新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ ディレクターズカット   作:KITT

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第十四話 次元断層の脅威! ヤマト対ドメル艦隊! Bパート

 

「あれがヤマトか……」

 

 ドメルは艦橋のメインパネルに拡大投影されたヤマトの姿を見て、ぼそりと呟いた。

 ガミラスはもちろん、いままで遭遇した国家のそれと比較しても非常に珍しい形状の艦型。

 どのような機能を求めてあのような姿になったのかは用として知れないが、これまでの交戦データから非常に優れた戦闘艦であることが確定している。

 

 ドメルが乗るこのドメラーズ三世もガミラス最新鋭の超弩級戦艦だ。

 全長はヤマトの倍近くあり単純な砲撃装備の数では圧倒している。

 とは言え、重武装・重装甲の艦隊旗艦として設計されているため小回りが利かず、機動力では劣っているだろう。

 それに砲撃装備の数で圧倒しているとは言え、機関出力で大きく差を付けられているため、総火力は五分といったところだろうか。

 制御の難しさと生産性もあり、ガミラスでは主機関を連装化している艦艇はほとんどないので推測でしかないが、真っ向からの衝突は避けたいところだ。

 

「ドメル司令、ヤマトはどうやらこちらに気付いたようです」

 

 部下の報告にドメルは小さく頷く。

 思ったよりも対応が遅かった。やはり、次元断層内での行動は不慣れなのだろう。

 しかし不慣れな状況ながら、現状打破のために自分たちと同じ次元の物体を探し出し、脱出の手掛かりを得ようとするまでの行動の速さは特筆に値する。

 デスラー総統が目をかけるだけのことは、あるようだ。

 

「よし、まずは艦隊の全火力をもって先制攻撃を仕掛ける。それで撃沈できなかった場合は包囲して波状攻撃をかける。一気に仕留めようとするな、じわじわと時間をかけて追い詰める。この空間の中では六連炉心と推測されるヤマトとてエネルギーは厳しいはずだ。持久戦に持ち込めばわが軍の勝利は揺るがない。タキオン波動収束砲も、この環境ではおいそれとは使えず、無駄撃ちすれば脱出の可能性すら消してしまうことを、連中は知っているはずだ。まずはヤマトを消耗させることを考えろ。指示したどおりのローテーションを組んで、わが軍の消耗は極力抑える。エネルギーが厳しいのはこちらも同じだということを忘れるな!」

 

 ドメルは静かに、だが力強く指示を出す。

 バラン星に駐屯していた艦隊に自身が育て上げた部下たち。

 まだ連携が完璧ではないのが懸念材料であるが、この千載一遇のチャンスを逃す手はない。

 そして――。

 

(さあヤマト。この一手を退ける手段は、ひとつだけだぞ……!)

 

 

 

 

 

 

「――艦長、航路データを遡るには……敵艦隊の背後に抜けるしかありません」

 

 隠し切れない緊張の滲んだ声で報告するルリ。

 いままでとはけた違いの規模にユリカも一瞬判断に迷ったが、こうなっては取るべき手段は――!

 

「全艦第一戦闘配置! 敵の中央を突破して次元の境界面到達を目指します! この状況で明後日の方向に逃げても却って状況が悪くなるだけです! 一か八か、死中に活を求める以外に方法はありません!」

 

 ユリカは有無を言わせない強い口調で命令する。もうそれ以外の最善策がない。

 

「しかし、突破するにしても中央には敵の旗艦と思われる超弩級戦艦があります。ヤマトよりも大型ですよ!」

 

 半ば確認するような進に、

 

「それでもよ! 迂回したり防御の薄そうな場所を突こうとしたら却って包囲殲滅されかねない! それに旗艦に接近すれば、敵部隊も迂闊に攻撃できないはずよ!」

 

 力強く断言すると進も覚悟を決めたようだ。

 手早く全兵装を起動させて全力攻撃の構えを取る。

 

「進兄さん。再度確認しますが、エンジンの効率が大きく落ちているのでヤマトのエネルギー回復量はいつもの二割がやっとです。改良で武器のエネルギー効率が上がっているとしても、あまり攻撃と防御に専念し過ぎるとエネルギー切れを起こして、エンジンが停止してしまう恐れがあります」

 

 ……厳しい状況だ。

 この空間からの脱出には波動砲が必須で、脱出後にワープで距離も取りたい。

 だとすれば、包囲突破時点で相転移エンジン二基以上の稼働と総エネルギーの三割程度は残さないと……ヤマトは終わりだ。

 

「敵艦隊より射撃用レーダーの照射を確認! 一斉砲撃が来ます!」

 

 

 

 

 

 

 ドメル艦隊はヤマトを射程に捉えるや否や、全火力をヤマトを含めたデブリ帯に向けて容赦なく叩きつけた。

 数百もの重力波の火線が、ヤマトのいるデブリ帯を一瞬で消滅させる。

 ほとんどの将兵がこの瞬間勝利を確信していた。

 どれほど強固なフィールドであろうとも、これだけの物量に勝てるものではないのだ。

 

 しかしドメルだけはヤマトがまだ沈んでいないという確信を持っていた。

 なぜならば――。

 

「や、ヤマト、健在です!」

 

 部下の驚きに満ちた報告も、ドメルはさも当然だと言わんばかりに受け止める。

 ヤマトには恒星フレアを突破した、あのタキオン波動収束砲の応用戦術がある。この程度の砲撃で、恒星フレアを突き抜けたあの防壁を突破することはできない。

 ドメルは薄く笑う。

 そうだ、そうするしかなかっただろう。

 私はその選択肢しか残さなかったからな。

 

 

 

 

 

 

「モード・ゲキガンフレア解除――なんとか砲撃を凌げたようです」

 

 進の報告にユリカもホッと胸を撫で下ろす。

 波動エネルギーの繭を脱ぎ捨て、艦体に反重力感応基で集めた大量のデブリを身に纏ったヤマトの姿が露になる。

 さあ! ここからが本番だ!

 

「第三戦速! 敵艦隊中央に向けて突撃開始!」

 

「了解! 第三戦速。進路、敵艦隊中央!」

 

 モード・ゲキガンフレアで稼いだ初速も利用して、ヤマトは四〇〇隻にも及ぶ大艦隊の真っただ中に向かって突撃を開始した。

 

 あの瞬間。

 砲撃を避けられないと瞬時に判断したユリカは、モード・ゲキガンフレアの使用を決断した。

 判断の速さと思いきりはさすがだと、ルリは改めて感心させられた。

 そのおかげでヤマトは宇宙の藻屑とならずに済んだのだが……。

 

「艦長、第一、第二相転移エンジンが停止。ヤマトの総エネルギー量が六分の四以下にまで減少しました……」

 

 ラピスの険しい声は、第三艦橋にも届いている。

 防御のみが目的だったので極力抑えたつもりだったが、攻撃を凌ぎきるのに結局波動砲二発分を使ってしまった。

 直結構造で波動砲のように分割消費ができないシステムだから仕方ないと言えば仕方ないのだが……いきなり総エネルギーの六分の四を使わされたのは幸先が悪い。

 

「やはりこの空間内ではエンジンの再始動は不可能です。最大まで起動用電力を投入しても、点火してくれません」

 

 状況はかなり悪い。いや最悪と言ったほうが適切だ。

 通常空間なら、この状況でも辛うじてだが相転移エンジンの再始動が間に合う。

 波動砲やワープが使えるほどの回復は望めなくても、活動不能に陥る危険性がぐっと低くなっただろうが、現状では消耗していく一方だ。

 このまま全力戦闘を行えば、敵艦隊を突破するよりも先にヤマトのエネルギーが枯渇してしまうのは火を見るよりも明らか。

 普段どおりには、戦えない。

 だがユリカの戦意は衰えていないようだ。

 ヤマトの艦長になってからの彼女は、ナデシコ時代とは本当に意気込みが違う。

 

「進! 不必要な砲撃は極力避けて、進路の邪魔になりそうな敵にだけ絞って! ミサイルを撃ち尽くしたっていい、主砲は最小限で行くよ!」

 

「了解!――ルリさん、アステロイド・リング防御幕の形成を! 合わせてリフレクトディフェンサーの準備願います!」

 

「了解、制御は任せてください!」

 

 進の指示にルリはすぐに応えた。

 煙突ミサイルと両舷ミサイル発射管からリフレクトディフェンサーが次々と射出される。

 リフレクトディフェンサーは艦体を離れてたデブリに交じってヤマトの周囲を旋回、防御幕を形成した。

 

「雪さん、私はアステロイド・リングとリフレクトディフェンサーの制御に全力を尽くします。情報統括処理はすべてあなたにお任せします」

 

「任せてください!」

 

 第三艦橋に降りていた雪が副オペレーター席でルリのフォローをしてくれる。

 暇を見つけては自分の片腕としての教育を施してきたが、雪はルリの教えたことをよく吸収し、ハリには及ばないまでも自身のフォローを任せるに足る実力を身に着けつつある。

 おかげでルリは全力をアステロイド・リングとリフレクトディフェンサーの制御に注げる。

 このふたつの装備はヤマトの全力機動に追従できないとされている。だがそれはハードウェアよりもソフトウェアの問題の方が大きい。

 が、ルリが他の追従を許さないその卓越したオペレート能力で手動制御すれば話は別だ。そのための訓練は大介の協力の元、何度も行っている。

 しかし負担は大きいしそれ以外のことはできなくなる。こんな非常事態でもなければルリとて遠慮したい作業だった。

 だがうまく機能すれば、ヤマトが全力フィールドを張るよりも消費エネルギーが四~五割程度少なくて済む。

 一パーセントでもエネルギーに余裕を持たせたい状況なので、すべての攻撃をこのふたつの機能で限界まで凌ぎ切れば、その分余力が生まれるはずだ。

 

 つまり、電子の妖精の腕の見せどころというわけだ。

 仲間の協力があれば……やれる!

 

 

 

 

 

 

「ヤマト、艦隊に向かって進撃してきます。例のアステロイドを利用した戦術を使用しているようです」

 

「なるほどな。なかなか思いきりのいい指揮官だ」

 

 ドメルは素直に感心していた。

 よく状況がわかっている。それ以外に活路はあるまい。

 限りあるエネルギーとは言っても、出し惜しみをして撃沈されては元も子もない。ヤマトが生き延びるためには、その防御幕を展開するしかなかった。

 さあ、開戦直後にエネルギーを浪費させられた気分はいかがほどだろうか。

 

「さて、ヤマトが取れる行動は――」

 

 初手からあの防御幕を展開していたのには驚かされたが、ヤマトの行動を読めばそれが成せた理由はおおよそ推測できる。

 おおかた手掛かりの捜索ついでに補給物資を確保しておこうという魂胆だったのだろう。それがこの土壇場で有益に機能した、というところか。

 だとしたら実に運がいい。

 そしてその過程で次元の境界面のデータも得たのだろうと思えば、艦隊の中央突破を目的とした進路も頷ける。

 次元の境界面はなにも艦隊後方のひとつだけではない。だが悠長に捜索している余裕は、ヤマトにはない。

 一日でも早くイスカンダルに辿り着き、地球が滅亡する前に帰らなければならない心理的圧迫感が常にあり、これだけの大艦隊に追いかけられながら当てもない捜索活動を行うことの非現実さを考慮すれば、所在のはっきりとしている艦隊後方のもの以外は眼中にないはずだ。

 

 おまけに艦隊に対する切り札であるはずのタキオン波動収束砲は、使うに使えないはず。

 

 あの兵器が次元の境界面を強引に抉じ開けるための最終手段として機能するであろうことは、その原理から容易く推測できた。

 ならばこそ、安易に使って自らの首を絞める真似はできまい。

 あのリング防御幕を使って消費を極限まで抑えつつ、艦隊を中央突破して後方の次元の境界面にタキオン波動収束砲を撃ち込んで開口部を形成、脱出後に即座にワープで逃走。それ以外にないだろう。

 

 つまりこちらが取るべき行動は飽和攻撃であのリングを剥がしてフィールドを展開させ、主砲を含めた武器を使わせてエネルギーを枯渇させることで無力化して拿捕、ということになる。

 こちらは数の優位を活かして持久戦に持ち込んでやればいいだけだ。

 本来ヤマト相手には愚策になりかねない距離を置いた包囲陣形も、最大の懸念材料であるタキオン波動収束砲を状況的にも心理的にも使い辛いこの状況なら最大限に活用できる。

 数の暴力を文字どおり力づくで覆すための切り札を封じられてしまった以上、ヤマトがこの包囲網を突破できる可能性は極めて低いだろう。

 

(総統もきっと、一番の望みはクルーを含めて鹵獲することのはず。だからこその持久戦だ。功を焦る形でやりすぎてしまい、ヤマトを撃沈することは極力避けたいところだな)

 

 だが懸念はまだ存在する。

 ドメル気を引き締めてモニターを睨みつけた。

 あの艦にはまだ、冥王星基地をただの一撃のもとに消滅させた、人型がいる。

 あれだけの出力を、あのサイズの兵器に積めるエンジンで叩き出すことはガミラスでも不可能だ。とすれば、あの背中の戦闘機のような増設ユニットの下に吊るされていたタンクが、発射用のエネルギータンクとみて間違いないだろう。

 それに加え、ヤマトから照射される重力波ビームを受信することでも発砲できるということが、プロキシマケンタウリでの戦いで判明している。

 あれがこの空間でも使用できるというのであれば、タキオン波動収束砲にも劣らない脅威として、ドメルの艦隊に牙を剥くことになるだろう。

 ドメルはあの大砲がタキオン波動収束砲の亜種であると見当は付けていたが、それ以上の仕様については不明な点が多く、具体的な対抗策を見いだせないでいた。

 それにあの人型は、あの大砲抜きにしても尋常ならざる強さを見せつける、艦載機版のヤマトとでも形容すべき兵器だ。

 動力はおそらく小型の相転移エンジン。それも波動エンジンの技術でアップグレードされた、戦争初期の地球製のそれとは比較できないほど高性能な。

 背中のユニットと本体で最低でも二基以上搭載されていると睨んでいる。

 相転移エンジンはこの空間では機能し辛いが、まったく使えないというほどでもない。

 ――あの機体の動向にだけは、注意を払わなければ。最悪戦況をひっくり返される危険がある。

 ドメルは圧倒的優位な立場にあることを自覚しながらも、それが綱渡りのような錯覚すら覚えた。

 すべてが、いままで自分が相対してきた相手と異なる。

 一騎当千の戦艦と人型。未知なる強敵。

 ドメルは知らず知らずのうちに口角を上げていた。強敵との対峙に、静かに高揚を覚えていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

(読まれてたか……予想よりも艦隊の展開が早い)

 

 ヤマトはアステロイド・リングを使用しながら第三戦速を維持してガミラス艦隊の中央を突き進む。

 ヤマトの周囲を、まるでトンネルを作るようにガミラス艦が円運動で包囲している。

 どの艦も必要以上に接近することなく、断続的に砲撃とミサイルでヤマトを襲う。

 各艦の間隔は広く取られているのに……横から抜け出す隙が見出せない。

 ……手強い指揮官だ。

 ユリカは自分がいま、かつてないほどの強敵と相まみえていることを自覚して背中が冷たくなった。

 

 だが、負けられない。ヤマトは負けられないのだ。

 

 雪が第三艦橋から送ってくる敵艦隊の位置データを基に、ヤマトの進路を細かく指示する。

 ジュンの手伝いも借りて頭脳をフル回転。次々と送られてくる各種データから艦隊の動きを把握し、最小の消耗で突破できるようにヤマトを導く。

 

 全力を出したルリのアステロイド・リングの制御は見事なものだった。

 右回転、左回転と異なる方向で回転するリングをいくつも形成して動かし、ヤマトに襲い掛かってくる攻撃を巧みに防いでいる。

 ルリのおかげでヤマトはまだ一発の被弾もなければ、迎撃ミサイルの一発すら使っていない。

 リフレクトディフェンサーの制御も感心させられる。

 ルリはヤマトに放たれた重力波を的確に逸らすばかりか、逆に危険度の高いガミラス艦に向けて屈曲させることで攻撃にも転用しているのだ。

 想定された使い方とはいえまだまだデータ不足の装備。それをここまで使いこなすルリの手腕は母親として本当に誇らしいものである。

 

 だがルリの奮戦をもってしても、状況は好転していない。

 反射された攻撃で傷つくと、ガミラス艦はすぐに離脱する。普通ならそこが好機足りえるのだが、落後した艦の代わりがすぐさま飛び込んできて穴埋めしてしまう。

 一切の遅滞を感じさせない、滑らかな艦隊運動だ。

 それに……。

 

(数の優位を活かしてヤマトを消耗させて鹵獲するつもりね……完全にこちらの思惑が読まれている……)

 

 包囲網の外側に攻撃に参加せず同行している艦があるのに気付いたユリカは、すぐに敵の狙いを察した。

 ……敵の指揮官はヤマトを撃沈するのではなく、無力化して鹵獲したいのだ。

 ガミラスの状況を考えれば、完成された波動砲は喉から手が出るほど欲しいだろう。

 ただ、鹵獲を優先しているとはいえ撃沈をまったく考えていないわけではないはずだ。おそらくチャンスは一度あるかないか。

 見逃さないようにしなければ……。

 

「リング損耗率三〇パーセント!」

 

 ルリの報告が第一艦橋に飛び込んできた。

 ヤマトが突破作戦を開始してすでに三〇分が経過している。

 艦隊はヤマトを包み込むようにして同行しているので、突破には相当な時間が掛かることが予想された。

 おまけに次元の境界面までは最短コースを進めたとしても、一八時間もの時間がかかる。

 標的艦から距離があるのは、あえてこの空間を長時間移動させることで、普段はあまり気にしなくて済むエネルギーの管理や機関コントロールを効率よく学ばせるためだろう。

 

 かつてないほど辛い戦いだ。

 この局面を突破するには、『アレ』を試すしかないだろう。

 だが確実に成功させるには、もっと敵旗艦の眼前――包囲網の出口ギリギリまで接近しなくては!

 

「艦長! コスモタイガー隊の攻撃準備が整いました!」

 

「リング損耗率が四〇パーセント越えたら備えさせて。そこでヤマトも砲撃開始よ」

 

 ユリカの命令に進も頷いた。

 さて、人型をバカにしているガミラスの指揮官。

 人型には特有の利点があることを、いまこの瞬間をもって思い知らせてあげようではないか。

 

 

 

 第一艦橋からの命令を受け、アキトは右手に持ったコントロールユニットを差し込んでダブルエックスを起動した。隣のエックスでも、リョーコがそうしているだろう。

 ダブルエックスの双眼に光が灯る。

 残念ながら、普段なら力強く駆動する相転移エンジンも弱々しく、このままではまともな戦闘行為はできそうにない。

 だがそれは普通に動かせばの話。二基のエンジンと本来はサテライトキャノン用の追加エネルギーパックのパワーを足せば、短時間なら十分に戦える。元からエネルギーパックを装備しているエックスも問題ない。

 それにガンダム二機には、エネルギー消費を極力抑えて戦えるようにと工作班が急ごしらえながらも追加武装をたっぷり施してくれた。

 

 まず左手に専用バスターライフル。ただし、増設バッテリー付きで消耗を抑えられるように応急改造されている。

 同じくバッテリーを増設したレールカノンも右手に保持。これで本体の電力消費を抑えつつレールカノンの火力に頼れる。強度と電力さえ十分なら、レールカノンは対艦攻撃にも使えるのだ。

 そして、両足の脛部分に急造のマウントを取り付けてGファルコンが搭載しているのと同型のマイクロミサイルを、簡素なマウントで縦に四つ並べて装備。

 さらにGファルコンはコンテナユニットの下部には大気圏内用安定翼――を兼ねたウェポンベイが接続され、そこに新型の三角柱型の空対空ミサイルが上に三発、下に二基ずつセットがふたつで計七発。

 さらに下側の二発セットの下には長めのパイロンを使って新型の航宙対艦魚雷が一発づつ吊るされ、左右合わせてミサイル一四発と魚雷四発の重装備が追加されている。

 さらにその安定翼の根元には仮のマウントで右側にロケットランチャーガン、左側に予備弾薬を五発強引に装備している。

 とにかくエネルギーを節約しながら手数を増やし、総火力を上げるための苦肉の策。

 ヤマトの台所事情では厳しいだけの使い捨て前提の重武装は圧巻の一言だが、これでもこの状況下ではまったく不安を拭えない。

 

 エックスも本来の役割とは正反対の任務に就くにあたり、バックパックに接続したディバイダーに急ごしらえのマウントを取り付けて、ダブルエックスと同じ爆装を施していた。

 開いた左手にはハイパーバズーカ、右手にはビームマシンガン。

 比較的軽装だが、それでもアルストロメリアカスタムよりも総火力では勝っていた。

 

 艦体に機体を固定するための磁力ブーツが履かされ、ヤマトの固定砲台として機能するようにセッティングされている。

 それは機動戦闘を捨てる代わりに限界までの重装備を施したイズミとヒカル、サブロウタと月臣、ほか六機のアルストロメリアも同じであった。

 

「これだけの重装備でも、サテライトキャノンほどの決定力はない。戦況が長引くとエネルギーパックが空になってサテライトキャノンは使えない。ヤマトからの重力波ビームは期待できないし、戦況判断が難しいな……」

 

「発射の判断はユリカに任せるっきゃねえだろ。機体に不用意に被弾させるんじゃねぇぞ! サテライトキャノンが使えなくなったら、たぶん終わりだぞ!」

 

「わかってる」

 

 アキトはクギを刺してきたリョーコにそう返すと、戦況報告に耳を傾ける。きっともうすぐ。

 

「リング損耗率四〇パーセント!」

 

「コスモタイガー隊、所定の場所で攻撃開始!」

 

 始まった。

 アキトはスロットルを開いてダブルエックスを浮遊させた。

 隣のエックス共々カタパルト運搬路を自力で移動してハッチから飛び出し、閉じられたハッチの上に陣取って『固定砲台』となった。

 ほかの機体は解放された二つの発進口のハッチの上に陣取ってこちらも固定砲台となる。

 防御シャッターで格納庫とカタパルト内部が隔離される構造に改定された、新生ヤマトだからこそ可能になった変則的手段だ。

 

 たしかにこの空間で普段どおりの戦闘機動は不可能。出たところでデブリになるだけだろう。

 だが『ヤマトの上で砲台になる』くらいはできる。

 そうすれば推進装置でエネルギーを消費しなくて済むし、ヤマトのフィールドの加護を受けられるから防御に割くエネルギーも火器に回せる。

 そうすれば、Gファルコンのエンジンでもギリギリではあるが事足りる。

 それに過去の戦訓から予備としてもう一セット用意されいたサテライトキャノン用のエネルギーパックを使用すれば、固定砲台くらいの役割は果たせるのだ。

 

 これはガミラスが運用している宇宙戦闘機では不可能な戦法だ。

 だからこそヤマトがこういった戦法を取ることは予想できるようでできないはず。少しでも虚をつければ、こちらが優位になるだろう。

 

 

 

 ルリは損耗率が四〇パーセントを超えたリングを必死に持たせていた。

 ヤマトには常に数十にも達する重力波とミサイルが休みなく襲い掛かってくるので、リングの角度や位置には常に注意を払う必要があり、デブリを包むディストーションフィールドの強度の管理、それに加えてリフレクトディフェンサーを活かそうとするとさらに筆舌し難い負担が彼女を襲った。

 さすがのルリも、そして相棒たるオモイカネも余裕はなかった。

 ルリは額を流れる汗を拭う間さえもてないまま、汗にまみれて必死の形相でヤマトの防御を固めている。

 

(キツイ……)

 

 喉が渇く、頭が割れそうなほど痛む。

 

 だが辛抱しなければ。ここで倒れることがあったらヤマトは……ユリカは!

 

 ルリはヤマトの成功とその先にある幸せを求め、悲鳴を上げる体に鞭打って攻撃を凌ぎ続けた。

 

 

 

 損耗率が四〇パーセントを超えたとき、ついにヤマトからの砲撃も開始される。

 エネルギー消費量が比較的少なく、かつ敵艦隊の主力を構成する駆逐艦を撃破できる威力と取り回しを両立した副砲がメインだ。

 ――主砲は、まだ撃たない。

 ユリカはヤマトをローリングさせて直進させることで、強引にヤマトの上下左右を包み込む敵艦を一隻でも多く副砲の射程に収めるように指示を出した。

 敵がトンネル状にヤマトを包囲しているからこそ通用する戦法だが、この状態ではヤマトも進路変更に大きな制約が付く。長くは続けられない。

 進はゴートと協力し、限られた時間を最大限活用すべくそれぞれ砲撃とミサイルを分担して指示、的確に脅威度の高い標的への攻撃を敢行しているが、やはり数の暴力に加え優秀な指揮官に統率されている艦隊には蟷螂の斧であった。

 せっかく敵艦を撃沈ないし手傷を負わせて落伍させても、すぐに後続の艦がフォローして穴埋めしてしまう。

 モグラ叩きをしている気分だったが、進もゴートも弱音を飲み込んで黙々と攻撃指揮を続けた。

 状況は最悪に近い。が、ここで狼狽えているようではユリカの後継者にはなれない。

 確実に病が進行し、日に日に弱っていく彼女を助けるためにも、弱音を吐くわけには――!

 

「リング損耗率五五パーセント!」

 

 また、ヤマトの防御が薄くなった。

 これ以上は危険と判断したユリカはついに主砲の使用を解禁した。

 

「主砲射撃開始!」

 

「了解! 主砲発射準備! 目標指示はこちらから行う!」

 

 とうとうヤマトの主砲が火を噴いた。

 だが冥王星のときの感覚で連射するにはエネルギーが心許ないため、連射速度はかなり抑えめだった。

 通常一度の射撃で三門から撃ち出す重力衝撃波を一門づつ、それぞれ別の標的に向けて発射することで効率化を図る。

 砲身をバラバラに上下に開き、一門撃っては砲塔を旋回させて次の標的に――それを繰り返す。

 

 リングの損耗がさらに進んだ。迎撃ミサイルを中心に、パルスブラストによる迎撃が開始されると、ヤマトの消耗が加速する。

 進は真綿で首を絞められる感覚というのがどういうものなのか、知ったような気がした。

 

 

 

 固定砲台と化したコスモタイガー隊は必至の攻撃を展開していた。

 ヤマトの消耗を抑えるため、敵艦よりも無数に飛来するミサイルの迎撃にこそ全力を割かねばならなかった。

 特に火器の少ない下部への迎撃はコスモタイガー隊頼みと言っても過言ではなかった。

 

 アキトは右舷側の発進口に陣取って必死にミサイルを撃ち落とし、少しでも機会があれば敵艦にも攻撃を加えてヤマトへの攻撃をひとつでも減らそうとしていた。

 あっという間に増設したミサイルは撃ち尽くし、ロケットランチャーガンも弾切れ、Gファルコンのマイクロミサイルも撃ち切った。

 バスターライフルの増設バッテリーも残りわずか、レールカノンはたったいま撃ち切った。

 拡散グラビティブラストを撃つたびに、大口径ビームマシンガンを撃つたびに、増設エネルギーパックのエネルギーが徐々に徐々に減っていくのが、アキトの焦りを煽る。

 ヤマトのエネルギーは大丈夫か。

 本当にこの包囲網を抜け出せるのか。

 不安だけが募る状況。

 だがアキトは諦めなかった。あの火星の後継者との戦いを思い返せば、まだやれる!

 

 左舷側の発進口に陣取っているリョーコのエックスもまた、必死の迎撃に心血を注いでいた。

 

「くそっ! せっかくの新型のお披露目にしちゃ、ちっとばかり状況悪すぎだぜ!」

 

 軽口とも愚痴ともつかぬ悪態を吐きながら、ミサイルを迎撃。

 増設分の武装はとっくに撃ち尽くした。

 いまはエックスディバイダーの標準装備の武装のみで戦っている。

 右手のビームマシンガンを単射の収束射撃で発射しながら、胸部インテークの下に並んだ左右合わせて四門のブレストバルカンを撃ち放つ。

 左手にはシールドモードのディバイダーを掲げ、至近弾の余波を凌ぐ。

 返す刀でディバイダーを展開してハモニカ砲をスタンバイ。カッターブレードモードで発射。

 命中。

 横っ腹に直撃を受けた駆逐艦がフィールドごと装甲を切り裂かれ、黒煙を噴いて落後する。

 すぐに代わりが来るが、リョーコはめげずに攻撃を続けた。

 ことが終わったらウリバタケと真田になにか奢ってやる。そう心に誓いながら。

 

 開放した発進口のハッチに陣取ったアルストロメリアは左右に二機づつ、後方に一機を配置して火器という火器を撃ちまくっている。

 新装備のアトミックシザースによって手数が増したアルストロメリアは対艦攻撃を完全に諦め、ミサイルの防御にのみ全力を注いでいる。

 カタパルトに置かれたサテライトキャノン用のエネルギーパックにGファルコンからケーブルを繋いで電力を確保しつつ、使用可能な火器を総動員しての決死の防御。

 次々と弾切れになった火器を放り出す非常にもったいない使い方をしながら、ガミラスの猛攻に抗った。

 

 

 

 

 

 

「ヤマト、包囲網の三分の二を突破しました。まだダメージを与えられていません……!」

 

 オペレーターの驚愕に満ちた報告にも、ドメルは驚かなかった。

 冥王星での戦いを考えれば、この程度は予想できたからだ。

 それに単独行動が前提の艦艇ともなれば、工作施設を有していることは予想が付いた。それによる自己改良による戦力の変化は想定している。

 しかしそのドメルでも予想できなかったことはある。

 反射衛星を鹵獲して複製したらしい防御手段と、新しい人型の追加だ。

 どちらもドメルの予想を上回る力。

 実に見事な仕上がりに感服させられる。

 指揮の采配も見事。あのシュルツを下しただけのことはある。

 が。

 

(思い切りがよく判断も申し分ない。いい指揮官だが……少々経験不足だ)

 

 どれ、ひとつ驚かせてやるか。

 ヤマトはもうドメラーズIIIの射程内。ガミラス最強の戦艦の威力なら、ヤマトの防御にも通用することを教えてやろう。

 ドメルはヤマトの回避行動を予測して砲の狙いを付けさせる。狙うは艦首上甲板の主砲二基。

 ここで確実に抵抗力を削ぐ。

 

(抗えるものなら、抗って見せろ、ヤマト)

 

 

 

 

 

 

 

「リング損耗率九〇パーセント!」

 

「フィールド、艦首に集中展開! 残ったリングは後ろで盾にして!」

 

 消耗し過ぎて役に立たなくなったリングは後方で盾に。艦首方向の攻撃はもうフィールドで防ぐしかない。

 展開したフィールドに次々と重力波とミサイルが命中して、強化されたはずのフィールド発生基にみるみる負荷が溜まっていく。

 あっという間にイエローゾーンに突入。

 エネルギー残量もみるみる減少していく。

 第三相転移エンジンも空になって停止寸前だ。

 波動砲発射のためには最低でも第五・第六エンジンは維持しなければならないのに、このままではそれすらも……。

 

 それにしても見事な艦隊運用だ。ヤマトの進路を尽く遮り絶妙に減速させて来る。

 最高速に達することができれば、敵艦の包囲を突き抜けられるかもしれないのに、それを許してはくれない。

 ユリカもフェイントを交えた指揮で艦隊の動きを乱そうと試みてみたが、尽く見抜かれて効果を上げられなかった。

 手強い。冥王星基地の司令官もそうだったが……やはり百戦錬磨の強者だ、経験値では勝てない。

 

(それでも、私はヤマトの艦長なんだ! 負けられない!)

 

 沖田艦長から受け継いだこの役目、果たせずには終われない。

 幾度目かの集中砲撃に対して、ユリカは避弾経始を利用して受け流すべく右への回答を指示したのだが……。

 猛烈な衝撃がヤマトを襲う。

 ヤマトが回避行動を取り、包囲した艦からの攻撃を凌いだと思った瞬間、敵旗艦からの強烈な砲撃がヤマトの艦体に突き刺さったのだ。

 銀を基調に両サイドに巨大なインテーク状の構造物と円盤状の艦橋を有する超弩級戦艦の砲撃は、ヤマトの上甲板にある傾斜部分に命中、フィールドも装甲を撃ち抜いてしまった。

 

「第一、第二主砲機能停止! 第一副砲も障害発生!」

 

「機関部にも障害発生! 出力が低下していきます!」

 

 たった一撃に主砲二基を潰された。それどころか副砲まで……。

 

 回避行動を完全に読まれていた。

 敵指揮官の能力も凄いが、それに応えた砲手の腕前の、なんと恐ろしいことか。

 敵旗艦のおそるべき火力とクルーの練度。

 前方火力の大半を潰されてしまったこの状況で、あれと相対し続けるのはあまりに危険だ。

 もう躊躇していられない。タイミングが早いが最後の手段に出る!

 

「慣性航行に切り替え! 反転右一五〇度! 上下角マイナス二二度! 波動砲発射用意! 発射と同時に重力アンカーをカットして反動でかっ飛ばします! ラピスちゃん、あと何発いける!?」

 

 矢継ぎ早に指示を出す。

 進もジュンも一瞬驚きの表情で振り返ってきたが、すぐに飲み込んでくれたようで発射準備を進めさせていく。

 ヤマトが速いか敵艦が速いか。

 ヤマトが先んじなければ次の一撃でヤマトは大きな傷を負い、拿捕されるか自害するかの選択を迫られることになる。

 

「二発まで保証します! それで脱出と小ワープ一回分のエネルギーも残ります!」

 

 ラピスもユリカの意図を理解してすぐにエネルギー残量の計算をしてくれた。助かる。

 

「一発使って敵艦隊を強行突破します! 敵艦を狙う必要はありません!」

 

 大介はすぐに操縦桿を捻ってヤマトを最速で回頭させ、境界面のある方向に艦尾を向ける。

 つまり、敵旗艦に無防備にメインノズルを晒してしまうということだ。

 早く波動砲を発射しなければ、ヤマトは――。

 周りからの砲撃が、フィールドを失ったヤマトの艦体に突き刺さる。駆逐艦の砲撃の多くは装甲を貫通できないが、脆弱部位を中心に被害が拡大している。

 ヤマトが先か、敵が先か。

 無情にも敵旗艦の射撃用レーダーが照射された。

 

「アキト!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「見事だ、ヤマト」

 

 ドメルは部下には聞こえないよう、小さくヤマトを称賛する。

 ヤマトの前部主砲は無力化し、懸念していた人型の戦略砲も放たれる兆しがない。

 だがまるで諦めるそぶりも見せず、まだなにかをしようとしているではないか。

 

(艦尾をこちらに向けた? 戦略砲持ちはヤマトの右舷後部に……!?)

 

「艦隊を散開させろ! 包囲網を崩しても構わん!」

 

 ヤマトの右舷後部に鎮座していたあの人型が、戦略砲の発射態勢に移行しているではないか。

 艦隊を散開させないという選択肢はなかった。

 ブラフの可能性は高いと考えているが、万が一にも放たれてしまったら艦隊は大損害を被ることになる。

 それだけは避けねばならない。

 敵の詳細なデータはないのだ。撃てるか撃てないかの判別ができないのなら、撃てるものと考えて行動するのが常套であろう。

 ドメルは包囲網を崩してでも、部下を助ける道を選んだ。

 

 

 

 

 

 

 狙いどおり、敵艦隊はサテライトキャノンを避けるために包囲網を崩した。

 もちろんブラフだ。この状況下でサテライトキャノンは撃てない。

 本当に優秀な指揮官だ。

 だからこそ、資料が不足していれば最悪な状況を前提として行動してくれると信じていた。

 

 ――おかげで、だれも波動砲に巻き込まなくて済んだ。

 

 展開中のコスモタイガー隊を素早く格納して、命令を発した。

 

「波動砲――てぇぇぇっ!!」

 

「発射ぁぁぁぁっ!!」

 

 ヤマトの艦首からタキオンバースト波動流が勢いよく放出された。

 同時に反動を吸収してヤマトを空間に固定する重力アンカーがカットされた。

 それによってヤマトは波動砲の猛烈な反動で後方に吹き飛ばされる。

 

 そう、木星での経験を踏まえて発案されていた、一か八かの切り札であった。

 

 メインノズルすらはるかに凌駕する推進力を得たヤマトは、乱れた艦隊の隙間を縫って包囲網から飛び出す。

 噴射圧を稼ぐべく最大収束で発射された波動砲の軸線上に敵艦はなく、ガミラス艦隊は一隻たりとも巻き込まれてはいない。

 予想どおりだ。サテライトキャノンを避けるために包囲網を崩せば、巻き込まずに使える隙が生じると思っていた。

 …………本当ならもっと早いタイミングで、リングがまだ健在の内に艦隊旗艦を波動砲で撃ち抜いて混乱を狙ったほうが効果的だと思ったが、それを選択できなかったユリカの甘さ。それを帳消しにするかの如くヤマトが空間を走る。

 

 敵が態勢を立て直す前にヤマトは再度反転。メインノズルを全力噴射、第二艦橋下の艦橋砲から発煙弾を撃って全力逃走。

 ――ガミラス艦隊は、ついてはこれなかった。

 

 

 

 

 

 

 「まさか――このような手段まで隠していたとはな……!」

 

 おもしろいものを見せてもらったと、ドメルは満足げな表情で飛び退るヤマトを見送った。

 残念だが、火力と装甲に特化したドメラーズ三世では追いつけない。デストロイヤー艦でも無理だ。

 

「ガミラス最強のドメル艦隊破れたり――か。ヤマト……想像以上だぞ」

 

 ドメルは、最良のタイミングで行われたブラフにも、超兵器を推進力に転用するという奇抜な発想にも感心させられっぱなしであった。

 さすがはデスラー総統が目をかけた艦だ。

 これほどの包囲網、これほどの時間を耐え凌ぎ、最後に勝利を掴めたのは、間違いなく彼らの不屈の闘志のなせる業だ。

 

「ドメル司令、追撃いたしますか?」

 

「いや、いい。あの速力には追い付けそうにない。それよりも、損傷した艦の応急処置と遭難者の救助に全力を尽くせ」

 

 追い付けないという理由もあるが、それ以上に健闘を称える、先を見越してという意味でヤマトを見逃す。部下も文句はないだろう。

 しかし、じかにタキオン波動収束砲を見れたのは今後の戦略において優位に働きそうだ。

 あとは脱出の時に使用するであろう一発のデータを、境界面付近に巧妙に隠してきた観測機が捉えてくれることを願うばかりか。

 

(やはりヤマトの動向が、今後のガミラスの未来を左右する。――失敗は許されない。私の見極めが、ガミラスの命運を左右してしまう)

 

 ドメルは改めて自分に課せられた使命の重さを噛みしめた。

 

 

 

 

 

 

 辛うじて包囲網を突破したヤマトは、追撃を受けることもなく無事次元の境界面に到着していた。

 しかし伏兵がいるかもしれないと警戒せざるをえなかったヤマトにとって、到着までの時間は気の休まる時間ではなかった。

 交代で休息を取りながらも、全員が濃い疲労をべったりと顔に張り付けている。

 

「次元アクティブソナーに感あり……次元の境界面です」

 

 疲労困憊の雪がそう報告すると、ユリカはすぐに波動砲で境界面を撃つことを指示する。

 早くこの場を脱出してワープで逃げ延びたい。これ以上トラブルが起こるともう対処できないと思えるほど、みな疲れ切っていた。

 その願いを乗せた波動砲は、狙いどおり次元の境界面を押し開いて開口部を作り出した。

 安定翼を開き、まるで雷雲の中のような回廊を抜けて次元断層を脱したヤマトは、無差別に近い緊急ワープで宙域を離脱し、安息の時間を手に入れた。

 

 はずだった。

 ワープ明けの直後、ユリカが倒れさえしなければ。

 通常空間に復帰した直後、彼女の体内のナノマシンが活性化、浸食を再開してしまったのだ。

 かつてない強敵との戦いで疲弊しきった体に、抵抗力など残されていなかったのである。

 声もなく白目を向いてコンソールパネルに突っ伏したユリカを、進が抱き上げて医療室に走った。

 万が一に備えていたイネスたちの懸命な処置のおかげで最悪の事態は回避できたのだが……。

 

「――手を握ってるのは……アキトとルリちゃんなの? ねえ、なんで電気消してるの? 真っ暗でなにも見えないよ。あれ? 私、ちゃんと喋れてる? なにも聞こえないんだけど……」

 

 意識を取り戻したユリカは、視力と聴力に重大な障害を抱えていた。

 ベッドに横たわるユリカの手を掴んでいたアキトとルリの顔が、傍らで見守っていたラピスとエリナと進の顔が、その報告を受けたクルーの顔が、悲しみに染まっていく。

 

 傍らで発せられた家族の慟哭は、いまのユリカには届かず、悲しみに染まりきったその顔を見ることは――幸運にも叶わなかったのであった。

 

 

 

 次元断層に落ち込むというトラブルも、ガミラス最強と謳われるドメル艦隊の猛攻撃も辛うじて切り抜けることに成功したヤマト。

 

 しかし、度重なる苦難の連続についにユリカは大きなダメージを受けてしまう。

 

 だがヤマトよ、止まっている時間はないのだ。

 

 人類滅亡と言われる日まで――

 

 あと、二七〇日しかないのだ。

 

 

 

 第十四話 完

 

 

 

 次回、新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ ディレクターズカット

 

    第十五話 悲しみのヤマト! 立ち上がれ古代!!

 

    古代、覚悟を示せ。

 

 

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