少し悲しげにバンは笑う。

 その表情にシャルはどこか心に微かな動揺があった。

 

「ふむ。ならばシャル。お互いにいい機会だ。どうだ友達になってみたら?」

「・・・はっ。冗談じゃないわ。誰がこんなバカなんかと・・・」

 

 そこで思い出したように話題を転換させる。

 

「そう言えばさっき、勝ち抜けば当たるといったわよね?もしかして貴方も夜会の参加者なの?」

 

 もしかしても何も、気づいた時にバンの手を見て分かりきっている。そこには確かに夜会の参加(エントリー)資格である手袋が装着されている。

 

「ああ。てか気づいてなかったのか?」

 

 呆れた物腰で言われた。

 

「・・・順位は?」

 

 品定めするようにバンと、おそらく主な戦力であろうゲブラーを観察する。

 

「五十だ」

「何よ。てんで弱ちんじゃない」

「バン、酷評だよ」

「それぐらい分かるわ」

 

 それで興味を失ったのか、シャルは前方へと向き直る。

 

「シャル。油断は禁物だ」

「それぐらい分かってるわよ。私は女王陛下から一角獣の紋章と北の領地を賜った、ブリュー伯爵家のシャルロットよ。油断なんかしない」

 

 そうシグムントと会話する。

 

「だけど」

 

 くるりと反転し、再びバンたちを睨みつける。

 

「所詮、五十位までは成績で選ばれた連中。こいつはその中で一番というだけよ。実戦では負けるつもりは毛頭ないわ」

 

 右手の人差し指で指し、無い胸を張り出して宣言する。

 その言葉はバンたちに向けられているようで、実際には眼中にもなかった。

 

「へっ。俺らなんか屁でもないってか?アッタマ来たぜ。さっきまでは申し訳ないなって思ってたが、今じゃ泣かしたくなって来た!」

 

 互の体から魔力が溢れ出す。それが当たった瞬間、反発しあうように火花を発する。交差する眼差し。

 いきなりの戦闘(バトル)が勃発しそうな勢いに、行き交う生徒は足を止める。周りでは口々に、

 

「おい、あの〈暴竜〉(Tレックス)が戦うらしいぞ!」

「何だって?相手は誰だ?」

「ああ、あいつだよ。あのムラートとかいう」

「うわっ!あいつかよ。俺あいつ嫌いなんだよな」

「じゃあ、そいつが無残にリンチされるのが見れるぜ」

「そいつはラッキーだな。何もしなければ夜会に出れたって言うのに。よっぽどのバカだな」

「でも、俺あいつの戦ってるとこ見たことねー」

「どうせ大したことねーよ。〈暴竜〉(Tレックス)に瞬殺されて終わりだ」

 

 そんな囁き――いや、聞こえる音量で悪意の隠った声が聞こえる。

 だが、そんなもの気にしていても無駄だ。バンとシャルは一斉に自動人形に魔力を注ごうとした。だが、それを中断させる声が、二人の間に割って入った。

 

「お取り込みのところ悪いんだが、そちらシャルロット・ブリュー嬢とお見受けする」

 

 ふてぶてしく話しかけてきたのは、白人でも黒人でもない変わった色の肌をした少年だった。

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