新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ ディレクターズカット   作:KITT

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第二話 最後の希望! 往復三三万六〇〇〇光年の旅へ挑め! Bパート

 

 

 

 

 ときはナデシコCが帰還する直前に遡る。

 

「ユリカさん、お加減はいかがですか?」

 

 ルリはここ最近では珍しい明るい声でユリカのベッドの横に腰かけ、毎度のペースト食を摂っている彼女に話しかけた。

 

「上々だよ。さすがはイスカンダル製の薬だね。これならジャンプさえしなければ一年くらい余裕で持ちそうかな?」

 

 ユリカも無邪気な態度で応じる。

 話の後半はまったく持って明るくない話題ではあったが、それでもルリの気持ちが明るいのには訳がある。

 そう、イスカンダルだ。

 イネスが通信カプセルと地球に届けたあと、数日の間を置いてそのメッセージを信じてヤマトを派遣することが決定されたとの連絡が届いたのだ。もちろんルリにもヤマトへの上官命令が早々に下っている。

 ルリやヤマト乗艦が命じられたクルーの何人かは、地球に帰還したあと少しばかりの休暇と訓練を経てから発進することになっている。

 

(それにしても――本当にユリカさんが艦長とは)

 

 なんとなく予想はついていた。そして納得している自分もいる。

 ユリカはヤマト再建の責任者でシステムに詳しいし、その判断力の冴えも衰えてはいない。

 それにこれほど無謀な航海に挑むともなれば、ユリカの性格のほうが艦長として向いていると自覚はあった。

 型にはまらないユリカの強さは、ルリが一番よく知っている。そういう意味では自分よりも融通が利くし、あの底抜けの明るさとマイペースさは、過酷な航海に挑むクルーにとって、寄るべき柱となるだろう。

 だが不安はある。

 そんな大任にはたしてユリカは、アキトを欠いた状態で耐えられるのだろうか。

 ここ最近のユリカの体調を考えると、カラ元気を駆使してもかつてのような無邪気な明るさでみんなを引っ張って行けるのか不安に駆られる。

 だがルリはユリカを信じることに決めた。冷静な判断なら今度こそ自分が勤めればいい。

 残念ながら完治には至らなかったものの、イスカンダルは不完全ながらもユリカの病状を食い止めるような医療技術を有していることがはっきりしている。

 実際薬は効果てきめんで、発作の類は起こさなくなったし体調も安定している。

 食事も内容こそ変わらないまでも、栄養の摂取効率が少し改善されたようで、それまでに比べると体重の減少にも歯止めがかかり、肌や髪の艶も少しは戻った気がする。

 ――もしかしたら、イスカンダルにあるであろう本格的な医療機器や医学を頼れば、不可能と断定されたユリカの回復すら可能かもしれないと、ルリは淡い期待を抱く。

 ユリカの容態が持ち直したこと、そして希望が繋がったことに感極まって思わず抱き着いてしまったくらい、ルリは嬉しかった。

 抱き着いたユリカの温もりと柔らかさが、傷ついた心をわずかに癒してくれる。

 

 誤算だったのはルリの行動を嬉しく感じたユリカが激しく頬擦りしたり、頭をぐりぐりと撫で繰り回したことだった。

 嬉しいけどやめてください禿げてしまいます。

 なんとか脱出に成功したあと、ぼさぼさになった髪を直しながら視線で非難したが、ユリカはまったく気付かず「もう少し撫でてあげるぅ~」と手を伸ばす始末だった。

 

「遠慮させて頂きます。発進まで存分に体を休めてください。私も全力で補佐しますから、素直に頼ってくださいね」

 

 頭皮を心配してユリカの申し出を遠慮したあと、ルリはここ最近では滅多に見せなかった笑みをユリカに向け、ユリカも負けじと笑顔で了承する。

 それで満足したルリは医務室を後にして、たまには自分からとハリを誘って昼食を取ることにする。

 散々苦労を掛けてしまったし、そうしたほうが彼も喜ぶだろうと思っただけだ。

 以前に比べると味気なく量も減った食事だが、気持ちが前向きになったルリにはずっと美味しく感じられた。

 ついつい口数も多くなり、ハリとたわいもない雑談をしたり、イスカンダルへ想いを馳せたりと、明らかに浮ついていた。

 

 そんなルリの様子にここ最近の落ち込みようを知っているハリも、つい嬉しくなって応対した。

 ユリカもボソンジャンプの使用は禁じると言っていることから、ハリも少しだけ肩の荷が下りた気分でルリとの食事を楽しめる。

 ハリもまた、ルリに希望を与えたイスカンダルに、そしてそこに行くための船であるヤマトに期待を寄せ始めていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 一方。月のネルガル施設では、二週間前にイネスが持ち込んだ薬と医療用ナノマシンを投与されたアキトが、早々に五感の機能を回復させつつあった。

 

「イネスさん。ユリカは、ユリカはいったいなにをやっているんですか?」

 

 治療中は薬の副作用などで眠っていることが多かったアキトも、症状が回復に向かうに連れて、ようやくまともに動けるようになってきた。

 あとは体の感覚のずれを補うためのリハビリに励みながら治療していくだけというところになって、アキトはとうとうイネスに尋ねてみることにした。

 エリナの件以来、努めて考えないようにしていたが、体が回復し始めるとユリカのことが気になってしかたない。

 彼女は、どうなっているのだろうか。実験の後遺症などで苦しんでいないだろうか。

 ――自ら拒絶して雲隠れしたという自覚はある。あるが――

 

「残念だけど口止めされてるのよ。あなたは自分の体のことだけ考えてなさい」

 

 イネスはまったく取り合ってくれない。アキトに向き直ることすらせず、ただ黙々とカルテになにかを記載している。

 

「それじゃあ納得できない。あいつはいったいなにをしてるんだ? 無事なのか?」

 

 アキトはなおも食らいつくが、イネスは変わらず答えなかった。

 業を煮やしたアキトは椅子から立ち上がり、部屋を出るべくドアに向かう。

 体はふらつくがこの際構っていられない。

 

「あら、どこに行くつもりかしら?」

 

「ラピスの所だ。ラピスに情報を探ってもらう」

 

 ラピス・ラズリ。

 復讐者となったアキトを支え続けたもうひとりの妖精。

 最後の戦いからしばらくは、いままでどおりアキトの世話を手伝っていた彼女だが、最近はアキトのそばを離れて別の仕事についている。

 時折連絡を寄こす以外に会話もない状態だが、ラピスはいまだにアキトに懐いている――というか向こうでなにかしら影響を受けたのか、感情表現が活発になって明るい性格に変貌しつつあった。

 最初はただラピスの成長を喜びつつも、滅びに向かっている現状に多少の憂いを覚えた程度だった。だが、もしかしたらラピスはユリカと会ったのかもしれない。

 アキトにとって、他者への影響が強く底なしに明るい人物は、ユリカしか思いつかない。

 そして、アキトの伴侶という立場にあるユリカにラピスが多少は関心を示していたことも知っている。ラピスの短期間での変貌と照らし合わせれば、接点を持った可能性が高い。

 ならば、ラピスを頼れば情報が掴めるかもしれない。

 

「彼女なら別件でしばらくここを離れているわ」

 

「どうせアクエリアスだろ。ラピスが絡みそうな案件は、あの船しかない」

 

 いまネルガルが最も力を入れているのはヤマトの再建作業。完全な波動エンジンのデータを入手したいま、急ピッチで仕上げにかかっている最中だ。

 あと一月もあればドック内でできる調整をすべて完了し、発進できるだろうと言われている。

 もっとも、アキトにはさして興味のある話ではない。

 

(どうせ無意味――いや、それならなぜ俺はユリカを求める。これだって無意味だろうに)

 

 アキトは自分の内から湧き上がろうとしているなにかを否定できないでいた。

 

「会っても無駄だけどね。彼女も口止めされてるわよ」

 

 イネスは念を押すようにアキトに告げると、もうそれ以上なにも語らなかった。

 

 

 

 

 

 ラピスがヤマトに関わるようになった理由は単純なものだった。

 物資が困窮している現状にあって、すでに役目を終えたユーチャリスを解体しヤマトの資材として使う動きが出たからだ。

 ユーチャリスに愛着のあるラピスは不満であったが、さりとてその動きを覆すだけの力もなく、ユーチャリスは解体されてヤマトの資材となった。

 ――だからせめて、ユーチャリスを犠牲にして成り立つヤマトと接点を持つことで、自分を慰めたかっただけ。それだけの理由だった。

 

 だがそれがラピスに思わぬ出会いをもたらした。ヤマト再建に関わるようになって数日、ラピスは運命の出会いというものを経験したのだ。

 

 

 

 

「――ありがとうラピスちゃん、もう大丈夫だから戻っていいよ……大人しく寝てるから」

 

「駄目。あなたになにかあるとアキトが悲しむ。だから目を離さない。エリナにも頼まれてる」

 

 弱々しいユリカの言葉を無視して、ラピスは引き受けた看病を完遂すべく気を配った。

 事の発端は至ってシンプルだった。

 例によってボソンジャンプ直後に具合を悪くしたユリカの看病に、たまたま手が空いていたラピスが駆り出された、それだけのことである。

 彼女のことはラピスも多少は知っていた。ラピスがパートナーとして共に火星の後継者と戦った、テンカワ・アキトの大切な人。そしてアキトが本当は一番会いたがっている人だと言う程度であったが。

 そういう縁もあってか、ラピスもできれば、程度の考えであったが一度は会ってみたかった人物だ。そういう意味では渡りに船だったと言えよう。

 ――そしてそれは、彼女にとってもそうだったらしい。

 

 ラピスは両腕に点滴針を挿され、額や胸元に電極を取り付けたユリカの汗をぬるま湯で濡らした手拭いで優しく拭いてやったり、毛布の位置を直してやったり、実に甲斐甲斐しく面倒を見た。

 

「……ラピスちゃんはさあ」

 

 点滴の残量を確認して、そろそろ医者を呼ぶべきかとコミュニケに手を伸ばしたところで、ユリカに話しかけられた。

 

「ラピスちゃんは、アキトが好き?」

 

「好き。大切な人。だからアキトの大切な人、あなたの面倒を見る。アキトを悲しませたくない」

 

 ラピスははっきりと断言する。

 アキトのパートナーとして戦ってきたラピスにとっては死活問題だ。

 アキトに助けられなければいまの自分はなかったと思っているラピスにとって、恩人に対する恩返しも含まれているので、決して妥協のできないことであると言えた。

 

「……そっか。私もアキトが大好き、心から愛してる。だから、無茶だやめろと言われても、やめられないんだ。もっともっとがんばって、ヤマトを蘇らせないと……ヤマトが動かないことには、地球に未来がないからね」

 

「あなたひとりが頑張っても無駄。私は地球に未来はないと思う。……ヤマトは地球脱出のための船ではないの?」

 

 ラピスはヤマトが地球脱出を目的として再建中の船だと解釈していた。

 たしかにこれだけのスペックがあればガミラスにも早々遅れは取らない。

 逃げに徹すれば、たとえ一握りの人類だけであってもしばらくは生き残れるだろう。

 ヤマトの艦内には万能工作機械を有する工場区があるため、ここが無事で資材を確保できれば補修パーツの生産はおろか、弾薬や艦載機の製造すら可能としている。

 さらに小規模ではあるが、遺伝子改良によって収穫時期を大きく早めた植物を有する農園もあり、そこでは野菜や果物はもちろん、観賞用の花まで栽培できる贅沢な設備すらある。

 これで戦闘用設備を最低限を残して撤去して、居住区に当てれば三〇〇〇人は養えるだろうし、そうやってどこかで再び文明を築いたほうが建設的だと、ラピスは考える。

 地球に遊星爆弾が降り注ぐようになってから激変した地球の環境回復について、ラピスなりに調べてみた。残念ながらスノーボールアースと呼ばれる状態に持ち込まれた時点でもう終わっている断言していいだろうと結論が出るまで、さしたる時間はかからなかった。

 この状態からあの反射物質を除去したとしても、氷が太陽光のエネルギーを反射してしまうので気温は上がらない。気温が上がらなければ氷は溶けない。

 二酸化炭素の濃度を増やせば気温は上がるだろうが、それでも解凍までに数百年かかるらしい。

 こうなってしまうと時間でも巻き戻さない限りこの状況は救われないだろう。つまり、短期間での地球の回復は非現実的なのだ。

 案外ガミラスの科学力なら短時間でどうにかできるのかもしれないが、地球の科学力では無理だ。

 戦艦でしかないヤマトにこの状況は覆せない。尻尾を巻いて逃げたほうが建設的だと思うのだが……。

 

「なんとかできる可能性があるんだなぁ、これが。そうでなかったら、とっくにアキトのところに押しかけて、せめて最後くらい一緒にいようよ~、って抱き着いてるよ」

 

 苦笑いするユリカの様子をラピスは不思議に思う。

 

「なら会いに行けばいい。アキトは、本心ではあなたに会いたがっている。どうしてもと言うのなら、逃げられないようにしてあげようか?」

 

 ラピスは地球が救われるとは思っていないし、ヤマトでの逃亡も限界が早いと考えていた。

 だからアキトの気持ちを踏み躙ることになるかもしれないが、最愛の女性と再会させるのもひとつの手だと考えていた。

 

「だ~め。私が頑張れば、うんと頑張れば、地球は絶対に救われるの! 私たちには――ヤマトがあるんだから」

 

「たかが戦艦一隻で惑星の環境をどうにかできるはずがない。さすがに夢物語だと思う」

 

「ラピスちゃん。世の中理屈ばかりじゃないんだよ。それにヤマトは、似たような状況に陥った並行宇宙の地球で生まれて、何度も何度も地球を護り抜いてきた正真正銘の救世主なんだ――そう、人々の願いと、夢と、大いなる愛を乗せて戦い抜いた、最後の希望を運ぶ艦――いま私たちのそばに、そのヤマトがあるの」

 

 ユリカはあの船に絶対の信頼を寄せているのがわかる。

 だがラピスはイマイチ納得しかねた。

 そもそもいろいろ経験の足りないラピスには、願いだの夢だの愛だと言った抽象的な言葉は実像を結べない。

 とは言え、アキトの戦いを間近でサポートしてきたことから、執念、ならまだ辛うじて理解できなくもないが。

 

「それに地球を救う最後の手立ては、あと数か月もすれば皆に知れるよ。だから私は、それまでにヤマトを再建する。そしてヤマトと一緒に旅立って、救いの手段を取りにいかないといけないんだ」

 

「よくわからないけど、本当にそうだとしたらたしかにあの船には価値があるかもしれない。わかった、ヤマトの再建作業、もっとがんばる」

 

 顔は真っ青なのにやたらと自信満々に言いきられて、ラピスは信じてみたくなった。

 理解しがたい部分はあるが、どうやらユリカはユリカなりの確信があってこんな無茶を重ねていて、その集大成とも言えるのがヤマトらしい。

 そう解釈したラピスはユリカがアクエリアスを訪れるたびに、ヤマトとはどのような艦なのかを、以前のアキトはどのような人物だったのかを聞き続けた。

 そして会うたびにユリカとの距離を確実に縮めていき、その影響を受けることで次第に感情豊かになっていった。

 エリナは「ああ……ラピスまで毒された」とか嘆いていたようだが、それがなんのことだか理解するのはまだ先の話。

 心の成長と合わせるようにユリカが期待を寄せる、宇宙戦艦ヤマトに愛着を感じるようになり、夢、希望、そして愛の意味さえも理解し始めていた。

 ユリカから口止めされているため、その現況をアキトに漏らすようなことは一切していないが、本音を言えば伝えたい。まだ希望があるのだと。

 だがラピスの視点から見ても、いまのアキトにこのユリカを受け止めるだけの余裕はない。

 彼の意識が変わらない限りは、絶対に会わせてはいけない。それだけは確信を持てたのだ。

 

 

 

 ユリカに関する情報をラピスから聞き出そうとアクエリアス秘密ドックを訪れたアキトであったが、肝心のラピスには「機関部の再建作業が忙しい」と面会を断られ、結局なんの情報も得られなかった。

 しかたなく退散しようとしたとき、ふとドックに鎮座するヤマトを見上げてしまった。特に意味はない。行く先にその威容があったから、そんな何気ない理由で。

 外観の復元はほとんど終えた、ひどくアンティークなデザインの宇宙戦艦はなにも言わずアキトを見下ろしている。

 

「……」

 

 この艦はもしかしたらユリカと関係しているのかもしれないが、追及する気力も湧いてこない。

 ――まだアキトの時間は、止まったままだった。

 

 

 

 

 

 

 運命の日は来た。

 その会場には文字どおり選りすぐりの人材が集めらえていた。総勢三〇〇名。全員が宇宙戦艦ヤマトへの配属を命じられた者である。

 かつてナデシコCに乗艦していたクルー、そして旧ナデシコクルーの一部もまた、その場所に集まっていた。

 ホシノ・ルリ、マキビ・ハリ、高杉サブロウタ、古代進、島大介、森雪、アオイ・ジュン、ウリバタケ・セイヤ、スバル・リョーコ、マキ・イズミ、アマノ・ヒカルといったナデシコに縁あるもの。

 ラピス・ラズリ、月臣元一朗、ゴート・ホーリー、エリナ・キンジョウ・ウォン、イネス・フレサンジュ、真田志郎といったネルガルからの出向組。

 さらには宇宙軍や統合軍を問わず、腕に覚えのある人員が集められ、艦長からの訓示を待っている。全員が新しく作られたヤマトの隊員服に身を包んで。

 

 ヤマトの隊員服は各班毎に異なる色をしているという点は踏襲していた。

 戦闘班は白地に赤、航海班は白地に緑、技術班は白地に青、航空隊は黒地に黄色、生活班と通信科は黄色地に黒、医療科は戦闘班と同じだが胸元と左腕に赤十字のマーク入り、機関部門は白地にオレンジ、オペレーターは白地に黒と区別されている。

 体正面と背中には中央から左側に『レ』のようなマークが大きく書かれ、正面だけが右側にも小さく跳ねることで、変則的ではあるが錨マークの様なデザインになっているのが特徴の、新生ヤマトの隊員服であった。

 

 もう人類にあとはない。これが正真正銘最後の作戦だと、その士気は高くもあり、悲壮であった。

 そんな心境の面々の前、壇上に上がるは宇宙戦艦ヤマト艦長の任に付いたミスマル・ユリカ。

 ヤマト用に制服は用意されていたのだが、その身を敢えて宇宙服としての機能を与えて新造した旧ナデシコの艦長服で包み、ナデシコで使っていた士官用のマントや艦長帽の代わりに、新しく作った黒を基調に白で装飾したロングコートを羽織り、先代ヤマト艦長、沖田十三が被っていたのと同じデザインの帽子を被った。

 それは彼女の決意の表れだった。

 自分が自分らしくいられた思い出のナデシコと、これから新しい場所になるヤマト。そのふたつがあってこそいまの自分だという彼女の意思。

 沖田と同じデザインの艦長帽を被ったのも、自分なりに沖田の跡を継ぐという意思表示であった。

 右手に歩行補助の杖を持ち、可能な限り力強く壇上に上がったユリカは集まったかつての、そしてこれからの仲間たちを一瞥して力強く宣言する。

 

「みなさん、私が宇宙戦艦ヤマトの艦長を務めることになりました、ミスマル・ユリカです。みなさんの命、今日から私が預かります……ヤマトと共に、必ず地球を――愛する家族の未来を救いましょう!」

 

 その宣言を受けて、眼前の人々――今日から部下となる新生ヤマトクルーがより背筋を伸ばした。

 

「最初に断っておきたいことがあります。あの宇宙戦艦ヤマトが並行宇宙から漂着した戦艦であることは、ここにいる皆さんにはすでに知らされていると思います。しかし、その正確な来歴を知るものは、おそらく私だけです。だからこそ、どうしても伝えておきたいことがあります――あの宇宙戦艦ヤマトは、いまから約二六〇年前の戦争において、旧日本帝国海軍が運用した、かつて悲劇の戦艦の代名詞として語られたこともある、大和型戦艦一番艦大和が、宇宙戦艦として蘇った姿なのです!」

 

 全員が色めき立った。突拍子のない内容だとは自分でも思う。だが、伝えなければならない。――ヤマトのすべてを。

 

「――かつて大和は守ることができなかった。守るべきお国の名前を頂き、当時最大最強と称される力を持ちながらも、大和はなにもできないまま沈められ、守るべき国は敗北し蹂躙された――だからこそ宇宙戦艦として蘇ったヤマトは、新たな命、新たな体、新たな使命、そして使命を同じとする新たな乗組員たちの手によって雄々しく立ち上がり、過去の悲劇を乗り越えたのです!」

 

 ユリカは語る。ヤマトの記憶を垣間見たことで感じた、彼女の想いを。

 伝えねばならない、これから共に戦う仲間たちに。ヤマトの気持ちを。

 受け継がなければならない、沖田十三が部下たちに遺した、あの教えを。

 

「しかしヤマトの戦いは終わったわけではありません。ヤマトは守るべき母なる星、この地球が、人類が危機に陥る度に立ち上がって護り抜いてきた! それはなぜか!? 簡単なことです! ヤマトは敗北の意味を知っているから! 負ければ守るたいモノがどうなるのかをその身をもって知っている! だからヤマトは負けなかった! いえ、負けられなかった! 例え想像を絶する苦難があったとしても、ヤマトの後ろには、護るべきモノがあったからです!――ヤマトに乗艦する以上、私はみなさんにも同じ気概を要求します。我々の敗北は、守るべきモノの敗北と同意義であるということだと。だからこそ全員、信念をもって立ち向かいましょう! この航海は、われわれ人類の、いえ、われわれが愛するすべての、未来を懸けた航海になります!!」

 

 ユリカの一喝に全員が震えあがるのを見た。

 それまで既存の技術では実現不可能な強力な宇宙戦艦としか認識していなかったであろう一同は、ヤマトの本当の来歴を知って圧倒されたのだろう。

 そしてルリをはじめとする親しい人々は気付いたはずだ。

 どうして自分がヤマトにここまで入れ込んだのか、その理由の一端を。

 

 重ねてしまったのだ。なにもできないまま大切なものを奪われ、蹂躙されるのを見届けることすらできずに完膚なきまでに叩きのめされてしまった自分と、かつての大和を。

 

 もう、大和は他人とは思えない。その共感と完敗してなお諦められない未来への羨望が、ユリカとヤマトを繋いだ。

 

「われわれはこれから、往復三三万六〇〇〇光年の旅に出発します。目的地は大マゼラン雲の中にある惑星、イスカンダル! しかし宇宙戦艦ヤマトを完成し、宇宙地図を提供されたとはいえ、すべてが未知数の過酷な旅となることは明白です。また、ガミラスはわれわれの行動を的確に捉え攻撃をしてきていますが、われわれはガミラスの正体を知りません。わかっているのは冥王星に前線基地があり、そこから遊星爆弾を送り込まれ、地球がこのような惨事になったということだけです。周知のことではありますが、われわれとガミラスの間には歴然たる力の差があり、ヤマトの航海を彼らが妨害してくる可能性もまた、否定できません」

 

 改めてガミラスの脅威を語る。

 一般にガミラスの目的は不明のまま。だからこそ、今後の航海の障害になる可能性を示唆するに留めた。

 いまは、それ以上語れない。

 

「しかし! それでもわれわれは、イスカンダルに辿り着き、コスモリバースシステムを受領し、地球を、愛する家族を救わなければなりません! 許された時間はわずか一年。この限られた時間の中で航海を成功させる必要があります! だからこそ、みなさんの力を私に貸してください! ひとりでも多くの乗組員が生きて再び地球の大地を踏めるように私も最善を尽くします! ヤマトも同じ使命を持ったわれわれが最後まで諦めることなく尽力する限り、力を貸してくれることでしょう!――しかし、もしも私が、ヤマトが信じられないというのであれば無理強いはしません。みなさんに選択の機会を与えます……三〇分後にアクエリアスへの移動が開始されますが、抜けたい者はその前にここを離れて下さって結構です。誰も咎めたりはしませんし、咎めることを許しません。自らの意思で選択してください! 私は一足先に、ヤマトで待っています!!」

 

 そう締め括ったユリカに全員が敬礼で答える。

 ユリカはそれを見届けると壇上から降り、振り返ることなく会場をあとにした。

 

 そして会場から連絡艇に向かう最中、ユリカは逸る心臓を抑えながら独り言ちる。

 

「沖田艦長っぽくやってみたけど、あれでよかったのかな?――う~ん。もうちょっと砕けたほうが私らしかったかなぁ? でも緊張感台無しになるし――」

 

 と小声でブツブツと呟きながら歩いていたら、曲がり角に気付かず壁に『ゴッ』と痛々しい音と共に激突する。

「い、痛いのぉ……」と泣き言を言いながらも落ちた帽子をなんとか拾い上げ、改めて連絡艇に足を運ぶ。

 ちょっぴり赤くなったお鼻がジンジンした。

 

 そんなポカをしながらも、ユリカは宣言どおりヤマトへ移動を開始していた。

 ボソンジャンプはもう使わない、その約束を守るべく連絡艇を使ってアクエリアスへと移動する。

 さすがにこれ以上ボソンジャンプを使えば確実に助からない。自分の体だけに、限界を迎えてしまったことを理解していた。

 イスカンダルに着くまでは死ぬわけにはいかないので、時間はかかっても安全な方法を取るのだ。

 

 

 

 

 

 

 突如として地球と月の間に出現した大氷塊は、当初ガミラス以上に人々の関心を集め、恐怖を煽った。

 しかしガミラスと言う驚異の前にそれも流れ去り、ユリカがそう呼んだことから広まって、いつしか人々の中で氷塊の名前はアクエリアスだと定着していた。

 無論、その正体が並行宇宙の地球を水没の危機に陥れた、回遊水惑星の名前であるということはほとんど知られていない。

 そのアクエリアス大氷塊の隅に、可能な限りの偽装を施したポートが建設された。

 これはボソンジャンプに依存せず物資や人員を運ぶための措置として造られたものだったが、実際にはほとんど使用されておらず、利便性が高いボソンジャンプを利用した往来が主であった。

 ユリカとイネスが共同で開発したボース粒子の検出を妨げるシールド処理が上手く行ったことも、ボソンジャンプがメインだった理由のひとつだ。

 

 だが今回はユリカのみならず、ヤマトへの人員の移動はすべてこのポートを使った連絡艇だ。

 そうすることで、クルーとなる面々はあのガミラスによって蹂躙された地球の姿を目に焼き付けられる。

 ガミラスへの怒りと、地球を救いたいという願いを渇望させる事ができる。

 われわれこそが最後の希望だとクルーに教えるため、ユリカは発見される危険を考えたうえで、この移動手段を選んだのだ。

 

 連絡艇を降り、ドック内部への通路を歩くユリカ。杖をつき、決して速いとは言えない速度ではあるが、衰えた体からは想像できないほど力強い歩みだ。

 そう、彼女も待ち望んでいた瞬間だ。

 耐えがたきを耐え、絶望に心を折るまいと努力してきた。

 それがいまようやく実を結ぶ。もういいようにはやらせない。

 この力があれば、ヤマトが機能さえすれば、アキトの未来を護れる。ルリの未来を護れる。新たにラピスも迎え入れることができる。

 自分がどうなるかはまだわからないが、上手く行きさえすれば全部丸く収まるハッピーエンドを描く事ができるのだ。

 そう、いままでヤマトが成してきたことだ。

 ヤマトは地球を幾度も救ってきた。

 赤茶けた死の星になった地球を、敵に占領された地球を、灼熱地獄と化した地球を、アクエリアスの水害に沈みかけた地球を。

 だから、自分たちがしっかりすれば奇跡をまた起こせると、ユリカは信じていた。

 ユリカはその一念だけで常人なら発狂するような苦痛に耐えた。

 最愛の夫と会えない寂しさに耐えた。

 大切な家族と友人たちを苦しめる罪悪感に耐えた。

 いまにも散りそうなこの命を懸命に繋ぎ留めてきた。

 すべてはこの瞬間を迎えるために!

 

 ドアを潜った先はドックの内部。その視線の先に、天井のライトに照らし出された雄々しき巨像の姿がある。

 その姿を見てユリカは心が沸き立つのを感じた。

 

 そう、ヤマトだ。

 

 かつてアクエリアスの大水害から地球を救うために自沈した守護神の姿。

 ユリカが、人類が待ち望んだ宇宙戦艦ヤマトが、かつての姿、戦艦大和の面影を強く残した在りし日の姿を保ったまま、ついに蘇ったのだ!

 幾度も地球人類を破滅から救い続け、その身を呈すことすら厭わなかった伝説の艦。その巨体がいま、ユリカの眼前にある。

 

「――ヤマト……!」

 

 ユリカは初めてその内部に足を踏み入れた時のことを思い出す。

 水に沈んだ第一艦橋の中で、息を引き取っていた沖田十三の姿を見た時、思わず涙がこぼれた。

 救出されて地球に帰るボソンジャンプの最中、その脳裏に刻み込まれたかつてのヤマトの活躍の日々の『記憶』。

 すべてを鮮明に受け止めることはできず、不明瞭な部分も多い。

 しかしそれでも、ヤマトが成し遂げてきた奇跡の数々を、その原動力を理解するには十分と言える『記憶』を彼女は見たのだ。

 

 ユリカはヤマトの艦体を回収する際、沖田の亡骸を三浦半島にある高台にひそかに埋葬した。並行宇宙に彼の死を本当の意味で悼む者などいない。

 本当は元の世界に戻してやりたかったが、それは叶わない。

 だからせめて、息子のように大切に思っていた部下、古代進の生家があった土地で埋葬してあげたくて、そうした。

 そう、ユリカは進のことを知っていた。

 ユリカが垣間見たヤマトの記憶。

 決して完全なものではなく、断片的で不鮮明な部分も多かったその記憶の中にあって、古代進を中心とした人間関係は、ことさら強く色を放っていた。

 島大介、森雪、真田志郎と、ヤマトの中心と言えるメンバーの多くがこの世界にも違う形で生を受け、ヤマトに集おうとしている。

 なかばユリカが故意的にそうしたのもあるが、受け入れられたこと自体が運命だったのだろう。

 ヤマトにとって、古代進とは自身の代弁者だったのだ。

 そしてその進に強く影響した沖田十三も、進にとって頼れる仲間たちもまた、そうだった。

 とはいえ、ユリカも彼らの人なりを把握しているわけではない。だがそれでも、進を中心とした人間関係はある程度理解している。

 

 そう、ユリカはヤマト出現直前のボソンジャンプの最中、ヤマトの意思と触れたのだ。

 

 アクエリアスの水柱を断ち切るために自爆したヤマトは、その時生じた時空の裂け目に落ち込み、数多の並行世界と接する空間に一時身を置いた。

 その中で、偶然接触したこの世界で自身が必要とされていると理解したヤマトは、時空を超えるシステム、ボソンジャンプの演算ユニットとリンクを弱々しくも保っていたユリカを接点としてこの世界に現れた。

 その際ヤマトの身に刻み込まれた記憶に触れたことで、ユリカはヤマトがどのような艦なのかを、その使命を知ったのだ。

 そのためユリカは、どうしてヤマトがこの世界に来たのかも察することができた。

 恐らくヤマトが到来せず、ガミラスによって破滅した未来の自分の嘆きが、悲しみが、偶然ヤマトに届いて呼び寄せることになったのだと。

 ――そう、ヤマトの到来は一種のタイムパラドックスを引き起こしていたのだ。

 ヤマトがこの世界に訪れたことで、破滅以外の未来がなかったこの地球にわずかな希望が生まれ、新たな未来を作り出すチャンスを得ることができたのだ。

 だからこそ、ユリカはヤマトを蘇らせた。

 これから襲い掛かる様々な苦難に、人類が屈せぬように、立ち向かえるようにと。

 自分に応えてくれたヤマトへの恩返しも含めて。――これが、ヤマトにこだわったもうひとつの理由だ。

 

 ユリカ涙を湛える目を袖で拭って再び足を進める。

 本音を言えば間に合うのかどうかいつも不安だった。

 なんとしてでも間に合わせるために無茶を重ねざるを得なくて、ただでさえ心配をかけている仲間たちにさらに心配をかけているのが自分でも辛かった。

 だが報われた。

 ヤマトへ続く通路を弾む気分で歩き、左舷後部の搭乗口にまで移動する。歩きながら、生まれ変わったヤマトの姿を目に焼き付ける。

 あんなにもボロボロだった艦体は完全に復元されていて、よりたくましく、力強い姿となって蘇っている。

 

 自沈したヤマトは第一副砲の直下で断裂していた。しかしその艦体は接合と同時に延伸され、かつてよりも巨大になっている。

 艦幅も増し、上から見るとかつての大和のように前後が細く、中央が膨らんだ安定感のある姿に生まれ変わった。

 フレーム構造と装甲支持構造が改められ、より優れた耐弾性と耐久力を発揮するようにと、残された運用データを基に可能な限り手を加えた。

 構造材はヤマトのデータから回収した空間磁力メッキの技術を応用した、一種のナノテクノロジーを活用した素材が混入され、装甲表面にも同様の作用を持つ素材が塗料に交じって塗布されている。

 この素材にいわゆるエネルギー系の攻撃などが命中すると、そのエネルギーを利用して反射フィールドを自己生成する作用がある。オリジナルのように完全に反射するのは無理だが、命中したエネルギー同士をぶつけ合って相殺する、または乱反射させることで驚異的な耐久力を発揮できる。

 理論上はグラビティブラストが直撃しても、いきなり内部まで貫通されはしない。

 質量弾に対しては効果がないが、そこは自前の分厚く強固な装甲で受け止めるヤマト元来の防御で備えられる。

 装甲板は中空複合装甲を採用している。複合装甲部分は実弾兵器の被弾によるダメージを防ぐことが主で、中空部分はそこにディストーションフィールドを展開する、かつてウリバタケが独自に開発し、独断でナデシコに装備したこともあるディストーションブロックを採用するためだ。

 さらにヤマト本体に攻撃が届かないようにするための防御フィールドシステムとして、ディストーションフィールド改を装備した。

 これは艦の表面に張り付くように展開可能になった新型のディストーションフィールドで、多重展開はもちろん、従来どおり球状に展開することはもちろん、一方向に集中展開すらも可能としている、最新式だ。これとディストーショングロックの併用で、鉄壁の守りを実現する。

 

 基本的な武装と配置は変わらないものの、主砲と副砲は砲身が延長されエネルギー収束と有効射程が強化されたグラビティショックカノン――重力衝撃波砲に換装された。

 従来のヤマトのショックカノンの原理と、グラビティブラストを組み合わせた新型砲で、これならガミラスの防御を容易く撃ち抜くことができるはずだ。

 艦橋の周辺に集中配備されたパルスレーザー対空砲群も、対ディストーションフィールドを考慮したグラビティブラスト――通称パルスブラストに更新され破壊力が大幅に向上している。

 従来の地球艦艇ならこの武装の半分も使いこなせずに出力不足に陥っているだろうが、それを実現したのが波動エンジン、そして波動エネルギー理論だ。

 波動エンジン内部で生成されるタキオン粒子は、人類が定義していた質量が虚数の素粒子ではなく、正の実数の質量を有しながら超光速に達する粒子、いわゆるスーパーブラティオンと呼ばれる素粒子である。

 それ自体が時空間を歪める作用を有していることから、空間歪曲装置の類に誘導してやるだけで、高効率でディストーションフィールドやグラビティブラストを生み出すことができる。ガミラスの強さの秘密のひとつだ。

 従来からのミサイル装備はすべてて継続している。

 計三六門になるミサイル発射管は、主砲や副砲の死角からの敵を攻撃するために欠かせない。

 弾頭そのものはかつてのヤマトが使用していたものを再生産して採用するにとどまったが、新たに従来では爆雷投射機であったマスト根元の装備は、外観そのままに近・中距離の迎撃用途に特化したピンポイントミサイルに更新された。

 ミサイルは新型で、発射機はマルチパーパスタイプで、ほかの弾頭もサイズさえ合わせれば使える。

 

 心臓部である波動エンジンは、復元された波動エンジンの前方にリボルバー状に配置した小相転移エンジンを六つ備えた、通称六連相転移エンジンを増設。

 波動エンジンのテクノロジーを加えて新造された相転移エンジンの外観は波動エンジンに近くなり、フライホイールの数が一枚である事を除けば、ぱった見ただけでは判別がつかないほどだ。

 それを波動整流基とも呼ばれるスーパーチャージャーを挟んで接続した、『六連波動相転移エンジン』が、新生ヤマトの動力源である。

 同じ真空を燃料とするエンジン同士抜群の相性を誇り、相転移エンジンを事実上の増幅装置として機能することで、波動エンジンは従来の六倍という劇的な出力強化を成し遂げた。

 エンジンを更新したことで波動砲も六連発可能なトランジッション波動砲へと強化。従来威力の波動砲を最大六連発できるようになっている。

 この大幅な改造で艦内構造は大きく改訂され、艦の中央は波動砲とエンジンで円筒状に占められている。

 残念ながらワープエンジンの完全修復だけは叶わなかったが、それでも十分一年以内に地球とイスカンダルを往来できる性能は保有している。

 

 居住区などは喫水より上の部分、艦の左右に分断されて配置された。

 艦載機の格納庫も大幅に拡張され、第三艦橋支柱中央のエレベーターシャフトの手前までから、補助エンジンのすぐ後ろまでの長大なものとなり、内部構造も大きく改訂されている。

 そのエレベーターシャフト前から艦底部のドーム部分の先端までは、大きく改定された艦内大工場となっている。

 さらにその前方から艦首魚雷発射管の後ろ付近までのスペースを使って、特殊重攻撃艇信濃が搭載された。

 

 この信濃には小型の宇宙攻撃艇とでもいうべき代物で、ヤマトのミサイルよりも強力な、試作の波動エネルギー弾道弾が二四発積載されている。

 ヤマトのデータには波動エネルギーを封入した砲弾、波動カートリッジ弾のデータが残されていたのでそれをアレンジしたものである。

 この弾頭の火力と、ヤマトとは別に動ける小型艇という立場を活用して、ヤマトの戦術の幅を広げる目的で貴重なスペースを割いてまで搭載された。

 

 さらに艦底部の第三艦橋は大幅に強化・改定され、旧中央コンピュータールームに代わる電算室を内包した。

 装甲や基礎構造の大幅な強化を経て、以前よりも一回りほど大きくなった第三艦橋の外壁は防電磁処理のため、喫水上と同じ青の強いグレーで塗られ、外見的にも以前との違いを如実に示している。

 本来想定していなかったホシノ・ルリらIFS強化体質の人間が乗船することから、電算室の部分には一手間を加えてナデシコCのオモイカネを移植された。

 急な変更だったためマッチングがまだ完全ではないが、それでも十分な性能を発揮するはずだ。

 そもそも、ユリカはルリやハリやラピスがヤマトに乗ることを認めていなかったのだが、ルリには散々弱みを握られてしまったし、ルリが乗ればハリも乗る、ラピスもユリカが心配だと言って聞かないため、渋々受け入れざるをえなかった。

 オモイカネの移植に伴い、第三艦橋の先端部分にはナデシコの魂を継ぐという意味合いを込め、艦名とは縁もゆかりもない赤いナデシコの花びらのマークが急遽書き足された。

 ほかにも艦首波動砲上部に艦体両舷、補助ノズルの間の構造物に白い錨マークの装飾が施されている。

 かつてのヤマトに描かれたことがあるデザインではあるが、ユリカはこれを『平和という時代が戦争という嵐で流されて行かないようにするというシンボル』として、ヤマトの体に再び刻んだ。

 

 平和の象徴である白と、船を固定するための錨を掛けた、ユリカの切実な願いであった。

 

 ユリカはヤマトの艦内に入ると、まずは第一艦橋に上る。

 エレベーターから降りたユリカの目に飛び込んできたのは、電源こそ落ちているが、かつての面影を色濃く残した、ヤマトの第一艦橋の姿だ。

 レーダー席の後方に新たに副長席が新設されたことや、旧レーダー席が電算室との連動を優先した簡易的なパネルになっている以外は、以前のまま。

 艦橋中央部分にある次元羅針盤も健在で、ユリカがイメージの中で見たヤマトの艦橋の姿が、在りし日の面影を残したまま蘇ったことに感激が止まらない。

 自分でも驚くほど、このヤマトに感情移入している。

 その気持ちの強さは、かつての居場所であるナデシコにいた時とあまりにも差がない。

 

(――ここが、新しい私の居場所なんだ)

 

 ユリカは一通り艦橋内部を見渡すと、艦長席に振り向く。艦長席のボックスの全面にも、金色の錨マークの装飾が追加されている。

 その後方、艦長席と上にある艦長席を結ぶエレベーターレール。そこにかつて飾られていた沖田艦長のレリーフは、いまは取り外されている。ユリカが外した。

 そもそも、自分以外の人間は沖田艦長が最後までヤマトに残って運命を共にしたことを知らない。

 だが、いまはそれでいい。

 必要なのはヤマトの伝説であって沖田艦長そのものではない。

 ――沖田艦長の教えを、ユリカはおぼろげながらも理解して、受け継いだつもりだ。「最後の最後まで諦めない」という教えを。

 自分は沖田艦長のようにはおそらくなれないだろう。

 だから、私らしく自分らしく、ヤマトとクルーを導いていく。

 

(どうかユリカを導いてください、沖田艦長。あなたが指揮したこのヤマトは、私が継ぎます。この宇宙でも、必ずその使命を果たして見せます。どうか、見守っていてください)

 

 艦長席に対して黙祷を捧げると、ユリカは恐る恐る、艦長席に腰を下ろす。

 しっかりとした造りの、座り心地のいい椅子だ。

 目の前に広がる艦橋の全貌とコンソールを見て、自然と気持ちが引き締まる。

 ……これからは私がヤマトの、そしてクルーの母になるのだ。

 

「さあヤマト、旅立ちの時が来たよ。起こしにいこう――奇跡を」

 

 静かに紡がれたユリカの言葉に応えるように、電源のまだ入っていないはずの計器盤が一瞬だけ機能した。

 それを見て、ユリカは薄く微笑んだ。

 さあ、私たちの物語の開幕だ。

 

 

 

 

 

 

 いま、宇宙戦艦ヤマトは目覚めの時を迎えようとしていた。

 

 行くのだヤマト、全人類の夢と希望を乗せて。

 

 ガミラスによる寒冷化現象によって地球の生命が滅びるまで、

 

 あと、三六五日。

 

 あと、三六五日。

 

 

 

 第二話 完

 

 

 

 次回、新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ ディレクターズカット

 

    第三話 号砲一発! ヤマトの目覚め!!

 

 

 

    絶望の淵にて、希望が目覚める。

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