ブレイクブレイド 〜メイド・イン・アメリカ〜   作:主(ぬし)

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思いついたので書いたよ。ブレイクブレイドは途中で読むのをやめてしまったけど、アニメは全部観たよ


前編

 熾烈な戦いを経て、ついにデルフィングは致命的な損傷を受けた。脚部は寸断され、腕は根本から崩れ落ちた。雄々しい一角を戴いていた頭部はごっそりと抉れ、内部構造が痛々しく覗いている。もはやライガットの願い虚しく、とても戦える状態ではなくなった。天才シギュンと言えども、古代技術の結晶であるデルフィングがここまで破壊されてしまえば、修理することはできなかった。そこへ、クリシュナ討伐を旗とするアテネス軍が迫る。率いる将軍は、かつてのライガットの親友にして因縁の宿敵、ゼスその人である。小国クリシュナの保有するゴゥレムは旧式の上に数も200足らず。一方、大国アテネスは最新鋭機多く、その保有数は700を超える。戦闘の練度から言っても勝てる道理はなく、今までの辛勝はただライガットとデルフィングの存在あってこそだった。その幸運も、尽きた。

 絶望に塞ぎ込み、ライガットは一人デルフィングを発見した古代遺跡を降りていた。もしかしたら、都合よくデルフィングがもう一機見つかるかもしれない。この遺跡は隅々まで調査されたことは知っていた。それでも、何か見つけられるかもしれない。それしか、望みはない。儚い希望を胸に、力ない視線でキョロキョロと見回す。しかし、見つかったところでどうだ。相手は大国アテネスで、将軍として立ちはだかるのはあのゼスだ。ゼスの強さ、才覚はよく知っている。デルフィングが完全な状態でも、一国の大軍勢を前にしては太刀打ち出来ないだろう。ならば、大人しく降伏するか───それは出来ない。ゼスはクリシュナ国王のホズル、そしてその妻であるシギュンの処刑を求めている。降伏すれば、シギュンは殺されてしまう。ライガットはシギュンをまだ愛していた。降伏など出来ない。だが、抵抗も出来ない。希望は消え去り、眼下の暗闇のような暗黒の運命しか見えなかった。

 

「俺は……俺には、何も護れないのか……? うわっ!?」

 

 不意に足を滑らせて、ライガットは螺旋階段を転げ落ちた。どこまでもどこまでも、深く深く、地下施設の底まで、ゴミのように転がり落ちていく。砕けた金属片が皮膚に食い込み、切り裂いて、鮮血が撒き散らされる。落下を食い止めようと振り乱した指の皮が千切れ、爪が抜け落ちる。十数秒が、彼には何時間にも思えた。ついに行き止まりの壁に背中を打ち付けて、ようやく終点に辿り着いた。不自然に何もない、螺旋階段の終わり。見上げれば、遺跡の底の底、地上の光が遥か上にポツンと見える。巨大な井戸の底に落ちてしまったかのようだ。全身の激しい痛みに呼吸もままならない。頭を振って目を瞬いていると、唐突に、理解できない言語の機械音声が金属の壁に木霊した。

 

『血液採取。Sクラスライセンス保持者の遺伝子情報を確認。封印解除。ようこそ、同盟国預かり品( ・・・・・・・)保管区画へ。当機体の運用については米国太平洋空軍司令部及び統合幕僚監部の許可が必要です』

 

 何を言っているのかはまったく理解できない。しかし、デルフィングのコックピット内部で聞いた音声にそっくりだった。ギョッと目を見開いて驚く彼の目の前で、それまで壁の一部だったところに切れ込みが生じ、分厚い扉が静かにスライドした。そこは隠し扉になっていたのだ。扉の向こうは、まるでペンキで塗りたくったような暗闇が立ち込めている。何の偶然か、背中を打ち付けた拍子に飛び散ったライガットの血液が扉を開く鍵となったようだった。

 

「もう、どうにでもなれ、だ」

 

 痛む身体を圧して、おずおずと闇の中に足を踏み入れる。カツン、と足音のこだまが高く広く反響する。反響の感じからして、かなり広い空間らしい。そう推量していたライガットの目を、突如強烈な照明の光が潰した。「うっ!?」と思わず手で目庇おうとして、彼は動きを止めた。生物的な怖気が全身を走り狂い、一瞬で喉が干上がった。

 千年の時を経ても一切の損傷が無い巨大な空間に、それ(・・)は超然と聳え立っていた。天を衝くように堂々と仁王立ちするそれは、おそらくゴゥレムなのだろう。しかし、そのスケールがまったく異なる。デルフィングが11メイル(約9m)だとしたら、その血のように紅い巨躯は20メイルを優に超えていた。ライガットは畏怖を覚えながら、喉を一度鳴らすと勇気を振り絞ってゆっくりと歩を再開する。一歩近づくごとにその覆いかぶさるような巨体に圧倒される。その攻撃的かつ鋭角的なフォルムは、デルフィングとは次元の違う設計思想から生み出されたものに違いない。胴体に比べて頭部は小さめで、一対の目は人間と同じだが、鼻と口に当たる部分は鎧兜のように盛り上がり、牙のような意匠が刻まれている。その恐ろしげな顔つきは機械(マシン)というよりどこか生物的で、そして悪魔的だ。マニピュレータの爪は刃のように鋭く、触るだけで肌が斬れそうだ。何より、その背部に装備された巨大なそれ(・・)には呆気に取られる他ない。

 ついに足元まで辿り着いた。現代のゴゥレムとは桁違いの大きさに圧倒される。蛇を前にした蛙、はたまた象を前にした蟻になった気分だった。恐怖に膝が笑いそうになる。実はこれは機械ではなく生物で、間抜けな餌が近くにやってくるのを待っていて、今にも動き出して食い殺されるのではないか、という錯覚すら覚える。意を決してそっと脚部に触れてみる。瞬間、刺すような金属の冷たさにギクリとして手を引っ込めた。だが、わかった。デルフィングと同じ物質───“金属”で出来ている。古代の(アンダー)ゴゥレムだ。だが、このアンダーゴゥレムはただのゴゥレムではない。デルフィングとも違う。そう、デルフィングとは明らかに違う。

 

 なぜなら、デルフィングは、このゴゥレムのように巨大な鎖で雁字搦めに(・・・・・・・・・・)封印などされて(・・・・・・・)はいなかった(・・・・・・)からだ。

 

 直径が人間の胴体ほどもある無骨な鎖は幾重にもわたって巨体の上を取り巻き、その重さでゴゥレムを押し潰さんばかりだ。クリシュナの保有するファブニルのような旧式ゴゥレムであれば、とっくに潰されているだろう。何本もの鎖の両端は空間の内壁に深く打ち込まれ、その決意を物々しく表している。まるで、これはダメだ(・・・・・・)、とこちらに訴えかけてくるように。

 おそらく、古代人はこれを使うことを恐れたに違いない。これが目覚めることを拒否したに違いない。自分たちで産み出しておきながら、制御できる自信がなかったに違いない。それだけの力を秘めたゴゥレムなのだ。きっと、国一つ簡単に(・・・・・・)滅ぼせるくらい(・・・・・・・)の力を秘めているに、違いない。普通に考えれば、こんなものを世に解き放つなど、言語道断だ……。

 その時、ライガットの心に、平時の自分であれば浮かばないだろう冷ややかな考えが過ぎった。

 

 

 デルフィングは、もう戦えない。

 ゼス率いるアテネス軍は、すぐ目の前まで迫っている。

 クリシュナの貧弱な防衛軍は、奴らに到底対抗できない。

 このままでは、クリシュナを、シギュンを護れない。

 力が必要だ。それも並大抵の力じゃない。大国に勝てる力が。ゼスに勝てる力が。

 今の俺には、国一つ滅ぼせる(・・・・・・・)ような、強大な力が、必要だ。

 たとえ、悪魔と契約してでも───

 

 

「なぁ、オイ、デカブツ───ここから、出たいか?」

 

 ライガットの這いずるような囁きが反響する。闊達な彼らしくない、淀んだ囁きだった。その暗い波長は、ゴゥレムの聴覚センサーに確かに届いた。ライガットの問いかけに呼応して、一対のカメラアイにぼんやりと朧気な炎が灯る。炎は久しぶりの目覚めにほんのちょっぴり驚いて辺りをキョロキョロと見回し、そしてすぐに足元をギョロリと見た(・・)。そこには明確な意思が備わっていた。ただのゴゥレムではない、というライガットの予想は正しかった。巨大な眼球と目が合った彼は、頬に一筋の冷や汗を伝わせ、それを最後の人間らしい感情の吐露として、この世のものとは思えない凄絶な笑みを浮かべた。

 

「出してやるよ。だから、俺に……ゼスを殺す、力をくれ」

 

 次々と鎖が弾け飛んだ。絡みついていた鋼鉄の鎖が力任せに引き千切られ、バラバラの輪っかになって次々と地面に落ちる。強化コンクリートに打ち込まれていた楔が根本から叩き折れ、そこに鋭い爪が音を立てて食い込んだ。千年も己を閉じ込めていた忌々しい牢獄を完膚無きまで破壊せんと巨大な四肢が振り乱される。古代人の封印は、無駄だった。火を入れられた動力炉が唸りを上げ、背中のそれ(・・)が大きく展開する。魔物のような顔面が上下にガバリと割れ、剥き出しになった牙が大気を噛み砕いた。自らの覚醒を宣言する巨人の雄叫びが地下施設を、それを包み込む地殻全体を激震させる。壮絶なその光景を、ライガットは満足そうに見上げていた。

 

 彼は、運命に勝ったのだ。




後編も出来上がってるので見直したら投稿します。
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