戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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小学生組に訪れたピンチ--

その時、沙綾とたえは……





届いた君の手

 

 

西暦勇者達が合流して、何日か経った日の事--

 

中沙綾「………。」

 

中たえ「………。」

 

2人は夏希に寄り添いじっと見つめていた。

 

小沙綾「あ、あの、香澄さん…。さっきから、2人が夏希をじっと見つめてるんですけど……。」

 

香澄「あ、あはは〜。何か思うところがあるんじゃないかな?」

 

小学生組の視線に気付いた沙綾が咳払いをして話しかける。

 

中沙綾「ゴホン。みんな、ここにはもう慣れた?何か困った事とかはある?」

 

小沙綾「は、はい。最初はちょっと戸惑いましたけど、皆さん仲良くしてくれるし、大丈夫ですよ。」

 

夏希「しいて言うなら、イネスが無い事ですかね…。」

 

イネスとは大型のショッピング施設の事である。小学生組は良くそこで買い物をしたり、ジェラートを食べたりして遊んでいたのだ。

 

中沙綾「イネスか……。どうしようか、おたえ?」

 

中たえ「うーん。こればっかりは仕方無い事じゃないかなー。だよね、リサさん。」

 

リサ「そうだね……ここは取り敢えずうどんで我慢してもらうしか…。」

 

夏希「大丈夫ですよ。言ってみただけですから。だからそんなに悲しい顔しないでください。」

 

有咲「どうやら2人にとって、夏希の存在はかなり大きいみたいだな…。」

 

狼狽えていた沙綾はたえを連れて少し離れた所に移動し、ヒソヒソと話し出す。

 

中沙綾「だ、駄目…ここは一旦夏希と距離を取ろう。」

 

中たえ「何で?せっかく夏希に会えたんだから、ずっと側にいてあげようよ。」

 

中沙綾「だからだよ!私、夏希の顔を見てると、もう……。」

 

中たえ「沙綾はあの頃と全然変わらないね。私も涙が出そうになるのは堪えてるけど。」

 

夏希「んーーー?」

 

夏希を前にしてぎこちない様子の2人を、夏希は離れたところから見つめているのだった。

 

 

---

 

 

次の日--

 

部室で何やら小学生組が話をしている。

 

夏希「ねぇ、2人とも、ちょっと聞いてよ。」

 

小沙綾「どうしたの、夏希?」

 

小たえ「夏希のお悩み相談?」

 

夏希「悩みっていうか、君達2人の大っきくなったバージョンの事なんだけどさ。」

 

小沙綾「沙綾さんとたえさんの事?」

 

夏希「2人とも成長してるよね、当たり前だけど。私も2人みたいな感じになってるのかな?」

 

小沙綾「夏希の事だから、私達の中で一番背が大きくなってるかもね。」

 

小たえ「スレンダーだね。」

 

夏希「そ、そうかなー。それにしても、大きくなった私は何処で何してるんだろうね。」

 

小沙綾「確か、出世して大赦で働いてるって話だったよね。」

 

小たえ「夏希はエリートだね!」

 

夏希「かもしれないって話でしょ。沙綾さんとたえさんに聞こうとしても、はぐらかされちゃうし。」

 

小沙綾「何か隠してる事でもあるのかな?」

 

小たえ「でも、大きくなった私達、夏希の事すっごく可愛がってるよね。」

 

小沙綾「あれが未来の自分の姿だと思うと、少し恥ずかしいな…。」

 

夏希「そう見えるかなー。何か、むしろ腫れ物に触る感じっていうか…。」

 

小沙綾「えっ、そんな事は…おたえはどう思う?」

 

小たえ「うーん…。2人からは夏希が好きって言う感じしか無いようだけど…。」

 

夏希「そっか。私の考え過ぎかな。」

 

小沙綾「夏希……。」

 

夏希「よし、この話はもうおしまい!探検に行こう探検!もしかしたらイネスが見つかるかもしれないよ。」

 

そう言って、夏希は走って部室を飛び出した。

 

小たえ「夏希待ってー。……沙綾、夏希気にしてるよね…。」

 

小沙綾「そうだね…。何とかしないと。」

 

2人の前では気にしない素振りを見せる夏希、だがそれが余計に2人を心配させる事になってしまったのだった。

 

 

---

 

 

次の日--

 

小学生沙綾とたえは勇者部のみんなに、夏希の様子について相談していた。

 

香澄「夏希ちゃんを元気付けたい?」

 

小沙綾「はい…。私達にはいつも通りの態度なんですけど、どこかモヤモヤしてるみたいで…。」

 

中沙綾「そ、そんな…。私何か夏希に悪い事しちゃったかな……。」

 

中たえ「沙綾落ち着いて。」

 

小たえ「イネスに行けば、元に戻ると思うんだけど…。」

 

小沙綾「ここには無いみたいですし…。」

 

香澄「それは困ったね。うん、私達に出来る事なら何でも協力するよ!」

 

小沙綾「香澄さん…。」

 

香澄「私も、元気100%の夏希ちゃんが見たいから!」

 

中たえ「じゃあ、早速イネス探しだね。」

 

小たえ「フードコートの醤油味ジェラートを食べれば、夏希もきっと元気になると思う!」

 

香澄「よーし、じゃあみんなで探しに行こう!」

 

そこに、中学生の沙綾が待ったをかける。

 

中沙綾「でも、香澄…それは難しいんじゃないかな…。イネスがもともと無い街を再現してるのなら、ここにイネスがあるとは考えにくいよ。」

 

香澄「成る程…。」

 

小沙綾「それか、運動が出来る広い場所とか。」

 

香澄「あ、それくらいならあるかも!」

 

小沙綾「…そうですか!私達、ちょっと探してきます!行こう、おたえ。」

 

小たえ「善は急げだね。」

 

早速小学生沙綾とたえは部室から出て行こうとする。

 

香澄「え!?それなら私達も一緒に…。」

 

香澄が引き止めようとするが、それより早く2人は飛び出してしまった。

 

香澄「行っちゃった。夏希ちゃんの事、本当に心配なんだね。」

 

そして、2人とちょうど入れ違いで夏希が部室にやって来た。

 

夏希「どうもー。」

 

中沙綾「な、夏希!?」

 

夏希「沙綾とおたえ何処に行ったんですか?なんか走って行っちゃったけど…。」

 

香澄「え、えっとね…なんか日向ぼっこ出来る場所を探しに行くって言ってたよ!」

 

香澄は咄嗟にはぐらかした。

 

夏希「そうなんですか?なんだ、私も誘ってくれれば良かったのに。」

 

中沙綾「………。」

 

その様子を沙綾は複雑な心境で見ていた。

 

 

---

 

 

街中--

 

沙綾とたえは街を散策しながら夏希を元気付ける為の場所を探していた。

 

小沙綾「勢い余って出てきちゃったけど、どんな所なら夏希は喜ぶかな…。」

 

小たえ「全然知らない街だから、探し甲斐があるね。」

 

小沙綾「おたえ、分かってる?探すのは日向ぼっこ出来る場所じゃないんだからね。」

 

小たえ「分かってるよ〜。夏希なら何処でも楽しそうにすると思うけど、イネス以外だと、やっぱり家なのかな〜?」

 

小沙綾「向こうでの時間経過は無いって言っても、弟と離れ離れになるのは心配だよね…。」

 

小たえ「うーーーん。」

 

小沙綾「考えてみれば、私達まだ仲良くなってからそんなに日は経ってないもんね。」

 

小たえ「友情に時間は関係無いよ。私達はソウルメイトだから。」

 

小沙綾「ソウルメイト?」

 

小たえ「魂で繋がってるって意味。マブなソウルメイトだよ。」

 

小沙綾「あははっ!そうだね。ソウルメイトだね。そういうの、夏希も言いそう。」

 

 

その時だった--

 

 

周りの景色が紫色に変化し、目の前に星屑が現れたのである。

 

小沙綾「っ!?あれは星屑!?」

 

小たえ「街が変な感じになってる?」

 

小沙綾「しまった……これがリサさんが言っていた…。」

 

沙綾とたえは話すのに夢中で、結界の外に出てしまったのだった。

 

小沙綾「取り敢えず戦おう、おたえ!攻撃は最大の防御だから!」

 

小たえ「わ、分かった!」

 

2人は端末を起動して勇者へと変身する。幸い現れた星屑の数はそれ程多くはなかった。

 

小沙綾「私が援護するから、おたえは前衛お願い!」

 

小たえ「任せて!」

 

 

--

 

 

急襲により多少取り乱したりはあったが、2人はひとまず星屑の撃退に成功する。

 

小沙綾「ふぅ…2人でも何とかなったね。」

 

小たえ「ダメだよ、そんな事いったら〜。」

 

今度は奥から"進化型"と"蠍型"が星屑を引き連れて2人の元へと向かってきたのである。

 

小沙綾「っ!?どうする…!?流石におたえと2人だけじゃバーテックスには…。」

 

 

その時--

 

 

?「てやーーーっ!!」

 

2人の後ろから武器が飛んできて、近づいてくる星屑と進化型をなぎ倒したのだ。

 

小沙綾「この武器は……。」

 

小たえ「夏希の…。」

 

夏希「大丈夫、2人とも!?」

 

助けに来たのは夏希だった。

 

小沙綾「夏希、どうしてここに…?」

 

夏希「2人が気になって、探し回ってたんだよ。全く…心配かけて。」

 

そう言って夏希は2人を軽く小突いた。

 

小たえ「夏希…これはね。」

 

夏希「詳しい事は後!勇者部のみんなも駆けつけてくれるから、それまで耐えるよ!」

 

小沙綾「……分かった。」

 

夏希「行くよ!」

 

夏希が前に出て進化型を双斧でなぎ倒し、たえは槍を伸ばして星屑を串刺しにしていく。沙綾は"蠍型"の突き攻撃を矢の威力で逸らして守っている。

 

だが3人は気付いていなかった。たえは2人から離され、沙綾は逸らす事が精一杯で身動きが取れず、夏希は次々湧いてくる"進化型"との戦いで周りが見えなかった。

 

 

そして、遠くにもう1体--

 

 

"射手型"がいる事に気付いてなかった--

 

 

小沙綾「ぐっ、しまった!!」

 

身動きが取れない沙綾に横から現れた星屑が、突進で沙綾を吹き飛ばす。

 

夏希「沙綾っ!!」

 

そして夏希の意識が一瞬沙綾の方へ向いた刹那、後方から"射手型"の針攻撃と"蠍型"の突き攻撃が同時に夏希に襲いかかる--

 

 

小沙綾、たえ「「夏希っ!!」」

 

夏希(しまった!!)

 

 

夏希は目を瞑った--

 

 

だが、攻撃は夏希に当たる事は無かった。

 

 

夏希「あれ?私、生きてる…。」

 

目を開けると、そこにいたのは--

 

 

中たえ「全く、夏希は無茶し過ぎだよ。」

 

中沙綾「今度は……間に合ったよ、夏希。」

 

中学生の沙綾とたえだった。

 

夏希「沙綾さん…たえさん…。」

 

2人は夏希が知らせてくれた瞬間に、全速力で他の勇者より早く駆けつけてくれたのである。

 

中沙綾「って、あれ?おたえ変身出来る様になったの!?」

 

中たえ「最初に言ったでしょ、私は"緊急時用の切り札"だって。私にとっては今が緊急時だからね。」

 

たえがここに駆けつける途中、目の前に突然端末が現れ、それを使って変身したのだ。

 

中沙綾「みんなは結界の中に下がってて!」

 

中たえ「沙綾、ここは一気に決めるよ!」

 

中沙綾、たえ「「満開!!」」

 

2人は"満開"を発動する。ここに来た時、リサが言っていた"此処ではリスクが無い"という言葉の意味--

 

それはつまり"満開"も"散華"無しに使えるという事である。巨大な箱舟と砲撃船に乗った沙綾とたえは瞬く間に2体のバーテックスを光に還すのだった。

 

夏希「す、凄い……。」

 

小沙綾「これが…勇者部の全力……。」

 

小たえ「カッコいい……未来の私。」

 

3人は瞬く間に殲滅させた2人の勇者に釘付けになっていた。敵を倒した後、たえの端末が再び消えた。

 

中たえ(ありがとう、神樹様。お陰で今度は間に合ったよ。)

 

そして少し遅れて他の勇者部達が駆けつけてきた。

 

ゆり「凄い爆発音がしたんだけど、もう片付いたんだね。」

 

香澄「3人とも大丈夫だった?」

 

夏希「はい、沙綾さんとたえさんのお陰で何とか。」

 

有咲「ノーリスクで戦えるとは聞いてたけど、派手にやったな、2人とも。」

 

りみ「取り敢えず、部室へ帰ろう。」

 

勇者部と小学生組はこうして部室へと戻っていった。

 

 

---

 

 

勇者部部室--

 

リサ「…先ずは無事で本当に良かった…。だけど、起こった事自体は深刻だよ。」

 

小沙綾「す、すみません…。」

 

小たえ「ごめんなさい……。」

 

リサ「沙綾とたえが間に合ったから良かったけど、万が一の事があったらどうするの?」

 

リサは小学生沙綾とたえに諭す様に叱った。

 

夏希「すみません、リサさん。元はと言えば私がいけなかったんです。2人に心配させちゃったから……。」

 

小沙綾「違うんです!夏希のせいじゃありません!」

 

小たえ「そうです!私達が周りに気付かなかったから…。」

 

ゆり「まぁまぁ、何事も無かったんだし、これくらいでね。」

 

リサ「もう……この時代の人たちは無闇に結界を踏み越え過ぎだよ。取り敢えずは次から気をつけてね。」

 

小沙綾、たえ、夏希「「「はい、ごめんなさい…。」」」

 

 

--

 

 

夏希「みんなで叱られちゃったな。」

 

小沙綾「夏希……ごめんね。」

 

香澄「あ、あのね!2人は夏希ちゃんを元気付けようと思って、イネスの代わりになるものを探してたんだよ!」

 

夏希「え?そうなの?」

 

小たえ「実はそうなんだ。でもイネスの代わりは見つけられなかったよ…。」

 

夏希「なんだ、そんな事の為に出掛けてたのか。危ないからあんまり遠くに行くんじゃないよ。」

 

小沙綾「でも…何処かに夏希が喜ぶと場所があるんじゃないかと思って。」

 

夏希「バカだなぁ。」

 

しょんぼりする2人に、夏希は駆け寄って抱きついた。

 

夏希「私は沙綾とおたえがいれば、どんな場所だって嬉しいし、楽しいのに。」

 

小沙綾「あ……。」

 

小たえ「夏希……。」

 

その言葉で2人は気付いたのだ。どんな場所でも、夏希はみんながいればそれだけで幸せなんだと。そこへ、中学生沙綾とたえが部室に入ってきた。どうやら2人はリサに報告をしていた様だった。2人を見つけた夏希がやって来る。

 

夏希「沙綾さん、たえさん。さっきは本当にありがとうございました。2人がいなかったらどうなってたか……。」

 

中沙綾「……いいえ。こっちこそ、小学生の私達を守ってくれてありがとうね。」

 

中たえ「私達は……当たり前の事をしただけだから。」

 

2人は涙を堪えながら夏希に伝えた。

 

中沙綾(これで、私達を助けてくれたのは2回目だね……。)

 

中たえ(夏希は本当に私達のヒーローだよ……。)

 

夏希「あっ、そうだ今度お礼しますから。」

 

中沙綾「気にしないで。またこうして隣同士歩ける事が、とっても嬉しいんだからね……。」

 

中たえ「そうだね……。」

 

 

ここで過ごす時間を大切に--

 

 

沙綾とたえは改めてそう思うのだった。

 

 


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