それが爆発しなければ良いのですが……
領土の奪還が次の満月と決まり、勇者部のみんなはその日まで思い思いの時間を過ごしていた。
神社--
香澄「薫さんと蘭ちゃんは何をしてたの?」
蘭「どのあたりが畑に適してるか調査してたんだ。」
香澄「さすがは未来の農業王だね!」
そこへ夏希がやって来た。
夏希「あっ、蘭さん達、外で遊ぶならこの海野夏希をお忘れなく!」
薫「それじゃあ、みんなで思いっきり体を動かすとしようか。その後にみんなで食べる食事……あぁ、儚い。」
少し離れた所でその様子を美咲と小学生沙綾が眺めている。
美咲「わんぱくだなー。私はあんな元気無いよ。木陰でお茶が1番。」
小沙綾「本当そうですね。ごくっ…。あぁ、お茶が美味しい。」
老人の様な事を言っている小学生の沙綾を横目に、美咲はノートに何かを書いている。
小沙綾「美咲さん。さっきから何かを書いているみたいですけど?」
美咲「私達がいるこの世界…神樹様の中ならではの独自ルールをまとめてるんだ。いざという時に混乱しない様にね。今書いてるところ見てみる?」
そう言って美咲はノートを見せた。
小沙綾「…この世界では、勇者では無い巫女も、樹海化の影響を受けていない。興味深い現象である…。」
美咲「色々と受け入れて頭を柔軟にしとけば、何かあった時にパニックにならなくて済むでしょ。」
小沙綾「…成る程、勉強になります。」
美咲「真面目だねー。そう言えば、残りの小学生組の…たえちゃんは何やってるんだろうね。」
小沙綾「おたえは予測がつきませんからね。」
この頃、当のたえは燐子の部屋にいたのだった。
---
寄宿舎、燐子の部屋--
燐子はたえが勧める小説を読んでいた。
燐子「…花園さんが勧めてくれる小説は、面白くて…飽きないですね。」
中たえ「それはどうもです。」
小たえ「ご苦労様です。肩揉み揉み。」
あこ「自分で自分の肩を揉むって何だかシュール……。でも、おたえが勧めてくれる小説はあこでも飽きずに読めるから凄いよね。」
中たえ「それは良かったよ。」
あこ「…本当2人ともあの友希那さんの子孫には見えないよー。」
あこは2人のたえをまじまじと見つめる。
燐子「あこちゃんの子孫は…どんな人なんだろうね?」
あこ「どうだろうね?背が高くてカッコいい人だったら良いなぁ。りんりんの子孫も気になるね!」
燐子「私は…来世でもあこちゃんといれれば…どんな形でも良いかな。」
あこ「りんりん……。」
中たえ(実は案外勇者部の中にいたりしてね…。)
---
海辺--
砂浜には友希那とリサ、有咲がいた。
友希那「穏やかで良い浜辺ね。鍛錬するにはもってこいの場所よ。」
リサ「良かったね、友希那。良い修行場所を教えてもらって。」
有咲「ここでの稽古は身が入るぞ。だから…その…。」
有咲は急にもじもじし出した。
有咲「こっ、今度一緒に鍛錬どうだ?攻め込む時は大体互いに先頭にいるだろうし…。」
友希那「是非お願いするわ。敵陣へと行くのだから、しっかり準備しておかないと。」
有咲「…さすが初代勇者。良い心構えだよ。うちの部長なんかはもうちょい鍛錬しても良いのに。」
リサ「まぁ、人それぞれだしね。」
有咲「リサも一緒にどう?もちろん独自のメニューは組むよ。」
リサ「あははっ、良い運動程度に抑えてくれるならね。お手柔らかに。
友希那「今度みんなで合同鍛錬も良いかもね。」
有咲「それにしても、この海岸もすっかり勇者の人気スポットになったなー。知ってる顔がちらほらいるし。」
向こう側にはモカと美咲がいた。
--
モカ「うひょー冷たい。」
モカは波打ち際を散歩していた。
美咲「何だか上機嫌だね、諏訪の巫女様。」
モカ「諏訪には海なんて無かったからねー。上機嫌にもなるよ。」
美咲「確かに。でも諏訪湖があるよね?」
モカ「見慣れるとねー。」
美咲「それ分かるなー。私も風光明媚な北海道に住んでて良いねって言われたけど、見慣れてるとそうかな?ってなるよ。で、今は何やってるの?」
モカ「気晴らしに散歩だよー。たまには蘭も1人にしておかないとね。」
美咲「…良いパートナーだね、羨ましいよ。私は独りだったから。精霊はいたけど。」
モカ「応援してくれる人がとかいなかったの?」
美咲は少し間を置き、話し出す。
美咲「……いたけど、利用されてる感じが大きかったかなー。同年代の友達が欲しかったよ。」
モカ「私で良かったら友達になろーよ。」
美咲「仲良くしてくれる?嬉しいなー。北海道に戻る時に着いて来てよ。」
モカ「あははー、それはご勘弁を。」
美咲「冗談冗談。でも嬉しいよ、ここは本当に良い所だね。もう北海道には戻りたくないなー。あそこは寒いよ、色々とね…。」
モカ「………。」
そう話す美咲の瞳は悲しげだった。
---
次の日、ショッピングモール--
諏訪組、南北組は夏希達小学生組に連れられてショッピングモールへと来ていた。
夏希「えー、長野、北海道、沖縄の先輩方。今日は海野ツアーへのご参加ありがとうございます。新しく来た皆さんに、私がこの辺をくまなく案内しちゃいます!」
美咲「でも夏希ちゃんも地元はここじゃないでしょう?」
夏希「もう時間を見つけては探索して、その辺を歩き回ってますから、地理は極めました。」
蘭「小学生組は元気だね。」
モカ「そうだねー。」
小沙綾「夏希だけだと皆さんに失礼があるかもしれないので、私が支援します。」
夏希「そんな訳で、何かあった時の苦情は沙綾にお願いします。」
小沙綾「早速夏希がすみません。」
薫「ふっ……君達は本当に仲良しだね。海も君達を祝福してるよ。」
--
数十分後--
夏希「…さっき回った所が食事系が多くて、服とかは大体ここら辺で買う感じです。」
美咲「あっ、ちょっと見ていきたいかも。」
美咲は洋服を物色し始めた。
美咲「ふむふむ……。中々良い服もあるね。薫さんどう?」
薫「私は動きやすさ重視だね。でも、美咲のチョイスはステキだよ。」
モカ「蘭ー、この服どう?」
蘭「…モカのセンスって独特だよね。」
---
勇者部部室--
何やら雑誌の占いの話で盛り上がっているようだった。
香澄「あっ、見て見て!高嶋ちゃん今日の占い絶好調だって。特に恋愛運は凄いよー。」
高嶋「どれどれ…。わー色々と絶好調だ!恋愛運もかぁ。つまり、今の私なら紗夜ちゃんを口説いちゃう事も可能かな?」
紗夜「どうでしょうか。私というゲームの攻略は難しいですよ。」
高嶋「そっかぁー。じゃあ、いっぱいアタックしないとだね。」
そこに、鍛錬を終えた有咲と友希那が帰ってくる。
有咲「ただいまー。ふぅ、良い汗かいたなー。流石に初代勇者様とやると疲れる。」
友希那「小休止したら、また鍛錬しましょうか。間も無く満月になるわ。」
有咲「ああ。という事でゆり、お誘いがあるんだけど?」
ゆり「どうしたの?」
有咲「御役目についての案件だ。」
その時、端末のアラームが鳴った。
友希那「それにしても、攻め込むタイミングが少し早いわね。」
小たえ「今のタイミングが攻め込む最高のチャンスかも、御先祖様。」
友希那「なるほどね。確かに戦場の様子次第で攻め込むタイミングがずれる事もある。」
紗夜「攻め込む…ですか。戦いは新たなステージへと向かうんですね。」
領土奪還の御役目が予定より早まった事で、勇者部に緊張がはしった。
---
樹海--
美咲「相変わらずの樹海だねー。」
ゆり「美咲ちゃん、最近上機嫌だね。」
美咲「最近はこの任務にやり甲斐を感じているんですよ。ここは雑音が無いのが最高です。味方か敵かだけ。」
ゆり「……何だか北海道では大変だったみたいだね。」
美咲の言動にゆりは少し察するのだった。
美咲「もうみんなでずっとここにいれば良いんじゃないかな。」
ゆり「あはははっ…。そう言う訳にはね…。ん?沙綾ちゃん、どうしたの?」
中沙綾「敵見つけました。1つの場所から動いてません。」
ゆり「…何か守ってるって事かな。」
中沙綾「神樹様曰く、敵はあの場所を守護してるから攻めてくる事は無い…こちらから仕掛けるしか。」
燐子「神樹様曰く…それは、神託ですか?」
中沙綾「そうですね。私はそういう素養もあるみたいなんですよ。」
沙綾は勇者でもあり巫女でもある、唯一の存在なのだ。
香澄「さーやは万能だよねぇ。」
夏希「ん?って事はウチの沙綾にも、そういう才能はあるの?」
小沙綾「どうなんだろう?」
小たえ「沙綾は無限の可能性を秘めてるよ、夏希共々ね。」
あこ「あこにもあるかも!こう…大いなる闇の力が…!」
ゆり「それじゃあ、陣取ってる敵を叩きに行きましょう。攻めてこない分、楽な御役目になるかもしれない。」
夏希「善は急げだ!この斧でスライスだよ!」
小沙綾「ちょっと!!」
中沙綾「待った!!」
2人の沙綾が夏希の前を塞ぐ。
夏希「ダブル沙綾ブロック!?」
燐子「動かない分…近寄ってきた敵を意外な方法で攻撃してくる可能性があるので…注意して行きましょう。」
紗夜「ゲームでもそういう敵が厄介だったりします。早まらないで、海野さん。」
夏希「了解です、燐子さん!紗夜さん!」
友希那「ふふっ…。」
紗夜「何を微笑ましい目で見てるんですか。」
友希那「いや、良い先輩勇者ね。紗夜。」
紗夜「……ゲームの話をしただけです。」
そして友希那が一歩前に歩き出して言った。
友希那「慎重に仕掛ける。みんな、準備は良い?行くわよ!」
友希那の号令を合図に、勇者達は一斉に攻撃を仕掛けるのだった。
--
香澄「うーん。特には何も無かったね。あこちゃん、薫さんどう思う?」
あこ「これは楽勝ムードだよ。でも油断はしないよ、そこがあこの強い理由だよ。」
薫「この調子でどんどん攻めて行こうじゃないか。」
その時、燐子が何かに気付く。
燐子「あっ…ちょっと待ってください。何だか…バーテックスの動きが…怪しいです。」
蘭「本当だ。敵はオーラみたいなものを纏ってるよ。燐子さん、やりますね。」
燐子「臆病なので…的な動きに敏感なんです。それに…後衛ですから敵の動きが見えやすいですし…。」
美咲「良い事ですね。臆病は生存に直結しますから。」
中沙綾「それにしても、"新型"は個性が豊かだね…。守りに専念するなんて。」
小沙綾「色々な顔を見せる…造反神の特徴に起因してるのかもしれませんね。」
有咲「っ!敵のオーラが増した!?」
美咲「奴さん反撃開始ってところかな。取り敢えず突いてみようか?」
ゆり「はぁ…しんどくなりそうだね。」
夏希「1匹の怪人を倒すのに2話使うとか、特撮とかでも良くありますしね。」
紗夜「そうですね。……あぁ、弟さんがいるんでしたね。」
りみ「そ、それでは皆さん頑張りましょう!」
--
オーラを纏った"新型"に対して燐子指揮の元、後衛チームが様子をみる。
燐子「まずは後衛チームで、オーラを纏う敵に攻撃してみましょう…。」
小沙綾「了解です!」
美咲「文字通り突いてやりますかね。」
中沙綾「見事な槍捌き…。私も負けてられないね!」
攻撃は命中するが、その途端"新型"の様子がおかしくなり始める。
香澄「あれは……?」
高嶋「"星屑"を吐き出したよー!」
攻撃の衝撃で、"新型"の体内から大量の星屑が吐き出されたのである。
蘭「あの星屑、こっちに来るよ!」
りみ「私が援護します。えいっ!」
りみはワイヤーを伸ばし、星屑を切り刻んだ。
小たえ「りみ先輩の武器は色々と応用が効くかも。」
りみ「たえちゃんの槍も相当自由自在だと思うよ。盾になったり階段作ったり…。」
高嶋「それにしてもあの"新型"…攻撃すると増えるって中々に危ないね。」
有咲「もう一度だけ試してみるか。実践も努力も積み重ねが大事だ。」
香澄「さーやー!!もう一回お願いー!」
香澄からのお願いで、沙綾はもう一度"新型"を狙撃する。攻撃が命中すると、"新型"は先程と同じく星屑を吐き出した。そしてその星屑は勇者達へと向かってくる。
小たえ「あっ、やっぱり吐き出した。」
薫「星屑は私に任せてくれ!」
薫はヌンチャクを使って星屑を吹っ飛ばし消し去った。
あこ「そろそろりんりんが何か考えた頃だよね。」
燐子「うん、あこちゃん…。闇雲に攻撃すると敵が増えすぎてこちらの戦線が崩れます…。一回の攻撃力が高い人に、陣取っている敵を任せて…他の人は増えた星屑と戦いましょう。」
紗夜「どれだけ増えても、この大葉刈でまとめて倒すのみです。」
小沙綾「領土は返してもらう!おたえ、夏希、みんなと一緒に御役目を果たす!」
薫を中心に、ゆり、香澄達、友希那、夏希が"新型"に攻撃を仕掛け、残った者は吐き出された星屑の処理に当たる。
--
薫「行くよ、はぁっ!!」
薫はヌンチャクで攻撃し、
香澄「ダブル……。」
高嶋「勇者……。」
香澄・高嶋「「パーーーーーンチ!!!」」
2人の香澄は絶妙なコンビネーションで連携、
ゆり「伸びろーーー!」
ゆりは大剣を伸ばし、"新型"を真っ二つに切り裂き、
夏希「せやぁぁぁぁっ!!!」
夏希は双斧に炎を纏わせ連撃、
友希那「来なさい、"義経"!」
そして、友希那は"義経"を憑依させ八艘飛びで"新型"を薙ぎ倒す。
燐子「星屑が来ます…迎撃お願いします!」
美咲「おりゃおりゃおりゃおりゃー!」
美咲は投槍を所構わずに投げまくった。
りみ「これをこうして……。まとめてお仕置きだよ!」
りみはワイヤーを網状にして星屑をまとめて掬い上げて細切れにする。
紗夜「行くわよ、"七人御先"!」
そして紗夜は"七人御先"を憑依させ7人に分身する。
小沙綾「凄い…紗夜さんが7人に……。」
7人がいっぺんにやられない限り、紗夜は決して死ぬ事は無い。まして、リスク無しで戦う事が出来るこの世界において紗夜はまさしく無敵の性能を誇る。17人の勇者の力を結集し、勇者部は勝利の凱旋をするのだった。
---
勇者部部室--
友希那「ふぅ…ただいま、リサ。」
リサ「お帰り、友希那、みんな。大戦果をあげたね。」
モカ「守っていた敵を倒した事で、土地を1つ取り戻せたよ。」
ゆり「取り戻した土地は行き来出来るの?」
リサ「出来るよ。でも、生活するだけならここだけで十分だけどね。」
中たえ「相手の力を削いで、神樹様の力が増した。良い事だらけだね。」
有咲「後3.4回土地を取り戻せば、造反神は手も足も出せなくなるだろ。」
リサ「そう簡単には行かないよ。造反神は元天の神。それはもう強力な神様なんだから。」
有咲「まっ、焦る必要も無いしな。これだけの勇者がいれば負ける気はしないし。」
美咲「そうそう、まったり行こうよ。焦って帰る必要なんて無いよ。」
一瞬表情が暗くなったのをモカは見逃さなかった。
モカ「……。」
香澄「?」
ゆり「まずはみんなお疲れ様。たっぷり休んで次に備えてね!」
夏希「よーし、新しい土地を早速探検だ!」
あこ「夏希ー!それあこも行く!!」
そうして各々は解散するのだった。
---
花咲川中学屋上--
夕日が沈む屋上で、モカが1人黄昏ていた。
モカ「………。」
そこへ香澄がやって来る。
香澄「モカちゃん、さっきからなんか悲しそうだったよ。何か悩み事?」
モカ「分かっちゃう?実はちょっとね…。」
香澄「良かったら話聞くよ?モカちゃんも大事なお友達だもん。」
モカ「でも良く気付いたねー。蘭でも分かってなかったのに。」
香澄「そうかな?蘭ちゃんもきっと分かってると思うよ。」
香澄がそう言うと、蘭もモカを探してやって来た。
蘭「モカ、さっき気になる事があったんだけど……って、香澄もいたんだ。」
香澄「でしょ。」
そして、モカは考えていた事を口にする。
モカ「…美咲ちんの事なんだけどね、何だか元の時代に帰りたく無い思いが凄く強いんだよね。今のまま御役目を終わらせたら、帰る時に一悶着起こるかもって思ってたんだ。」
時折美咲から滲み出る暗い部分。それをモカは感じていた。
蘭「それは神託じゃなくて、モカの考えって事?」
モカ「そうだよ。私も何となくその気持ち分かるから…。」
香澄「分かった!私に…もとい、私や蘭ちゃんに任せてよ!何とかしてみせる。」
香澄はガッツポーズをとった。
蘭「そうだよモカ。畑も心も耕せば良い芽が出るんだから。」
モカ「…ありがとう、2人とも。私も出来る事があればするからね。」
こうしてひとまず土地の1つを取り戻す事に成功した勇者部一同。だが何やら一抹の不安が1つ、勇者達に残るのだった。