美咲の性格は過去を見るに仕方ないって思えますね。
そして、最後に現れた人物とは……?
薫「で、話とは何だい?」
美咲「……異世界に来た同期だし、薫さんには聞いて貰いたいんだよね。私の事を…。」
---
西暦2018年、北海道旭川--
とある洞窟にて、奥沢美咲は1人地面に穴を掘り続けていた。
美咲「うー寒い寒い。あの日以来、気候がおかしいよ。」
"7.30天災"以降、日本の各地では異常気象が発生していた。その時、虚空から美咲の隣に紫色の狐の精霊が現れる。
美咲「ん?天からの影響と味方してくれるカムイの影響がぶつかり合って北海道ではこんな感じ?」
その精霊、"コシンプ"は美咲にテレパシーでそう語りかけてきた。
美咲「分かってるって。何度も説明受けたもんね。よっ……ほっと。今日の作業はこんな感じかな。」
美咲は穴を掘る作業の手を止める。
美咲「山の洞窟も、かなりの広さになったかなー。私だけの隠れ家、いざという時の避難場所。天から来た奴等は特定の神社、若しくは人の居る地域を優先的に狙う傾向がある…。って事で雪山で1人地下に思いっきり潜ってしまえば見つかる事なんてないのでは?へへっ。勇者の力で掘りまくれば、かなり大きなスペースが確保出来るもんね。」
そう言いながら美咲は再びシャベルを手に取る。
美咲「もう少し作業しておこうかな。深ければ深いほど生存率が上がるからね。」
そこに再びコシンプが現れ、美咲にテレパシーを送った。
美咲「……!これは、敵が来る。行きますか!やる事はきっちりやるよ!」
美咲は作業を止め、走り出した。
---
旭川市街地--
市街地では"星屑"の群れが暴れており、既に何人かの周辺住民が被害に遭っていた。
住民A「うわぁぁぁぁ、また化け物が来た!」
そこに美咲が到着し、人々を誘導する。
美咲「大丈夫です!勇者が来ました!!まったく、漁帰りの人達を狙うなんてね。」
美咲は投槍を手にし、"星屑"に攻撃を開始する。
美咲「ここは任せて!とおりゃああああ!」
住民A「おおっ…。次から次へと串刺しに。相変わらず勇者様の槍は神業だ。」
美咲「っ!」
美咲の端末から音がする。これは緊急通信の音だ。
美咲「呼び出し!?別の所からも来たの!?」
住民G「勇者様。すぐこちらへ向かってくれたまえ!」
通信を聞いた美咲は辺りの敵を蹴散らし、直ぐに通信があった場所へと急いだ。
--
旭川住宅街--
美咲「っと。駆けつけてみたは良いけど、……敵、いないなー。」
美咲は辺りを見回すものの、周りは静かで"星屑"の姿は無かった。
住民B「す、すみません勇者様。なんだか白い影のようなものが見えて不安で…。」
どうやら住民達が不安に駆られて勇者を呼び出したようだった。
美咲「大丈夫ですよ。きちんと守りますから。
住民C「…勇者様。私達は助かるのでしょうか?」
美咲「こうして防いでいれば、いずれは他の生き残りが救助に来るでしょうから。」
住民D「勇者様……いや敢えて奥沢君と呼ぼうか。君の働きは誰よりも私が評価しているよ。」
美咲「偉い人から、そう評価してもらえるのは嬉しいですね。」
住民D「だから私の家に住めば良い。親御さんも亡くなられたのだ、大変だろう。」
美咲は"7.30天災"の際に、両親と妹を亡くしている。そして勇者として見初められ、今までたった1人で旭川を守り抜いてきたのである。
住民E「いやいや、勇者様は私のところに…。」
美咲「あはは、でも家が1番ですから。」
そこに、先程連絡してきた住民G、及川がやって来た。
及川「収穫された魚は私が責任を持って分配していこう。」
住民E「その事なんですけど及川さん。もっと平等に分けてくれないと…。」
及川「この状況でよくそんな事が言えるな。使える人間から優先的に配布するべきだ。」
住民D「……っち!」
住民達はいつ来るか分からない天よりの恐怖から精神が摩耗し、人間関係は悪化していた。
美咲「……それでは私はパトロールに戻りますね。」
そう言って美咲はその場から離れるのだった。
---
次の日、洞窟--
美咲は今日も穴を掘る。
美咲「ふー。さむさむ。精霊もこれくらい手伝ってくれればいいのに。」
美咲「ん?この洞窟を他の人にも教えてあげたらどうかって?それじゃあ、人の気配が増えて天から来た奴等に見つかるかもでしょ。精霊さん精霊さん。私は勇者だけど、か弱い1人の人間でもあるんだよ。生き延びるのに必死なわけですよ。それが悪い事だとは思わないよ。せっかく貰った勇者の力だもん。活用して何が悪いってのさ。」
嫌というほど美咲は人の本当の姿を見てきた。街の人も、美咲も、心はすっかりこの大地の様に冷えきってしまったのだった。誰が悪い訳でも無い。全ては天から来た奴等が悪いのである。
美咲「備蓄食料も沢山詰め込んだし、これなら数年は保つよね。頑張れるだけは頑張るけど、いざとなったら私はここに逃げるんだから。」
美咲は今日も穴を掘り続ける。
--
美咲「さーて、今日も元気に掘った掘った。後は自宅に帰って寝るだけだよ。その前にノート見て現状を復習するとしますか。客観的に現状を把握しとかないと詰むからね。」
美咲はノートを取り出す。
--
『私は奥沢美咲。北海道は旭川カムイコタンのポツンとした所にある民家暮らし。市内の学校に通っていたけど、2015年7月30日に災厄が起きる。天から来る怪物が降ってきて、みんなを襲い始めた。当時、私は趣味で史跡を見ていて1人で山の中にいた。そこで"コシンプ"と呼ばれる精霊と出会う。』
『私は人類に味方してくれる山のカムイから力を借りて、勇者の力を得る事が出来た。市内に戻って精霊の導き通り戦ってみたけど、既に多くの人間は殺されていて…。私の両親と妹も死んでいた…。各都市からの連絡も途絶えた…。』
『結構泣いたけど、状況的にいつまでも悲しんではいられなかった…。なんせ勇者になれるのは私1人ときたもんだ。なら出来るだけ人は守らないと。』
--
美咲「……なんで私を勇者にしたんだか。こうやって穴を掘るような人間なんだけどね。」
--
『カムイコタン周辺が無事だと知って、ポツポツと北海道各地から生き延びた人々が集まってきた。で、インフラについては"コシンプ"の様な精霊の力で最低限の暮らしは出来ている。』
--
美咲「ってまとめてはみたものの、なんだかお伽話の世界に入ったみたいで不思議だよ。今はなんとかみんなで生きていけてるけど…いつまでこんな生活が続けられるやら。」
そうして美咲は今日も穴を掘り続ける。
---
旭川住宅街--
美咲は会議の護衛として住宅街に来ていた。
住民D「会議も3時間を超えましたが、どうしましょうか…。」
及川「続けるべきだ。とにかく何か突破口を見出せねば全員死んでしまうぞ。」
住民E「及川さん。そういう周囲が不安になる言動は謹んで頂かないと。」
会議の様子を美咲は窓の外から見ていた。
美咲「……結論の出ない会議を続けるのは仕方がない。話していないと不安だっていうのは分かる。とは言え、出てくるのは保身の話ばっかり。そりゃ私も独自で保身しますよ。」
その為、夜間美咲は見回りをしている。勇者になると聴力も増すからだ。今美咲は外で護衛をしつつ、強化された聴力で会議の様子を聞いていた。
住民D「やはり大型の船に乗り込み本土に向かうしかないでしょう。勇者様に護衛して頂き…。」
美咲(この人はあわよくば私を義理の娘にして自分の力にしようとしている。)
住民E「バカな。カムイの庇護下だから生活出来るというのに。勇者様は今まで通りここで皆を…。」
美咲(この人は勇者の力の何たるかを調べて、奪い自分の娘に与えようとしている。)
及川「何とかしてカムイの力を高める事は出来ないものか。カムイに贈り物が必要ならいつでも出すのだがな。生贄を。」
美咲(この人……及川さんは1番権力を持っているけど、目つきや心がもう大分危なくなってきている。)
及川「生贄ならば、ただ死ぬよりも有益な死というものだろう。今度試してみないか。」
美咲(言動も過激なものが多く、みんなの和を乱している……。他の人は腹に一物といえ表立っては協力的なのに。)
美咲「………寒いなぁ。」
---
次の日、旭川市街地--
美咲は市街地に現れた"星屑"の群れと戦っていた。
住民H「ふぁぁぁぁ助けとくれぇぇ!」
その中でおばあちゃんが襲われそうになっていた。
美咲「待ってて!今助けに行くよ!せやーーーっ!」
美咲はおばあちゃんを助け出す。
美咲「はぁ…はぁ…。今までよりキツくなってきたよ…。」
ここ数日で敵の猛攻が激しくなり、美咲も手を焼いていた。敵を倒し終えた美咲は住宅街へと向かった。
---
旭川、住宅街--
及川「勇者様、お疲れ様です。」
美咲「どうも。犠牲者は無かったようですね。良かった良かった。」
及川「ですが救出手順を間違えてもらっては困ります。優先されるべきは指導者たる私の安全。」
美咲「勇者として目の前で襲われた人を見殺しには出来ませんよ。」
及川「子供を助けるのならばまだ分かるのです。後の戦力となるのですから。が、はっきり言って老人は足手まといです。」
住民B「なっ!?」
及川「勇者様。いらない人間は捨てる勇気を。この地域が生き残る為にも。」
住民C「くっ、及川さん……なんて人だい。」
美咲「………。」
美咲は何も言い返す事が出来なかった。そして、美咲はパトロールの為再び市街地へと向かった。
---
旭川、市街地--
美咲が市街地に到着すると、少女が1人美咲の元へとやって来た。
少女「勇者様!!さっきはおばあちゃんを助けてくれてありがとう!」
その少女はさっき美咲が助けたおばあちゃんの孫だったのだ。
美咲「良かったね、無事で。あなたこそ偉いね、元気で。」
美咲は少女の頭を撫でる。
少女「勇者様がいてくれるから!」
少女は笑顔でそう答えた。
美咲「……そっか。」
--
洞窟内部--
大分掘り進めて広くなった洞窟で美咲は模様替えをしている。
美咲「ハンモックなんか設置してみたりして。うん、快適な避難場所になってきたね。」
美咲「……及川さん、か。いよいよだなぁ…。」
そこに"コシンプ"が現れ、敵の出現を知らせる。
美咲「っ!また敵!?しかもかなりの数……。これはやばいかもなぁ。まぁ、もうちょい頑張りますよ!」
美咲は敵の場所へと走り出した。
---
旭川、市街地--
美咲「どんどん来い!全部落としてやる!!」
美咲は"星屑"に向かって投槍を飛ばしまくる。槍はすぐ様手元に現れる為、槍がきれる事は無い。その時、見知った人の悲鳴が聞こえた。
及川「うわぁ!て、敵がこっちに来た!!勇者様!何をしているのですか!敵がこちらにも来ております!!」
だが美咲はすぐには動く事が出来ない状況だった。
美咲「手が離せないんです!すぐ行きますから頑張ってください!くっ、この敵…中々に強い!だけど、勇者は負けないよ!!」
及川「な、何故そんなに時間がかかってるんだ。」
"星屑"が及川に迫る--
及川「ぐ、ぐおっ…も、もう無理だ!勇者様……勇者様あぁぁぁーーっ!!」
"星屑"は及川へと牙を向いたのだった--
---
旭川、住宅街--
美咲「奥沢美咲、今来ました!!敵を倒します、てやーーー!」
市街地からすぐ様住宅街へと向かい、美咲は"星屑"を殲滅する。
住民B「おお助かりました、勇者様!」
美咲「でも、及川さんは……。すみません、私の力不足で…。」
例えどんな人であれ、及川を助けられなかった事を美咲は悔やんでいた。
住民D「いえ、勝手に1人で動き回っていた及川さんに非があるのです。」
美咲「そう……ですか………。」
---
洞窟内部--
美咲は"コシンプ"に話しかけていた。
美咲「指導者が及川さんから変わって、食料配分とか襲撃時の指揮がスムーズになったんだって。」
美咲はシャベルを手に取る。
美咲「……さてさて、私は穴を掘り続けますか。」
---
次の日も敵の襲来があり、美咲は住宅街で"星屑"の群れと交戦していた。
美咲「はぁ、はぁ、はぁ…。き、きっつー……でも、何とか倒したよ。」
既に美咲は満身創痍だが、"コシンプ"が敵の襲来を知らせる。
美咲「はいはい、まだ来るのね。分かった、分かりましたよ。」
その足で美咲は市街地へと向かう。
---
旭川、市街地--
美咲「……うぉぉ、激務だよ…。生傷が絶えないね。」
そこへ前にあった少女がまた声をかけてきた。
少女「勇者様、いつもありがとう。あの、これ食べて?元気出るかも。」
美咲「あは。いいのいいの、お菓子はあなたがとっておきな。その気持ちだけで充分元気が出るよ。」
---
洞窟内部--
美咲「あーしんどかった。でも……ふふふ。手間暇掛けただけあって、この洞窟はかなりの要塞と化したよ。…敵の数も多くなってきたし、そろそろ潮時なのかな。」
しかし、休む間も無く敵はやって来る。
美咲「またですか!仕方ない!」
---
旭川、住宅街--
既に満身創痍の美咲だったが、槍の命中精度は落ちる事は無く敵を射抜いていく。
美咲「我ながら会心の一撃が良く出るよ。さっすがに今回はこれで終わりでしょ?もう寝なきゃもたな……。」
かれこれ今日一日戦い詰めの美咲に"コシンプ"は悪い知らせを運んでくる。
美咲「はぁ?今の3倍の数がもうすぐ来る?マジで言ってんの…!?」
その知らせを聞いた美咲は腕を組んで考える。
美咲「……んーーーーー!!私は今まで頑張った!!帰る!」
そう言って美咲は洞窟へと戻って行く。
---
洞窟内部--
美咲「はぁー……やるだけやったよもう。これ以上は1人じゃ危険すぎる。ごめんみんな、私は生きたいんだ。後はもう、奥沢美咲、事態解決まで引きこもります。」
美咲「…………寒いなぁ。…もうすぐ街にまた敵が来る。ごめんね。洞窟にいる人が多くなれば、奴等に嗅ぎ付けられるだろうから。この洞窟は、私が今まで頑張った退職金という事で、あはは……。」
そう言いながらも、美咲は思い出していた--
--
少女「勇者様!!さっきはおばあちゃんを助けてくれてありがとう!」
--
美咲「…………くっ。ん……あーーーーーーーもう!!!ちくしょう!!」
いつの間にか美咲の足は戦場へと動いていたのだった。
---
旭川、住宅街--
美咲「何で私は来ちゃうんだよ!!あそこにいれば良かったのに!!!」
そこに"コシンプ"が現れる。
美咲「それは奥沢美咲は勇者であるから!?やかましいやい!」
襲いかかって来る敵を睨みつけ、美咲は投槍を握り締める。
美咲「絶対に私は生き延びてやる!まぁそれまではもうちょいだけど頑張ってやる!!」
美咲はたった1人、バーテックスへと立ち向かっていく--
---
寄宿舎、薫の部屋--
美咲「っとまぁ、こんな感じだったんだよね。」
薫「そうか……それは美咲も大変だったね…。」
美咲「絶望しか無い状況で、私は人の本質的な部分を嫌というほど実感してきたんだ。だから私はここに来る事が出来て本当に良かったって思ってる……。もう、寒い所には帰りたく無いよ……。」
薫「美咲……。」
美咲「ってね!なんか湿っぽくなっちゃった。話し聞いてくれてありがとね。話したら少し軽くなったよ。」
そう言って美咲は自分の部屋へと戻る。
美咲「あっ、そうそう。この話は2人だけの秘密ね。」
薫「……ああ、約束しよう。おやすみ美咲。」
美咲「おやすみ、薫さん。」
--
美咲が出てった後、薫はベランダに出て美咲の話を思い返す。
薫(美咲が抱えているものは思っていたより根が深そうだ……。その思いが爆発しなければ良いのだけれど……。こんな時、こころがいたら何て言うだろうか……。ふっ……。こころの事だ。きっと"笑顔が大事"と言うんだろうね…。)
薫(世界を…笑顔に……。頑張るよ、こころ。)
その薫を闇夜の中から見ている人物がいた--
?「やっぱりこちらの世界に召喚されてたんですね--」
?「お姉様--。」